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『産廃SSこんぺ『紅蝶の夢』』 作者: 穀潰し
―――お目覚め、かしら。ふふ、随分と可愛らしい寝顔だったわよ。
あらま、汗びっしょりじゃない。今日はわりかし涼しい風も入ってるのに、どうしたのよ。
寝苦しかった? ははぁ、それはそれはご愁傷様。
ほらほら、そう気にしないで。もう一眠りすればいいじゃない。
なに? このままじゃ怖い夢を見そうだ? もう、いい大人が何言ってるの。寝付くまでこうやって扇いでてあげるから、安心して眠り
なさいって。
……え? 私はどうなのか、ですって?
ふふ、不思議なことを聞くわね。怖い夢、かぁ。
んー……見たことは無いわねぇ。ほんとほんと、怖い、じゃなくて夢を見ないのよ。
寝てて見えるのは真っ暗な何かだけ。そこには私も何もありはしないの。
別に見れなくて困るものでもないしね。
それに怖いものなんて見えてるものだけで十分だし。
それが何かって? ふふ、それを聞いたらアンタはそれこそ眠れなくなるわよ。
でも大丈夫。こうやって私が付いていてあげるから。私が傍に居れば怖いものは寄ってこないもの。
……話しているうちに眼が冴えた、ですって? もう、だからさっさと寝ればよかったのに。
お話してくれれば眠れそうだって……子供じゃないんだから。
ああ、はいはい。判ったわよ。そうねぇ、何を話したもんやら……え? 私の身の上話?
ん〜……別に良いけど……面白い話でもないわよ? むしろますます眠れなくなるんじゃないかしら?
それでも良いって? 変な人ねぇ……さてさて、どこから話したものやら。
私の出身は……まぁ言っても判らないわよね。少なくともこの世界ではないわ。もう名前も忘れちゃったわ。
おお、驚いてる驚いてる。まぁ博麗の巫女さんが実は外来人でしたなんて聞かされたら大抵の人は驚くわよねぇ。
なぁに? そんなに深刻そうにしないでよ。ただのお話、全部作り話、もしかしたら真っ赤な嘘かもしれないわよ?
そうそう、文字通り話半分にでも聞いてりゃいいのよ。
で、話を戻すんだけど、そうねぇ、生まれは小さな小さな村だったわ。周りは山に囲まれて、申し訳程度の川が流れてる程度。土地だっ
て肥沃なわけじゃなかったわね。
商業も農業も工業も何一つ期待できない寂れた村。誰かが日照り村とか言ってたかしら。言い得て妙よね。
そこでも一番の貧乏が私のとこだったわ。それはもう、ある意味家畜以下。今日食べるものどころか今生きることすら難しいって状態だ
った。まぁこれは村全体もか。
ええ、そうよ。飢餓なんて珍しくなかった。右を向けば骨と皮だけの人間が転がってて、左を向けば道端の草を食い合う餓鬼が転がって
た。そんな状態。
想像できないでしょ、生きた人間より、死んだ人間と過ごした時間のほうが長いなんて。
まぁ私の場合、そうなったのは飢餓だけが原因じゃなかったんだけど。
え? それはそうよ。だって私の母さん、産婆だったもの。お陰で死んだ子供には苦労しなかったわ。
意味がわからない? えっとね、たぶんアンタが想像してる産婆とは全くの逆よ。
そうねぇ……判りやすく言うなら間引き産婆かしら。
え? 文字通りの意味。お腹の中の子供を殺すから間引きの産婆よ。あら? これって産ませてるのかしら?
まぁなんにせよ、喰っていくにはそれぐらいしかなかったしね。お陰で子潰しとか餓鬼食いとか色々呼ばれたけど。私はわかりやすく鬼
子だったかな?
そりゃそうね。そんなことしてれば村八分よ。でもね、お声がかかる時もあるの。
どんなときかって? それはアンタ、さっき言ったじゃない。間引く時、よ。お腹から引きずり出すのと、産まれたのを縊るのとあった
かな。大きくなったら私も手伝ってたわ。
え? それは孕んだ女を抑える役よ。殺すのを手伝うから介錯人とも言えるかしらね。
暴れる女を抑えて、引きずり出した赤ん坊を糞と血が溜まった盥の中にポイ。まぁ死んだ赤ん坊なんて肉の塊以外の何でもないから当然
と言えば当然よね。
でもねぇ、あれ不思議なことに間引いていると、孕んだ自分でもなく、産まれて来る子供でもなく、私達を恨むようになってくるの。
かなわないわよねぇ。こっちだって頼まれてやってるってのに。そうそう、知ってる? どんな不細工でも、痩た女でも、太股だけは肉
付きが良いの。それはもうお腹空いてるときは齧り付きたいぐらい。
私が思うに、子供ってのはあそこから栄養貰ってるんじゃないかしら。ほら場所も近いし……って冗談よ、冗談。そんな顔しないでよ。
でもねぇ、中には間に合わず産んじゃう時もあるの。ああ、勿論ちゃんとした形になってるのなんてめったに無いけどね。
一番覚えてるのはそうねぇ……あれだわ、出てきた赤子がね、掌に乗るぐらいのちっちゃな赤子がね。瞼も出来上がってない目を、こう
、かっと見開いてね。
産んだ母親を睨むの。
まるでこれから自分にされることを判ってるみたいに。
すぐに母さんが地面に叩きつけて潰したけど、あれは凄かったわね。
当然そんな目にあえば産んだ女はそのことで改心して赤子を供養して……。
なぁんてね、そんなわけないじゃない。そう思うなら、アンタは随分と育ちが良すぎるわ。
血が止まったらすぐにヤッてたわよ。仕方ないじゃない、寝るかヤるか死ぬかしかないんだから。
私はどうだったのか、ですって? ふーん、アンタも意外と怖い物好きねぇ。怖いもの見たさっていうのかしら。
まぁ例に漏れず、母さんもいつの間にか孕んじゃってね。しかもそういうときに限って商売繁盛の当たり年。
結局母さんは寸前まで気付かなくて、産気づいてようやくだってさ。で、誰も手助けしないから一人で産んで、一人で後始末して……あ
、そうそう私達、実は双子なの。全く、要らない時に限って数が増えるんだから困るわよね? あ、私のことか。
……え? それでもこうしているんだから無事に育てられたんだろうって?
あはは、それはちょっと良い話すぎるわよ。だって貧乏に女が二人生まれたのよ? 男ならなにかしらあったでしょうけどね、女なんて
成長しなきゃ使い道が無い。でも育ち切るまで生かせてけない。だったら間引くしかないじゃない?
うん、私も間引かれた。いや、ちょっと違うわね、間引かれかけた、かな。
流石に産んだ直後は母さんも気だるかったみたいでね、生まれた直後の私達を濡れ紙で覆って川原に捨てたんだって。
そりゃ生まれた直後の赤ん坊を川原にポイよ。母さんじゃなくてもそれで終わりだと思うわ。
でもね、私は生きてた。川原の水か、同じように捨てられた赤ん坊を啜ってかしらないけど。
で、二日後ぐらいかな、また間引いた赤ん坊を捨てに来た母さんに見つかったの。
母さんも驚いたみたいよ? それでまぁ仕方なく、って感じで。情が湧いたのかしらね?
……いや、怖かったのかもね。死んでない私が。
え? 片割れ? ああ、姉さん? あれはねぇ……駄目だったわ。ね、もう止めときましょうよ。
まぁ、そんな家族でしたから、当然同世代の子供なんて居なかったわ。近づいてこなかったとも言うけど。
でも大丈夫。私には友達が居たから。
ふふ、意味がわからないでしょ。でもね、『居たの』。
いっぱい、いっぱい。
一人で川原に居るとね、いつの間にか傍に寄ってくるのよ。
それで私はおままごととかしてた。
皆素直で良い子ばっかりだったわよ。
それもそうよね、だってみんな目も、耳も、口も出来てないようなのばかりだったし。
まぁ中には結構形になってたのも居たけど。
でもねぇ、気に入った子が居ても直に腐っちゃうか獣に喰われちゃった。まぁ二日くらい一緒に遊べればマシだったかな?
うん、それぐらい。子供のときなんてそんな思い出ぐらいしかないかなぁ。
……え? もうちょっと色気のある話をしろって? 色気って何? あれ? 初めてとか?
って言ってもねぇ、私の初めてなんて父さんだったし。あら、本当よ。痛いだけだったけど。
で、何が面白いってそのときの父さんのいいわけよ。母さんと間違えた、ですって。
いやいや、幾ら読み書きが出来ない阿呆でも流石に四十と十にもなってない女を間違えますかっての。
父さんは父さんで酷い奴でねぇ、家でも、外でも、私とヤる時でも好き勝手してたわ。全然気持ちよさなんかなかったけど。
そう思うとアンタは中々だったわよ? うん、これは本当。
え? 父さんはどうなったかって? 死んだわよ、川に落ちて。
さぁ? 殺されたかもしれないし溺れたのかもしれない。まぁ半分狂ってた様な奴だったし、溺れ死んでもおかしくは無いでしょ。
なんか頭に傷があったみたいだけど、落ちた時にぶつけたんじゃないかって言われてそのままだったし。まぁ殺されても不思議じゃない
わね。あんな奴わざわざ殺す奴が居るのかどうかだけど。
だってそうじゃない? アンタはわざわざ虫や獣殺すのに手間かけるかしら。ね、そういうこと。
あら、なに。その顔。やめてよ、同情なんて今更って感じよ。それにね、今更悲しみなんて感じないのよ。
悲しいってのが何なのか、わからないんだけどね。
それからどうなったかって? ほんと、怖いもの好きねぇ、いよいよ眠れなくなるわよ? ま、これは夢だからいいのかしらね?
通夜は私と母さんと……父さんも居たわね。半分開いた戸口に立ってじっとこっち見てたわ。じいっと自分の亡骸見て、一度見渡して、
それから出て行ったわ。私や母さんは一度も見なかった。
以上。そんな面白い話でもなかったでしょ?
え? それからどうしてここに居るのかがわからない? んーとね、簡単に言えば連れて来られた、から。
連れて来られるときに、紫……連れてきた奴が『貴女は力が……』とか『代わりが……』とか言ってたけどもう忘れちゃったし。
でね、連れてこられて、ここに放り込まれて、そこで生まれて初めて米を見たわよ。米よ、米。お米、白米、銀シャリ。
最初はそれが何か判らなかったわ。最初は蛆かと思ったの。そしてあんなに美味しいのも初めてだった。世の中にこんな美味しいのがあ
るなんて、ってずっと思ったわ。
甘い、甘い、ってずっと言いながらね、口の中が極楽になったみたいだった。
と、同時に怖くもなったわ。そりゃそうよね、今まで生きてんだか死んでるんだかよくわからない生活してたし。
それが急に美味しい物も食べれて、ちゃんと着る物があって、屋根の有るとことで寝れる。ああ、実は私はもう死んでて、これは夢なん
だって思った。
ああ、おかしい。今思えば随分と滑稽だこと。死人みたいな生活してたくせに、いざ死んじゃったと考えたらとたんに怖がってたんだか
ら。まぁ、そう思えるだけ幸せなのかな。
うん……そうね。だからね、貧乏巫女だなんて言われてるけど、前に比べれば今の生活なんて極楽浄土よ。
ちょっと異変が起きたらその張本人倒すだけで、家と着る物と食べ物が手に入るんだから。
……じゃあ何で身売りなんて続けてるのかって?
なんでかしらねぇ、そうね、もう体が覚えちゃったから、かな。ああ、心配しなくても私は孕まないし、巫女としての力を失うことも無いわ。
そういう体質なのか、博麗として生きる分にはそうなのか判らないけど。
……違うか、たぶん、私はまだ子供のままなんだろうなぁ。あの川原で捨てられたときから。
だからね……あれ? 寝ちゃった? おーい、寝ちゃったの?
なによ、ここまで話させといて勝手に眠りこけるなんて。
そう思わない?
ま、結構良い男だったし、アッチも上手かったから別にいいけど……何よ、文句なら自分に言いなさいよ。私だって好きでこんな格好に
なってるわけじゃないし。ま、お陰で助かってるけど。
でも悪いわね、私しか身売りも親殺しもしてないのに、たぶん死んだら地獄も一緒だわ。さてさて、あの閻魔様はどんな顔して私達を裁
くのかしら。
ま、どんな地獄って言っても元々似たような所に居たんだもの、いまさらって感じよね。それに姉さんとなら地獄巡りも悪くないでしょ
……って、あら? ちょっと、まさかアンタ寝たふりしてたの?
なによ、そんなに固まって。私、何か変なこと言ってた?
夢よ夢、忘れなさいって。さ、さっさと寝ちゃいなさい。じゃないと今度こそ眠れなくなるわよ。
え? さっき言ってた姉さんって何のこと、ですって?
―――そうねぇ、これは夢だから、何が起きてもおかしくないっか。眼が覚めたら忘れちゃいなさいよ? じゃないと、ほんとに、戻っ
てこれないわよ。
ちょっと待ってね……体起こして、髪も解いて……ほら、姉さん。
……あらあら、口が開きっぱなしよ? 目もそんなに見開いて。それにすごい汗。ふふ。でもその割には肌にぶつぶつが出来て……あれ
? どうしたの? 私は姉さんは駄目だったとは言ったけど、死んだとは一言も言ってないわよ。
駄目だったっていうのは、人間の形をしてなかったから、よ。これって双子っていうのかしら。
にしても不思議よね、巫女として仕事する私に化け物が付いてるんだから。ああ、ごめんごめん。化け物なんて言っちゃって。姉さんは
姉さんよ。
でもほら、見てよ、こうして黙ってればただの腫れ物みたいでしょ? だから何も言われないの。
ま、せめてもの救いって言えば、姉さんのお陰でお仕事には失敗しないってことかなぁ。私がやられたら姉さんが出て、姉さんがやられ
たら私が出て。ほら、交代交代でやれば、負担も半分で効率は二倍。いいように出来てるわよねぇ。
あはは、まさか。知ってるやつなんて、さっき言った私を連れてきた奴ぐらいよ。勘の良い奴らは何かある程度には気付いてるだろうけ
ど。
……ねぇ、アンタ。目覚ました後は、このこと綺麗に忘れなさいよ。これは夢だからね、だから私は喋ってるの。いや、姉さんかしら。
もしも忘れられなかったら……そうね、私には人食いの妖怪も知り合いに居るわよ。
だからね……ほら、ゆっくり休みなさい。大丈夫、私たちが居れば、何も来ないから。
―――ほら、起きなさい。だらしなく涎まで垂れて。よっぽどいい夢が見れたのかしら?
なに、そのぼやけた顔。え? よく眠れなかった? そんな風には見えなかったけどね。可愛らしい寝顔だったから。
さぁさぁ、今日もしっかりとお仕事お仕事。アンタも早いところ、戻った方がいいわよ。どこから変な噂が立つとも限らないし。
え? 髪? あ、当たり前でしょう。いくら体を許したからってだらしない格好まで見せるのは嫌よ。身支度ぐらいするわよ。
ほら、また相手してあげるから……うん、アンタ中々に上手いしいい男だし。嫌じゃないわよ。
なに? それじゃ別れの挨拶がしたいって?
挨拶って……接吻? 毎度懲りないわねぇ。いや、そりゃ嫌いじゃないからいいけど……。
……もう、仕方ないわね。でも目を瞑っててよ? 絶対いいって言うまで開けちゃ駄目だからね。
――――――。
――――――。
……ん、いいわよ。
さ、これで……なに? 何で二回したのかって? 何言ってるの、私は一回しかしないわよ。
髪の感触がしたって? それは髪の毛も一緒に銜えたんじゃないの?
さっき髪のスキマから紅い何かが見えたって? ほらリボンよリボン。もう、なに朝っぱらからおかしな顔してるの。ほらほら、急がな
いと、お天道様はどんどん高くなっちゃうわ。
それじゃぁね……あ、そうそう、言い忘れてた。
――――姉さん、アンタに惚れちゃったみたいだけど、どうする?
元ネタ 岩井志麻子著 『ぼっけぇ、きょうてえ』
題名は『こうちょう』と読まず、『こちょう』と読んで貰えると喜びます。
>1氏
酒に溺れるのも一興。
夢に溺れ、酒に溺れ、目が覚めれば一夜の夢。
>2氏
バジリスクの方はわかりませんが、この霊夢が可愛く思えたのならそれは嬉しいことです。
>3氏
自分のイメージを持ってくださる方がいるとは、嬉しい限りです。
>4氏
元ネタの方が、溜息と背筋がぞわりとする感覚が同時に来ますので是非に。
>5氏
これは完璧に私のミスですね。失礼致しました。
>7氏
とりあえず、布団の中でイチャイチャしたいです。
>8氏
マザコンですかねぇ。まぁ何だかんだ言って結構両親のことを覚えている辺り、まだ子供なんでしょうね。
>9氏
男が寝転がり、女は背を向けて語り紡ぐ。
明かりは行灯の仄かな光、光の届かない場所にはナニカがいる。そういうシチュエーションは大好きです。
>10氏
淡々は目標としていたので、そう感じ取ってもらえたなら幸いです。
>11氏
と、言いますか、そのシリーズです。
>12氏
霊夢も男のことを気に入ったんでしょうね。覚えてたら覚えてたで……。
>13氏
YR1。
>14氏
声を上げるほどではない、ただ読んでいる間はひたすらに背後がきになる。
そういう雰囲気を作りたかったです。
穀潰し
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/22 11:19:52
更新日時:
2012/12/17 23:23:38
評価:
13/14
POINT:
1000
Rate:
13.67
分類
産廃SSこんぺ
博麗霊夢
オリジナル設定
モブキャラ?
東方百物語
元ネタ『ぼっけぇ、きょうてぇ』
誇張された胡蝶の夢。
夢を楽しむため、忘れるためには、労働に汗を流し、一杯引っ掛けるのが一番だね。
凄惨な過去があっても特殊な体でもこの霊夢なら別にいいやって気持ちになっちゃうのが少し怖い。
パロディなら一言書いておいてほしい
この霊夢案外マザコンなんじゃね?
売り霊夢かわいい!
欲を言えばもうちょっと細かい描写の方がよかったかな。
姉さんに惚れられた彼の運命やいかに。