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『産廃SSこんぺ 「正義のゆくえと心のありか」』 作者: 木質
【 オープニング 】
この物語は、
「答えなさい藍。『ヒト1人の命を救う』という行為は正義と呼べるのかしら?」
「正義と呼んで差し支えないかと」
幻想郷を守護する大妖怪、
「では『101人を救うために100人を殺す』行為は正義と呼べるのかしら?」
「わかりません」
八雲紫が、
「罪人100人の命と善人10人の命、どちらかを選ばなければならない時、どちらを選ぶのが正義なの?」
「わかりません」
正義とは何かを、
「家族を守ることは正義?」
「正義だと思います」
「では家族を守るために誰かを殺す事は正義になるの?」
「わかりません」
見極め、見定める物語。
「あっああああああああ!! もうマジわけワかんないわあああああああああ!! ゆかりんの中で正義がゲシュタルト崩壊ィィィ!!」
というモノでは断じてない。
紫「出かける仕度を。正義とは何か、幻想郷を巡って見つけるのよ!」
藍「御意。橙も来なさい」
橙「はい」
産廃創想話こんぺ『正義のゆくえと心のありか』
【 Stage1:是非曲直庁 】
四季映姫ヤマザナドゥは、被告人の席の上で漂っている魂に浄瑠璃の鏡をかざす。
鏡にはその魂の生前の様子が映し出されていた。
映姫「あなたの生前の行い、誠に許しがたし…」
彼の者の行いを省みて、閻魔は審判を下す。
映姫「よって判決は黒。有罪」
紫「異議有り!」
映姫「よって地獄行きを命じます」
紫「異議有り!!」
映姫「そこで己の罪を悔いるが…」
紫「異議有りィ!!」
映姫「うるさい!」
紫「ひっ!?」
藍「もぉー。紫様のせいで四季映姫ギャランドゥ様がお怒りになったじゃないですか。謝ったほうがいいですよ」
紫「ちょっと藍、名前を間違えるなんて失礼でしょ。貴女こそ四季映姫タルミ・ナドゥ州様に謝りなさい」
映姫「ヤマザナドゥです!!」
紫「八雲紫です」
藍「八雲藍です」
橙「橙です。苗字はまだ…ありません…グスッ」
藍「おのれ閻魔め! よくも橙が気にしていることを!」
橙「ヒッグ…ぇゥ……グスグスッ……ズズッ、オエッ」
紫「子供泣かして地蔵菩薩とかマジ笑える」
映姫「その子が勝手に言って勝手に泣き出したんじゃありませんか」
藍「こちらにも非があるのは認めますので、橙に謝っていただけますか? そっちは良い大人でしょう?」
映姫「なんで私が」
橙「えーん! えーん!!」
映姫「……すみませんでした」
橙「もういい。顔を上げろ」
映姫(なんだこの餓鬼)
映姫「して今日は何用ですか八雲紫? 勝手にここに入られては困ります」
紫「閻魔様は今、そこの魂に有罪を言い渡しましたね? 何を持ってその判断を」
映姫「法による裁きに決まっているでしょう」
紫「その法とやらは正義なのですか?」
映姫「愚問ですね。法が正義でなくて何になるのです」
紫「では、正義の名においてその魂魄に地獄行きを言い渡したのですね?」
映姫「その通り」
紫「本当に? 実は聞く人が聞いたらそれほど重い罪じゃない場合もあるのでは?」
映姫「ならば聞いてみなさいその魂魄に。境界を操る能力を応用させれば出来るでしょう」
紫「これで私が納得いかない罪状だったら控訴しまくって最高裁まで持ってって、世間が事件から完全に興味を失った頃に判決出るように仕向けてやるから覚悟することね」
紫は魂に耳を傾ける。
紫「えー何々? 『母親と買い物中の幼女を隙を見て攫って犯して殺して喰ってを繰り返して、37人食べたあたりから捜査の手が自分まで及びそうになったから、
当時監禁してた3人の子供を井戸に落としダイナマイトを放って証拠を隠滅した。その後結局は警察に捕まったけど精神鑑定で有利な判決を勝ち取り死刑を免れた』と、なるほど…」
魂を掴む。
紫「有罪(ギルティ)じゃボケェ! 100人いたら100人が『地獄行き』って答える罪状じゃない!」
粉々に粉砕した。
映姫「だから言ったじゃないですか」
紫「あのね、私は『あれ? それって聞く人によっては無罪じゃね?』的なケースを聞きたいの。無罪と有罪の境界線が見極められたら、正義というものが再認識出来ると期待して来たのよ!」
それがココに来た目的だった。
紫「次ぃ!! じゃんじゃん魂持って来なさい! わんこ蕎麦みたいに持って来なさい!」
藍「アイアイサー」
橙「これなんてどうです?」
紫「えーと『生まれ付いての猟奇系ガチホモショタコンで、小学生を公衆トイレに連れ込んではファックし、ファックの記念にペニスを鋏で切り取って持ち帰り、ホルマリン漬けにして顔写真を張ってコレクション。それで全国行脚した』 ざけんな! 次!」
藍「どうぞ」
紫「ふむ『独自で開発した猛毒を、大型スーパーや学校のスプリンンクラーに混入。300人以上を毒殺した』 くたばれ! 次!」
橙「はい」
紫「ほうほう『飛行機墜落事故6件、列車事故11件、爆弾テロ34件の実績を持つ国際テロリスト』 消えちまえ! 次!」
藍「今ので最後ですよ」
紫「そうなの? たったこれだけ?」
橙「うちの小町がサボっているせいですね。面目ないです」
映姫「いや、それ私の台詞ですから」
紫「てかなんでこんな凶悪犯ばっかりなワケ!? ナチュラルに怖いんですけど!!」
映姫「なんでも外の世界の刑務所で、囚人が暴動を起し、壊れた壁から一斉に脱走しようとする事件があったとか」
結局は全員が射殺されて、誰も脱走できなかったようだ。
紫「あいつら全員、輪廻の輪っかじゃなくて名城線にでも乗ってそこを永遠にグルグル回っていればいいんだわ」
映姫「気が済んだのならお引取りを。というかもう出てけ」
藍「えー、お茶くらい出してくださいよ」
映姫「そろそろ本気で怒りますよ。それにもうすぐ閉廷の時刻になりますし」
紫「定時退社とかホントお役所仕事ね。これだから司法は駄目なのよ。法律という名の定規でしかモノの判断が出来ない。人情味の欠片もない」
藍「何が『何物にも染まらぬ黒マント』だ、すでにダークサイドに染まってるだけだろ」
橙「かー、ぺっ」
映姫「こいつら」
怒り寸前の映姫を背に裁判所を出る三人。
紫「結局収穫が無かったわね。これからどうしましょうか」
藍「医者んトコいきましょう。人を救う仕事だから、正義が何かわかるかもしれませんよ」
紫「いいわねそれ」
【 Stage2:永遠亭 】
永琳「次の方どうぞ」
紫「私がパリアッチです!」
永琳「今日は何の用かしら?」
紫(渾身のボケがスルーされた!?)
とりあえず、やって来た事情を話した。
永琳「『正義とは何か?』ですか?」
藍「ええ。紫様の中で“正義”と言う言葉がゲシュタルト崩壊を起してしまったので。色々な方から聞見を集めているのです」
永琳「難儀してるわね」
紫「医者の正義って何? 生かして置いたら確実に大量殺人を働く奴でも、大怪我してたら治すの?」
永琳「うーん、そうねぇ…」
鈴仙「師匠! 大変です!」
永琳が答える前に、血相を変えた鈴仙が部屋に飛び込んできた。
鈴仙「重症者です!! 里の夫婦が妖怪に襲われました!」
永琳「わかったわ。すぐに運んで」
永琳の指示で夫婦が手術室に運ばれる。
この夫婦は、息子を家に残して山菜取りに出かけた際、妖怪に襲われたらしい。
藍「あれ? その区域って、人間が良く訪れるから妖怪払いの結界張ってませんでした?」
紫「ええその通りよ。変ねぇ?」
永琳「二人同時手術か、神経を使うわね」
紫「医療なら多少の心得があるわ。手伝わせて」
藍「同じく」
永琳「助かるわ。今は猫の手も借りたい状況だから」
紫「そういえば橙は?」
藍「襲った妖怪の始末を任せました」
手術室の明かりが灯る。
永琳「どちらも出血がひどいわね。早く輸血しないと…二人の血液型は?」
鈴仙「たった今、結果が出まし…ああ! 師匠大変です!!」
永琳「どうしたの?」
鈴仙「二人ともA型です」
永琳「ツイてないわね」
紫「なんでツイてないの?」
鈴仙「今ここにA型の輸血は一人分しかないんです」
藍「なんとっ!?」
紫「これはひょっとして医者の正義が問われる場面?」
藍「夫と妻、どちらが生き残った方が息子にとって最良なのかを医者が判断するのですね」
医者は命を救うのが仕事。その行為は紛れも無く正義。
しかし必ず全ての命を救えるとは限らない。そういう状況に陥った時、何を優先すべきか。
その考え方、価値観を取り入れられれば正義に近づけると紫は考えていた。
永琳「なら人工血液を用意して」
鈴仙「はい」
紫「待てぇぇい!」
鈴仙「ちょっと暴れないで! 師匠今メス持ってるんですから!!」
永琳に詰め寄る紫を、鈴仙が体を張って止めた。
紫「そんなの百も承知じゃボケェ! おいドクターヤゴコロ!」
永琳「話しかけないで気が散る」
永琳は今、妻の治療に専念している。
紫「人口血液とかオーバーテクノロジー使ってんじゃないわよ! 外の世界の最先端医療よりも先に行ってるんじゃないわよ! こっちはね医者にとっての正義である『命の優先順位』を見に来たのよ!」
藍「幻想郷で認められている代替血液は、岩塩を溶かした水までです」
永琳「あらそうなの? 地球の医療技術もまだまだね」
そうこうしている間に夫の方も縫合も終え、夫婦は一命を取り留めた。手術は無事成功した。
紫「このチートドクター! ヘブンキャンセラー! 全国のアロエ農家に謝れ!」
藍「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんのですか?」
永琳「人を救ったのに酷い言われようね」
後処理を鈴仙に任せて永琳と紫、藍は診察室に戻ってきた。
永琳「えっと、正義とは何か?という話だったわよね」
紫「そうよ。天才の意見が聞きたいわ」
永琳「正義なんて存在しないわ」
紫「はい?」
永琳「そんなものは『個人の理念・信条』や『組織の規則・目的』の別名よ。自分達の行いに正当性を持たせたいから、正義なんて言葉を人間は作り出したのよ」
紫「言ってる事が、抽象的すぎるわ」
永琳「要は『自分はこうしたい』と思ったら、それがきっと貴女の正義なのよ」
紫「ふむ」
藍「なんか二件目で早くも核心っぽい内容に触れちゃいましたね」
紫「夫婦を襲った妖怪のことも気になるし。とりあえず帰りましょうか」
藍「そうですね、橙と合流しましょう」
診察室を出て玄関へと向かう途中、橙が二人のもとに駆け寄ってきた。
橙「ただいた戻りました」
藍「ご苦労だった。襲った妖怪は始末できたか?」
橙「すみません、逃げられました」
藍「どんな姿だった?」
橙「人間がそのまま大きくなったような姿で、成長した松ノ木くらいの大きさでした」
紫「あまり聞かない容姿の妖怪ね」
藍「まあ橙が無事でなによりだ」
橙「ありがとうございます」
庭まで出た時、ここの住人である蓬莱山輝夜と因幡てゐが会話しているのが目についた。
藍「なんかあっちも報告してる雰囲気ですね」
輝夜「今回の刺客はどうだった?」
てゐ「思いっきり妹紅に手加減されてましたね。まぁ最後に一矢報いたみたいですけど。それで怒りを買って背中を火傷しましたが」
輝夜「そう。そいつには報酬と一緒に火傷に効く薬を渡しておいて」
てゐ「かしこまりました」
てゐは一礼すると、足早に去っていった。
輝夜「はぁ、どいつもコイツも弱っちくて嫌になるわ。もっと強い刺客はいないのかしら?」
紫「動くな」
輝夜「ひっ!」
紫「おっと、振り向くな。そのまま話せ」
輝夜「だ、誰なの?」
紫「国際A級スナイパーのヤクモ13よ」
輝夜「あの伝説の殺し屋!?」
紫「刺客を募集しているらしいじゃない」
輝夜「引き受けてくれるの?」
紫「報酬次第ね」
輝夜「永遠亭の年収の四分の一でどう?」
紫「引き受けたわ。入金が確認され次第仕事に入る」
輝夜「入金? スイス銀行に?」
紫「あのスイス銀行も、流石に幻想郷まで繋がってないから、農協でいいわ」
輝夜「農協はあるんだ…」
【 Stage3:人間の里 】
寺子屋の一室で妹紅は手当てを受けていた。
慧音「痛みますか?」
妹紅「平気、もう繋がった」
この部屋は普段、怪我をした生徒を手当てする道具や、体調の優れない生徒を休ませるためのベッドが備えられており、保健室として機能していた。
慧音「また竹林の姫とですか?」
妹紅「いや、今回はソイツの依頼を受けた刺客だよ。弱いと侮ったのがいけなかった」
右腕をごっそりと持っていかれ、出血多量で死に掛けている所を寺子屋帰りの慧音に拾われた。
今はその腕も元通りになっている。
慧音「輝夜さんと和解をしないのですか?」
妹紅「和解? 無理だね」
慧音「しかしこのままじゃ妹紅さんの身も心も磨り減る一方じゃないですか」
妹紅には、里の人間の守護や、永遠亭への護衛と多大な恩がある。
そんな恩人が傷つき続けるのを見るのは辛く、同時に心配だった。
妹紅「アイツは父上にしたことをこれっぽちも悪いと感じていない。それを判らせるまで終われない」
慧音「そうかもしれませんが」
妹紅「何と言われようと。これは私とアイツの問題だから」
慧音「すみません。出すぎたコトを…」
妹紅「いや、私なんかの為に心を砕いてくれて嬉しいよ。ありがとう」
慧音「私に出来ることがあれば、いつでも言ってください」
妹紅「実は今ちょっと、お腹が空いてるんだ」
慧音「ふふっ、わかりました。教室の戸棚に来客用のお茶請けがあったはずですから」
教室と保健室を隔てる戸を開けた。
金八雲紫「君たち、いいですか。『人』という字はねぇ、人と人が支えあっているから人なんですよ」
橙「わかりました金八雲(きんぱちくも)先生!」
金八雲紫「そしてこの『妖』という字はねぇ、『女』が『天』に座す、と書きます」
橙「はい先生!」
金八雲紫「妖怪として生まれた以上、天を掴みたいと思うのは誰しもが思うこと。君たちは最強の座に興味はありませんか?」
橙「はい先生!」
金八雲紫「なのでこれから、皆さんに殺し合いをしてもらいます」
慧音「…」
静かに戸を閉めた。
妹紅「どうしかたの?」
慧音「いえ、ちょっと疲れているみたいです」
妹紅「駄目だよ。ちゃんと寝ないと」
目を擦ってから、再度戸をあけた。
紫先生「えー、非常に申し上げにくいのですが。今のお子さんの成績では東方高校への入学は難しいかと」
藍ママ「何とかならないんですか?」
紫先生「もう少し内申が良ければ、推薦入学という手段もあるのですが」
藍ママ「でも、二学期はもうすぐ終わってしまいます。今から頑張っても」
紫先生「まあ私のサジ加減一つですがね。内申なんてものは」
藍ママ「それは、一体どういう意味ですか?」
紫先生「またまたぁ、本当はわかっているのでしょう? 皆まで言わせないでください」
藍ママ「うちは母子家庭ですのであまり蓄えは…」
紫先生「お金以外のもので払えば良いじゃないですか奥さん?」
紫先生の手が、藍ママの胸を鷲掴みにする。
藍ママ「ひゃっ!?」
紫先生「いやはや。未亡人ほどそそるものはありませんな。おっと無理強いはしませんよ? 嫌なら帰ってくださって結構。お子さんの人生を棒に振りたいなら玄関はあちらです」
藍ママ「嗚呼。アナタ御免なさい。でもこれもあの子の将来のため」
慧音「…」
また静かに戸を閉めた。
戸の僅かな隙間から、慧音は教室を覗き込む。
紫「次はどのネタやる?」
藍「そろそろ卒業式ネタでしょう。金八雲が生徒の名前にちなんだ激励の言葉を送りつつ、卒業証書を渡すイベントです」
橙「私もそれが良いです」
紫「はいじゃあ台本の16ページ開いて」
慧音「私の寺子屋で何がしたいんだお前達は!?」
紫「あ、やっと話しかけてきてくれたわ。ちょっと失礼」
慧音「お、おい?」
慧音の横を通り過ぎ、ずいっと妹紅に詰め寄った。
紫「ハロー」
妹紅「なによ?」
紫「あなたのやってる復讐って正義なの?」
妹紅「当然よ。侮辱された父上の無念を晴らす。一族の汚名を雪ぐ行為のどこに間違いがあるの?」
紫「なるほど家族の名誉のためか」
藍「武家社会の仇討ちみたいなモンですかね?」
紫「それについて、子供に教える立場の先生はどう思うの?」
慧音「わ、私の意見か? そりゃあ妹紅さんが傷付くのは嫌だから、復讐はやめて欲しい、しかしそれだと彼女の気持ちが…ゴニョゴニョ」
紫「どうも煮え切らないわね。もう一人の慧音にも訊いてみましょうか?」
慧音「もう一人の私?」
ハクタク「呼んだか?」
慧音「なっ!!?」
角を生やした自分が目の前に立っていることに驚愕する慧音。
紫「境界をいじってね。一時的に半獣の部分を切り離したわ。妹紅の方も」
妹紅「私も? ってうわっ!!」
燃え盛る炎を纏った鳥がそこにはいた。
妹紅「えっと、どちら様?」
火の鳥「ずっと一緒に戦ってきた相棒にその言葉はないわー。千年前からもこたんの中でせっせと火を作ってきたのにその言葉はあんまりやわー」
妹紅「…」
火の鳥「あ、これお土産のフェニックス饅頭。温めて食べるとおいしいよ」
紫「まぁ。これはご親切に」
妹紅「なんなの? ねぇなんなのこの状況?」
火の鳥「それよりもこたん。ちょっとええかな?」
鋭い眼光が妹紅を射抜く。
ハクタク「で、出たー! 火の鳥さん伝家の宝刀『にらみつける』だー! もこたんの防御力がダダ下がりだー!」
火の鳥「もこたんは何時までも復讐復讐言うてないで、そろそろ自分のために生きるべきやとオッサンは思うよ?」
妹紅「オッサンって、アナタはオスなの?」
火の鳥「フェニックスは死なへんから男も女も関係無いよ。究極生物やから『SEX、必要なし!』やで」
妹紅「そういうモノなの?」
火の鳥「ずっと昔からもこたんを中から見守ってきたけど、そろそろ女の幸せ掴まなアカン」
妹紅「不死身に性別関係無いって今言ったじゃん」
火の鳥「それはソレ。これはコレ」
ハクタク「こら妹紅。火の鳥さんの揚げ足取らない」
慧音「お前はやけに彼の肩を持つな」
ハクタク「だってフェニックスだぞ? 幻想獣の中で最高位だぞ」
慧音「白澤だって中国でトップクラスの神獣だろうが」
ハクタク「マジ?」
慧音「かなり万能な存在だと聞くぞ」
ハクタク「おいテメー! よくも今まで先輩風吹かせてくれたなコラァ!!」
火の鳥「知名度ならワシの圧勝じゃろがダアホ! 今もこたんと話とるさかい引っ込んどれ!」
ハクタク「上等だ! 復活するのが嫌になるくらい辱めてから殺してやる!!」
火の鳥「やってみいや四足動物が!!」
紫「なんか収集がつかなくなって来たわね」
藍「帰りましょうか」
三人はこっそりと寺子屋を後にした。
藍「そういえば紫様。藤原妹紅の暗殺を引き受けたのでは?」
紫「ああ、あれね。永遠亭は誰もATMの使い方知らなかったみたいで、入金が出来ず、不履行になったわ」
藍「そっすか」
紫「はぁ、次は何処に行こうか…ん?」
藍「どうかされました?」
紫「なんか踏んだ。私達の足もと。スイッチみたいなヤツがあるわ」
橙「スキマスイッチ?」
紫「遮るものとっぱらっちゃう?」
橙「全力で少年しちゃう?」
藍「なんか魔法陣みたいなのが浮かんできましたよ。ワープ系の」
三人は眩い光に包まれた。
【 Stage4:天界 】
天子「〜♪ 〜〜♪」
天界に暮らす天人、比那名居天子は、友人の伊吹萃香が遊びに来るため、それの出迎えに行く最中だった。
天子「今日は何で遊ぼ……あら?」
紫「…」
藍「…」
橙「…」
知っている連中が倒れていた。
天子「ちょっとアンタ達、こんなトコで何してるの?」
体を揺すって起す。
紫「んん? ドコここ?」
藍「どうして寝てたんだ私達は?」
橙「ふあぁぁ」
目が覚めた三人はあたりを見渡す。
橙「雲が同じ高さにありますね」
藍「どうやらこの大地が浮いているようです」
紫「それらから導き出される答えは一つ」
紫・藍・橙「「「ここがラピュタか」」」
天子「なんでそうなるのよ?」
紫「出た! ラピュタを守るロボット兵よ!!」
天子「私のどこがロボット兵なのよ?」
藍「飛ぶし」
天子「みんな飛ぶじゃない」
橙「レーザー撃つし」
天子「撃てる奴は撃てるじゃない」
紫「体が金属みたいに固いし」
天子「天人なんだから固いのよ」
藍「飛行石」
天子「これ要石」
藍「あ、紫様。確かにこいつ、良く見るとロボット兵じゃありませんよ」
紫「私も今気がついたわ。ロボット兵なら胸にパーニアがあるもの」
天子「ほっとけ!!」
橙「ロボット兵のラムダじゃないとしたら、この方は一体?」
天子「てか何度も会ってるでしょ?」
紫「桃に剣……そうか桃太郎!」
藍「さすが紫様。見事な洞察力」
天子「そもそも私女だから!」
紫・藍「「その胸で?」」
天子「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
数分後。
紫(猿)「さあ桃太郎様」
藍(犬)「鬼退治に」
橙(雉)「行きましょう」
天子「いつの間にか変なキグルミ着てるし。てか、なんでついて来るのよ?」
萃香「オッス天子」
そうこうしている内に、萃香との待ち合わせ場所に到着した。
天子「まずドコ行く?」
萃香「ココの桃と酒は絶品だからね。さっそくご馳走してほし…」
紫(猿)「鬼だぁぁぁぁ!!」
藍(犬)「最悪だ、 これから旅立ちって時にあっちから出向いて来た!」
橙(雉)「はじまりの町で、まだレベルの低い状態の勇者を潰しに来るどっかの魔王と同じ発想だー」
萃香「どうしたのこの三人?」
天子「さあ?」
紫(猿)「鬼が桃太郎さんに接近した!」
藍(犬)「桃太郎さんには指一本触れさせない!」
萃香に紫と藍がしがみ付く。
紫(猿)「桃太郎さん! 私達ごと斬れぇぇぇぇ!!」
藍(犬)「躊躇ってはいけません!」
萃香「え? ちょっ! 本当になんなのこの二人!?」
天子「わかんない! 私もわかんない!」
紫(猿)「駄目だ、桃太郎さんが躊躇っておられる!!」
藍(犬)「こうなったら頼んだぞキジィィィィ!!」
橙(雉)「でりゃあ!!」
紫(猿)、藍(犬)に続き、橙(雉)もしがみ付いた。
しがみ付いた場所は背中だった。
橙(雉)「さよなら天さん……どうか死なないで」
そして橙(雉)は自爆した。
あたりに黒煙と硝煙の匂いが立ち込める。
天子「なんなのコレ? マジでどういうこと? 頭の処理能力が追いつかない!」
煙が晴れると、無傷な萃香が立っていた。
萃香「あービックリした」
天子「平気なの?」
萃香「なんか音と煙だけだったみたい」
天子「そうなの?」
紫「ふー、まあこんなモンかしら?」
藍「このキグルミ暑いですね」
橙「でも楽しかったです」
少し離れた所で、キグルミを脱ぎ、大きく伸びをしてから寛ぐ三人の姿があった。
天子「あんた達、正気に戻ったの?」
藍「失敬な。我々は始めから正常だ」
紫「どっかの医者がね。『自分はこうしたい』と思う行動こそが正義だって言ってたのよ。だから我侭天人様に倣って、私達も欲望に任せて好き勝手やってみたんだけど」
藍「何にもわかりませんでしたね」
橙「自爆までしたのに」
天子「あたりまえでしょうが!」
【 Stage5:妖怪の山 】
妖怪の山の拘留所。
文「強情ですねあなたも。吐いてしまえば楽になるのに。『私がやりました』と言えば全部が丸く収まるのですよ?」
格子の向こう側にいる椛にそう告げる。
椛「やってもいないのに自白なんて出来るか」
犬走椛は数名の同僚と違法賭博が行われていた賭場に踏み込み、検挙した。
本来ならそれだけの事件だった。
しかし、翌日に状況が一変した。検挙した容疑者が全員留置所で死亡したのだ。
椛「私達は死に至る程の過剰な暴力を加えた覚えは無い」
文「貴女方が捕まえた連中のボスは、上層部と繋がりがありましてね。それが露見するのを恐れた上層部は、拘留先で彼を始末したのですよ」
椛「……なるほど、そういう事ですか。そして、それを知ってるという事は」
文「お察しの通り。私は上層部から派遣された交渉人です」
彼女の知り合いという理由で、上層部から彼女を説得するように命じられていた。
椛「誰がすき好んで他人の罪を被ると思いますか?」
文「認めてくださるのなら今回の件は『犯人が抵抗したのでやむなく』という形で処理してくださるとのことです」
椛「同族殺しは重罪です。どんな事情であれ、数年は牢の中だ」
文「それに見合う以上の額を用意しています」
文の提示した金額は、今の哨戒の給料が馬鹿らしくなってしまう程のモノだった。
文「出所後もすぐ哨戒に戻れるよう取り計らいます。望めば一つ上の地位だって」
椛「それでも首を縦に振るわけにはいきません」
文「貴女の同僚さんは認めました」
椛「私には関係の無いことです」
文「お願いです、認めてください。ここから先は私の管轄を離れます。実力行使で自白強要されますよ」
椛「どんな条件を突きつけられようと屈しません」
文「殺されてしまいますよ。脅しではなく」
椛「ここで嘘の自白なんてしたら私は死んだも同然です。私は私の正義を貫く。妥協はできません」
文「貴女の正義とは何なんですか?」
椛「上に媚び、下を虐げる新聞記者には一生わかりっこないですよ」
文「残念です」
暗い表情で文は牢の前から去っていった。
椛「これで良い。後悔は無…」
?「誰かッ! 誰かッ!!」
椛「 ? 」
隣の独房から声がした。
囚人紫「誰かケネディ大統領に伝えて! このアルカトラズを調べてはいけないと、このままでは次の式典でケネディが暗殺されてしまう!」
椛「おい」
囚人紫「あら? 何かしら?」
椛「いつからソコにいる?」
自分がここに来る時、隣の独房は無人だったはずである。
囚人紫「かれこれ30年になるわ」
椛「そんなわけあるか」
囚人紫「ずっとプリズンブレイクする機会を窺っているのだけれど、未だに成功せずよ」
看守長藍「888番! 静かにしろ! また隣の囚人とお喋りか!?」
囚人紫「か、看守長、こ、これは…」
看守長藍「そんなに鞭を食らいたいようだな。やれ!!」
看守橙「ソラァ!!」
囚人紫「ああんっ!!」
看守長藍「もう一発くらいたいか?」
囚人紫「こ、これをお納めになってください」
油揚げ八枚。
看守長藍「殊勝な心がけだ。看守よ、鞭を納めろ」
看守橙「はい」
椛「おい見張りィ!! ちょっと来い!!」
見張り「どうした?」
椛「変な奴等が紛れているぞ」
見張り「ここに収監されているのはお前だけだが?」
椛「そんなわけ…」
気付けば隣の牢は無人となり、狐と猫の看守もいなくなっていた。
翌日。
天狗A「さっさと入れ」
椛「わかったからそんなに強く押す…なっ!?」
取調室に入ると、そこには首に刃物を突きつけられている姫海棠はたての姿があった。
椛「はたてさん!? どうして!?」
はたて「わ、わかんない。いきなりココに連れてこられて!」
天狗A「罪を認めろ。でなければ知り合いが死ぬぞ」
椛「貴様ら!!」
天狗B「これは脅しではない」
はたて「ひっ!?」
天狗C「なんなら、この鴉天狗の顔を少しずつ切り刻んでいってもいいんだぞ?」
はたて「やだ! 助けて! 助けて椛!!」
天狗A「さあ、どうする」
椛「卑怯だぞ」
はたて「椛ぃ」
椛「くっ…」
はたて「椛」
椛「…」
はたて「はぁ。もういいわ。降ろして。やめやめ。アホらし」
天狗B「御意」
椛「え?」
溜息混じりのはたての指示に天狗は従い、刃物を下ろした。
はたて「これで決着が付けば楽だったのに。ほらどいて、邪魔」
はたては、正面の椅子に座っていた天狗をどかして、自分がその椅子に座った。
机に足を乗せて、ふんぞりかえる。
椛「貴女は何者ですか?」
はたて「大天狗様から正式に認められている拷問官よ。こいつらは私の部下」
椛「新聞記者が本職では?」
はたて「あれは世間の目を誤魔化すためのものよ。引篭もりで人前にあまり姿を現さないって設定だと、色々と動きやすいでしょ?」
椛「文さんはこの事を?」
はたて「知らないわ。山の機密事項の一つだもの」
椛「そうですか」
はたて「しっかし椛には幻滅したわ。私の命が掛かってるのに即答してくれないんだもん」
椛「私も貴女には幻滅しましたよ」
はたて「ふーん。まぁいいや。あんた達。自白するまでこの女を好きにしなさい。初日だからって手加減しちゃ駄目よ」
ABCD「「「「へい」」」」
そして、丸一日犯されてから椛は牢に戻された。
囚人紫「全身練乳まみれだけど何? ウエディングケーキでも作ってたの?」
看守長藍「練乳じゃありませんよ。これはおちんぽみるくです」
看守橙「おちんぽみるくって何ですか?」
看守長藍「精子のことだよ」
看守橙「なんだ、ザーメンか」
囚人紫「生きてる? もしもーし」
椛「幻覚が話しかけるな」
囚人紫「なんで取引に応じないの? よくよく考えれば出世のチャンスじゃない?」
椛「自分の信念に反するからだ」
囚人紫「信念?」
椛「今の山の上層部は不正に賄賂と腐敗しきっている。新聞なんて嘘と捏造だらけで、都合の悪いことにはだんまり。昔とは大違いだ。
私の一族は、古くからこの山を守ってきた。だから白狼天狗として、昔から変ることなく常に誠実であり続けようと、白狼のように潔白であり続けようと決めたんだ」
囚人紫「それがあなたにとっての正義ってこと?」
椛「…」
囚人紫「ねぇ?」
椛「スゥ…スゥ…」
囚人紫「寝ちゃってる」
翌日。
はたて「二日連続で同じ内容ってのはつまんないでしょ? 男共も昨日出しすぎたから溜め直さないと」
椛は天井から伸びる縄に両手を縛られていた。
衣服は取調室に入った時にすべて剥ぎ取られている。
はたて「今日は低予算だけど効果抜群の拷問をしてあげる」
柄杓でバケツの中の水を掬い、椛の頭にかける。
椛(甘い?)
はたて「気付いたと思うけど、実はこれ砂糖水なの」
そう言って、バケツが空になるまで椛に砂糖水を浴びせ続けた。
はたて「何の変哲も無いただの砂糖水が“これ”の登場により素敵な拷問アイテムに変身します」
半分が土で満たされた水槽を見せる。中には黒い小さな粒が蠢いていた。
はたて「この山に住んでるんなら知ってるでしょ? 獰猛な肉食蟻よ。私の小さな相棒」
蓋をあけると、甘い匂いを感じ取ったアリ達は一斉に椛に向かい行進を始めた。
椛「クソッ!」
はたて「ああ無理無理。裸足で踏んでも意味ないよー」
椛「来るな! 来るな!」
ついに最初の一匹が椛のつま先に到達した。
それにゾロゾロと続いていく。
椛「あああああああああああああああああ!!」
はたて「そいつらのアゴって滅茶苦茶強いからねぇ。生きてる野鳥だって3時間もあれば綺麗な骨にしちゃうのよ」
砂糖を求めて無数のアリ達は椛の体を登っていく。
椛「ひぃアア゛!!」
はたて「おお、今までにない可愛い声、さてはクリちゃんでも噛まれたのかなぁ?」
徐々に椛の白い体が黒く塗りつぶされていく。
「痛い? くすぐったい? 痒い? 気持ち悪い? 苦しい? 全部よねあはははははははは!!」
「おお゛、あっ! ひっ、うう゛う゛!! があああ!!」
いくら体を振って抵抗しても、アリ達は一匹も落ちることは無い。
はたて「乳首噛まれても目だけはしっかり閉じてた方がいいよ〜」
5時間後、全身から小さく出血する椛だけが残された。
力なく、天井の縄にその身を預けている。
はたて「じゃあ、この竹箒で身体を綺麗にしてあげるわ」
椛「オオオオオオオ゛ガァァァァァアアァアアアア!!!!」
死人のように微動だにしなかった椛は、激しくその身をくねらせる。
その絶叫は拘留所の隅から隅まで聞こえた。
見張り「ほら、さっさと入れ」
椛「うぐ!」
強引に椛の体が牢に投げ込まれる。
囚人紫「うわっ! キショい。蓮コラレベルの身体ね」
看守長藍「拷問系蟲姦ってヤツですね。あれ膣の中も相当噛まれているから痛くて動けないんですよね」
囚人紫「今の状態で挿入されたら激痛でショック死するんじゃない?」
看守橙「生きてますかー?」
椛「静かに、しろ、傷に響く…アグッ!」
囚人紫「ねぇ」
椛「フゥ、フゥ…」
囚人紫「ねぇってば」
椛「私に話しかけるな」
囚人紫「貴女は自分のしていることが正しいと思ってる?」
椛「…」
囚人紫「答えて」
椛「正しいに決まっている」
囚人紫「それが貴女にとっての正義?」
椛「そうだ」
囚人紫「ふーん」
この日、これ以上の会話は無かった。
翌日。
椛「今日は少ないな」
はたてと部下の天狗が一人居なかった。
天狗A「はたて様は新聞大会の締切が近いらしいのでな、もう一人のヤツは遅れて来る」
天狗B「三本では足りぬと申すかこの淫乱め」
天狗C「痛みで自白する前に死ぬでないぞ」
翌日。
マヨヒガの応接間で藍は朝刊を眺めていた。
隣には煎餅を齧る紫。庭先には自分の代わりに洗濯物を干してくれる橙がいる。
藍「おお。あの白狼天狗の娘が載ってますよ」
紫「何て書いてあるの?」
藍「死んだそうです。『自白後、良心の呵責から牢屋で自殺を図った』だそうです。見張りが軽い減俸を食らったみたいです」
紫「嘘ねその記事」
藍「ええ、嘘でしょうね。都合よく事実が歪曲されてます。お前もそう思うだろう、橙」
橙「はい」
この記事が捏造であることを三人は知っている。
橙「だってあの天狗さん、生きてますもんね」
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昨日の晩。
天狗A「はー出た出た。もう一滴もデネェや」
天狗B「もう何週したかも覚えてねぇや」
天狗C「意外に良い体してるから余計にだぜ」
天狗D「お、まだやってるか?」
天狗A「遅ぇぞ、もうお開きだよ」
天狗B「椛ちゃんも失神してるしよ」
天狗C「蟲にズタズタにされたマンコ弄られるたびに、良い声で鳴いてたぜ」
三人は口々に、椛の具合の良さを言い合った。
それに触発されて、遅れてきた天狗の性欲が滾り出す。
天狗D「この際気ぃ失っててもいいや。一発やっとくか」
天狗A「そうしろそうしろ」
天狗B「その代わり、後片付けは任せたからな」
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その後椛は、油断していた天狗の一瞬の隙を突いてそのイチモツを噛み千切り、痛みで悶絶している間に鍵を奪い、拘留所から脱走した。
地底。
紫「到着〜」
椛「ここは?」
紫「地霊殿よ」
椛「あの地底のか?」
さとり「アポ無しで来られては困ると、何度言わせれば気が済むのですか?」
声がする先。テーブルに頬杖をつく古明地さとりの姿があった。
さとり「その天狗が、ここに来た用件ですか?」
紫「この子、地上でちょっと問題を起しちゃってね。こっちで引き取って頂戴」
さとり「…」
椛「…」
サードアイが、じっと椛を見つめる。
さとり「なるほど、根は良い子のようですね。いいでしょう。力仕事で即戦力になる子が欲しかったところです。お燐、来なさい」
お燐「なんでしょうか」
さとり「その子をあなたの部署に回すわ。色々と教えてあげなさい」
お燐「かしこまりました」
椛「待て、まだ働くなんて一言も」
さとり「良いではありませんか。どうせ行くアテなど無いのでしょう? 次の行き先が決まるまでの繋ぎとして、ここで働いてみては?」
椛「そういうことなら、まぁ」
渋々半分、了承半分の表情で椛はお燐と共に部屋を出て行った。
さとり「さてと。そちらの厄介者を引き受けてあげたのです。それ相応の対価を頂かないと」
紫「ていの良い労働力が手に入った。じゃ駄目?」
さとり「今の貴女は、地上と地底の不可侵条約を破っていることをお忘れなく」
紫「わかったわよ。また嗜好品の横流しでいいわね?」
さとり「ええ。構いません」
紫「交渉の余地がないから、貴女は苦手なのよ」
さとり「こっちだって同じですよ。それにしても『正義とは何か』なんて、贅沢な悩みですね」
紫の心を読み、そう告げた。
紫「良かったら、貴女の正義も聞かせてくれないかしら?」
さとり「そんなモノ。この地底じゃ何の役にも立ちません。燃やせるゴミの方がまだ有益です。つまらない理想など、枷にしかなりませんから」
紫「正義に対してそういう認識もあるわけね」
さとり「用が済んだらお引取りを」
紫「はいはい、さよなら〜っと」
スキマを開き、紫は地上に戻ってきた。
【 Stage6:命蓮寺 】
白蓮「皆さんおはようございます。今日もはりきってお勤めを……どうかしました?」
星「本堂に謎の連中が」
白蓮「 ? 」
本堂。
紫将軍「藍休よ、この屏風の虎が夜な夜な屏風から飛び出して悪さをする。なんとかせい」
藍休「わかりました。では将軍様、この屏風から虎を出してください」
紫将軍「よしきた。境界をいじって〜、っと」
屏風から実体を持った虎が出現した。
虎「グルルルル」
藍休「ほぉぉぉぉアタァ!!」
虎「ガウッ!!」
藍休「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ、ォォアッタァ!!」
虎「グフウゥゥ!!」
藍休「貴様の体の至る所にある危ないツボみたいなヤツを一杯突いた。お前はもう死んでいる」
虎「ぐわああああ!!」
そして虎は四散した。
紫将軍「なんと!?」
橙衛門「さすが藍休殿。見事な屠無血(トンチ)でござる」
白蓮「あの、貴女方は一体?」
紫「あ。やっと来たわね住職」
将軍の衣装を脱ぎ、普段の格好に戻ってから聖の前までやってくる。
紫「この寺が掲げる『平等』っていうのが、貴女にとっての正義なの?」
白蓮「正義かどうかはわかりませんが、困っている者を助けたいと思う気持ちに悪は無いと思います」
紫「なるほど。そういう捉え方ね」
腕組をして考え込む紫。
白蓮「ご納得のいく回答だったでしょうか?」
紫「そうね。だいたい参考になったわ」
白蓮「それは喜ばしいです」
紫「邪魔したわね。帰りましょうか」
橙「はい。紫様」
紫「ところで藍は?」
橙「あそこに」
橙が指差す先。
藍「…」
マミゾウ「…」
藍「あ?」
マミゾウ「ああ?」
藍「あ゛!?」
マミゾウ「ああ゛!?」
村紗「すっげえメンチ切り合ってるよあの二人」
一輪「額をくっつけあってる」
ぬえ「『クローズ』とか『ワースト』みたいなヤンキー同士の睨み合いってレベルじゃないわね」
星「『アウトレイジ』ですよこれ、極道のガン付け」
マミゾウ「これはこれは、久しいのう九尾」
藍「誰でしたっけー? あなたみたいな糞マイナー妖怪に心当たりないんですけどー」
マミゾウ「ほっほっほ。こんなド田舎に長いこと居たせいで耄碌したか? 小じわが増えたのう」
藍「一尾風情が調子に乗るなよ古タヌキ」
マミゾウ「尾は数ではなく質じゃよ。浅知恵キツネめ」
藍「ほう…」
マミゾウ「よいぞ。やるか?」
バックステップと同時に素早く印を結ぶ両者。
藍「行け! 魔界のオギジソウ!!」
マミゾウ「変化! 絶対防御『地蔵魔利男』!!」
凶悪な牙を持つ巨大なオジギソウが地蔵に化けたマミゾウに殺到する。
藍「いきなり守りか臆病者め!」
マミゾウ「おや? これは攻撃じゃったか? 降参してマッサージしてくれているのかと思ったぞ?」
藍「良いだろう本気を見せてやる」
マミゾウ「始めからそうすれば良いモノを」
藍・マミゾウ「「封印解除!!」」
里を跨いでしまう程の巨大な体躯を持つ狐と狸がにらみ合う。
藍「仏殺(ぶっころ)す!!」
マミゾウ「永眠せよ!!」
咆哮と同時に大きく息を吸う。
藍・マミゾウ「「尾獣玉!!」」
怪獣の口から精製された高出力の弾幕が、空中で衝突した。
橙「なんか東宝映画みたいな展開になってますね」
その後、駆けつけた博麗霊夢の手により、二尾は袋叩きにされた。
【 Extra Stage:霍青娥 】
紫「色々なところから話を聞いたけど、結局決め手になるものは無かったわね」
藍「そうですか」
紫「どうしたら私の中の正義が見つけられるのかしら」
藍「いっそ『人々を恐怖に陥れる悪の存在』っていう分かりやすい悪役が出てくれば、紫様の正義とやらも姿を現すんじゃないですか?」
紫「今のご時世、そんな絵に書いた悪役なんて」
青娥「…」
紫・藍「「おった」」
紫「すごい逸材よあれは、まさにダイヤモンドの原石、いえ、この場合はゴキブリの卵とでも呼ぶべきかしら」
藍「糞の芯とでも言いましょうか」
紫「年甲斐も無くヒラヒラとした衣装なんか着ちゃってる所なんかもレトロな悪役の雰囲気がするわ」
藍「あれですよ。きっとアジアのパピヨンにでもなるつもりですよ」
紫「蛾みたいな名前なのにね」
橙「夢を見る少女って歳でもないのにね」
青娥「今ものすごい不愉快な会話が聞こえましたが?」
紫「ひぃ! 私よりもネクロファンタジアな奴がこっちに来たわ!!」
青娥「なんですか貴女方は?」
紫「脂肪です」
藍「塩分です」
橙「糖分です」
青娥「真面目に答えなさい。怒るわよ」
紫「さては、殺して防腐処理した私達を高級ダッチワイフとして変態貴族に売る気ね」
藍「セット商法か、私と橙が欲しいのに、紫様のまで買わされるという悲劇が起きるわけか」
橙「コンプライアンスに反しますね」
青娥「あのですね。私、今すごく機嫌が悪いんです。これ以上怒らせないでいただけますか?」
藍「いいだろう。その愚痴、聞いてやる」
青娥「本当に?」
橙「イライラを吐き出してスッキりしたら、私と藍様だけは見逃してください」
青娥「じゃあお言葉に甘えて」
こうして青娥は語りだした。
青娥「不運の始まりは数日前。凶悪犯の死体がキョンシーの良い素材になると思い、外の世界の刑務所に壁抜けで侵入して、死体を拝借しようとしたんです。
そしたら私の空けた穴を囚人達が見つけて大脱獄劇に発展。その騒ぎのせいで死体を取り損ねてしまいましたの」
紫「うん?」
四季映姫の言っていた事と微妙にリンクしているような気がした。
青娥「それだけじゃありません。帰って来たら地下の秘密研究所で飼育してた巨大キョンシーが脱走してて、里の夫婦を襲ったというじゃありませんか。痕跡の揉み消しが大変でしたよ」
橙「ん?」
永遠亭に担ぎ込まれた夫婦のことを想起する。
青娥「他にも他にも。天人になる手掛かりを探すために、用意していた天界へワープするための魔法陣も、私がちょっと目を離した隙に誰かが踏んでしまったみたいですし」
藍「へ?」
里で急に天界に飛ばされたことを思い出す。
青娥「まだあります。今まで懇意にしていた天狗の山賊頭が捕まってしまいまして。そいつの口を封じて頂くよう天狗上層部にいくら金を積んだか。とんだ散財です」
紫「あれ?」
最近、良く似た話を聞いた気がした。
青娥「もう、何一つ上手くいくことがなくて、嫌になってしまいますわ」
紫「お前が全部の元凶か!!」
藍「とんでもねぇヤツだ!」
橙「呼吸するように不幸をばら撒いてる!」
青娥「貴女方も何か知っているご様子」
紫・藍・橙「「「しまった」」」
慌てて口を塞ぐが、もう手遅れだった。
青娥「ここで帰すと後々に面倒なことになりそうですね」
その手に、黒い塊が浮かび上がる。
青娥「いきなさい、私の坊や」
紫「藍、ガードなさい! 私が力のチャージを終えるまで、時間を稼ぐのよ!」
藍「はっ!」
結界を展開し、青娥のヤンシャオグイを受け止める。
結界にぶつかった瞬間、ヤンシャオグイはまるで結界を削るかのように回転を始めた。
藍「くっ」
徐々にヤンシャオグイは薄くなりやがて消失したが、結界には薄い皹のような亀裂がいくつも入っていた。
藍「なんて威力だ」
結界の強度を保つために霊力を流し続けた藍の手のひらは焦げ付いていた。
そうでもしなければ先に結界が破壊されていた。
青娥「意外と丈夫な結界ね。なら一度にもっと投げようかしら?」
一つ、二つ、三つ、四つと青娥の周りにあの黒い球体がいくつも出現する。
紫「マズイわよ藍! もっと結界の強度を上げなさい!」
藍「クソッ!! 手が上がらない!! あの狸との戦いでチャクラ切れだ」
紫「なにチャクラって!? 霊力じゃなくて!?」
藍「橙!」
橙「は、はい!?」
藍「どんなに薄くて良い! 橙も結界を張るんだ!」
橙「で、でも私、結界なんて一度も…」
藍「結界の修繕を思い出すんだ! お前がやらなければ全滅だ!」
青娥「そーれっ」
六つの悪霊体が三人に向けて放たれる。
紫「来たわよ!」
藍「頼むぞ橙!」
橙「えい!!」
橙の前に八角形の波紋のような結界が展開された。
藍「ATフィールド出しちゃったよこの子」
紫「廃れたものが行き着く幻想郷で、外の世界のブームに乗っかるとかマジ良い根性しているわ」
そして見事に全弾防ぎきった。
青娥「ふーん、そう」
防がれたと知るや、青娥は一瞬で橙との間合いを詰め、髪から蚤を外すと橙が作り出した結界に突き立てた。
結界にズブズブと蚤が埋まっていく。
藍「こいつATフィールドを中和してるッ!?」
蚤の先端が橙の目の前まで迫る。
藍「橙! もう良い! お前だけでも逃げろ!!」
紫「落ち来なさい藍」
藍「しかしこの状況は」
紫「たった今、チャージが終わったわ」
紫は右手を強く握る。
―――滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器
―――湧き上がり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる
―――爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形
―――結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ
橙「黒棺」
紫・藍「「お前が使うんかーい!」」
ちなみに、紫の技は橙の術の影響で不発に終わった。
紫「邪仙は?」
藍「どうやら逃げられたみたいですね」
橙「じゃあまた、襲ってくるってことですか? また皆が不幸な目に?」
紫「そんな事はさせない。幻想郷の平和は私が守る! 正義の使者、八雲紫が!!」
こうして幻想郷の平和を守る正義の使者 八雲紫と、
幻想郷を恐怖のどん底に陥れようとする邪仙 霍青娥との戦いの火蓋が切って落とされた。
END
藍(なんだこのオチ?)
仮面ライダー、ロックマン、サイボーグ009、アメリカンコミックのキャラクター。
子供の頃、私を魅了したヒーロー達。
当時、彼らは世界征服を企む悪の組織と戦っていました。
しかし時代は移ろい。彼らは今、『悪の組織』ではなく『自分達とは異なる正義を持つ組織』と戦うようになりました。
“正義”という言葉が共通の言語ではなくなった今、彼らは何を守り、何を壊すのか。
2012年12月17日
コメント、評価をくださった皆様、本当にありがとうございます。
作者予想で数名の方に当てられていて嬉しいやら恥ずかしいやら…
木質
http://mokusitsu.blog118.fc2.com/
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/25 13:43:00
更新日時:
2012/12/17 22:27:48
評価:
11/16
POINT:
1060
Rate:
12.76
分類
産廃SSこんぺ
正義などヒトの数だけあるモンですが……、絶対悪は稀有ですね。
色々と放置するとヤバいのがチラホラとあるのに、幻想郷の管理人は正義云々の前に仕事しろよ!!
頑張れ八雲一家!! 戦いは始まったばかりだ!!
そしてなぜか1人ドシリアスな椛に合掌。
でもこういうの大好き
登場人物の思考がナァー!!
台本形式でこの文量書くのは結構大変だったと思います。それも凄いと感じました。
なんで台本形式にしたのかだけわからんかったけど。名前ネタで遊べるからとかか。
自分の作った箱庭でこれでもかというぐらいに貪欲に遊び尽くす紫に敬意を
なんというフリーダムさ、そしてはっちゃけ具合。
まさに“産廃創想話作品”と感じます。
テンポ良く読め、面白かったです。
哲学書を書かれてはどうでしょう?
「八雲式形而上学」とか。