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『産廃SSこんぺ「走り書き」』 作者: 山蜥蜴
11時36分。
魔理沙は悩んでいた。
机に向かい、紙を広げ、ペンを持ったは良いが今さら書き始めた所で間に合う訳が無い。
期限は今夜の12時なのだ。
一カ月も余裕があったというのに、私は何をしていたのだろうか。
この間の宴会時にアリス、パチュリーと口論となった。
各々の魔法理論の相違によるものだ。
それぞれの魔法への接し方は違い過ぎた。
膨大な書物をバックグラウンドに、莫大な知識を積層させるパチュリー。
生粋の魔界生まれであり、その魔力を引き金に独自理論をくみ上げているアリス。
書物からは勿論、実践主義から導かれた実際的な魔術式を編む魔理沙。
誰の魔法理論がより優れているか。
結論など出るはずもない。
目的も評価方法も一義的にこうだと言えるものでは到底ない。
三人は一ヶ月後に、それぞれ無記名論文を書き上げてそれを提出し、第三者に評価してもらう事で決着をつけようと決めた。
第三者とは。
魔術に造詣が深く、第一級の魔法を過去に発表している者達。
魔術を普段使うが、自身で開発まではした事が無い者達。
魔術についての知識が無く、面白そうだからと立ち寄った者達。
早い話が、誰でもだ。
難解で理解されなかったならそれも評価の内。
兎に角、なんでも良いから、もっとも評価された者が勝者。
そういう宴会の雰囲気の内で決めたルールで、競う事になった。
まずい、非常にまずい。
こんな回想をしている内に、時刻は既に54分だ。
チクショウ、未提出敗退なんてのだけは勘弁だ。
悔しいとか、そういうのも勿論なんだが、ああいう楽しみに参加したいというのが一番だ。
大体、私はここの所、異変があって疲れたなんだと言い訳をしては、さぼっていた。
そろそろ新しいものに取り掛からなくては駄目だ。
こんなんじゃいけない。
ええ、とそうだな。
皆に分りやすいのが良いか。
さっぱりと実用的な魔術。
そういうのをささーっと書き上げるんだ。
いや、というかこれ、もう無理じゃないか? 57分だぞ?
ダメだ、あきらめるな。
いっそ、こうなったら冗談に走るか?
何かこう笑いに持っていって誤魔化す……。
くそ、それもダメだ。
そんなのは逃げだ。
ああ、でも……
気がつけば完全な時間切れ。
仕方が無いので、私はこのメモを提出する事にした。
魔理沙には完成したと言って提出した。
これはまずい。
魔法をそこそこ使えるものの、他者と接点を持てていない私の為に、自分の名義を貸してくれたのに。
時間切れ丁度に、「完成したか〜」なんて呑気な声で訪ねて来たから思わず、丁度書けたところだと口走った。
あのどうしようもない走り書きを折り畳んで、図書室から失敬した封筒に入れ蝋印──名は入っていない印だから筆者はばれない──で封をし、渡してしまった。
魔理沙は封筒を受け取るとすぐに去っていった。
どうしよう。
フランは完成したと言って提出してきた。
なんだこれは。
ああ見えて魔術センスはかなりのもの、切欠があれば状況も変わるだろうと、名義を貸そうと思ったが。
時間切れ間際になっても来ないから、こちらから訪ねてみたら、丁度書けたと言って封筒を渡してきた。
このどうしようもない走り書きは、綺麗な封筒と蝋印とは正反対に筆跡は乱れている。
フランはかなり焦っていたのだろう、私に封筒を渡す手はインクで酷く汚れていた。
どうしたものか。
何とかしなくては。
魔理沙はやはり私から進捗報告が無かった事で悩んでいたのだろう、一週間ほど前からちょくちょく顔を出しては居た。
口に出して催促したりはしないでくれていたが、私はこのざまだったから、出来ていないとは言えず、先ほどは口が滑ってしまった。
幸い、発表日は閉め切りから更に一月ほど離れている。
その間に、今度こそちゃんとしたものを書き上げて、あの走り書きとすり替えるのだ。
私は執筆を始めた。
破壊の理論についてだ。
出来れば、こんな事については書きたくなかった。
だから、この一カ月ずっと避けていた論題だ。
こういう事ばかり得意だから、私は嫌われ疎まれるって事は良く分っている。
何時でも自分を壊せる者と、仲良く笑えるわけがない。
まして、その壊し方で楽しく盛り上がれるわけがない。
でも、結局の所、これこそが私の最も得意とするもの。
全力で書くというなら、これ以外には無い。
かくなる上は、というやつだ。破れかぶれだ。やってやる。
……とはいえ、あくまで魔法の論文だ。
それに、発表後には魔理沙がネタ明しをする予定とはいえ、一応は魔理沙名義での物なのだ。
能力で『目』の破壊は当然使えないネタだ。
魔理沙得意の、大出力の魔法。
それのちょっとしたアレンジ。
まあ、そんな物で良いんじゃないかな。
それを使って、対象の『目』を破壊する。
いや、でも、『目』を狙う利点はちょっとした力で対象を壊せる事。
だとしたら、大出力は完全に無駄か。
……いや、それならそれで、一度に多数の『目』を崩せる様にすればいいか。
……正しく大量破壊。いよいよもって私は危険人物扱いされて、また地下室に籠る事になるかも。
ええい、知った事か、決まりだ、それでいこう。
私は自宅で、悩んでいる。
フランドールから渡された封筒を開け、中身を読み、このまま出す訳にはいかないと結論づけた。
(蝋で閉じられていたが、こんな物を痕跡無く開くなんて事は朝飯前だ)
「フランドールのやつサボったか……」
自分の名義でフランドールの魔術を発表するつもりだった。
評判が良ければフランドールの物だと明かす。
評判が悪ければそのままにしておく。
──幸い、口の上手さと論文の出来を切り離す為に、筆者は論文に口頭での説明をしてはいけない事になっていた。
だから、フランの論文を私が理解して説明する自体は起こり得ず、上手く騙しおおせる筈だ──
そういうつもりだった。
だが、これでは流石に如何ともし難い。
私はこういう事態の為に自分で書いていた無難な論文を封筒に入れると、元通り封じて霊夢に届けに行った。
発表までの間は、霊夢が神社で保管する事になっている。
後でフランには話しておこう。
よし、書けた。余りにもあっさりと。
なんだ、最初からこういう方向の魔法について書けばよかったのだ。
魔理沙に走り書きを渡してしまってから、ものの数十分で完成した。
破壊に関しては、自分でも信じられないほど次々にインスピレーションが湧いてくる。
……やはり、私の精神には異常があるのだろうか?
泣けてくる。
だけど、今はそんな事は構わない。
これを以前の走り書きとすり替えなくては。
私は先ほどと同じ封筒、同じ蝋印を使い論文を封じた。
魔理沙の家へ行ってみよう。
上手く留守なら良いが。
「魔理沙、遅刻よ」
「悪い悪い。……出がけに急に腹がね」
「ま、私には魔法どうちゃら、どうでも良いけどね。……もう私は寝るわよ」
「ああ、遅くに悪かったな」
私は適当に誤魔化して、霊夢に封筒を渡した。
魔理沙は家に居なかった。
それは良い。望み通りの展開だ。
問題は、私の走り書きが机の上に置いてある事だ。
「ちくしょう……」
手遅れ……。それはそうか。
魔理沙も一参加者であり、提出先は別に存在している筈なのは考えなくても分る事だ。
なら、魔理沙はきっと、私から走り書きを受け取って中身を確認して、すぐに提出しに行った筈だ。
……魔理沙が中身を確認せずに提出してくれていれば良かったのに。
私は必要が無いだろうと思い、提出先を聞いていなかった。
ここで待つか?
その後、魔理沙に事情を説明して、提出先に交換してもらう? それとも魔理沙と共に提出先から盗み出しすり替える?
いやいやいや、何にせよそれでは魔理沙に迷惑をかける。
これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
嫌われたくない。
私一人でやるしかない。
私は手がかりを求めて室内を見渡す。
私は霊夢に封筒を渡し終え、自宅へ向かって飛んで帰った。
文字通りに、箒で。
自宅に着いた時に違和感を覚えた。
玄関のドアノブの角度が違っていた。
私は玄関に鍵をかけはしない。
鍵で防げる奴は幻想郷には余り居ないからだ。
その代わり、幾つか細かい仕掛けをする。
その一つがドアノブをごく僅かに傾ける事だった。
傾き具合が違っていれば、誰かが開閉した事になる。
「……」
八卦炉を懐中で握り、注意深く室内を窺うが誰も居ない。
「……空き巣かな?」
心にもない予想を口にしてみながら、室内を調べた。
……カーペットの起毛が、すこし寝ている。
私はいつも同じ所を踏むようにしている。
やはり誰かが侵入したのは間違いない。
そして、家を空けた時間は短いが、室内に明かりを灯した臭いは無い。
照明を必要としない者が訪ねてきて室内を探ったのだろう。
「フランドールか」
他に幾らでも幻想郷に明かりに頼らない者は居るが、このタイミングで他の可能性は考え難い。
フランは何を考えている? 私に用があったなら素直に家で待つ筈だが。
ちゃんとした論文が書けたから届けに来たとか? ハッ、まさかな。この短時間でそんな事は有り得ないだろう。
本当に空き巣でもしたか? それこそ有り得ない。あいつはそういうせこい事はしないし、室内に無くなった物品は見当たらない。
一体……?
博麗神社へ戻ってみるか。
私は博麗神社を目指して飛んでいる。あと少しだ。
魔理沙の部屋には、提出先に関する情報は見当たらなかった。
逆にいえば、そういう物が必要無い程、魔理沙に馴染みがある場所。
……中立な立場の者がこの役に選ばれる筈。
魔理沙が馴染み、幻想郷で中立、と言えば、まず霊夢だろう。
事の発端の宴会が開かれたのも、神社の宴会だ。
もしかしたら違うかも知れないが、ままよ、賭けだ。
神社が見えてきた。
明かりは消えている。
好機か。
侵入し、すり替えよう。
私は神社の境内へ箒で降り立ち、神社から出てきた小柄な人影に声をかける。
「よう、フランドール。真夜中のお散歩ならエスコートしようか?」
人影は意外だと言う様に肩をすくめると、こちらへゆっくりと歩いてくる。
「まさかもう来るとは思わなかった。どうして分ったの?」
「……魔法を使ったのさ」
「成程ね、説得力があるわ」
私は箒で肩を叩きながらフランに目で続きを促す。
「……実はね、すぐちゃんとしたのが書けちゃって、ね。すり替えたの」
「この短時間で書いた!? マジかよ? ……やれるなら早くやってくれよな」
「ごめん」
「まあ良いさ。で、私の可愛いダミー論文ちゃんはどうなった?」
「……ごめんね。壊しちゃった。霊夢が寝てて近づけなかったから、遠くから能力で壊したの。その後、私の封筒を投げ込んだ」
フランは申し訳無さそうに俯きながら話す。
「……壊した破片が見つかったりはしないだろうな?」
「あ、それは大丈夫。灰よりもずっと粉々に壊したから、朝には散ってるはず」
「なら良い。……神社と自宅の2往復はキツいな。私は帰って寝るよ」
私はフランに背中を向けながら手を振ると、星空へ飛び立った。
吸血鬼は兎も角、人間には少しばかり遅い時間だ。
まあ、良いさ。結果的には上手くいったみたいだ。
フランがすり替えた論文ってのがどんな物かは分らないが、自信があるみたいだし内容に心配は要らない。
発表当日が楽しみだ。
発表当日、私は凍りついた。
私以外の者は疑問符を浮かべた。
綺麗な筆跡の論文、がさつな字体の論文が霊夢の手により発表され……
最後の論文が霊夢に読み上げられるのを聞いて。
「これって……誰の?」
霊夢が魔法使い三人に尋ねるが、一番何が何だかわからないのはパチュリーだろう。
何時の間にか自分の論文が何処かに消え、魔理沙風の大出力を応用したフランドール風破壊魔法の論文が代わりに登場しているのだから。
私が紅魔館の封筒を持っている理由は誰でも想像がつくし、私がフラン風の魔法の論文を提出する事に違和感を持つ者も居ないだろう。
私がそういうのをちょいと拝借するのは何時もの事だ。
だから、私の論文が紅魔館の封筒に入って霊夢の手元にある事には問題が無いし、フラン風の論文が中に入っていてもやはり問題は無かった。
だが、如何にも私らしい論文が既にあるのに、重ねてこれが発表されるというのは面倒だ……。
フランはあの晩、破壊する封筒を取り違えていたらしい。
そういや、あの封筒は図書館から拝借したと言っていた。
裏返しにでもなっていれば、取り違えたのも仕方ない。
内容に心配は無いと確信していたが、そうか、すり替えをミスってた可能性もあったか……。
どうフォローすべきだ? ……くそ、思いつけない。パチュリーに期待、か。
ああ、くそ、もう嫌だ、何故こうなる。
恥ずかしい。
取り返しがつかない。
パチュリーはかなり真剣に取り組んでいた。
それを粉に砕いてしまうとは。
少しも経たないうちに、やったのは私だとばれるだろう。
状況証拠も何も揃い過ぎだ。
自首するしかあるまい。
「あの……ごめんなさい。私がやったの」
「だって、さ」
霊夢はパチュリーへ視線を送る。
「……フランドール・スカーレット。私の論文は何処へ?」
「本当にごめんなさい。破壊した」
「念の為に図書室に写しをとっておいて良かったわ……。……細かい事情は後で聞かせて貰うとして、あの破壊魔法の論文はあなたが?」
「……うん」
「なら、責めないわ。……少なくとも今はね」
私は首を傾げた。
責められない理由が分らない。
「外のジョークにこういうのがあるの。大事な木を伐採した事を告白した息子を父が許した理由は? 答えは息子がまだ斧を持っていたから」
「……?」
何が言いたいのか、ピンとこない。
「フラン、貴女の魔法は、この私が今は使われたく無いくらいの出来って事。まあ、対策魔法は三日もあれば作れるだろうけど今は……カハッ、ッケホ……喋り過ぎね」
素直じゃないな、と魔理沙が茶々を入れ、パチュリーがそれを睨む。それを見てアリスが笑っている。
他の見物人も何と無く自体が飲み込めて来たらしく、笑いが広がっていった。
レミリア……姉が、私の頭をやさしくコツリと打つ。
「次はもう少し綺麗にやりなさい。スカーレット家らしく」
撫でられるより嬉しい拳だった。
……成程、いいものだ繋がりって。
壊す力でも、どうしようもない走り書きでも、繋がりとなりうるのか。
あの走り書きが無ければ、こうはなっていなかった可能性もある。
魔理沙の計画で、無難に全て上手く行った可能性も勿論あるが。
まあ、兎に角、良かった、笑おう。
2012 12 24
どうも、タイトル通りな出来のもんでお目汚し失礼しました。
結構前から書いてた物が、直前になってもどう見ても完成しそうにない進行具合で、ノゾミガタタレター! 結果です。申し訳無い。
コメント、匿名評価、大変有難う御座いました。
>>1
私としましても、こんなんでもし高得点頂いてしまうと、他参加者様に申し訳無いです。
好きと言って頂けたならこれ以上の事は御座いません!
>>2
伏線を良く見破りましたね(震え声)
申し訳無い、凡ミスですorz
焦っていると気がつかないものですね……。
ですが、何か後書きで続きか何かを書こうとは考えていたのですが、このコメントのおかげでそれに方向性を頂けました。
>>6
ちゃんと三人称で観察記録に仕立てた方が良かったかも知れませんね。
なんだか一人称で備忘録風に仕上げようと試したせいで荒が出てしまって……。
締め切り間際という、焦りだけは実物なので、せめてそれだけでも伝われば……。
あ…焦り…で…す… これが…せい…いっぱい…です
読者…さん 受け取って…ください… 伝わって…… ください…
>>7
し、しまったー! その手があった……
>>8
どうも有難う御座います!
メタいネタは結構楽しいですよね。メタ過ぎてもアレですけども。
確かに、メタネタならメタネタに全振りして、魔法とか入れない方が纏ったかも知れません……。
>>9
どうも!
>>10
閉め切りが無いとのんびりして完成せず、閉め切りがあると悶絶し……やはり完成しなかったりw
毎回、こんなに直前で焦るならさっさと書いておけば良かったと後悔するんですが、中々これがどうして、ですよね。
>>11
面白いと言って頂けて幸い! タイムイズマネー、遅刻は命より思いっ! ならば70点減点も致し方無し!
咄嗟の苦し紛れの割には、我ながら良く滅茶苦茶な設定を思いついたものです。
>>NutsIn先任曹長さん
面白いと言って頂けて、後書き本編も救われます!
時間切れと捻くれた嗜好が、こんな形の作品を書かせてくれました。
つい、こういう悪ふざけをしていまいます。
>>15
フランちゃんが怒られて、逆切れして、あの魔術理論使って大破壊 → 懲罰END も考えましたがイイハナシにしちゃいました。
なんというか、生温くて申し訳無い気もします。産廃的に。
ええ、何か後書きで書こう、とまでは考えていたものの、先述の様に、具体的な方向性はコメントから頂きました。
筆者は魔理沙でない→アリス、パチュリーは除外→他に魔法使いは聖とフラン→魔理沙、パチュリーと関係深いのはフラン。
といった流れで筆者はフランとなりまして、後は指に任せてバーっと一晩で書きました。
>>16
やはり最初は混乱しますよねこれじゃ……。
出来るだけ「相手名前」等を入れる事で、自分が誰かを示そうとはしましたが、とはいえ筆記パターンが分るまでは見辛いですよね。
お手数おかけしました。
流行りなのかは存じませんが、後書きでちょい足しは初投稿作品の「或る烏天狗の欺罔」の頃から好んで使っておりますw (という巧妙な過去作品のステマ)
山蜥蜴
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/25 15:01:13
更新日時:
2012/12/24 11:48:41
評価:
8/16
POINT:
390
Rate:
5.93
分類
産廃SSこんぺ
祭後あとがき追記しました。
コメント返信させて頂きました。
二行目が三人称…
魔法とか無理に絡めなくても良かったと思う。
メタっぽさとストーリー性のバランスが絶妙ですね。
面白いじゃないか!!
それはともかくイイハナシダッタナー
感想コメントでされていた突込みをネタにしたんでしょうか?
ってか後書きとコメントで続き書くの流行りすぎで笑った