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『白の部屋』 作者: 零雨
サニーミルクが心地のよいまどろみから目覚めると、そこは見たことのない場所だった。
見慣れたいつもの部屋とは全く違う、辺り一面が白で塗られている狭い部屋だ。
「……え? ここは一体何処なの……?」
一緒に寝ていたはずのスターサファイアとルナチャイルドの姿はない。
もしかすると、彼女達の悪戯かもしれないとサニーは思ったが、どうやら違うようだ。
なぜならば、サニーの隣には魔法の森に住む魔法使い、霧雨魔理沙が気持ちよさそうに眠っていたからだ。
人間とはいえ、魔理沙は魔法使い。ルナチャイルドとスターサファイアの力だけでは彼女をこのわけの分からない部屋に連れてくるのは無理だろう。
とりあえず、サニーは眠っている魔理沙を起こすことに決めた。一刻も早く、この奇妙な部屋から出て行きたい。その思いが頭を占めている。
声をかけながらゆさゆさと体を揺さぶると、魔理沙は機嫌が悪そうな声を出しながらゆっくりと目覚めた。
「……なんだよ、もう少し寝かせてくれよ。……って、サニー? 何でお前がここにいるんだ?」
サニーがどう説明しようか考えあぐねている間に、魔理沙は辺りを見回し自分が置かれている状況を確認した。
六畳程度の白い部屋。床も壁も全てが白い。何故か、トイレと少しばかりの食料、そして数本のナイフが部屋にあった。
そんな部屋の中で何よりも特徴的なのは、黒い扉。白一色の部屋の中で、異質な存在感を放っている。
魔理沙は、必死に説明しようとしていたサニーを手で制し、黒い扉に向かって歩いていく。
「さっさとこんなところからは出ようぜ。出て、私をここに連れてきた奴に一発お見舞いしてやる」
そう言って魔理沙はドアノブに手をかけ、勢いよく回そうとした。が、ドアノブはびくともしない。
訝しげに扉を見つめる魔理沙。もう一度、今度は先程よりももっと強い力で扉を開けようとしたが、ピクリとも動かない。
「あー、くそっ! なんで開かないんだこの野郎!」
ガンガンと苛立ち紛れに扉を蹴り続ける魔理沙。当然、そんなことで扉が開くわけもない。
そんな魔理沙を見て、サニーはあることに思い当たる。
「あの、魔理沙さんなら、弾幕でその扉を破壊できるんじゃ……」
「おお! その手があったな! 焦ってたせいで思いつかなかったぜ……。マスタースパークでこんな扉の一つや二つ、粉々にしてやるさ」
これで出られるな、と喜んだのも束の間。魔理沙の顔から笑顔が消える。
慌てた様子で自分の体のあちこちをまさぐる魔理沙。そして、小さな声でサニーにこう言った。
「……私の八卦炉がない。……それに、どうもうまく弾幕が出せないんだ」
「つまり、ここから出られないってことですか……?」
「ああ、そうなるな……。幸い、少しだけなら食料がある。数日も待てば、幻想郷の誰かが私たちが消えたことに気がついてくれるかもしれない」
そう言う魔理沙の顔は、苦虫を噛み潰したような表情だった。
魔理沙もサニーも幻想郷のあちこちをふらふらしているので、誰かが気がつく可能性は低い。
スターサファイアとルナチャイルドが探してくれているかもしれないが、あの二人が誰かに助けを求めても、悪戯だと勘違いされてしまうかもしれない。
それでも、誰かがこの場所を見つけてくれることを祈って、魔理沙とサニーはこの白い部屋で生活するしかないのだ……。
『一日目』
「それにしても趣味の悪い部屋だな……。頭がおかしくなりそうだぜ……」
ぺたぺたと壁を触りながら、魔理沙がそう呟く。どこかに抜け道や壊せそうな場所がないか探しているようだが、白い壁には少しの隙間も傷もない。
天井には空気穴があるようだが、人が通れるような大きさではない。
それに、この部屋ではうまく飛ぶことすら出来ない。頑張れば天井くらいまでなら飛べるかもしれないが、飛んだところで通れないのなら意味がない。
穴を壊せれば出られるかもしれないが、この部屋では魔理沙もサニーも、どこにでもいるような普通の少女程度の力しか出せないのだ。
「魔理沙さん、今のうちに食料をどう分けるか決めましょう」
「おう、そうだな……。いつ出られるか分からないから、慎重にな……」
部屋にあった食料は、パンと林檎、それと二リットル程度の大きさのビンに入れられた水のみ。魔理沙とサニーはパンと林檎を三つずつに分け、水の入ったビンを二つずつ手に取った。。
一日にパン一つと林檎一つ、それと少しの水。これだけで数日はしのげるだろう。
食料がなくなった後のことは出来るだけ考えないようにして、二人は上を満たす為にパンに齧り付いた。
「おいしい……」
ただのパンのはずなのに、思わずそう呟いてしまうサニー。
この異常な状況において、唯一まともな食事。その安心感から、普段の数倍おいしく感じたのかもしれない。
「これからどうなるんだろう……」
考えたくないが、ついそのことを考えてしまう。
まだ、閉じ込められてからあまり時間が経っていないから希望も持てるが、明日、明後日、一週間後にはどうなっているだろう。
もしかすると、一生ここから出られないかもしれない。もう二度と、スターとルナには会えないのかもしれない。
嫌な想像がどんどん膨らんでいき、涙目になるサニー。
そんなサニーに魔理沙は優しく声をかける。
「そうくよくよすんな。紫や霊夢ならきっと私たちがいないことに気付いて探してくれるさ。私はそう信じてるぜ」
「魔理沙さん……」
魔理沙も内心では不安だったが、暗い雰囲気でいると気が滅入ってしまう。
少しでもいいから明るく振舞い、不安な気持ちを紛らわそうと考えたのだ。
魔理沙が必死に慰めたおかげで、サニーの不安も少し和らいだ。
食事を終えた二人は、幻想郷での出来事について語り合った。
サニーが話したのは、悪戯での失敗談。ルナがドジを踏んで、自分で作った落とし穴に嵌ったり、スターが調子にのって、沼地で盛大に転んだこと。
楽しかった思い出を噛み締めるように、身振り手振りを使って話す。
気がつけば、サニーの顔には笑顔が浮かんでいた。
それをいた魔理沙は、この異常な場所で、サニーの笑顔を守ろうと決意したのであった。
「ふあぁ……。なんだか眠くなってきましたね、魔理沙さん」
「んー、言われてみれば確かにそうだなぁ。結構長い間話してたもんな」
「……こんなわけの分からないところに閉じ込められたけど、魔理沙さんと一緒なら何とかなる気がします!」
「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。私もサニーを見てると、不安な気持ちが消えてきたぜ」
「えへへ、嬉しいな……。そうだ、魔理沙さん。寝床はどうしましょう? 床にそのまま寝るしかないのかなぁ……」
「そうだな……。ちょっと場所を確保するか……」
食料類をまとめて部屋の隅に移動させる魔理沙とサニー。
そこで、魔理沙が違和感に気がついた。
「ん?なんだかこの辺の床は妙に柔らかいな……。ここなら楽に寝れるんじゃないか?」
「あ、本当だ……。結構気持ちいい柔らかさですね」
魔理沙は部屋の壁は調べていたものの、床までは調べていなかった。
見た目は他の床となんら変わりがないが、触るとその違いを感じることが出来る。
柔らかい床はちょうど二人が寝ることが出来る程度のスぺースだった。
二人は嬉々として、柔らかい床に身をゆだねる。
毛布がないのが少し残念だが、贅沢は言っていられない。
「……おやすみ、サニー」
魔理沙が呟いた時にはもう既に、サニーは気持ちのよさそうな寝息を立てていた。
「……明日には、ここを出られるといいな」
『二日目』
魔理沙が目覚めた時、サニーは既に起きていた。
「おはようございます、魔理沙さん」
「……ああ、おはようサニー」
「まだ、私たちがいなくなったことに、幻想郷のみんなは気がついてないのかな……」
「どうだろうな……。この部屋じゃ、どれだけ時間が経ったか分からんからな……。天井の明かりはずっとついたままだし……」
魔理沙の言うとおり、この部屋は明るさを一定に保たれていた。
昼も夜も分からず、眠気と空腹の加減で経過した時間を推測するしかない。
「とりあえず、朝飯を食べるか……」
部屋の隅に寄せていた自分の林檎を手にとって、齧り付く。
林檎は少し痛み始めていたが、空腹を満たす分には関係なかった。
お腹が満たされたことで、少し安心する。
「さて、今日は何をするかな……。本でもあれば、時間を潰せたんだがな……」
「……あの、魔理沙さん。その、私……」
もじもじと、何かを言いたげなサニー。顔は真っ赤で、何かを必死に堪えているようだ。
「……もしかしてトイレか?」
「は、はぃい……。も、もう我慢できないんです……」
「トイレはそこにあるんだから、使えばいいじゃないか。それともなんだ?恥ずかしいのか?」
「だって、丸見えじゃないですか! 恥ずかしいに決まってますよぉ……」
この部屋にあるのは水洗式トイレ。幻想郷でも、よく見られる普通のトイレだ。
問題は、トイレに周りに、視線や音を遮断するものがない。
まだ幼い妖精だとは言えども、サニーは乙女だ。
こんな開放的なトイレを使用するのにはかなりの抵抗がある。
「はいはい、じゃあ私はあっちを向いて耳を塞いでおいてやるから、ささっとやれよー」
「うぅ……。恥ずかしいけど、こうするしかないのね……」
羞恥で顔を茹蛸のように赤くしながら、用を足すサニー。
ジョロジョロと小さな水音が部屋に響く。
サニーが用を足すその姿は、一部の者からすれば、興奮を禁じえない姿であった。
「おーい、もう終わったかー? 腕が疲れてきたぜ……」
「も、もうすぐ終わります……」
魔理沙に急かされ、慌てるサニー。
そして、トイレに紙がないことに気が付いた。
これでは用を足し終えた後に、拭くことが出来ない。いくら紙がないとはいえ、手で拭くのは流石にまずい。
仕方がないので、泣く泣くそのまま服を着る。パンツに少ししみが出来てしまったが、どうしようもない。
「魔理沙さーん、終わりました……」
ちょんちょんと魔理沙の肩を優しく突っつくサニー。
「おー、終わったのか。じゃあ、次は私が使うぜ。なんなら、好きなだけ見てもいいんだぜ?」
「見ませんよっ!」
からからと笑いながらサニーをからかう魔理沙。
幻想郷にいたときとほとんど変わらない笑顔。一見すると、魔理沙はこの状況でも平常心を保っているように見える。
だが、実のところかなり焦り始めていた。
サニーの手前、落ち着いた素振りを見せているが、このままではいずれボロが出るだろう。
「はぁ、それにしても暇だなぁ」
用を足して、すっきりとした表情で魔理沙が言う。
ここには娯楽は何もない。食べて寝るくらいしかやることがないのだ。
「かなり早いですけど、もう寝ましょうか。そのほうがお腹も空かないし……」
「そうだな……。体力を温存するためにも、もう寝ようか……」
結局、この日も誰かが助けに来ることはないまま終わった。
そして、その次の日も特に何もないまま終わる。
四日目になって、事態は進展した。
……悪い方向へと。
『四日目』
「はは……。ついに、食料がなくなっちまったな……」
魔理沙の乾いた笑い声が部屋に木霊する。
その目は虚ろで、表情に生気はない。
「私たち、これからどうなるんだろ……」
初めてここに来たときと、同じ言葉を呟くサニー。
しかし、状況は初日よりも悪化している。まだサニーの水は僅かに残っているが、それも今日で尽きそうだ。
魔理沙の水は昨日既に尽きていて、今日は何も飲んでいない。
「霊夢が……きっと来てくれる……」
「魔理沙さん……」
気丈に振舞っていた魔理沙も、もうこのザマだ。
心がほとんど折れかかっている。なまじ希望がある分、諦めきれないのだろう。
「……水だけでも、一週間くらいは生きられるかな」
小さくそう呟く魔理沙の視線の先には、水洗式のトイレがあった。
そして、トイレには当然水が溜まっている。
「まさか、トイレの水を飲むんですか……?」
「……これも、生き延びるためだ。私にはまだやりたいこと、やってないことがいっぱいあるんだ……」
よろよろと、不安な動きで魔理沙はトイレに近付いていく。
栄養が足りていないのだろう。ここに来た当初よりも、明らかに体は痩せていた。
先程とは打って変わって何かが吹っ切れたように、魔理沙の目はギラギラと輝いている。
「ああ、水だ……! 生き返るぜ……」
トイレの水だと言うのに、それを全く意に介さずごくごくと飲み干していく魔理沙。
便器に頭を突っ込むようにして一心不乱に水を飲む姿には狂気を感じるほどだった。
「おぇぇ……」
その光景を見て思わず吐きそうになってしまうサニー。
だが、魔理沙はそんなサニーを尻目にトイレの水を飲み続ける。
やがて、喉の渇きを満たしたのかゆっくりと魔理沙が顔を上げた。
「……なあ、サニー? お前は飲まないのか? 生き返るぞ?」
「いや、私は……」
「なんだ、余裕だな……。まだ水が残ってるからか?」
魔理沙の言うとおり、サニーには少しだけ余裕があった。
まだ水が残っているということも余裕の一つではあったが、サニーにはそれ以上のモノがあった。
サニーの種族は妖精だ。
魔理沙と違い、死んだら終わりというわけではない。
サニーは死んでも、光がある限りまた蘇ることができる。
しかし、死ぬことに恐怖を感じるのは人間と同じだ。
「まあそれもありますけど……」
「それ以外にもあるのか……? その余裕の秘訣を私にも教えてくれよ……」
「えーっと、その……。私は妖精ですから……」
「妖精だからなんだ? 何かあるのか?」
「あの、だから……。私は死んでも、光がある限り蘇ることができるんです……」
サニーが躊躇いながらそう告げると、魔理沙の顔から表情が消えた。
無表情のままで、魔理沙はゆっくりと首をかしげる。
言っていることが理解は出来るが、認めたくはない。そんなところだろうか。
サニーが蘇るということに気が付かなかったまま過ごしてきたこの数日。
必死に生にしがみつく魔理沙の姿はさぞ滑稽に見えたことだろう。
「……なんだよ。……そんなのってアリかよ」
小さな声でそう呟く魔理沙。その瞳からは先程までの輝きが失われ、また死んだような目に戻っている。
魔理沙がこうなるであろうことを分かっていて言ってしまったサニーもまた、俯いて暗い表情をしていた。
重苦しい沈黙が部屋に訪れる。
やがて魔理沙がこの沈黙に耐え切れなくなったのか、それとも自分がした行為を思い出してやるせなくなったのか、もぞもぞと寝床に移動する。
そしてそのままサニーの方を見ることもせず、すやすやと寝息を立て始めた。
魔理沙が寝てしまい会話が出来なくなったサニーも、暗い気持ちを押さえながら寝ることにした。
しかし、なかなか寝ることは出来なかった。
蘇ることが出来ると魔理沙に言ってしまったことで、魔理沙の心に深いダメージを与えてしまったのではないかと心配になってくるのだ。
「魔理沙さん、私とはもう話をしてくれないんだろうな……」
つい思っていた言葉が口に出てしまう。口に出してしまったせいで、余計にそのことを意識するようになってしまう。
明日からのことを思うと、サニーはどうしても寝ることが出来なかった。
サニーが心を無にして寝ようと努力し始めて、数時間が経過したであろうか。
ようやく眠気がやってきて、意識が薄れ出したサニー。そんな彼女の耳に不審な物音が聞こえた。
何かを研ぐような音だ。朦朧とした頭で、音の聞こえた方に目を向ける。
視界の先には魔理沙がいた。その手には、鈍く輝くナイフがある。
先程の音はどうやらナイフを研いでいたようだ。暢気にそんなことを考える。
意識が朦朧としているせいか、何故魔理沙がナイフを持っているのかについて疑問に思わなかった。
普段のサニーなら、魔理沙の目が血走っていることに気がつけただろう。
魔理沙はナイフを構えたまま、無言でサニーに近付く。
ここでようやくサニーの意識が現実に引き戻される。
「ま、魔理沙さん!? 一体何を……」
サニーの言葉を遮るように、魔理沙はナイフを勢いよく振るう。
びちゃり。サニーの首から血が蛇口をひねったかのように溢れ出す。
喉を切られてせいで声が出ないのか、口をパクパクさせながら悶えるサニー。
数十秒ほど経っただろうか。意外なほどあっさりと、サニーの目から生気が消えた。
「……何をしてるんだろうな、私は」
返り血を浴びてどす黒くなった服を見ながら、魔理沙がそうひとりごちた。
足元には動かなくなったサニーがいる。自然と、魔理沙の目から涙が溢れ出す。
ある日突然訳の分からない所に閉じ込められ、守ろうと思っていたものを自らの手で壊してしまった。
魔理沙はもう自分でも自分のことが分からなくなり始めていた。
気が付けば、ただひたすらに生き延びることだけを考えている。
「……やったことを悔やんだとしても、もう何も変わらないな。ならせめて、限界まで生き延びてやるぜ……。悪いな、サニー。でも、生き返れるんだから、ちょっとくらいいいだろう……?」
そう言って物言わぬ死体となったサニーの服を切り裂く魔理沙。
ビリビリと絹を裂く音が部屋に木霊する。
一糸纏わぬ姿となったサニーの体に、魔理沙はナイフを突き立てる。
そして、ゆっくりと肉を切り刻んでいく。
サニーは小柄だが、それでもやはり小さなナイフで切り裂くのには力が必要だ。
魔理沙の額に汗がにじむ。疲れと恐怖で腕が震えてくる。
だが、ここでやめるわけにはいかないのだ。ここまで来た以上やめることはできないのだ。
数十分かけてようやく、サニーの体を六つのパーツに分けることが出来た。
頭、体、左腕、右腕、左足、右足。切り刻む途中に溢れ出してきた血は、少し前まで水が入っていたビンに汲んである。
吐き気を催すような臭いと、顔を背けたくなるような陰惨な部屋の中で、魔理沙は食料と飲み物を手に入れた。
達成感はない。あるのは疲労と吐き気だけだった。
作業がひと段落し少し落ち着いてから、バラバラになったサニーの死体を見て、魔理沙は喉からこみ上げてくるものを止めることはできなかった。
びちゃびちゃと、汚らしい音を立てながら胃の中のものを死体の上にぶちまけた。
魔理沙の服も、サニーの死体も、血と汗と吐瀉物でドロドロになっている。
ひとしきり吐き終えると、体力が尽きたのか魔理沙はその場に倒れこんでしまった。
そして吐瀉物塗れの口元を拭うこともせず、そのままゆっくりとまどろんでいった。
『X日目』
体がべたべたする。それに吐き気を催すような臭いもする。
サニーミルクが不快な周囲の状況を確かめるために目を覚ますと、そこは見たことのない場所だった。
床や壁はどす黒く染まり、周りには白い棒状のものとどこかで見たことのある布切れが散らばっている。
「何これ……。ここは一体どこなの……?」
サニーは目覚める前のことを必死に思い出そうとするが、記憶に靄がかかっているような感覚がしてうまく思い出すことが出来ない。
しばらく考え込んでいると、あることを思い出した。
先程は見たことのない場所と思ったが、何度か来たことのある場所のような気がするのだ。
しかし、それ以上のことは思い出せない。
思い出そうとすると、何故だか背筋が寒くなるような感覚に襲われる。
まるで脳がその記憶を思い出すことを拒んでいるかのようだ。
「何だろう……。すごい嫌な感じがする……」
サニーは小さくそう呟くと、扉に向かって歩き出した。
が、サニーが扉にたどり着く寸前に、何かがサニーの足を掴んだ。
慌ててサニーが足を掴んだものの正体を確かめようと後ろを振り向く。
だが、後を振り向く前に、鋭い衝撃がサニーの頭に走る。
何か固いもので思い切り頭を殴られたようだ。耐え切れず、サニーはその場に蹲る。
必死に痛みを堪えながら顔を上げたサニーの目の前には、不気味な生き物の顔があった。
ギラギラと輝いている目はつり上がり、口元は真っ赤な人間。
いや、人間かどうかは分からない。今までに見たことのないような狂気に満ちた顔をした化け物がそこにいた。
サニーは叫ぼうとしたが声が出ない。恐怖のあまり喉が干上がってしまっている。
その化け物は、怯えきって動けないサニーを見てにやりと笑った。
そして、手に持っていた白いものを振りかぶりながらこう言った。
「悪いなサニー。また次もよろしく頼むぜ?」
その声はとても楽しそうで、また、とても悲哀に満ちていた。
サニーちゃんがとても可愛い存在だと気付く機会を得れたことに感謝
零雨
- 作品情報
- 作品集:
- 5
- 投稿日時:
- 2012/12/17 13:55:26
- 更新日時:
- 2012/12/17 22:55:26
- 評価:
- 8/9
- POINT:
- 760
- Rate:
- 15.70
- 分類
- サニー
- 魔理沙
- グロ
いくら生きるためとはいえ、可愛いサニーちゃんを殺し続ける魔理沙ちゃんはどうしようもない子ですね。見知らぬ場所に連れて来られて不安気なサニーちゃんも、おしっこするのを恥ずかしがるサニーちゃんも、魔理沙と険悪になって後悔するサニーちゃんも、何度も殺されてそれが深層心理に刻まれてるサニーちゃんも最高に可愛いからある程度は仕方ないけどね。
いったいいつまでこの状態は続くんだろう。サニーちゃんにとって最も恐れるべきことは、魔理沙に殺されることではなく、魔理沙が死んで永遠にひとちぼっちになることかもしれない。
死んだら終わりなために、屍食鬼に堕ちてしまった魔理沙。
閉鎖された生態系。
白と黒。
僅かな食料。
僅かな限界。
穢れを出しても清められないトイレ。
意味の無くなる恥辱。
閉ざされた扉がすでに黒く染まっていたってことは……。
もう、白には還れない事は決まっていたってことか……。
P.S.煎餅食ったら思いつくような内容か、これ……?
正直この状況なら仕方ないというのもあるし、妖精は一回休みには慣れ親しんでるし。
数週間程度である種の安定が訪れるんじゃないかな、と思う。
だとしたら外は地獄だねふひひ
今度は魔理沙が食われ続ける可能性があると予想したい。