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『早苗と四十億匹のゴキブリ』 作者: 汰汲

早苗と四十億匹のゴキブリ

作品集: 6 投稿日時: 2012/12/28 15:03:19 更新日時: 2012/12/29 00:03:19 評価: 7/10 POINT: 630 Rate: 13.10
ある朝早苗が目を覚ますと、枕もとにペンギンの雛が居た。

「わあ、ペンギンさんだ」

早苗はとりあえずびっくりした。また、その雛をひどく可愛いとも思った。
せいぜい手を広げたくらいの背丈で、小さなもふもふの羽を広げつつ所在無さげに歩き回る。早苗が見ていることに気付くと、ぴたりと静止してじっと見つめ返してきた。

「きゃうん!飛べないペンギンさんもこんな高みまで翔んできたんですね!」

よく分からないことを興奮気味に喋り、雛を両手でそっと抱き上げる。思ったよりも重く、そして生臭かった。魚のにおいだろうか。

「今のうちにお風呂を済ませてしまいましょうか。神奈子さまと諏訪子さまが起きる前に入らないと、私が週一でしか入っていないことがばれてしまうかも知れません」

早苗は風呂に入るのが嫌いだった。奇跡の力で体臭と汚れを服の中に封じ込めているものの、それも一週間が限度。服を脱いだ瞬間に熟れたドリアンのような臭気が辺りに広がる。多感なお年頃の早苗は、自分が臭いなどと噂されるなんて絶対に嫌だったのだ。

「あなたも一緒に洗ってあげますよ。ほら、行きましょう。うぃーん、がしゃん」

UFОキャッチャーのように親指と人差し指だけでペンギンの雛を掴み上げる。言葉を話せないペンギンは、羽をばたつかせることで苦痛と抵抗の意思を示した。
しかし、そこは所詮鳥類。現人神たる早苗に膂力で敵うはずも無く、そのまま風呂場へと連れて行かれた。
後にはぬくい早苗の布団だけが残っていた。



「きれいきれいしましょうね〜」

台所から持ってきた食器用洗剤と、秋姉妹の家から盗んできた農薬の原液、それに冬至の時に入れそこねていたゆずと一緒にペンギンの雛を風呂桶に放り込んだ。嫌がってばたばた暴れるので洗剤が早苗の全裸の柔肌に降りかかる。
こんなものが肌についたら荒れてしまう。
暴れるのを抑えるため早苗は雛の首根っこを掴むと、洗剤の海の中へ沈めた。

「何分くらいで死ぬんでしょうか?」

3分くらいしてから、早苗はようやくペンギンが水中の生物であることを思い出した。

「うう寒い。あなたのせいで朝から体が冷えてしまいましたよ」

ペンギンから手を離すと、早苗は湯船の中に身を沈めた。ふう、と一息ついて、転がるように湯船から飛び出す。

「なんか変だと思ったら、これ水じゃないですか!冷たい!寒いいぃぃ……」

豊かな乳房を抱えてうずくまる早苗。現人神は冬の寒さにはとことん弱い。暖まるためにはどうしたらいいか……早苗の脳裏に浮かんだのは、博麗神社の掘り炬燵だった。霊夢の冷たい視線に曝されながらちょっと熱いこたつに入るとちょうどいいいのだ。
早苗は勢いよく立ち上がり、服も着ずに外へ飛び出した。

寒さは厳しくとも、早苗は今、自由だったのだ。



一方こちらは博麗神社。
博麗霊夢は朝の支度を終え、昨日アリスにもらった木苺のジャムを、パンにつけて食べていた。普段はもっぱらご飯派の霊夢だが、アリスがわざわざ自分のために焼いてくれたパンだというので、ゆっくり味わって食べていた。ゆっくり魔理沙はここにはいない。
冬のこたつは人に抱かれているかのようなぬくもりを覚える。霊夢は亡き母の胎内を思い出し、静かに涙を流しながらパンを食んでいた。しかし、そんな叙情的な時も終わりを迎える。

「霊夢さんっ!」

障子を開け放ち、全裸の早苗が部屋に飛び込んできた。ほぼ同時に、むっとする臭気が部屋の内部を満たす。霊夢は早苗を一瞥すると、こたつの早苗が居る側を指さして、言った。

「来るだろうと思ってたわ。あなたのために空けておいたこたつよ。さ、冷えてるんならさっさと入りなさい」

全裸で呆然としている早苗に向かって、霊夢はにやっと笑んでみせる。それにより、早苗は瞬時に理解した。早苗の両目から、涙が滝のように流れ落ちる。いかな博麗の巫女と現人神といえども、溢れ出すその涙を止める術など、彼女らは知るはずも無かった。

「知って……たんですか?」

がくりと膝をつき、溢れ続ける涙を拭おうともせず、早苗は霊夢の顔を見つめる。霊夢はまた笑って、

「あのペンギン……苦しめられたのはあんた一人じゃないってことよ」

と言った。早苗が水風呂に入ることになった元凶は、あのペンギンだったのだ。真実を知り、早苗の中からはわだかまりが消えていった。

早苗は頭からこたつへ滑り込むと、冷えた体で霊夢の素足にしがみつき、大声で泣いた。こんなに泣いたのはいつ以来だろう。早苗は頭を優しく撫でる霊夢の足を感じながら、ただひたすらに泣き続けた。
狂っていてもいい。不条理な世の中だっていい。早苗には霊夢がいる。

「いいのよ、早苗……」

霊夢は眠ってしまった早苗に向けて、その言葉を贈った。聞こえていようといまいと、彼女に自分の気持ちを伝えた。

いまだ日の出前。すべては静かな朝の世界での出来事だった。
ほのぼのを書いていたはずだった
汰汲
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2012/12/28 15:03:19
更新日時:
2012/12/29 00:03:19
評価:
7/10
POINT:
630
Rate:
13.10
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早苗
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POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 90 んh ■2012/12/29 00:35:28
ゆっくり久しぶり!
2. 100 名無し ■2012/12/29 05:36:06

・・・??
・・・・・・??????????
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
3. 80 NutsIn先任曹長 ■2012/12/29 07:48:52
一年以上ぶりですね。
キュートに始まり、感動で幕を閉じた、早苗さんのケイオスな物語でした。
4. フリーレス 名無し ■2012/12/29 07:56:55
4行目までは確かにほのぼの
5. 100 名無し ■2012/12/29 22:50:30
早苗がゴキブリに×××されるSSかと思ったらペンギンだった
6. 100 4 ■2012/12/30 02:12:41
点数つけ忘れてますた
8. 90 矩類崎 ■2013/01/10 20:06:49
自然に歯車が外れてゆく楽しさ。ほのぼのとえばそうかもしれません。
10. 10 名無し ■2013/02/03 06:24:16
 ヽ ___\(\・∀・) < 虫の出番まだ〜?
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