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『では、サニーちゃん『拷問指南書』の8ページをひらいてください』 作者: sako
――無理だ、無理、ぜったいに無理
人生には往々にして自分の能力以上のことを求められることがある。
間に合いもしない届け物を届ける羽目になったり、出来もしない量の仕事が出来たり、倒せもしない敵の討伐を命じられたり。
人生には往々にして自分の能力以上のことを求められることがある。
サニーミルクは今現在、それを心底、痛感していた。
サニーは三月精の中では一番『駄目な子』だ。
掃除も出来ない。料理も出来ない。勉強も出来ない。なにも出来ない子だ。
それでも普段はどうにでもなっていた。掃除はスターサファイアが得意だったし、料理はルナチャイルドが得意だった。勉強は三人とも妖精なので別に出来なくても問題無かった。自分が出来なくても誰かがやってくれるし、誰も出来なくても問題無い。そういう生活を今まで送ってきた。
けれど、それがただのちっぽけな幸運の連続と問題の先送りでしかなかったことにサニーはたった今気がついた。気がつき、明日からは自分もお掃除しよう、料理も作ろう、二人が出来なかったりやれなかったことをしようとかたく心に誓った。
「だから、こんなこと、ねぇ、させないでよ…」
そして神を恨んだ。
彼女は今、タイル張りの部屋の中にいる。広さは六畳ほどだろうか。長方形の形をしていて短辺の側にそれぞれ扉と窓が設けられている。扉は鉄製の頑丈そうなもので、窓には鉄格子が嵌められていた。部屋の明りは天井に設置された蛍光灯だけだ。電圧が弱いのか、時折、明暗を繰り返す。それでもさほど部屋が暗いと思わないのは蛍光灯の光を白いタイルが反射しているからだろうか。
不思議と部屋には清潔さというものが感じられなかった。タイルがくすんでいるわけでも目に黒いカビが生えている訳でもないのに。どこか、そう、トイレを思わせる雰囲気の部屋だった。
といってもトイレではない。トイレにしては広すぎるし、大小和洋どちらの便座もなかった。ただ、代りに部屋の中央には排水溝らしきものがあった。排水溝らしき、と言ったのはそこに蓋が羽目込められていたからだ。スチール製の簡易な蓋だ。中央に穴が開いていてそこに指なりフックなりを引っかけて開けるタイプのものだ。よくよく監察すれば部屋はその排水溝に向かって緩やかに傾斜していた。部屋の汚れをそこに入れるように造られているのだろう。その為にか部屋の左隅には大きな洗面台が設けられていた。小さな子供ならお風呂にも使えそうな洗面台で、ホースが蛇口の処へ引っかけられていた。使い古され毛先が広がったデッキブラシも側に立てかけられてた。
他に部屋の調度品と言えば部屋に入り向かって右の壁に打ち付けられたフックと逆の壁のボードだ。右側のフックには雑多な道具類が引っかけられ、その下にもなにやら色々なものが無造作に置かれている。左のフックには何枚もの便せんが虫ピンで留められている。こちらは一応秩序だっているようで、左上から右下へ、便せんの左下に書かれた数字通りに並んでいる。
そしてもう一つ、部屋には印象的な調度品があった。
椅子だ。
スチール製で飾り気のない椅子だ。肘掛けがあるタイプのもので、何故か四本ある足は全て大きなボルトで床にしっかりと固定されていた。暴れ牛でも体当たりしない限りは倒れそうにない。
その椅子に彼女は座っていた。否。座らされていた。彼女の自由意思ではなく強制だと判別できる点は椅子に座った彼女の両手足がそれぞれ肘掛けと椅子の脚に太いロープでしっかりと結わえ付けられているからだ。一人ではどうあってもその四箇所をロープで縛ることは出来ない。加え、もう一本のロープが彼女を縛り付けられた。口だ。口を閉じられないように両頬を通り後頭部でしっかりと結わえられている。猿ぐつわを噛まされていたのだ。ダラダラと閉じれぬ口から溢れた涎が白い服を汚している。
哀れすぎる姿。涙が浮かび、目蓋の下が腫れている目には様々な感情が――困惑、恐怖、憤怒、そうして絶望が浮かんでいる。
そんな彼女をサニーミルクは同じ面持ちで見下ろしていた。
自分の姉妹、椅子に座らされたスターサファイアを。
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめんごめんごめん」
震え、涙を流しながら謝り続けるサニー。スターはそのサニーを何か訴えたそうな目で見つめている。だが、何も言えない。サニーの手によって口に噛まされた猿ぐつわがそれを邪魔する。
「ごめん、スター」
もう一度、謝ってからちらりと横目でサニーはボードを見た。張り付けられた何枚もの便せん。その一枚目には1-1『まずはフクロをかぶせましょう』と書かれていた。便せんに書かれているのはそういった何かの手順で、全て同一人物が書いたのだろうか。女性らしい丁寧な筆遣いで、時折、花やハートマークでデコレーションされている。それ意外にもイラストなどが乗せられており、まるで他人に見せる事が前提の『料理の手書きレシピ』の様だった。
その『レシピ』通り、サニーは道具置き場から一つ麻袋をもってくる。ごわごわとした肌触りの丈夫そうな袋だ。元はコーヒー豆でも入れていたのだろう。ほんのり喫茶店の薫りがした。サニーはそれを手にスターの後ろに回り込むと、袋の口を大きく広げた。そしてスターの頭をそのまま袋の中へつっこんだ。スターは首を振い抵抗したが、「お願いだから、お願いだから」と泣きながら口にするサニーの懇願に折れたのか打ち震えながらも抵抗するのを止めた。すっぽりと頭に袋を被せられるスター。サニーは更に外れないよう、かつスターが苦しくないよう注意しながら袋の口を縛る。
「つ、次は…」
もう一度、ボードに貼り付けられた便せんを見るサニー。一枚目の便せんに書かれているどれも手順は一行程度で何度も見なくても簡単に憶えられそうな内容ばかりだった。実際、サニーも次に何をするのか分かっていた。それでももう一度、サニーが確認を取ったのは次の手順を、次からの手順を行いたくないからだった。少しでも先延ばしに、牛歩戦術をとるように。けれど、意図的な引き延ばしが許されるような状況ではなかった。制限時間は設けられていなかったが完遂は絶対なのだ。
「『めった打(う)ちにします』」
便せんに書かれた一文を読み上げるサニー。便せんはサニーの頭の程度に合わせて書かれているのか難しい漢字はひらがな、カタカナに、簡単な漢字でも一応、読み仮名が振られている。
さらに一文の下には『ワンポイントアドバイス』と称し、『ぐーぱんちでだいじょうぶ。でも、わんりょくに自信(じしん)がなかったらひのきのぼうやじてん車(しゃ)のチェーンでもOK』と顔の描かれたお花が説明する形で文章が添えられている。それ以外にも『いっかしょを集中(しゅうちゅう)して叩(たた)くのはダメ! 同(おな)じところを叩(たた)き続(つづ)けると感覚(かんかく)がマヒしちゃうから』『どなったりののしったり(死(し)ねやクソが、くたばれ、ゴミ屑(クズ)がなどなど)しながらだとこうかUP』と書かれている。サニーはそれを最後まできちんと読んだ。きちんと読んできちんと実行しないといけないからだ。
サニーはまた道具置き場まで歩いて行くとそこに並べられた物を見た。その目つきは最早睨んでいると称しても十分な物。親の仇を見るような目つきであった。否、姉妹の仇、か。
並べられた道具の中からサニーは丁度いい長さの棒きれを見つけた。元はモップか何かの柄だった物だろう。手にとり、ぎゅっと握りしめてみる。長さは六十センチほどでサニーの小さな身体でも十分振り回せる長さだ。暫くの間、サニーはそれを手にしたまま俯き耐えるようにジッとしていた。
「やらなきゃ、やらなきゃ…やらなきゃ、ううっ!」
それも暫くの間。気合いを入れるよう悪態をつくとサニーは歯を食いしばって腕を振り上げた。そのまま暴徒のように椅子に縛り付けられているスターの処まで走り寄るとその勢いのまま棒を振り下ろした。
「うわァァァァァ!」
ぶん、と風切音が聞こえ、次いで打撲音がタイル張りの部屋に響き渡った。木の棒が打ち付けたのは麻袋にくるまれたスターの頭だった。強かに打ち付けられスターの頭が揺れる。
「はぁはぁ、ううっ、ごめ、スター、ごめん、ううっ、ごめんなさい、スター、ごめ、ううっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」
棒を振り下ろした格好のままサニーは嗚咽を漏らし顔を歪め、父なる神の前で懺悔するよう無慈悲に殴りつけたスターに謝る。赦して貰えるとは微塵も思えぬがそれでもなお頭を下げずにはいられないように。
だが、それ以前にしなくてはならないことがある。スターに謝っていたサニーはその途中で発作でも起こしたように唸り声を上げた。
「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、再び手にした棒でスターを殴打し始める。
「ばかっ! あほっ! まぬけ! うんこ! だめようせいっ!」
子供の口げんかのような言葉を口にしながら。巫山戯てなどいない。サニーは真剣だ。真剣に思ってもいない言葉でスターを罵り、その体を殴りつけているのだ。
「うわぁぁっ、ああぁっ、あああ、ああああっ!!」
サニーは悪戯好きだ。その能力で他人を惑わせる。対象は身内であるスターサファイアやルナチャイルドに及ぶ時もある。それでもすることと言えば、光の屈折を操り偽物の風景を見せることで悪戯相手を小川に落したり壁にぶつけたりする程度だ。流血や骨折を伴うような結果になる可能性があることはしない。それは悪戯ではなくもはや暴力だ。サニーは悪戯好きだが暴力は嫌いだ。
今、サニーがスターに行っているのは紛れもない暴力だが。
「ああっ、ああっ、このっ、このっ、このぉ…ううっ、あああっ」
サニーもスターやルナとケンカすることはある。姉妹なのだから当然だ。時には思わず怪我をさせてしまうこともあった。それでもそれはついカッとなって反射的に手がでた結果だ。悪意や敵意、憎悪や破壊衝動があったわけではない。今もそうだ。
「ううっ、いやだよぉ、いやだよぉ…ううっ、ううっ」
この暴行はサニーの自由意思で行われている訳ではない。まったくもってこれっぽっちもやりたくないことをサニーは嫌々ながらもやっているのだ。それは絶対にやり終えなければならない重大な理由があるからだ。
「ううっ、ううっ…こ、これでもう…いいよね、ね…ううっ、ご、ごめんスター」
ひとしきり、スターを打ち終えたサニーは肩で息をしていた。運動量もさることながら叫び続けたのが息が上がった原因だろう。からん、とサニーの手から木の棒が転がり落ちる。見ればサニーの手の平の皮が剥け、血が滲んでいた。握りしめていた棒が擦れて擦過傷を起こしたのだ。それほど強く棒を握りしめスターをめった打ちにしたのだ。
打ち据えられたスターの様子は無惨な物だった。衣服は乱れ、破れている部分もある。その下は、余り想像したくはないが白い肌に幾つもの黒い痣と赤い血が滲んでいることだろう。スターは袋を被せられているため表情は伺えないが、俯き加減で小刻みに震えている。痛みに耐えているのだろう。
「つ、次は…2-1『じんもん、だいいっかいめ』…?」
暫く、肩で息をしていたサニーだったが思いだしたように顔を上げると再びボードに打ち付けられた便せんに目を通した。
そこにはサニーの言うよう『尋問・第一回目』という表題が書かれている。
「『たたいたあとはじんもんです。じんもんというのはおはなしをきくことです。あたまをつかんで、みみのそばでおおきなこえでたずねましょう』
文面を最初から最後まで二度読んでサニーは首をかしげた。どうして話を聞くのに袋を頭に被せたり、棒で叩いたりしなければいけないのだ。普通に『どうして』と聞けばいいだけじゃないか。よくよく文章を読めば『他人には言えない秘密を聞き出すため』という事も書かれていたが、それならそれでそんなこと聞かなければいいのでは、とサニーは思った。
便せんには更にサニーには不可解なことが書かれていた。
「『でも、このじてん…じてん? では、ふくろをとるひつようはありません。いまはあいてにききたいことがあって、そのためにはぼうりょくも…ぢ? じさないつもり、だということをおしえるためにします……? どういうことなの?』
まるで理解できない。だが、書かれているとおりにしなければ。
サニーは椅子に座ったままぐったりしているスターに近づき耳元に顔を寄せてから口を開いた。
「い、言えっ!」
大きな、けれど、叫んでいるという程でもない声をスターの耳元で叫ぶ。
「言ってよスター。いいから。なんでもいいから、言ってよ。ねぇ、お願いだから」
質問が具体的ではないのは当たり前だが聞きたいことがないからだ。サニーと他の姉妹たちの間に秘密なんてものはないし、聞きたいことは何でも聞けるからだ。こんな、こんな非道いことをしなくても。
「ううっ…『そうか。あくまでしらばっくれるつもりか。だったら、もうすこしいためつけるだけだ』」
便せんに書かれた台詞を意味も理解せずぐずりながら読み上げる。感情より自己意識より、命令が優先している。暴力に屈した証拠。肉体的に痛めつけられていないサニーではあったが、強制され暴力を振い罵り声を上げるという行為は確実に彼女の精神を痛めつけていた。これもまた暴力なのだ。
「次は…」
もはや、サニーの自由意識は薄弱になりつつある。言われたままに動くゼンマイ仕掛けの人形のように。作業をこなすよう、一息つく間もなく便せんの文面を読む。次もまた道具を使って
「……はりがた…? これ?」
道具置き場から次のツールを持ち出す。材質はブナの木だろうか。サニーの腕ほどの太さがあり、皮を剥ぎ、先端が在る程度尖るよう削いだだけの作りかけの杭のようにしか見えない物だ。ささくれも残っている。
「これを…?」
手にした棒きれをためつすがめつ眺めるサニー。それをどう使うかは既に説明を読んでいるから分かっている。分かってはいるが、本当にそう使うのかは理解しきれない。行く先の暗がりが正しい路なのかという類の疑問符を浮かべながらもサニーは便せんの指示を忠実に実行する。
「す、スター、脱がせるよ」
棒きれを手にしたまま近づきスカートに手をかける。何度も殴りつけたせいで破けてしまったスカート。それでもまだ服の用途を果たしている。それを持ち上げはだけさせる。真っ白いフリルの付いたドロワーズが露わになる。それにも指をかけサニーはずり下ろす。足が縛られているため、膝の辺りまで下げられないが十分だ。
『STEP1.服(ふく)をぬがせましょう。全部(ぜんぶ)じゃなくてもOK めんどうくさかったらスカートとドロワーズだけでもできます』
そう便せんには書かれている。そして、STEP2.は、
「これを…ここに…?」
晒されたスターの局部に注目するサニー。白い肌に一本、筋が入っているだけの無毛の丘陵。まだ羞恥心なんてものはスターやサニーにもないだろう。よく、裸で水辺で遊んでいる姿が見かけられる。それを見ても殆どの人は何も思わない。『妖精が真っ裸で遊んでる』それだけだ。だから、これからすることがどういうことなのかサニーはまるで理解してない。
「入る…の?」
入るわけがない、とサニーは思う。
サニーは以前、お風呂に入っている時にものの遊びのつもりで自分の指を入れてみたことがあった。でも、入れたのは人差し指の先だけだ。ビリビリとした痛みのようなものを感じてすぐに抜いてしまった。それを霊夢にしたところ顔を赤らめながら『そんな事しちゃ駄目。はしたない』と怒られたことを思いだした。こんな所に指を入れてはいけないのだろう。おしっこがでるところのすぐ側だし、きたない、そうサニーは考える。
だが、今は入れなくてはいけない。指どころか、この木の棒を。便せんには――
『そのB<強姦>対象が女性の場合、性的暴行を加えるのも有効。普通に暴力を加える以上に、嫌悪感や恐怖心を与えることができ、気力や自尊心、強いては意思を削ぐことができる』
――と、ある。これからサニーはその手にした木の棒でスターを犯さなくてはいけないのだ。
「い、入れるよ、スター」
右手に棒を持ち左手でスターの下半身を押さえる。幼い女性器に棒の先端を当てるとスターは身を捩った。反射的にか、それとも何をされるのか知っての反応か、それはわからない。だが、当然の行動だ。
「う、うごかないでよスター。入れられないじゃない」
それを無理矢理押さえつけるサニー。どのみち、スターが動かせる範囲など椅子の幅と同じだ。逃げられる筈がない。サニーは左手でスターの局部を押さえるとその秘裂を左右に押し広げた。露わになるピンク色の肉。内側。それでもその孔は非道く小さい。潤滑剤のようなものがあっても無駄だろう。他のものを受け入れられるようには到底出来ていないのだ、この孔はサイズ的にも、女性的にも。
そこにサニーは無理矢理、スターに挿入していく。角ばった太い棒を。みちり、みちり。肉が裂ける。フゥー、ヒィー、と袋の内側からぐもった悲鳴が漏れる。声は小さい。袋を被せられ猿ぐつわを噛まされているのだから当たり前だ。叩かれている時も実際、悲鳴は漏らしていたのだろうが、棒を振り下ろす動作と風切り音でそれはサニーの耳には届いていなかった。けれど、今度の拷問はどちらかと言えば静かに行われる。悲鳴は――聞こえにくかろうと、確実にサニーの耳に届く。
「スターぁ…お願いだから、がまんして、ねぇ、お願いだから…ううっ」
サニーは言葉を漏らす。涙を流し、肩を震わせ、懇願し、血を流すほど強く唇を噛みしめながら。漏らせぬ悲鳴を漏らし、耐えきれぬ内側への痛みに耐え、恐らくは今後何年経っても憶えぬであろう女としての恥辱を憶え、身体を震わせる姉妹に。凶悪な道具で。犯しながら。
「も、もう、これ以上は…は、入らないよね。うん、うん」
ゆっくりと突き入れていった棒は三分の一程度の処でそれ以上、入らなくなった。サニーの中指に関節もう一つ分を足した程度の長さ。その程度の深さしかないのだ。そこへ手首ほどの太さのものを無理矢理押し込んだのだ。小さく他を受け入れぬ大きさだった秘裂は今は縦に裂け、血を流している。血以外の粘液などでているはずがない。妖精の身体にそういう機能は付いていないのだ。これはイミテーションに過ぎない。幼子を模しているに過ぎないのだ。だから、妖精の身体は性交出来るように出来ていない。そこへまがい物とは言え男性器を挿入したのだ。結果は、見て嘆け。
「ぬ、抜いていいよね。ね。えっと…次は…ううっ、ええ!?」
便せんには確かに抜くよう指示が書かれていた。次いでまた挿入しろと。挿入し、抜き、挿入し、抜き、挿入しろと。繰り返せと。
「……何回?」
回数は明確には書かれていない。数えるのが億劫になるぐらい、としか。億劫という言葉の意味をサニーは知らない。だから、数え切れないぐらいか、と推測した。数え切れないぐらい。サニーはお風呂に入る時、きちんと10数えてからでるようにしている。10までは余裕で数えられる。20や30でも余裕だ。じゃあ、その上は。この前、算数のお勉強の時、ルナと一緒に100まで数えた。つまり、
「それより多く…?」
ちらり、と姉妹の姿を見る。体中を叩かれ、スカートをまくし上げられ、下着をずり下ろされ、無惨にも幼い性器に木の棒を押し込まれた姉妹の姿を。挿入の痛みが止ったためか、異物を入れられている鈍痛にスターは身体を小刻みに震わせているだけだ。ここに更に数え切れないぐらい抜き差しをしろと。痛みで、死んでしまうのではないか。ものを知らぬサニーでもそれぐらいは想像できた。
けれど…
「ううっ、ううっ、ごめん、ごめん、スター!!」
のではないか、ではない確実絶対な死が脳裏を過ぎる。恐ろしい笑顔と共に。
サニーは立ち上がるとスターの腰を押さえつけ再び棒を握った。なにをされるのか、驚きスターの身体が一瞬大きく震える。
「ごめん、ごめん。でも、こうしないとみんな、みんな死んじゃうから、殺されちゃうから!」
強く棒を握りしめ、すぅ、と命一杯息を吸い込み、サニーはきつく目を瞑った。これから行うであろう己の蛮行を直視したくなくて。
「あぁぁぁぁぁ!」
そうして、一気にスターに突き刺していた棒を引き抜く。が、それだけでは終わらない。
「いちっ!」
先端が抜けきるかどうかの処でサニーは再び木の棒をスターに突き刺し返した。激しい一突きに袋越しでもはっきりと分かるほど大きな悲鳴を上げるスター。
「にぃ! さん! しぃ! ごぉ!」
それを繰り返す、泣きながら。
「ろく! しち! はち! きゅう!」
血が潤滑油代わりになり挿入はいくらか滑らかになった。孔が大きく押し広げられているのも理由だろう。だが、その代りに傷は深く大きく、流血は多量になっていく。スターは身体を仰け反らせ、岩が濁流に流されていく音のような悲鳴を上げる。
「じゅう! ………にじゅう! ………さんじゅう!」
悲鳴を上げているのはスターだけではない。サニーもだ。数える数字はカウントのためではなく、悲鳴が数字の音をとっているだけだ。力加減もタイミングもなにもなく只ひたすらに腕を動かす。早く終わらせる。それだけが今、できる最善の方法だからだ。
「………よんじゅう! ………ごじゅう! ………ろくじゅう! ………ななじゅう! ………はちじゅう! きゅうじゅう………きゅうじゅうく!」
動かすサニーの手に温かいものがかかる。尿だ。スターが激痛に耐えかねたのか、それとも尿道に傷がついたのか、小便を漏らしたのだ。びちゃびちゃと溢れ出した液体は激しく動くサニーの腕や木の棒を濯ぐ。そこに付いていた朱と混じり、椅子を伝わり、床に落ちる。タイルの目にそって流れ、排水溝へと吸い込まれていった。
「ひゃく! ひゃくいち! ひゃく…に! ひゃく…さん! ひゃく…ご、よん…! ひゃく…ひゃく…ひゃく、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
数えている数がわからなくなり、適当な数字を口にし、それさえもわからなくなり、ついには本当にただの悲鳴、叫び声をあげる。だが、腕の動きは止らない。スターの性器は血と小水で泡立っている。そうして、
「うわぁぁ、ああっ、ああああああああ!」
引き抜くと同時に、腕の力も抜けたのか、それとも血糊で滑ったのか、木の棒がサニーの手から離れる。汚れを真っ白いタイルの床に遺しながら音をたて転がっていく。
「はぁはぁはぁはぁはぁああぁ、あああああ」
そのままとすん、とサニーは腰を下ろした。荒々しく肩で呼吸し、瞳は虚空を見つめている。仕事をやり終えた者の顔。ただし、やりたくもない仕事を。そうして、業務はまだ残っている。
「うぷっ、おぇっ…げふ」
それを認識した途端、サニーはその場に嘔吐した。胃が縮み上がり、食道が痙攣し、お昼に食べたもの…消化途中で元が何であったかまるで分からない程にどろどろに溶けてしまったものを戻す。びちゃびちゃと音をたて床の上に吐瀉物がぶちまけられる。跳ね返った汚濁はサニーの服を汚すが、彼女自身は止めようがない。生理現象なのだ。
あらかた吐き終えたのはそれから何分か経ってからだ。激しい動きの後の嘔吐でサニーは息も絶え絶えだ。だが、サニーはそれを調えるのもそこそこに立ち上がりまた便せんを見た。次の指示を実行するために。嫌だと我が儘をいう意思は既に失せていた。今の嘔吐はなおもこの恐ろしい行為を続けようとする意思に反発し身体が拒否反応を起こした結果だ。それも吐瀉物と一緒に全て吐き出されてしまった。紅い眼のサニー。そこにはもうサニーの自由意思は微塵も遺されていなかった。『言われた通りに実行し、さっさと終わらせる』社会の畜生じみた考えがサニーの頭を支配していた。
さて、次の指示は――
その後もサニーは便せんの指示を嘆き諦め、嗚咽を漏らし時に狂気にかられながらもこなしていった。結果、スターの身体は見るも無惨な姿に変わり果ててしまった。
その手の先にもう爪はない。十指抜爪、すべての爪はペンチによって無理矢理に引きはがされていた。床には十枚の小さな爪が血肉に塗れた形で落ちている。その指もまっすぐ伸びているものはすくない。幾本は有り得ぬ方向へひん曲がっている。一部、折れた骨の先が皮膚を突き破っているものもある。この有様ではこの後、治療を施されたところでまともにペンや箸を握ることは出来なくなっているだろう。
足もまた無惨だった。靴が新しいものに取り替えられている。最初に履いてきた小さな靴は部屋の隅に置かれていた。二足並んでいるが右足の方は何故か横に倒れている。それは問題ではない。問題なのは新しい靴だ。種別的にはサンダルが近いだろうか。外装はなく木製の靴底だけの簡素な作りの靴。問題なのはそれをどうやって履かされているか、だ。通常、サンダルは靴底に開けた穴にヒモを通し、それを親指と薬指の間や足の甲に引っかけて履く形をとる。けれど、スターが履かされているサンダルにはヒモなんてものは通ってなかった。五寸はあろう太く長い釘が足の甲を貫き、靴底代りの板に打ち付けられているのだ。それが右足には三本、左足には四本、突き刺さり靴底を押さえている。これでは脱ぐことも歩くことも出来ないだろう。
同じように足は特に重点的に激しい責めの痕がみられた。ガスバーナーで炙られた箇所は黒く炭化し、ひび割れた傷口から半透明の汁を垂れ流している。鍬で強く打ち付けられた脛は関節などない場所で曲っていた。そこから先は動かなくなってしまっている。太股には四、五本細く長い鉄パイプが突き刺さっている。パイプの内径は楊子が通る程度だろうか。それはただ突き刺されているだけではない。突き刺された後、そこには油が注がれ火が灯されていた。既に火は消えているが、火が消えるまで、つまり注がれた油が燃え尽きるまで小さく灯った蝋燭のような火はその熱を鉄パイプに、パイプはスターの身体に、抉った肉の内側に伝えていた。
上半身は下半身に比べればまだ軽傷と呼べる傷ばかりだった。最初の殴打による多数の打撲擦過傷意外にも切傷が幾筋も刻みつけられていた。ペティナイフでつけられた浅い傷だ。だが、問題はその切りつけ方だ。傷は闇雲にナイフを振ってつけられたものではなかった。
『ヒキョウ者』『汚ブツ』『クソ女』『ゴミクズ』『インバイ』『カス』『メスイヌ』『死ネ』『クサイ』『ビッチ』……
刻まれた傷はそんな罵詈雑言を書いていた。刻みつけた本人であるサニーは言葉の半分は意味を理解していない。ただ、例として便せんに書かれていた言葉を手書きの文章をタイプライターで清書するよう写しただけだ。それでも傷は早々治らず、その痕は必ず残るということは理解していたが。
「………」
次は、とサニーはボードの方へ顔を向ける。もう、声は出さない出せない。喉は渇き、身体は汚れ、精神は死にかけている。虚ろな光りのない目で便せんの文面を読もうとする。
と、その目にほんの僅か、闇夜にマッチを灯した程度の本当に僅かな光りが灯る。
指示が書かれた便せんがあとたった二枚だったからだ。その何かを二度こなせばコレは終わる。この悪夢のような時間も終わりを告げるのだ。
しかも、その内、次にしなければいけないのは最も簡単でスターに肉体的苦痛を与えないもの――尋問だった。大きな声で何かを言えばいい。それだけの簡単な仕事だ。それなら小休止のように拷問中、何度か行わされた。
ただ、今回のそして最後の尋問は少しばかり勝手が違っていた。尋問は基本的に罵り混じりの怒鳴り声で行い、まれに甘く優しげな言葉で取引を持ちかける。今度そのそれもそこから大筋は離れていない。ただ一つだけ勝手が違っていた。ここに来てまず最初に被せた袋を取り、猿ぐつわも外せと便せんには書いてあったのだ。
「………」
ジッと非道い有様のスターを見つめるサニー。その目には死にかけていた感情が甦りつつあった。ただし、喜怒哀楽の全てではない。その内の一つだけ。哀。更にそれを細分化した脅えや怖ろしさといった感情だけが甦ってきているのだ。何に脅えているのか。何を恐れているのか。答えは一つ。自らの行いにだ。
サニーは姉妹であるスターに仕方がなかったとは言え、度し難い程の蛮行を加えていた。一般人並みに暴力が苦手な彼女がそれを実行できたのはたんに“しかたがなかったから”だけではなく、スターの頭に被せられた袋と口を封じている猿ぐつわによるところもある。
人と人が殺し合う戦争。それに参加した人間の内、おおよそ98%は精神に不調をきたす。無論、いつ何時殺されるかも知れぬというプレッシャーによるところも大きいが、それ以外にも自分と同じ血の通った人間を痛めつけ傷つけ殺さねばならない、という事が酷いストレスになるのだ。
サニーもまた妖精とは言え人に近い精神をもっている。同族をましてや姉妹を痛めつける行為は当然のようにサニーに重篤なストレスを与えている。それでもなお拷問を続けられたのはスターの顔が隠され、声も封じられていたからだ。表情と声は相手を認識する重要な要素だ。それを隠せば対象が誰なのかという認知度は格段に下がる。顔を見ず声を聞かないことによってサニーはスターの身体をただの肉塊だと思えたのだ。
いや、それは正しいが間違いでもある。サニーが恐れを抱いたのはそんな理由ではない。その加護が受けられなくなるからではない。糾弾を、封じていた表情を、押さえていた口を解き放った時、どのような顔で姉妹が自分の顔を見るのか、それを恐れたのだ。
「………」
椅子に縛り付けられたままの無残な姿の姉妹を見つめながら一歩も動かないサニー。その喉がゴクリと鳴る。拒否の現われ。短い人生の中でサニーは自分が嫌なことは全て忌避してきた。面倒臭いこと、辛いこと、面白くないこと、すべてやってこなかった。今まではそれで大丈夫だった。所詮は妖精。そんな人生を送っていても何も問題はなかった。
だが、ここにきてそれは赦されない状況になっている。現在行っている全てがサニーにとって辛くきつくそうして苦しい事だ。だが、やらない、という選択肢は絶対に取れない状況。
人生には往々にして自分の能力以上のことを求められることがある。
この場合は精神力だ。サニーの子供じみた心では到底、姉妹の凄惨な目にあわされた顔――それが怒りであれ嘆きであれ絶意であれ、直視しようとは思えないだろう。それは何十キロの大荷物をもって山を登ったり、国家資格に合格するような到底無理難題なのだから。
だが、それでも…
「す、スター、袋、とるよ…」
それでも殺されるよりはマシだ、そうサニーは思い、便せんの通りにする。
スターの後ろに回り込み、袋に手をかける。掴み、そうしてすぐに上げないのは未だに決心が付かないからだろうか。それでも時計の秒針が五度ずれる程度の間を置いてサニーは袋のヒモを解き、それを外した。次いで猿ぐつわも解く。固く結ばれた猿ぐつわを取るには手間取ったが、それも外すことが出来た。袋と猿ぐつわの両方はその場に投げ捨てる。
そうして、
「す、スター……」
「あ、ああぁ」
ひっ、と姉妹の顔を覗きこんでサニーは悲鳴を上げた。そこにあったのは腐りかけの果実だった。膨れあがった顔。青黒い痣。流血。スターの顔はまさしく収穫を忘れられ地に落ちるまで放って置かれた果実のそれだった。目蓋は腫上がり、片方の目を完全に覆っている。まだ、開けられる方の目も泣きはらしたのであろう、涙の痕と充血がみられた。夜空を思わせる黒い髪は今や無惨比乱れに乱れ、一部、血糊で固まっている処もある。頭部の何処かしらを切ったのだろう。眉間から赤く固まりつつある血の痕が首筋まで伸びていた。口が閉じられなかったせいだろう。下あごには唾液の、鼻の下には洟の汚れがこびり付いている。意識はあるはあるのだろうか。袋を取り猿ぐつわから解放されても反応らしい反応を示していない。呻るような声だけを途切れ途切れに発しているだけだ。息はしているもののその勢いは弱く、リズムは不安定だ。ともすれば生っている木から落ちそうな――止ってしまいそうな弱々しさをみせている。
「スター、大丈夫…大丈夫?」
恐る恐るスターに声をかけるサニー。その声に反応したのか片方の目だけをサニーに向け、ああ、ともうう、とも付かぬ声を漏らし始める。まだ、意識は何とかあるようだ。
「さ、さにぃ…」
虚ろだったスターの目に少しだけ感情の火が灯る。けれど、それは不安の感情だ。巣から落ちたひな鳥のような、そんな視線をサニーに向ける。ああ、自分はなんてことをしてしまったんだ、と姉妹にこんな顔をさせてしまうなんて、とスターは酷い自己嫌悪にかられる。同時に早く終わらせて楽にしてあげなくてはという姉妹の愛情も。
「安心して。大丈夫。大丈夫だから」
「ううっ…た、たすけて…」
「うんうん、もう大丈夫。あと一回で終わるから」
え、とスターの焦点がサニーに定まる。信じられないものを目にしたように。その瞳にはそびえ立つような驚きがあった。
「サニー…?」
「あと一個したら、終わりだから。もうちょっとだから」
ほら、とボードに貼られた便せんのうち、最後の一枚を指さすサニー。片目が塞がれてしまっているスターにはそれは読めなかった。けれど、スターはああ、と嘆息を漏らすと打ち震えた。
「なに、なんで…」
「あとたった一回で終わるんだよ。だから、もう少しだけがんばって…わ、私もガンバルから」
顔を強張らせカタカタと震えるスター。その目には今まで以上に深い、冬の湖畔のような絶望が浮き始めていた。
「む、無理…もう、無理…やめて……サニー…お願い…」
「何言ってるのスター。あとちょっとで終わるのよ。終わったらさっさと帰ろうよ。こんな所から。ね、ね」
呂律が回っていないのか、上手くスターは喋ることが出来ない。けれど、その意思は他人には十分に伝わるはずだ。助けてくれ、これ以上は無理だ、という意思は。けれど、それはサニーには届いていない。届かない。
「だから、じっとしてて」
「嫌ッ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲痛な叫びが室内に響き渡る。そんな力、どこに残っていたのだろう。スターは喉が裂けるような勢いで叫んだ。
「っ!? 暴れないでよスター」
「嫌ッ! 嫌ッ! 嫌ッ! 助けてッ! ルナッ! 霊夢ッ!!」
親しい人物の名を叫び、助けを求めるスター。悲しいかな。壁と分厚い扉に覆われた部屋の中でいくら叫ぼうとその声は誰にも届かなかった。
そうして、同じ部屋の中にいる唯一の人物は、
「っ――じっとしてよスターっ! すぐに終わらせるからっ!」
その声を聞き激昂にかられたよう、負けじと声を張り上げる。椅子に拘束されながらも激しく身体を揺らすスターを押さえつけ、怒鳴りつける。
「やめてっ! やめて! 無理! もう無理! 死ぬ! 死んじゃう! やめて! やめてよ!!」
「だから、しなきゃ、しなきゃ殺されちゃうんだよ! だ、大丈夫! 上手くやれば死なないって言ってたもん! だから、我慢してよ!」
「いやっ! いやっ! いやっ! いやっっっ!!」
「いいかげんに…っ!」
叫び声と怒鳴り声が谺する室内に乾いた音が混じる。サニーが泣きじゃくり頭を振うスターの頬を叩いたのだ。まるで聞き分けのない姉妹を暴力で脅しつけるように。
否
「しろッ! 黙れよ! ああ、もう、口の外すんじゃなかった! 五月蠅くてかなわない! 私は! 私はスターの為にやってるのに! スターはぜんぜんその事分かってない! バカ! バカ! スターの大バカ!」
「さ、サニー…ッ、ぐっ! 痛っ!」
「バカバカバカ! 静かにしてよ! しろよ! 黙れよ! ねぇ、なぁ、スター、スター、スター、スターサファイアッ!!」
本当に暴力でもってサニーはスターを自分の支配下に置こうとし始めた。顔を叩き、怒鳴りつけ、握り潰すような腕力で身体を押さえつけ、精神的に優位に立とうとしていた。便せんの指示に従い、スターを拷問してきた結果だった。椅子に縛り付け上げた姉妹を一方的に傷つけていたためにサニーは自分はスターよりも立場が上だと錯覚し始めていたのだ。それを確実なものにするために、サニーはこれまでやってきた拷問のおさらいのように、便せんの指示に従わずとも手慣れた様子でスターを痛めつける。
顔に唾がかかるような勢いで怒鳴りつけ、いきなり思いだしたようにその体に打撃を加え、心を折るよう痛めつける。
「いいよいいよいいよもう! かってに! かつてにやるから! どうせ、サニーはそこから動けないものね。縄を解いても、ね」
「やめて…やめてよ…ねぇ、サニー」
スターの声は再びしおれた花のように弱々しいものに変わってしまった。いや、仮に普段通りの活力があったとしても今のサニーにその声が届いたかどうかは疑わしい。怒り肩で、最早、スターの言動は一切気に留めん、と宣言するよう勢いよく踵を返し、道具置き場へ向かうサニー。その中から腰掛けにも使えそうな大きな丸太を見つけるとサニーはそれを横に倒し転がし始めた。重すぎてサニーでは持ち上げる事ができないからだ。転がした丸太は、スターが座る椅子の前で再び起こす。次いでスターはサニーの足を縛り付けているロープを外し始めた。拘束を全て解いて逃がそう…という訳ではないだろう。解いたのは骨を折ってある片方の足だけで、どうやってもスター自身の意思では動かなくなってしまった足をサニーは転がしてきた丸太の上に乗せた。
「な、何するの…?」
スターの質問を無視し、再び道具置き場へ行き、今度の『課題』に使う道具をもってくる。その道具も重く、サニーはそれの柄を握ってタイルの上を引きずってもってくるしかなかった。カタンカタンカタン、と耳障りな音が部屋の中に響き渡る。タイルの目毎に分厚い金属が床を叩く音。スターの前まで戻ってきたサニーはかけ声と共にそれを振り上げた。蛍光灯の白い光を受け鈍く輝く切っ先。
「ねぇ、何しようとしてるのよぉ!!」
「今から…それ、足、を、切るから。切って、落すから」
振り上げられたそれは斧だった。長い柄の先に分厚い鉄塊を叩いて伸ばし磨いだだけの刃がつけられているだけの代物。飾り気のないまさしく道具と言わんばかりの斧だった。
スターは自分の血の気が失せていく音を確かに聞いた。驚き絶望し、事実を確かめようと便せんを見やる。張り付けられた何枚もの便せん。確かにその最後の一枚には四肢の切断、とあった。
「やめて…そ、そんな事したら本当に死んじゃ…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
躊躇いなどなかった。
ブン、と空を裂き、稲妻の勢いで振り下ろされる分厚く鋭い鉄の刃。本来は丸太を真っ二つにするための道具が丸太の上に乗せられたスターの足の上に落ちる。
「ぎ、や…!」
打撃音に混じる叫び声は予想に反し小さいものだった。足に受けた斧の衝撃は凄まじく、その作用でスターの体中の筋肉が強張ったのだ。悲鳴を上げようと脈動した声帯も息を吐こうと縮んだ横隔膜もそれで動きを阻害される。が、止っていたのはほんの一呼吸の間。遅れて水道の蛇口を命一杯開いたように大きな悲鳴が漏れる。
「ひゃ、ああ、あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「んっ、ああっ!!」
怒りに顔を歪ませるサニー。怒りの原因はスターの叫びではない。振り下ろした斧はスターの細い足の半ばで止ってしまっていたのだ。サニーはこの一振りで終わらせるつもりだった。だが、降り下ろし方が悪かったのか、それともサニーの腕力が足らなかったのか、断ち切ろうと思った位置が悪かったのか、刃は腿の肉を半ばまで裂きはしたものの骨の処でぴたりと止ってしまっていた。
「畜生! 畜生!」
斧を傷口から引き抜くサニー。途端、大量の血が流れ出し丸太を紅に染め上げる。だが、スターはその重大さに気がつかない。血の付いた斧を再び振り上げると、今度こそはと勢いをつけて振り下ろした。
「ぎゃッ!!!!!!!!!!!!!!!!????????」
振り落とした斧はまっすぐ落ちず、スターの膝の皿をたたき割ることになる。最早、声になっていないスターの叫び声。体中の筋肉は自壊しそうなほど強ばり、軋み声を上げる。
「クソッ!」
「いぎゃっ!?」
舌打ち。再び斧を振り上げ、振り下ろす。
「うわぁぁっ! ああっ! あああっ!! うぉぉ!」
「ひぎゃっ! ぎやぁ!! ぐわっ! あぐわっ!!」
それを繰り返す。足は元が何の部位であったか分からぬほど血肉と骨片の混じったものになりはてる。鉄塊が振り下ろされる度にそれが更に混じる水っぽい嫌な音が響き渡る。衝撃に飛び散る血。びしゃり、とスターの顔に赤い斑点がつく。流れ出た血の大半は丸太に吸い込まれ、そうならなかったものは床に広がる。タイル目にそって流れていく赤い血。
「うわぁぁぁぁ! あぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁ! あぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
絶叫のデュエット。姉妹故だろうか。その叫び声は綺麗に重なっていた。それ意外に聞こえるのは振り下ろされる鉄斧の衝撃音だけだ。発狂しそうな音源。狂乱と絶望を奏でる。そうして、
「はぁっはぁっはぁっはぁ…」
ごろん、びちゃり、と血溜まりに足が落ちた。スターの足が。
「はぁはぁはぁ…や、やった…」
肩で息をしながらぽつりと呟くサニー。その様子はまさしく満身創痍だ。長距離を走り終えたランナーの様にだ。立つこともままならないのか斧を杖代わりについてそれに体重を預けている。だが、その顔には物事をやり終えた一抹の喜びがあった。
「す、スター、これで終わりだよ。これでゆうかもゆるしてくれ…」
「サニー…」
喜びを分かち合おうとサニーは姉妹に声をかける。返事は今にも消え入りそうな小さな声だった。見ればスターはまるで眠りにつくほんの一瞬の様に気怠げにサニーを見ていた。雪よりも白い顔で。そうして、瞳には光りがなく、何の感情も見いだせなかった。まるで古びた鏡のような無機質さしかなかった。
「スター? スターっ、スターぁ!!」
声をかけるが返事はない。返事はしない。返事は出来ない。椅子に括り付けられた姉妹はもう息をしていないのだから。
「スターっ! スターっ! スターっ!!」
それに気がつかずサニーは姉妹の肩を揺さぶり、聞こえてないと思い大きな声を張り上げる。だが、タイル張りの部屋に谺する声は虚しいだけだ。聞くものは自分以外誰もいない。
「あぁ、残念。失敗したみたいね」
いや、そうでもなかった。分厚い扉が軋み声を上げて開け放たれると共にそんな嘲笑混じりの声が上がる。はっ、と振り返るサニー。はたしてそこにいたのは…
「ゆう…か…」
向日葵畑の笑顔/血と暴力と被虐の化身。風見幽香だった。断頭台の刃が如き笑みを浮かべ、優雅ともとれる動作でゆっくりと部屋の中へ入ってくる。そのままざっと、サニーを、そして動かなくなったスターを見やってうんうん、と頷いてみせる。
「惜しかったわね。んー、最後の最後でちょっと手順を間違えたみたいね」
ボードに貼り付けられていた便せんの最後の一枚を取って、それをサニーに見せる幽香。その便せんの最後には署名がしてあった。“風見幽香”と。
「な、なに…?」
もう、文面を読む気力もないのかサニーは考えもなしに問い返す。質問されたことが嬉しかったのか幽香は微笑む。
「ここに書いてあるでしょ。『切り落す前にはしっかりと足の付け根を縛りましょう。出血死を防ぐためです』って」
幽香が指さした箇所には確かにそう書いてあった。革紐、ゴムチューブ、針金等で出来る限りきつく縛る、ともある。びちゃり、と幽香の足が床に広がっているスターの血を踏みつける。この血は水を入れた袋に切り込みを入れたも当然の結果なのだ。切り落す箇所より上を縛り付けておけば袋の中身が全て流れ出すことはなかったろうに。
ああ、と嘆息を漏らしてサニーはその場に膝を付いた。スカートの裾をスターの血で、自らの失態のせいで多く流れ出てしまった血で汚してしまうのも構わずに。
「上手くできたら、全員、殺さないであげる、って言ったけど貴女みたいなおつむの弱い妖精には難しかったみたいね」
膝を付いたサニーの肩に手を置きながら慰めるような言葉をかける幽香。だが、その顔にはサディスティックな笑みが貼り付いてる。
「ほら、お姉さんのお手本みたいにすればめちゃめちゃにしても死なないのよ」
言って幽香は指さした。今し方、自分が入ってきた扉の方に。扉は開け放たれている。扉の前。薄暗い廊下には椅子が一脚、置かれており、そこに妖精が一匹腰掛けていた。それが誰なのか見取って、サニーは小さく呟いた。
「………ルナ」
そこにいたのはもう一人の姉妹、ルナチャイルドだった。だが、サニーがその妖精がルナだと気がつくには一拍ほどの間があった。切望の余りサニーの頭が働かなかったためではない。椅子に“座らされてるモノ”がルナだとは一目で分からなかったのだ。
その身体には漏れなく暴力の痕が刻まれていた。ドス黒く内出血さえ起こしている青痣。今なお血を静かに流し続ける裂傷。針でつつけば破裂するのではと思えるほど腫上がった部位。それらの傷はまだマシな方だろう。
ルナの側頭部には耳が付いていなかった。両方とも根本から綺麗に削ぎ落とされている。鼻もメリケンサックを嵌めた手で殴られたのだろうか、正確に四角く凹んでいた。
左目の目蓋はピッタリと閉じられていた。見ればにかわのようなものが閉じた目蓋の間から流れ出ている。接着されているのだ。逆に右の目は開かれっぱなしだった。否。閉じるべき目蓋が存在していないのだ。鋭利な刃物で右目の目蓋は切り落されてしまっていた。剥き出しの眼球が今にも落ちそうに、辛うじて眼窩に収まっているだけだった。
唇には長い針が上下を貫いて差し込まれていた。返しが付いているのか唇は開け放たれている状態になっている。その口内もまた血塗れだ。殴られて口の中を切った…だけでは済まないだろう、この出血量は。歯が抜かれているのだ。二十本全てが。抜いた歯は膝の上に置かれていた。
打撲と裂傷が刻みつけられた身体は何も身につけていなかった。代りにこれが服だと言わんばかりに胸や局部は皮と肉を削がれていた。遠目に見れば下着に見えるような形で、血塗れの筋繊維が覗いている。
四肢の内、無事なものは一つもなかった。右手の五指はすべて肘掛けに釘で打ち付けられていた。左の手は何かを握りしめたままの形になっており、重度の火傷を負っていた。赤熱した石炭を握らされたのだ。左の足――脛の部分は白く細くなっていた。比喩ではない。皮を剥ぎ脂肪を削り、筋肉を取り、骨だけが残るようにしていた。足首より下だけが靴を履いているように残っている。右の足は膝の付け根辺りで切断されてた。傷口のすぐ手前には針金が貴重な荷物を梱包するようにきつく巻かれている。腿の断面からは僅かに血が滲み出しているだけだ。
そして、それだけ凄惨な様でありながらルナは生きていた、生かされていた。半開きの口からは酷く聞き取りにくいが「殺して、殺して」と死体安置所に反響する靴音じみた暗い言葉が繰り返し呟かれていた。
「あの足なんて苦労したんだから。あのこの前に姿見を立てて切りすぎないように少しずつ切り落していったのよ。ああ、切り落したお肉はランチにもしてあげたわ。泣いて喜んで『おいしい』って言ってたわよあの子」
幽香はどのようにしてルナにアレを施したのか一々、サニーに説明していた。だが、当然、サニーは一言も聞いていなかった。絶望と虚無に心が支配されていく。どうしてこうなった。どうしてこんなことになった。アレだ。幽香に頼まれた“お花”の配達を失敗したからだ。その罰だ。
『失敗したのは自分のせいじゃない? そう? だったら、貴女が失敗してないということを証明してみなさい』
成功すれば全員、生かして返してあげる、と幽香は言った。失敗せず、言われたことをきちんと出来れば。その証明に幽香はサニーにスターを拷問するよう命令したのだ。直筆の手順書を渡して。その結果は――だったが。
「でもまぁ、貴女、結構筋がいいわね。“運び屋”より“掃除屋”の方が向いてるんじゃないの? ああ、そうだ。だったらきちんと私が手取り足取り教えてあげるわ。それがいいでしょ。ね。だから、」
「!?」
不意に来た衝撃にサニーは驚く。気がつけばサニーは椅子に座らされていた。スターが座らされていた椅子にだ。スターの亡骸は無造作に投げ捨てられていた。立ち上がろうと力を込めるが何かがそれを拒んだ。ぎっ、と軋み声を上げたのは太いロープだ。一体いつの間に縛り付けられたのだろう。サニーの四肢はスターと同じく椅子に括り付けられてしまっていた。
「自分で体験してみましょうか。まずは足から」
言って幽香はしゃがみ込むと、サニーの靴を脱がせまるでゆで卵の殻でも剥くような動作で親指の爪を剥ぎ取った。ぎゃっ、とサニーは悲鳴を上げる。
「拷問、特に激しいものはまず足から行うのが基本。心臓から一番遠く、出血の量を調節しやすいから。後は逃げ出すのを防ぐためね。足を潰しておけば歩くことも走る事も出来なくなるから。まぁ、ここの住人は空を飛べる奴が多いからあまりその意味はないけれどね」
優しげな口調で説明する幽香。『拷問』のお勉強は始まったばかりだ。
END
あけおめことグロ〜
さて、このSS作成に当たり、サニーミルク研究の第一人者として名高い紅魚群氏に助言を求めました。
以下にその際のやりとりを記載します。
sako@sakosako01
@akagyogun0 ぎょぐんさん、ぎょぐんさん、しつもんよろしいですかー
紅魚群@akagyogun0
@sakosako01 どーしたの?
sako@sakosako01
@akagyogun0 サニーちゃんはじがよめますか?
幻想郷の識字率を上げている方ですか?
紅魚群@akagyogun0
@sakosako01 サニーちゃんは字が読めません。ルナとスターは難しい漢字意外は読めるよ。普通は妖精でもひらがなくらいは読める子が多いかな。サニーちゃんも一時期文字を覚えようと頑張ってたけど、どうにも駄目だったので諦めたみたい。
sako@sakosako01
@akagyogun0 アホな子や…
お母さん泣いてそう。
sako@sakosako01
@akagyogun0 とりま、ありがとうございました。
結論→そもそもサニーは便せんの字が読めませんでした。優しい幽香お姉さんはルビまで振ってくれたというのに。アホの子や。つうしんぼみたお母さん泣いてたぞ。
sako
http://www.pixiv.net/member.php?id=2347888
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/01/26 14:04:45
更新日時:
2013/01/27 11:18:45
評価:
11/15
POINT:
1210
Rate:
15.44
分類
サニーミルク
拷問
と、そんな冗談は置いておいて、普段全くしたことの無い者が身内に対する拷問を強いられる状況。
男と女で強姦を強いられとかは結構ありますけれど、子供同士でこういう事をさせられるというシチュはなかなか新鮮で面白かったです。
とはいえ脅されてとは言っても仮にも親友だった者をここまで痛め付ける事が出来るサニーちゃんは幽香の言うとおり才能があるのかも知れませんね。
唯一個人的に少しだけ残念だった点は拷問を強いられるという状況に置かれたサニーちゃんの描写に重点が置かれてスターの様子が袋と猿轡で知れなかった点ですが、これはそもそもそういう話では無いので仕方ないかな。
長さとしてはあっさりしていたものの、今までにない面白さのあるssでした。
僅かな例外で『実演』して見せれば、残り全員が『学習』するから。
これは、アレですね。ゆうかりんがヘタこいた下っ端の三人『全員』に『指導』を行ったのですか。
最初は理不尽な拷問物かと思いましたが、後書きを読んで、メモ書きに読み飛ばした箇所がかなりある事を確信しました。
まあ、死んで地獄に堕ちるか、『約束』を守られて生き地獄を味わうハメになるかの違いだろうけど。
このSS、よくよく読めば、複線がふんだんにありましたね。
彼女達、身の丈にあった、お馬鹿な妖精として暮らしていれば、こんな目に遭わなかったものを……。
今回のSSは、教育現場の体罰に対する風刺か?
手に汗握る、ステキなお話でした。
誤字報告:どうせ、サニーはそこから動けないものね。→動けないのはスターですよね?
サニーがスターで拷問の勉強した後に、今度は一回休みの後でスターがサニーで拷問の勉強をする。これを繰り返すうちに、お互いはじめは強制されていたとはいえ、次第に拷問でやられた痛みや恐怖が恨みや怒りに変わり、段々手際もよくなり遠慮や容赦とは無縁の思考を持ち始める。そんな二人をただ眺めることしかできないルナチャイルド。
まで幻視した。
仲間を痛めつけるという拷問も実に味わい深い。
ご馳走様でした。
親しい人を嫌々に拷問するシチュ、非常に興奮いたしました。発狂寸前になりながらも、ある意味躊躇いなくスターちゃんを拷問するサニーちゃんの姿はとても可愛らしかったです。クズというより、サニーちゃんの心の弱さがすんすんと伝わってきました。文章面でも感情や状況の描写が分かりやすく、声が聞こえてくるほど物語にのめり込んでしまいました。こんな儚いサニーちゃんに酷いことするなんて、幽香さんは本当に賢いお方やでぇ…。
ビバサニーちゃん。万歳サニーちゃん。こんなにも素晴らしく可愛らしい作品を、ありがとうございました。
(なんというか、私の助言は役にたったのだろうか…。
光を屈折させる、一芸だけでは生きていけ無いかもです。
これをきに、拷問のスキルを自らの体で覚えていくのですね。
幽香のおかげで、将来スターはビックになるかも知れませんね。
華麗に転身デビューを果たすのですね。
何でこんなに駄目な子なのか。どうしてこれほど馬鹿な子なのか。
サニーちゃんだからという答えにしか行き着かないそのトートロジーが素晴らしい快感なのです。