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『やったね布都ちゃん命蓮寺全焼したよ!』 作者: 隙間男

やったね布都ちゃん命蓮寺全焼したよ!

作品集: 6 投稿日時: 2013/02/10 19:40:56 更新日時: 2013/02/11 04:40:56 評価: 7/7 POINT: 590 Rate: 15.38
彼女を殺すため、青娥は常に最善を尽くしてきたつもりだった。
一度目は猛毒であるトリカブトから抽出した毒素を彼女の湯のみに混入させたが、口につける直前で寺のものが毒に気づき、青娥の目論見は見事に阻止させられてしまった。
次に試みたのは、風説の流布による里からの信頼の失墜。しかし既に命蓮寺の妖怪達は先手を打っていたらしく、青娥が流した嘘は里の人々には通じなかった。それどころか邪仙としての本質が里の人々に露見してしまい、逆に自身の信頼を失墜させてしまうという結果に終わったのだった。



「どうしていつもこう不発に終わってしまうのかしら……計画は完璧のはずですわ!」

そう言いながら盃に並々と酒を注ぐ青娥。自身が考案した計画が2度も潰れてしまって不機嫌のようだ。彼女が発する負のオーラは隣にいる布都や屠自古の肌をピリピリとさせた。そんな中、屠自古が口を開く。

「これ以上青娥が動くことはできないのでは?里からの信頼を欠いた以上寺に近づくこともままならないと思うのだが……」

それは正論だった。今迂闊に外に出歩けば、巫女に退治されてもおかしくはない。こうなった以上、青娥はおとなしくせざるを得ないだろう。屠自古の発言に対し、酒に酔い、赤らめた顔で青娥が頷く。それを確認すると同時に今度は布都に話を振った。

「そこでだ。布都!お前が行動を起こすのだ」

あまりにも突然言われたので、ビクッと肩を震わせる布都。それは、彼女にとってはあまりにも意外だったのだ。

「いやしかし屠自古……なんで我なのだ?適任者は他にも居そうな気がするんだが。ほら、キョンシーとかキョンシーとかキョンシーとか……」

「キョンシーしか言ってないじゃないか。それにいきなり寺の墓場に芳香を置いた所で怪しまれるだけだ」

「では何故我が……?」

「一番アホっぽくて、油断させて潜入させるのに持って来いだからだな」

「ひどい!ひどいぞ屠自古!まさか同じ釜の飯を食った友人にこんなことを言われるなんて!」

涙を浮かべながら布都が大声で屠自古に怒鳴りつける。とはいったもののそれは迫力がなく、屠自古にとっては可愛いとも思えるものだった。

「お前との場合『友』じゃなくて『宿敵』な?壺をすり替えるような奴に友と呼ばれたくないぞ」

そう言うと屠自古はごそごそと物置を漁り始め、一着の服を用意し始めた。特に華やかな模様も無く、没個性的な服だった。屠自古はそれを布都に投げ渡した。

「なんじゃ?このみずぼらしい服は。これを我に着せるというのか!」

「……まさかその服で潜入するとか思っていないだろうな?」

「えっ?だめなのか?」

「当たり前だろう……門前払いをくらって終わりだよそれじゃあ。ほら早く着ろ。そしてあの寺に潜入して二度と帰ってくるな」

「ひどい!この外道!」

布都と屠自古がギャーギャーと喧嘩しているのを、引きつった笑顔で神子が眺めている。喧嘩自体は微笑ましいものだったが、これからすることを考えると頭が痛くなってきたようだ。神子にとって、妖怪云々は置いておいても、命蓮寺は邪魔なものだったがもう少し平和にことをおさめたかったのだ。

(正直これ以上揉め事起こしてほしくないんだよなぁ……私まで里に出歩けなくなってしまいますし。それに、そんな安易な案が成功するとも思えない。…………まあ、一回布都にも痛い目を見てもらったほうがいいのかもしれないわね)

そんな中、青娥が屠自古に話しかける。

「しかし屠自古様、中々の名案ですわね」

「ん、思いつきだが。と言うか寺の中で自滅してくれれば嬉しい」

「何気にひどいことをおっしゃるのですね……。物部様は考えて動くタイプではありませんわ。しかし、私よりきっとうまくやってくれるはず……しかし心配なものは心配ですわね。影から様子を見守りましょう」

「はぁ……」





命蓮寺は人里のはずれに建っている。妖怪寺が人里の近く建っていることに対して、常々青娥は不満に思っていた。このような場所に妖怪の溜まり場が存在すれば人々は心配で夜も眠れないだろうというのが彼女の考えだった。
そして現在、命蓮寺に近い場所で、青娥は布都を送り出していた。ここまで来れば布都も迷うことは無いだろうとのことらしい。

「それじゃあ、がんばってくださいね〜」

「青娥、本当に寺の中に入って大丈夫なのか?」

「ええ。大丈夫ですとも……物部様は今日一日適当にあの僧侶の話を聞き流してやり過ごしてくだされば問題ありませんわ」

「それに、今の格好ならかの物部布都と気づかれることは無いでしょうしね」

「……早くこのみずぼらしい格好から解放されたいのう」

「まあ致し方ありませんわ。あのような装束だとすぐにこちらからの刺客だとばれてしまいますし……」

「なら仕方ないのう……青娥よ。必ず憎き白蓮と寺の輩を仕留めてくるから、期待して待ってるのじゃぞ!」

「ええ。期待してますよ物部様……」

命蓮寺へ向けて歩を進める布都の背中を、青娥は手を振りながら見送った。

(ところで我は結局どうすればいいのじゃろうか……?青娥は『やり過ごす』と言っていたし我の『仕留める』に何の反応もくれなかったぞ。……まあ隙を見つけて上手いことやれということじゃろうな)

(下手に指示を送ってもあまり意味が無いでしょう。彼女と周りの行動に合わせて私達も動きましょうか……)





「ここが命蓮寺……中に入るのは始めてじゃな」

そう言いながら寺の門をくぐると、一人の妖怪が声をかけてきた。犬のようなたれた耳と緑色の頭髪が特徴的な妖怪、幽谷響子だ。

「おはよーございまーす!!」

突然、しかも大音量での挨拶にビクッとする布都。それこそ耳元で叫ばれでもすれば、鼓膜が破れかねない音量だった。

「な、なんじゃお主!いきなり大声で怒鳴るとは、何事じゃ!!」

すると、彼女は目を丸くしてきょとんとした。そして、まるで常識が無い子供を見るかのような目で布都に語りかけた。

「命蓮寺の戒律『挨拶は心のオアシス』をしらないのかしら?ここでは挨拶するのがルールよ!」

「ほほう……挨拶か……それでは我も挨拶を返そうか」

そう言うと布都は何か変なことを思いついたらしく、不気味な笑顔を響子に向けた後

「こんにちはーーーーーーーー!!!!!」

と大声で叫んだ。あまりにも耳元に近い場所で叫ばれたので、ショックで呆然としている。というよりも白くなってる。

「もう昼じゃぞ。『おはようございます』はおかしかろう」

そう言いながらケタケタ笑い、寺の中へと歩を進めようとする布都。すると、先ほどの大声を聞きつけてか、寺の妖怪が続々と集まってきた。

「何だい今の大声は。響子の仕業でも無さそうだが……」

「見てくださいナズーリン。あそこの彼女、見ない顔ですね」

「入門希望者だろうか……。話しかけてみよう」

そう言うと、ナズーリンが布都に向かって近づきてきた。

「やあ。入門希望者かい?」

「う、うむ……まあ……」

「そうかそうか。ご主人様。やっぱり入門希望者のようです」

「ナズーリン、ご苦労様です。……見かけない顔ですね。里の方ですか?」

ここにきて布都は自らの、そして青娥の犯した最大級のミスに気がついてしまった。屠自古が用意したみずぼらしい服だけではごまかしきれないことに。そもそも妖怪寺に里の人間が入るという行為と設定自体に無理があったのだ。しかし布都は諦めなかった。この状況を打破するための策を瞬時に練ろうとする。

(……里の人間では誤魔化しきれない。かといって適当な妖怪名を挙げればバレてしまうじゃろう……どうすれば……)

「どうしましたか?もしかして貴方の口からは言えないような……」

「い、いや、そういうわけじゃないのじゃ!」

しかしあくまでも策を『練ろうとした』だけなので都合よく進むわけがなかった。星の問いに対して言葉を詰まらせる布都。

(……凄まじく怪しまれているぞ。そうだ、こんな時は!)

「さ、最近外の世界からこっちに来たのじゃ!生前は悪霊だったのだが、彷徨っているうちにどうやら妖怪へと成り果ててしまい、そうこうしているうちにここへたどり着いたのじゃ……」

「……そうなのですか。可哀想に、悪霊ということは相当つらい過去があったのでしょうね……」

そう言いながらうっすらと涙を流す星。どうやら布都の策は有効だったらしく、見事に騙されてしまったらしい。

「ご主人様……」

さらには運良く、疑り深そうなナズーリンまで騙し切ることができたようだ。

(しめしめ……我ながら嘘をつくのが上手いのう。しかしこんなすぐにバレるような嘘に騙されてしまうとは。やはり馬鹿な連中のようじゃな……)

「私は寅丸星。命蓮寺に来たからにはもう安心してくださっていいのですよ。そういえばあなたの名前を聞いていなかったですね」

「ふ、布都じゃ……」

(名前まで考えていなかった。まずいぞ……)

「布都……ですか。はて、どこかで聞いた名前ですね。名字を教えて下さい」

「わ、我の生まれは貧しい農民で、名字を与えられていなかったのじゃ……」

「そうですか……私の頭に浮かんだ人物とは違うようで安心しました!さあ、一緒に寺の中で温まりましょう」

「あ、ありがとう……星とやら」

「いえいえ、寺の者として当然のことをしたまでですよ!」



寺の中は布都がイメージしているものと違い、清潔感あふれる空間だった。青娥から常日頃教えられていたものとは違ったので、布都は少々驚いた。『命蓮寺は人を常食とする凶悪な妖怪と、それが発する悪臭と汚物にまみれているのです』とは大嘘だったようだ。一体何故、青娥がここまで命蓮寺に対して敵対心を持つのか少しわからなくなってきた。

(敵地で学ぶこともあるのじゃな……。青娥の言っていることだけが真実というわけではないということだろうか)

命蓮寺の廊下を歩きながら、考えこむ布都。思慮に耽っているらしく、先導する星が見えなかったようだ。星の背中にぶつかり体をよろめかせる。

「大丈夫ですか?」

一人の女性が布都に声をかけた。星より頭一つ分背が高い彼女の差し出した手を握り、立ち上がる布都。

「ありがとう。お主はなんと申すのじゃ?」

「私は聖白蓮と申します。この命蓮寺の住職をやらしていただいてますわ」

(こやつが白蓮……青娥が目の敵にしているという。確かに凄まじい迫力じゃ。青娥が勝てないのも頷ける)

実際の所、青娥と白蓮が直接対決したことは無かったのだが、どこかで布都は勘違いしているようだった。青娥が直接対決を好まないタイプであることから、薄々何処かおかしいとは思っているようだが。

「白蓮殿か……これからよろしく頼むぞ!」

そう言って再び手を差し出す布都。

「ええ。こちらこそよろしくお願いしまいますね」

ニッコリと笑って差し出された手を握り返す白蓮。こうして布都の命蓮寺での1日が始まった。



人里のとある茶店で談笑する二人の少女。村紗水蜜と雲居一輪だ。彼女たちは夕飯の買い出しに人里まで来ているらしく、ちょうどその帰り道で一服しているらしい。

「……ねえ村紗。あの新しく入門した子、おかしくないかしら」

「おかしいっていうのは例えば?」

「あ〜……貴方も気づいていないようね。なんで皆あんなに違和感バリバリなのに気づかないのかしら。口調よ……」

「口調?」

「ええ。あの子の口調はどう考えても農民の出がするものじゃないわ。奈良時代……それよりも昔の、飛鳥時代の貴族豪族の口調よ」

そう言うと村紗は少し考えこむような表情をした。数秒の沈黙のあと、口を開く村紗。

「飛鳥時代……豪族?まさか……!」

「やっと気づいたのね。そういうことよ」

「しかし何故今更こんな……」

「わからないわ。それに、彼女一人で何かできるというわけでも無さそうだし、下手に刺激しないほうがいいかもしれないわ。ここで下手に手を出したら、戦争になりかねないわよ」

「そうね……しばらく静観しておいたほうが良さそうだわ」

そう言うと、村紗と一輪は立ち上がり、命蓮寺への帰路についた。しかししばらく歩を進めると、背後に忍び寄る怪しい気配に2人は気づいた。

「誰だ!」

「私ですわ……。ごきげんよう〜」

「お前は!」

「ええ。2回ほどあなた達にお世話になっていますわ」

「で、寺に刺客を送り込んでくるなんていい度胸ね。ますます貴方が考えていることがわからないわ。戦争でも起こす気かしら?」

その問に対してクスクスと笑みをこぼす青娥。その顔は不気味に歪み、2人に恐怖を与えるのには十分すぎるほどだった。

「っ……何笑っているのよ!」

「戦争?そんなもの起こす気ありませんわ?私が欲するのは、人間の権威の回復。そして望むは、幻想郷を豊聡耳様が統治して、よりよいものにするというとですわ。その途中で、あなた達が拒んでくるというのならば、戦争も致し方ないことだとは思いますけ……」

そう青娥が言い終わらないうちに、村紗が青娥の腹部に蹴りを入れ、倒れこんだ瞬間、首の真横の地面にアンカーを突き刺した。

「おお、怖い怖い……ですわ」

「つくづくふざけた奴ね。雲山呼んだほうがいいかしら?」

普段は一輪のすぐ側で付き添っているはずの雲山だが、今日は寺で留守にさせているようだ。

「いらないわ。ここで私が引導を渡す」

「はいはい……久しぶりにワクワクする展開だったのに」

すると、青娥は再びクスクスと笑い始めた。絶体絶命の状況に追い込まれてまだ余裕をかましている。この事実に対して一瞬背筋を凍らせる2人。

「何故、物部様が命蓮寺にいともたやすく入り込めたか、知っているかしら?」

「……知ってるわけ無いじゃない」

「なぜ外出中の貴方達がこの違和感に気づく事ができたのか……。なぜ私がこの状況でここまでの余裕を持てているのか」

「村紗!早くコイツに止めを刺しなさい!」

「流石にあんなにも広大な敷地全体に術を施すのは疲れましたわ。しかしその効果は絶大。まあ、貴方達2人が外出するのは想定外でしたが……これ以上動く必要のない私を動かすなんて罪な方々ですわね」

「一輪、雲山を早く呼んで!もう私じゃ手に負えないわ!」

「……でも流石に私の手を煩わせすぎるのも困ったものですわね。芳香。」

「あい」

一瞬だった。青娥が気を引きつけている間に、芳香が真後ろまで近づいていたのだ。持ち前の怪力で一輪の首をへし折り、次の瞬間には村紗に襲いかかっていた。
しかし、正攻法では力の差が激しく、芳香に勝ち目はほぼなかった。だが、まだ青娥は余裕の笑みを浮かべていた。実力差で芳香を圧倒する村紗。勝利が目前まで迫ったその瞬間、一筋の光が走った。

「あっ……がっ……!?」

「水に電気って効果抜群ですわよね。相性が良くて助かったわ蘇我様」

物陰に隠れていた屠自古に対して声をかける青娥。

「何の話だ?」

「いえ、何でもありませんわ……それよりも、よくやってくださいました」

「……これでよかったのか?」

「ええ。いきなりあの僧侶を殺すよりも、こうやってその部下をプチプチ潰す方がやりがいがありますし、長く楽しめるのですわ。全体の決着自体は早めを望んでいますけどね」

その時、高圧の電流を浴びせられ、絶命しているであろうはずの村紗が口を開いた。

「一り……貴方達……ふざけるんじゃ…………必ず聖が……」

「あらあら。まだ生きていたなんて変な所で悪運が強いのね。不幸極まり無いですわ〜」

「で、どうするんだこいつら」

「え?蘇我様何をおっしゃっているのでしょうか。殺すに決まっているでしょう」

「キョンシーとかには……」

「する気がないですわ。人間と違って妖怪は特にそうやって遊んでも面白味がありませんし」

「なんだー。お前達は私の仲間にはなれないんだなー」

「そうよ芳香……さあ早く止めを刺しなさい」

「あいよー」

そう言うと、芳香はぶつぶつと何やら独り言を呟く村紗の首を掴み、へし折った。

「聖……聖……ひ……」

口から血の泡を吹き出しながら絶命する村紗。それを冷ややかに青娥は見下しながら2人に向けて口を開いた。

「……さあ、帰りましょうか。あ、芳香はその死体を何処か人目につかない所に捨てておいてね」

(後は物部様を回収すれば……ですわ)



夜の命蓮寺。白蓮と星が買い出しに行った2人が帰ってこないことを心配していること以外は、いつもどうりだった。

「2人共……帰ってこないですわねぇ」

「ええ。里まで様子を見に行ってきましょうか?」

「その必要は無いよご主人様。既にネズミ達に探させている」

ネズミは既に寺の周囲を捜索しているらしい。それと関係があるのか、ナズーリンの顔色が優れない。

「そうですか……ナズーリンは優秀ですね」

「いや、当たり前のことをしただけだよ」

(まさか里の外で青娥達が……いやいやまさかな。そんなはずがあるわけなかろう)

青娥達が勝手な行動をした事を予想する布都。その可能性を頭のなかで否定しても、やはり否定し切ることができない。

「どうしましたか?布都。何か悩み事でも」

「い、いや。何でもないぞ!」

「そうですか……しかしやはり心配です!寺の皆をかき集めて外を捜索したほうが」

「なりません!村紗達の帰りをじっと待つのです」

星に対して叱咤する白蓮。同じ釜の飯を食う仲間を信じ切れない今の発言が、どうしても許しがたいものだったらしい。
2人がそうこうしているうちに、布都の頭のなかに青娥の声が響く。

(そちらはどうですか?ひどいことをされていなければいいのですが……)

(特に何事もないぞ。それよりも我はこれからどうすればいいのだ?)

(流石に白蓮を暗殺するのは……無理ですね。今日は一旦寺から引いてください)

(そんなことができるのか?)

(在家だと言い張ればいいのです。ほら、一人いるじゃないですか。もう先に帰ったのでは?)

(そういえばいたようないなかったような……在家と言えばいいのじゃな?)

(ええ。では寺の外で待っていますので……)

「白蓮殿」

「どうかしましたか?」

「そろそろ家に帰る時間なのじゃが……」

「ああ、在家の方でしたか。最初に聞くのを失念していました」

「うむ。在家じゃ」

「そうですか……気をつけて帰ってくださいね。ではまた明日……」

白蓮はそれだけ言うと、再び静まり返った。布都は彼女がもうこれ以上自分に声を掛けないと悟ると、部屋から出て、寺の外へと向かった。その時、焦っていたらしく、いくつかの小物に腕が当たったようだが、布都は知らん振りをした。

「お疲れ様です」

「疲れたぞ青娥!もうこれ以上我はあんな所行きとうないぞ!!」

「ああ、その話ですけど、これ以上行く必要はありませんわ。物部様が寺で足を引っ張って気を引いてくださっているうちに、不意打ちで2人の門徒を仕留めることができました。物部様のお陰で大幅に向こうの戦力を削ることができましたわ」

「そうかそうか!青娥よ。もっと褒めてくれてもいいのだぞ!」

そう誇らしげに話す布都。その姿は堂々としていた。

「ええ。素晴らしいですわ!最高ですわ〜!」





深夜の命蓮寺。とある一室でナズーリンは苦悩していた。もしもこのことを公表すれば命蓮寺全体がパニックに陥るだろう。しかし、早く公表しないととんでもないことになる。その確信は彼女にはあった。

(どうするか……ご主人様も、白蓮も深く傷つくだろう。出来ればこのまま隠し通したい。だけど無理だ。いつかは……これ以上は考えたくもないな)

(仕方ない。寺の皆を集めて話すしか無い)

そうナズーリンが考え立ち上がった瞬間、異変を感じた。寺全体が紅い。そして影が、光が揺らめいているのだ。どうやら彼女は考え事に集中しすぎて、この異変に気づくことができなかったらしい。

(これは……今すぐ皆を起こさないと!)

そう考え、ナズーリンが扉を開けた瞬間、巨大な炎が彼女を襲った。そのわずか一瞬前、ナズーリンの瞳に写ったものは、炎に行く手を阻まれたらしく黒焦げの姿で息絶えている白蓮と、宝塔を大事そうに抱えたまま同じく黒焦げになっている主。寅丸星の姿だった。己と仲間と主の運命に絶望するナズーリン。しかし、そんな絶望も一瞬。炎は彼女を襲い、そこで彼女の意識はプッツリと途切れた。



「ふぁ〜あ……いい朝じゃな」

早朝、布都は鳥の鳴き声で目を覚ました。既に自室の外は騒がしく、皆が起きていることが伺える。布都は身支度を済ませるより前に、部屋から出て挨拶をすることにした。

「太子様、おはようございます!」

「おはよう布都。いい朝ですね!」

神子がそう言うと、同調するかのように青娥が口を開いた。

「本当に……いい朝ですわ!清々しい……これも物部様のお陰ですわ」

「我の?一体我が何を……」

布都がそう言うと、屠自古が無言で新聞を渡してきた。どうやら今朝発行されたばかりの文々。新聞のようだ。





文々。新聞朝刊
深夜の命蓮寺に火の手があがった。出火原因不明の炎は命蓮寺の門徒達4人を除く、多くの妖怪を焼死させた。遺体はどれも損傷が激しく、見分けがつかない状態となっており、身元の特定は困難を極めている。既に死亡が確認されたのは命蓮寺の僧侶である聖 白蓮さん・寅丸 星さん・ナズーリンさん・雲山さん・幽谷 響子さん・多々良 小傘さん――――
また、命蓮寺の外でも新たに村紗 水蜜さん・雲居 一輪さんの遺体が発見され事件の関連性が疑われている。なお、身元不明の門徒が当日新たに加わったとの情報もあり里の自警団は行方不明の封獣ぬえさん・二ツ岩マミゾウさんと共に重要参考人として現在捜索中である――――





里のあちこちにばら撒かれた文々。新聞の一枚を拾うと、少女はその文面をじっくりと読み始めた。しかし、歩きながら読むのも疲れるので、茶屋で座って読むことにした。隣で化け狸が何やら喋りかけてくるので、新聞を読みながら相手をしてやることにする。

「のう?今回の事件何処のどいつがやったと思う?儂は勿論……」

「あの聖人一派でしょう。それより私が新聞を読んでいる時に邪魔するのはやめて頂戴」

「おお、それはすまんかっのう!しっかしこうも簡単に白蓮達が死ぬとは思えんな」

「特に理由もないわ。単純に不運が重なっただけのことよ」

「しかしおぬし、やけに冷静だのう。もっと激情に身を任せてもいいのじゃぞ?」

「もうとっくに身を任せているわ。これからどうするかなんて既に決まっていることよ。マミゾウ。協力してくれるわよね」

「おぬしが望むなら、儂はいくらでも知恵と力を貸すぞ?ぬえよ」



「話を聞く限り恐らく物部様がどこかで意図せずに風水の力を使ったせいで、寺全体の運気が下がってあの結果になってしまったのでしょうね」

「なるほど……しかし本当に何というか馬鹿が功を奏すというか無駄に運がいいというか」

「とにかく、布都よ。ご苦労さまです。本来私の好きなやり方ではありませんが、功労には変わりありません」

「太子様に褒められるなんて、我は嬉しい限りじゃ!」

「さあ豊聡耳様。里の人々を、幻想郷を統治する準備を進めないとですわ!」

「そうね。その前に青娥に掛けられた疑惑を晴らすところから始めましょう!疑いを掛けられたままではろくに里の中を歩けないことでしょう」

「あははは!」

部屋に皆の笑い声が響き渡る。今日もいつも道理の平和な幻想郷になりそうだ。



「ここね。」

「うむ。ナズーリンの遺したネズミが言うんだから違いないのう」

「いくわよ……」

「ま、待ってくれ。儂らなんかがいきなりやってきて素直に入れてくれるのじゃろうか?」

「絶対にうまくいくわよ!あいつら、思いもよらない成功で浮かれているわ。そんな中で人間に扮した私達が弟子入り志願すれば快く入れてくれるに違いない」

「そこまで馬鹿じゃないと思うが……」

「馬鹿よ。人であれば、何でも信じきってしまう程に馬鹿。どこかで見た、妖怪と言えば信じきるあの馬鹿にそっくりよ」

そう言うと、ぬえは扉を叩いた。
こいし「完全に私が空気な件」


宗教戦争ってこわいですね(棒)
実質2人になっても命蓮寺の門徒としての自覚と仲間意識を持つぬえちゃんすてき


最近書いてねーな―とか思いながらキーボードカチャカチャやってたらできた話(大嘘)今までの作品と比べると会話9:地の文2くらいで圧倒的に会話文が多いです

音信不通になって死んだとか病院にぶち込まれた思われていたかもしれませんが私は生きています。なんとか生きています。

深夜テンションで書き上げて投稿しようとしたら紅魚群さんがまた面白い企画をされたらしく、しばらく要項を眺めてしまいました。

この企画は終わった後、娘々の臓物の上で芳香がブレイクダンスするSSでも書こうかな―とか思いつつ、しばらく産廃10kbの構想を練ろうと思います。目の前にある企画に集中することが一番大切ですね。

駄作ばかり投げるとおもいますが温かい目で読んでくださると嬉しいです。あとちょくちょくついったぁにも顔だすと思います。たま〜にでいいので相手してくれると嬉しいです。
隙間男
https://twitter.com/sukima_boy
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/10 19:40:56
更新日時:
2013/02/11 04:40:56
評価:
7/7
POINT:
590
Rate:
15.38
分類
物部布都
霍青娥
蘇我屠自古
命蓮寺
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
1. 60 pnp ■2013/02/11 09:42:41
やったぜ。
2. 80 名無し ■2013/02/11 13:49:04
登場人物がお間抜けだなぁ(微笑)
3. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/02/11 19:54:14
悪意の無い攻撃、か……。
彼女の特性ならではといった所か。
ついでに、因果応報って言葉の意味も噛み締めないとね。

――両者共倒れになり、幻想郷のバランスは保たれるでしょうね。
4. 80 んh ■2013/02/11 21:35:03
みんな人がいいなあ
5. 90 矩類崎 ■2013/02/13 01:10:59
私の中で布都のランクが一つ上がりました。
6. 90 名無し ■2013/02/24 19:31:02
白蓮達が全滅したのも神子達が大勝利を収めたのも非常に良い。
だが、青娥が無事なのが気にいらない。
もっと、ひどい目に遭うべき、村紗が一思いに殺ってしまえば良かったのに。
7. 90 名無し ■2013/03/14 20:20:49
やっぱり神霊廟組は命蓮寺に嫌がらせしてる程度が一番似合う
でもこの布都なら勝つことを許す

両者共倒れになってくれてたら人里大勝利だなぁ 統治されたがる人なんていなかろうに
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