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『産廃10KB「スーヴェニル燐」』 作者: シドニー
嫌われ者達の住む幻想郷の地底。 現在私はその地底の住民の中でもとりわけ嫌われ者達が住むと言われる「地霊殿」の廊下を歩いていた。
というのも本来人間である私が何故こんな薄暗い地底に居るかと言われると決して私自身が嫌われているからとかではなく、私がとある書物を制作する為に調べ物をしている時ひょんな事からここの住民と面識を持ち、その住民に「是非に」と強く招かれたからでありもう一度言うが決して嫌われて地底に落とされたとかではない。
というかそうでもなければわざわざ巫女を雇ってまでこんな薄暗い地底くんだりまで来たりはしない。
ちなみにその巫女はというと此処の女主人が苦手らしく「何かあったら呼ぶように」と私に「通信機」と呼ばれる原理は不明だが遠くに居る人物と話せるらしい機械を渡して旧都をフラついている。
しかし広い。この館広い。
一応館の入り口から目的の人物の部屋までの行き方は聞いてあるがたびたび怨霊に襲われ、逃げ回っているうちに迷ってしまった。
此処のまともそうな住人に道を聞けばいいじゃないか。という突っ込みがあるかもしれないがすれ違うのは犬猫等の愛玩動物か怨霊くらいのものである。そして私はそれらと話す術など持ち合わせていない。
しばらくしてようやく私は私を此処に招いた妖怪の名前である「火焔猫燐」と書かれた扉を発見。
歩き疲れた私は安堵の息を吐きながらノックする。
「はいはーい。だいぶ遅かったね。やっぱり初めての人に此処は広かったかい?」
私がいろいろあって迷った旨を伝えるとカラカラと彼女は笑った。
「あはは、出迎えくらいするべきだったね悪い悪い。 ささ、入りなよ。すっかり冷めたお茶がお姉さんをお待ちかねだ」
招かれるまま彼女の部屋に入る。
「適当なとこに座ってよ。アタイはお茶を温めなおしてくるから」
そう言って燐が部屋の奥に消えていったのでソファーの端っこにちょこんと腰かけ、部屋を見回してみるとモノクロを基調とした壁紙やタイルの床に、やはりモノクロを基調としたソファー、テーブル、ベッド、クローゼットなどなど猫の妖怪らしからぬ非常にまともな印象を受けた。
……やや気になる点として、まるで生きていて今にも動き出しそうな程生々しい人間を模したマネキンがあるのだが彼女の趣味だろうからあえてこちらの詳細には触れない事にしよう。
「珍しい物でもあった?」
私がキョロキョロとしていると茶を温めなおしているはずの燐に不意に声を掛けられ私はビクリと肩を震わす。特に悪いことをしているわけでもないのだがこんな反応をするとなんとなく後ろめたい気分になってしまう。
「あぁお茶? 妖精に任せた。さて、何をしようか」
言いながら燐は私に向かい合うようにソファーに腰かける。
私としては呼ばれたからには燐が何か用意しているのだろうと考えていたので特に何も考えていなかった。
「そうねー……あっ! じゃあさじゃあさ。アタイがちょいと面白い話をしたげるよ」
まぁ他にすることもないから良いだろうと私がお願いすると嬉しそうに燐は話はじめた。
「そいじゃ、お燐の日本昔話。始まり始まり〜」
――――
昔々、あるところに一匹の黒猫が居たのさ。
あ、いや。この話し方じゃ雰囲気出ないね。失敬失敬。
一匹の黒猫が居ました。
その黒猫は物心ついた時から独りで家族が居るのか。また、居るとしたらその家族は生きているのかすら分かりませんでしたがそんなことを考える余裕が無い程に生きることに必死でした。
時に盗み、時に殺し、時に奪い。 時には盗まれ、時には殺されかけ、時には奪われながらも。それでもなんとか生きていたとさ。
知り合いも仲間も居ない黒猫はそんな生活をずいぶん長く続ける事になります。
しかし良くも悪くも変化は訪れるもので、一体その黒猫が独りで生きてきてどの程度の期間が経った後かは定かではありませんが、すっかり黒猫が大人になった頃。生活にある変化が訪れます。
きっかけは単純。 黒猫の住処に一匹の衰弱した弱々しい真っ黒な子猫が迷い込んだ事からそれは始まりました。
普段であればこの黒猫は同族喰いに抵抗など無いし、それを咎める者も居ないのでこの状況は鴨がネギを背負って来たような状況である筈ですが、たまたまこの日は前日に黒猫一匹では食べきれない程大きな鳥を仕留めた事もあって腹が膨れていて気分も良かったので黒猫はその子猫を適当にあしらって逃がす事にしたのですがなにぶんその子猫の衰弱は酷く、歩くこともままならない状況だったので仕方なく黒猫は腹が減った時のために残しておいた鳥を分け与え、快復するまでの間と決めて自分の住処に居させてやる事にしました。
ですが本能とは恐ろしいもので、その日から黒猫の生活は一変します。
子猫は順調に回復していき、ついには歩き回れるほどに元気になりましたが子猫は生存本能からか黒猫が自分の親であるかのように甘えてくるようになり。そんな子猫に対して今まで独りで生きてきた黒猫は母性本能からか頼られる事に居心地の良さすら感じるようになります。
そうしていつの間にか黒猫と子猫はまるで親子のような関係になっていきました。
しかし自然は厳しく、独りで生きることですら大変であった黒猫にとって自分で餌を獲れない子猫を養う事は非常に難しい事です。
葉っぱを食べればお腹は膨れます、水を飲めば多少は飢えも紛れます。しかし、それで生きていく事は出来ないのです。
ですがやはり黒猫は猫でしかありません。生き抜くにはどうしても力が足りないのです。
季節は冬になり、果物も獲物もめっきり獲れなくなりました。
親子はもう二日間まともな食事をしていません。
子猫は鳴き声をあげる体力も無いほどに腹を空かせています。子猫に優先的に食べ物を与えていた黒猫は子猫以上に腹が減っていた事でしょう。
この時初めて黒猫は猫という身分。種族。自分の非力さを呪いました。
と同時にこの状況を切り抜けるある方法を閃きました。
狼や鳶などの冬にも居る生き物を狩り、その肉を食そうと言うのです。
もちろん狼は群れで行動しますし、鳶は空を自由に飛びます。
しかし黒猫は猫です。
たとえ黒猫が万全な状態だったとしてもあまりに無謀な挑戦だと分かりきっていましたが、黒猫はそれを覆す方法も知っていました。
この世界には妖怪と呼ばれる生き物が居ます。
その妖怪と呼ばれる生き物の体の一部を喰らって風を自在に操る事が出来るようになった鴉の存在を黒猫は知っていました。
その生き物の肉を喰らってただのイタチが鎌鼬と呼ばれる妖怪になったという噂を黒猫は耳にしていました。
ならば自分も妖怪を喰えばやはりそういった力を手に入れる事が出来るのではないか? という算段です。
ですが同時に問題もありました。妖怪は狼より鳶より、人間よりも強いということも黒猫は知っていたのです。
しかしもう黒猫はなりふり構って居られません。
体の一部を喰らうだけ。殺す必要などないのですから狼の群れを相手にするよりも幾分マシに思えたのです。
黒猫は決心するとわずかな蚯蚓や油虫などの最後の食料を子猫に渡し、食い繋いでくれることを祈りつつ住処をあとにしました。
■
それから少しの間黒猫の記憶は飛びます。
気が付いた黒猫は何かから逃げるように夕暮れの山中を矢のような速度で走っていました。
しばらく走り回り、追っ手が無いことを確認した黒猫は身を隠して一息つくと自身の身に起きている変化を感じる事が出来ました。
体には不思議な力が沸き、妙な高揚感が黒猫を包んでいます。試しに地面を蹴ってみるとそれだけで高い高い木の枝まで届きましたし、走れば今までにないほどの速度を感じました。
あまりに必死だったからか自分が一体どのような方法を用いて妖怪と対峙したのかは黒猫自身にも分かりませんでしたがそれだけで思慮の浅い自分の浅はかな計画の成功を自覚することができた黒猫は本題である狩りに出掛ける事にしました。
しばらく歩くと黒猫の目についた相手は猪でした。
猫と猪は本来食う食われるの関係ではなく、猫としても体格差から勝てるような相手ではないので基本的に関わる事はないのですが何故だか今ならあっさりと狩れるような気がした黒猫は背後から猪に飛び掛かると、分厚い皮膚に覆われた首筋に爪を突き立てて一気に引き切ります。するとまるで豆腐でも切り裂くようにパックリと傷が生じ、そこから勢い良く血が吹き出たかと思うと猪は動かなくなりました。
改めて自身に不思議な力が宿った事を確認した黒猫はいましがた倒した猪を喰い、残りを子猫の待つ自分の住処へ持ち帰る事でひとまずは餓死の危機を回避することが出来たのでした。
それからは黒猫も子猫も食事には事欠かなくなりましたが、同時に新たな問題として人間に妖怪として認識されるようになった黒猫は退魔師に狙われるようになりました。
黒猫は目立ちすぎてしまったのです。
毎度毎度命を狙われては堪らないと思った黒猫はもう少し経って子猫が長旅に耐えられるくらいに大きくなったら住処を移そうと考えました。
――後々黒猫は時すぐにでも引っ越さなかったことを一生後悔することになります。
黒猫が住処を移す事を考えてからすこし経ったある日。
いつも通り獲物を狩り、自分を退治しようと追いかけてくる退魔師をかわし、住処に帰った黒猫はある事に気付きます。
いつもならたとえ体調が悪くても自分の足音を聞くと住処から出てくる子猫が、今日は出てきません。
「最近ここらで暴れている妖怪というのはお前ですか?」
突然、背後からそんな声が聞こえました。黒猫は驚いて声のする方を振り向くと、いつからそこに居たのか軽くパーマがかかった暗い桃色の髪と胸元の目玉を模したアクセサリーが特徴的な少女が立っています。
人間ならば十四、五才といった容姿ですが黒猫にはその少女が妖怪である事がはっきりと分かりました。
少女の事を一通り観察するとある事に気が付きます。
少女の右手。正確には右手で持っているもの。
それは見慣れた子猫でした。
少女の右手に捕らえられている子猫は口と首から血を流しぐったりとしています。
「ああ、コイツですか? お前を探していたのですが付きまとってきてうるさかったので黙らせたんですよ。全く、畜生の分際で穢らわしい」
黒猫がこの状況に対して疑問を浮かべると少女は黒猫の心を読み取ったように答えました。
「お前のような中途半端に強い妖怪を探していました。私と来なさい」
続けて少女はそう言いましたが黒猫の体はとっくに動いて、少女に飛びかかっていました。
■
「明日また来ます。その時までに答えを決めておきなさい」
必死の攻撃もむなしくボロ雑巾のようになった黒猫に対して少女は吐き捨てるように言うと立ち去っていきました。
その黒猫はというと痛む体を引きずり、もう動かなくなった子猫に寄り添うと自らの身に起きた理不尽を嘆くでもなく。ニャアと一つ鳴き、深い眠りに落ちていきました。
そうして次の日、目を覚ました黒猫は子猫を土に埋めて弔ってやると昨日やって来た少女を待つことにしました。
――黒猫の答えはもう決まっていたのです。
――――
「と、ここでこのお話はおしまいなのさ」
私が「えっ?」っと言うと燐は適当に笑って誤魔化す。終わるにはちょっと半端ではないだろうか?
燐とそんなやりとりをしていると扉をノックする音が飛び込んできた。
「はいはーい。おや、さとり様?」
私が部屋に来たときと同じような間の抜けた声で燐が応対する。
「お燐。炉が熱くなりすぎているのだけど」
「えっ。アタイ今日はオフなんですけど」
「あの子とまともに意思の疎通が出来るのはお燐しかいないの。お願い」
「……分かりました」
燐と”さとり様”と呼ばれた来訪者がそれだけ会話すると来訪者は来た道を戻っていき、燐がこちらを向いてすまなそうに
「お姉さんゴメン。急用が出来ちゃった」
とだけ言った。
ここで駄々をこねても仕方ないので帰る事にした私は燐に館の出口までの案内をお願いする。
「もちろん送ってくよ! ついておいで」と言われて私はあわてて燐を追いかける。
「je ne te pardonnerai jamais」
私がふと燐の顔を見ると、寒気がするような冷たい眼をした燐が去っていく来訪者の背に向かってそんな事を呟いていたような気がした。
■
「Savoir」
来訪者は一人呟くと口元に薄く笑みを浮かべた。
je ne te pardonnerai jamais――私はお前を許していない。
Savoir――知っているよ。
さとりの事が大っ嫌いなお燐が書きたかったんです。
執念深いお燐最高です。
最初「私」は阿求のつもりだったのですが色々あって「私」は阿求として読んでもモブキャラとして読んでも大丈夫な感じになりました。……なりました?
最後の文は翻訳サイトで翻訳したのでどの程度あってるかは謎です。
――以下コメント返し――
※1 つづく以上は変化が訪れることが望ましいですね。
※2 さとりは通常運転なのかもしれませんよ?
※3 ”その時”はまだ先でしょうね。……ですよね?
※4 さとりのスペル。テリブルスーヴニールがフランス語ということと、お燐の周りのペットは基本的にさとりの味方であるという事情から”さとりだけに伝わればいい言語”としてフランス語を使っているのかもしれません。 私はお燐でないのでその辺分かりませんが。
※5 意外性が無くて申し訳ないです
※6 お燐はさとりにも家族を失う気持ちを分からせるくらいの執着を持っていそうなイメージです。イメージです。
※7 文章の作法とか素人なのでそういった指摘はとてもありがたいです。
※8 ありがとうございます。
※9 猫は意外と家族思い
※10 ホントですね^^
※11 さとり様ラテン語わかりますかねえ
※12 ですねえ!
※13 「それじゃ死体が残らないじゃない」とか言いそう。 私もさとりは陰湿な方が好きです
※14 お空はあまり浮かびませんが他のペットももしかしたら黒猫と似た経験をしてるかもしれませんね。
※15 こちらこそありがとうございます。むしろ誰も聞いてくれなかったらどうしようかと(汗
※16 お燐がすぐ行動に移す気が無いのを知っているからなのか、ぶっちゃけどうでもいいのか。いずれにしろ酔狂な話です
※17 そこら辺の違和感を拭えないあたり私はまだまだですね。精進します
※18 意外とどの作品でも地霊組は仲良しだから逆流に乗ってみたりしちゃいました。 憎しみは美しい
※19 何故続きを書こうとしてるのがバレた……!? お燐コミュ力高そうだから特に理由が無くても友人を家に招いて遊んだり、色々話したりしそうという勝手なイメージで「私」を部屋に招いてます。
今回もこんなウンコみたいなSSに非常に沢山のコメント、評価をありがとうございました!
シドニー
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/24 15:46:02
更新日時:
2013/03/12 10:28:40
評価:
18/21
POINT:
1600
Rate:
15.48
分類
産廃10KB
火焔猫燐
3/12コメント返し
話は中途半端に終わったのではなく、まだ、終わってないのか……。
地上の語り部は、とりあえず現在までの所を書き記して、続きを伝聞やらで夢想することになるのか。
少女妖怪はなぜ、猫妖を求めたのか。
答えは――、知ったこっちゃない。
さとりんも人が……あ、いや。妖怪が悪いね。
その時地霊殿はどうなるのか。
文章も読みやすく面白い話でしたが強いて言えば最後だけフランス語で書いた理由が読み取れなかった事が残念でした。
従うようになった経緯が気になりました。
黒猫の跨いだ死体は動きだすと言う逸話がありますが、燐は、そして死んだ黒猫はどうだろう。
内容とはあまり関係無いけれど、読点が少ないと思ったのは僕が使い過ぎているだけなのか。
でもさとりが嫌いなお燐はやっぱり素敵
さとりの意地悪い感じがかわいくて素敵です。
フリーレスで失礼します。
なるほど、そのような理由付けがあったのですね。説明ありがとうごさいました。
本当に復讐する気があるならば、空が力手に入れて調子こいてた時にでもそそのかしてぶっ飛ばせばいいのに。
この立ち位置はちょっぴり、ティンベーとローチンの基本的戦術の神眼さんが思い出されてしまう。
雰囲気も地底組も好きなのですが、どうでも良い所が気になってしまいました。
文章も読みやすく分かりやすい話だったのでかなり好みでした。愛こそが憎しみを生むんだなぁ…
冗談はさておき、オチで何か来るかと思わせておいてのストレート。
それがお燐の動機が純粋なものだと感じさせられました。
ただお燐が人間を呼び込んだ理由って話を聞かせるためだけ?色々途中で終わってしまっているのが惜しいので、この話の続きを希望するプロセスです。