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『産廃10KB「ハートフルラブパルスィ」』 作者: パワフル裸ロボ
地下に架かる橋の上。橋姫は一人欄干に座り足をぷらぷら。賑わう旧都を遠目に見つめていた。くる日もくる日も、こうして橋の上で旧都を眺め続けている。
羨ましい、わけではない。妬ましい、と思う気持ちでもなかった。そうさせているのは、自分でも説明のしようのない感情だった。
「おや、パルスィ。今日も退屈そうだね」
背後から声がかけられる。振り返れば、一角の鬼が酒を担いで立っていた。週に何度か、こうして酒を担いで会いに来るのだ。勇儀は彼女のことを気に掛けているようだったが、彼女はこの勇儀が苦手であった。
「人を年中暇人みたいに言わないでよ」
「ん、細かいことはいいじゃないか。飲もう」
「……そんな性格だったら、いつか誰かに嫌われるわよ」
それはそれで仕方ないな。と勇儀は笑った。鬼は何より自分に素直な生き物だ。故に周りに気を遣って根を曲げる、という真似が出来ないのだろう。とパルスィは昔に結論付けている。
パルスィはため息を吐くと、欄干から降り、勇儀の脇を抜けて去っていく。
「おや、どこに行くんだい?」
「どこでもいいでしょ。私には私の用事があるの」
ついてこないでよね、と釘を刺し、パルスィは去る。勇儀はそんなつれない態度に対して、苦笑いしながら頭を掻いた。
「……嫌われてんのかね?」
パルスィは、友人である蜘蛛妖怪のヤマメと、静かに杯をかわしていた。静かに杯をあおったヤマメが、ぽつり、と口を開き言葉を漏らす。
「で、また勇儀さんから逃げてきたのかい、パルスィ」
「……結果的にはそうなるかしらね」
何でもない風に言葉を発する。
「たまにはお受けしてあげたら? あの人結構顔広いし、なにかと都合がいいかもよ?」
「……イヤよ。あいつが持ってくる酒、全部キツいやつばっかりだもの。とてもじゃないけど飲めないわ」
それに、そんな下心を持って接したくない。というのは、心の中だけに留めた。
「なら、弱いのを持ってきてって言えば解決じゃない」
「それもイヤ。まるであいつにねだるみたいじゃない」
もう、パルスィは我儘だな、とヤマメは苦笑いする。
ヤマメがくれる酒は実に自分好みだった。弱い度数。甘い舌触り。ほろ酔いになれるベストなものだった。
勇儀がくれる酒は実に酒に弱い自分の好みではなかった。ストレート、混じりけ無しの上質な酒。キツい味に香り、そして度数。杯に一杯飲むだけで前後不覚になってしまう酒はどうにも苦手だった。
酒に強い人が妬ましい、と呟いた。
「そいやさ、パルスィ」
「なに?」
何気なく返答し、口を潤すために杯を傾ける。
「勇儀さんのこと、好き?」
思わず口に含んだ酒を吹き出す。
「な、なにをいきなり!」
「だってぇ、気になるじゃない。嫌いならそんな話しないじゃん、パルスィ。だからさ、嫌いじゃないなら、好きなのかどうか、ね」
そう言われ、ふと考えた。はたして、自分は勇儀に好意を持っているのだろうか。
少々腹立たしいがヤマメの言うとおり、嫌っている訳ではない。橋姫である自分に好意的に接してくれる数少ない人物だ。その点に関しては好ましく思っている。
しかし、好きかどうか、と言われればどうだろう。確かに好意的には思っているが、完全な好意ではない。図々しく、他人の迷惑を考えない。勇儀のそういうところが苦手である。
そうして、総合的に考えて、ようやく結論に至った。
「……嫌い、ではないわね」
好きではない。しかし嫌っている訳でもない。つまりはどうとも思わない。そのつもりでの解答だった。だが、ヤマメは本人すら認識できていない本心を感じ取っていたようで、にやりと笑う。
「ふうん、そっか」
そう短く締めると、その日の飲み会はお開きとなった。ふらつく足取りで帰路につくパルスィを、手を振って見送るヤマメ。
その背が完全に見えなくなると、ヤマメは一つため息をついた。
「嫌いじゃない……だそうですよ」
独り言のように見えたが、言い終わるか否かの時に、物陰からカタリと音が聞こえた。
「ふう……ちょっと飲み過ぎたかも」
ふらつきながら、パルスィは少し後悔していた。ヤマメがあんな話をするものだから少々飲みすぎた、と。そして、自分の酒の弱さを恨めしく思った。
私がお酒に強かったら、勇儀と一緒に飲んであげられるのに……。そう考え、はっと我に帰る。
「な、なに考えてるのよ私! なんで勇儀のため、なんか……」
はた、と立ち止まる。頭に勇儀の笑顔が映ったのだ。その笑顔を見ると、胸の中にもやもやした感情が生まれた。その感情には覚えがあった。が、なんだったか、どこで感じたのかは思い出せない。
酔った頭を無理やり回転させたためか、立っていることすら困難になり、パルスィはその場にへたりこんでしまう。自宅まではまだ距離がある。
パルスィはくらつく頭になんとか整理をつけさせ、記憶を辿るより帰宅することを優先させるようにした。座り込んで休んだおかげで、なんとか立ち上がることはできた。
そこで、パルスィの耳に話し声が聞こえてくる。話し声から察するに、男が二人。恐らく鬼だろう。こちらに向かって歩いてくる。ここでパルスィは、その二人に手を貸して貰おうかと考えた。銭もいくらかある。酒代として渡すなら少しは助けて貰えるかも知れない、と。
しかし、それは自分で否定した。自らはこの地底でも鼻つまみにされている存在。多少の銭を出したところで一蹴されるだろう。
「私、何考えてるのかしらね……」
自嘲気味に笑うと、岩肌に手を掛けなんとか自力で歩きだす。
「おい、ありゃあ……」
そんな折り、後方の男たちがパルスィに気が付いたようで、なにやら急に小声で話しはじめた。が、パルスィはそんなことを気にしてる場合ではなかった。歩く。その一点に集中しながら進んでいると、突然肩に手を置かれた。何事かと振り返ると、ヘラヘラと笑う鬼が二人。
「おう、橋姫、辛そうだな」
「俺たちが手を貸してやろうか」
そう言って、鬼の一人がパルスィを抱え上げる。彼女は悲鳴をあげて抵抗したが、相手は純粋な鬼。所詮人からの成り上がりであるパルスィが力で適う道理はなかった。
岩肌の裂け目。通常の通り道からだいぶ外れたところに、パルスィは連れ込まれてしまった。乱暴に床に放られると、体に馬乗りになられ、腕を押さえ付けられた。
「うじうじ気色悪いアマだけど、見た目は上玉だしな」
「なに、俺たちだって善良な市民だからな。終わったらちゃんと家に帰してやるさ」
ガハハ、と鬼たちは笑う。気丈にもパルスィは睨み付けるが、圧倒的弱者である彼女のそれは、鬼たちを喜ばせるだけであった。
「さて、まずは邪魔なもんを取るか」
そう言うと、厚手の衣服をいとも簡単に引き裂く。パルスィの控えめな胸と美しい肌が露になる。鬼たちは口笛を吹き、パルスィは顔を真っ赤に染める。
「あんたたち、こんなことして。後で……」
「後でなんだよ、橋姫ちゃん」
パルスィの脅しなどなんでもないように鼻で笑うと、パルスィの首筋を舌で舐めあげる。なんとも言えない不快感がパルスィを襲い、不覚にも涙をこぼさせた。
「うぅ、いやぁ……やめて……」
強がってはみたが、実際彼女はいっぱいいっぱいであり、酔いの効果もあってか、すぐに心が折れた。急にしおらしい言葉を漏らした彼女に、鬼たちの目付きがさらに変わる。
「ゆうぎぃ、たすけて……」
今まさに、女性として最大の恥辱を与えられんとした時、咄嗟にその名が口からこぼれ落ちた。それを聞いた鬼たちは一瞬キョトンとし、次の瞬間には声を上げて笑った。
「それはまさか、あの力の勇儀か? 橋姫のくせに!」
「こいつは傑作だ! 橋姫よぉ、おまえみたいなクズをあの勇儀さまがわざわざ助けにくると思うのかよ!」
鬼たちの言葉が、パルスィの胸に突き刺さった。そうだ、勇儀は鬼の中でも頂点となる四天王の一人。かたや自分はつま弾きにされた取るに足らないゴミクズのような存在。
助けに、などあり得るはずがなかった。自分はなにを夢見ていたのだろう。少々相手にされたからといって、意識するなんて。彼女の心は、崩壊寸前であった。
「悪かったね。わざわざ助けに来ちまって。詫びの印に、私の拳骨を貰ってくれるかね?」
男たちの笑い声が一瞬で止んだ。三人がゆっくりとそちらを振り返ると、入り口に本物の“鬼”が佇んでいた。
「おまえら、面出な」
“鬼”に命ぜられるまま、鬼二人はガクガク震えながら裂け目から出ていった。しばらくしてから、二発の打撃音と衝突音が聞こえ、勇儀が裂け目にひょっこりと姿を現した。
「あー、パルスィ、大丈夫かい? ……いや、大丈夫なわけないよなぁ」
しどろもどろにそう言うと、勇儀はおもむろに上着を脱ぎ、せっせと動かないパルスィに着せていく。その時の勇儀は、酒に酔った時以上に顔を真っ赤にしていた。
パルスィは完全に無抵抗で勇儀に身を任せている。放心状態に近いのだろう。
「……どうして」
「ん?」
小さくこぼれた言葉だが、勇儀は聞き逃さなかった。返事を返し、相手の言葉を待つ。
「……どうして、ここがわかったの」
「あ、ああ、それか。それはだな、その……」
怒るなよ、と非常にばつが悪そうに断りを入れると、一つ咳払いし明後日の方向をむいた。
「実は……おまえさんのあとについていたんだ。ずっと離れたところから。それで、おまえさんがあいつらにさらわれるのを見て急いで駆け付けたんだけど見失っちまってね。ちょっと遅れちまったよ」
まあ手遅れになる前でよかったよ、と苦笑いする。
よ、と掛け声を上げ、勇儀はパルスィを背負った。相変わらずパルスィは無抵抗に勇儀のなすがままにされている。
「……ねえ」
「ん、なんだい?」
道中、パルスィが囁くように口を開いた。
「……どうして、私に構うの。私は嫉妬に狂った女。世の全てを羨み妬いて妬んで僻む醜いものよ。あなたたち鬼は、そういう陰険なのは嫌いなんでしょう」
自嘲するように、パルスィは呟く。それを聞いた勇儀は、はたと足を止めた。
「……なあパルスィ。この世の中に、心にやましいもんが一つもないやつなんていると思うか? 私はいないと思うね。誰だって、腹ん中に嫌なものの一つや二つ飼ってるもんさ。問題は、そいつをどうするかだよ。吐き散らして生きるか、隠して生きていくか。私はその二択しかないと思ってた」
ふう、と勇儀はため息を吐き、再び歩みを進める。
「でも、パルスィ。おまえさんは違った。おまえさんはその嫌なものを受けとめて、自分らしさとして表現しているんだ。私には考えもつかなかったことをおまえさんは当たり前のようにやっていた。私は、そんなおまえさんに……惹かれちまったのさ」
フフ、と勇儀は微笑んだ。パルスィはそれを聞いて顔を赤らめた。
「な、なにを言ってるのよ。言ったでしょう、私は嫉妬に狂った女。嫉妬なんて醜いもので、歪んだ感情なのよ」
「私はおまえさんのその自分に真っ直ぐなところに惚れたんだ。そこらのやつなら恥じて隠す感情を、おまえさんは恥じずに受け入れてる。おまえさんは歪んじゃないさ」
第一な、と勇儀は一旦言葉を切り、恥ずかしそうに笑った。
「私だって、今腹ん中に歪んだもん入ってるんだぞ」
「……え?」
「私は今、猛烈におまえさんを抱きたい」
ほらな、私だって同じさ、別段おまえさんが醜いわけじゃない。と勇儀は言った。パルスィは言葉の意味を理解すると、再び顔を赤く染め、馬鹿じゃないの、と勇儀の頭を軽く叩いた。
そうこうしているうちに、勇儀はパルスィの自宅に到着していた。
「さて、到着だ。こんどはあんなことにならんよう気をつけてな」
「……ありがとう」
パルスィをおろし、上着は今度返してくれればいいと言って、そのまま振り返った。その時、パルスィの胸にまたあのもやもやした感情がわいた。あ、と思い、それを感じた別の場面と感情の正体が同時に頭に明瞭に浮かんだ。
それは、旧都を眺めていたとき。同じく感じていたもの。その名は愛しさ。
「あの……」
「ん?」
声を掛けられ、勇儀が振り返る。パルスィはその時、初めて自分の気持ちを知った。ああ、そうか、私は勇儀が……。
「……今度からは、度数の低い、甘いお酒にしてね。そしたら、付き合ってあげるから」
「……あ、ああ! うん、任せときな!」
この日、力の勇儀は生まれて初めて果実酒やカクテル等を購入したそうな。
「あれ、今日25日!? やっべぇ画面真っ白じゃん! 書かねば!」と書き始めたはいいものの、いざ終えると容量12.8KB。(第一吐血) 泣く泣く推敲で削り、よし! と確認すると11.5KB。(第二吐血) その後七回に及ぶ添削(と吐血)でかろうじて10.0KBに収めることに成功。足りない、描写が尋常じゃなく足りない! これ、中身伝わらないんじゃ…という恐怖に襲われています。勇パルジャスティス。どっかこっかおかしいところあるかもしれませんが何卒ご容赦を。こういう書き方しかできない自分が恨めしい。
追記:なぜか名無しになっていたので名前を変更。すみませんでした。
パワフル裸ロボ
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/24 19:53:46
更新日時:
2013/03/01 00:20:13
評価:
17/17
POINT:
1270
Rate:
14.39
分類
産廃10KB
パルスィ
勇儀
ヤマメ
ラブでエロでコメな展開に私の腰は抜け、もうメロメロですぅ!!
乙女な勇儀さん可愛いよー
超甘いです。
砂糖が口から出そうなくらいの甘さ。
要点が綺麗に繋がっていて読みやすかったです。
割と丸いパルスィが新鮮でした。
その意味で今回一番グロかった
やられちゃえばもっと可愛くなったのにと思わないでも。
個人的に、産廃に居るのですから悲惨、無残そういうのは無論好きなのですが、経過は兎も角後味だけは良いものが好みでして。
パルスィは良いですよねぇ。このなんというか、内面乙女だけど目つき悪そうな感じ。
たまにはこういうのもいいですね。
こっちが恥ずかしくなってきました…
めっちゃいい話だったけどw
パルスィかわいい。