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『産廃10KB「早苗さんは半分神なので普通の食事が取れなくなりました」』 作者: R
殺して下さい、と早苗が小傘に言った時。
どうして私に言うのだろう、と小傘は思った。でも、単純にそのとき目の前にいたのが小傘だけだった。そういう風に、思うことにした。
東風谷早苗は半分人で、半分神。人から神への過渡期を過ごしている。人間世界では人間を越えた人間、自浄作用として排除された非人間。幻想郷では彼女並の能力を持つ人間は多数にいる為、神に成りきれない幻想少女。
彼女はそのどっちつかずの状態から離れることはない。だが、自分の中で疑問を感じるたび、人としての生き方は一つずつ、出来なくなってゆく。
結果として彼女は真っ当に生きることができなくなった。人間の食事ができない。眠ることもできない。動作のたびに感覚に異常を感じる。
人間を越えた神の領域に肉体が入りつつあるのだ。食事をする必要がない、眠る必要がない、人間以上の膂力を得る……そういう、神の肉体を得つつある反応だったのだが、早苗の人間の脳は、異常として受け取った。その異常が尋常となった時、早苗の存在は人間から神へと移行するはずだったのだが……早苗は耐えきれずに、死を望んだ。彼女の精神は神になることを受け入れるには、未だ貧弱だったのだ。
だけど、小傘は早苗を生かすことにした。そういう意味では小傘に頼んだのは間違いだった。だけど小傘は早苗を殺すのはしのびないと思った。特別な意味はない。妖怪にとっては、早苗のような、半分神の特別な肉体は滋養分であるはずだったが、人の肉を食べない小傘にとっては意味のないものだったこともあるのかもしれない。
早苗は食事を作る。小傘に恩を感じているのだ。小傘のお陰で、ひとまずは早苗は生きている。生かしてもらった恩がある。
割烹着を着た早苗が葱を切る。鍋ではみそ汁がことことと音を立てて出来上がっている。足下に置いた七輪の上で、アジにうっすらと焦げ目がついている。
早苗は葱を切るのを止めて、箸でアジを拾い上げた。皿に盛りつけて小傘の前に持って行く。
「いつも悪いわね、早苗」
「いえいえ、お気になさらず。私の為でもあるもの」
とたとたと土間に戻って、みそ汁を小皿に掬って、口に含む。味は分からない。早苗の味覚は既に壊れてしまったのだ。だが、癖で繰り返してしまう。思わず口に含んだものを地面に吐き出す。それから、口をぬぐって、碗によそった。刻んだねぎをふりかけて、おぼんに置く。ご飯もよそっておぼんに置いて、小傘の前に運んだ。小傘は台所に面した四畳半の、ちゃぶ台の前に座っている。
「ありがと、早苗」
「じゃ、小傘、先に食べてて下さい。私はおひたし作ってくるので」
そうかい、と小傘は呟いて、ご飯に箸をつける。
「おいしい。早苗はいつでも料理がうまいね」
「ありがとうございます。もう癖みたいなものですけどね」
早苗は立ち上がりながらそう言って、もう一度台所に戻る。湯を沸かして、ほうれん草を湯の中につけて、さっとあげる。水で冷やして、短く切り、すり鉢に入れて醤油で和えてすり胡麻をかけた。小鉢に盛って、小傘のところに持って行く。それで食事の用意は終わりだった。
「はい、どうぞ」
「ありがと、早苗」
食事の用意は一人分だった。早苗にはもう必要のないものだ。早苗の食事は小傘が食事を終えてからだ。早苗がおひたしを作っている間に、小傘はだいたいの食事を終えていた。
「今日はどうでした? 小傘さん」
「うん。あんまり驚いてもらえなかった。やっぱりもっと何か変わったことした方がいいのかも」
「はい……幻想郷は変な人ばっかりですしね」
「山の神社の連中にも会ったよ。偶然里に来ててさ」
「………………」
「心配してたよ、早苗のこと」
「……はい。でも、もう、忘れたいんです。どう生きたらいいかも、今は分からないです」
「………………」
小傘は食べ終わって、箸を置いた。それから、部屋の隅に置いてある、人の顔が入るほどの桶を自分のところに引き寄せた。
「こちらこそ、いつもありがとうございます、小傘さん」
「いやいや、早苗の為だもん。ご飯も作ってもらってるしさ」
小傘は桶を膝で挟んで、人差し指と中指を喉の奥に突っ込んだ。指の腹で舌を圧迫して押すようにして、嘔吐いた。喉と食道は、嘔吐いた時に、戻ってくるものを胃に戻そうとする。小傘は指を強く押し込んで、戻ってくるものをそのまま逆流させた。胃から、さっき食べたばかりの食事が戻ってくる。嘔吐物の中には半分解けたアジと米が茶色の胃液に混じっている。
咳き込む小傘はゲホゴゲゴボゴボ喘いで、喉の奥と食道から出てくるものを全部戻した。吐くと、過剰に分泌されて涎がこぼれる。小傘に、涎を桶に入れるつもりがなくても、胃液の苦さとすっぱさで口から出してしまいたくて、桶の中に入れてしまう。鼻の奥に感じた異物感から小傘は呻き、カホ、コホ、と小さく空咳をしてから、口を閉じ、鼻から強く息を吐いた。鼻から鼻水にまみれた米粒が飛び出した。
一度落ち着いてから、小傘はもう一度指を突っ込んだ。できるだけ、早苗に多く食べさせてやりたいと小傘は思っている。だから、小傘は胃の中に入っているものを全部吐き出した。何度も、何度も、小傘は指を突っ込んで吐き戻した。やがて茶色の胃液と妙に水っぽい涎をこぼすほかは何も出なくなり、早苗を見た。吐いたせいで涙で頬はずくずくで、鼻水も垂れ流しだった。口元には胃液ののこりと、胃液の中の米粒がついている。
「さ、早苗、できたよ」
「はい……ありがとうございます」
早苗は小傘に顔を寄せると、涙を舐めた。鼻水も舐め取って、唇に触れた。小傘の口の中に残る米粒も胃液も吸って、舐め取って、顎や頬にこびりついた胃液も舐めた。早苗はそのたびに食事に付加する、神としての喜びと、吐瀉物、汚物を食べる、人間としての異常な味が脳を駆け巡って、複雑な気持ちになった。吐瀉物を食べる気分の悪さが喉を走る。だけど、抑え込んで胃に送り込むたびに、食事のできる喜びが生まれるのだ。
小傘の身体を通った食事は、妖力が宿り、神への過渡期を過ごす早苗にとって得やすい食物となる。だけど、早苗の、半分の人間の部分が忌避している。だけど、そうでもして食事を得なければ、早苗は死んでしまう。小傘はそうやって何とか早苗を生かしていた。
早苗は丹念に、小傘の顔を舐めた。特に口の中は何度も、どこまでも、舐めた。舌どうしを、歯茎の間を、歯の裏を、頬の内側を…胃液の一滴も無駄にしまいと舐めた。それから、早苗は顔を下に向けて、桶に顔を突っ込んだ。みそ汁と、胃液でできた汁の中に、米粒と、細切れの魚の身とほうれん草が浮かんでいた。遠目には茶色い液体の中に、白と緑と茶の物体が浮かんでいるようにしか見えない。独特の悪臭は耐え難い。だけど、早苗の中の半分は喜んでいる。食物の良い香りとさえ思えてくるほどだった。早苗は段々と人間から離れつつあるのだった。桶を傾けて、隅に寄せ、手で掬って口に入れた。粘性の高い胃液が手に残った。早苗はそれを無感動に飲み込んだ。ず、ずちゅ、ずる、ず、ずる、ずる。味を確かめるようにそうする。桶を両手で抱いて、口元で受けた。ごく、ごくと喉を鳴らして、気味の悪い胃液を飲み込んでいく。小傘でさえ気味の悪くなるような光景だ。だけど、早苗はそうするしかない。
死にたくない、いっそ死んでしまいたい、だけどそのどっちともつかず、今はこれを受け入れるしかない。そういう感情だ。嫌だけどするしかないというような。早苗はそれを全て飲み込むと、桶の縁を舐めた。内側も全て舌を這わせて、丹念に長い時間をかけて、舐め取った。
やがて全て済むと早苗は顎を上げてげっぷをした。それから、こんなに辛い目にまであって、ああどうして自分は生きているのだろうと思った。
友人にゲロキスについて熱く語られまして。
僕は気分が悪くなりながらも惹かれました。
書くことで理解を深めようと思いました。
好きなキャラは複数いて決めきれないので今回は早苗にしたのですが、規約違反かな。もし違反するようなら省いて下さい。
R
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/26 18:47:47
更新日時:
2013/02/27 03:47:47
評価:
15/15
POINT:
1230
Rate:
15.69
分類
産廃10KB
東風谷早苗
多々良小傘
でも小傘ちゃんのゲロ飯を食べることができるならそんな大した悩み事じゃあないんじゃないですかね早苗さん。
鳥類の餌付けを思い出した私は単純思考。でも根幹にあるのは愛だと思いたい。
いぎたない者の見る悪夢。
人はパンのみにて生きるにあらず。
人には愛が、神には妄信が必要なのだよ。
神になって胃が退化して、
他人が
消化した物しか食べられないなんて。
テンポいいですね。
現人神の拒絶反応ってのはなるほどと思いました
元が人間だから死にたくないと思うのも仕方のない事なのですね。
今後早苗と小傘がどうなるか等も気になります。
神奈子の出すマジックライスじゃ駄目なんでしょうか。
早苗さんの葛藤が良い感じでした。
さすがにちょっと気の毒ね
それにしてもいちいち指突っ込まないと吐けない人は不便だなぁ