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『産廃10KB 「さとりんはコウ立て無視の突進少女」』 作者: あぶぶ
地霊殿のさとりの私室。
天井のステンドグラスから零れる光は太陽のものでも人工のものでも無い。
昔、ここが地獄だった頃に地底に落とされた罪人の魂が放つおぼろげな炎が、屋敷の薄暗い屋内に優しげな明かりを提供していた。
今、さとりの小さな書斎では、招かれたこいしがアンティーク物の椅子に腰掛け、机を挟んで姉と向かい合っている。
机の上には碁盤が置かれており、これからゲームを始めるところらしい。
「ふふふ、今日は私が勝っちゃうからね?お姉ちゃんを盤上でヒーヒー言わせてあげる♪私にはお姉ちゃんの読心術は通用しないからね〜」
「あらあら、威勢が良いわね」
洋館に碁盤とは場違いな感じもするが、こいしが人里で囲碁を知り、ここに囲碁文化を持ち込んで以来、居候の妖怪達の間で一寸したブームになっていた。
最初は興味なさげだったさとりも、ペットの妖怪たちが楽しげに盤を挟んでいるのを見て、何が気の多い彼らをそんなに夢中にさせるのかと不思議に思い、碁打ちの輪に入ると直ぐに屋敷で一番の打ち手になった。
今日はさとりが長らく屋敷を離れて放浪していたこいしをゲームに誘って、姉妹間コミュニケーションと暇つぶしをかねた勝負を始めたのだ。
二人の力量は石三つ分(腕が劣る方が自分の石を三つ置いてから始めること)ほどさとりが上手だが、今日は腕を上げたというこいしの弁を聞きハンデ無しで打つことにした。
こいしが黒を、さとりが白を持ち勝負が始まった。
「おや、面白い構えね……隙だらけだわ。それ」
囲碁とは黒石と白石を交互に打ち、自分の石でより多くの陣地を囲った方が勝ちというゲームだ。
最初はお互い好きなように地を囲っていくが、やがて相手の領域に踏み込まねばならぬ時が来る。
その時に相手の石を殺したり、封じ込めたりといろいろな戦法が必要になるのだ。
今日はこいしが通常のシマリ(構えとも言う。四方ある隅の一つにニ、三手掛けて自分のテリトリーだと主張する事)とは違った構えを作りさとりを挑発した。
囲碁は何千年も昔から研究されており、定石やシマリなどには一定のパターンが存在する。
こと序盤において、最善手というのはプロの間でも意見が分かれるのだから、アマチュアである二人が多少定石に無い手を打ったからといって勝敗が決まるようなことは無いが、相手が自分の見た事が無い手を打つと、ついついいちゃもんをつけてやりたくなるのが碁打ちというものだ。
「……ううっ」
「おやおや〜お姉ちゃん?今の踏み込みは失敗だったんじゃない?」
開始早々こいしの黒石に小競り合いを仕掛けたさとりだったが、盤面の端っこに自石を封じ込められて早くも黒優勢である。
実はこいしが打った手はトーチカ(ロシアの鉄筋コンクリート製の防御陣地から取った名前)という昔からあるシマリだった。
三手かけて完成する構えで、スピードを重視する現代囲碁ではほとんど見られないが、こういう素人同士の戦いで相手を混乱させるのにはもってこいだと思う。
「お姉ちゃん焦り過ぎ♪有名な定石ばっかり打ってるからだよ。脊髄反射で対応するから出し抜かれるのよ?」
「……」
どうやらさとりにスイッチが入ったようだ。胡乱なジト目でこいしを一瞥すると、押し黙って盤面に集中する。
突然会話が途切れた事で気が散ったのかこいしの打ち方が雑になる。この辺の番外戦術ではこいしはさとりに全く歯が立たない。
心が読めないため何時もほどではないがさとりは基本的にドSであり、相手の秘密を覗き見てはからかいの材料にしている変態である。
無意識に行う仕草がどういった心情を表しているのかを何時も見ているので、たとえサードアイを使わなくても相手の思考を推察して、更には誘導する事が出来るのだ。
「ちょ、ちょっと、怒らないでよ。良いじゃん。何時もは私がやり込められてるんだから……て、あれ?」
今度はこいしが単純な読み間違いをした。天秤のように優劣が傾く。二人にそれほど力の差が無い為尚更だ。
「今度は私が一本取ったかしら?」
「ま、まだまだ私が全然有利よ!」
二人の棋風を言い表すなら、さとりは本格的な打ち方で悠々と風呂敷を広げ、相手がテリトリーに入ってきたところでカウンターを喰らわすといった感じ。
こいしは奇抜な手で相手を混乱させて、ミスを誘う打ち方だろう。
形勢は開始早々喧嘩を吹っかけたさとりが相手の陣地内で暴れている間に、悠々と外堀を固めたこいしが優勢である。
こいしは勝った気でいるが姉は最後まで打つつもりらしい。
黒石が数個あるだけでまだ戦いが起こっていない一角にさとりが殴りこみをかける。
常に行け行けモードなのはドS故だろうか?泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロのように常に喧嘩を吹っかけるのが悟り妖怪の宿命だと言いたげである。
険しい表情で盤面に石を打ち付けるさとりに実は気いつかいのこいしが小話を持ちかける。
「ねえ、お姉ちゃん。最近どう?」
「まあ、特に変わった事は無いわね……貴方にもう少し落ち着きが出てくれると嬉しいんだけど」
「ふーん」
こいしが地霊殿に引きこもっているさとりに地上の様子などを聞かせている内に終局になった。
「ふふふ、私の四目半勝ちだね?もっと差がついてると思ってたのに。さすがお姉ちゃん♪地力では私よりまだまだ上って感じかな?」
「……」
さとりは互戦(ハンデ無しの勝負)で負けたことで相当悔しがっていた。
目なんか一寸涙目である。
傍目にはたかが囲碁の事と思われるだろうが、そこは姉と妹の関係。妹には負けたく無いプライドがあるのだ。
押し黙る姉にいろいろフォローを入れるが遂に涙を流しだした。
「お、お姉ちゃん?」
「うっ、ぐすっ。卑怯よ……嵌め手(間違った対応をすると途端に不利になる手。逆に知っていれば仕掛けた方が応手に困る)を打つなんて。こいしがそんな卑怯者だとは思わなかったわ……」
マジ泣きを始めるさとりをなだめる為に話題を変えたり、今日は運が良かっただの、自分にしては出来すぎていただのお決まりの謙遜を並べるがさとりの機嫌は直らない。
啜り泣きを続ける地霊殿の主はまるで駄々っ子の様だ。
まあこいしの方も胸中では『お姉ちゃんの泣き顔超可愛い』とか思っているのだから二人は似た者姉妹なのだろうが。
内容が内容だけに興味を持ってもらえるかいささか不安です。
ただ好きな題材なだけに何時もより楽しんでかけましたw
やっと読者として皆さんの作品を読めると思いホッとしております。
誤字や日本語がおかしいなどありましたらご指摘くださると幸いです。
(このSSは某MMD作者様に多大な影響を受けております)ボソッ
あぶぶ
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/27 14:32:09
更新日時:
2013/02/27 23:36:24
評価:
12/14
POINT:
960
Rate:
13.13
分類
産廃10KB
さとり
こいし
囲碁
あのさとりが……。かわいい。
あのこいしが……。良い娘だ。
心温まるお話でした
囲碁は判らんけど、上手く打ち手の性格を反映させながら書けてたので、もっと対局の一点に絞って二人の違いを書いて欲しかったかなと思いました
どS姉妹かわいいですね。
さとりさんしっかりしろよ、お姉ちゃんだろ。
囲碁は分かりませんが注釈のお陰で特に苦も無く読めました。
二人のやり取りが可愛かったです。
特に抑揚のない話でしたが、さとりとこいしの仲の良さが伝わってきて胸がきゅんとしました。
さとりさま可愛いね。
最後のこいしがとても可愛かったです。