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『産廃10KB 「サニーちゃんと霊夢」』 作者: 紅魚群
はやく霊夢さんに会いたいな。
今日はなんのお話しをしてくれるのかな。
肩たたきやおそうじのお手伝いしたら、また「ありがとう」って頭をなでてくれるかな。
霊夢さんに、会いたいな。
※
サニーちゃんは太陽の妖精。いつも笑顔で、元気いっぱいで。でも、とってもおバカでした。
字も書けないし、料理も出来ないし、何もかもどんくさいし、だから一緒に住んでいるルナとスターからも、馬鹿にされていじめられていました。
いつも笑顔って言うのも、実は嘘です。本当はとっても泣き虫のサニーちゃん。みんなのいないところで、こっそりひっそり泣いたりするのも、無理のないことでした。
でも、そんなサニーちゃんにも心の拠り所があります。サニーちゃんは、博麗神社に住んでいる霊夢のことが大好きでした。
綺麗で、かっこよくて、強くて、憧れの存在。それに、霊夢はサニーちゃんのことをいじめたりはしませんでした。
誰かに酷いことされて体に傷をつけて行けば、すぐに霊夢はその手当てをしました。悲しいことがあったら、元気付けたり、慰めたりしてくれました。
たまに冗談でいじわるなことも言うけど、霊夢はとっても優しかったのです。
何年も、何十年も、そんな霊夢にサニーちゃんは会いに行き続けました。そして、霊夢は嫌な顔ひとつせずサニーちゃんのことを受け入れてくれました。
だから今日も、サニーちゃんは自分だけ朝ごはんを食べさせてもらえなかったことが悲しかったので、霊夢のいる博麗神社にひとりで遊びに行きます。
霊夢さんいるかな。もしかしたら、朝ご飯ごちそうしてくれるかな。そんなことを考えているサニーちゃんの足取りは、とても軽いものでした。
林を抜けて神社の境内に入り、いつも霊夢が座っている縁側を見ます。しかしそこには霊夢の姿はありませんでした。
代わりに八雲紫がそのすぐそばに立っています。
博麗神社によく来ていることもあって、紫とサニーちゃんは今はもう顔見知りでした。
「ゆかりさん、霊夢さんは?」
「あなたは…」
紫はどこか暗い表情でした。サニーちゃんにもそれは分かったので「どうしたの?」と言う代わりに小首をかしげてみせます。
紫はサニーちゃんに背を向けて、ゆっくりと言いました。
「…霊夢は昨日、天寿を全うしました」
「てんじゅおまっとう?」
サニーちゃんは難しい言葉が分かりません。紫は分かりやすく言い直すことはせず、続けて言いました。
「今日これから葬儀を行いますから、サニーミルク、あなたも参加しなさい」
「そうぎ?」
知らない単語ばっかり出てきて、はてなマークを浮かべるサニーちゃん。
紫は神社の居間の方へ上がると「こっちへいらっしゃい」と手招きをしました。言われるままサニーちゃんも靴を脱いで神社にあがります。
居間に入ると紫は障子を閉めて、スキマの中から真っ黒の子供用ワンピースと黒のハイソックスを取り出しました。単色で、大変地味なものです。
「サニー、これを着なさい」
「は、はい」
やれと言われたことを、基本的にサニーちゃんは断ることを知りません。
サニーちゃんは着ていた白のブラウスと赤いスカートを脱いで、もたもたした動きでなんとか着替えました。
「わぁ、カラスさんみたいだね」
真っ黒な服が珍しいのか、サニーちゃんはくるりと回ってはしゃぎます。
サニーちゃんがそうしている間に、紫も喪服に着替えていました。
「斎場は里の方にありますから、そちらに行きましょう」
サニーちゃんの足元がふわっとなくなります。紫はスキマを使って、サニーちゃんと共に人里へと移動しました。
里の斎場に着くと、たくさんの人妖が皆黒い喪服に身を包み斎場へと列を作っていました。
一見お祭りのようにも見えましたが、誰も笑っていなかったので、サニーちゃんは少し怖くなってきました。
不安のあまり、サニーちゃんは紫の服を引っ張ります。
「あの、ゆかりさん…。これからなにをするんですか?」
「…霊夢のお葬式よ」
「おそうしき…」
お葬式という言葉は、サニーちゃんも知っていました。死んでしまった人のためにやる、催し物のようなものだと思っていました。
「霊夢さん、死んじゃったの?」
「ええ」
紫が短く答えます。でもサニーちゃんには、なんだかよく分かりませんでした。
霊夢さんは強くて、すごくて、私なんかより全然すごくて。だから死んじゃうなんて、サニーちゃんは夢にも思っていませんでした。
妖精のサニーちゃんも死んだことはあります。虫を殺したこともあります。
でも、人間とこんなに仲良くなったのは初めてだったので、人が死ぬということが、よく分かっていませんでした。
紫が式場の中に入ると、里の重役たちが紫に頭を下げました。
そしてサニーちゃんの方に目を向け「なんでここに妖精が…」といった視線を送ります。
怖くなったサニーちゃんは紫の体の陰に隠れようとしましたが、「大丈夫」と紫はサニーちゃんの手を引きました。
式場は広い畳の部屋で、たくさんの座布団がそこに並べられていました。
「サニー、座って」
紫は一番前の列の座布団に座ると、その隣に座るようサニーちゃんを促しました。
なんだかよく分からないけど、厳かな雰囲気に押されて緊張してしまったサニーちゃんは、ぎこちない動きで紫の真似をしてそこに正座しました。
正面にはたくさんのお花と、笑ってる若い頃の霊夢さんの写真が飾ってありました。そしてその前に、大きな木の棺があります。
サニーちゃんにはそれが何なのか分かりませんでしたが、霊夢の写真を見て少し緊張をほぐしたようでした。
そんなサニーちゃんを見て、後ろの列に座っていた橙が藍に聞きます。
「…藍様、どうして妖精が紫さまの隣に座っているのですか?」
「私も知らないよ。また紫さまの戯れだろう」
それを聞いてサニーちゃんはまた、居心地の悪さに身をすくめました。
なんで紫さんはこんなところに私を連れて来たんだろう。霊夢さんに会いたいな…。サニーちゃんはそう思いました。
葬儀そのものはそれほど時間はかかりませんでしたが、サニーちゃんにとってそれはとても退屈なものでした。
住職さんがお経を読みます。焼香を回します。紫が挨拶をします。
それらがすべて終わったころには、サニーちゃんは足も痺れてくたくたになっていました。
「終わったの?」
皆が部屋から出て行くのを見て、サニーちゃんが紫に聞きます。
「いいえ。これから火葬場に行って、それで終わりよ」
「かそうば…」
またサニーちゃんには分からない単語が出てきました。でも大人しく、紫の後についていくしかありませんでした。
少し歩いて火葬場に着くと、サニーちゃんはまた辺りを見回しました。
先ほどよりもだいぶ人が少ないようです。サニーちゃんの良く知る、レミリアの姿もありました。
レミリアはいつもサニーちゃんのことをぶつので、サニーちゃんはレミリアのことが苦手です。それに霊夢とも仲が良いので、よく嫉妬しています。
でも、今のレミリアはサニーちゃんのことを見ても、何もしませんでした。よく見ると、泣いているようでした。
サニーちゃんはだんだん怖くなってきました。
ものすごく、怖くなってきたのです。
斎場にあった棺が運び込まれてきました。
サニーちゃんは突然棺まで駆け寄ると、その重い蓋をなんとかずらし開けて、その中を見ました。
「お前!何をしている!」
棺を運んでいた男性が怒鳴ります。すぐにサニーちゃんは棺から引っぺがされてしまいました。
でもサニーちゃんは一瞬、棺の中を見ることができました。霊夢が眠るように横たわっていたのを、確かに見たのです。
「離してあげなさい」
紫が里の人に言います。サニーちゃんは解放され、トコトコと紫の方に走り寄って聞きました。
「霊夢さんは…えっと…戻って…来るよね…?」
サニーちゃんがぐしゃぐしゃになった思考で一生懸命言葉にします。紫はできるだけ平静を保って言いました。
「…戻っては来ません。霊夢は、死んでしまったのですから。人間とは、そういうものです。妖精とは違うのです」
しかし紫の声も震えています。
紫は棺を開けるように言いました。里の男たちは顔を見合わせた後、言われたとおり棺の蓋を開けました。
そして紫は、霊夢の頭に結ってあった赤いリボンを解くと、それをサニーに渡しました。
「燃えてしまうより、あなたが持っていた方が良いでしょう。…私は幻想郷にあなたのような心優しき妖精がいることを誇りに思います。ありがとう」
サニーちゃんはもう一度棺と、大きな火葬用のかまどを見ました。そしてリボンを紫へと押し返します。
「いらないよこれ。これ霊夢さんのだよ…?霊夢さんが使うものだから…わたし…わたじ…ひっぐ…ううゔう…!」
サニーちゃんの目からボロボロと涙が零れ落ちました。
「やだあああ!!霊夢さんに会えないなんてやだあああ!!!やだあああああ!!!うわあああああん!!」
サニーちゃんはその場で棒立ちしたまま、わんわんと叫ぶように泣きました。紫もこらえきれなくなり、その瞳から何百年ぶりかの涙をこぼします。
しばらくそうやってサニーちゃんは泣いていましたが、ふと泣き声のまま、紫に聞きました。
「ひっぐ…れいむざん、もやし…ちゃうの…?」
「…ええ」
「おねがい…。わだしもいっしょ…に、もやしてよ…ぐすっ…。さいごまで、れいむさんといっしょに…いたい」
それを聞いた里人や妖怪たちがざわつきます。「信じられない」「これだから妖精は」と呟きます。
サニーちゃんの願いは、すぐさま取り下げられてしまいました。当然です。死者を弔う火葬に生きているものを一緒に入れるなど、ありえないことです。
ダメだと言われ、耐えきれなくなったサニーちゃん。
紫の言葉を聞くのも待たず、その場から無言で森の中へと走って逃げてしまいました。
サニーちゃんがいなくなり、やれやれと里の男が蓋を閉め直そうとしたところ、
「待って」
紫が一言、止めました。紫はリボンを霊夢の頭に結い直した後、霊夢の顔を眺めます。
涙が渇いてしまうほどの時間そうしてから、ようやく紫は蓋をするように言いました。
そしてついに、棺が火葬炉の中に入れられました。
霊夢との最後のお別れだというのに、サニーちゃんはどこに行ってしまったというのでしょうか。
…いいえ、サニーちゃんはいます。
サニーちゃんは、棺の中にいました。
紫が蓋を開けてくれている間に能力で姿を消して、こっそり棺の中に入り込んだのです。
ゴォオオと外からすごい音がします。
でもサニーちゃんは怖くありませんでした。霊夢と一緒だから、何も怖くはありません。
ものすごい熱で息も出来なくなって、全身に激痛が走って、でもサニーちゃんは声ひとつあげませんでした。
『もう、馬鹿なんだから。でも、ありがとう。サニー』
泣き虫なサニーちゃんですが、ぐっと涙をこらえます。
大好きな霊夢の最後に、泣き顔を見せたくなかったのです。
火葬が終わり、骨だけになった霊夢が炉から出されます。
もう皆、サニーちゃんのことなど忘れていました。妖精は死ぬと体は消えるので、サニーちゃんの骨など残ることはありません。
なので霊夢の腕が何かを抱くように曲がっていたことには、紫以外誰も気付きませんでした。
※
サニーちゃんは今日も、誰もいない博麗神社の縁側で、ひとり空を見上げて泣いています。
END
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/28 12:17:01
更新日時:
2013/02/28 21:17:01
評価:
23/28
POINT:
2140
Rate:
15.46
分類
産廃10KB
サニーミルク
博麗霊夢
八雲紫
悲しい最後ですが悪い子がいないのでとても読後感が良かったです。
彼女を喪ったから。
彼女の死を理解したから。
彼女が愛したセカイの具現だから。
一人ぼっちになっても、生きて行ける。
上を向いて歩こう。涙が零れないように。
サニーちゃん可愛いです。
綺麗なお話だなぁ。
サニーと霊夢の愛もだけど紫が優しくて切ない
サニーの中で霊夢の喪失感がどんどん明確に形作られる描写と、リボンを押し返してからの流れが胸を打つ。
ここにいる親切で物の読み方を知っている方々は評価するかもしれませんが、私には出来ません。
また、サニーが好きなのは構いませんが特に3匹の中でサニーである必然性、神職がいないとは言え本職巫女を仏式で見送るなど不自然な配慮のなさがガワとしての東方を感じさせてしまった。
もともとあなたの作品が好きなので今回コメントした次第で、この雑感は他の作者と比較して、という訳ではないと言う事は付け加えておきます。
産廃10KBで個人的に一番の話。
所謂「良い話」ですけれども、何というか良い話だろ泣けよ、というのを全く感じずに素直に読めました。
殉死というと、王様と一緒に無理やり生き埋めにされたり、世間体や責任感から、という感がありますが、これは殉死の最も純粋な形かも知れません。
サニーちゃんがおバカ過ぎやしないかなとも思いましたが、自分が小さな子供の頃に人の死を理解していたかを考えると、過ぎる事は別にありませんね。
産廃の話とは思えません。
健気すぎるサニーちゃんに感動しました。