Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『産廃10KB「博麗神社で怪談を語ってはいけない」』 作者: 町田一軒家+
妖怪たちとの宴でのことだったと思う。
宴もたけなわ、私が妖怪だらけの神社なんだから怪談の一つや二つぐらいあるだろ、と霊夢をからかうと、あいつは少し考えてから教えてくれた。
「まあ、怪談といえばいいのか……私が小さかった頃の話なんだけど」
幼い頃から霊夢は一人で博麗神社に住んでいるが、食材や日用雑貨等を買うために、月に何度か里へやってくることがあった。当時から並外れた力を持っていた彼女は、道中襲い掛かる妖怪や妖精を軽くあしらっていた。
「当時は、まだスペルカードルールなんてなかったから、妖怪が人を食らうなんて日常茶飯事。まあ、買い物行くのにも命がけだったわけね」
今では人々に敬われたり、崇められたりするが、その頃は霊夢ちゃん霊夢ちゃん、と大人にかわいがられていた。里の子供たちとも仲良く遊び回り、私――霧雨魔理沙と知り合ったのもこの頃だったと思う。
「あの頃は身分の差なんてないようなもんだから、一緒に遊ぶのは本当に楽しかったわ。神社にやってくる人間なんてほとんどいなかったから、数少ない楽しみの一つだったわね。友達も何人か作ることができたし」
特に二人の女の子と遊ぶことが多くてさ、と霊夢は続ける。その二人の友達は、人里ではご近所同士で仲が良く、名字を聞けば両方とも霧雨道具店のお得意様だった。
「○○と××って子なんだけど、二人とも私のことが好きで、よく三人で遊んでた。二人とも友達思いで優しい子でさ、どっちの家にも遊びに行ったことがあったわ」
里の外は妖怪が跋扈しているため、子供たちが遊ぶ場所は限られていたが、夏になれば博麗神社で祭りが行われるため、大人たちに連れられて、神社へやってきた子供たちは今までの鬱屈さを晴らすかのようにはしゃぎ回った。
「鬼ごっこやかくれんぼ――里の中じゃあまり出来ない遊びができるし、おまけに屋台もあった。お酒は飲めなかったけど、あの頃はあの頃ですごく充実していたわね」
ある日、博麗神社の境内に○○と××がやってきた。里から博麗神社までの道は、妖怪が出没する危ない道だったが、幸いにも妖怪に遭遇することなく五体満足で神社にたどり着けた。祭りの時期を過ぎた境内には人っ子一人おらず、何とも寂しい雰囲気を醸し出していた。二人は賽銭箱の前に座ると、一人がほとんど泣きそうな表情で話し始めた。
「『霊夢ちゃんがどうしていなくなっちゃったのはっきりさせなくちゃ』って言い出したの」
「はあ?」霊夢の言葉に、私は思わず聞き返した。「なんだよ、それ? 霊夢は私の目の前にいるじゃないか」
「実は、当時子供たちの間で流行っていた怪談というか噂話みたいなのがあってさ」
それは、博麗神社で怪談を語ると怪談通りのことが起きるというものだった。
「例えば、自分の嫌いな人間が死んでしまうという怪談を語ったとする。すると、その人は怪談の通りに死んでしまうのよ。いなくなるという怪談を語ると、幻想郷からいなくなってしまう。存在すら忘れられてしまうわ。ただ、これにはいくつか条件があって」
怪談を語るときは、必ず聞き手がいること。
四日連続で怪談を語ること。
怪談の登場人物にされた人に、怪談を知られてはならない。
条件がいくつかあるのは、偶然や軽い気持ちによる事故を防ぐためらしい。
「子供って、こういうの好きでしょ? だから、子供がほいほいと怪談を語って、沢山の人が死んだりいなくなったりしたら困るわけ。四日連続やろうとしてもここまでの道は結構危ないし、なにより大人が許さない。それに子供って飽きっぽいから、一時の感情なんてすぐ忘れてしまう。まあ、普通はこんなこと起きないわけね」
「実際に起きたのを見たことがあるのか?」
「見たことないけど、そうなっているのよ。そんなものでしょ。噂なんて」
ところがある日、××が夏祭りの記事が載った新聞(彼女の家は天狗の新聞を定期購読していた)を見ると、写真はおろか文章にすら霊夢の存在がすっぽり抜け落ちていることに驚き、家中を探し回ったが、霊夢の存在の痕跡が見当たらず、彼女は親友である○○の家に行ったという。ところが○○の家でも霊夢の存在を示すものがすべて消え去っていた。
「とにかく、二人で必死に調べた。だけど、博麗神社には博麗霊夢の存在がすっぽり抜け落ちていた。もともとその子がいなかったように、その存在を示すものはなかったのよ」
探しても探しても、霊夢の存在を示すものは何一つ出てこない。 霊夢の存在は、二人の記憶の中にしか残っていなかった。
二人とも、すぐに博麗神社の怪談に思い当たった。
もしかしたら、霊夢は博麗神社での怪談のせいでいなくなってしまったのかもしれない。
誰かがやったんだと思い、お互いの友達の顔を思い浮かべていったが、どれもピンと来ない。
名前も全て出尽くした頃、××は青ざめた顔で口を開いた。「私が怪談を語ったせいでこうなったんだ」と。
驚いた○○が問い詰めると、××は語りだした。
「夏祭りの日、彼女は祭りが始まる前にこっそり怪談を友達に語っていたのね。博麗の巫女も××も真っ暗闇に呑みこまれて消え去ってしまう、という内容の怪談をね」
「それ、ルーミアの仕業じゃないか?」私は宴会場の隅っこで食べ物にありつくルーミアを指さす。「ていうか霊夢がいなくなったら、幻想郷が終わってしまうぜ」
私が冗談めかして言うと、霊夢はあっけらかんと答える。
「その時は、紫が代わりの巫女でも連れてくるでしょ」
どうしてそんなことをしたのか、と聞くと、××は○○のことが気に入らなかった、と言い出した。最近、霊夢が自分と一緒に遊ばないで、○○と遊んでいることに腹を立てていたという。
「本当は二人で遊びたいのに、○○に先を越されてしまった。だから、かっとなってやったんだって」
「へえ、昔から人気者だな、霊夢は。私も妬いちゃうな」
私の言葉に、霊夢は鼻で笑った。
「あんたの場合は、茶やお菓子をたかりにきているだけでしょ。でもまあ、みんな私と一緒に遊びたがってて、大人数で遊ぶこともあったわね――で、どこまで話が進んだんだっけ」
「××が怪談を語ったところまで」
「ああ、そうそう。そうだったわ」
まもなく、××は自分の行いを後悔し、それ以降は何もしていないという。
「じゃあ、どうして霊夢はいないのよ」と責める○○に、××は逆に言い返した。
「そんなこと言っているけど、本当に○○は何もしていないの」
その言葉に、○○は表情を強張らせた。
「○○も一度だけ、同じことしていたのよ。私に一回、××に一回。仲良くしている振りして、○○も××のことを邪魔に思ってたわけ」
「なんだ、お互い様ってわけか。でも、霊夢がこの話をしているわけだから、結局は何も起こらなかったんだろ?」
まあね、と霊夢は頷く。
「今だから言うけど、××がいなくなる怪談を聞いたの私なのよ。××が家に帰る途中で暗闇に包まれて、そのまま呑みこまれてしまう話を聞かされたわ。あまりにも大げさに語るもんだから白けちゃって、全然怖くなかったわ」
「ふーん、二人とも似たような話だな。それで何か起きるわけじゃないんだろ?」
「当たり前だけど一回くらいじゃ怪談通りにはならないし、二人の分を合わせるのもなし。四日連続じゃなきゃいけないから、どう考えてもルールに当てはまらないのよ」
二人は徐々に怖くなった。
犯人探しの前に霊夢を見つけるため、二人は博麗神社に行ってみることにした。霊夢が消えたとなると、いったい誰が犯人なのか気になるところだったが、今は霊夢を探し出すのが先決だった。
○○は家からランタンとマッチを持ち出し、××と一緒に博麗神社へ向かった。お互いが相手を邪魔だと思っていた以上、引くに引けなくなっていた。
こっそりと家を抜け出し、建物の影に隠れながら歩いて行ったが、幸い大人たちに遭遇することなく、里を出ることができた。
神社に着くと、二人は霊夢を探し回った。境内から社務所兼住居に向かったが、まるで最初から人がいなかったようにひっそりと静まり返っていた。納戸や裏手の森まで探しまわったが、霊夢の姿はどこにもなかった。
二人は賽銭箱の前に座り、霊夢がいなくなった理由や犯人を話し合ったが、結論は出るわけもなく、いたずらに時間は過ぎていった。
やがて、日が暮れたこともあって、仕方なく家に帰ることにした。夜は妖怪たちの活動時間であり、外を出歩くのは非常に危険だからだ。
明日になれば霊夢は戻ってくる。二人はそう思うことにした。
鳥居をくぐり、二人は石段を下りる。階段を下りていくにつれ、辺りはどんどん暗くなり、階段を下りきった頃には、周囲は一切の暗闇に包まれていた。
二人は首を傾げた。階段を下りるのに五分もかかっていない。日が暮れるにはあまりにも早すぎる。
○○は、家から持ってきたランタンにマッチを使って灯を点けた。お互いの姿は見えるようになったが、いくら周りを見渡しても木々や草むらが照らされることはない。妖怪や野犬の気配がないどころか土の匂いも森のざわめきも消え去っていた。まるで自分たちが語った怪談のように。
顔を見合わせると、相手の顔は真っ青に見えた。
不意にランタンの灯が消え、二人は再び暗闇に包まれた。
「その時、二人は気づいたの。私がいなくなる前、自分たち以外の人間と会った記憶がないってことに。それどころか、家から里を出るとき、彼女たちは里の人達とすれ違わなかったし、神社へ続く道でも、妖怪はおろか野犬一匹遭遇しなかった。さらには、霊夢がいなくなる前の日、自分たちが何をしていたかという記憶もない。二人はどちらに歩けばいいのかわからないまま、真っ暗闇の道で途方に暮れていたそうよ」
淡々と語る霊夢の横顔を、私は黙って見つめていた。霊夢は人間側に立って妖怪退治をする巫女のくせに面倒くさがりで自分勝手な奴で、なぜか妖怪たちから好かれていたりするけど、なんだかんだで良い奴だと思っているし、色んな奴に囲まれているのを、本人はまんざらでもないように思えた。だから、霊夢がこんな怪談を話し始めたのは意外だった。
「なあ、酔っぱらいの戯言だと思って聞いてほしいんだけどさ」と前置きしてから尋ねる。「どうしてそんなことしたんだ?」
「そうねえ。あの二人が私を好いてくれるのは嬉しいんだけど、あれって行き着くところまで行くと独占になるでしょ。自分の行動を縛られると思うと、正直鬱陶しいじゃない。それに魔理沙とか他の子とも遊びたかったし。でも、今思えば子供の頃の悩みってたいしたもんじゃなかったのに、なんであんなに思いつめちゃったのかなあ」
「今じゃ人間じゃなくて妖怪たちに縛られているけどな」
私が混ぜっ返すと、霊夢は「全くだわ」と言って笑った。
霊夢が幼い頃里の子どもたちと遊んでいたのは本当だし、怪談の中に出てきた二人の名字は実在する。あそこの家に子供がいたかどうかを思い出そうとしたが、頭に酔いが回ったせいか、なかなか思い出せない。いたようないなかったような、靄がかかったようにはっきりとしない。
まあいいや、と思って、私は杯に残っている酒を一気に飲み干した。明日になれば酔いもさめて思い出すことだろう。
立ち上がって宴の輪に戻ろうとして、私は振り返り、霊夢に尋ねた。
「なあ霊夢。その怪談を語るのは何度目なんだぜ?」
子供って無邪気だけど、時に残酷だよね。
町田一軒家+
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/28 13:43:07
更新日時:
2013/02/28 22:46:35
評価:
15/18
POINT:
1210
Rate:
13.00
分類
産廃10KB
博麗霊夢
霧雨魔理沙
捕らえようとすると神隠しに遭い、存在した歴史を食われてしまうから。
オチを読み、ああ、そういや、彼女も登場していたな(笑)
でもコレは・・・。
つまり子供たちは既に消えてしまった。 と。
じわじわきますね。
少し読みにくくも感じてしまいましたが…
・4日連続という条件がどう活きているのかわからない
条件提示後の記述は、基本的に日にちではなく回数の説明が多いので、この条件が作品でどう活きているのか最後までよく分かりませんでした。
おそらく、
祭りの日(ここで怪談が一回)→その後(何日か経って)新聞で霊夢の消失を知る→(その後何日か経って?)○○と××が博麗神社へ行く
という時系列なんだと思いますが、その間何日経過しているのか分からないので、怪談との関連性が分かりません。更に、上記の時系列も、間に怪談の条件と○○と××の不仲の描写が入ってるので、いつ博麗神社に二人が行ったのか、最初読んだ時わかりづらかったです。
また××が、嫌いな○○を陥れるためにどうして霊夢と××本人が消える怪談をするのかがよく分かりませんでした。○○が消える怪談なら分かるのですけれど。
その後、○○も同じ話をしたとありますが、それが、「霊夢と○○が消えた話」なのか、「霊夢と××が消えた話」なのかが分かりづらく、更に「(○○が)霊夢と××にそれぞれ一回ずつ(これは霊夢と××に怪談話をしたのか、この二人が消える怪談話をしたのか、どちらなのでしょうか?)話した」と書いてある一方で、同じ文章中に「一度だけ同じことをした」という記述があるのも、どういうことか把握出来ませんでした。
ここでモヤモヤしてしまったので、その後霊夢に怪談を話したのが、○○なのか××なのかも分からなくなりました。流れとしては○○なのでしょうけれど、××も××が消える話をしたと前段に書いてあるので。
そして、ラストは霊夢があの二人を消したことを匂わせる描写がありますが、霊夢が誰に怪談を話したのかが分かりませんでした。呪いの発動には最初の条件から、聞き手のいる状況で、4日連続で話す必要が有るわけですが、普段誰も来ない博麗神社に4日連続で誰が来れたのか? という疑問が読んだ限り解けませんでした。4回話せばOKなら理解出来ますし、最後の魔理沙のセリフも分かるのですけれど。
以上長々と書きましたが、別に面白くなかったわけではありません。むしろミステリー風味な雰囲気が好みだったので、分からないところが気になって色々考えた結果、こんな感じになってしまいました。
多くは私の読解力の無さに起因する問題だと思いますので、「こんな馬鹿な読者もいるんだなあ」と読み流して下されば結構です"
あらすじとしては子供が軽い気持ちから隣人を消してしまうというオーソドックスながらも残酷さとおどろおどろしさの感じられる良い内容だったので惜しく感じます。
魔理沙も四日目だとわかってて神社に来てるんだろうから性質悪い。
話だけで敵を消せる巫女さんまじぱないです。
この場合、魔理沙の「この話をするのは何回目〜」は呪詛何回目だという問いになりますが、四回以降は多分ありえない。幻想郷から消えるのなら恐らく霊夢の中からも二人の存在が消えるはずなのでこの怪談を語ること自体が不可能になるからです。
故に、この怪談は一〜四回目のいずれかであるはずです。(語った本人や博麗の巫女は例外とかルールがあるなら別ですが)
しかしここに疑問が。○○と××との付き合いは霊夢が幼い頃のはずで、それを「小さかった頃の話」と言う位まで成長した霊夢が今更二人を消そうと思うものでしょうか……?
今でも付き合いがあるんでしょうか?霊夢は二人との間に何か嫌なことがあったので、過去を拭い去るために消そうとしているのでしょうか?
細かい所が気になってしまいましたが、実にこの話は怪談してます。興味の引き方、事実関係の前後でのズレ、子供だから許される自分勝手な感情の発露、還ってしまう呪詛。
10kbという縛りから解放された怪談も機会があればまた。
でも、とりあえずこの怪談然としたオチと雰囲気はとても好きです。
霊夢はこれくらい自他へドライというか、他者と深く関わるのを好まずに飄々としているのが、個人的に好みです。
ですが、普通に怪談話として見る分には夏に見たい話でした。