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『産廃10KB 「全裸超人 聖白蓮」』 作者: 矩類崎
1.曙光
尼僧の苦悩は六道の衆生は何故こうも愚かなのかということだった。教えは記憶に留められず、五戒は破られ、行いは悉く因果に絡むと見えなかった。徒労感が波のように押し寄せてくる。足取りを重くする疲れを引き摺り寺へ戻った。一所だけ粗末に設えられた寝所の暗がりで一人内に篭っている間に、心に何か火花のようなちらつきを感じた。
「暗い、何もかもが暗い。それから空の深いところに火が煌く」
張り裂けそうな孤独と向き合っている間に白蓮の魂は意識の下に沈み込んで行く。形定まらず縹渺とした夢と苦悩の目まぐるしい交錯の、そのいっそう曖昧な彼方に、あまりに浄らかな弟命蓮の気配が漂っていた。
――白蓮殿。あえて姉上とは申しませぬ。私はもう世に在り続ける縁にありませんでした。人々のことが心残りです。衆生はひとしなみに救われねばなりません。無明にある者は誰かが照らさねばなりません。白蓮殿。あなたをおいて誰がいるのです。
目覚めて、微かに濡れた寝具を憮然と握り締めた。にわかに起立し、襖を開け、二部屋を通り抜け、明るさの映る障子を開け放った。白蓮は浄土ならぬ末法の世を再び目にした。しかしそれは曙光に照らされ如何にも幸福で、微風が舞わす塵には花の香りが混じっていた。白蓮は自分の内奥に力強いものを感じた。白蓮は法衣を脱ぎ捨てた。白蓮は恥じらうべき姿に恥じらうことなく、ただ真っ直ぐ人々の許へ駆けて行った。その体はもはや腰巻ひとつ纏っていなかった。
2.白蓮の教え
「これは。白蓮さまんでないかあ」
「あ妙じゃ。なんも着とらん。素っ裸じゃわ」
その通り、貧しい農村の外れ若葉萌える田園に現れた白蓮尼僧は衣服を着ていなかった。しかしその足並みは決意と意思に溢れ堂々たるものだった。二人の農民は珍事に驚き慌て、村の者へこれを伝えに急ぎ走った。邑長(むらおさ)が若衆を連れてやって来る間も白蓮の歩みは止まらず、彼らが出会った所は既に村の入り口だった。
「これは如何なる事ですかな。比丘尼様。あられもないお姿、村の者が驚きますて」
白蓮は黙したまま唇を開き、一瞬息を止めた。そして流れ出たのは声小さく、また僅かな言葉だった。
――仏の教えを説きに参りました。
村の一同は困惑し更なる言葉を待った。そして僧は静かに語りだした。訥々としているように見えるが、しかし明白な目的を持った確かさがあり、むしろ正語の実践のために言葉を選んでいるようでもあった。
「以前皆様の前で六つの徳目についてお話しました。忍辱や禅定など、六波羅蜜を実践することが悟りへの確かな道となるのです。しかし人の心は弱いものです。続ける心づもりが何時の間にか日々の生活に妄し忘れることが多い。この苦難の世にあっては致し方ないことかもしれません。勿論、何に拘らず仏道を進ずることは立派なことで、そうありたいものです。しかし……。私はただ自分の徳を高めるための精進を人々に押し付けていた事に気づきました。しかし十二縁起の仏法は真理であればこそ知る人を選びません。なればこそ疾く四諦の境地へ赴くことも出来るのです。最も分かり易い、快と苦の二受。これに囚われず中道に至るには、一方を窮め他方へ転ずることを知るが最善です。そして心弱い者に苦から始め快に至る道はあまりにも険しいものでしょう。空腹は食せば収まり、放蕩は何れ空しくなります。最も純なる、そしてけして尽きぬあの快楽を窮めるのです。貴方たちのカルマは私のこの姿を見て何と言っていますか。窮まれば邪淫は滅す。最早戸惑いは不要です」
話の間中、男たちは呆けた顔つきで尼僧を眺めていた。殆どの語は理解から遠いものだったが、最後に示された実践方式は何となしに理解できた。彼らの脈打つカルマ棒は既に道を定めていたからである。
「ほとけさまじゃ!」
誰かの叫びが男たちの愚鈍な麻痺を打ち破った。彼らの麻のぼろ着は一瞬にして大空に舞い、先ほどまで素朴で勤勉な農民であった者らが、ただの肉の一群となって白蓮の裸体に激しく攻め入った。邪悪な肉欲に圧倒されそうになりながらも、白蓮は強く使命を感じた。
――この邪淫の尽きるところに、無常無我の智慧がきっとあるはず。
抓られ、突かれ、回され、肉は激しく蠢いた。白蓮はきつく歯を噛み締め苦痛に耐えた。そう、白蓮は快ではなく苦のところから中道を目指したのだった。男を知らない薄桃色の秘肉は快楽を味わうにはあまりにもか弱かった。それは傷つき血を流した。穢れ無き尼僧のこのような辱めれた姿は、臆して遠巻きに見ていた幾人かの者をも揺さぶり動かした。邑長もそのような一人だった。ゆっくりと腰を開き、もう十年来萎えたままのカルマ棒が若やぎ漲っているのに無垢な感動を覚えているようだった。内面を見つめるようにそっと呟く。
「全ては仏様のため。しっかりやらねばな」
噎せ返るような性の匂いに充ちた大地の上で新芽の色が濃くなって行った。
日が昇ってゆく。
3.浄土
白蓮は官能に耐えた。痛みの絶え間ない増大と共に、やがて微かな快感がちらついた。しかしそのどちらも悟道へ通じていない。快苦二受に偏らない中道へ至ろうとする努力こそが真の快楽(けらく)だった。壊れてゆく色の世界の果てに蓮華の咲き乱れる浄土の予感が香っている。白蓮は賤しむべき肉の饗宴の只中で救世の灯火を見たのだった。
しかし肉体は儚く、心よりも遥かに脆い。突かれ、更に突かれ、果てもなく乱暴に突かれ続けた聖の体は、もう現世に止まる気配を見せなかった。青ざめた顔は寸も動かず、四肢は力なく垂れ下がり、胴体は男たちが支えを解いた途端にゆっくりと地面に崩れ落ちた。男たちの無感動な痴れ面に初めて人間的な動揺が生まれた。彼らは醜く隆起した己のカルマ棒を急に恥ずかしく思った。それらは草木が枯れるように力無く項垂れていった。
「ていへんなことになってしまったなぁ」
「そんだ。ていへんじゃ」
邑長は治める者としての義務を思い出し、然るべき後処理を考えた。埋めるとなると手間がかかる。ならば、と妖怪の骸を捨てる谷を思いついた。人の近付かない谷底ならば白蓮の寺の者に気づかれることも無いはずだった。
「捨てにゃならん。捨てるにゃけして動かんようせにゃならん。後で何かあると困るでな。しっかりやらねばな」
しっかりやらねば、と鼓舞するように更に一度繰り返した。それを聞いた村の者たちは各々鍬を手にした。
浄土の予感のその僅かな残り香が、まだかろうじて聖の目を閉じさせていなかった。その目は、日没間際の暗い空を背にして自分の周囲に人影が集まるのを見ていた。雲居の狭間が僅かに広がり夕陽が射し、男たちの顔をいっそう黒く塗り潰した。人間を導くことは出来なかったのだと分かり、白蓮は悲しく思った。
――ごめんね、命蓮。
おぞましい交わりの最中にあって塵も浮かばなかった涙が白蓮の双眸からどっと溢れ出し、瞼が閉じてゆく。
農具が振り下ろされた。
4.蓮の花
白蓮は水辺のような所を漂っていた。無辺大の一面に蓮の蕾が浮かび、仄かに明るくまた暗い。無数の魑魅魍魎が苦渋に満ちた表情で水の底に沈んでいた。波羅羯諦、羯諦。彼岸へ往きましょう、往きましょう。経文。遠方から幾つも重なり合った低い声が聞こえてくる。しかし妖怪たちの霊魂は安らぎを得るどころか、ますます苦悶に呻く様子だった。
――せめて触れて共に苦しみを分かち合えれば。
白蓮は手を伸ばそうとしたが、しかし体は動かなかった。成仏せず、輪廻に戻ることも出来ない哀れな魂への同情が聖の心を痛めつけた。そして聖は自分の浅ましさに気づいた。自分が人間にばかり拘り、ただそれを救うのだとばかり念じていたことに気づいた。六道衆生は人のみに非ず。人間に惨殺された妖怪の墓場に捨てられ、その苦悶を知って初めて人間ではない者の声を聞いた。白蓮の心は激しく動揺した。
――いやっ。まだ滅したくない。まだ私には……。
人間ばかりでなく、人間に虐げられた者、仏道の導き無くただ迷妄に苦しむ者を救わなければならない。一つでも多くの命を導きたい。もっと力を。もっと光を。白蓮は心の底から願った。
経文の声は大きくなって行く。沢山の船幽霊が水平線を埋め尽くしゆらめいていた。それらが静かに聖に近付いてくる。次々と柄杓で水がかけられる。意識が遠のいてゆく。
「沈む。私という船が大海原に沈んでゆく――」
聖が再び目覚めた時、全てが光輝に充ちていた。そこは谷底の小さな泉だった。先程の果てしない世界と比べ物にならないちっぽけな水溜りの岸辺だった。辺りを見回すと、雲のように白い蓮の花が一輪咲いていた。身を捩ると聖の足に何か妖怪の骨が触れた。死体の谷は全てが清められたばかりであるかのような浄福の気に満ちていた。
聖は傍らに虎が臥しているのに気づいた。穏やかな深い眼差しでじっと聖を見つめていた。虎は衣を携えており、聖は立ち上がってそれを羽織った。虎も立ち上がり聖に擦り寄った。聖がその背に跨ると虎は一気に谷から近くの山の頂まで駆け上がった。振り落とされるような勢いだったが、聖は自分の中に不思議な力を感じ、むしろ虎を操っているような心持だった。
山頂は強風が吹き荒れ聖の衣服をはためかせた。
「私は死んだものとばかり……。それにこの溢れるような力は一体?」
自問する白蓮に虎が銜えている物を見せた。
「大日如来様……!!」
聖は東の地平線からすっかり円形を見せたばかりの眩い日輪を直視した。虎が持っていたのは宝塔、すなわち大日如来の象徴だった。聖は内側に胎蔵・金剛、両界曼荼羅の完全な図式がありありと顕現するのを感じた。大日如来の加護により、もはや聖白蓮は人間ではなかった。弱さも、弱い者への恨みも微塵も無く、ただ力と光の波のようなものがその体内にうねっていた。聖白蓮が澄み透った心地よさに身を委ね力を放出すると、その衣服がいとも容易く消滅した。圧倒的な裸体はもはや円のような完全さを備えていた。
赤光に照らされ超人の乳房が激しく輝いている。
今回は間に合わないと思っていたんですが、和田氏の悪意無き挑発にフットーしたおかげで仕上げることが出来ました。おっぱいを光らせることができて本当に良かった。聖の物語は原作と大分違うのですがおっぱいに免じて大目に見ていただければと願う次第です。
>>NutsIn先任曹長 さん
十分痴女だと思います。超人化しても服を破るだけ。平仮名にすると明白ですが超人の中には確かに痴女が潜んでいるのです。
気づかれましたか。寺の奴らはおまけみたいなネタです。ぬえとマミゾウは一見いないようですが多分村長のふぐりに化けています。
>>智弘 さん
タグにギャグと明記しようか迷いました。カルマ棒とか全裸とかネタを絞ったせいで万遍にギャグを仕込めなかったので止めました。最初智弘さんのコメント見たとき物凄く安心ハッピーでした。
>>汁馬 さん
ダメ。絶対。でも修行のためだから仕方ないですよね。いざ南無三ーー!!
と聖姉さんが元気におっしゃっていたのでよかと思います。ただ内側の筋肉もすごいことになってそうなので怪我とか心配です。
>>ちゃま さん
タイトル通りの話でしたよね?(どや顔)
どうしても入れたかったんですよ。全裸という語を。元々それがテーマですから。『全裸!! 聖白蓮』だとあんまりな感じだったのでこんなタイトルになりました。
>>んh さん
仏教だけにギャグも禁欲なのです。そのうち禁欲が快感に変わってゆき、ついにカルマ棒や乳房が輝き出すに至る。いいですね仏教は。
実はネタに自信が無くて確実に笑ってくれる層を作ろうとした、……などという浅ましい事情は多分ありません。
>>和田 さん
おかげさまです。好きな子上位ということで既存のゆかりん短編を無理やり出すか、半分書いたこれを仕上げるかで最後の土日まで迷ってました。聖の名前をコンペに残すことが出来て感無量です。内容はまああれですが。
>>pnp さん
ありがとうございます。仏教用語って何かかっこいいと思います。説明されても概念が込み入っててなんかよく分からない感じが厨二脳をばしばし刺激する。
>>紅魚群 さん
聖蓮船の最後であの神々しさに出会ったとき一目惚れでした。背中になんかしょってて、ズガーと撃ったりやたらダイナミックに動いたり、そしてあの感情の摩天楼。この人はあれなんだとすぐにわかりました。私の中の聖はこの話のようなおとぼけ変態のイメージです。
>>機玉 さん
作者にもよくわかりません。とりあえず聖の変態っぷりを表現するには普通の手法じゃダメだというのには気づいていました。彼女はものすごく真面目で元気な変態のはずです。真面目で元気を作者が勘違いしたのがこの結果。
あ、命蓮は本当は夢の中で気を落とさずちょっと休めと言っていたんですが、白蓮が勝手に勘違いしたのです。弟さんは悪くないです。
>>あぶぶ さん
そうですよねえ。今の命蓮寺はアニマル学園として頽廃の限りを尽くしているはずですからねえ。この程度の乙女チックな冒険譚は白蓮のちょっといい話的な感じでしょう。
>>12 さん
他の人そんな色々言ってないのに……!と一瞬思いましたが、もし自分がこの作品にコメントするなら「聖姉さん元気ですね。村人の輪姦シーン笑いました。」くらいなもの、あるいはコメントに困って無言で退出です。評価していただいてありがとうございます。
>>山蜥蜴 さん
おお。なんとも完璧に要約して頂けました。わけわかんないのは作者の頭が変なんじゃないです。聖姉さんがいっちゃってるだけです。
過激な考えってのは基本的に好きです。でも殆どの革命は所詮目的は達せずただ青春を失うだけですよねえ。まあそれが青春って人はいいんだと思います。聖姉さんは魔法少女に生まれ変わったので完全に勝ち組です。
>>14 さん
作者によるあらすじ
「魔法使って若返ったはいいが、更年期的な衝動を残した精神&若い肉体で悶々とする毎日を過ごす白蓮。そんなとき夢に弟が出てきて彼女はこれをなぜか天啓と思う。白蓮は性に未熟でよくわからずこの衝動は仏の導きと信じ切って村人を誘惑しご乱行。ついやり過ぎた村人は後悔して瀕死の白蓮に止めをさす。谷に捨てられて死ぬ間際まで何やら祈っていたおかげで不思議と復活。なぜかパワーアップしている。大日如来さまがいつも見てた!的な恍惚のうちに白蓮は筋力で服を破る。これは人間だったときには出来なかったことであった。」
この話はギョウヘルインニさんの文体だと映えるような気がします。しかし作者はあえて文体もギャグのうちと思いこうなりました。文体とはまさに体。全裸捨て身アタックということですね。コメントありがとうございました。
矩類崎
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/03/03 09:36:41
更新日時:
2013/03/19 23:22:54
評価:
13/14
POINT:
1090
Rate:
14.87
分類
産廃10KB
聖白蓮
3/19コメ返
非力な人間から、救済を行う力を得た超人へと昇華する尼公の話でしたか。
彼女の未来の弟子達を思わせる描写も盛り込まれた意欲作でした。
ああ……、聖白蓮の、彼女が願う法の世界の如き完璧な肢体に、光が満ちる――。
白蓮は法衣を脱ぎ捨てた。白蓮は恥じらうべき姿に恥じらうことなく、ただ真っ直ぐ人々の許へ駆けて行った。
「全ては仏様のため。しっかりやらねばな」
色々と神々しかったです…。
ただ底知れない何かを感じた気がするが、気のせいだったような気もしてならない……
弟さんお姉さん止めてあげて下さいよ。
あ、あれですよ、革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるからいつも過激な事しかやらないってやつですな!
とりあえず、難しい文字群が非常に好みでした。