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『紅魔館のメイド長兼エレベーターガール』 作者: sako

紅魔館のメイド長兼エレベーターガール

作品集: 6 投稿日時: 2013/03/03 14:17:42 更新日時: 2013/03/04 08:27:55 評価: 6/7 POINT: 510 Rate: 13.38
 あまり知られていないことだが紅魔館にはエレベーターがある。

「へぇ、そうなの」

 その情報にさして興味なさげに頷いたのは件の紅魔館当主、レミリア・スカーレットだった。

「はい、お嬢さま」

 情報を伝えに来た咲夜はニコニコと笑っている。自分は役立つと思っている駄犬のようだが、咲夜はいつもこうなのでさしものレミリアにも心中は読めない。

「しかし、ただ上下に移動するだけではこの長き歴史を誇る紅魔館のエレベーターとしては役不足もいいところ」
「用法、間違ってない?」
「いいえ、合っていますわお嬢さま」

 兎に角、と咲夜は話を続ける。

「少し、仕組みを弄らせて頂いて屋敷内の何処へでも移動できるよう、改造させて頂きましたわ」

 こちらがその仕様書です、と咲夜は分厚いファイルを取りだしてきた。ペラペラと捲ってみせるレミリアだったが、一級建築士が書いたのかと思えるような正確無比な図面と専門用語が飛びかう説明書に眩暈を覚えすぐに閉じてしまった。

「といううわけでお嬢さま、さっそくご使用を。不肖、この咲夜めがエレベーターガールを務めさせて頂きますので」
「へ?」

 見れば確かにレミリアの執務室、デスクから向かって真正面の壁に格子引き戸がいつの間にか備え付けられているではないか。
 ボタンを押すと自動的に戸は開いた。どうぞ、と手で指し示す咲夜。

「まぁ、暇だからいいけど。ってか、いつの間に着替えた」
「今の間ですわお嬢さま」

 レミリアの言うとおり、普段着ているメイド服から一転、エレベーターガールに相応しい可愛らしくも派手ではない制服に着替えている咲夜。時を止めてその間に準備してきたのだろう。

「それではどちらに行かれますかお嬢さま」
「んー、いや、別に行きたいところはないんだけれど」

 そもそも仕事をしていたのだ。何処かに行く用事があるなら咲夜を呼んでいる。レミリアが考えていると、それならと咲夜が提案してきた。

「適当にお屋敷巡りといきましょう」
「見慣れた場所を巡ってもねぇ。まぁ、いいわ。お願い」
「畏まりました。では、まずは一階。エントランスホールへ」

 レミリアが乗り込んだのを確認するとパネルを操作し始める咲夜。引き戸が自動的に閉まり、続いて大きな音を立てエレベーターは動き始めた。がたん、がたんと上下に体感として分かるほど揺れるエレベーター。

「思ったより揺れるわね」
「そうですわね。ウインチが古い所為ですわね」

 ふぅん、と興味なさげに頷くレミリア。そうこうしている間に一際大きくエレベーターが揺れ、ぴんぽーんと軽快な音が鳴った。どうやら目的の場所まで着いたようだ。

「一階、エントランスホールで御座います」

 到着した先は確かにレミリアの執務室ではなく別のフロアだった。きちんと移動したことに感心しつつ外に出てみるレミリア。

「確かに上下移動だけじゃないのね。私の執務室とエントランスじゃ縦だけじゃなくて横にもずれてるものね」
「ええ、お屋敷のおおよそ百ヶ所に移動可能ですわ」
「百ヶ所も行くところあったかしら…?」

 処で咲夜、と閑話休題、話を変えるレミリア。

「ウチの門番が眠りこけているのだけれど」

 外に出てなんとはなしに辺りを歩いていたレミリアは門扉にもたれ掛かりながら鼻提灯を膨らませている美鈴を指さした。

「少々お待ちをお嬢さま。暫し、エレベーターガールからメイド長へ戻りますわ」
「殺人鬼にまで戻らないようにね」

 エレベーターから出てくる咲夜。入れ替わりにレミリアは中へ戻る。壁に背を預け、暇そうに欠伸を噛み殺すレミリアの耳に悲鳴と罵声が聞こえてきた。

「終わりましたわ」

 暫くして、一仕事終えた咲夜が戻ってきた。ご苦労、とレミリアは労いの言葉をかける。

「それで、次は何処へ? ああ、百ヶ所もあるんだから普段、私が行かないような所へ行って頂戴」
「では、とっておきの場所へ」
「へぇ、何処かしら」

 宛先をあえて告げずパネルを操作する咲夜。レミリアはカンニングでもするようにその手元を覗きこんだが、すぐに眩暈を起して視線を逸らした。パネルには大小様々なキーが両手の数では足りないほど並んでいたのだ。

「百ヶ所に行けるんだから当たり前か」
「何か仰いましたか?」

 咲夜の疑問符に何も返さず再び壁に背を預けるレミリア。なんとはなしに咲夜の背中に視線を向ける。

「ふむ。この服装もなかなか」
「何か仰いましたか?」

 同じ言葉を二度繰り返す咲夜。けれど、今度はレミリアは無言ではなかった。足音を忍ばせて咲夜の後ろに近づく。

「いやね、お前のその格好が」
「あ、着きましたわお嬢さま」
「むっ、邪魔が…」
「キャァァ!?」

 レミリアの言葉はパチュリーの悲鳴が重なってしまい誰の耳にもまったく聞こえなかった。

「…咲夜、ここは?」
「はい、パチュリー様のプライベートバスルームで御座います」
「確かに普段来ないってか絶対来ない場所だけど…」
「万が一を考えてここにも来れるようにしてみました」
「いいから出て行け!」

 ぶん、と水滴を散らしながら飛んでくるパチュリーの弾幕/風呂桶。がしゃーんと大きな音を立てそれは間髪閉じられたエレベーターの扉に当たった。

「それではパチュリー様。お風呂場から何処かへ行きたい時はこの咲夜めを呼びつけ下さい」
「呼ぶか! 死ね!」

 ゆっくりと上がっていくエレベーターに向け呪詛じみた怒声を吐き捨てるパチュリー。中指を立てるおまけ付きだ。


「ラッキースケベでしたわねお嬢さま」

 自分で連れておきながらそんなことをのたまう咲夜。と、咲夜は主人がやけに自分の近くに立っているのに気がついた。

「まぁ、ラッキーだったけれど、私としてはむしろ欲求不満ね。パチェの裸見たら余計、ムラムラきちゃったわ」
「えっ、余計…ひゃっ」

 小さな悲鳴が咲夜の口から漏れる。その音に色をつければ桃の色をしていたことだろう。咲夜の背後に立っていたレミリアはいつの間にか更に距離を縮め、小さな手で咲夜のお尻を優しく撫で始めていたからだ。

「お、お嬢さま…」
「ほら、貴女はエレベーターガールなんでしょ。早く、次のフロアに移動しなさいよ」
「は、はぃぃ」

 パネルを操作しようとする咲夜。けれど、その手は自分の意思道理には動いてくれない。出鱈目にスイッチを押してしまう咲夜。

「ほら、ちゃんと操作して」
「も、申し訳御座いませんお嬢さま…ひやんっ」

 止ったのは食堂だった。丁度、片付けをしていた何匹かの妖精メイドが中を覗きこんでくるがメイド長の痴態に驚き主人の凶眼に脅され蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

――ガコン、ギギ
「あ、やばい。コレ楽しすぎる」
「お、お嬢さま、もうご勘弁を…」

 背を伸ばしたレミリアの手が咲夜の胸元へと伸びる。ブラウスの隙間に指を差し込み、器用にシャツのボタンを外す。そして、更にその奥へ。ブラにレミリアが指をかけた瞬間、

「「えっ!?」」

 二人の淫靡な精神は一瞬にして驚愕へと変質した。無重力を、地球上にいるのならそうは覚えられない感覚を捉えたからだ。

 そのまま二人の合わせて百キロに満たない肉体は天井へ、床ではなく天井へと叩きつけられる。そう言えば、と衝撃を受け気を失う寸前、咲夜は考える。

――ウインチが嫌な音を立てていましたわね。


◆◇◆


「あ、起きた」

 咲夜が目を開けるとまず飛び込んできたのは主人の顔だった。ここは、とぼやける頭で考えてすぐに自分たちがどういう状況に置かれているのか思い至る。

「どうやらウインチが壊れてエレベーターごと落ちてしまったようですわね」

 それが結論だ。やはりウインチは河童に頼んで新品に交換してもらうべきだったと咲夜は自省する。

「申し訳御座いませんお嬢さま。お嬢さまをこの様な目にあわせてしまい…」
「ん、いいのよ。私も楽しかったし。それより早く出ましょう。お腹が空いてきたわ」

 畏まりましたわ、と立ち上がる咲夜。幸い、怪我らしい怪我はしていないようだ。自分の具合を確かめた後、開閉ボタンを押す。だが、扉はうんともすんとも言わない。これは…と咲夜は眉を顰める。

「どうしたの咲夜? 自動で開かないんなら扉を壊して…」
「いえ、それも危険ですわお嬢さま」
「危険?」

 咲夜の口から出た言葉に疑念を覚えるレミリア。

「ええ、このエレベーターは私の力によってあちらこちら無理矢理に空間をつなげていますの。妙な場所で戸を開ければ…」

 時空に断裂が出来てしまいます、と咲夜は説明する。レミリアにはよく分からなかったが、兎に角、それは危険らしい。

「じゃあ、どうすればいいのかしら?」
「どうしょうもありませんわお嬢さま」

 絶望的な事実を事もなさげに告げる咲夜。レミリアの口からため息が漏れた。

 それから咲夜が出した結論は『外から助けてもらう』だった。パチュリーか美鈴か、その辺りが異変を察知して誰かエレベーター技師か空間操作系の能力者を連れてきてもらう、それを待つことが唯一とれる脱出の手段だった。

 いや、待つことも叶わない可能性が出てきた。

「っ、お嬢さま!」

 唐突に床にしゃがみ込んでいたレミリアに覆い被さる咲夜。先程の痴情の続き…ではないことは格子戸から差し込んできたまばゆい陽光を見れば瞭然であった。

「なんでクソ忌々しい陽の光が差し込んでくるのよ!」

 落ちたんだからここは地下じゃないの、とレミリアは吠える。

「ですから空間を弄ってあるとお伝えしたでしょう。どうやら最上階の時計塔の途中でこのエレベーター室は引っかかっている様ですわ」

 ワケの分からない事を、とレミリアは歯を噛みしめる。だが、レミリアにとっては殺人光線に等しい陽の光が咲夜の説明が事実であることを示している。吸血鬼の館である紅魔館で陽の光が差し込む場所と言えばそこしかないからだ。

「クソ…」

 悪態をつくレミリア。そのお腹がこの緊迫した空気を読まずに可愛らしく鳴った。

「お嬢さま…? まさか」

 けれそ、咲夜はそれを笑わない。腹の虫を鳴かせてしまうほど飢えていることが異常事態だと言うことを知っているからだ。そして、すぐにそれは自分の身体が無事だったという事実と結びつく。

「ああ、ちょっとね。床に叩きつけられそうになった従者を助けようとしてね」

 ゾッとする咲夜。どれほどの高さからエレベーターが落ちてきたのか判別しかねるが、その衝撃を、自分と合わせて二人分も受けたとなればどれほどのダメージになるのか。レミリアが腹を空かせるほど消耗している理由も納得できた。

「……お嬢さま」

 決意を口にする咲夜。

「私めの血をお吸いになってください。それでお身体の乾きが少しでも癒えれば」
「馬鹿言わないで」

 ブラウスを広げ自らの首筋を晒す咲夜。それをレミリアは弱々しくも言下に断る。

「今血を吸ったら貴女を眷属にしてしまいそうなのよ。そうなったら日傘がなくなっちゃうじゃない」

 考えたらずね、とレミリアは手を伸ばし咲夜が広げた衣服の乱れを整える。

「申し訳御座いません、お嬢さま…」

 咲夜はその姿勢のまま己の失態を恥じた。今の早まった行動も、壊れてしまうようなエレベーターに主人を乗せたことも含めてだ。悔しさに唇を噛みしめる。血が、滲み出た。

「今はこれでご勘弁を」

 レミリアの唇に自分の――血の滲んだソレを重ねる咲夜。
 瞬間、がたん、と動き出すエレベーター。完全に壊れたと思われたウインチはまだ、どうやら辛うじて生きていたようだ。よかったこれで助かった、と顔をあげる二人。同時に扉が開き…

「え、お姉さま? 咲夜?」

 そこには逆光を受けて立つ悪魔の妹フランドールの姿があった。フランは衣服が乱れた状態で抱き合っている二人の姿を見て驚きに目を見開き、次いで汚物でも見るように目を細めた。

「フケツ」

 そうして、その一言。更にエレベーターの戸を閉じる。がこん、と再び振動し動き始めるエレベーター。

「そういうのは自分の部屋でしてよ二人とも」

 冷めた瞳で動き始めたエレベーターを見送るフラン。咲夜を押しのける勢いでレミリアは立ち上がり扉の格子にすがりつくが無情にもエレベーターは動いていく。

「ちっ、違うのフラン!」
「いえ、あまり違わなくはないと思いますけれど」
「あーっ、もう、冗談じゃないわっ!」

 その後、二人は無事助け出されたものの、紅魔館内のエレベーターは当主によって永久に使用禁止にされたのは言うまでもなかった。


END
元ネタなんてないよ。

一人一個でしたか。

ご迷惑おかけしました。
sako
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/03/03 14:17:42
更新日時:
2013/03/04 08:27:55
評価:
6/7
POINT:
510
Rate:
13.38
分類
レズギャグ系
簡易匿名評価
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POINT
0. 30点 匿名評価
1. 80 NutsIn先任曹長 ■2013/03/04 00:32:23
どこぞのチョコレート工場にあるようなエレベーターだね。
エレベーターガールにご無体をする主人……。萌えるシチュだね。
危うく悪魔とその従者なのに天国まで行ってしまうところだったね。
2. 80 名無し ■2013/03/04 21:06:38
三つのなかでこれが一番面白かった。
潔癖なフランちゃん可愛い。
3. 80 んh ■2013/03/04 21:18:27
レミリアと咲夜の掛け合いが良かったです
4. 80 汁馬 ■2013/03/05 17:46:36
エレベーターに乗って上のほうのボタンが届かなくて背伸びしてるフランちゃんを妄想した。
可愛い。
5. 80 名無し ■2013/03/10 22:39:23
このエレベーターを動かせるのは咲夜さんだけしかいないじゃないですか
レミリアもパチュリーも使えないよ 咲夜のうっかりさん
6. 80 まいん ■2013/03/20 23:10:05
メイド長の前は殺人鬼だったのか。
ともかくハッピーエンドで良かった。
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