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『魔理沙がチョコに沈められる話だった。』 作者: まいん

魔理沙がチョコに沈められる話だった。

作品集: 7 投稿日時: 2013/03/14 14:47:55 更新日時: 2013/12/20 23:23:53 評価: 8/9 POINT: 770 Rate: 17.67
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定、オリキャラが存在します。





「いいですか? 腕が良いだけではいけないのです。
その人の人となり、気遣い、雰囲気あらゆる事が複雑に絡み合い……」

人里に福の神が現れた。
その出来事を独自に調査していた茨木華扇であったが大体の要因ははっきりした。
人を羨み妬むあまり店の雰囲気を害してしまう者の元にそういった幸運の類が訪れる事はない。
団子の差し入れと共に博麗霊夢を諭そうと思った矢先、福の神を捕えて祀ろうという話を聞いてしまった。

同席をしていた霧雨魔理沙にとってはとばっちりも良い所である。
大きな帽子を両手で深く被り目を強く瞑って耳も塞いでいる、お決まりの傍聴拒否の姿勢であった。

「魔理沙、貴女も貴女です。 霊夢の友人でありながら、どうしてそう楽な方向楽な方向に流していこうとするのです……」

死神の言葉や霊夢更生計画の失敗は何処吹く風。
積み上げられた言葉は雪崩をうって彼女達に襲い掛かっていた。
このままでは大切な時間が無駄に削られてしまう。彼女達に人生何度目かの危機が訪れていた。
そんな時である。

「はっきり言わせてもらっていいかしら?」

鋭い眼光と共に霊夢の言葉が華扇の説教に横槍をいれる。
音が止み一瞬の静寂が神社周辺を包み込む。
外で鳴いていた蝉の声は聞こえず、うだる様な暑さは背筋の凍る冷気と変わり、
まるで時でも止められたかの様であった。

「……ええ、どうぞ」

華扇の言葉と共に時は再び動き始めた。
普段の様相を見せない霊夢のあまりの変わり様に博霊の巫女とはこれ程かと思う。
未だ華扇に向けられる眼光は宵闇の中に輝く日本刀を思わせた。

一つ瞬きをした事により鈍く輝いていた光が遮られる。
ふぅ、と溜息を吐いた後に重々しく口は開かれた。

「あんたのしてる事って映姫と被ってんのよ」

先程までの重々しい空気は何であったのか?
華扇は一瞬自分に何が起こったのか理解が出来なかった。

(被っている? え? 何の事?)

だが、冷静になるにつれて馬鹿にされている事だけは理解が出来た。
顔を俯かせてワナワナと悔しそうに肩を震わせ始める。

「おっと、こいつはやばいな。 私は失礼させてもらうぜ」
「あっ、待ちなさい魔理沙……」
「霊夢ー! そこになおりなさい! 今日は勘弁しません!」

すんでの所で魔理沙は逃げる事が出来たが、霊夢は華扇に捕まり日が暮れるまで修行を強いられた。
彼女の可愛がりが終わった頃には日は沈み始め、一日は終わろうとしていた。



人の噂も七十五日。
福の神の騒動は時が経つにつれて人々の記憶から薄れていった。
後に残ったのは福助人形と何故人気のあるか解らぬ人気店だけ。
華扇に手本とされた蕎麦屋も生活に困らない程度の客足に戻ったのである。

そんな中、強欲で妬み深いと噂の団子屋の主人がニコニコと笑顔で客を迎えるという珍事が起こった。

「分かりましたか? どの様な者であれ、確固たる決意と意志があれば変われぬ事などないのです。
貴女ももっと巫女として相応しい態度で日々を生きて……」

今日も華扇の舌は絶好調であった。
他人を羨み自身の努力を怠る事を非難し、必要以上に妬み嫉み憎む事を止める様忠告し、
他人との協調調和思いやりを素晴らしい事の様に説いていた。

そんな話を霊夢はつまらなそうに聞いている。

「あんたって人間の事を何も理解してないのね」

話しの腰を折られ少し不満を感じる。
しかし、何か心の琴線に触れるものがあり理由を問いただそうとし、
反論に対してすぐに説教をしようとする気持ちをぐっと押さえつけた。

「聞きましょう」
「羨むのは理想像と捉える事で、妬むのは自分自身に対する不甲斐なさが怒りの感情になっていると思うの」
「つまり?」
「人間の持つ負の感情はあんた達から見たら確かに醜いものかもしれない。
でもね、そういった感情こそが古来より人間を進歩させてきていると思うの」
「その意見に相容れる事は出来ませんね。 まずは……」

道を説き、孝を説き、儒を説く。
同様に道を説き、自然を説き、自由を説く。
決して交わる事の無い論議が静かに一室に響いていた。

(団子屋の親父? どっかで聞いた事が……こいつは異変だな、この魔理沙さんが解決してやるぜ)

会話に加わる気がない魔理沙は華扇の言っていた珍事を異変と考え独自に調査しようと、
静かに気取られない様に部屋から出て行った。

〜〜

「あら、魔理沙さん珍しいですね。 どうしたのですか?」

守矢神社に降り立った魔理沙を境内の掃除中であった風祝の東風谷早苗が出迎えた。
丁度いい所に、としたり顔で近づいていく。
非常に悪い顔だ。

「この前の福の神の話を覚えているか?」
「仙台四朗の事ですね」
「ああ、そうだ。 そんでな、今回は人里のとある人物が変貌したんだ」
「それが何か?」
「もしかしたら、その時の人物が関係しているんじゃないかと思ってな」
「関係ないと思いますが、どういう風に変わったのか教えて下さい」
「強欲親父が仏みたいに人を迎える様になった」

ふむ、と早苗は顎に手をあて考え込む。
少し考え該当する人物が思い浮かんだ。

「戦die死浪ではないでしょうか?」
「この前と同じ奴じゃないか」
「いいえ違う人物です」
「どういう奴だ?」
「文化人です。 能楽、陶芸、漆器、墨絵、調理等々に造詣の深い江戸末期に人物です」
「何だ無害そうな奴だな。 他に特徴は無いのか?」
「後天的な聾者で才能が開花したのは聾者になってからだそうです。 時折仏の様な笑顔になる事で……」
「ああわかった。 ありがとうな。 早速その親父に会ってみる事にするよ。 じゃあな」
「魔理沙さん、行っちゃった」

これ以上の収穫がないと思った魔理沙は早苗の話を最後まで聞かずに再び飛び立った。
集めた葉っぱが周囲に散乱し先程の風圧で髪も乱れてしまった。
早苗はブツブツと文句を言いながらも枯葉を集めていく。

「まったく、話は最後まで聞いて欲しいものです。 凄い危険な人物だったそうですのに」

〜〜〜

「これが繁盛していた蕎麦屋か、まだまだ人が居るな……っと向かいのこの店か」

暖簾を手で掻き分け元気よく挨拶をして入っていく。
いつも勝手知ったる何とやらという態度は隠している。

「お〜っす、やってるか?」
「いらっしゃい。 お? 魔理沙ちゃんじゃないか? 大きくなったなぁ」

ニコニコと笑顔を浮かべていた店主であったが嬉しそうな驚きがありありと見てとれた。
魔理沙は魔理沙で誰かと自身の記憶を辿っていた。
そしてようやく思い出し、ポンと手を叩いた。

「強欲親父って誰かと思ったらおじさんの事か」
「強欲とは酷いね。 昔は親父さんとよく来たじゃないか」
「親父の話はよせよ、所で話題になってるぜ。 急に人が変わったてな」
「昔の情熱と楽しさを思い出しただけだよ。 話しだけも何だ、団子でもお上がり、勿論今日のお題は結構だ」

よし来た、と魔理沙は内心喜んだ。 だが、主人の背中からぼやけた透明な人間が羽化した様に這い出た。
聾唖者の特徴的な口元に仏の様な笑顔を浮かべている。
ただ突然であった事もあり目を二度三度と擦り、目を細めて見返す。
当然そこに先程までの幽霊とも何とも説明のしようのない輩はいなかった。

(気のせいか、それよりお団子お団子)

〜〜〜〜

元より華扇にさえも味は悪くないと評された団子屋である。
加えて顔馴染みであった為に割引を頼もうとも断られる事も無く、
魔理沙は団子屋に足繁く通った。

「美味しいかい? 魔理沙ちゃん」
「おう、美味いぜ。 加えて安くしてくれるからな、通わない理由はないぜ」

主人の顔は非常にうれしそうだ。
いつもニコニコ貴方の食後に甘味を一つ。
作ったものが美味しく食べて貰えるのは料理人冥利に尽きると言いたげだ。
緑茶を煎れ自らの手で客の元に運んでいる。
魔理沙の元にも茶を置いたのであるが、主人は脈絡もなく話を切り出した。

「今ね健康に良い菓子を考えているんだ」
「親父は団子以外にも料理が出来るのか?」
「こうみえても和菓子職人だよ」
「ふ〜ん、で私にそれを言って何かあるのか?」
「試作品の出来を試して欲しいんだ」

美味しいものがタダで食べられる上に謝礼も貰えるそうだ。
いつもの様子ならばすぐに飛びつくウマイ話なのだが、珍しく無関心である。
それも普段から僅かとはいえ金を払って食べている事が彼女を満たす一因となっていたのだ。
主人に二度三度と頼まれ承諾する。 そこで漸くこれから楽しみだなと思うようになった。

主人からは効果も知りたいからと菓子以外の食事を制限する様に言われる。
言葉ではっきりと不満を言う魔理沙に小さな板状のソフトクッキーが渡される。
説明をする主人を余所にカプリと一口齧った。 それを見た主人は静止を呼びかけたが既に後の祭りであった。

「不味いぜ……」

渋くて苦い茶を渡され口の中をゆすいでいく。
その間に主人は再び説明をしていた。
渡したものは香草と穀物を乾燥させ磨り潰したものでこれから作る菓子の原料になるもので、
香草には体内の不快な成分と滞留物を排出させる効果がある。
飲み物に制限はないが出来る限り茶か水を飲んで欲しいというものだ。

「少し待っていてくれないか?」

主人が奥に引っ込み次に出て来た時には大量の草餅を持ってた。
喜び驚く魔理沙がその山を指差すと、先程の香草をたっぷりと使ったと主人は言う。
ハッキリとした顔で先程の苦みと不快感が込み上げ一気に食欲が失せてしまう。
主人に促され、ままよと一口齧ると先程とはまったく違う口当たりの良い程良い甘さが口いっぱいに広がった。

一つ二つと口に放りこんでいくが、そこは普通の少女である。
完食はおろか一割も食べる事は出来なかった。

「そんなに欲張らなくてもいいさ、奥にも色々作ってあるから好きなだけ持っていきな。
そうそう、さっき言ったように別の物はたべないでね」
「おう、ありがとよ」

魔理沙は様々な和菓子や洋菓子の味見をし気に入ったものを箱に詰めていった。
色は緑色であるが、その素晴らしい味を知ってからは抵抗はまったく無かった。

子供の様にはしゃぐ魔理沙を主人は子供や孫を慈しむ表情で微笑ましく見ていた。
彼の背中からは同じく仏の様な笑顔を浮かべる透明で霊的な男が生え出ていた。

〜〜〜〜〜

それから、魔理沙の食生活は一変した。
すべてがすべて、菓子菓子菓子。 その様な食生活を続けた末路など想像に難くないだろう。
だが、そこは菓子職人の腕前なのであろう。
魔理沙の体調は日々良くなり、肌や髪のツヤも心なしか良くなっているようであった。

「お〜っす、今日も持ってきたぜ」
「私はいいから、あんたが食べなさいよ。 それ食事なんでしょ?」
「貧乏巫女が遠慮するなよ。 いつも通り無遠慮に食っていいんだぜ」

その会話に華扇が割り込む。
突然の大声に魔理沙も霊夢もその方向を向いた。

「魔理沙、そんな偏り不健康な食事をしていて体に良いと思って……」
「そんな事言う前に食ってみろよ」

見事に空かされた為に魔理沙の言いなりになってしまう。
とりあえず勧められた菓子を一つもらい口に運ぶ。

「あら……」
「美味いだろ? それに練り込んである薬草や香草は体に良いみたいだし、一日に必要な栄養は摂る事が出来るんだとよ」
「華扇、あんたの負けね」

机に片肘をついてやる気なさそうにしていた霊夢から声がかけられ、
場は一応の静けさを取り戻し、華扇も交えて他愛の無い話がなされた。
その中にあっても霊夢は魔理沙の差し入れの菓子に一切手を付けなかった。

(何か嫌な予感がするのよね、その菓子)

〜〜〜〜〜〜

彼が作る菓子は団子だけでは無い。
和菓子の生菓子、乾菓子、半干菓子、練り菓子、等々。
洋菓子も同じく焼き菓子から多種多様に揃えている。

レシピは香霖堂や稗田家、鈴奈庵から借りている。
(魔理沙ではないので正式な手続きを踏んでいる)

砂糖や動物性油脂類は高級品である為、ここまで大量に菓子を用意出来る筈が無いのであるが
全てがすべて彼の努力の賜物である。

幻想郷にある植物由来の代用は本を見続けて思いつき、実際に完成させた。
その努力の賜物を孫も同然の愛おしい少女が食べている事が満足感を与えている。

「体の調子はどうかな?」
「至極良いぜ。 まるで生まれ変ったみたいだ」
「それは良かった。 折角だからこれからも続けてみないかい?」
「そうだな。 それも良いかもな」

主人は新しく急須を取り出し、一人分の茶葉を中にいれた。
砂糖の様な粒子の細かい粉末を更にいれると湯呑にお湯を注ぎ、
次いで湯呑から急須にお湯が注がれる。
ふたがされゆっくりとした時間が流れる。

茶葉が開いた頃合いを計ると急須にお茶が注がれた。
魔理沙の目の前に湯呑が置かれ、それを受け取る。

「ありがとな」

体調の改善は精神的な改善にも繋がっていたのかもしれない。
余裕の表れは彼女に礼を自然に言わせるまでになっていた。

数年間は大変な事の連続であった。 劇的に変化し慣れない生活。
いくつかの異変に首を突っ込んだ。
漸く訪れた平穏と体内改善。 数年の疲れが一気に来たのかもしれない。

「すまない、少し休ませてもらう……ぜ」

机に突っ伏すとそのままスヤスヤと寝息をたて始めた。
彼は未だ仏の様にニコニコと笑っていた。
彼の背中の者も変わらずにニコニコと笑っていた。
魔理沙を抱き上げると別の場所に移動を始めた。

〜〜〜〜〜〜〜

「霊夢さ〜ん」

博霊神社の上空から飛来する人物が一人。
神社の巫女の名を呼びながら地面に降り立った。

「突然、どうしたの?」
「最近魔理沙さんを見なかったので知らないかと思いまして」

首を傾げる霊夢。 二人は仲が良かったかと疑問が浮かぶ。
少し遠い所に降り立った早苗はスタスタと近づいて行った。

「知らないけど」
「先日、戦die死浪の話を聞きに来ました」
「仙台四朗ってこの前の福の神の?」
「いいえ、別の人物です。 先日変貌した人がいると魔理沙さんが相談に来て、心当たりがると教えたのです」
「別に良いじゃない。 ただニコニコ笑っているだけでしょう?」
「いいえ、それが本当だった場合非常に危険です。
彼が仏の様な笑顔を浮かべる時は素晴らしい作品が生まれる時なのですが、
同時にとても良くない事が起こる時でもあったのです」
「例えば?」
「武家の子が彼の態度を気に入らず暴行を加えた時、彼は素手で半殺しにしたのです」
「嘘でしょ」
「本当です。 他にも墓を掘り起し死化粧の練習をしたり、打ち捨てられた死体を調理したり、人間の体液を絵具にしたり」
「どうしてそんなのが文化人なのよ」
「常軌を逸している故に素晴らしい作品も多数残っているのです。 評価の大半は後世のものですから」

場には嫌な沈黙が訪れた。 だが、この沈黙は暑くなり過ぎた頭を程良く覚ましてくれた。

「待つしかないわね」
「そうですね。 私達が無暗に動いてもどうにもならないですからね」

悲痛な面持ちの早苗に軽い笑顔を向ける。
悪い方向を見続けたら何処までも悲観的になってしまう。
霊夢の独特な楽観視であった。

「まっ、魔理沙の事だからその内ひょっこり現れるわよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜

突然眠ってしまった魔理沙を主人は抱きかかえて調理台に静かに寝かせた。
肌のハリは年相応に瑞々しく、髪の艶も輝きを放っている様である。

捌き包丁を手にした主人は醜く歪んだ笑顔に変わっていた。
愛しき者との今生の別れを惜しむ様な雰囲気さえ見て取れる。
だが、やはり彼は職人であった震える頭、肩、体。
それとは裏腹に彼の手はまったく震えていなかった。

「愛しいから……」

ゾブリ……。

躊躇なく真っ白な首に刃を突き立てた。
背骨の横から刃を入れ、筋肉を切断、気道を切断、反対の筋肉を切断。
刃は川の清流の様に何の抵抗も無く進んで行った。
幅広の包丁に持ち替えると骨の接ぎ目に刃を押し当て切断した。
やはり、身を竦める様な音はしなかった。

そこからの動きは何度も練習したかの様に無駄が無かった。
髪を除去しないまま、最小限の剃毛のみで頭を開頭。形を崩さずに脳をそのまま取り出す。
筒を目に押し当てる方法は瞼周辺を損傷するおそれがあり、彼は小さなお玉とヘラを使い器用に眼球を取り出した。
ぽっかりと空いた頭には甘味に相性の良い木の実類が詰められる。

体からは血抜きがされ、下に置かれた甕に受けられている。
丁度、頭の処理と同時に血抜きが終わり、魔理沙の身体から血が垂れなくなっていた。

表面的な処理から開始。
乳房を切り落とす。 次いで台に寝かせたまま鳩尾から下腹部まで切り開いていく。
体内改善の香草は大いに効果があったらしく、切り開いた際の生臭い生物の体内特有の臭いは緩和されていた。

血抜きの際に開けた穴の効果で体内圧から臓器が飛び出す事は無く、各臓器の取り出しも非常に順調である。

心臓、肺、肝臓、胆嚢、脾臓、骨髄、胃、手、足、子宮。

腸は流石に腐敗臭は免れず、多少の処理は必要である。
だが、ここでも香草の効果があり大腸内の残留糞便は殆ど無かった。

残ったものは肉と骨。 これも素晴らしい速さで捌かれていく。
処理は後日となるが、砕かれた骨は骨粉ふりかけに、肉は乾燥させた後に肉粉ふりかけへと姿を変える事になる。

実は調理場には甘い香りが充満していた。
主人の作業の速さはそのせいで速くならざるをえず、
愛しの者が素晴らしい姿に変わる様に先程とは違う歓喜の震えを起こしている。

二十程の小さな甕には黒色の液体が半分程入っている。
甕は湯煎で温められ、とろ火は着けられたままになっていた。

主人は処理した臓器類を一つ一つ丁寧に甕に沈めていく。
甕の中身を焦がさない様に丁寧に丁寧に。

同時作業で眼球に糖を注射し溶かした糖で全体を覆っていく。
まるで飴玉の様な外観に金色の虹彩が良く映えた。

調理は尚も続く、各臓器類はチョコレートに浸かり内々までその甘味に染まっていく。
ふわふわの脳はその内部まで肺や心臓等は細管の隅々にまで。

そして、魔理沙の生首も見事チョコに覆われた。
使用済みの余ったチョコは一つの大甕に集められ、更に採っておいた血液を混ぜ込み煮詰め始める。
同時に生首の顔に砂糖の粉で化粧を施していく。
色がある事が美しさの決め手ではない、彼の手はツルツルの表面を思わせない化粧を施した。
余談であるが彼はチョコを一切削ってはいないのだ。

腸にもチョコは詰められ、また表面もチョコで覆われた。

煮詰めたものは型に入れたり、適度な大きさに加工したり、
また無秩序が好きな者もいる為に板状に固めた後に割ったりもした。

こうして、霧雨魔理沙という少女は他人に幸せを届ける見事な姿に変貌を遂げた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

幻想郷では希少なカカオと本物の砂糖をふんだんに使用した洋菓子チョコレート。
そして人間の身体を丸々一人使った贅沢な品物。
その様なものが安い筈も無い、そして人里にありながら同族食いを連想させる菓子が人間相手に売れる訳が無い。
おまけに各臓器等は形がそのままであり異常で気味の悪さはそのままになっている。

では、誰がそれを買うか? 勿論、妖怪である。 それも人食いの妖怪だ。
だが、当然の如くそれらを買う希少で奇特な人間がいる。
本来は異常性癖とか倒錯的嗜好の持ち主が該当するが、今回ばかりはそうとも言えない。



彼は人食い妖怪に恋をした。
幸運であった事は夜雀の屋台の常連客であった事だ。
恋をしたとしても伝えられぬ思いは主人のミスティアに伝えられた。
所謂愚痴と言う形で。

「死ぬかもしれないけど会いたい?」

今日は他の客はおらず酔っぱらいの言葉を真面目に聞いて相談に乗っていた。
その相談に対する返答が先程の言葉である。

だから彼は幸運であったのだ。

後日、ミスティアから人食い妖怪ルーミアと会えると言われる。
その言葉を最初は疑う事しか出来なかった。
だが、段々と話を聞く内に本当であると実感し浮ついた気持ちで一杯になった。

彼は早速手土産を求めた。 その時に話題のチョコレートを販売しているという話を思い出す。
店に近づくだけで彼の五感は警告を訴えた。
中に入ると仏の様な笑顔で出迎える主人が居る。
その主人から異常性等はまったく見受けられなかった。

話題のチョコは多少の日持ちがするらしく、生首や子宮、肝臓等が売れており、
その他のものも少なからず売れていた。

吐き気を飲み込み見回すと、一人の妖怪が心臓を買おうか迷っていた。
値段は目も飛び出る額だ。 それなりに裕福である彼であっても三か月分の給料はするだろう。
だが、何かを感じた彼は商談に割って入り定価で買い求めた。
死ぬのかもしれないという状態が彼を清水の舞台から飛び落とさせたのだ。

夜、ミスティアから指定された場所に赴いた。
妖怪が人間を騙すという話は良くある事だ。 その為、彼は多少なりとも疑っていた。
だが、信頼できる夜雀の女将の言葉だと何度も何度も疑惑を振り払う。

そうこうしている内に辺りはすっかりと暗闇に覆われた。
彼は特に疑問は持っていなかったが、視線が向けられている事に気が付くと、
辺りを覆っている闇が自然のものではないと思い始める。
本当に来た。 逸る思いを落ち着け大木を背にする。
まかり間違って後ろから襲われれば会う事も叶わずに、この世と今生の別れをしなければならないからだ。
後ずさりをし、ようやく木を背負った彼に不意に声がかけられた。

「あなたは食べてもいい人類?」

背筋に当たる息と共に怖気が体を突き抜ける。
振り向こうとも周囲の見えない闇に所々しか姿は見えず、
返答に間違えれば命が無い事に息が乱れる。

「あなたがミスティアの言っていた人?」

その言葉に当面の命の保証があると安堵するも、
先程湧き上がった恐怖心と目の前に自分が恋をした妖怪が居る事に緊張してしまい、
やはり言葉は出て来なかった。

「何か言わないと食べちゃうよ?」

その言葉に彼は堪らず箱を差し出す。
同時に告白めいた事を言ったのであるが不快な音しか紡ぐ事は出来なかった。

闇は解かれ辺りを弱い月明かりが照らす。
その段になり漸くルーミアの顔を拝む事が出来た。
昼間に遠目にしか見た事のない女性は見た目以上に幼く、
本当に人食いの凶暴な妖怪であるか疑問を持たせた。

一方の彼女は座り込み無邪気に箱を開けると、心臓のチョコを嬉しそうに齧り付き始めた。
チョコに夢中の内に彼は彼女と背中合わせに座った。
死と隣り合わせの状況に恐怖心は拭えないものの、彼は覚悟を決めていた。
緊張は既にほぐれ、彼は自分の思いの丈を静かに語り始めた。

手に付いたチョコを舐めとり、漸く食事が終了する。
ふぅと一息吐き、彼の背中から離れる。

彼は彼女に向かって振り向き、再び自分の気持ちを告白しようとした。

「ねぇ、私が人食い妖怪って知ってた?」

ルーミアがその姿からは想像の出来ない怪力で彼を押し倒し、馬乗りとなった。

「これから私に食べられちゃうけど、今の気持ちはどう?」

顔に手を添え、これからの食事の為であろうか口と口が徐々に近づいていく。
地面を照らしていた月明かりはうっすらと霞みを纏い、
空に浮かんでいた気分屋の小さな雲は月と対面した。

彼ら二人そこで何があったのかを知る者は静かにたなびいていた木々と、
その惨状を覆い隠した草花だけであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

普段にはない様相で人里は盛り上がっていた。
妖怪が跋扈し人との調和がとれた楽しい酒盛りとなっていた。

霧雨魔理沙のチョコは妖怪達に良く売れ。
人間には信仰獲得の為に早苗がチョコを配っていた。

町には九尾の狐に駄々を捏ねる化け猫が散見され。
普段仲の良い妖怪達の姿も目撃された。
人形遣いが演劇を行い、幽霊楽団が演奏を行う。
当然、最近話題となった鳥獣伎楽の姿もある。
夜雀の演奏を向かいの茶屋で聞いている青年の脇にはルーミアが肩を寄せていた。

こうして、他人に迷惑をかけてばかりであった霧雨魔理沙という少女のおかげで
多くの人妖が幸せになる事が出来たのでした。

かつて強欲といわれた団子屋の親父はいつもと変わらぬ仏の様な笑顔で愛しの彼女を見ていた。

「愛しの愛しの魔理沙。 君が魅力的である為にこんなにも皆を喜ばせる事が出来たのだ」

彼の背中に佇んでいる透明な男はただ満足そうに笑っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「こんにちは。 霊夢」
「またあんたか。 今日も説教にでも来たの?」
「いえ、最近魔理沙を見かけないと思いまして」
「あんたもそう思う? まぁ、魔理沙の事だからその内ひょっこり姿を現わすでしょ」

華扇はそういうもの? と言いたげであったが言葉に出さず首を傾げていた
そんな姿の華扇に霊夢は透明で軽い容器に入ったチョコを差し出した。

「これはチョコですね? どうしました?」
「今日は世話になってる人に贈り物……チョコを渡す日なんだってさ」
「では、ありがたく頂きましょう。 ……ん〜甘い」

霊夢はいつもと変わらずに茶を啜った。

「霊夢、ありがとう」
「……んっ」
(紫から貰ったけど、何か嫌な予感がするのよね。 食べないに越した事はないわ)
本当はヴァレンタインデーに投稿したかったです。

コメント返信です。

>NutsIn先任曹長様
楽しんで頂き光栄です。 魔理沙は必ず戻ってきます。 ここではそれが日常茶飯事ですから。

>2様
二週も読んで頂きありがとうございます。
まず、嫉妬論についてですが、本編の「真面目にやってる奴が損する世の中だよな」の台詞から当作中では主人が本当に真面目な人物と
なっています。 その為、霊夢の台詞は何故妬むのかの理由付けになっています。 作中でも主人は本等により試行錯誤しながらも
努力して新しい菓子を生み出し続けてます。
子供の頃の魔理沙は主人と仲が良く、主人夫婦も子供の様に扱っていました。 その為に魔理沙の事が愛おしかったのです。
作中では描写が少ないですが、主人は偶然憑りつかれ段々と狂っています。
普段の高い向上心と相まって更には死浪の生前の行いの影響もあり、愛しい人間を調理するという愚行に及んでしまいました。

作中で分かりにくかった所が多々あり申し訳ありませんでした。

>3様、4様
気が付きましたか、恋の魔法使いにとっては人と人外を結ぶなど造作もない事なのです。

>汁馬様
いえいえ、こちらこそお召し上がり下さいましてありがとうございます。

>ギョウヘルインニ様
ありがとうございます。

>んh様
みなさ〜んお団子屋さんはオリキャラじゃないですよ。
野生動物にとって内臓はご馳走ですのでチョコの味と相まって妖怪には合う筈です。

>矩類崎様
ありがとうございます。
生き続けて迷惑をかけるなら、死んだ時ぐらいしか役に立てないですから。

>9様
そんなに私が食べたいのですか?
気持ちだけでも受け取って下さい。←魔理沙の肝臓を差し出す。
まいん
作品情報
作品集:
7
投稿日時:
2013/03/14 14:47:55
更新日時:
2013/12/20 23:23:53
評価:
8/9
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770
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17.67
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魔理沙
霊夢
華扇
早苗
団子屋の親父
ミスティア
ルーミア
その他
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1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/03/15 00:02:08
さすが恋の魔法使い、霧雨魔理沙だ。
人々を幸せにして逝きましたか。
霊夢の勘が絶好調で良い!!



霧雨魔理沙は散りましたが、

いずれ、第二、第三の魔理沙が現れるでしょう。

博麗の巫女が言うのだから、間違いない。
2. 80 名無し ■2013/03/15 00:45:05
二週読みました。
今回の話は読みやすかったです。
薬草尽くしで臭いを消してから解体する戦die死狼は機知は見事ですし、霊夢の勘でオチもついています。

ただ霊夢の嫉妬論がどこに繋がるのがいまいち分からなかった。
蕎麦屋の主人の嫉妬が戦die死狼の霊を呼び寄せたのかもしれませんが、そうだとすると「愛しいから」がよく分からなくなってしまいます。『チョコ加工は主人が魔理沙を前々から狙っていた故の猟奇事件』と読めてしまう。
それが結果として、全体の話の繋がりを弱めてしまっているのではないかという印象です。

色々言いましたが、なんだかもったいなと思うからです。
3月14日という時間的制約がなければもっと練りこめたのかもしれません。仕方ないね。


ところで人と人外の恋を実らせることの出来ない魔理沙に恋符を使う資格なんてあるんでしょうか?
戦die死浪の機知や男の覚悟を台無しにする魔理沙は本当に魔理沙だなぁ
3. 100 名無し ■2013/03/15 00:53:38
タイトルがすべてを物語っていた、なんとも甘ったるいお話でした。
青年死亡か、と思いきやオチ付近で生存確認&恋路が実ったことに驚きました。おめでとう!
4. フリーレス 2 ■2013/03/15 01:06:10
……男の告白が成功していることを二週も読んだのに抜け落ちていたなんて恥ずかし過ぎる ごめんなさい ゆるしてください
魔理沙最後によくやった 
5. 100 汁馬 ■2013/03/15 02:14:48
チョコのような甘いお話。ごちそうさまです。
6. 100 ギョウヘルインニ ■2013/03/17 22:13:39
良作を感謝です。
7. 90 んh ■2013/03/21 19:22:28
あの団子屋きた!これで勝つる!
内臓のチョコがけは考えたことなかった。どっちも風味が強いから意外と合うかも
8. 100 矩類崎 ■2013/03/27 20:39:34
これはいい。大好きです。端的で繊細な文章がいい。
死んで役に立ってる魔理沙は理想的な立ち位置。いわばモズクズ様。
ルーミアと青年の心温まるメイン?エピソードがまたいい。魔理沙グッジョブ!
9. 100 名無し ■2013/12/18 00:16:10
まいんマイナス
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