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『ジサツレポート』 作者: 零雨
始めに、私が何故自殺をするかという理由をここで述べておこう。
一言で言うと、つまらない毎日に飽きてしまったのだ。
起きて、ご飯を食べて、寝る。実にくだらない。
そもそも、長々と生きたところで死んでしまえばそこで終わりなのだ。
たとえ後世に名前が残ろうと、死んでいる本人はそれに何も感じることはできない。
いくら毎日が楽しくても、死んでしまえばそこで終わりだ。
逆に、今の私のようが過ごしているようなつまらない毎日も、死んでしまえばそこで終わるのである。
他の人が聞けば私のこの考えを馬鹿にするかもしれない。
特に、あの忌々しい姉は私のことを思い切り軽蔑するであろう。
どうしたらこのつまらない世界であんなにも楽しそうに過ごせるのか、私には理解できない。
やはり馬鹿だからだろうか。
おっと、話がそれてしまった。馬鹿で目立ちたがりな私の姉のことはどうでもいい。
私が自殺する理由はもう分かってもらえたかと思うが、では何故このレポートを書くに至ったか、短いが述べようと思う。
これは、もし私と同じような考えを抱く者が現れたときの為に、手早くこのつまらない世界から脱出してもらうためだ。
別に、後世に名前を残そうだとか、遺書の代わりだとかそんなことではない。
私と同じ考えを抱く者の為へのちょっとしたプレゼントといったところか。
最も、私と同じ考えを抱いたならば、もう既にこのつまらない世界から脱出していると思うが。
私も、もっとはやくこの世界がつまらないものだと気がつければよかったのに、愚かな姉のせいで大分時間がかかってしまった。
と、ここまで書いて気がついたが、最初にこのレポートを見つけるのはおそらくあの姉なので、このレポートは姉以外見ることがないかもしれない。
しかし、短いとはいえここまで書いてしまったのだ。
姉に捨てられてしまうかもしれないが、最後の瞬間まで書こうと思う。
数百年の間、私の世界は狭い館だけだった。
この部屋とももう少しでお別れかと思うと、ちょっとばかり感慨深いものがある。
まあ、そんな感情も死んだら消えてしまうだろう。
首吊り用のロープは既に手に入れてある。
さらば、私の小さな世界。
とまあ、そんな調子で首吊りに挑んだのだが、私は死ぬことはできなかった。
細い安物の縄では、私の首を締め付けるには少しばかり力不足だった。
失敗した理由はそれだけではない。
今回私が挑んだ首吊りは、天井から吊るすタイプの首吊りだ。
普通の人間ならこれで死ねるだろうが、私は普通の人間とは違い、空を飛べてしまうのだ。
つい無意識に飛ぼうとしてしまい、首を吊るどころではない。
期待と不安を胸に椅子を蹴ったときの高揚感はどこへやら、今の私は非常に不機嫌だ。
こんな気分では自殺する気も失せる。
もう一日ばかり、このつまらない世界で過ごすことになりそうだ。
おはよう、いや、こんばんは。
私が目覚めたということは、今は夜なのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。これから死ぬのに時間を気にする必要はない。
首吊りは駄目だったが、今度は失血死を狙うことにする。
そのための包丁は既に用意してある。
これで動脈を切断すれば、少し痛いだろうが死ねるだろう。
おそらく腕を切れば死ねるはずだ。
今度こそさよならだ。私の小さな世界。
残念ながら、今回も死ぬことはできなかった。
よく考えてみれば、少しばかり血を失ったくらいで私が死ぬはずがないのだ。
ええい、実に不愉快だ。私が人間ならもっと楽に死ねただろうに。
この死に方は私には向いていないようだ。
気を取り直して、別の死に方を探すしかないか。
このままではこれはただの日記みたいで、すごく恥ずかしい。
早く死んで、この恥ずかしい気持ちを消してしまいたい。
次は毒物を試してみようと思う。
門番が庭で栽培していた、ヒガンバナを貰ってきた。
狭い庭でよりにもよって何故こんな毒草を育てていたかは知らないが、好都合だ。
生で齧れば死ねるのだろうが、どうせならもう少し優雅に自殺したいものだ。
と、いうわけで乾燥させたものをすりつぶして温かい紅茶に混ぜて飲むことにした。
泥を落とす為に何回も洗うのは面倒だったが、泥の混ざった紅茶を飲んで死ぬのは最後にふさわしくない。
変なところで拘るこの性格は姉に似てしまったのだろうか。
では、そろそろいい感じの紅茶になったと思うので、飲むことにする。
このつまらない世界に、乾杯。
普通においしい紅茶だった。
門番に聞いてみたところ、ヒガンバナは長時間水に曝すと、毒が抜けてしまうらしい。
生で齧るべきだったか、と後悔したが、死ねなかったものは仕方ない。
残りの紅茶は姉の部屋にでも放り込んでおくとしよう。
何だか、あれだけ張り切っていたのにこうも失敗が続くと、死ぬのが馬鹿らしくなってくる。
最初の方に得意げな顔でこんなつまらない世界から脱出するべきだ、と書いていたのが今となっては少し恥ずかしい。
よくよく思い直してみると、自殺のために奮闘したこの数日は今までの人生で一番楽しかったかもしれない。
いや、一番楽しかったとはっきり言える。
もしかすると、私の人生がつまらなかったのは、目標がなかったからなのかもしれない。
だから、自殺すると目標を持って行動したこの数日は充実した気分になれたのだろう。
私は無駄にプライド高い姉とは違って、自分の非は素直に認める心の広さを持っている。
今ならはっきり分かる。この世界はつまらなくない。私がつまらなかっただけだ。
悔しいが、姉の方が私よりも優れた感性を持っていたのだろう。
私も、これからは姉を見習って、少しだけ馬鹿になったほうがいいのかもしれない。
そういえば、今度姉の親友とやらがこの館にやってくるらしい。
あの馬鹿な姉と親友ということは、その親友とやらも姉と同じくらいアレな存在なのかもしれない。
だが、そのほうがきっと人生は楽しいのだろう。
馬鹿にしていた姉を賛美することになるとは、これを書き始めた当初は想像だにしなかった。
これを姉に見られたくはないが、折角書き上げたものを処分するのはもったいない。
私の部屋の奥に隠しておくことにする。
何だか姉に一本取られたようで非常に悔しいので、ここでこれを書き終えることにする。
もう二度と開くこともないだろう。
- 作品情報
- 作品集:
- 7
- 投稿日時:
- 2013/03/28 06:32:34
- 更新日時:
- 2013/03/28 15:36:49
- 評価:
- 7/11
- POINT:
- 760
- Rate:
- 13.08
太陽光浴びろや
淡々としすぎて、単なる余白に書くような戯言になってしまったね……。
流石のフランちゃんも、己の黒歴史までは破壊できなかったようです♪
これはいい話ですね。
フランちゃんは賢いな〜。