排泄の常識改変「上白沢慧音」

　この辺りでは見かけない顔だが……という事は、つまりそう言う事だな？
ここまで野蛮な妖怪に合わずによかったよ、普通の人間は妖怪に対抗する手段も持ちえないし、君みたいな新入りは
妖怪という存在すらあいまいな認識しか持っていないからな。
　自己紹介が遅れた、私は上白沢慧音、この人里で世話になったり世話をしたり、つまるところ住人の一人だよ。
さて……ここは幻想郷と言って君が前に居た世界とは少しルールや概念が異なる、まずはその説明を―――
何？　小悪魔と名乗る者から聞いてこの場所へ？　その時に一部のルールは聞いた？
なるほど……いや、それでも説明する事はまだあるんだが、一番納得してもらいにくい部分の説明が省けただけでもありがたい。
　……今？　私か？　大丈夫、私の工程は他人の手を煩わせる事は無いからな。
それにしても君はボランティア精神溢れる人だな、進んで初対面の私に協力の申し出？　里の全員も見習って欲しいものだ。

　む、少し失礼、足を組み直すだけだ。
……どうしてって、座り直すぐらいいいだろう―――いや、君が聞きたいのはそこじゃないか、
やたら鋭いな、そう、今から脱糞させてもらう。　驚いたか？
　『手伝う事は？』か……、てっきり中座するか顔をしかめると思ったんだが、良く出来た若者だよまったく。
だが心配無用、最初に説明した通り私は特に協力の手はいらない。　……そんな残念な顔をしないでくれ、
こっちが悪いみたいじゃないか。
　実の所、私の排便にあたってのルールは『正座をしたまま排泄する』のみだ、だが条件を追加する事により
他人の手を煩わせない事に成功している。　その顔は知らなかったようだな、基本的に排泄は協力が必要な物だったりするからな。
下手に厳しい条件が追加されるより、協力者を探す方が早いからな。
でも私は万が一に備えてこの選択を行った、皆の指導者が漏らしては話にならないからな……ああ、言い忘れていたか、
この里で私は教師もやっている、よかったら後で案内しよう。
　おっと、条件の話が途中だったな、排便する前に見せた方がいいか……よし、一旦立つぞ？
そのままスカートも捲り上げて、見えるか？　どうだ、私のパンツが黄色と茶色に染め上がっているだろう？
一人で、簡単なルールで排便できる代わりに『パンツから便が溢れ出るまで脱ぐ事が出来ない』だけだ、
この程度の条件でお漏らしをほぼ防止できるのは非常に大きいな、うん。
　ただ、何もしないとパンツを交換できる日がいつまでたっても来ない可能性があるからな、
一日に一回は下剤で排便して、早くパンツからうんちを溢れさせる努力はしている、本来は固形便が望ましいが、そうそう手軽に出るものではないしな。
　っ……すまない、便意が少々加速したようだ、ここで排便を行うが不快なら出て行ってくれてもかまわない、んっ！


　ぶっ、ぐじゅっ！　ぶちゅ！　むりゅっ！！


　んーっ！！……はぁ、この方法のいい所は下品な音が出る事が無い所かな、せいぜい多少の水音がする程度で、
おならが響く事は無いな……ん？　何をそんな目で―――おっと、ついに溢れ出たか。
畳や服が少々汚れたがいつもの事だよ、それよりもようやくパンツが洗濯できるな、今回は特に長かったよ。
　何？　それは捨てないのかだと？　あのな、そうやってすぐ新しいものを欲しがるのはよくないぞ、
一つの物でも使い続けたら愛着が沸くものだ、しっかり洗濯すれば何度でも使えるだろう？
実際に私は条件のおかげでこのパンツ一着で問題ない、どの道途中で取り変えないのだからな。
じゃあわざわざ待っててくれたお礼に寺子屋の方もこのまま紹介しよう、パンツは……とりあえず洗濯だな、
水にだけはつけておくよ。

　どうだ、外の世界の教室とイメージは同じか？　そうか、うまく再現出来ているようでなによりだ。
何でもイメージは大事だ、雰囲気作りもな。　……実は紹介と言ったが、今日授業があるわけじゃないから
これ以上説明する事は無かったりするんだな、さて、どうす―――っ！？
　……しまった。　ん、え？　ああ、何でも無い、見て回るだけなら自由に行っていいぞ。
『体調が悪そう』だって？　やはり鋭いな……御名答だ、腹の冷えはまだ収まっていなかったらしい……
さらに間の悪い事に……パンツは家の方だ、このままでは自分で設定したルールを守る事が―――！？
そ、そうだ、ルールに関して一つ穴が……こんな事を君に頼むのは非常に申し訳ないが、いずれ作る事……
『君のルール』を今作ってくれないか！？　男性は基本的にトイレに行けばいいから毎回守る必要は無い！
そして、誰かの排泄を協力として必要にする内容にしてくれ！　協力となれば私は自分のルールに従わなくていい！
だ、駄目か？　私のために貴重なルール設定の機会を使うのは流石に無理か……？
　っ！　す、すまない、恩に切る！　それで、私は何をすればいいんだ！？
設定したルールは……え、何！？『自分の指示に従ってくれた人が１００人を越える』だと！？
お前、このルールだといつまでたってもトイレ以外では排泄出来ないぞ！？
……そ、それでいいだと？　それに『１００人まで同じ様に人を救える』だって……お前、どこまで……

　ぎゅるるるる……

　っう！？　す、すまない……感謝と感激の意は後でいくらでも述べる、早速だが私に命令してくれ……
私は何をしてお前に協力すればいい？
……そ、それでいいのか？　指示なら従うが……よし、上白沢慧音、『立ったまま脱糞』します！


　ぶっ！　ぶちゅっ！！　むりむりむり……ぼとっ


　んんっ！……はぁっ……今まで座ったまましかした事が無かったから、立ったままは少々違和感があるな。
ふぅ……いや、先程の言葉とはまた別にもう一つ謝ろう。　実はギリギリまでまだ疑っていたんだ、
ここまで期待させておいて、無理難題でやはり私を陥れる気じゃないか、と。
だが実際に提示されたのは難問でも何でもなく、決して私を君に依存させない程度の少しの難度、
君は本当に、よく出来た人間だ。

　……本当に行くのか？　人里を出たら危険が大きい、私としても君のような人材を失いたくは無いのだが。
止めても出るのだろう、献身的すぎて足元をすくわれないようにな。
そうだな、最後にアドバイスをすると……あちらの方角、少々遠いが幻想郷の中でも随一の実力者が居る、
顔ぐらい見せておいてもいいだろう、何かあっても私の名前を出せば話ぐらいは出来るだろう。
それじゃあ近いうちにまた……危ない時は、頼るかもしれないな、気をつけて。

＝　END　＝