洒落怖秘封霖　【非公式】

【コトリバコ】

別名、『子取り箱』

箱根細工の玩具箱のような外見だが、

触れた者、開けた者を呪い殺す事が出来るという

一種の呪術道具の一つである。





突然だが、皆さんは【猿夢】というのをご存知だろうか。

お察しの通り、夢の中では自分は電車の中で、

『次は、撲殺、撲殺―･･･』等と、次々に乗客が殺されるアナウンスが流れ、そして殺されるという夢である。

僕はそんな夢を見た事が無いのだが

『その猿が言ったのよ。「次は、小鳥遊市裏廃村、小鳥遊市裏廃村」って！！』

蓮子がその【猿夢】とやらを見たそうだ。

しかし、猿夢のアナウンスが場所の名前を流すとはな。

それは猿夢ではなく、普通に電車に乗っている夢では無いのだろうか。

『だから、この村には何かがあるに違いないのよ！！』

そして今、僕たちは小鳥遊市の裏にある廃村で探検している。



【小鳥遊市裏　廃村】

僕たちは今、小鳥遊市の裏の廃村で探検している。

ここで、奇妙に思った点を次々に当てていこう。

・家全体に人形が括りつけられている謎の家

・電波な書き込みをしている謎の紙を貼り付けられた家

・胎児のミイラ


そして僕たちは今、比較的立派に立っている空家を探検している。

蜘蛛の巣や、埃が舞っていなければ誰かが住んでいてもおかしくない程、整理された家だった。

全くと言って良い程、面白みの無い家に、蓮子は物足りなさを感じ

メリーは愕然と怯えて震えている。

『変ねぇ･･･。もうちょっと、おかしな感じに荒れていてもおかしくない筈なんだけど･･･』

『むしろ僕は安心しているよ。この村には、おかしな点しか無かったからね。』

『だからよ。私がガッカリしているのは。面白い物がいっぱいありそうな村なのに、こんな普通な家はかえって怪しいじゃない。』

ふむ。つまり

何が言いたいのかは分からないが

『幽霊でも死体でも、出て欲しかったというのか？』

『むふふ。そっちの方が面白いかもね』

本気で帰りたくなってきたな。

正直、死体でも幽霊でも出てくれば、面倒な事になるのは間違いないのだから。

『あーあ。そうしている間に、もう最後の部屋じゃない。』

メリーは、安堵した溜息を吐いている。

この村に来てから、メリーの様子がおかしい。

一言も喋らずに、ただガタガタ震えて僕の腕にしがみつくだけで

この調査を終えようとしているからだ。

『はっ早く帰りましょうよ〜･･･。もう夜だよ？蓮子ちゃん･･･』

もしかして夜だからか？

まぁ、確かに夜の廃村は不気味な事この上無い。

『むむぅ･･･。終わったら明日もやるからね！覚悟しなさい！！』

久しぶりだ。女を殴りたいと思ったのは

そう、気持ちを抑えつつも冷静になろうとした。

『･･･なんだか、僕も冷静さを失いそうだよ。』

最後の部屋。

せめて、なんでも無いようにあって欲しい。そう思うのだが。

『んじゃ、とっとと行くわよ』

蓮子が扉の取っ手に手をかけて、回す




【？？？】

僕が、何故冷静でなくなりそうになっていたのか。

それが少しだけ、分かった気がした。

『･････････』

妙に察するのだ。この部屋はヤバイ。

血の匂いがする。

『血･･････』

メリーが。呟く

ところどころ、赤黒く、茶色の液体の跡が壁に付着していて、

四方全ての壁に御札が貼られている。

更に、ここらの部屋の用途を見ると、

【胎児を育てる液体】という用途だと分かった。

恐らく、血の他にこの部屋には羊水も飛び散っているのだ。

そして、この部屋には窓が無い

『ちょっちょっと、何なのよこれは･･･』

さすがの蓮子も、この部屋には抵抗を感じたようだ。

部屋に近づこうともしない。

まぁ、確実にこの部屋で何かがあった。というのは間違い無いだろう。

『･････････ん？』

目をこらして、部屋を見てみると

部屋の隅に、妙な箱が置かれていた。

『何？霖くん。何か見えるの？』

･･･あの箱を、二人に教えてやるべきだろうか。

いや、

僕の第六感･･･もとい、能力である『物の用途を見出す能力』が危機を察知している。

そうだ、あれは･･･名前は知らないが、

『あ、あれ何？箱？』

蓮子が、なんの警戒もなく箱を拾いに行った。

『おいちょっと待ておいおいおい』

何の警戒もなく拾いに行くな。

『んー･･･。これは箱根細工の小物入れね･･･。』

『箱根細工？なにそれ？』

メリーが、首をかしげる

『いわゆるパズルみたいな箱よ、開け方にコツがあって、全部解くと中身を取り出せる！って宝箱！』

勝手に宝箱認定されるとはな。

だが、それは本当に開けても良いものなのだろうか。

この部屋に転がっていたものだ。良いわけが無いのだが

『うわぁ、面白そう！』

『むっふっふ･･･これは思わぬお宝を手に入れたようですぜ旦那』

蓮子が、悪い笑顔で僕によってくる。

やめろ、それを僕に近づけるな

『？　どうしたのよ霖くん。顔色悪いよ？』

『･･･いや、その箱を僕に近づけないでくれ』

『あら？怖気ついたのかしら？たかだか箱よ、なんてことない』

ああ、そうだ怖気ついたのだ。

なぜなら･･･その箱には”邪念”を感じる。

･･･まぁ、感じるというのは曖昧だが

用途から、それらしいものが見えるのだ。

その用途は

『さぁーて、帰ってこの箱を徹底的にこじ開けてやるわ！！』

【絶対に開けてはいけない箱】






【学校】

結局、蓮子は何を言っても聞く耳持たず、箱を持ち帰っていった。

そして連絡つかぬまま、翌日が経過した。

『おっはよー！霖くん！』

学校で最初に挨拶を交わしたのは蓮子だった。

意外と元気そうだ。

『あの箱は開けたのかい？』

『いやー、それが全然開けられないのよ。これが』

蓮子は、肘を曲げて掌を天に向けながらため息を吐く。

『まずは、一段階までは行ったんだけど、その後が難しくてさぁ･･･』

『つまり、先は長いというわけか』

『そうなのよ。だから霖くん。今日私の家に泊まって手伝ってくれない？』

『やだ』

冗談じゃない。

あんな得体の知れない箱と共に一夜を過ごすつもりは無い。

『即答じゃない･･･。可愛い女の子が泊まっても良いって誘ってんのよ？』

『あの箱が無ければ考えていたがな』

ぶすーっと、蓮子はむくれた。

『泊まる？』

後ろから声が聞こえた

『森近さん。さっき蓮子さんの家に泊まると言いました？』

彼女の名前は、桐谷真澄。僕たちの先輩にあたる人だ。

相当頭が良いらしく、学園成績ではトップに位置するようだ。

ちなみに、学園一位は僕である。

実に簡単な物で成績が決まるものだ。教科書に書かれた事をそのまま答えるだけで僕の中身を評価される。

一種の暗号を解いている気分だ。

『ちょっと、森近さん？』

おっと、話がそれてしまった。

『いや、誘われたのですが、たった今断った所ですよ』

『この朴念仁！』

ほう、蓮子にしては随分難しい言葉を使ったようだな。

『･･････別に誰と泊まろうが勝手ですが、学年一位である事に誇りを持って、学園生活を送って欲しいものですわ。』

彼女は後ろをチラリと覗きながら、僕を鋭い目で睨みつけた。どうも成績が初めて発表されてからは彼女に目を付けられている。

というか、恨まれている。いや、睨まれている。

そこで、蓮子が桐谷さんに睨み返していた。

『霖くんは私達の物なんだから、学年順位なんて関係無いですよーだ！』

『黙りなさい。学年２４３位』

『ごぶふぁっ！！』

ガクリと、蓮子は膝から崩れてた。

学年順位なんて関係無いんじゃなかったのか？

『全く。そんな奴と一緒に居てはいつか順位は崩れてしまいますよ？』

いや、別に順位に拘って登校しているわけでは無いのだが

『････････････、』

また、チラリと後ろを振り返る。

『･･･後ろに誰か居るのですか？』

僕たちが見たところ、誰も居ない。

『今日、変なのよ。朝から誰からか、つけられてるみたい』

『それは俗に言うストーカーです。』

『ストーカーと断言したわけじゃないわ。私のファンがコッソリ私を付け回してるだけかも。』

『それも俗に言うストーカーです。』

『冗談よ』

そう言って、また後ろを振り返っていた。

『しかし･･･この変な気配はなんなのかしらね。』

そう、愚痴を呟いた瞬間、授業開始の鐘が鳴った。





今日一日、後ろを気にしていたのは桐谷さんだけでは無かった。

他にも、チラチラ後ろを見ていた人が数人程居た。

それが、何なのかも分からなかったし、蓮子も気づいていなかったので無視する事にした。





【家】

探検が終わってから一日目、今日は平和な日だった。

こんな平和が、これからもずっと続くと良いと思うが、それも無理かもしれない。

そもそも、あの箱はなんなのだろうか。

何か気になり、何か引っかかる。

絶対に開けてはいけない。あの用途も何だ？

そもそも、箱根細工の箱ならば、【ある組み合わせによって開く、特殊な箱】等の用途が出るはずなのだが、

あのように私怨が剥き出しの用途が出るのは初めてだ。

いや、警告か。

少し気になり、蓮子にメールを送ってみた。

そして数十分後、返信が来た。

《畜生手伝え。手伝え畜生･･････・゜・(ノД`)・゜・》

特に心配要らないようだな。

そろそろ寝るとするか。




【翌日】

今日も学校。思えば今日は火曜日

秘封倶楽部の活動もしばらくは無いだろう。しばらくは学業に取り組めるのが中々嬉しい。

今日はこの世界の歴史を学べるのだ。下手な小説よりも面白い。古典的な世界と幻想郷の世界とのギャップが

『おぉ〜〜はぁ〜〜よぉ〜〜霖〜くぅ〜〜ん〜〜･･････』

『うわっ』

今日の授業に胸を躍らせている隙に、蓮子に挨拶をされた。

しかも、目の下に隈ができており、かなりの不機嫌だ。

徹夜で箱を開けていたな

『うぅ･･･いつ開くのよ箱ぉ･･･。』

『結局、あの後進展は無しか。』

『･･･いえ、二回ほど先には進めたわ。問題は･･･残り何回クリアすれば開くかなの･･･』

ブツブツと変な言葉を呟いている。

目の下の隈と、不機嫌な声はまるで悪霊のようだった。

『おはよー霖くん。蓮･･･うわっ！』

メリーが挨拶を交わしてきた。そして、すぐにたじろいた。

『メィリィィィ･･････分かんない･･･分かんないよぉ･･･』

すがりつくようにメリーの袖を掴む。

お前は、どれほどあの箱をこじ開けたいのだ。挙句の果てには火薬を使うんじゃなかろうな

『･･･とっとりあえず今日は早退して、帰宅をしたらどうかな？』

メリーが、一つ提案を出した。

『ああ、その方が良い。その状態で授業を受けても、どうせ頭に入らんだろう。』

『へーへー。そうですか。そうですか。お邪魔虫は帰りますよーだ』

涙目になりながらも、ブツブツ呟きながら蓮子は帰っていった。

『どうしたんですか？蓮子ちゃん･･･』

『徹夜であの箱の解読を試みたんだろうな。まぁ･･･どうせすぐ諦めて別のオカルトに食いつくだろうよ。』

蓮子は、珍しい物や現象は大好きでも、面倒くさい事は大嫌いだ。

箱の解読に諦めて捨てるのも時間の問題だし、あまり心配は要らないような気がする。

だが、やはり心配だ。

何か、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。

その内容を上手く文字に表すことは出来ないが。

『･････････』

そこで、桐谷さんがこちらに歩いてくる。

また、後ろをチラチラ伺っている。

『あ、おはようございます桐谷先輩。』

メリーが笑顔で挨拶を交わす。

『今日も、ストーカーが居るんですか？』

『いえ、ストーカーは居なかったわ。』

桐谷は、そう言ってまた後ろを伺った。

『ストーカーで無い？』

『･･･まぁ、あれをストーカーと呼ぶのは愚かしい言動でしょうね。』

『一体、何のお話で？』

『･･･いや、まぁ。何でも無いわ』

そう言って、桐谷さんは首を横に振った。

『霖くん。私の後ろに誰かいる？』

『いえ、誰もいませんが。』

『でも、近づいてきてるのよ。アレが』

『･･･アレ？』

僕が聞き返した瞬間、桐谷さんは後ろを振り返った。

『･･････何でも無いわ。さよなら』

そう言って、早歩きで校内へと向かっていった。

『･･･何だ？』

メリーは、桐谷さんを見てただポカンと呆けている。

遠くで、誰かが声を発している。

『おい･･･ヤッパリ近づいてるよ。アレ』

『近づいてるって･･･何がだよ？』

『は？お前ら見えないのかよ？』

桐谷さんと同じような事を言っている。

彼らは、一体何が見えているのだろうか。

僕には、どうにも知りようが無かった。






【家】

少し、考えてみた。

あの箱を持ち帰ってから、彼らは何かが見えていると主張している。

つまり、あの箱にはヤッパリ何かがあるのだろう。

明日、蓮子に出会ったら箱の場所を問おう。

そして、取り上げて捨てるのも良いかもしれないな。

そんな事をシミュレートしながら、僕は眠りに落ちていった。







【翌日】

水曜日。

今日も、ちゃんと蓮子が居る。

昨日考えたとおり、箱を取り上げる話題を出すべきだ。

だが、問題はそこだけじゃない。

『あ、霖くんこんばんは』

『今は朝だ。』

蓮子の様子がおかしい。

目が、向いている位置が全く定まっていない。

『ねぇ霖くん。箱がね、でもそんな事はどうでもよくて』

『日本語がおかしいぞ』

『家の冷蔵庫に人形がびっしりね。豚の子供が引き裂かれてね』

『おい』

『あ、そうそう、もう３回、３回くらい進んだよ。箱も。ボール潰しも』

『おい蓮子』

『もうすぐで終わるよ。みんな終わる。村は私は救われるのじゃー、ふーはははー。』

話が全く見えないのだ。

僕は何一つ理解ができないし、彼女は何一つ理解ができていない。

これでは話題を出す事が非常に困難だ。

『霖くん、カフカカフカタスケテ、分かる？』

『分からない』

『どうして分からないの？赤ちゃんは吊るされて燃やされているのに』

語っているときに、蓮子のそれぞれ右目左目は、それぞれに違う方向に向いている

やはり、箱は回収すべきか

『････････････』

今日も、桐谷さんと校門で出会う。

だが、今日の桐谷さんはおかしい。

『･････････』

決して後ろを振り向かうず、決して前を向かず、うつむきながら歩いているのだ。

『桐谷先輩桐谷後輩おかかおはよう』

『！！』

桐谷さんは、猛烈な勢いで蓮子を睨みつけた

『蓮子･･･さん。何･･･してるの？』

『我は電波を受信しているのだ。我は電波を送信しているのだ。』

ダメだ。どんどんおかしくなり始めている。

あの箱は人間をおかしくさせる妖気を閉じ込めていたに違いない。今すぐにでも処分をしなければ

『ひぃいい！！！』

桐谷さんは、後ろを振り向いた瞬間、悲鳴をあげた。

そこには何も無い筈なのに、何も無い場所を見つめ、怯えていた。

そして、何も言わずに走っていった。

『なぁ、どうしたんだよお前。うつむきながら歩いて』

『･･････近いんだよ』

『は？』

『アイツが･･･近いんだよ･･････』

『近いって、アイツ？』

『おい、アイツって誰だよ。昨日も言っていたけどよ。』

遠くで、また声が聞こえる。

『嫌だ！！何も聞きたくない！！うわぁあああああ！！！』

男子生徒は、耳に手を抑えて走り出した。

何故、彼だけには聞こえて、彼らには聞こえないのか。

これも、この箱に関係するのだろうか。

じゃぁ、一体何の法則があるというのだ？

とりあえず、僕は蓮子の家に向かう事にした。




【蓮子の家】

蓮子の住む家は、留守だった。

『私の家には逆さまの仏様がブッダブッダしているよ』

ついでに蓮子も連れてきたが、一体彼女は二夜にて何があったのか

徹夜のしすぎで何か壊れ始めただけなのかもしれないが、

とにかく、あの箱には悪影響しか及ぼさない可能性が高い。

叩き壊すか、捨てるか

どちらにせよ、手の届かない所に置くのが一番だろう。

箱は、わかりやすい所にある。

既に何回か動かしていて、形が変わっているが

『蓮子、ちょっとこれ借りてくぞ』

そう言って、その箱に触れようとした。

『霖くん。』

蓮子に呼ばれたので、振り返った。

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！』

蓮子の目と口が真っ黒に塗りつぶされて、広がっていた。

『！？』

だが、そう見えたのも一瞬で

次に見えたのは、普通の蓮子の顔だった。

いや、普通では無い。

ものすごい目つきで僕を睨みつけていた。

『私は！！もうすぐで！！！開けられるのぉ！！アケラレルノォ！！！』

声が変わる

低い声が出ている

『モウスコシデ、カフカ、シアワセニナレルカラ、デテケヨォォオおおおおおおおおおおおおおお！！！！』

蓮子の声じゃない。それだけは分かった。

だが、僕は動くことが出来ない。

まるで、マンドラゴラの悲鳴を聞いているかのように

僕の意識は、そこで途切れる。








【翌日】

気がついたら、僕は部屋で寝ていた。

いつも通りの布団、いつも通りの部屋で

蓮子の部屋の出来事が、上手く思い出せない。

どうやって帰れたのかも、思い出せない。

『おい･･･蓮子。一体お前に何が起こってるんだ･･･？』

独り言をつぶやいて、今日も学校に行く。




桐谷さんが、路地の中でうずくまっている。

体育座りした脚の中に、顔を入れてうずくまっていた。

『･･･どうした？』

僕が問いかけても、答えない。

ただじっと、うずくまっているだけだった。

『うわぁあああああ！！あああああああああ！！！』

後ろで、男子生徒の悲鳴が聞こえいた。

後ろを見つめながら、全力で何かから逃げているように見えた。

だが、彼の後ろには誰も居ない。

彼には一体、何が見えているのだろうか。

『･･････だって、目の前にいるんだもの』

桐谷さんが、そう言って立ち上がり

どこか、学校とは別方向の道へと歩いて行った。





学校に向かう途中、道路で蓮子が寝転んでいた。

最初は轢かれたと思っていたが、どうやら違うらしい。

寝転びながら、瞳孔はぐるぐる回っていて

よだれを垂らしながら笑っている。

『は･･･蓮子？』

呼びかけても、返事も反応もしない。

箱

箱だ。

あの箱を、何とかしなければならない。

蓮子から離れようと動いた瞬間、蓮子の首はぐるりと回った

こちらを向いた。

『あー霖くんだ。緑色なんだ』

右目と左目がそれぞれの逆の方向を向いている。

ゆっくりだが、ぐるぐると回っている。

僕は、すぐにそこから離れた

『待ってよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！』

蓮子が追いかけてくる。

人間が出来る笑顔で無い顔で、僕を追いかけてくる。

『！』

僕も、全力で彼女から逃げていった。

追いかけてくる蓮子を見た時、僕は確信した。

これはもう、蓮子じゃない。

あんな、首が座っておらず、目をぐるぐる回しながら涎を垂らして腕をぐるぐる回しながら追いかけてくる彼女を僕は知らない。

『止まれ蓮子！！止まれ！！』

僕がそう叫んでも、蓮子は決して立ち止まらなかった。








曲がり角や路地裏をさんざん走り回って何分か経った時

ようやく、蓮子から開放された。

これで、蓮子は僕を見失っているはずだ。

後は、あの箱を回収すれば良い話だ。

僕はすぐさま、蓮子の家へと向かっていった。





【蓮子の家】

蓮子の部屋にまたたどり着く。

今度は、蓮子も居ない。

また妙な術で気絶させられる事も無いはずだ。

僕は箱を探す。

机の上やタンスの上、また机の引き出しには無い。

ならば机の下か、僕は机の下を覗いてみた。

そこには、箱があった･･･が、

箱から何かが垂れている。あれは何だろうか･･･。

血では無い。真っ黒でドロドロした液体だ。触るとネバネバしている。

蓮子はこの動かしづらい箱根細工のまま動かしていたというのか。洗わなかったのか。

いや、洗うという発想が出来なかったのかもしれない。あの状態では。

とにかく、僕はその箱を処分すべく

箱を持って外に出た。





【小鳥遊市裏　廃村】

蓮子の気配を感じながら、僕はこの村まで戻ってきた。

また、ここに来る事になるとは思わなかったが、今はしょうがない。

この箱を、もう一度あの部屋に戻しておく必要があるようだ。

また、変な雰囲気が漂うこの村。

人が居なくなった村の痕跡の、この奇妙な光景は何が起こったのだろうか。

そもそも、胎児のミイラが何故、飾られるように家の表札に括りつけてあるのか。

この電波な書き込みされた紙を貼られた家はなんなのか。

人形がくくりつけられたこの家は、一体何を信仰していたのか。

だが、今はどうでも良い。

とにかく、この箱を元の場所に返すことだ。






【？？？】

いつ来ても嫌な空気が流れる部屋だ。

嫌な壁、嫌な天井

その中で、箱は無造作に捨てられたように置かれていた。

ならば、僕もそれを見習って捨てることにしよう。

これで蓮子が元通りになるとは考えにくいが、

今はこれで良しとしよう。

これから先の事を考えてため息を吐いた。

手を洗いたい。

そう想い、この村の近くに流れる川に行こうと外に出た。

さて、川はどこだったかな。

そう思って辺りを見渡し、川を探してみる。

すると、遠くで誰かが居る。

なんだろう。走っているようだが。

いや、走っている、

そして、こっちに近づいてきている。

見覚えがある。

首が座っておらず、ぐわんぐわんと首が暴れている。

遠くに居た”そいつ”は、だんだんこちらに近づいてくる。

口や目が大きく開かれてる筈なのに、僕にはその目と口が見えなかった。

黒く塗りつぶされているように、真っ黒だったからだ。

そして、大きく口を開いているのに、無音だった。

足音だけが大きくなって、

”そいつ”も大きくなっていく。

あ、

蓮子だ。

こちらに近づいてくるのが蓮子だと分かった瞬間、そこで意識が途切れた。








【翌日】

気がついたら、また家に居た。

『･････････』

また、蓮子を止める事が出来なかったのだろうか。

それとも、あれは蓮子では無かったのでは無いのだろうか。

ただ、幻覚を見ていただけなのかもしれない。

だが、もしあれが幻覚だとしたら

何故、僕はあの村から家に帰るまでの事を覚えていないのだろうか。

『･･･こんな事で、良い筈が無いだろうが･･･』

僕は、すぐに蓮子の家に向かおうと立ち上がった。







【蓮子の家】

居ない。

蓮子がどこにも、居ない。

箱もどこにも無い。

･･････どこに居るかは分かって居る。

間違いなく、あの村に居る。

『･･････だが、何故あんなにも、あの箱に魅入られているんだ？』

『それは、あの娘が呪われたからよ』

窓から声が聞こえた。

僕が一番苦手な知人の一人の声だ。

今、余裕が無いこの時に彼女の声は聞きたく無かったが、

『君は、彼女がどんな状況かわかるんだな？』

『ええ。もう彼女が居ないという事くらいわね』

紫はバッサリと答えた。

夢も希望も無い、絶望だけが降り注ぐ答えを

『･･･それは、どういう事だ？』

大体、想像は出来ているが確認の為、紫に答えを聞く。

『･･････想像のとおりよ。それよりも霖之助さん。話があるのよ』

『･･････話だと？』

『ええ、あの箱の事は諦めて幻想郷に帰ってほしい。』

『断る』

時間の無駄だった。すぐにも、あの村に向かわなければ

『･･･あの箱の事なら、貴方の手にも余るわ。』

『ならば、君が解決してくれるというのか？』

『私の手にも余る。恐らく博麗の巫女の手にも余るんじゃないかしら。』

『･･････一体、あの箱はどんな物体なんだよ･･･』

僕は、頭を抱えてその場で崩れた。

考えると、頭がおかしくなりそうだったからだ。

『あれは、関係の無い私達が関わってはいけなかった箱。』

『なら、どうして蓮子が』

『そんな事、私も知らないわ』

ええい、この役立たずめ

『あの箱は、下手をすれば私だって消えかねない箱なのよ？冗談じゃないわ。』

『君は、随分とあの箱の存在を知っているようだが、僕は知らないんだ。』

僕は、紫に指を突きつける。

『もう一度問う。”あの箱”は一体何だ。』

『あれは、一種の呪術道具よ。名前は･･･”コトリバコ”という名』

コトリバコ

名前は、一聞かわいらしいが

『箱を開けたら死ぬわよ。持ってても死んじゃう事がある。』

『知ってるのは、このくらいかしら』

断言した紫の表情は、真剣そのものだった。

なんて事だ

あんな箱が、そんな単純で壮大に恐ろしい物だった

『･･･いや、実際の用途は貴方が知っているんじゃないかしら？』

『絶対に開けては行けない箱。そうとしか見えなかった。』

『そう･･･。他にも感じなかった？』

他･･･、他は

『･･･僕の能力とは関係ないかもしれないが、子孫もろとも根絶やすまでの憎しみの邪念を感じた。』

『関係なくないわ。そう読まなかっただけで、それは正解よ。』

何だと

という事は、あれを開けてしまったら･･･


ゴキャッグチャッ


外で、大きな音がした。

肉が飛び散る音と水が飛び散る音、そして硬いものが折れる音だ。

外を見てみると

ここ最近、後ろを見つめては怯えていた男子生徒が

ビルの屋上から飛び降りていた。

６階程の高さのビルから落ちた男子生徒の身体は、

まるで誰かに叩き潰され、引き裂かれているようにも見える。

『･･･････････････』

『霖之助さん。もう手遅れなのよ。』

紫が、後ろで僕の腕と自分の腕と絡めようとしている。

『貴方まで巻き込まれる必要は無いわ。だから･･･早くここから逃げましょう。』

『･･･紫』

僕は、その死体を見つめながら

次は、誰がこうなるのか。を考えた。

半妖の僕でさえ、こうなれば　お終い

完全に逝ってしまうだろう。

そうなるのは御免だ、だから

『御免だ。紫』

彼女の気遣いを感謝して、やるべきことをやろうと決めた。

『･･･私は貴方に死んでもらっては困るのよ。』

『ここで帰ったら、死んだほうがマシになる。』

そう言って、僕は紫の腕を払って逃げ出した。

蓮子

蓮子　　無事で居てくれ

僕は、すぐさま　あの村へと向かう。






『霖くん！』

村に向かう途中、メリーが潤んだ目で僕を止めた。

『･･･最近の蓮子ちゃん、おかしくなってるの･･･知らない？』

『知っているよ』

『･･･ねぇ、一体･･･何が起こってるの？』

メリーが、本気で心配そうな目で僕を見つめる。

『･･･もうすぐ終わるよ。』

僕は、ただそう言って村へと向かった。

『霖くん！？』

メリーも僕の後へと追いかけようとする。

『ダメだ！来るな！！』

彼女を巻き込ませるわけには行かない。

コトリバコの呪いをこれ以上広げるわけには行かない。

『･･･っ！』

僕の言葉を大人しく聞いたのか。

メリーはそのまま、大人しく立ち止まった。

僕を睨み、小さく震えながら

『･････誰？』








【小鳥遊市裏　廃村】

また、この村に来る事になろうとは。

蓮子とメリーと共に探検したあとは、二度と来るかと思ったのだが。

今はそんな思い出に浸る場合ではない。

『蓮子は･･･絶対にあそこだ』

僕は、すぐにコトリバコが有ったあの部屋へと急ぐ。

脚を動かし、その家に向かう。

が、向かえば向かうほど、生臭い匂いが濃くなっていく。

何がある。

何が、そこにあるのか。

考えたくなかったが、今から見なければならない。

『･･････っ！』

何も考えず、脚だけを動かして進む事にした。







【？？？】

『蓮子！ここを開けろ！！』

家の中は、特に変わっていない。

ただ、あの部屋の扉に鍵が掛かっている以外は。

中から、カタカタカタ･･･と、箱を動かしている音が聞こえる。

『蓮子ぉ！！』

僕は、何度も扉を殴りつける。

体当たり、蹴り、それぞれ何度も繰り返し扉を攻撃しているが、開く気配がない。

木造の扉の筈なのに･･･何だこの強度は

『聞こえるか！？おい！ここを開けろ！！帰るぞ！』

だが、その扉の向こうからも、その箱の膨大な”呪力”が漏れている。

この呪力を感じながら、長い時間、扉の前に立てない。

早く、ここから出なければならない。

『おい！！蓮子っ･･･』

後ろで、肩を叩かれた

『っ！？』

思い切り振り返ると、そこにはメリーが居た。

『ひゃぁ！りっ霖くん･･･』

メリーは、怯えた表情で僕を見た。

『メリー！何でここに居るんだ･･･！今すぐ帰れ！！』

メリーまで巻き込ませるわけには行かない。

行かないんだ。絶対にこんな･･･

『だって･････霖くん、誰･･････』

メリーは、明らかに僕を見て怯えている。

いや、僕じゃない。

僕の後ろの扉を見て怯えて

『一体誰を･･･担いでるの･･･？』

何か

僕の後ろに違和感がある。

いや、メリーは何を言っている？

僕は、ここ一人だ。

いや、メリーと二人か

後ろを振り返る。そこには

扉の前に　僕を見つめる


髪と首の長い　青い肌をした真っ黒な目と口を開いた女性が立っていた。





【翌日】

僕はまた、知らず内に家に戻っていた。

携帯を日にちを見ると、やはり明日になっている。

『･････････』

何故、僕は眠りにつく

何故、僕はすぐに家に帰る。

･･･これは、

僕は、蓮子は、

一筋縄では解決しない、”何か”に囚われているのでは無いのか。

それは、コトリバコだけの仕業なのか。

とても、そうは思えない。

すぐに、僕は携帯でメリーを呼び出した。

だが、何回コールを鳴らしても、彼女は応答しない。






【メリーの家】

インターホンを押しても、反応が無い。

一体、彼女にも何が起こっているのだろうか。

全く理解ができない。

彼女は、いや彼女達は

一体、何に囚われたのだろうか。

もう一度、彼女に電話をかけてみよう。

『･････････』

また、何度コールしても電話はかからない。

もうよそうか。そう思って電話を閉じようとした瞬間、

《ブツッ》

つながった。

『メリー？メリーなんだな。今、どこに居るんだ？』

《････････････》

『おい、何で何も言わないんだ？』

《････････････》

『･･･なぁ、頼む。何でも良いから言ってくれ。一体･･･僕はあの後、どうやって家に･･･』

《いやぁあああああああああああああ！！！赤ちゃんがぁああああああああああああああ！！！！》

『え！？』

そこで、電話がブツリと切れた。

『･･･一体、何が･･･』

最後に叫んだあの声は、メリーの物では無かった。

間違いなく、あれはメリーの物では無い。

だとしたら、さっきの電話はどこに繋がっていたんだ？

『霖くん！！』

上から、メリーの声が聞こえる。

メリーが、上半身を窓から出して腕を振っていた。





『どうして、さっき電話に出なかったんだ？』

『え？電話なんてありませんでしたけど･･･』

何？

『いや、ちゃんと僕は君に電話を掛けたはずだ。ここに履歴が･･･』

あれ？

履歴が･･･抹消されている。

いや、先ほどかけたメリーへの着信履歴だけが抹消されている。

『どうしました？』

本当に、さっきの電話はどこに繋がっていたんだ？

『･･･なんでもない。』

とにかく、僕達はまた、あの廃村へと向かう事にした。






【小鳥遊市裏　廃村】

『･･･なぁ、メリー』

『？』

『僕が、後ろに振り返った後･･･どうやって僕は帰ったのか、覚えているか？』

『･･･もしかして、昨日の事ですか？』

とにかく、これだけは聞いておかなければならない。

僕が一番に謎と思っている身近な奇妙であるからだ。

『･･･覚えてないんですか？』

『覚えていない。』

『霖くん、そのまま帰ったじゃないですか。』

帰った？

『私が呼び止めても、返事もしなくて･･･。ただ家のある方向へと帰っただけじゃないですか。』

帰った後、僕は何をしていた？

家に帰った後、僕はずっと寝ていたのか？

『･･･そうか。ありがとう。』

ますます混乱してきた。

あの箱を見つけて、僕に何が、とり憑いたとでも言うんだ

『また、あの家に行くんですね？』

『･･･いや、また直接行っても意味は無いかもしれない。』

だから、僕は少し寄り道をする事にする。

『この村には他に隠された事がある。』




【人形の家】

視線を感じる。

所かしこ見渡せば、こちらを見つめる人形がくくりつけられている。

キッチンには、換気口の中に人形が、排水口にも人形の上半身が植えつけられている。

冷蔵庫の中にも、人形の頭がびっしり詰められている。

何故、こんなにも人形が家に括りつけられているのだろうか。

この家の者は、極端な寂しがり屋の異常者なのだろうか。

誰かに見られないと、生きていけないとか･･･

『霖くん』

メリーが、何かを見つけたようだ。

覗きにいくと、机の引き出しの中に、人形以外の物が入っていた。

『これ･･･なんでしょう。』

中に入っていたのは、複数の８ミリフィルムだった。

テープには、【神谷マユリ】【椎名可符香】【近藤江梨子】等、女性の名前が書かれている。

『･･････今、このテープは見れないな。』

このテープ再生できる機器を今、持ち合わせていないのだ。

とにかくこれは回収して、別の物を調べなくてはいけない。

他に見られる物といえば。

猫の死体とネズミの死体、犬の死体

人形に湧く蛆虫しか無い。

人形には、所々男性液と思われる液体が付着した跡があった。

それを見て、メリーは飛び出すように家から逃げていった。

その後、僕はこの家の事を更に調べた。

だが、人形の他に見つかったのは

腐った食べ物と動物の死骸以外、何も見つける事が出来なかった。





【貼り紙の家】

この家は、ほとんどが古い貼り紙で埋まっており、

タンスの中を開けても紙が大量に入っているだけだった。

・私は許さない

・きっと可符香も許さない

ほとんどが『死ね』『呪』とかしか書かれておらず、

あまりに子供が書きそうな程幼稚な言葉が多数貼られている。

その中に見える『お母さんだいすき』と書かれた家族の絵が痛々しく思えるほどだった。

・私も大好きだったよ

・大丈夫、あいつらは殺してやるから

床にも張り紙が貼られており、踏めば嫌な音が部屋に響いていく。

ここは、どこの部屋まで行けば良いのだろうか。

・私のお腹の中には、あのうす汚い豚の子供が

・可符香を犯したあいつらを許さない

ところどころ、血の跡も目立つ。

血を流しながら歩いていたのか、血の跡が道となっており、誰かを導くようにも見える。

・可符香見える？

・お母さんもそっちに行くね

その血は、階段を上った先にも続いている。

この先に何があるのか、分からないが

見たくない。見たく･･･無い。

そう思いながらも、僕の足は自然に二階へと目指していた。




扉にも、張り紙が貼られていた。

・可符香この部屋に居るよ

覗きたくないが。

あけたくないが、

この部屋に、”答え”に近づける何かがあると、僕の直感が言っている。

僕はドアノブを握り、捻り

そして、開けた。

『うわぁあああ！！』

部屋は血しぶきの跡があった。

そして、部屋の真ん中には人間の骨と、骨に乾いた肉がこびりついている。

全体像から見るに、それはまだ子供の骨だった。

子供の骨を中心に、血は飛び散っている。

この部屋には張り紙はほとんど無い。

普通の子供の部屋･･･血しぶきと骨を除けばただの部屋のように見える。

ただ、天井を見上げると、

そこに、貼り紙が貼られている。

・見てるよ

気分が悪い。

僕は天井から目を背けて、前を向いた。

窓に昨日の髪と首の長い女が張り付いていた。

『！！』

目を背けた。

そして、再び前を見た。

窓には、誰も居なかった。

『霖くん』

メリーが、僕と共に部屋を除く

『これ･･････一体何･･･』

『分からない。が、この村で誰かが相当な恨みを持って死んだ事は確かだろう。』

そう思って、扉を締めようと腕に力を込めた。

だが、部屋の内側に有る面の扉にも、貼り紙が貼られていた。

・復讐

そう、書かれていた。








【？？？】

この家は一体何だ。

何故、胎児が括りつけられているんだ。

よく見れば、胎児の腹は切り裂かれている。

更によく見れば、この胎児は皮と骨だけだ。

何の為に、この胎児を引き裂いて内蔵を引きずり出したのだろうか。

･･････貼り紙の家に書かれた貼り紙を思い出す。

まさか。と思うが

とにかく僕は、この家の中に足を踏み入れる。

『･･････蓮子。まだ･･･居るのか？』

呼んでみても、当然返事は無い。

とにかく一歩、今度こそ身長に、あの部屋を目指した。

一歩一歩、あの部屋に近づいていく。



そしてたどり着いた時、扉はやはり閉まっていた。

何も臆せず、確認の為にドアノブを捻る

が、

触れる前に、

ガタンッ！！！！

と、扉が開いた。

『！』

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

そこには、確かに蓮子が居た。

瞳孔をぐるぐる回しながら、涎を垂らし、正座のままコトリバコを開けようとしている蓮子の姿があった。

蓮子はかなりやつれて、頬がコケて目に隈ができていた。

『おい･･･蓮子。もう止めろ』

僕は、彼女に近づく

『･･･いや、蓮子には聞こえていないか』

僕は、彼女に近づいたあと、

思い切り、手を掴んで止めようとした。

だが

『！？』

蓮子の力は、とんでも無く強くなっていた。

全力で押さえつけて止めようとしても、何の抵抗も無いかのように平然と手は動くのだ。

代わりに僕が、振り回されそうになる。

『蓮子！！』

僕は、彼女を思い切り押した。

だが、

『痛っー･･･！！』

岩のように重い。

蓮子は、押してもピクリとも反動せず、

ただ、目を回し涎を垂らしながらコトリバコを開けようとしている

『止めろ！！おい！！もう止めてくれぇ！！！！』

カタリ、と　音がした。

そして、蓮子の動きも止まった。

カタカタ･･･と箱は動く。

そして、箱は完全に開かれた。

コトリバコの中に入っていたのは、小さな眼球と小さな内蔵の全て･･･。

全部人間の物だ。

この一人分の小さな子供の全てが入ったコトリバコ

この一人分は、玄関にくくりつけられていた胎児だと理解するのに時間はかからなかった。

蓮子を見た。

白目を向いて、ガタガタ震えている。

『おい、蓮子･･･。』

返事はしない。

下を見ると、蓮子は失禁していた。

今まで貯めていた物を一気に排泄しているいのだろうか。液体と固形の排泄物が一気に出ていた。

『蓮子ちゃん･･････ひっ！！』

メリーが、悲鳴をあげる。

『いやぁああああああああああああああ！！！』

メリーが、絶叫しながら逃げていく。

『メリー？』

明らかに、蓮子を見て逃げたのとは違う。

この部屋に居る何かに怯えていたというのか？

僕は、再び蓮子の方を見る。

首の長い　髪の長い　青白い肌をした　目と口が黒い女が　部屋にびっしり居た

『！！』

僕は、すぐに逃げ出した。

だが、家から出る前に気づく。

『･･････残して行けるか！』

僕は、再びあの部屋に戻った。



部屋にはもう、あの女たちは居なかった。

代わりに、開かれたコトリバコと白目を剥いて痙攣している蓮子が横に転がっていた。

『蓮子！！』

僕は蓮子を抱きかかえた。

汚物が服に付着したが、そんなこと言っていられるか。

僕は彼女を抱きかかえたまま、病院まで走った。








そして、病院まで向かう途中

絶叫しながら走る人が居た。

桐谷さんだった。

桐谷さんは、絶叫しながらビルの中に入っていった。

『桐谷さん！』

僕は、彼女の名前を叫んだ。だが、振り返ってはくれない。

彼女を追いかけた。

そして、ビルの屋上までたどり着くと

彼女は、ビルの鉄格子を飛び越えた。

『助けて･･･助けて･･･！！』

『桐谷さん！僕です！霖之助です！！』

『･････････』

桐谷さんは、振り返る。

そして、僕を見つめた跡に

妙に達観したような表情をして

『ああ、アンタ達だったのね』

そう、言い残したあと

ビルから飛び降りた。







【翌日】

蓮子が目を覚ました事を、病院で聞かされた。

僕達はすぐさま蓮子の病室へと向かった。

そこで見たのは、

『おいっす！心配かけたね霖くん。メリー』

いつも通りの、元気な蓮子の姿だった。

『いやぁビックリしたよぉ。私、いつの間にか病院で寝てんだもん。ニャハハ』

本当にいつも通りの蓮子だ。

まるで、あの時の記憶なんて無かったかのような

『ところで、私達が持って帰ったあの箱、どこにあるの？結構いい所まで行ったのよね。』

『･････････』

本当に、記憶が無いかのような･･･

『あのまま突き進めば、あの箱の謎も解明できて、秘封倶楽部の発表材料にもなるかもしれないからねぇ。』

『は･･･蓮子ちゃん？』

『そうそう、三回くらい回せた時に、あの箱から黒い液体が流れ出したのよ？あれは絶対何か未知なる物が入ってるのよ！』

『･･･おい蓮子。今日は何日か知っているか？』

『え？』

蓮子は、そこで黙り込む

『何日って、箱を開けるのを目指してからまだ二日くらいしか･･･』

『･････････』

『･･･霖くん。今、何日なの？』

僕は、蓮子に今日の日付を伝えた。

『嘘･･･。もう日曜日なの！？あの日から一週間経ってるじゃない！！私、全然知らないわよ！？そんなの！』

蓮子は、両手で頭を抱えて悩みだす。

だが、首をぶんぶん振り回して『全然思い出せない！！』と答えた。

『ねぇ霖くん！私、記憶が無い間に何が起こっていたの！？教えてよねぇ！！霖くん！！』

蓮子は、恐怖している。

空白の日にちに何が起こったのか観測できなくて、恐怖している。

だが、僕には

どうしても、”何”が起こったのかを蓮子に伝えることが、出来なかった。







【家】

蓮子はまだ入院している。

明日退院となるみたいだが、本当に大丈夫なのだろうか。

メリーも自分の家に帰っていった。

今、それぞれ解散という形で家に戻っている。

『･････････』

家で一人、僕は人形の家から持ち帰った８ミリフィルムが気になっていた。

これをどうにか再生させたいが･･･。どこかに再生機器があっただろうか。

確か、ここに来る際に持ってきた店の品数々の中にあったような気が･･･

ああ、これだ。

8ミリフィルムの再生機器。これでこの中身が見れる事だろう。

ちなみに、このフィルムの日にちは３０年前になっている。

そんなに昔のフィルムなのか。と感心しながら

僕は、８ミリフィルムを再生した。





【８ミリフィルム】

そこには、縛られた全裸の女性が映し出されていた。

女性のすぐ近くには、男が数人取り囲んでいる。

男は、女性に群がり

女性に暴行を加えている。

音声は無いが、女性の抵抗を見る限り、これは映像制作の為に作られたわけでは無さそうだ。

だとすれば、これは本物か？

次に【椎名可符香】のフィルムを見る。

このビデオは･･･どう見ても小さな子供が犯されている。

見るだけで気分が悪い。吐きそうだ。

子供が、先ほどの女性と同じように暴行を加えられている。

もう止めようか。そう思ってビデオを止めようとしたら

イキナリ大きな顔で映像が埋め尽くされた。

この映像の部分だけ、赤と黒しか色が無い。

こちらを見て笑っている。

そして、笑いながら口をパクパク動かしている。

唇の動きを見る限り、この顔は

【あ・り・が・と・う】

と、言っている事が分かった。

そこで、映像は終わっていた。






〜蛇足〜

それから後は、僕たちには何も起こらなかった。

が、確実に周りには何かが起こっていた。

【桐谷一家が全滅】

そんな話題がテレビのニュースでも流れている。

土曜日、僕が最後に見た桐谷さんの死

あの後にもすぐ、桐谷さんの母や父、そして妹が死んだようだ。

それぞれ死因は違ったものの、共通点として全員が恐怖で顔が歪んでいたのだという。

安らかでない死に顔で、この世を去った桐谷一家。

最後に、桐谷さんの祖父が首吊り自殺をした所で一家は全滅を果たしたそうだ。

最後の顔は、恐怖と後悔で歪んでいたように見えたという。


そして月曜日。

投稿する日が今日も来る。

蓮子とメリーは浮かない顔をしていた。

当然だ。クラスメイトが死んでしまったからだ。

彼女達は知らないかもしれないが、あの後も学校の人間が3人は死んでいる。

更に、その三人の家族もこれから死んでいくのだ。

『･･････』

三人一緒に登校しているというのに、会話は全くの皆無だった。

当然だ。まだ何も解らない者、恐怖する者、真実を知っている僕が居るのだから。

ギクシャクして話せないのは仕方が無い。

ちなみに、箱を開けたのが蓮子だという事は、まだ誰も言っていない。

本人は、もしかしたら気づいているかもしれないが。

『･･････あ』

最初に声を出したのは、蓮子だった。

だが、蓮子は僕たちの方を見ていない。

蓮子が見る先には、踏切が鳴っていた。

踏切に、女の子が一人立っていた。

そして、こちらを見た瞬間

女の子は、電車に轢かれた。






警察の取り調べを受けた僕たちは、ある事を聞いた。

轢かれた女の子は、調べると桐谷さんの従姉妹だった事が分かった。

あの箱が、子孫もろとも根絶やしにする事は本当だったのか。

だが、今となっては僕はどうすることも出来ない。

あんな強大な呪力を抑えるには、僕自身が犠牲になっても足りないだろう。




教室にたどり着くと、全員がこちらを見ていた。

僕たち三人を、じっと見ていた。

『･･････何よ、これ』

黒板には、

【出てけ！！人殺し倶楽部！！】と大きく書かれていた。

『なんなのよ！！これは！！』

蓮子は、思い切り黒板消しでその文字を消した。

『･･･聞いたぞ』

クラスの端から、声が聞こえる

『お前ら、少し前から様子がおかしかったんだってな』

ああ、そうだ。

分からなかったとは言え、これは自業自得じゃないのか

『･･･そうだな。』

『噂になってんだよ。お前らが桐谷を殺したんじゃないかって』

『そんな訳無いじゃない！！どうして私達が疑われるのよ！！』

『･･･白を切るな人殺しがぁあ！！！』

教室から物が投げられる。

僕は、投げられた物を手で掴む

そして、それを投げ返した。

『ぐあ！』

投げてきた人は、投げた物を投げ返されて、それで椅子から転げ落ちた。

『･･･噂程度で人殺し扱い、まして物を投げられる筋合いは無い。』

確かに、箱を開けたのは僕たちだ。

あの箱を見つけたのも、僕たちだ。

だが、それでも僕たちは知らなかった。

特に、蓮子は乗り移られていたと言っても良い。

『･･････ちっ！』

物を投げた人は、そのまま教室から出て行った。

『はぁ！？何ふざけた事言ってるのよ！』

また物を投げられたので、掴んで投げ返す。

『きゃぁ！！』

今度は人に当てず、壁に当てた。

力を入れすぎたせいか、壁に少し穴を空けてしまった。

『･･･ひっひぃいいい！！』

皆が、逃げていく。

『化物！』『殺人鬼！』そう言って、怯えながら逃げていく。

『･････････』

いつの間にか、教室には僕たち三人しか居なくなっていた。

『･･････うっ･･･うぅ』

メリーは、泣き出してしまった。

蓮子は、俯いたまま動かない。


確かに箱を開けたのは僕たちだ。

だが、もうこれは避けように出来ない事。

僕ができることは、僕だけが評判を悪くさせることくらいだ。

僕はともかく、蓮子とメリーはずっとこの世界に留まるのだ。

少しでも過ごしやすいよう、悪評は僕が受け止めるしかない。

『･･･きっと、大丈夫さ。』

僕は、彼女達にそう伝える事しか出来なかった。








そして、ニュースでは桐谷さんの親族が次々に死んでいくことに対し

【謎の変死、これは神の怒りか】

などと言うふざけた煽り文句がテレビで流れ始める。

そして、生後5ヶ月の桐谷の又従兄弟が死んでから

それ以降、バッタリと変死事件は収まった。

もう、本当に桐谷家は全滅してしまったのだろう。

他に、見えていた男子生徒･･･そして三人の死人の家族も親族も

全員死んでしまったのかもしれない。

いや、死んでしまった。そう断言できる。


そして、変死事件がバッタリ止んでからは、もう僕たちを『人殺し』と言う者は誰ひとり居なくなった。

そもそも、僕たちにこんな殺人ができるはず無いと言う人達と、

あいつらに関わったら殺されると怯える人達とが占めているのだが。

結局のところ、僕達を相手する人達は居なくなったのである。

『･････････』

コトリバコの呪いが無くなった今、学校は平和になろうとしている。

ただ、僕たち秘封倶楽部という存在を”裏”に隠して、無い物という存在にしようとして




突然だが、皆さんは【猿夢】というのをご存知だろうか。

お察しの通り、夢の中では自分は電車の中で、

『次は、撲殺、撲殺―･･･』等と、次々に乗客が殺されるアナウンスが流れ、そして殺されるという夢である。

僕はそんな夢を見た事が無かったのだが

恐らく、蓮子もそんな夢を見た事は無いだろう。

なぜなら、僕は今日見たからだ。

電車の中には、桐谷さんとその家族･･･そして親族が乗った電車に

僕もひとり乗っている。

運転席には、

髪と首の長い　青い肌をした真っ黒な目と口を開いた女性が居る

『次はー、地獄ー。地獄ー。』

そのアナウンスが流れた後、僕と桐谷さんの乗せた電車は

真っ暗なトンネルを通った後に、光に包まれて


そこで僕は目が覚めた。