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『ユメ』 作者: 糞団子
畳の上で一人の少女が寝そべっている。
彼女の近くにある机の上にはまだ採点途中の答案用紙が散乱していた。採点の途中で疲れてしまったのだろう。すやすやと寝息を立て眠っている。
窓の外からは灰色の空が覗き今にも雨が降りそうだった。
辺りはは静寂に包まれ彼女の安眠を邪魔するものは何者もいないはずだった。
「慧音、起きてる?」
戸が開かれた音と自分を呼ぶ声に気づき慧音と呼ばれた少女は眼を覚ました。
「ああ、妹紅か」
妹紅と呼ばれた少女はその声を聞くと慧音の家の中に入っていった。
「ごめん慧音、起こしたかい?」
妹紅は眠そうにまぶたをこする慧音を見てばつが悪そうに聞いた。
「いや、気にするな。そろそろ起きなくてはいけなかったから丁度よかったよ」
そう言って慧音は軽く体をのばした。
「もうこんな時間か。晩御飯の用意をしなくては駄目じゃないか」
「大丈夫だよ慧音、私が家から筍と魚持ってきたから」
妹紅の手には赤い風呂敷が握られていた。あとは米があればいいわけである。
「すまない妹紅、気を使わせてしまったみたいだな」
「いや気にしないでたまには私も何かしなきゃいつもタダ飯というわけにもいかないでしょ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂くかな」
二人は料理を適当に盛り食事を始めた。
他愛のない話を楽しみ食事も終わろうかというところで妹紅がこんなことを言った。
「慧音、最近疲れてるんじゃない?」
「疲れているといえば...まあ疲れているが。それがどかしたか?」
「んー、どうしたかと言われれば別にどうってことはないんだけどね。たまには自分を休ませてあげないと体を壊しちゃうよ」
「心配しなくてもいい、私の体には半分、白澤の血が流れている。ちょっとやそっとじゃ倒れたりしないよ」
「そう...でも無理はしないでね。慧音が倒れたりなんかしたら困る人がたくさんいるんだから」
確かに最近慧音は異常な眠気に襲われることが多々あった。しかしそれは疲れているだけ、そう思い心の中にしまっていた。
しかし妹紅に心配をかけたくないその気持ちが慧音に嘘をつかせたのだった。
「安心してくれ妹紅。さあ、食器を片付けて風呂にでもはいろう」
妹紅を安心させるために声を明るくしてそう提案した。その様子を見て妹紅も少し安心したのかいつも通り慧音に微笑みかけていた。
「妹紅、先に風呂に入っていていいぞ。採点を終わらせないといけないからな」
「そう?じゃあお先に入らせてもらうね」
ぱたぱたと足音を響かせ妹紅は風呂に入りにいった。
妹紅が風呂に行ったことで家の中は慧音の動く音だけである。
「さて、もうひと踏ん張りかな」
黙々と答案にマル、バツをつけてゆく。
しばらくは作業を続けていた慧音だったが、
「ん...いかんいかん。寝てしまうところだった。今日中に終わらせないとマズイのにな」
そう気を引き締める慧音。
そんな時、答案用紙に大きな染みが拡がった。
「おっと、雨が降ってきたのか」
慧音は答案が濡れないようのあわてて雨戸を一つ残さず閉めると再び採点を始めた。
風によって戸が軋む音が少し気になったがそれもそのうち気にならなくなっていった。
闇の空から降る雨は次第に大きくなり屋根を叩き始めた。
慧音は自分がおかれている状況を理解できなかった。
(.....ここは何処だ?)
慧音は明るい部屋にいた。床や壁はは鏡で覆われ、壁際の棚にはは小綺麗注射器やよく分からない薬品が並んでいる。部屋の中央には布が被った何かがあった。
(私は確か答案の採点をしていた筈だが...)
思い出そうとするがそれ以降の記憶が全く出てこない。それもそうだろう。自分はなぜこんな場所にいるのか、自分はこれから何をされるのか、知人は巻き込まれていないか、嫌な想像ばかりでしてしまいなかなかそれを思い出せない。
不安に身を震わせいる慧音だがあることに気がついた。部屋の中央、すなわち布が被った何かが少しうごめいていた。その何かは小さくうめき声をあげ助けをようにも見えた。
慧音は自分の最悪の想像が当たってしまったのではないかと危惧した。
それは自分の知人があそこに囚われているのではないかというものだった。
慧音はすぐに動くそれを確かめに行った。
自分の想像が的中しないことを祈りながら。
布を掴み勢いよく剥ぎ取る。
慧音の予感は的中した。
そこに囚われている人物は大の字に固定されていた。
その人物は慧音の最も親しい友人、藤原妹紅であった。
「もこ....ッ...」
自分の友の名を呼ぼうとしたが声を出せなかった。妹紅は手首を鉄の杭が刺されそれによって拘束されていた。血が深く滲み溢れ出している。それによって妹紅は苦しそうにうめき声をあげている。
極め付けは妹紅の周りに無造作においてある物だった。
鋸、注射器、針、ペンチ、メス、鋏それらには例外なく血がこびりついており本来の用途では使われていなかったことが推測された。
そのあまりにも惨い光景に驚き声が出せなかった
「...ッ...ォ...ォォォ!?」
いやそうではなかった。
声が出せないのではなく、出なくなっていたのだった。まるで言葉の出し方を忘れてしまったかのように獣のようなうめき声しかでない。
友人の名を呼ぼうとしても呼べない。
そんな状況で慧音は少しづつ冷静さを失っていった。
しかし異変はそれだけではなかった。
(落ち着け...声が出なくとも妹紅を助けることはできる。この手に突き刺さっている杭を抜けば...)
慧音は痛々しく妹紅に突き刺さった杭を忌々しく睨みつける。
慧音は鋸を手に取り妹紅を解放しようとした。
(あれ?なぜ私はこんなものを手にとったのだろうか?)
自分でもなぜ掴んだのかが分からない血のこびりついた鋸。
次の瞬間慧音はそれを妹紅の腕に勢いよく振り下ろした。
肉と金属がぶつかる鈍い音が一瞬した。
鋸は削って切り落とす道具なので刃は深く肉には侵入しなかった。しかし肉を削るその痛みは確かなものであった。
絶叫が部屋に響き渡る。それは他の誰でもない妹紅のものである。
妹紅の悲鳴を聞きようやく慧音は我にかえった。
「ォ.....オォォオ!!」
必死にめり込んだ鋸を抜こうとするが一向に腕が上がらない。まるで自分の腕ではないかのようにピクリとも。
(何で!?どうして私が妹紅を...!?)
思考はできるが腕だけはどうあがいても自分の意思では支配できなかった。
慧音は半狂乱になりながら手を離そうとする。
しかしやはり小指一本動かなかった。
それどころか腕は妹紅の腕に垂直に動き出た。
それに気づき慧音は手をはなそうと必死になる。目は赤く充血し髪を振り乱し、脂汗が全身を流れる。
そんな慧音の努力も虚しく鋸はどんどん腕を削っていく。肉の欠片が辺りに散り、血が吹き出るたびに妹紅は叫び泣きわめく。
「け...慧音ぇ...やめてよ...お願いだから...ガァア!」
(違うんだ妹紅!私はお前を...)
そう言おうとするが口から出るのはくぐもった獣のような声だけであった。
鋸が肉を削り取り骨が見えたところでようやく腕が止まった。
妹紅は痛みに耐えようとして唇をかんだのだろうか、唇の皮は千切れ肉が見えていた。
目は真っ赤に充血して血の涙を流しているようだった。
慧音も必死に腕を止めようよ奮闘したものの結局止めることはできず、呆然としていた。
髪は乱れ服は妹紅の返り血と肉片で赤く染まっていた。
腕が止まったところで手からも鋸は落ちた。
(ようやく終わった...。でも私は妹紅を...妹紅を...)
自分が友人を傷つけてしまったことからの罪悪感により涙が止まらなかった。
泣いていても仕方が無いと自分を叱りつけ、立ち上がろうとする。
(ん...?)
慧音の手に何かを持っていた。
それは金槌だった。
(嘘だろ...)
金槌を持った腕は妹紅の腕をへし折ろうと振り下ろされた。
「うわあああ!」
「慧音!どうしたの!?」
「も...妹紅?」
そこはあの部屋ではなく見慣れた自分の家だった。妹紅が心配そうに慧音の顔を覗き込む。
「どうしたの慧音、すごい汗だよ。何か悪い夢でもみた?」
「ゆ...夢?」
今のが夢?そうは思えないほど鮮明でリアルな夢であった。しかし目の前の妹紅はどこにも怪我を追っていないし、また自分の服も寝る前の動きやすい寝巻きだった。
「そうか夢でよかった...」
慧音は自分の頬に温かいものが流れ落ちるのを感じた。
「うお、慧音泣いてるの!?」
「バカ!泣いてなんかいない!!」
「そんなに怖い夢を見たんだったら私が添い寝してあげよっか?」
「結構だ!ふん、あがったのなら私も風呂に入ってくる」
妹紅に泣き顔を見られたことの恥ずかしさで赤くなった顔を見られたくないので慧音は風呂に早足で向かった。
日は変わり、朝をむかえた。
あの後、慧音はまたあの夢を見てしまうのではないかと不安だったが、妹紅もいることもあり割と安心して眠ることができた。不安に感じていた悪夢も出てこなかった。
(やはりただの夢でだったか)
そう思い慧音は安心した。
二人で朝飯を食べたあとに妹紅は用事があるからと外に出て行った。夜にはまたくるかもしれないとのことだった。
慧音も寺子屋を開くための準備を始めた。
寺子屋の開かれる時刻となりどんどん子ども達がここにやってくる。
子ども達の騒ぐ声ですぐに寺子屋は騒がしくなり、慧音はその様子を見て頬を緩ませる。
「さあ、みんな静かに。授業を始めるぞ」
慧音の手を叩き生徒達に呼びかける。だんだんと教室内は静かになっていく。
いつもと変わらぬ光景。それを感じ取り慧音は安堵した。やはり昨日の悪夢は夢でこちらが自分の世界なのだと再認識できたからだった。
授業もつつがなく終わり、子ども達も帰路についた。
天気は相変わらず悪かったので子ども達は外で遊べず、とっとと帰ってしまうのだった。
一息ついた慧音は今晩のおかずを何にするか考え始めた。
魚にするか、いや昨日も魚ので肉でも煮込んで鍋にでもしよう。
そんなことを考えながら今晩を楽しみにする。
(昨日は妹紅に任せてしまったからな、今日は私が腕によりをかけてつくるとするか)
寺子屋に子供が残っていないかを確認し、慧音は買い出しに向かった。
「やっほー慧音。ん...何か美味しそうな匂いがするね」
「お、妹紅きたか」
妹紅が慧音の家にきた時、肉を煮込んでいる真っ最中だった。
「もう少しで出来るから待っててくれ」
「うん、じゃあ私お皿出しとくね」
鍋ということで妹紅の気分も高まっているようだった。皿を並べに向かった居間からは彼女の鼻歌などが聞こえる。
(妹紅の奴め、そんなに鍋が嬉しいのか)
そんな様子を見て慧音も思わず頬を緩ませてしまう。
具材も出汁をよく吸い込み程よい色合いになってきたところで慧音は鍋を居間に持っていく。
「いやー鍋なんて久しぶりだね、何かいいことでもあった?」
「んん...特にないが...まあ、気が向いたからだ」
慧音はそう言うがが昨日の悪夢を鍋を妹紅とつつく、楽しい気分で忘れたい。そんな気持ちがあったのかもしれない。
「ほら、覚めてしまうぞ。早く食べよう」
「うん。それじゃあ、頂きます」
慧音よ妹紅。その鍋をつつく光景はとても微笑ましいものだった。
妹紅が味の感想をいい、慧音がそれを嬉しそうに返す。
そんな楽しい時間のなかで鍋の中身はみるみるうちになくなって行くのだった。
「ふぅ...お腹がいっぱいだ」
「ごちそう様。私が片付けとくから、先に入ってきていいよ」
「ん...それじゃあ入ってくるかな」
それから二人は風呂に入り、軽く酒を飲み床に就くことになった。
隣同士で寝ることで慧音も安心していた。
昔、親に添い寝してもらっていた時を思い出した。
「妹紅、おやす...」
妹紅は隣で寝息を立てていた。
千年以上生きているというのに子供みたいなやつだな。そう思い慧音も目をつむった。
二人が眠り始めて数十分ほどたった。
慧音は自分の手に何か生温かいものを感じそれが彼女を目覚めさせるきっかけとなった。初めはそれが何か分からなかった。しかし次第に覚醒し、視界がはっきりとなるにつれてそれの正体がわかってくる。
(何だコレは?...肉か?)
手に握られていたのはひと塊の肉。
それは血でぬめりと光沢を帯びそれがすぐに何かから切り取られたことがわかる。
それに気づいた瞬間、慧音の全身からぬめりと汗が吹き出す。
視線をゆっくりと視線を下に向ける。
そこには昨日と同じように妹紅が拘束されていた。ただ少し違うのは腕が何事もなかったかのようにくっついていること。胸の右側がまるで初めからなかったかのようにぽっかりと穿たれていた。目は血走り、手のひらは握りすぎたせいで赤黒く変色している。
慧音は叫ぼうとしたが相変わらず声は出ず、獣
のような唸り声が喉の奥から出るばかり。
突然慧音の腕が妹紅のえぐり取った乳房を何処かに投げた。無論、これは彼女の意志ではなく勝手に行われたものである。
これは夢だ。そう思おうとするが目の間で行われている残虐な光景はあまりにも鮮明なものだった。
しかしたとえ夢であっても慧音は親友を傷つけたくなかった。これだけ鮮明なものだとなおさらである。
必死に自分のものでなくなった身体に抵抗を試みる。そんな抵抗虚しく、慧音の腕は妹紅の近くにある道具の中からメスを握りしめる。鋸とは違い慧音の顔が写り込むほど研ぎ澄まされていた。
メスは妹紅の未発達な乳房にあてがわれた。
少しづつ肉に刃がめりこんでゆく。それに伴い妹紅も苦痛に顔を歪ませる。その表情をみて慧音は罪悪感で胸が潰れそうになる。
刃が完全に肉に入りこんだところでメスは円を描くように妹紅の胸を切り裂きにかかった。
人の肉を切るために作られたそれはいとも簡単に妹紅を切り裂いて行く。獣のような声が部屋中に響く。これは慧音のものではなく妹紅のものであった。
(もうやめてくれ...頼むからもう...)
慧音は罪悪感に耐えきれずに泣き出してしまう。自分は死んでもいいからもうこれ以上も恋を傷つけないでくれ。そう思いもした。
しかしそんな慧音の気持ちを踏みにじるかのようにメスはサクサクと軽快に肉を切り進めていく。
時間にして数分だろうか。妹紅の乳房は慧音の手によって切り取られた。
妹紅の上半身からは女性の象徴ともいえる部位が綺麗になくなり、赤みがかった血溜まりが二つ出来上がった。慧音の手には切り取った肉塊。
初めのうちは叫んでいた妹紅だったが今はしんでいるかのように口を開かない。
慧音もただただ泣きじゃくるだけだった。
しばらく慧音は泣き続けていた。
しかし自分の腕が再び動きだそうとしているのに気がつき、再び血の気が引く。
(嫌だ...!もうこれ以上は)
しかし腕が動いた方向は妹紅ではなく慧音自身だった。
意思とは関係なく動くその手には妹紅から切り取った乳房がにぎられている。
手が慧音の顔に近づくにつれ慧音の口も少しづつ開き出す。
それを見て何が起こるのかは慧音は予想できたが妹紅を傷つくのを見ずにすんで安心した。
その行為をたんたんと受け入れたのであった。
慧音...慧音.....
自分を呼ぶ声が聞こえる。
何者かに身体揺さぶられているのも感じた。
「慧音ったら!」
「は...!!」
声が一段と大きくなった瞬間慧音は飛び起きた。周りは見慣れた壁、畳。そして心配そうに自分の顔を覗き込む自分の親友、妹紅の姿だった。
「大丈夫?酷くうなされてたみたいだったから起こしたけど...」
「夢...あれは夢なんだよな...」
その瞬間に先ほどまでの光景が走馬灯のように脳裏に現れる。とてつもない吐き気が慧音を襲った。
こみ上げてくるモノを吐き出そうと厠へ向かおうとするが、立ち上がった瞬間に吐き出してしまう。
「ちょっと!慧音、本当に大丈夫なの!?」
夜に食べて消化しきれなかった野菜の欠片などが一つ残らず吐き出される。胃の中身をすべて出してもまだ吐き気は収まらなかった。
自分の体が吐瀉物で汚れることも構わずに妹紅は慧音の背中をさするが一行に慧音の様子はよくならない。
「ッ...まってて!今すぐに医者を読んでくるから」
自分の手ではどうしようもない。そう思った妹紅は履物も履かずに医者の戸を叩きに駆け抜けて行った。
医者の男は眠りこけていた。
そんな中戸を激しく叩く音が耳に入り目を覚ました。
「うっせぇな!今何時だとおもってる!...って妹紅さん?どうしたんです?」
服もはだけて靴も履いていない妹紅をみて男は驚いた。
「慧音の様子が変なの!助けて!」
「何!?慧音さんが?すぐに向かう!」
人里の中での慧音の人望もありすぐに医療器具を用意して慧音の所に向かってくれた。
「妹紅...心配かけたな」
医者の診察を受けた後、横になっている慧音は言う。
「うんうん、気にしないで」
妹紅は吐瀉物の掃除をしながらそう答えた。
「だから体を休めるために早く寝て。お医者さんも疲労が原因の風邪だって言ってたんだし」
「いや、今日はもう眠れそうにないよ、しばらく横にならせてくれ」
「横になっていればそのうち眠れるよ、慧音はゆっくり休んでいてね」
そう微笑みかける妹紅だが、慧音の気持ちは複雑だった。
それから慧音の体調不良のため寺子屋は休学となった。
慧音のそばには妹紅がいたが、慧音の表情はどこか怯えたようだった。
そんな慧音の様子に一途の不安を持つ妹紅だったが、
「私は大丈夫だ、安心してくれ」
そう慧音が言うので何も言わないでいた。
しかし妹紅の不安は的中した。
慧音はその晩を境に、睡眠を取らなくなってしまったのだ。
妹紅が声を荒げて言っても濁すような返事がかえってくるだけ。
日に日に慧音の容貌も変化していった。
目の下には深い隈ができ、穏やかだった顔は食事満足に取らないため痩せこけてしまった。
医者に言っても原因が分からない、私にはどうしようもない。と申し訳なさそうにいうばかり。
慧音が眠るらなくなって1週間が経った。
最近慧音は不眠薬にまで手を出してしまっているようでますます体調がおかしくなってきているようだった。
妹紅ひとりでは最早どうしようもなかった。
(あいつらに頼るのは癪だけど、そんなことも言ってられないか...)
布団の上で横になっている慧音に少し出かけると言い残して外へ出た。
親友を助けるために妹紅は竹林の奥へと歩き出したのだった。
永遠亭では輝夜が暇そうに縁側でお茶啜っていた。
「はぁ...」
妹紅も慧音につきっきりで遊ぶ相手がいないことに暇持て余しているのだった。
ちびちびとお茶をすする輝夜に鈴仙が話しかける。
「姫様、お客様ですよ」
「何よ、今はアホの妹紅以外とは会いたくないわ」
そうぶっきらぼうに返して再びお茶をちびちびすする作業に戻る。
「成る程、アホな私と会いたい訳ね」
「そうそう...って妹紅!?」
妹紅が輝夜の頭に拳骨を叩き込む。
痛そうに頭をさすりながら輝夜は聞く。
「貴方、慧音の看病やめて私と殺し合いにきたの?随分と冷たいことね」
「...実は今日来たのはお前に用があるんじゃないんだよ」
すまなさそうに妹紅は言う。
「じゃあ何よ?薬でも買いにきたって訳?」
「そうだ」
その言葉に輝夜は驚く。
「頼む、慧音を助けてくれ」
永遠亭からの帰り道、妹紅は大事そうに包み紙を抱えていた。
(案外あっさりとくれたな...)
薬をくれと言った時は渋ってなかなか渡してもらえないと思っていたが、輝夜の方から永琳に口添えして目的の薬を手に入れることができた。
「この恩忘れないでね、妹紅」
恩着せがましいその言葉に腹が立ったが感謝の気持ちが大きかったので礼を言ってその場を後にしたのだった。
輝夜としても遊び相手である妹紅が慧音の看病ばかりしていては退屈だと考えていたため、慧音にとっとと治って欲しかった。
(あいつも案外いいところあるじゃないか)
これで慧音を治すことができるそう思うと勝手に駆け足となった。
「慧音、今帰ったよ」
慧音は相変わらず寝床にいた。
「今晩ご飯作るからね」
台所で簡単な粥を作りあげる。
その際に永琳からもらった、薬を混入させる。
その薬は睡眠薬だった。
永琳が言うにはこれ一粒で15時間以上決して起きることはない。そんな強力な代物だった。
1週間ちかく眠っていない慧音にはちょうどいいものだと永琳は言っていた。
問題は粥を食べてくれるかどうかである。
そればかりは慧音の気分しだいであったため妹紅は心配であった。
慧音のところに睡眠薬入りの粥を持っていく。
「慧音、お願いだから食べて。体よくならないよ」
慧音も口の近くにさじ近づけ食べるように懇願する。
「........」
そんな妹紅の思いが届いたのか慧音は口を開けて粥を一口、喉に通した。
その途端慧音の頭がぐらつき妹紅の胸に突っ伏すような形で倒れこんだ。
「...慧音?」
妹紅の胸の中で慧音は静かに寝息を立てている。
(良かった...これでまたよくなるよね...)
妹紅は優しく慧音をに横にならせる。そして布団をこれまた優しくゆっくりとかぶせた。
今までの疲れが出たせいか妹紅もその場で横になり眠ってしまった。
「アアアアアアアアアアァアアア!!」
慧音が気づいた時にはすでに意識はあの部屋にいた。
(どうしてだ!?不眠薬の効き目がなくなってしまったのか?)
目の前には傷ついた妹紅、周りには血塗られた拷問器具。泣き叫ぶ妹紅。
自分の身体を犠牲にしてまで見たくなかった光景が今再び彼女の目の前にあるのだ。
獣の声で慧音は叫ぶ。
無慈悲に動き出した慧音の手が妹紅の身体を破壊するための道具を握りしめる。
「慧音、助け...ガッ...」
握りしめた金槌妹紅の右目を叩き潰す。血に混じり白く眼球だったものが眼孔から流れ出す。
「アア...アアアァ」
金槌を投げ捨てると今度は素手で妹紅の髪を掴み取った。
頭皮の向きとは逆に思い切り力を込めるのが慧音にもわかった。髪の支える力が勝り次第に頭皮はぶちぶちと嫌な音をたててちぎれ始める。
頭皮はその負荷に耐えきれずとうとう頭をから分離した。頭皮の裏側には肉までもが一緒にくっついていた。
部屋の中は叫び声と肉を破壊する独特の音だけが響いた。
骨砕き、肉をえぐり、爪はがし、妹紅の身体をいくら破壊しようが慧音の腕は止まることはなかった。
睡眠薬がきれるまで最低15時間、彼女はこの地獄で本当の地獄を見ることになるのであった。
「ん...あれ私寝てた?」
妹紅が目覚めたのは空が明るくなってからであった。慧音の様子をみるがまだ眠っている。
心なしかその顔は穏やかに見えた。
(薬の効果は最低15時間くらい続くって言ってたし慧音そろそろおきるかも)
そう思い自分と慧音の朝ご飯作って待つが慧音は一向に起きる気配はなかった。
昼になっても慧音は起きない。
少し心配になってきた妹紅であったが、呼吸もしていることを確認し、とりあえず安心していた。
とうとう深夜になってしまった。
慧音は起きない。
粥も冷めてしまい、心配なあまり自分の分の食事も喉があまり通らなくなってしまった。
(明日にはきっと起きてるよ...ね)
妹紅は慧音の隣に布団を敷き横になった。
慧音の手を握り、目が覚めることを祈る。
(慧音...)
眠気が妹紅を遅い段々彼女の意識はは闇に包まれて行った。隣の布団が少し動いたのを妹紅は気づかなかった。
妹紅...妹紅
自分を呼ぶ声が聞こえる。慣れ親しんだ声だった。その声を聞くのがなぜかすごく久しぶりに感じた。
「妹紅、起きろ。いつまで寝ているんだ?」
「...慧音?」
少し声を荒げていったその呼びかけに妹紅の意識が少しづつ覚醒してゆく。
「慧音!?もう大丈夫なの?」
それが自分の親友、上白沢慧音のものだと気づき妹紅は歓喜の声をあげる。
「ああ、おかげさまでばっちりだ」
あの聞くだけで安心するような暖かい声。
慧音がようやく戻ってきたのだとそう実感し、涙が出そうになる。
しかし、意識が覚醒するにつれて妹紅は身体の異変に気がついた。
四肢が動かないのだった。何かに固定されているような感覚。いや完全に何かに固定されていた。
ぼやける目で自分の腕をみると、鉄の枷で拘束されている。腕だけではない足の脛のあたりにも頑丈な枷がはまっている。
「け...慧音?これナニ?」
慧音は机の上で金属音を響かせながら、こう答えた。
「いや、私は気づいてしまったんだよ」
ガチャガチャと金属音が鳴り響く。
「お前を壊して壊して壊して壊しまくっている時に。まあ最初は吐くほど嫌だったが」
語る慧音の声は酷く不気味に感じられた。
「フフフ...何だと思う?器具に映る自分の顔が笑っていたんだよ。私はお前を壊すことは楽しくて楽しくて仕方ないってことに気づいてしまったんだ」
「け...慧音...何をいって...ひっ...!!」
金属音が鳴り止む。
慧音がこちらを向いた瞬間妹紅は声を漏らしてしまった。
本当に慧音は嬉しそうだったのだ。テストで満点をとった子供のように純粋なそんな笑みだった。
自分の親友の変わりようと恐怖で妹紅は股関のあたりが濡れてしまっていた。
「おいおい妹紅、泣くなよ。そんなんじゃこの先もたないぞ」
慧音は妹紅のそばにより手に持っている凶器をあてがう。
震えて過呼吸気味になっている妹紅に慧音は自分の意思で凶器を振り下ろす。
部屋には一人の絶叫と肉を破壊する音。そして一人の嬌声が響いた。
永遠亭では輝夜が縁側でお茶をすすっていた。
「また雨か...いやになっちゃうわね」
「そうですね、姫様」
鈴仙も輝夜のそんなたわいのない話に相槌を打つ。
「この雨じゃ妹紅も来れないわね...」
重たい空からは大粒の雨が降りそそいでいた。
輝夜はさみしそうに残りのお茶を飲み干した。
糞団子
- 作品情報
- 作品集:
- 7
- 投稿日時:
- 2013/06/15 17:03:42
- 更新日時:
- 2013/06/16 02:03:42
- 評価:
- 3/5
- POINT:
- 360
- Rate:
- 12.83
- 分類
- 慧音
- 妹紅
妹紅が調達してきた薬は、『睡眠薬』ではなく『覚醒薬』だったのでは?
雨が止むまでに、病んだ慧音が抑圧した欲望を妹紅に出し切れると良いね。
夢の内容も、慧音お得意のなかったことにする能力で忘れてるだけだったりして?