Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『洒落怖秘封霖 【非公式】』 作者: ND

洒落怖秘封霖 【非公式】

作品集: 8 投稿日時: 2013/06/21 13:19:15 更新日時: 2013/06/21 22:19:15 評価: 2/4 POINT: 260 Rate: 11.40
【パラレルワールド】

現世界に並行して存在する平行世界

平行して存在しているため、移動する事も観測する事も不可能だが

平行世界の数は、この世の全ての生物の数よりも多い。




僕の名前は森近霖之助

訳があって現代社会へと溶け込んでいる。

とある大学に所属する秘封倶楽部の団員、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン

彼女たちが幻想郷を超える可能性があると紫が予言して、

僕に彼女達の監視を命じられた。

命じられた理由は、…そうだな。ほとんど強制的にと思ってもらえばいい。

決して灯油のツケが溜まっていたからと理由からでは無い。決してない。

『霖くーん。こっちこっちー!』

だが、ここに来ても僕の生活は変わり無い。

平和な日常が、延々と続くだけだ。

『今日は…いや今日こそは!人面犬を見つけてやるわよ!!』

ただ、ありもしない物を追いかける。そんな倶楽部に所属しているだけ。

そして結局何の進展も無しに、追いかけた物を忘れて、また新しい獲物を追いかける。

まさに無限ループと言ってもおかしくない程、平和な世界だ。





【学校】

『よいよいよいよい!さぁさぁどうでした!?秘封倶楽部の皆さん!!人面犬の調査は!!』

元気よく、無い物を一日中探して、無駄な時間を過ごして日曜日が潰れた事で憔悴している蓮子の前に現れたのは、

三つ編みとメガネ、そしてチビという地味な三拍子を持ちながら、常に元気いっぱいという

長谷田唯の姿があった。

『………ノウコメント』

『ありゃ。やっぱり収穫なしでしたか。』

『ノウコメントって言ってるでしょうが!!』

かなり素直な思考を持った彼女は、自然に蓮子を刺激する。

メリーは欠伸をしながら雲を見ていた。

『大体ねぇ!!噂の調査は厳しい事この上無いの!コックリさんの時も、途中までは上手く行ったのに霖くんが鶏の霊に乗り移られて逃げ出して大変だったんだから!!』

あれか。

正直言うとあれは、演技だったのだがな。

『霖くんの部屋に監視カメラ仕掛けた時だって、押し入れの中に変なおばさんが入ったと思って開けたら、物に埋もれて右手捻っちゃったし!』

『…霖くんの部屋に監視カメラを仕掛けたんですか?』

『ええ。そうよ。面白いものが映ったと思ったんだけどねぇ…』

あの時の事は、よく覚えているよ。

でも、あの時右手を捻挫している期間は結構嬉しそうにしていたような気が

『…蓮子ちゃんばっかり霖くんにアーンさせて貰ってて羨ましかった』

メリーは、何かをつぶやいて頬を膨らませている。

『…蓮子さん。』

長谷田が、真剣な表情で蓮子を睨めつける。

『…何よ。』

『その映像、二万で売ってもらえませんかね?』

『やだ』

蓮子が即答した所、長谷田は土下座までした。

『おねげえします代官様ぁ!お金はもっと払えますからぁ!!』

待て、その前に入手希望理由を答えてもらおうか。

僕の生活が映っているビデオで何をしようとしている

『嫌なものは嫌よ!!あの映像は私たち秘封倶楽部の物なんだから!!誰の手にも渡すわけにはいかないわ!!』

『ちょっと待て蓮子。あの映像はまだ残っているというのか?』

『…………』

そこで蓮子は黙ってしまった。こっちを向いてもくれない。

『おい、何か言え』

瞬間、蓮子は弾かれたようにその場から逃げだした。

『あっ!逃げた!!』

『おい待て蓮子!!何で僕の生活の映像をまだ処分していないのか理由を言え!』

『五万!五万でどうでしょうか!!蓮子さまぁああああああああ!!!』

僕たち三人は、一斉に蓮子を追いかけていた。







【生徒会室】

『あら、御機嫌よう霖くん。』

逃げ切れた蓮子を追いかける気にもならず、息も大分上がってきた僕は

この部屋で水を飲みに来た。

『…済まない。水をくれないか?』

『別に良いけれど…条件があるわね。』

『………』

彼女の名前は 薫子沙耶香

学年のトップというわけでは無いが、学園全体をまとめる程のリーダーシップを持つ彼女は

生徒会長としてみんなから慕しわれている。

…どこか裏で工作でもしてそうなほど、いつも冷静な顔をしているが。

『今日も、私の暇つぶしの相手をしてくれるかしら?』

『………はぁ。』

彼女の本性を見てから、僕相手には無邪気な表情を見せる。





『じゃぁ、ナイトをここに…』

とりあえず、僕たちはチェスをしている。

幸い、僕は2限目に授業が無い為

一時間以上の休み時間が与えられている。

『……ポーンをクイーンの前へ』

『チェックメイト』

『あ』

だから、彼女に勝つことは、一時間では十分足りることだ。

『…ふぅ。これで僕は二杯も飲めますね。』

そう言って、僕は生徒会室の茶を汲んで飲みほした。

『……霖之助さん。』

『はい?』

『もうひと勝負してくださらない?』

表情から見てわかるように、ものすごく悔しそうだ。

当然だ。一時間もしないうちに二敗もさせられたのだから。

『いえ、もう喉も潤ったので充分…』

じわり と、生徒会長の瞳が潤う。

『ああ、分かりました。後一戦だけですよ…。』

ここで泣かれたら面倒だ。

一度、ポーカーでコテンパンに負かした事があるのだが

最後にこいつは子供のように大声で泣き出したのだ。

手足をばたつかせて、駄々をこねて。

宥めるのにかなりの時間を要した。頭を撫でたり、必死に謝ったり。

……正直言えば、下級生の僕がなぜこんな事をしなければならないのかと疑問に思った。




『チェックメイト。』

僕が彼女に負けるのには結構時間がかかった。

とにかく、手を抜いたと思われないように、わざと手を残したりするのには

勝つ為に戦略を練ることよりも骨が折れた。

僕は異常な達成感があったが、それは相手も同じのようだ。

嬉しそうに不敵の笑みを僕に見せている。

『…結局、最後は私が勝っちゃったわね。霖之助くん。』

くん呼ばわりされた

『でも、まぁ。茶を好きに飲んで行っても良いわ。私もそこまで鬼じゃないからね。』

『いえ、もう十分潤いましたので。』

もう、授業が始まって10分経つ。

いい加減に早く教室に向かいたかった。

『そう。そうだ、霖之助くん。今度の土曜日私の家に来ない?』

『は?』

『今度、家族でバーベキューをするのだけど。父が不在だから、特別にあなたを招待させても良いわ。』

いや、その理屈はおかしい。

『…遠慮しておくよ。その日は秘封倶楽部の活動日だからね。』

『そう。残念ね…。じゃぁ、その次の土曜日に先行予約しても良いかしら?』

『おい、来週バーベキューするんじゃないのか』

『私の言葉一つで、決行日なんて簡単に変わるものよ。』

本当に子供みたいな人だ。

呆れながらも、『善処します』とだけ言って、僕は生徒会室から出た。

さて、再来週の土曜日は何の予定を入れて断ろうかな。





【校庭】

『あ、霖。ちょうどよかった。』

『あれ?駒田さ…』

『悪いけどこれ、持ってくれねえか?』

そう言って渡されたのは、丸められた多くの衣類だった。

『…これ、一体何ですか?』

『ん?女子陸上部の洗濯物。今から洗濯に行くんだよ。』

『投げ返していいですか?』

『まぁそう言うなって。』

そう言った後、彼女はハードル10個を持ち上げた。

困った、これではこの衣類を投げ返せない。

ああ、汗臭い

『…そうそう、そういえばお前、最近人面犬の調査を始めたんだってな。』

『え?ああ…まぁ。』

『ふーん…。収穫は?』

『あるわけがないだろう。』

『はっはっは。そりゃそうだ。』

そう言って彼女は、ハードルを倉庫に投げ捨てた。

『…ちゃんと置けよ。』

『いや、ちゃんと戻すさ。洗濯が終わったら。』

…その間に、片付けられている事を望んでいる目をしている。

やれやれ。こいつも蓮子と根が似ているようだ。

『おい、衣類落としてるぞ。』

そう言って。駒田が拾い上げたのは、誰かのピンクの下着だった。

『……そんな物が入ってるのか?この衣類ボールの中には』

『他にブラも入ってるかな。』

本気で投げ捨てたくなった。

今なら、校庭で練習している野球部員が高値でこの衣類を買いに来るだろう。

いや、校庭の真ん中に投げ捨てるのも手かもしれないな。

そうすれば、野球部員達は僕を神だと崇めはじめるだろう。

すれば、僕の代理に出来る者が出来て、これからの生活に更なる平和が。

『ほ』

駒田は、何を思ったのか、下着を僕の頭に乗せた。

『…ぉおいっ!!!』

僕は、頭の上に乗った下着を掴み、衣類ボールの中に入れた。

『一体何を考えているんだ…お前はっ!』

『いやしかし、男の崇拝物である女性下着の束を持っても反応しないお前は何なんだろうな。と思ってな。』

『本当に何を考えているんだお前は』

『別に。』

…一部では、この女を筋肉馬鹿と言う人がいるが。

僕が言わせてもらえば、この女は単純に馬鹿だ。

『それに、その下着私のだし。』

『なぜ、お前の下着を僕の頭に乗せる?』

そう質問をすると、駒田は頭を掻いた。

『…なんかさ、お前…女に興味がなさそうな様子だから、試しに乗せてみただけだ。』

駒田は、僕の眼を見て笑顔になった。

『しかし、私のであんなに反応するなんてな。もしかしてただのムッツリなだけか?』

もし、今すぐにでも幻想郷に帰れるとしたら、

まず、こいつを撲殺してから帰るだろう。今の僕なら本気で何回も殴りそうだ。

『…君は少しでも妹を見習った方が良いかもな。彼女の方がよっぽど女性らしい。』

『女性らしいって…妹はまだ中学生だぞ?』

少なくとも、君よりは女らしいという意味だよ。

僕は駒田を睨みつけた後、

『あ。ここだここ』

と、駒田が指さされた方の籠に衣類を入れて。

洗濯をした。



『お前のおかげで助かったぜ。霖。今日の放課後、デートしねえか?』

『遠慮しておくよ。今日も倶楽部活動があるからね。』

『ちぇ、つれねえの。』

つまんなそうに腕を組んだ駒田を見届けながら、僕は去って行った。

『じゃぁ、また明日な』

と、駒田は手を振って僕を見送った。





【新聞部前】

<怪奇!裏の廃れた村に、人形の家!?貼り紙の家!?>

『………ほう。』

今日の新聞は、なかなか興味深い記事が書かれているではないか。

長谷田から『今日のは自信作なんだから!隅々まで読むように!ね!!』

と、どや顔で自信満々に渡された新聞は、

内心、そこまで期待はしていなかったが、思いの他面白い記事が多かった。

ただ、実際に潜入した際に、すぐに帰ってしまったのは残念だ。

貼り紙の家に関しての記事は、『貼り紙が怖い』として、逃げだしてしまったという。

写真を見る限り、血の跡や女の子の名前が書かれていることから、何か事件があったことは明らかだ。

続報を期待しよう。

『ねぇねぇ、どう?どうだった?』

『……』

僕の後ろで、目を輝かせながら感想を期待している長谷田が居る。

ええと…やはり今日も感想を言わなくてはいけないのだろうか。

新聞なのだから、何も考えずに読みたい物なのだが…

『…続報が気になるから、これからもよろしく頼むよ。』

『イエッサー!!これからも頑張りますぜ大将!!』

元気いっぱいに喜んでくれたようだ。

そのまま彼女は、メモとペンを握りしめながら部室の中へと走って行った。

『えーっ!?またあそこに行くんですか!?』

『勘弁してくださいよ部長!!』

中で不満の声が聞こえる。

どうやら、続報を作るようだな。

部員には申し訳ないが、一読者として是非身体を張ってもらいたい物だが

『…くれぐれも、身体には気を付けて』

僕は、聞こえない言葉を呟いた後、新聞を持って教室に向かった。

『あ』

目の前には、桐谷さんが居た。

『……随分と楽しそうにしてるじゃない。学年一位さん?』

また面倒くさいのが来たな。

『いや…。まぁ。これでも大学生だからな。』

『ちゃんと勉学に励んでいるのでしょうね?貴方は私の隣に立てる逸材なのですから。くれぐれも衰えというのがありませんよう願いますわ。』

正直、楽しいから授業を受けているわけで

決して学年順位の為に行っているわけでは無い。というか僕は君に負けたことも無いぞ。

『…ところで、まだあの変態倶楽部に身を置いているのですか?』

変態倶楽部?…ああ、秘封倶楽部の事か。

『いい加減、あの倶楽部からは身を置いた方が良いと思うのですがね。それよりも、読書倶楽部たるものに入りませんか?』

読書倶楽部?

『ほう。なかなか良い倶楽部だな。それは』

『ええ。つい最近出来た倶楽部らしいのよ。私ももう所属している。貴方が居れば、もっと楽しくなりそうだから。』

読書をする倶楽部か…。なんと素晴らしい倶楽部だろう。

是非とも入部したい所だが、今は秘封倶楽部の監視を紫に任されているのだ。

どうすれば良い…。かなり迷う。

…というよりも、読書は一人で楽しむ所ではあるのだから、僕が入っても同じのような気がしないでもないが。

だが、その倶楽部にはとても興味がある。どうしよう。うーむ…

『霖くーん!一緒に帰ろー!!』

蓮子が、いつの間にか僕の後ろにいた。

そして、瞬時に桐谷さんを睨みつけた。

『…何の話をしていたの?』

『いえ、新しく生まれた読書倶楽部。その事について話をしていたのですが…』

『何度もしつこいわねぇー!! 霖くんはそんな倶楽部には入らないわ!!秘封倶楽部の一員ですもの!!』

おい、勝手に決めるな

だが、桐谷さんの表情は変わらない。先輩の風格か

『そう。まぁ、読書倶楽部は毎日放課後、図書館閲覧室で活動しているから。興味があったら立ち寄ってね。』

そう言い残して、彼女は去って行った。

去っていく彼女を見て、蓮子は人差し指で瞼を下に下げ、舌を突き出していた。

『全く、読書のどこが楽しいのよ。そんな所に霖くんを置いて行けないわ。ねぇ?霖くん』

いや、だから勝手に決めるな

『霖くーん、蓮子ちゃーん。一緒に帰ろうよー。』

向こうで、メリーが手を振っている。

『あっ!うん行く行くー!!』

蓮子が、僕の腕を掴んで引っ張る。

ヤレヤレ、また僕は面倒なことに巻き込まれるのか。

僕は呆れるように溜息を吐いた。





【マルドバーガー】

蓮子はテリヤキパーガー。メリーはフィレオフィッシュ

そして僕はポテトを食べながら蓮子達の話を聞いていた。

『名古屋にね、恐ろしい料理をふるまう喫茶店があるって聞いたのよ。』

『へぇ…。たとえば?』

『そう…小倉とパイナップルが乗っている小倉丼…小倉と生クリームが乗っている抹茶のスパゲッティー。タライに乗せられた巨大なかき氷…イカスミ味!!』

聞いてるだけで胸やけがするな。

『うひぃー!!それは…すごい料理ばかりですぅ…』

『そう。まさしくこれは、狂気のにおいがするわ!!!』

果たしてそうなのだろうか。

蓮子の耳に届くくらいだから、結構有名な喫茶店だという事は分かる。

ただ不味いだけの喫茶店なら、そこが流行るわけが無いだろうから、

まともなメニューがちらほら有って、それは普通に美味しかったりするのだろう。

ただの挑戦好きな面白い店長さんが営んでいるだけの店だと、僕は推測する。

というより、ここ最近は食べ物系の都市伝説・・・もとい、マイナー系への探検をしているような気がする。

何度も死にそうになったしな。

『もう辞めておいた方が良いんじゃないのか?この前のシュールストレミングやサルミアッキで十分懲りたろ。』



【シュールスレミング】

『これが!!噂に聞く世界一臭い缶詰よー!!』

そう言って、蓮子は嬉々として缶詰を掲げた。

その世界一臭い缶詰を部室で空けて大丈夫なのだろうか?

嫌な予感がする僕は、即座にガスマスクを取り付けていた。

『おやおやぁ?霖くんは怖いのかなぁ?』

『うん。嫌な予感がする。』

『ふっふっふ。男の子のくせに、情けないねぇ。』

蓮子が、馬鹿にするような顔で僕を睨みつける。

『缶詰ー。おいしそー。食べたいなぁー』

メリーが、涎を垂らしながら缶詰をじっと見つめる。

魚の缶詰と知ってから、白いご飯とマイ箸と、準備が万端だった。

『よし、準備は良い?』

蓮子が、僕たちに応答を呼びかける。

僕は、少し震えながらも首を下ろした。

『早く開けようよー。』

メリーは、ワクワクしている様子だった。

『よぉーし!!ではぁ、レッツオープン!!』

缶切りでシュールストレミングに穴を開ける。瞬間

プシュッ!!!

と、噴水のごとく液体が飛び散った。

『!!』

強烈な匂いが僕の嗅覚機関を襲った。

匂いで分かった。これは食べ物では無い。

ガスマスクしてでも分かる、この強烈な匂い。

これは口に入れるものでは無い。下から出すものの匂いだ。

『ぐえぇ!!ゴホッ!!ゴホッ!!』

僕はすぐに窓を全開にした。

ちょっと開けただけでこの匂いとは・・・。全開にしたら・・・

『なぁ蓮子、やっぱりこれは止めた方が良いんじゃないのか?』

そう言って振り向いたら、二人共気絶していた。

蓮子は缶切りを持ったまま、うつ伏せになっており、一切動く気配がない。息もしていない。

メリーはお箸を持ちながら、白目剥いて泡を吹いてピクピクしていた。

〈何だ!?この匂いはぁ!?

〈あっちからだぞ!?殺人兵器かぁ!?

駒田と長谷田の声が聞こえた。


ちなみにこのあと、全校規模の事件となり、

当然、翌日の長谷田の朝刊に大きく載った。

[又やった!!お騒がせ、秘封倶楽部!!世界一臭い缶詰を密室で開ける!!]


この事件では恥ずかしくて学校に行きたくなくなった。

正直、新聞見たあと捨ててしまった程だった。




【サルミアッキ】

『これが噂の世界一不味い飴サルミアッキよぉーーー!!』

また、蓮子が何かを買ってきた。

サルミアッキとは・・・。名は聞いた事あるが、食べたことは無いな。

『うわぁー、見た目は綺麗だねー。』

『匂いは・・・ふむむん。別になんてこと無いわね。』

『僕は遠慮しておくよ。』

僕は、とにかくその物体から離れた。

『何よぉー。折角買ってきたんだからアンタも食べなさいよ!!5千もしたのよ!!5千円!!』

高い

その無駄な行動力を何か別の事に活かせんのか。お前は

『食べなかったらクビ・・・は、私が困るわね。ええい!食べなかったら奢りよ!!マルドバーガーの!!』

正直クビの方が良かったかもしれない。

『とにかく!!私達は秘封倶楽部なんだから絶対食べること!!良いわね!!』

正直、この飴の用途が分かって恐ろしくて食べたくないんだが。

予知能力など持っていないはずなのに、この後がどうなるのか分かってしまって更に怖いんだが

『それじゃぁ、南無三!!』

蓮子は、思いっきり口に入れた。

僕はすぐに飲み込んだ。

『ふむふむ・・・・・・ガッ!!ゴガッ!!』

蓮子の身体に変化が現れた。

当然だ。リコリスの飴とは言うが、これは塩化アンモニウムが入っているのだ。

『おぶぇええ』

メリーはこの後、嘔吐してしまい、昼食の蕎麦が消化されずに出てきてしまっていた。

蓮子も、それを見て気持ち悪くなってしまい、吐く為に便所に向かおうとしていたが、

雑巾を踏んで転んで気絶してしまった。

ビクンビクン反応しながらゲロを吐いている。

メリーも、すやすや眠るように気絶していた。

・・・・・・これを、僕が片付けろと言うのか?

この大量のゲロを

『こんちはーっす!!新聞部が取材に来ま・・・・・・し・・・た・・・・・・』

長谷田は、この光景を見て固まった。




翌日、あの時の事は長谷田の朝刊に大きく一面を飾っていた。

[”秘封倶楽部”無様!!部室を嘔吐物でぶちまける!!]

ちなみにこの号は前代未聞の売上を出したようだ。

掃除している時に撮影されたため、蓮子やメリーが写っていないものの、部室のゲロが所々写っていたからだ。

『ムキィイイイ!!傷害罪よ!!訴えてやる!!』

当然、この事は蓮子にも知れ渡り、生徒会からも不評で、強制的にこの号は回収された。

『折角の自信作だったのにぃ・・・皆喜んでいたのにぃ・・・』

長谷田は、泣きながら新聞を回収していたが、結果的には情報は知れ渡った事になったため、

どの道、あの事実は消えなかったりする。




【家路】

『あーあー。全く、ろくに本物の都市伝説が無いもんだから、秘封倶楽部も休業状態よ。』

そもそも、この世界の都市伝説は伝説なのであって、信憑性等、クソッタレも無いのだ。

諦めろ。

『・・・そうねぇ。やっぱり、この世界がダメなんじゃないかしら。』

『・・・何が?』

『この世界には、何もなさすぎるのよ。勉強や社会しか無くて、重力と法則が支配するこの世界が、それしか無いつまらない世界が私は気に入らない。』

僕から聞いてみれば、それはとても甘ったれているワガママだ。

この世界には、物で溢れて興味深い物で溢れている。

お前の興味の向け方が違うだけだ。

『だから一つ、私は面白い噂に首を突っ込んでみようと思ってるわ。』

『・・・ええと、また危ないことはしちゃダメだよ?』

『大丈夫大丈夫。今度は死ぬわけじゃないし。』

だが、確かに不安だ。

一体、何をやらかすつもりなのだろう。そして、一体何に巻き込まれるのだろう。

『霖くん。メリー』

蓮子は、僕たちの方に顔を向けた。

『パラレルワールドって、知ってる?』

『・・・・・・・・・はい?』

『パラレルワールドよ!!パラレルワールド!!この世界の別の世界には、私達の知らないような社会と世界が待っているのよ!!』

蓮子の目は、夢みる子供のようにキラキラしていた。

『ああ・・・一度で良いから行ってみたいわぁ・・・。この世界とは違う、また別の世界に・・・』

『ちょっと待て蓮子。それは本気で言っているのか?』

『本気も本気。大本気よ。ふっふっふ・・・』

まいった。これは本当に参ってきたぞ。

異世界の存在・・・いわゆる幻想郷

彼女達がとうとう、幻想郷に足を踏み入れてしまうのかもしれない。

いや、ヤバイ。

これは本当に、阻止しなければならない。

『というわけで霖くん。実験よ!!』

『断る。君たちを変な世界に飛ばすわけには行かない。』

僕がそう言うと、二人は黙り込んだ。

そして、顔を赤くして、僕から顔を逸らした。

『なっ・・・何言ってるのよ・・・アンタ』

僕が何か変な事を行っただろうか?

正直、君たちが幻想郷に興味を持ってもらっては困るのだ。だからこれには全力で抗わなければ。

『べっ、別にこの世界が嫌いになったとか、霖くんともお別れになるとか・・・そんなんじゃ無いんだからな!!』

『ああ。別の世界何て行くもんじゃないぞ。』

『うるさいうるさい!!黙りなさい!!』

蓮子がそっぽを向いてしまった。

頭から湯気が出ているな。風邪でも引いたのだろうか。

『・・・そもそも、パラレルワールドの行き方っていうのは、やり方があるのよ。』

まだこの話は続いていたのか。

『まず、紙に陣を描いて、真ん中に『この世界には飽きた』と書くのよ。そうして、目が覚めれば異世界にたどり着ける・・・ってわけ。』

『・・・・・・・・・』

なんだか

拍子抜けした。

『まぁ、でも信憑性は無いし。ちょっとやってみるだけでも価値はあるかなー・・・なんて。』

『ああ・・・うん。そうだな。』

まぁ、こんなやり方で幻想郷に迷い込めるはずが無いものな。

何を焦っていたんだ僕は、ははは。

『とにかく、そのやり方ではパラレルワールドと言っても、平行世界と言って、もう少し近い世界にたどり着く筈だから、皆と分かれるなんて事は無いはずだよ。』

『・・・・・・ほう。』

『ま、そういうわけだから。心配しないで。また明日も会おう!』

ああ、なんだか疲れた。帰るかな。

トボトボと、足取りが重いのに気づく。

僕は一体、何を一人で悩んでいたのか本気でバカバカしくなってきたのだ。




【家】

極限に疲れた時に、ようやく家に帰れた。

飯を食う気力も無い。ねるか。

とりあえずシャワーを浴びて、布団をしくことにしよう。

寝る支度をしていると、ふと思い出した。

そういえば、蓮子が言っていた、異世界に行く方法

紙に三角形二つを重ねた陣を描いて、真ん中に『この世界には飽きた』と書く、そうすれば平行世界に行ける。

そんな事を聞いた気がした。

『・・・・・・・・・』

まさか、と思うが

もしこれで異世界に・・・更に幻想郷に辿りつけたとしたら、厄介な事になる。

そんな馬鹿馬鹿しい事にはならないと思うが・・・。

『やってみるだけ、やってみるか。』

念のためだ。

陣を描き、真ん中に『この世界は飽きた』と描いて

枕の下に入れて、眠ってみた。

これで、明日になったら異世界に行けるはずだが、

あるわけの無い、そんな世界へ旅立つと思うと、少しワクワクする。

蓮子の気持ちも分からないでもない。そんな事を思いながら、僕は眠りに落ちていった。





【???】

翌日、辺りは何も変わっていない。

部屋も何一つ変わっていない。

何だ、やはり何も無いでは無いか。

バカバカしい。そう思って枕元の紙を引き抜こうとしたが、

時間は、もうすでに9時を過ぎていた。

『あ』

ヤバイ

遅刻だ。

僕は急いで支度をして、家から飛び出した。

鍵をかけたか確認をして、自転車に乗り出す。

『・・・ん?』

ポケットの携帯を取り出したときに、何か違和感を感じた。

僕の携帯は・・・これだったか?

携帯の機種が、少しだけ違うように感じた。







『おっはよー!霖くーん!!』

相変わらず元気な蓮子は、僕の元へと走り寄って来て、手を振っていた。

だが。やはり違和感がある。

蓮子とメリーの携帯が、明らかに昨日の物とは違う。

『・・・おはよう、蓮子、メリー。携帯変えたのかい?』

『ん?いや、携帯・・・変えたのだな?』

『んー?そうそう。って・・・変えたのは一昨日だよ。忘れたの?』

一昨日?

一昨日は・・・川原で石を投げて過ごしていたが。

そこで携帯を川に落としたのだろうか?

いや、昨日までは同じ携帯を使っていたはずだ。

ならば、この矛盾は・・・

『・・・それに、あの日の事は忘れたくないから、結局携帯は壊しちゃったし。』

ん?あの日?

『まぁ別に良いわ。今日は土曜日。どこか遊び行かない?』

先ほど、携帯の話をしてから明らかに表情が強ばっている。

・・・携帯を失くした理由は、もっと他だと考えるべきだろうか。

いや、そもそも僕には関係の無い事だ。

『うん・・・。そうだな。』

僕は、とりあえず蓮子とメリーの言う事に従うとしよう。

『・・・・・・・・・』

メリーに関しては、全く元気とやらが見当たらないからな。






【学校】

『おはよぉおおおおございます!!森近さぁああああああん!!』

今日も長谷田は元気だ鬱陶しい。

『鬱陶しい』

蓮子が何の躊躇いも無しに言葉にした。

『なになになにぃ。そんな事言わずにぃ。今日こそは語ってもらいますよぉお!!』

はは、元気だ。

さて、授業の準備をするか。

『・・・言っておくけど、あの村には”何も”無かった。私はそう答えたはずよ。』

『ビデオ見たクラスメイトが告げ口してたんですよ。くっくっく・・・逃げられると思いでっか?』

・・・あの村?

たまに、廃村へと探検したりはするが、

それを今更、長谷田が聞きに来たりするのか?

『八尺の女性を見たって、ちゃんと証言は撮ってあるんですよ!!さぁ、観念して答えなさいな!!』

『・・・・・・・・・っ!!』

ただでさえ悪かったメリーの表情が、さらに悪くなった。

そして、口を手で抑えて、嗚咽を繰り返している。

『お・・・おい、大丈夫か?メリー・・・』

『うぅ・・・う・・・・・・』

指と指の間から、嘔吐物が流れ出ている。

それを見た長谷田達は、ギョッとした顔をして、異常なメリーを見ていた。

『メリー!?大丈夫?』

蓮子がうずくまるメリーに駆け寄る。

『せ・・・先生!!先生呼んできて!!』

長谷田が、流石の状況に空気を読み、僕たち以外の人間を呼びつけていた。

・・・いや、これは吐いているメリーを晒しているという結果になっていた。

『大丈夫!?医務室はあっちだからね!!』

蓮子と長谷田が、力を合わせてメリーを担ぐ。

床にこぼれた嘔吐物は、先生達が掃除した。

事が終わった瞬間、集まってきた野次馬は笑い話を咲かせながら教室へと戻っていく。

・・・その内、数人は僕を睨みつけていた。

そして、僕を見るなりヒソヒソ話している。

一体、何の話をしているのだろう。

僕に関係すること、秘封倶楽部に関係する事は間違いなかった。






【医務室】

息が荒い。

ここまで担いできていた長谷田の息が荒い。

体力がなさすぎて、何度もメリーの身体を床に叩きつけていた。

おかげで、余計にメリーの意識が戻らなくなっている。

『ぜぇ・・・・・・これで・・あんとか・・・冷静に・・・なれました・・・ね・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

手伝はなかった僕も僕だが、余計に悪化させたような気がする。

彼女は、やはりどこでもトラブルメーカーなのだと、感じた。

しかし、今日はなんだかおかしい。

僕の知らない何かが、過去に起きている。

それを僕が知らないとは、まるで違う世界に来たようだった。

・・・・・・違い世界に?

『私はこれから授業だから、ひとまず解散するわ。』

そう言って、すまし顔で蓮子は行った。

蓮子が授業にまともに取り組むなんて珍しいな。雹でも降るんじゃなかろうか。

『・・・・・・ふーむ』

それよりも、問題はこの後だ。

もし、本当にここがパラレルワールドだったとしたら、これは紫の力を超越した現象が起こっている。

となれば、かなり厄介だ。

『長谷田。ちょっと話があるんだが。』

とにかく、この世界の情報を集める必要がある。

『ん?』

『・・・八尺様・・・と言ったな。』

『お!霖くんから口を開いてくれます!?今までずっと固く口を閉ざしていたざますのに!!』

『・・・いや、そうじゃないんだ。』

とりあえず、正直に正確に答えるとしよう。

多少の混乱が生じるのはしょうがない。

『・・・よく、覚えていないんだ。その・・・八尺様・・・の事は。』

『・・・・・・・・・』

長谷田は、困った顔で小さな頭を小さな右手で掻く

『・・・いやぁ、随分真剣な顔で冗談言いますね。』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・マジっすか』

長谷田は、頭を抱える。

『んー・・・んー・・・八尺様の記事は、部室に色々残っているんだろうけどさ・・・』

長谷田は、しばらく考えたあと、笑顔で僕を見た。

『とりあえず明日までに、その事をまとめてくるよ!だから、思い出したら私にも話してね!』

『ああ、約束しよう。』

これで、多少の情報が手に入った。

後は、蓮子やメリーにも情報を聞き出す必要もあるのだが・・・

『う・・・うん・・・・・・うぅ・・・・・・』

あの状態のメリーにそんな事聞き出せる勇気がない。

また、余計に容態を悪くさせるに決まっている。

ここは、まずある程度情報を手に入れるのが先だ。

だが、今日はここまでのようだ。

また明日、長谷田の情報を待つ事としよう。





帰り道、体調がある程度回復したメリーと下校した。

途中で通ったマルドバーガーや、吉ノ屋を通ったところ、また具合が悪くなっていた。

肉を扱った料理店の前を通ると、彼女は具合を悪くさせるのだ。

これは、身体的な問題でなくて精神的な問題かもしれない。

これも、例の八尺様の問題が原因なのだろうか。

僕は、近いうちに死にそうなメリーを抱きかかえ、家まで送った。






【家】

やれやれ。まさかこの紙が予想以上の効果を上げるとは思わなかったな。

紫も真っ青な能力がこの紙切れ一枚に生じるのだから。

聞いたら紫のプライドが滅茶苦茶になりそうな気がする。

だが、やるべきことはまだある。

明日、情報を収集する他に

元の世界線へ戻ることだ。

『・・・明日になったら、戻っていた・・・とかなら良いんだがな』

僕は、貼り紙を一目見たあと、そのまま布団に潜り込んだ。




【???????】

翌日、辺りは何も変わっていない。

部屋も何一つ変わっていない。

貼り紙もまだある。

ただ、違うのは

枕が北にある事だけだ。僕は南に枕を置いた。

それは、ただ寝違えただけかもしれないが、

『・・・可能性はあるな。』

眠るたびに、世界線が変わる等という事が、無駄に壮大な事が起こっている。

そうだとしたら、もう馬鹿馬鹿しくて笑えてくるな。

なんて事があるわけが無い。ただの寝違えだ。

さて、そんな事を考えている場合じゃない。

今は、長谷田の元へ行って情報を集める必要がある。

布団を持ち上げ、僕は学校へと向かった。





【学校】

登校途中、早く投稿しすぎた為か、僕は一人で学校に来ていた。

だが、そこで見たのは驚愕の光景だった。

『・・・どこだ、ここは』

かつて、新聞部があった場所が、茶道部になっていた。

自分でも何を言っているか分からない。

そうだ、薫子

彼女なら、この事について知っているのかもしれない。

そう願って、生徒会室に向かってみる。

良かった。ここはいつもどおりだ。

表札にちゃんと生徒会室と書いてある。

彼女にこの事例を聞こう。そう思って扉を開けた。

『あ・・・どうも、どうしたんですか?』

そこに座っていたのは、名前も顔も知らない男子生徒だった。

『・・・・・・』

間違い無い、世界線が変わっている。

『・・・薫子さんは、どうしたんでしょうか・・・』

『薫子・・・?ああ、彼女なら今、刑務所じゃないかな。』

・・・・・・は?

刑務所?何故?

この世界では一体、何が起こっているというんだ。

『・・・新聞部は、どうなっているのでしょう。』

『さぁ、新聞部からも殺人者が現れたからね・・・。実質廃部だろう。』

『長谷田は・・・どうなるんですか?』

『長谷田さん?ええと・・・彼女なら、家族が何とか葬ってくれると思いますよ。』

『・・・・・・・・・』

この世界はダメだ。早く脱出しなければならない。

自分の身からひしひし感じる。この世界線は危険だ、と

『・・・ありがとうございました。』

僕は、生徒会室の扉を閉め、授業へと向かった。




携帯からメールが届いていた。

蓮子からだった。

《ちょっと!!何で迎えに来てくれなかったのよ!!》

迎えに行くほどの仲になっているのか。この世界線では

さらに、メリーからもメールが来ていた。

《怖いです。早く迎えに来てください。》

この世界線のメリーも相当ヤバイみたいだな。

今日は早退しよう。そして、また別の世界線へと逃げよう。

・・・思わくば、元の世界線に戻れていれば、一番良いのだが






【家】

先ほどは、眠れば別の世界に行けた。

ならば、次も眠れば世界線を跨げるはずだ。

『・・・・・・・・・』

少なくとも、情報屋である長谷田が居ないこの世界では、

学校情報を網羅する薫子が居ないこの世界では、

心に深い傷を負っているであろう蓮子とメリーのこの世界では、

どんな行動を起こそうとも、情報を得る事は難しい。

ましてや、こんな状況を作り出したこの世界は一体、何が起こったというのだろうか。

知りたくもない。

早く眠ろう。

睡眠薬・・・もとい、風邪薬は用意した。

これで絶対に眠れるとは言い難いが、無いよりは良いはずだ。

僕は風邪薬を飲み、

布団の中へと潜った。

そして、しばらく時間が経った頃、眠気が生じた。

眠気に誘われて意識を沈めると。




ガクンッ!!!!!!!



と、身体が異常な反応を起こして、

どこかへ移動した感触がした。





【???】

目覚めた時、テーブルの上に見慣れない陣が書かれた紙が置かれていた。

何だろうか。この紙は

壁に貼り付けた異世界の扉が開く紙とは、別方向の意図を持つようだ。

それが何なのかは分からない上に、かなり曖昧な物だが。

それの存在は、間違いなく別の世界線へと飛んだ事を意味した。

インターホンが鳴る。

その音に反応して、僕は玄関へと向かった。

扉を開けると、

『よっ!霖くん!!』

『おはようございます。霖くん』

いつも通りの蓮子とメリーが立っていた。

この世界線では、蓮子とメリーが僕を起こしに来るのだろう。

『ああ、おはよう。』

そう返しても、彼女たちは何の疑問も感じていなかったのだから。








【学校】

『見つけましたよ!!秘封倶楽部の皆さん!!』

学校に着いた瞬間、長谷田の大きな声が響いた。

『・・・・・・長谷田。』

この世界線では、新聞部は健存しており、長谷田も生きているらしい。

『・・・行くわよ、霖くん。メリー』

蓮子が、僕の袖を引っ張って歩き出す。

『ちょっとちょっと!!今日こそは貴方から直々に聞き出したいんですよ!!駒田さんの葬式で起こった出来事を!!』

『!?』

駒田の葬式・・・!?

おい、どう言う事だ。

『最近では、妹さんの遺体も見つかったみたいじゃないですか?川で!!』

『おい、それはどういう・・・』

信じられない。そう思うしかない。

この世界もダメだ。そう実感はできるのだが。

何故、世界線を跨ぐ度に人が死んでしまうのだろうか。

『観念してください。裏の村が関係する事は知っているのです。私は、その村の事を調べて・・・』

『うわぁ!!ああああああああああああああああああああ!!!!』

蓮子は、頭を抱えながら走り去っていった。

『あっ・・・おい!』

僕は、彼女を呼び止めようとしたが、止まらなかった。

『・・・・・・・・・・・・』

同時に、メリーの様子もおかしい。

ガタガタ震えて、涙を目に溜めて

『・・・・・・・・・っ』

そのまま、気絶した。

『メリー!』

どうやら、この世界線でも

メリー・・・または蓮子がトラウマを持ち抱えるほどの事件が起こったようだ。

・・・どうしてもそれは聞きたくないし、知りたくもない

僕が元から居た世界線がどれほど恵まれていたか、実感できる体験だ。

『・・・・・・・・・』

長谷田が、俯いてその場からトボトボ歩いて行った。

『・・・まだ、トラウマは残っているのですか。』

そう言い残して、そのまま去る。

途中で、彼女が行った裏の村とは、どんなのだろうか。

今更ながらそこに興味を持ったが。

・・・元は、それが原因なのだろうな。

僕は、意識を失ったメリーを担いで、医務室へと向かった。








【医務室】

『ごきげんよう。森近さん。』

そこでは、桐谷さんが大胆にくつろいでいた。

よくこんな所で紅茶が飲めるな。と心の中でツッコミを入れたが。

今はそんな気力がない事に気づく。

『・・・災難でしたね。駒田さんの事も、裏S区の事も・・・』

裏S区

僕は、その場所自体は知らない。

だが、ここで僕が『知らない』等と言うと、余計にややこしくなる気がする。

ここは、あえて何も言わないでおこう。

『あの村の常識は、我々の常識の範囲外である事を考慮して頂く事を、心の内に入れる必要があるわね。』

『まさか、駒田さんの葬式をあんな滅茶苦茶に改造するなどと、許されたものではありません。』

『ましてや、妹さんの遺体までも川に捨てられるなんて・・・。人間では無いのでしょう。彼らは』

・・・ナルホド、事情は分かった。

この世界は、絶対ダメだ。

僕の住む街の近くに、こんな恐ろしい村があると知れば、もう遊帳に暮らせない。

今すぐにでも世界線を超える必要がある。

『あら?メリーは置いてかれるのですか?』

『ああ、やることがあるのでな。』

『・・・泣き出しますよ?一度、メリーを一人にさせて大泣きした事をお忘れですか?』

・・・

待つ必要があるのか。

仕方がない。この世界の僕も事情があるらしいし、ここで待つ事にしよう。








【家路】

この世界では、僕に対する依存が大きくなっている。

蓮子は、下校途中ずっと僕の袖をはなさなかったし、

メリーは、僕の家まで泊まろうとしていた。

理由は、全て『もう怖くて一人で歩けない』だそうだ。

情報を”知りすぎる”事も、厄介な事なのかもしれないな。

二人を家に返した後、僕も自分の家に帰ろうとした。

早く帰り、この世界から脱出しなければならない。

・・・しかしだ、200年も生きているが、これほど夜道が恐ろしいと感じるのは初めてだ。

それも人間相手に。

・・・いや、しかし

僕は、半妖だ。やられて死ぬような魂では無い。はず

そう思い、僕は真っ直ぐと自分の家へと向かう。




金属バットで殴られた。



頭部からは血が流れる。

さらにそいつは金属バットで僕を殴る。

『悪霊を追い出せ!!悪霊を追い出せ!!』

そいつは、僕を睨みながら叫んでいる。

叫びながら、僕を殴り続けていた。

脳が揺れる。

衝撃が脳を揺らす。

視界が揺れる。

視界が真っ黒になる。

音が揺れる。

『こいつは悪霊だ!!殺せ!!人類の為に殺すのだ!!』

足音が増える。

それは、音が揺れる事による錯覚なのか、それとも本当に増えているのか分からない。

だが、僕は

そこで、再び衝撃を受けたあと、

完全に、音も遮断された。

しばらくして、衝撃も感じない。

何も見えない、何も聞こえない。何も感じない。

無の世界へと、身体は沈んでいった・・・。




無の世界から、光が灯る。

蓮子が、泣きながら僕の身体を揺らす。

メリーが、泣きながら首を横に振り、何かを否定する。

長谷田が、泣いている。

薫子は、うつむいている。

桐谷は、顔が見えない。

そして、次第に光は薄くないり、

また、完全な闇の中へと僕は消えていった。







【?????】

目を覚ますと、そこは自分の家だった。

・・・なんだったのだろうか。今のは。

夢?

今までのは夢・・・を見たのか?

いや、世界線を越えたことも、夢?

前の世界線で死んだのならば、何故今生きている?

・・・・・・分からない。

また、分からなくなった。

とにかく、今はこの世界の情報を集める必要がある。

この世界でようやく、僕は元の世界に戻れているかもしれない。

この世界線では、蓮子とメリーは迎えに来ない。

そう悟った瞬間、僕は登校の準備をして、扉を開けた。







【学校】

登校途中、蓮子とメリーには出会わなかった。

前の世界線でもそうだったが、今日は何かが違う。

そもそも、この世界で僕は何故か注目されている。

何だろうか。

どこからも降り注がれるこの視線は、決して気持ちの良いものではない。

教室に向かうと、『よぉ人殺し』と言う声も聞こえる。

・・・この世界の僕は、何をしたのだろうか。

全員の話し声がやかましいこの教室の中で、秘封倶楽部の話題がちらほら出ている。

『呪われていた』とか、『やっぱり殺したんだよ』とか。

・・・何が何だか分からない。

『・・・・・・・・・』

駒田が、こちらを睨みつけた後、

すぐに視線を戻した。

その視線は、どこか不信感と嫌悪感を感じた。





『ああ、長谷田』

『・・・・・・・・・あ』

長谷田は、僕の方に振り向くと

かなり複雑そうな表情をした。その後、早足で逃げていった。

その時の表情は、嫌悪感でも無く、不信感でもなく、

”恐怖”から成っていた。

『・・・・・・』

この世界でも、やはりろくな事がなっていないらしい。

と思い、新聞部の新聞を見ると、

【ついに最悪の呪いは終わった。桐谷家の親族全て根絶やしにして、】

と、書いてあった。





『あら、森近くん。』

すぐに帰ろうと足を早めたその瞬間、薫子から声をかけられた。

『・・・済まない。今日はすぐにでも帰りたいんだ。』

『あら、つれない事言うのね』

そう言って、薫子は僕の肩に手を載せる。

『ねぇ』

そして僕に急接近して

顎を、僕の肩に乗せた後、

『一体、どうやって桐谷さんの親族根絶やしにしたのかしら?』

『・・・・・・!』

僕は、すぐに彼女を振り払った。

違う。

僕じゃない。

僕が、違う世界から来た僕が、殺したんじゃない。


違う



薫子が、不気味に微笑む。

『まぁ、私は嫌いじゃないけどね。そんな貴方も』

その笑顔が、妙に不気味に見えて

紫とは違った、不気味さを感じて

僕は、その場から駆け足で逃げ出した。







【家】

家にたどり着いた瞬間、一つの疑問を感じた。

もしかしてこれは、僕は

眠るたびに、元の世界から遠ざかっているのでは無いのだろうか。

・・・だとすれば、どうするべきだ。

この世界に来てから、僕の身体は人間に近づいてきている。

今では、人間と同じくらいの睡眠時間を要さなければ体力はなくなってしまうのだ。

眠らなければ、どのみち死んでしまう・・・

何より、この世界から早く脱出したいが

脱出したところで、また最悪な世界が待っているのかもしれない。

『・・・・・・・・・・・・』

まだ、昼前だ

蓮子の顔を見に行くだけでも、遅くはないだろう。

とにかく、安心したかったのかもしれない。

僕は、支度をして外に出た。






【蓮子の家】

『あっ霖くん!いらっしゃい!!』

蓮子は、どの世界線でも変わらずに蓮子なのだと、実感した。

どこの世界から見ても、彼女の笑顔は変わらなかったからだ。

『ああ、済まないね。いきなり訪問して』

『ううん。私も暇してた所だから、上がって上がって!』

そう言われて、僕は蓮子に手を引っ張られる。




『ところでどうしたのよ。いきなり私の家に来るだなんて。もしかして私の顔でも見たくなった?』

『・・・・・・ああ、まぁな』

『ほおほお、ほほーん・・・。霖くんも、ついに私に惚れましたかぁ〜』

『何でそうなる』

とにかく、出されたお茶を口に運び、飲み込む。

・・・妙な味がするな。このお茶

『私の大好きなキャラメルティー。とくと召し上がれ!』

『・・・あまり、僕の口には合わない味だね。』

そう言って、僕はお茶を皿に戻す

『むすっ!慣れれば美味しいのに。』

さて、本題に戻ろう。

当然、僕は彼女の顔が見たい他に、別の用事がある。

当然それが本当の本題だ。

『・・・蓮子』

この都市伝説を聞いたのも蓮子、やり方を知っていたのも蓮子。ならば

『・・・パラレルワールドの帰り方、知っているか?』

『帰り方?』

蓮子は、しばらく考えたあと、僕を睨みつけた。

『・・・霖くん。もしかして・・・、』

『いや、そうじゃない。もし、パラレルワールドに行けたとして、戻るときはどうすれば良いのか、少し興味があっただけだ。』

そうごまかした。

だが、いずれにせよバレている可能性がある。

『ごめん、知らないや。そもそも行き方も知らないし』

・・・この結果になる可能性も考慮していた。

『そうか。』

納得したところで、もう一度眠るしかないと感じた僕は、立ち上がろうとした。

だが、

『・・・!』

足に力が入らない。

それどころか、意識が朦朧としてきた。

『蓮子・・・』

お前、

あのお茶に、何を入れた?

『・・・霖くん。』

蓮子が、僕に近づく。

そして、身体と身体が密着する。

『私ね、もう・・・嫌なんだ。もう・・・誰も離れて欲しくない。』

離れる

何だ?一体何の事だ

『だからね・・・霖くん。ずっと、私のそばに居てくれるよね?』

『・・・何を・・・言って・・・いるんだ・・・?蓮・・・子・・・・・・?』

意識が

『一人は嫌。一人は・・・嫌。もう・・・一人は』





意識は、そこで終わった。







【????????】

目が覚めると、そこは自分の部屋じゃなかった。

床と壁と天井一面には、陣の真ん中に『この世界には飽きた』と書かれた紙が、ビッシリと貼られていた。

『・・・あ、霖くん。』

そこには、蓮子とメリーが椅子に乗って立っていた。

天井には、縄が吊るされている。

『・・・おい、何をしようとしているんだ?』

『・・・そっか、アンタ、別の世界の霖くんなんだね。』

蓮子が、ニッコリと笑う

『まぁ、ここまで世界線を移動する紙が貼られているんだから、しょうがないよね。』

『でも良かったね、蓮子ちゃん。これで私たちも異世界にいけるんだよ。』

おい、何を


『霖くん、貴方も早く来てね。』

『霖くん、私も、待ってるからね。』

そう言って、蓮子とメリーは輪の縄に首を通し

台を蹴って、そのままぶら下がった。

『おい、おい。おい!!』

僕は、すぐに彼女達は引き下ろそうとした。

だが、

『!』

僕の身体は、縛り付けられている事を知る。

『おい!!蓮子!!メリー!!』

首をつっている彼女達を、僕は眺める事しか出来ない。

こんな、こんな悔しい事は無かった。

蓮子とメリーの身体が痙攣を始めている。

『おい!!止めろ!!メリー!!蓮子!!なぁ!!頼む・・・・・・!!』

痙攣は、次第に弱まり、動かなくなる。

『なぁ・・・・・・蓮子・・・・・・メリー・・・』

二人の股の間から、小便が垂れ流れる。

身体は、全く動かない。

ぶら下がって、ゆっくり揺れているだけだった。

『・・・・・・くそっ・・・くそっ・・・・・・』

僕は、本当にただ見てることしか出来なかった。

次第に、僕に強烈な眠気が襲ってきた。

朦朧とした意識の中、僕の近くに睡眠薬の瓶が転がっていることを知る

『ああ、なんだ僕も死ぬのか』

大丈夫だ。

きっと、彼女達も別の世界線へと飛んでいる。

ちゃんと生きている、希望のある世界へと飛んでいる。

僕は

僕は

アンシンシテ、ネムルコトニシタ・・・









【????????】

目を覚ますと、元の僕の家へと戻っていた。

目を覚ましたと同時に、僕が取った行動は

『・・・・・・・・・』ビリリッ!!

陣の中に『この世界には飽きた』と書かれた紙を破り捨てることだった。

『・・・これで、もう良い』

これ以上の干渉は不要だ。

部屋の様子を見れば、この世界はいかに平和かを物語っている。

妙に小奇麗で、物で溢れた世界

元の、僕の世界じゃないか。






登校途中、秘封倶楽部の蓮子とメリーを見つけた。

『おりゃおりゃ〜、この淫乱爆乳め〜』

『ひゃぁ!!止めてください〜!』

・・・随分と、仲の良い二人だことだ。

僕は、彼女達に近づき、目を合わせて挨拶をした。

『おはよう、蓮子、メリー』

すると、二人はキョトンとした表情で僕を見つめていた。

様子がおかしい。

顔を背けるやいなや、二人は顔を合わせて相談していた。

『・・・誰?メリー。知り合い?』

『ええと・・・誰だったかなぁ?』

・・・どうやら、この世界では二人は僕の事について面識は無いらしい。

しまったな。まず最初に携帯の電話帳を見るべきだったか。

電話帳を見てみると、どうやら間違い無い。

この世界では、僕は秘封倶楽部では無いのだ。








【学校】

僕は、いつも通りの授業を受けた。

授業は、いつ聴いても新鮮で、飽きない時間だった。

だけど、何故か今日は少しだけ落ち着かない。

だが、授業は面白い。

だけど、やはり落ち着かない。

『・・・・・・・・・』

とにかく、授業を聞いていよう。話はそれからだ。

と言うものの、この時間の授業は全く頭に入らなかった。






昼休み、長谷田とすれ違った。

長谷田は、僕を素通りしてサッカー部の部長にインタビューを申し出ていた。

僕は、当然な事だと理解し、そのまま真っ直ぐ歩いて行った。


グラウンドで、駒田に出会った。

『ん?何してんだお前?』

駒田は、僕とは面識があったらしいが、名前は知らないらしい。

僕は、『いや、何でも無い』と答えて、そこから去った。

駒田は、特に気にせず練習を始めていた。



生徒会室前で、薫子に出会った。

ただ、挨拶を交わしただけだった。


桐谷さんに出会った。

『あら、学年一位さん。ごきげんよう』

ちゃんと挨拶された。

『ではさようなら』

そしてすぐに、解散した。

どうやら、彼女は僕にそんなには興味が無いようだ。

変に突っかかってくるよりはマシだな。と僕は少し笑った。





【放課後】

『よぉーし!メリー!今日も秘封倶楽部の活動開始よ!!』

『うわわ、待ってよー』

蓮子は、メリーを引っ張って街の中へと消えていく。

僕は、彼女達とは一切関係の無いただのモブとして生きている。

そうだ、これでいい。

イタズラに世界線を変えるよりは、この世界に留まっていた方が良いだろう。

紙を破り捨てて良かった。

この世界は、こんなに平和そうでは無いか。

もう、世界線を跨ぐ必要は無い。今日は帰って本を読もう。

・・・だが、何故だろうか。

どうしても、彼女達が気になる。

もう、この世界で良いと感じたはずなのに、

平和ならこれで良いと思えたはずなのに、

『・・・そうか、紫の命令だったな。そういえば』

僕は、渋々彼女達の後を追うことにした。





『ふむふむ。ここの肉まんはまぁまぁね』

後を追ってみた所、主な活動内容はただの食べ歩きだ。

ただ、珍しい所に行っては珍しいお店の料理を食べ歩く。

もう、秘封倶楽部から食べ歩き倶楽部に改名した方が良いのでは無いのか、と思うほどだった。

さて帰るか、そう思って家の方向へと向かおうとすると、

他に、彼女達を監視してる奴らを見つけた。

あれは、一体何者だろうか。

・・・気になったので、監視してみることにする。

『・・・・・・・・・』

額には、何か妙な物が書かれている。

陣?か?

視線の動きを見る限り、間違いなく彼女達を狙っているのは間違い無いだろう。

奴が動き出したら、僕も出よう。

そう思って、彼を監視してみる。

『・・・・・・』

と、思ったところ、メリーがこっちを睨みつけていた。

『ん?どうしたのよメリー』

『ねぇ、誰かにストーカーされてないかな?』

メリーがそう言うと、蓮子はこちらを向いた。

『・・・・・・あーーっ!!朝の痴漢!!』

誰が痴漢だ誰が

『こんなところで何してるのよ!!・・・はっ!まさか私達を襲う気!?』

おい

『気をつけてメリー!!目を合わせたら・・・食われるわよ!!ちょっと誰か!!誰かー!!』

監視する気が失せた。今日はもう帰るか。全力で。

ゲンナリとしながら、視線をあげたとき

『・・・・・・増えてる』

増えていた、彼女達を監視していた奴らが

『・・・・・・・・・』

くそっ、僕も大体生易しくなったもんだな。

奴らが、蓮子の方へと近づこうとした瞬間、

僕は、駆け足で奴らの元へと向かった。

『えっ!?ちょ!!来た!来たぁああああ!!』

本気で怯えている蓮子とメリーを押しのけて、

奴らの前へと出た。

『・・・・・っ!!』

刃物が、僕の身体に刺さる。

それも、一つじゃない。複数の刃だった。

冷たい物が身体に入り、身体が熱くなる。

大量の血が、僕の身体から流れ出る

『あああああああ・・・・・・あああああああああああああああああああ!!!』

僕は叫んだ。

それは、痛感による絶叫では無く、人を集める為の絶叫だった。

『ひっ・・・!』

その異様な光景に、蓮子とメリーはおののく。

そうだ、早く逃げろ

そう願ううちに、奴らは僕の声に驚いて逃げていった。

ああ、僕は

死・・・死ぬだろうな。

『・・・・・・・・・』

蓮子が、死にそうな僕を見ている。

メリーは、早く逃げ出したいのか、足がかなり震えている。

血が止まらない。

僕は、耐えられなくなって、倒れてしまった。

『蓮子ちゃん・・・早く救急車を呼ぼうよ!!』

メリーが、急かしている。

蓮子は、僕を見下ろしている。

だが、そんな光景ももうすぐ終わる。

この世界では、もう僕は君たちを守れないけれども

それでも、この世界での秘封倶楽部は、二人でちゃんと回れるだろう。

『・・・・・・あ・・・・・・』

蓮子の目から、涙が溢れる

『・・・霖くん・・・・・・霖・・・・・・くん・・・』

蓮子は、僕を見て泣いている。

僕は、泣いている蓮子に何もする事が出来ない。

『待って・・・霖くん・・・逝かないで・・・・・・』

蓮子は、屈んで僕の頬を撫でる。

暖かかった。

きっと、僕の身体は冷たくなり始めてるだろう。

『嫌!!嫌!!逝かないで!!霖くん!!霖くん!!!』

蓮子が、首を横に振っている。

この現状の全てを、否定している。

だが、僕はどうする事も出来ない。

さようなら

さようなら

そう思って、僕は眠りについた。





【家】

目を覚ますと、そこは僕の部屋だった。

『・・・・・・』

僕はすぐに辺りを見渡した。

また、あの紙がどこかに貼られているんじゃないだろうか。

そんな危機感を感じて、辺りを見渡したが、どこにも貼られていなかった。

『・・・夢だったのか?全部』

まぁ、そもそもあの紙切れ一枚で世界をまたげるなんてふざけてると思うが

今までのが全部夢だったら、後は楽になれるな。

さて、登校の支度をしよう。そう思ってカバンを手にかけた瞬間、携帯に着信が届いた。

蓮子からだった。

『・・・はい、もしもし?』

《あ、ちゃんと家にいるわね。今から迎えに行くから待ってなさい!》

そして切れた。

・・・やはり、全部元通りになっていたのだな。

もう少し、完全に一人の時間を楽しんでもよかったかもしれないと、少しだけ後悔した。

とりあえず着替え、準備を済まして玄関で待機した。


しばらくして、インターホンの音が響く

『はいはい、今開けるよ』

そう言って、僕は扉を開ける

玄関には、蓮子とメリーが立っている。

『今日もおはよう霖くん!!さぁ秘封倶楽部、始めましょうか!!』

今日も彼女は平常運転だ。

『ほらほら!ぐずぐずしない。』

別にぐずぐずはしていないぞ。

そう思いながら、僕は彼女に手を引かれて進んでいく。

『早く行こう、霖くん。蓮子ちゃん』

そして、メリーが先に進んでいく。

蓮子の歩むスピードが、だんだん遅くなっていく。

そして、完全に止まった時

『霖くん』

蓮子は、僕の手を握り締めたまま、僕の顔を見た。

『おかえり』

彼女は、涙を堪えながらも、精一杯の笑顔を僕に見せた。

どこの世界の彼女も、笑顔は同じだ。

恐らく、どこの世界線でもつながっているのだろう。

そして、その笑顔が、僕達に希望を持たせて歩かせてくれるのだろう。

『ああ、ただいま』

僕がそう言うと、蓮子はポケットに入れていた物を放り投げた。

それは、陣の中に『この世界には飽きた』と書かれた紙を丸めた物だった。





〜蛇足〜

正直に言うと、一歩家の前に出るとき躊躇した。

ようやく、元の世界に戻って来れたものの、この世界でも何が起こるか分からない。

僕が死んでしまうかもしれない。

蓮子が死んでしまうかもしれない。

メリーが死んでしまうかもしれない。

世界が滅んでしまうかもしれない。

だけどきっと、僕は

近くに居る人を守ろうと必死になって、一生懸命になるだろう。

どの世界線でも、それは間違い無い。

誰かを守れなくて、悔やんでしまうこともあるかもしれない。

トラウマを植えつけられることもあるかもしれない。

自殺してしまうこともあるかもしれない。

もしかしたら・・・

『霖くん!!』

だけど、この世界ではちゃんと

繋がっている人が居る、僕の近くに立ってくれる人が居る。

必死に生きる理由は、それで十分だ。



『やあやぁ!!秘封倶楽部の皆さん!今日もとっておきのネタがあるんですが・・・?どうっすか?』

長谷田が、小悪魔な笑みで僕たちに擦り寄ってくる。


『秘封倶楽部さん。今度の活動報告書、楽しみにしていますわ。』

薫子が、不気味な笑みで僕たちを見守る


『うっす、霖。ちょっとこの新商品って奴、毒見してくれねえか?』

駒田が、猫のように思いついたように僕に近づく。


『おはよう学年一位さん。昨日の読書倶楽部の件、考えてくれました?』

桐谷さんが、僕を自分の倶楽部へと勧誘しようとする。


そうだ、平和だ。

この異常に【平和】な世界だからこそ、普通である【裏】の世界から逃れられる。



だから、彼女達から守ろう。

幻想郷から、普通の【裏】から

僕は、彼女達を監視する命を受けているのだから。






『霖くーん!今日も、秘封倶楽部の活動開始よ!!』




今回は、一旦終了的なお話です。また、出会うときはしばらく時間が掛かるかもですね。
後、このパラレルワールドの行き方についてのこれは、全く信憑性の無いものですが、一応、このようなやり方が実在するものから引用しました。一応、お話補正ということで・・・(笑

この小説は、pixivで描かれているfutaさんが書いた漫画の設定をベースにして書いております。

【八尺様】 http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1822265

【完全変態倶楽部】 http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1828637

それでは皆さん、またいつかどこかで出会いましょう。さようなら
ND
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/06/21 13:19:15
更新日時:
2013/06/21 22:19:15
評価:
2/4
POINT:
260
Rate:
11.40
分類
森近霖之助
霖之助
宇佐見蓮子
マエリベリー・ハーン
秘封倶楽部
秘封霖
パラレルワールド
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/06/21 23:51:11
世の中、どこに『兎の穴』が開いているか分かったモンじゃない。
穴は覗いて闇を想像するに限る。

結局、今回は紫は登場しませんでしたね……。
その事から、この話では秘封倶楽部の三人は禁断の境界を踏み越えてはいないのか……。

これ、平行世界と言っていますが、
蓮子とメリーに危険が起きる度に、霖之助が作り直した結果の世界じゃないですか?

『パラレルワールドの行き方』は、悲劇の起きた世界を復旧した時――、霖之助が眠りに落ちた時のログを確認する手法なのか?

秘封霖三部作。ラストは日常を、闇を覗くアリス達を、命を賭して守り抜いた、これからも守っていく『監視者』が、その自覚を持つ話でしたね。

この物語(セカイ)は、二人のお姫様を護る王子様の英雄譚なのですから……。
4. 100 名無し ■2013/08/27 22:48:31
こういう、IF世界を書かせたら右に出る人は居ないな。
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード