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『蓮子ちゃんがもぐもぐされるだけの話』 作者: 穀潰し

蓮子ちゃんがもぐもぐされるだけの話

作品集: 8 投稿日時: 2013/06/28 20:16:01 更新日時: 2013/07/06 01:14:28 評価: 6/8 POINT: 650 Rate: 15.00
「どこよ、ここ」

辺りを見渡し黒鍔帽子が特徴の少女―――宇佐美蓮子は呟いた。彼女の目が捉えたのは一面の赤茶けた大地、と申し訳程度の植物。
荒野という以外どう表現していいか悩むという生産性のない思考を紡ぐほど、蓮子の思考回路は混乱していた。
しかし夢か幻か、自身の正気を疑うような状況でも蓮子は意外と冷静だった。
今の状況に至った経緯など至極単純、彼女の所属するサークル活動中に「不思議なことが起こった」とでもしておけばいい。
事実その通りなのだから。

「よりにもよって、結界を超えた直後にメリーと逸れるなんて……」

おそらく自身と同じように途方に暮れているであろう相方を思い浮かべつつ、文明の機器に頼るべく携帯電話を取り出す。
が、三文芝居のお約束のように不通。電池や電波の問題ではなく、ただ単に繋がらないのだ。
まるで相手が存在していないかのように。
溜息ひとつ、自身の仕事を放棄した携帯電話をしまいこみ、蓮子は空を見上げる。
自身の能力も月と星が見えない日中ではほとんど役に立たない。もっとも現在位置と時刻を把握したところで、まったくの見知らない土地であればいかほど役に立つというのか。

「メリー、何処行ったのー!!」

とりあえず張り上げた声に、返答はない。
地平線まで見えそうな地形で、姿が見えないのだ。いるはずもないが自身を鼓舞するぐらいには役立った。
行動的な蓮子にとって、一カ所に留まるという考えはない。その場で相手が見つからないのであれば、自身で探し出すだけだ。
とりあえず、怪我も体調不良もなし。見渡す限り探索の邪魔になりそうな遮蔽物もなし。
何かあればすぐに目につく。よしんばそれが目的のメリーでなくても、今後の行動を決める何かしらの指標にはなるだろう。
そう考え、蓮子は元気よく歩き出した。


蓮子が歩く。
蓮子が声を上げる。
蓮子が地面と接する。
それらすべて振動となって『そいつ』へと伝わった。


「ん?」

ふと蓮子は妙な気配を感じた。歩みを止め、自身の五感でその出所を探る。

「なに、揺れた……?」

自身の脚を下ろしている地面、そこから小さく、しかし確実に何かの振動を感じたのだ。
一般人の蓮子は最初、道路工事を思い浮かべる。だがそれは周囲にそれらしきものが一切見受けられないことから否定される。
そもそもそんな物が存在してれば、振動以前に視覚か聴覚で気付いているだろう。
では地震か。まるほど、日本人の蓮子にとって地面が揺れるとなれば思い浮かぶものだ。
確かにその振動は地面が揺れていることに間違っていなかった。
問題はそれを引き起こしているのが大陸プレートという自然ではなく、れっきとした『生物』であったということ。
ずるり、という音が蓮子に耳に届いたと同時に、彼女の体が引き倒される。

「あぐっ!!」

咄嗟の事に碌な受け身も取れず、したたかに体を打ち付ける蓮子。衝撃でトレードマークの帽子が地面へと落ちる。
そのことに頓着せず、自身を引き倒したものを確認しようと視線を向ける蓮子。
石か何かに躓いたか、枯草でも絡まったか。
だが彼女の目に映ったのは枯草などという可愛らしいものではなく。

「……なによ、これ」

見るからに生物然とした代物だった。
それは一見白い蛇にも見えた。しかし地面から生え、人の腕ほどもあろうかという蛇など蓮子は見たことがない。それが彼女の細い足首に巻き付き、万力のような力で締め上げる。

「あっぐっ……!! こ、の!! 離れなさい、よっ!!」

驚きよりも痛みによる怒りが先だった。自由なもう片方の脚でその蛇もどきを蹴り付ける。
未知の場所に一人放り出されていること、孤独なこと、転んだせいで体のあちこちが痛いこと、お気に入りの服が土塗れになったこと。
おおよそ八つ当たりと言えることまで感情に込めて、蓮子はその蛇もどきを蹴る。
だが蛇もどきは一切堪えた様子がない。安全靴か、ヒールの類であれはすこしは効果もあっただろうが、今の蓮子の脚を飾るのは動きやすさを重視したスニーカー。
羽毛のような軽さという売り文句は日常なら歓迎されただろうが、今この状況では甚だ頼りない。
それでも『反抗するだけの力はある』と相手に諭させるよう蓮子は何度目かの蹴りを叩き込もうとして。

ずる。

唐突に『引っ張られ』その機会を失った。
気付けば自身の体の位置が先程よりずれている。
気の所為などではない、事実地面には蓮子が引き摺られた跡が残っている。
つまりこの蛇もどきが蓮子を引き摺ったことになる。
だが蛇は獲物を締め付けることはあっても引き摺ることなどない。何より、すでに巻き付いてる状態の蛇がどうやって蓮子を引き摺ったというのか。

「……まさか」

よくよく見れば、その蛇は先端部こそ蓮子に絡みついているものの、後半部は地面の下へと消えている。
聡い蓮子はすぐに気付く、これは蛇に似た何か、だと。
事実その結論は正しかった。
何せそれは『そいつ』の舌にあたる部分なのだから。
『そいつ』は引き摺り倒してなお抵抗してくる蓮子が気に入らなかったのだろう。
地面を持ち上げ蓮子の目の前へと姿を現した。

「……は?」

あまりにも衝撃的な場面に直面したとき、人は言葉を失うという。
今の蓮子がその状態だった。
彼女の眼前に現れたもの、それは一見頭に殻の付いた巨大な蚯蚓に見えた。
だが乗用車ほどの大きさを持つ蚯蚓など蓮子は知らない。あまりにも衝撃に言葉を失っている蓮子の前で、そいつの先端がぱくりと開いた。
まるで閉じていた花弁が開くような光景。だが開いた先に見えたのは美しい花などではなく、生々しい生物然とした中身だった。
蓮子が殻だと思ったのは『そいつ』の嘴だったらしい。その奥から蓮子の脚に巻き付いている蛇もどきが何匹も伸びてくる。
それはまるで人間が舌を伸ばすような姿で。

「じょ、冗談じゃないわっ!?」

口から伸びた舌に絡めとられている、となればそのあとはどんな結果になるか。その光景を頭に浮かべた蓮子が顔色を変える。
何よりそれが伸びてきた場所―――『そいつ』の口内はみっちりと肉の詰まった空間にびっしりと生えた小さな無数の牙。放射状に配置されたそれらが、柔らかい肉が飛び込んでくるのを今か今かと待ちわびるように微細に振動している。
巨大な研磨機のような中身を目にして蓮子の思考が一気に混乱へと傾く。
普段は秀才でとおっている彼女も、一皮むけば少女に変わりはない。いくらオカルトサークルという普通ではない行動をしているといっても、まさか『餌となる』体験などしているはずもなく。

「離せ、離せ!! 離してよぉっ!?」

普段の彼女からは考えられないような取り乱し方。引き寄せられまいと指が傷つくのも構わず地面へ縋り付く。
だが場所は手掛かりなど期待できない乾いた大地、掴んだと思った石はあっさりと地面から抜け落ち、指を立てる土もぼろぼろと崩れるのみ。
結果、一息に蓮子はそいつの口内へと腰まで引き摺りこまれ。

「―――あ゛っあぁあ゛あっああ゛!?」

グギャリッ、と脳髄に響いたのは捻じれた脚が潰れた骨か。
下半身を締め付けこそぎ落していく痛みに蓮子は絶叫した。食われているという最初にして最後の経験に涙を零しながら未だ非力な抵抗として地面をひっかく。
痛いのか熱いのかわからない、そして自身の体が削れていく感覚。
肉の破ける音が、骨の砕ける音が、筋の引き千切られる音が、衝撃となって脳髄を掻き回す。
これがもし頭からの丸呑みであれば、発狂しそうな痛みに悩まされることもなかっただろう。

「や゛だや、だやだやだぁあああっ!!」

断続的に続く痛みに失神することを許されず、正常なまま食われていく蓮子。既に脚はつぶされ、万が一にも抜け出せたとしても逃げ切ることは不可能だろう。
だがそれだけだ。幸か不幸か、圧縮とまで入れるレベルでつぶされた脚は互いに圧迫しあい、蓮子に出血死などという優しい結末は与えてくれなかった。
痛みと恐怖で涙と鼻水で顔を汚しながら、それでも蓮子はそいつの咢から抜け出そうと足掻く。
だが巨人の手に捕まったように、自身を包む肉塊は微動だにしない。
だからせめて、せめてこれ以上飲み込まれまいと。これ以上自分の体を失いたくないと。
蓮子は足掻いた。
それに対し、『そいつ』は体を持ち上げることで答えた。
それはまるで行儀の悪い子供が上を向いて食べるような姿。内部の粘液と重力に従って、蓮子の体がずれ落ちる。
咄嗟な行動として、蓮子がそいつの嘴に手をついて体を押し留めようとした。
それが引き金となったのか。

「!? ぐぶっ!!」

突如閉じたそいつの口。蓮子の柔らかい体に硬質な嘴が突き刺さる。鉤爪状になっている先端が蓮子の体に突きたち中身を傷つける。
びしゃり、と奇しくも同時にそいつと蓮子の口から血が飛び散る。

「ひぎぁあぁっ! ぎぁぅ、がっ……!!」

先程まで食われていた脚とは違う、死に直結する痛み。もはや蓮子の口から洩れるのは人の声ではなかった。
ごぼごぼと内臓出血に溺れながら、妙にあたたかいそいつの内部の感触と食われているという恐怖を煽った。そいつの嘴がめり込んでいくごとに、ミシミシと何かが軋む感覚が蓮子の脳裏に響く。

「あ゛ァああ゛ぁァッ……!!」

肺から空気が押し出され、叫びとも呻きとも取れない音が口から洩れる。
と。
ボギッ。
ぶつりっ。
そんな音が蓮子の脳裏に響いた。ついで衝撃。
唐突に投げ出された蓮子は堅い地面の感触を感じ取った。

(あぇ……なん、でじ……めん……ねて……そら……あお)

衝撃から抜け出した思考が一番に目にしたのは抜けるような空の青だった。
もはや言葉を発する気力すらない、ただぼんやりとした思考で、蓮子はなぜ地面に転がっているのかと考えた。
運良く抜け出せたのだろうか。
助かったのか。
なんでもいい。
とにかく自由になったんだ。
逃げないと。逃げないと。逃げないと―――。
身を起そうとした蓮子は、そこで不思議なことに気が付いた。

(ぁえ……わた、しのから、ぁ、こんなに、ちぃさ、かったっけ……?)

身を起こしたからこそわかる何かが足りない自身の体。よくよく見れば、密かな自慢だった縊れた腰と引き締まった脚がどこにも見当たらない。
代わりに目に入るのは途切れた場所からこぼれる『ソーセージのような何かと赤やピンクの物体』だった。

(やだ、なぁ……ぁしなぃと、かつど、ぅ、できない……)

それが自身の内容物だと理解できるほど、蓮子に思考は残されていなかった。
ただ自身の腹部からこぼれる血と内臓を不思議そうに見つめるだけ。

(………ぁれ?)

ぼんやりとした視界に影がかかった。
死線をやった先には視界いっぱいに広がる肉壁。それが先程まで自身が飲み込まれていた物だと理解する前に。
蓮子の頭に『そいつ』の嘴が突き刺さった。

「――――ぃ」

僅かに残った思考の中、蓮子は何か致命的な音が自身の頭蓋に響くのを感じ取って。
そこで彼女の意識は永遠に途絶えた。


久方ぶりの獲物を噛み千切り飲み込んだ『そいつ』は満足そうに口を閉じると、体表にある無数の爪で地面を掘削し、その巨体を土の下へと埋めた。
次の獲物が訪れるの待つために。
荒野の地面の上、赤黒くなった土と黒い帽子が残っていた。
だがそれもすぐに砂塵に吹き飛ばされ、何処へと消え去っていく。
まるで、何事もなかったかのように。
まずはここまでお読みいただき有難うございます。筆者の穀潰しです。
テーマは『好奇心は猫をも殺す』
正直に言いますと誰でもよかった、ムシャムシャしてやった、今は反芻している、といったところでしょうか。
夜中の空腹は耐え難いものがあります。捕食とかもっと流行れ。
まぁ蓮子も面白半分で結界とかに首突っ込んじゃ駄目ですね。

>NutsIn先任曹長殿
実は蓮子は境界向うを見るために差し出された生贄だったとかなんとか。
そこまで閃いたけど書く能力が無かったのです。
苗床!! そういうものもあるのか!!


>3様
とりあえず、冷静とか強気な女の子を泣かしたかった。ただそれだけです。
丸呑みは以前に一本書いてますが、消化描写まではしてないですねぇ。正直に言うと書けません。
穀潰し
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/06/28 20:16:01
更新日時:
2013/07/06 01:14:28
評価:
6/8
POINT:
650
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15.00
分類
宇佐見蓮子
自業自得シリーズ
捕食
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0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/06/29 09:00:29
このような『事故』は、想定されて然るべき、ですね。
いつものようにメリーとキャッキャウフフなピクニックになる確率よりも、本来はこっちの方が高いと思うんですけどねぇ。
ましてやNDさんの秘封倶楽部物の作品みたいに、三人目の部員である我等が霖之助が助けに来る事などありゃしない。
メリーが危険な目に遭う遭わないの境界を見切っているのか?

苗床にされたり甚振り殺されるよりは、まぁましな死に方で良かったね、蓮子。
3. 90 名無し ■2013/07/03 02:51:32
咀嚼されるタイプは初めて見た。
今際の際にも活動のことを考える蓮子ちゃんはかわいいね。今度は丸飲み消化モノも是非。
4. 100 県警巡査長 ■2013/07/11 21:45:26
不注意というものは恐ろしい・・・。くわばらくわばら。
5. 100 名無し ■2013/08/27 22:51:39
不可思議な事を求めれば当然こういう事もある訳で
蓮子の最大の誤算は対策を怠った事
これは間違いなく異変が起こった際の対策を怠った蓮子の過失ですね。
6. 100 名無し ■2013/09/11 18:22:40
もぐもぐ
7. 100 レベル0 ■2014/07/19 21:49:01
蓮子……南無三
名前 メール
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