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『産廃創想話例大祭A『恋色マスタースパーク』』 作者: 零雨

産廃創想話例大祭A『恋色マスタースパーク』

作品集: 8 投稿日時: 2013/06/30 01:33:24 更新日時: 2013/06/30 10:35:45 評価: 14/18 POINT: 1300 Rate: 13.95
乙女は誰しも、運命の人が現れるのを待っている。と、霧雨魔理沙は幼い頃から思っていた。
自分にも、いつか運命の人が現れるのかな、そう思っていた。
あまり広くない自宅の寝室で、魔理沙ははぁとため息をつく。

「まさか、私が女を好きになるだなんてなぁ……」

運命の人はずっと男だと思っていた魔理沙だったが、"彼女"との出会いでそれは大きく変わった。
アリス・マーガトロイド、初めて出合ったときから魔理沙は彼女に惚れてしまったのだ。
透き通る瞳、人形のように白く美しい肌、細く綺麗な指、全てが魔理沙を虜にした。

「ああ…アリス……」

気を抜くとついついアリスのことを考えてしまう。そのせいで魔法の研究は全く進まない。
それどころか、最近は食事も喉を通らないようになってきた。
これが恋煩いなのだろうか。と、魔理沙はぼんやりとした頭で思う。
食べなければ倒れてしまう。倒れてしまうとアリスに会えない。
そう自分に言い聞かせ、無理やり食べ物を胃の中に押し込んでいる状態だ。

「このままじゃマズイよなぁ……。でもなぁ……」

自分でもこのままではいけないことは分かってはいるのだ。
だが、どうしようもないのだ。
この状態を解決するには、魔理沙の気持ちをアリスに伝えるしかないだろう。
しかし、それを伝えるだけの勇気が今の魔理沙にはなかった。
何とか、この気持ちにケリを付けたい。
そう思ってはいるのだが、どうしても行動に起こせないのだ。

「うぅ…恋する乙女は大変だぜ……」

呟いて頭を抱える魔理沙。
その時、玄関の扉を叩く音が聞こえた。

「魔理沙ー? 今日は森の奥にキノコ狩りに行くんでしょー?」

アリスの声だ。どうやら、もう昼前らしい。
朝からずっとアリスのことを考え続けていたせいで、何の準備もできていない魔理沙。
こういうときは咲夜が少し羨ましくなる。

「少しだけ待っててくれー! すぐ支度するから!」

急いで支度をしながら、外のアリスに叫ぶ。
部屋の中で待っててくれと言いたかったが、この散らかった部屋にアリスを入れるわけには行かない。
みっともない姿でアリスの前に出たくないが、準備に時間をかけすぎてアリスを待たせることもしたくない。

「やれやれ、本当に恋ってのは大変だな……」

口ではそう言うものの、魔理沙の顔は幸せそうだ。
着替えが終わり、箒と鞄を手に取ると、スキップしながら玄関へ向かう。

「待たせたな、アリス! じゃあ早速行くか!」

「ええ、そうね。それにしても、魔理沙? その髪はもう少し何とかならなかったのかしら?」

「う、言わないでくれアリス……。仕方がなかったんだ……」

「魔理沙のことだから、また魔法の研究に打ち込んでたんでしょ? 何事もやりすぎはよくないわよ」

しょうがないわね、とアリスがため息をつきながら言う。
アリスのことを考えてたからだ、とは言えない魔理沙は、曖昧な笑いを返す。

「話なら歩きながらでもできるからさ、早く行こうぜ? どこかのメイドと違って、時間には限りがあるからな!」

「はいはい、分かったわよ」

並んで歩く魔理沙とアリス。
手を繋いで歩けたら、どれだけ幸せな気持ちになれるだろうか。
臆病な魔理沙は、その一歩を踏み出すことができない。
今でも十分楽しいはずなのに、少しだけ苦しい。
モヤモヤした気持ちを抱えながら、森の奥へと進んでいく魔理沙。

「そういえば魔理沙、今日はどんなキノコを取りに行くんだったっけ?」

「あ、ああ。……今日取りに行くのは、明日の宴会用のやつだ。これがかなり美味くてな……」

「へぇ? そんなにおいしいならちょっと後で食べさせてよ」

「楽しみは後まで取っておくもんだぜ? 宴会を楽しみにしといてくれ」

興味深そうな表情をするアリスに、イタズラっぽい笑みを浮かべながら魔理沙が言う。
そんなことを言っているうちに、目的地に到着した。
薄暗い魔法の森の中でも、とりわけ暗いその場所には、魔理沙の目的であるキノコが大量に生えていた。

「うっ……。結構気持ち悪い見た目のキノコね……」

アリスが指先でキノコを恐る恐る突きながら呟く。
確かにアリスの言う通り、そのキノコの見た目は、普通のものとはかなり異なっていた。
まるで人間の腕のように、傘が五つに分かれている。
色は土気色をしており、地面の下に埋まっている人間が手を突き出しているかのようだ。

「まあ見た目は悪いが、味は本当に美味いんだ。それに、他にも色々効果がな……」

ぼそぼそと、アリスに聞こえるか聞こえないか微妙な声で魔理沙が囁く。
どうやら、アリスには聞こえなかったようで、相変わらずキノコを突いて遊んでいる。
安心したような、それでいて少し残念そうな表情を浮かべる魔理沙。

「さあ、さっさと採取しようぜ」

持って来た鞄に、不気味なキノコを次々と放り込んでいく。
ほんの数分で、鞄から溢れるほどのキノコが集まった。

「集まってるとさらに気持ち悪いわね……」

救いを求める亡者のように、鞄から無数に突き出される腕。のようなキノコ。

「一度食べれば、見た目も気になくなるさ。大事なのは見た目より中身だぜ」

「そうは言うけど、やっぱり見た目も大切よ。人もキノコもね」

魔理沙の顔を指差しながら、意地悪そうにアリスが笑う。
夢中で採取していたせいで、魔理沙の顔は泥まみれだった。
慌てて腕で拭う魔理沙。おかげで今度は服が泥まみれになってしまった。

「あーもう、どろどろじゃない。この後私の家に来なさいよ。洗ってあげるわ」

「え? いや、それはなんかちょっと悪いかな……」

急なアリスの提案に、普段の威勢のよさはどこへやら、狼狽してしまう魔理沙。
そんな魔理沙をアリスは有無を言わさず引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれよアリスぅ……」

「話は家に着いてから聞くわ」

弱弱しい声で魔理沙が抗議するが、アリスは聞く耳を持たない。
魔理沙の抵抗も空しく、あっという間にアリスの家が見えてきた。
少しばかり足を止めアリスが指を動かすと、玄関の扉が開く。
開いた扉から人形達が勢いよく飛び出してきて、魔理沙を運んで行く。

「そのままお風呂場に運んであげるから、身体も洗ってきなさい」

「気持ちはありがたいんだが、着替えとか持ってきてないしさ……」

「大丈夫よ、私のを貸してあげるわ。さ、早く綺麗になってきなさいな」

半ば押し切られるような形で、風呂に入ることになってしまった魔理沙。
魔理沙の心臓は、破裂してしまうんじゃないかと不安になるくらい激しく鼓動している。
まさか、こんなことになるとは。
仕方なく、服を脱ぎ捨て風呂場に入ったものの、ここからどうすればいいのか。
アリスの家には何度も来た事があるが、こんなところに入るのは初めてだ。

「……普段アリスはここで体を洗ってるんだよな」

ごくり、とつばを飲み込む魔理沙。
キョロキョロと、思わず風呂場を眺め回してしまう。
適度な広さのその風呂場は、とても綺麗にされていた。
床や壁は磨いた鏡のようにつやつやしているし、もちろん何も落ちてはいない。

「まずいまずい、このままここに居続けたら狂ってしまいそうだ……」

頭をぷるぷると左右に振り、邪念を打ち消す魔理沙。
手早く体を水で流し、まだ残っていた泥を洗い流した。
流れていく水を見て、神聖な場所を穢してしまったような、そんな罪悪感に襲われる。

お風呂場から出ると、脱衣所にはアリスが用意した服が置いてあった。
魔理沙は少しだけ躊躇ったものの、思い切ってその服を着た。

「うぅ……。何だかすごく恥ずかしいぜ……」

アリスの服を着た魔理沙は、夕日のように顔が真っ赤に染まっている。
いつもの服とは違うせいか、歩き辛さを感じながら、アリスが待つであろうリビングへと向かう。
そこでは、アリスが優雅に紅茶を飲みながら読書をしていた。

「あら、案外早かったわね。私の服、結構似合ってるわよ」

クスクスと笑いながら言うアリス。魔理沙は羞恥で顔から火が出そうだった。
手遅れかもしれないが、必死に平静を装い椅子に腰掛ける魔理沙。

「こうして見ると、あなたって結構私に似てるわねぇ」

「アリスの服を着てるからそう見えるだけじゃないか? うぅ、やっぱり私はいつもの服が一番いいぜ……」

「たまには違う服を着るのも新鮮でいいんじゃない? かわいいわよ、その姿。……さっき自分で似てるって言っちゃったから、自分のことを褒めてるみたいでちょっと恥ずかしいけど」

アリスの言葉に、魔理沙の乙女心はもう限界寸前だ。
予想していなかった出来事に加え、かわいいとまで言われてしまっては、乙女心が揺らぐのも当然だろう。
思わず、口から自分の思いが飛び出してしまいそうになる。
好きだ、アリス。付き合ってくれ。
もう、言ってしまおうか。

「あ、あのさ、アリス」

「ん? どうしたの魔理沙?」

ドキドキが止まらない。体全体が心臓になってしまったかのようだ。

「その、何だ。明日の宴会、一緒に行かないか?」

口から出た言葉は、そんなものだった。
やっぱり、駄目だ。この雰囲気には耐えられない。
魔理沙は自分が情けなくなってきた。

「え? ええ、いいわよ」

どこかいつもと違う雰囲気の魔理沙に若干困惑したものの、頷いて了承するアリス。

その後、終始微妙な空気のまま、魔理沙はアリスの家を後にした。
服は今度返してくれればいいわよ、魔理沙の帰り際にそう言ったアリスはどこか上機嫌そうに見えた。
アリスとは対照的に、魔理沙の気分はかなり落ち込んでいた。

「明日だ……。明日、言ってしまおう」

そう自分に言い聞かせながら、とぼとぼと自分の家に帰っていく。
異変解決に出向いた時よりも強い疲労感。

「しまった、アリスのところに服を忘れてきちまったぜ……」

折角綺麗にしてもらったのにな、と悲しそうに呟く。
そんなことを言っているうちに、家に到着した。
自分の部屋に入ると、安心感と疲労感が波のように押し寄せてきた。
それでも、何とか重い体を動かし、風呂に入る。
アリスの家のと比べるとやっぱり汚れているな、と魔理沙は思ったが、今日はもう掃除をするだけの体力も精神力も残っていない。
風呂から出ると、アリスから借りた服を綺麗に畳み、ベッドに飛び込む。
あっという間に睡魔に襲われ、すぐに眠ってしまった。



魔理沙が目を覚ますと、もう既に日が昇りきっていた。
昨日の疲れはさっぱり消え、快適な目覚めだ。
宴会は夜からだが、早いうちに準備をすることにした魔理沙。
昨日採取したキノコもしっかりと洗ってすぐに調理出来る用にしておく。
そうこうしてるうちに、日は沈み、アリスがやってきた。

「今日は準備できてるわよね、魔理沙?」

「ああ、バッチリだぜ」

とは言うものの、魔理沙の心は準備が全くできていないのだが。
昨日と同じように、並んで神社に向かう二人。
ほんの少しの距離がもどかしい。
神社に到着すると、もう既に大勢の人妖達が集まっていた。

「あら、いらっしゃい魔理沙、それにアリス」

「おう、来てやったぜ霊夢。頼まれてたキノコもちゃんと持って来たぞ」

霊夢に鞄いっぱいのキノコを見せびらかす魔理沙。
霊夢はそれを見て満足そうに頷くと、台所を指差した。
早く調理して来いということなのだろう。
魔理沙も分かっているようで、頷き返し台所へ向かう。
調理と言っても、キノコを薄く切って醤油をつけるだけなので、簡単なものだ。
手際よくキノコをスライスしていく魔理沙。
大量にあったキノコのほとんどを切り終えると、霊夢が皿に取り分ける。

「これで後は醤油をつければ出来上がりだ。待たせて悪かったな、アリス。食べてみるか?」

そう言ってキノコを差し出す魔理沙。
恐る恐る口に運ぶアリスだったが、口に含んだ瞬間表情が変わった。

「本当に美味しいわね、これ」

「だろ? あっちの人が少ない方でこれで一杯やろうぜ。他のやつに食わすのは惜しいからな」

それとなく、アリスを人のいないところに誘導する魔理沙。
キノコと酒を持って、歩き始めようとした魔理沙を霊夢が引き止めた。

「ちょっと、魔理沙。半分くらいは置いていきなさいよ?」

「ああ、悪いな霊夢。ほら、半分だ」

「ん、ありがと。……そっちの方には誰も向かわせないようにしといてあげるわ」

アリスに聞こえないように、魔理沙に耳打ちする霊夢。
その顔は愉快そうに見えたが、同時にどこか寂しそうであった。
魔理沙は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、霊夢に感謝する。
霊夢にまた後でと手を振り、二人は神社の隅へと歩いていく。

「この辺でいいか。ほら、アリス。飲もうぜ」

「そうね。静かな宴会も悪くないわ」

二人は腰を下ろすと、持ってきた酒を杯に注いだ。
乾杯、と杯を掲げる。
酒を飲み、キノコを食べ、雑談を交わしながら、魔理沙は時期を待っていた。
アリスや魔理沙が食べたキノコには、酔いを深め、気を大きくする作用がある。
今日こそは、言えるはずだ。
魔理沙の心臓の鼓動が早くなってきたが、それでも昨日よりは落ち着いていた。
飲み始めてから、一時間くらいは経っただろうか。
二人とも酔いが深くなってきている。
魔理沙よりも多くキノコを食べていたアリスは、もうかなり酔っ払っている。
これ以上待っていては、機会を逃してしまうかもしれない。
覚悟を決めるのだ。言え、言ってしまえ。

「なあ、アリス。アリスって今付き合ってる奴とかいるのか?」

「突然どうしたの? 魔理沙がそんなことを聞くなんて珍しいわね」

「私だって乙女だからな! そういうのが気になるものさ」

「そうねぇ……。私は別に誰とも付き合ったりしてないわよ」

キノコの効果か、いつもならばあまりこの手の話題に反応しないアリスが珍しく乗ってくる。
魔理沙は心の中でガッツポーズをする。が、まだだ。大事なのはここからなのだ。

「あ、あのさ! も、もしよかったら私と付き合わないかっ!?」

言えた。言ってしまった。魔理沙の顔は酒のせいもあって、燃えるように真っ赤だ。
魔理沙の告白を聞いたアリスは、きょとんとしていたが、しばらくして突然笑い出した。
突如笑い出したアリスに、魔理沙は困惑しきっている。
そんな魔理沙に、アリスは笑いながら言った。

「なかなか面白い冗談ね、魔理沙。私達は女同士よ? ありえないわ」

「……ぇ?」

声が、出ない。
魔理沙は自分の血の気が引いていくのを感じた。
アリスが何を言っているのか、脳が理解するのを拒否しているかのようだ。
体の震えが止まらない。全身から嫌な汗が滲み出してきた。

「もうかなり酔ってるんじゃない、魔理沙? あんまり飲み過ぎないようにしなさいよ?」

優しいアリスの言葉が、鋭く尖ったナイフのように魔理沙の心を突き刺す。
胃の中のものが逆流してきそうだ。気持ち悪い。
アリスがまだ何か言っているようだが、もう何も聞こえない。
頭が割れてしまうような耳鳴りと、今にも破裂しそうな心臓の鼓動だけが聞こえる。
限界だ。
吐き気を抑えきることができずに、魔理沙はその場で盛大に嘔吐した。
そしてそのままふらふらと、魔理沙は神社から歩いて出て行こうとする。
神社を去ろうとする魔理沙に、アリスは何か言っているようだが、直接引きとめようとはしなかった。



家に帰るまでの短い距離で、一体何回嘔吐しただろうか。
喉が焼けるように痛い。だがそれ以上に、心が痛い。
家に帰った魔理沙は、玄関で蹲っていた。
涙をぽろぽろと零しながら、胃の中のものをひたすら吐き出している。
魔理沙の吐瀉物で、玄関はドロドロになっていた。酷く不快な臭いもする。
まさか、こんなことになるとは。
昨日とは違い、そこに喜びの感情はない。
ただただ、後悔と絶望が魔理沙の頭を支配していた。
どうして、告白なんてしてしまったのだろう。
どうして、アリスを好きになってしまったのだろう。
どうして、私は生まれてきたんだろう。
こんな思いをするのなら、生まれてきたくなかった。
ぐるぐると、魔理沙の頭の中を言葉が回り続ける。
もし、告白なんてしなかったら、あのまま今まで通りの関係を続けられていたら。
恋焦がれている間が一番幸せだったのかもしれない。
今の痛みに比べれば、あれはなんと幸せな痛みだっただろうか。
後悔してももう遅い。

「ぁ、アリス……」

もう、アリスのことを直視できないだろう。
先程の、辛い記憶が蘇ってくる。
アリスの言っていたことは間違っていない。
いくら幻想郷といえども、同性愛はアブノーマル。
魔理沙は、自分を呪いたかった。普通の恋愛ができたなら、アリスとは良き友人のままでいれただろう。
間違っても、告白しようだなんて思わなかったはずだ。
それなのに。どうして、どうして、どうして。
魔理沙の脳内に、走馬灯のようにアリスとの思い出が流れる。
優しかったアリスのことを思い出すたびに、心が締め付けられる。
いっそのこと、何もかも忘れてしまいたい。
この痛みから、解放されたい。
魔理沙の思考は、どんどんと暗いほうへと堕ちていく。
全て終わらせてしまいたい。
ゆっくりとした足取りで、魔理沙は自分の部屋へ向かう。
そこには、この痛みから自分を解放するための道具がある。
机の上には実験で使うためのナイフがあった。
魔理沙は震える手でそれを握り締める。
死ぬのだ。解放されるのだ。
意を決し、ナイフを振り下ろそうとした魔理沙の目に、あるものが映った。
アリスから借りた服だ。優しい思い出が詰まった服。
魔理沙は、そっと服を手に取った。
幸せな思い出と共に死ぬ。魔理沙は決心した。
手首に勢いよくナイフを突き刺し、肘の方に向けて引き裂く。
焼けるような痛みと共に、鮮血が吹き出す。
それでも、心の痛みから解放されると思えば、苦ではなかった。
意識が朦朧とし、痛みが薄れてくる。
ふと、魔理沙は目の前に何かの気配を感じた。
薄れゆく意識の中で、何とか顔を上げる。
そこには、アリスの姿があった。

「あぁ……」

魔理沙は何か言おうとしたが、言葉が出ない。掠れた音が口から零れただけだった。
アリスはそんな魔理沙に近寄ると、ぎゅっと抱きしめる。
魔理沙の体から痛みはもう消えていた。
そこにあったのは、優しいぬくもりと、充実感。
もうほとんど動かない体を精一杯動かし、魔理沙も抱きしめ返す。
抱きあっている二人は、傍から見ればカップルに見えるだろう。
アリスが、顔を近付けてくる。
それに答えるように、魔理沙は目を閉じた。
柔らかいものが唇に触れる。
そして二人は笑顔を交わす。幸せそうな笑顔だ。
急速に、魔理沙の意識が薄れていく。目の前のアリスの姿がぼやけて消える。
堕ちていくような感覚と共に、魔理沙の意識は途絶えた。










「魔理沙、いないのー?」

宴会の翌日、朝早くからアリスは魔理沙の家にやってきた。
盛大に嘔吐して帰った魔理沙の体調が心配でもあったし、服を預かったままだったからだ。
この時間ならいると思って来たのだが、家の中から返事はない。

「あれ?開いてるじゃない」

最後に扉をノックして、それでも駄目だったら帰ろうと思っていたアリスだったが、扉が開いていることに気が付いた。
とりあえず、服だけは返しておこうと、家の中に入るアリス。
扉を開けた瞬間、酷い臭いに顔を顰める。
玄関は吐瀉物で踏み所がないほどに汚れていた。
嫌な予感がして、アリスは魔理沙の部屋へと急ぐ。
勢いよく部屋に入ったアリスは、自分が見たものに驚いて腰を抜かしてしまった。
アリスの目に映っていたのは、血塗れの魔理沙。
血の海の中で大切そうに、どす黒く汚れた何かを抱きしめている。
無残な姿で死んでいるのに、魔理沙の表情は笑顔だった。
涙と血に塗れながらも笑顔を浮かべる魔理沙の姿は、とても幸せそうに見えた。
とても、幸せそうに……。
やらないでする後悔より、やってする後悔の方が大きい
零雨
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/06/30 01:33:24
更新日時:
2013/06/30 10:35:45
評価:
14/18
POINT:
1300
Rate:
13.95
分類
産廃創想話例大祭A
魔理沙
アリス
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0. 110点 匿名評価 投稿数: 4
1. 100 名無し ■2013/06/30 10:48:05
乙女な魔理沙ちゃんは心が弱かったのですね……
ここまで心が弱いと逆に今までどうやって生きてきたのか、気になります
最終的に幸せなキスをして二人は結ばれたのだからハッピーエンド……なんですかね
2. 70 pnp ■2013/06/30 15:58:02
 キノコの腕っぽさが何かの伏線かと思ったら別にそんなことはなかった。
 酒とキノコの力を借りて告白し、酒とキノコの力の所為でフラれ(と言うか真剣みすら感じて貰えず)。自殺も酒とキノコの勢いか。酒怖い。
3. 70 智弘 ■2013/06/30 21:41:53
もう少し勇気があったなら、と思うとひどくやるせなくなります。その物悲しさがこの話の持ち味でもあるのでしょう。
吐瀉物、血まみれの割に内容自体はとても綺麗なものでした。
4. 100 名無し ■2013/06/30 22:16:03
ああ、哀れな魔理沙。
愛されたいと願うのは、罪なのか?
生まれ変われることがあれば、次は幸せな恋ができるように願わずにはいられないな
5. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/07/01 23:07:35
キノコを食って、実行する勇気を得たんだね。
愛する娘に告白する勇気を。
ノンケに告白した自分を恥じて逃げ出す勇気を。

多分、彼女は、何がなんだか分からない、分かってもらえないけどね。
8. 70 まいん ■2013/07/04 22:57:32
この様式美がとてもイイ。
失恋は辛いが自分の気持ちを隠したままの方がよっぽど辛いのだよ魔理沙君。
ああ、もう死んでいるか。ははははは。
10. 80 汁馬 ■2013/07/13 20:52:26
魔理沙ちゃん魔法使いならあきらめずに惚れ薬とか男体化とか色々あるだろうに・・・
乙女な魔理沙ちゃんは心が弱いなあ
11. 100 名無し ■2013/07/14 03:29:02
魔理沙ちゃんが最期に見たのが幸せな夢で良かった。
彼女が絶望のまま死んでたら多分私は落ち込んでいたと思う
12. 60 名無し ■2013/07/14 22:54:05
恋愛ってのはもっと有意義なものじゃないのかよ・・・
魔理沙ちゃんは世界に裏切られた
13. 80 んh ■2013/07/21 02:05:44
キノコパワーでヤンデレるかと思ったら最期まで純情乙女だったぜ!
確かに百合とか気味悪いですよね
14. 70 名無し ■2013/07/28 16:34:05
よき散り方
15. 100 名無し ■2013/07/28 21:14:15
恋愛怖い
16. 100 県警巡査長 ■2013/07/30 18:32:34
何と悲しきマリアリか…。
なんで告白してフラれたからって自殺するんだよ、魔理沙…。恋人がダメなら友人としてつきあうことを考えることができなかったのか。
アリスがこの後魔理沙の後を追って自殺するか、ショックで廃人になってそうな気がする。
17. 90 名無し ■2013/07/30 19:35:10
こういうシチュ興奮するわ・・・
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