「私だけど」

　trrrr

　trrr

　ガチャ！

　霖之助は店にある固定電話の受話器をとった。

「はい、森近ですが？」

「私、私、私だけど」

　かわいらしい声で、私と連呼する少女からの電話だった。

「……もしかして、いつもより声がかわいらしいけど、にとり君かい？」

「……そう、そうよ。私はにとりだよ。たぶん声がいつもよりかわいらしいのはヘリウムガスのせいだよ」

「そうなのかい？　君が電話してくるなんて珍しいね。どうしたんだい？」

「うん、森近にしか頼めないことなの」

「いつから君は、僕と親しくなったんだい？」

「……ごめん。なれなれしくしてごめんね」

「別に気にしてないよ」

「ありがとう」

「で？　頼めないことってなんだい？」

「あのね。それわね。その」

　なぜか、にとりはそこで口ごもった。

「どうしたんだい？　何か深刻なことなのかい？」

　あんまり、普段かかわりの無い二人だったが、霖之助は心配になった。

「あのね、私、弾幕ごっこしてて相手を怪我させちゃったんだ」

「遊びなんだから、加減しないといけないよ」

「うん、加減するよ」

　にとりの声色から察するに反省しているらしいと、霖之助は思った。

「気をつけるんだよ」

「うん、気をつけるよ」

　本当に心から反省していると思った。

「それで、僕に頼みたいことってなんだい？」

「それでね、怪我させちゃった相手に慰謝料払わないと、妖怪退治屋に依頼して私を退治するって相手が言うんだ」

「それは、酷いね。でも、怪我させちゃったんだから慰謝料払わないと」

「でも、お金が無いの」

　ここで、霖之助はにとりが頼みたいことを大体察した。

「……もしかして、にとり君。お金が無いのかい？」

「うんお金ないの。だから貸して欲しい。こんなこと森近いがい他の人に相談できないよ」

　とても、にとりは心底苦しそうだ。

「僕いがいに相談できないのかい」

「うん」

「可哀想だね」

　霖之助は心配して言う。でも、心の奥底ではそこまで自分は信頼されているんだとなんだか驕った気分になっていた。

「うん」

「わかったよ。幾らだい？」

「今日の夕方、いや、後３０分以内に５０万円」

　５０万円、大金だ。霖之助の手元には３０万円しかない。

「３０万円なら、すぐに準備できるよ」

「３０万円？　うん、ありがとう。それで、何とかなるよ」

「良かった。で、どうやって渡せばいい？」

「湖に、大妖精がいるから、渡して」

「君に直接渡すんじゃないのかい？」

「今、妖怪退治屋が私を探してその辺にいるから直接うけとれないの」

　にとりは、さっきと違うことを言った。

「そうかい、わかったよ。大妖精に渡せばいいんだね」

　しかし、霖之助はそれに気付くことは無かった。

「ありがとう」

「ことが済んだら連絡してくれよ」

「うん」


　こうして、通話は終了した。





　霖之助はにとりがとても心配で、すぐにお金を持って湖に行った。

　そこには、にとりの話どおりに大妖精がいた。

　大妖精にお金を渡し、霖之助は、にとりが退治されないと安堵の息を漏らしたのだった。