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『産廃創想話例大祭A(に出す予定だったSS)「妹紅と幻想郷」』 作者: dan
迷いの竹林
慧音が、死んだ。
その一報を聞いた瞬間、まるで脳の内側から思い切り金槌で殴られたような衝撃を感じた。
「そんな…嘘…嘘…だろ?」
どうやら薬師が留守の間に発作が出て、残された者では手の施しようがなかったらしい
慧音は体調不良を訴え数年前から永遠亭に通院していた
蓬莱の薬師なら間違いないと思っていたのに…
「死因は心不全、どうやら彼女は生まれた時から心臓に何らかの異常を抱えていたみたいね」
「うるさい!」
わざとやってるのかと思うくらいの冷たい態度につい声が荒くなる。
「心中お察しするわ。でも彼女はもう死んだの、受け止めなさい」
こいつは医者のくせにどうしてそんなことが簡単に言えるのか。この性質が生来のものなのかそれとも蓬莱人としての年月が彼女の思考感情を冷ましていったのか定かではなかったが
どちらにしろ妹紅には理解できなかった。なにが心中お察しするわ、だ。
反抗心から言葉を紡ぐことなくだんまりを決め込んだ。
「…とにかく一度永遠亭へいらっしゃい、彼女の引き取りもあなたにお願いするわ」
「ああ」
それだけ言いうなずくと永琳が歩き出したその後ろをついて歩いてゆく。心底めんどくさそうにしている偉そうな背中を見ていると虫唾が走った。
永遠亭へ着くと、それに気付いた一羽の兎がこちらへ駆け寄ってきた。永琳の弟子である月の兎のうどんげだった。
「ご苦労様うどんげ、妹紅を遺体安置所まで案内してくれるかしら?」
どうやら案内役らしい、迷わないようにとの配慮が必要なほど永遠亭の廊下は長いらしい。
「わかりました!では妹紅さん、こちらへ…」
曲がりくねった長い廊下の道中、うどんげがこちらをちらちら伺いながら申し訳なさそうにしている。
「どうした?」
妹紅が訪ねると申し訳なさそうに口を開く。
「妹紅さん、ごめんなさい…大事な人がお亡くなりになられたのに師匠があんな態度を…」
妹紅は驚きを隠せなかった。まさかそのことに関して謝ってくるとは、しかも永琳の一番弟子が。
どうやら永遠亭にもこの兎のような良心はあるらしい。
「大丈夫さ、別に気にしちゃいないよ」
妹紅は嘘をついた。余計なことを言って話をややこしくさせたくなかったし、何より妹紅は彼女の誠心誠意の謝罪を踏みにじるような人間ではなかった。
「そうですか…?でも勘違いしないでください、師匠は本当は優しいお方なんです。ただちょっとそういう一面もあるけど、本当は…」
もちろん私に向けて言っているのだろう。しかしなぜだろうか、うどんげの言葉はどこか自分に言い聞かせているような風味を帯びていた。
やがて突き当りに達したところでうどんげが立ち止まる。どうやらこの奥に慧音がいるらしい
「こちらです、私は外で待っていますのでお帰りの時は声をかけてください。兎たちにその…慧音さんを運ばせますので」
少し言いよどんだあたりに彼女の優しさのようなものを感じ取ることができた。
「そうかい、ありがとう。」
妹紅はそれだけ言うと襖に立ち向かい手をかける。
正直この襖は引きたくなかった。だがこの部屋の前で永遠にこうしているわけにもいかないし、また帰るわけにもいかない。
妹紅は覚悟を決め、襖にかけた手に力を込めた
六畳ほどの小奇麗な和室の真ん中に布団が敷かれており、女性が横たえられていた。美しい髪が布団の上に零れている。
「やっぱり、な」
ぜんぶ嘘だったらいいのに、という妄想と裏腹に予想通りの顔があったことを残念がる。
妹紅はかぶさるようにして慧音に語りかけ始めた。
「よお慧音、いつぶりだ?確か前に会ったのはみすち屋でうなぎを一緒に食べた時だったっけ」
まるで駆け巡る走馬灯のように慧音との時間が思い出される。
「なあ…あのときずっと一緒にいようって言ってたじゃないか、慧音」
「慧音の嘘つき、うそつき、うそつき…」
恋人同士の「ずっと一緒」という言葉ほど信用ならないものもなかった。
「けーね…けーねぇ…私を独りにしないでくれよ…」
愛しい人の名を何度も呼ぶも、それに応える者はもういない。彼女の瞳には光るものが見て取れた。
妹紅が慧音と対面してから約一時間
うどんげは障子の外から妹紅の一人語りを聞いていた
とはいっても言葉になっていたのは最初の五分ほどで、残りの時間は泣きじゃくる声と慧音の名を呼んでいるのが聞こえるだけだった。
拠り所を失い孤独に突き落とされる。生きていくうえでそれが一番つらいことだとうどんげは知っていた。
「さみしいよぉ…えっえっ…」
うどんげはいたたまれなくなる。妹紅の悲しみに当てられたのか、彼女の目にも光るものが見て取れた。
それがぽたり、ぽたりと床に染みをつくっていく。乾くまで時間がかかりそうだった。
慧音が死んでからというもの、妹紅は出不精になった。
竹林で筍を獲る以外はごくまれにみすち屋へ酒を飲みにくらいで、そもそも家から出ないことの方が多かった。
人と話す事も必然的に少なくなり、たまに心配してうどんげや霊夢が訪ねてくるものの顔も見ずに追い返してしまうことが大半だった。
さらに酒の席で話を話を聞こうとしてもみすち屋の女将さんは妹紅が飲んでいるときは決して妹紅の知り合いを席に着かせなかったし、妹紅との会話の内容を他人に話すこともしなかった。彼女なりの配慮だったのだろう。
そんな妹紅が幻想郷からほぼ孤立状態となるまで、そう時間はかからなかった。
ただ一人死んだように死なないでいる、死ねないから。
そんな日々が一年たち二年たち、妹紅のもとへはうどんげを除き誰も訪ねてこなくなった。
さらに孤立していく。
四年経ち五年経ち、人々の口から彼女の話題が出ることはなくなった。うどんげもある日を境にぱたりと来なくなった。
そして十年経ち二十年経ち五十年経ち、竹林以外で彼女を知っていた人間はほとんどが死んだ。妖怪でも妹紅を気に留めるものはもう誰もいなかった。
妹紅を知る人間と言えばみすち屋で顔を合わせた者と、女将さんのみになった。
ある日、妹紅がみすち屋へ酒を買いに足を運ぶと、先客であっただろう二人の男と入れ違いになった。
なにやら寺子屋について話している。
妹紅にとってあまり思い出したくない話題だったが、それゆえに耳にまとわりつく。
「なあ、おめえんとこの坊主は寺子屋の授業、どうだい?」
「さっぱりらしい、どうもあそこの教師の上白沢とかいうのは頭が固くって不可ない。」
その言葉が耳に入った瞬間、心臓が飛び跳ねる。何年ぶりに聞いた名前だろうか。
気付いた時にはその男に飛びかかっていた。
「なんだ君は!?」
「そんなことはどうでもいい!今上白沢って言ったな、慧音のことか!?」
「そ、そうだが…?昔から寺子屋で歴史を教えていらっしゃるじゃないか…」
迫真に迫る問いに対する返答は、さらに彼女に火をつけた。
「そんな馬鹿な!慧音はとっくの昔に死んでるはずだ!私は慧音をこの手で…?」
確かにあの時、妹紅は自らの手で墓を作り、そこに慧音を質素ながらも花や食べ物、酒などを供え質素ながらも手厚く葬った。忘れるわけがなかった。
「何を言っているんだ…?そんなに言うなら明日寺子屋に行ってみるといい。明日も授業があるからな、手を離してくれ」
そういうと彼らは怪訝な顔つきをしながら竹林の出口へと向かっていった。
そんな話を聞いてのんびりと酒など飲んでいる場合ではない。
妹紅は元来た道を駆け足で戻る
慧音が…生きてる?そんなことあるはずがない。
彼女の遺体を葬ったのは私だ、間違えるわけがない。
自宅へ着くや否や倉庫からスコップを取り出し、あばら家の隣に立ててある十字架を模した木の杭の下を掘り起こす。
一メートルほど掘ると、それにぶつかった。
「やっぱり、ある」
50年前、自らが葬った慧音の遺体。
完全に骨だけになってはいるが、来ている洋服からそれは判別できた。
それになにより、この50年一日も慧音の墓前に花を添えるのを忘れたことはない。もし誰かが墓を発いたりしたならすぐわかるはずだ。
「慧音はここにいるのに、どうして…」
墓を発くのに夢中になって気付かなかったが、いつの間にか辺りは深い闇に覆われていた。
いくら考えても分からない、死んだ人間が生き返るなんて。
とにかくあの男たちの言うとおりに明日寺子屋へ行ってみよう、実際に確かめないことには何も始まらない。
そう考え、妹紅は床に就いた。
止まっていた時間が、再び動き出す。
翌日、妹紅は飛び起きると身支度もそこそこにすぐに家を出た。
男の話は本当なのか?急かす心が歩みを速めてゆく。
大通りに出るにはそんなに時間はかからないはずだったが、今日ばかりは走っても走っても人里が遠かった。
どのくらい走ったか、やっと大通りへでると、周りの目も気にせず一目散へ寺子屋へ向かう。
あった。ところどころ補修した跡が見て取れるが外観は50年前から大きく変わっていなかった、生垣の陰から中を伺う。
教室の中で一人の女性が授業をしていた。
「えー、この時代の日本は…」
間違いない。外見、仕草、話し方、遠目からだって絶対に見間違うことはない。
生徒を前にして授業をしている最中にも関わらず妹紅は駆け出して叫んだ。
「けーね!けーねぇ!!」
いきなり大声で自分の名前を呼ばれた慧音が振り向き、生徒たちの視線も妹紅に集中する。
「なんだ妹紅か、今は授業中だぞ。どうしたそんな大声を出して」
必死な様相の妹紅とは対照に、慧音は何事もなかったかのように答える。
「どうしたって!けーねは死んだはずだ!どうしてここにいる!?」
「おいおい…何を言い出すんだ。じゃあここでこうしてる私はなんなんだ?」
「けーねだけど…間違いなくけーねは死んだんだ!」
「あんまりそんなこと言ってると怒るぞ、とりあえず今は授業中だからまた後でな」
そういうと慧音は生徒たちに向き直り授業を続けた。
「慧音!私の話を…」
慧音の腕を掴みこちらを向かせようとするも
「離せ!いい加減にしろ!」
それを振り払う慧音。
「…みんな、すまんな。じゃあ授業を続ける。妹紅はもう帰れ。」
妹紅は黙ってこの場を後にするより仕方なかった。
寺子屋からの帰り道、妹紅は混乱していた。
昨日墓を発いた時には確かに慧音が眠っていた。死んだ人間が帰ってくることはありえないはずなのに、平然と生活に溶け込んでいる。
これは間違いなく異変だった。
異変と言えば、幻想郷にはスペシャリストがいる。
「博霊の巫女に相談してみるか…」
妹紅は異変解決のメッカ、博霊神社へと向かった。
その途中、妹紅はあまり頭を使わないようにした。
いくら考えても結論が出ることはなく自ずからを苦しめる結果になるとわかっていたし、なにより妹紅の頭は既に干上がっていた。
今までもかなりのスピードで走っていたが、干上がった頭を冷やすようにさらに速度を上げる。
やがて見覚えのある鳥居が近づいてきた。
博霊神社だ。慧音が死ぬ前、宴会で何度も訪れた記憶が少し冷めかかった頭の温度を上げるも、ぶんぶんと頭を振り雑念を振り払った。
そして少し長い階段を駆け足で上り、境内。
紅白の巫女が境内の掃き掃除をしていた。
「なんで…なんでお前がここにいる…」
その顔を見た瞬間、妹紅の混乱はさらに加速した。
「はぁ?なによ、自分の神社で掃除してなにか悪い事でもあるのかしら?」
「なによじゃない!どうしてあの時からなにも変わっていないんだ!」
そこには、50年前と何一つ変わらない博霊の巫女、博霊霊夢の姿があった。
「あのときってどの時よ…アンタあんまり変なこと言ってると退治するわよ」
思考力の著しく落ちた頭を何とか動かして、妹紅はこれ以上話をややこしくしないために、ここは素直に退こうと考えた。
「え…、あ、ああ…すまんな、今日はもう帰るよ」
「あらそう、素敵なお賽銭箱はこっちよ」
賽銭を入れろという無視して博霊神社を後にする。
今はそれどころではなかった。
どういうことなのか、慧音が生き返ったばかりか、霊夢は年を取っておらず十代半ばの姿のままだった。そして当たり前だが、この状況を異常だと認知していない。
まさか霊夢まで異変に干渉されているとは…、妹紅は今回の異変に違和感、そしてそこはかとない恐怖感を感じた。
何がどうなっているのかさっぱりわからない、慧音が生き返ったばかりか、霊夢は不老になっていた。
しかし博霊神社に頼ることができない以上、新しい打開策を講じなければならなかった。
いままでの状況から察するに、何かが起こっているのは確実。そしてそれは妹紅のいない空白の50年の間に起こっていると考えるのが妥当だ。
ならば話は早い。空白の50年の記録を遡るべく、妹紅はもう一度人里へ向かうことにした。
歴史家、といえば上白沢慧音のことを思い浮かべる人もいるが、幻想郷最強の歴史家は彼女ではない。
莫大な量の知識を転生の術で受け継ぐ幻想郷一の名家、稗田家である。
人里に大きな屋敷を持つことでも有名で、妖怪や幽霊からも一目置かれる存在だ。
慧音がイマイチ信用ならないこの状況において、歴史をさかのぼるとしたらもっとも適任なのは稗田家の「幻想郷縁起」だった。
それに阿求は顔が広い。彼女を味方につければ異変解決に一役買ってくれるのではないかとの考えもあった。
が、妹紅の目論見はまたも崩れ去る。
稗田家の屋敷だったはずの場所、そこには無人の荒野が広がっていた。
通りすがりの人間に稗田家のことを尋ねてみても皆首を振るばかりで何も知らない。それどころか稗田家の存在自体が幻想郷から消し去られていた。
「おいおい、嘘だろ…?」
なんだってんだ、死人が生き返るわ年は取らなくなるわ、今度は幻想郷一の名家がそっくりそのまま消え去った。
だがここまできたら今更立ち止まっても仕方あるまい。確かに稗田家の行方は心配だったが今は根本の異変解決が先だ。そのためにはどうしても空白の期間を遡る必要がある。
「しょうがない…慧音のところへ行くか…」
信用が置けるとは言い難いだが稗田の歴史家がダメなら慧音がいる、もう授業も終わる時間帯、今は慧音を頼る以外道はなかった。
50年前に確かに慧音は死んだし、稗田家はあった、博霊の巫女も普通に歳を重ねていた
この50年の間に何があったのか。その真相を探るべく妹紅はもう一度寺子屋へと向かった。
稗田家と寺子屋はすぐ近くで、歩いても三分とかからない位置にあった。
寺子屋の建物から子供たちがぞろぞろと出てくる、どうやらちょうど授業が終わった所らしい。
門をくぐって中をのぞくと、ちょうど帰ろうとする慧音がいた。
「おーいけーね」
「おう妹紅か、どうした、何か用か?」
「実はちょっと調べ物があってさあ…」
「なんだそんなことか、それなら書庫があるだろ、そこに資料があるはずだから好きに読んでいいぞ。私は帰るから鍵だけ閉めておいてくれ」
「わかった、ありがとう」
鍵を受け取り倉庫へと向かう。寺子屋の敷地内にある小さな蔵のような見た目の建物、その扉にかかった錠前に鍵を差し込み、重い扉を開けた。
中は上の方にある小さい格子戸から少し光がさす程度で思いのほか暗い。本棚がずらりと並び、そこに隙間なく本が詰められている様は中々壮観だった。
その中から目当てのものを探す。慧音は几帳面だったらしく年代別にしっかりと色分けされており見つけるのに時間はかからなかった。
「あった、これか…」
空白の時間の歴史。妹紅は恐る恐るそれを手に取った。
はやる気持ちを抑えページをめくっていく
が、期待とは裏腹に核心を突くような情報は出てこない。幻想郷で「いんふるえんざ」なるものが一定の周期で流行ったとか、それの新薬を永遠亭が開発したとか、今回の異変には
関係のないようなものばかりだった。
「ここにはなにもないのか…」
そう思い入口へ向き直った瞬間、色違いの本が棚の端に挟まっているのが目についた
「ん?なんだこりゃ」
ちょっと引っ張るがびくともしない。おそらく長いことこの場所に挟まっていたのだろう。
今度は思い切り力を込めて引く、すると抜けた勢いでまるでかぶでも抜いたかのように妹紅は後ろへ転がった。
「いてて…」
ともあれその本を確認する、表紙には日記と書いてあった。
「これってもしかして…」
どうやらこれは生前慧音がつけていたものらしかった。幸いそれは開かれた形跡はなく、誰かが書き加えたり消したりというようなこともなかった。
不安と期待、さらに思い出をくすぐられで身体の芯がきゅうと絞られるような感覚の中ぱらぱらとページをめくる
何気ない日常が書き連ねられているだけだったが、それは後ろのページへ近づくにつれて不穏な匂いを漂わせ始めた。
○月○日
今日は永遠亭へ薬をもらいに行った。どうやら私の心臓はそんなに深刻な状況ではなく、薬によって治療することができるらしい。よかった、これでもこに心配をかけずに済む
○月×日
あの薬を飲み始めてから一週間、体の調子がおかしい。病状が悪化したような気がする。不安になり八意氏に相談しに行ったが、彼女の説明を聞いているうちになぜだか大丈夫だろうと思うようになった。何を言われたのかも覚えていない。検査の為とか何とかで髪の毛を一本ぬかれた。
×月○日
やはり薬を飲んでも一向に良くなる気配がない。これ以上は我慢ならない。明日永遠亭へ言って直接文句をつけに行ってやろう。
×月×日
ああ!聞いてしまった!永遠亭の奴らは狂っている。私は明日にでも殺されるだろう、逃げようにもなぜか体が動かない。きっと奴らの薬のせいだ。飲みたくないのに飲んでしまう、今だって日記なんか書いてる場合じゃない、にげなきゃ。でも体が動かない。妹紅 た すけ て
日記はここで終わっている。妹紅にとってその内容はあまりにもショッキングだった。安らかな死に顔をしていた慧音のものとは思えないほどの。
「なんだよこれ…!慧音は病気で死んだんじゃなかったのかよ!」
慧音は、殺された。しかも永遠亭の奴らに。
妹紅は50年前の永琳の態度を思い出す。あいつは人を殺して平然と、いや、めんどくさそうな態度さえ取っていたことになる。許せない…
「永琳の野郎…!」
しかしこれではっきりした、慧音は永遠亭の何らかの策略に巻き込まれ殺された。そして永遠亭には何か秘密がある、それも特A級の。恐らく霊夢や稗田家の件も永遠亭の仕業だろう。
慧音殺しだけでも幻想郷から追放されかねないほどの大罪にもかかわらず、稗田家までも消し去った。
そこまでして隠し、推し進めなければいけない秘密とはなんなのか。
真相を暴くべく、妹紅は永遠亭への潜入を決意した。
永遠亭への潜入は決してばれてはいけない、そのためには深夜の方が好都合だ。
日が沈むまで睡眠をとって万全の体調で臨むこととしよう。妹紅は家へ帰ると、少し早いながらも床に就いた。
ぱちりと目が覚めた。
時計を見ると時刻は深夜一時過ぎ、作戦決行にはちょうどいい時間帯だ。
床から起き上がると伸びをし、顔を洗って気合を入れる。異変解決という大義名分はあるものの、一番はつまるところ慧音の仇討である
家を出て永遠亭へ向かう。誰かにばれたら元も子もない、足音を殺して歩いてゆく。
やがて見えてきた和風の豪邸、永遠亭だ。
何やら話し声が聞こえる。どうやら門番の兎が二羽、何かを話しているようだ。竹藪の陰からそっと近づき聞き耳を立てる。
話の内容は愚痴ばかりで特に有益な情報はなかった。
しかし彼女らの上司であるうどんげから残酷な仕打ちを受けるという事を聞き、妹紅は違和感を覚えた。
あのうどんげがそのような行いをすることは考えられにくかったが、それも異変が関係がしているのだろうか?
兎も角、これ以上彼女らの話から情報が出てくることはないだろう。
妹紅は竹藪から飛び出し兎の延髄に手刀を食らわせ気絶させ、目にも留まらぬ速度でもう一羽の下腹部に右膝をめり込ませた。
「寝てな」
声を上げる暇もなく、門番兎がその場に崩れ落ちた。
その上着のポケットを漁る、すると小さな冊子に挟まれた永遠亭の見取図が出てきた。これである程度は見当をつけて行動することが出来る。
「こいつはラッキーだな、正直助かる」
それによると、永遠亭の北側の警備が手薄らしかった
正門を後にし北側へ回るとなるほど、確かに人気もなく、潜入するにはもってこいの場所のように思えた。
竹でできた塀を音を立てないようによじ登り草の上に飛び降りる。
少し塀沿いに歩いたところに勝手口があった。灯りは消えており誰かに見つかるような心配もする必要はなさそうだ。
おそらく鍵がかかっているだろう、妹紅は札を取りだし、術式を発動させた。
その瞬間、自然界にはあり得ない温度の高熱の火が勝手口の鍵が音もなく焼け落ちる。
こうして妹紅はなんなく永遠亭への侵入に成功した。
見取図を見ながら進んでいく。まず妹紅が目を付けたのは診察室だ。
おそらく慧音のカルテがあるだろう。どんな薬を投与されていたのか、それを突き止めたかった。
足音を立てないように注意しながら目的の部屋まで向かう。
こうして廊下を歩いていると50年前、うどんげに案内してもらった事を思い出す。
あのときの心優しかった兎の少女はもういないのだろうか、出来れば彼女にも異変解決に協力して欲しかったがそういうわけにもいかないだろう。
今は慧音の仇討ち、そして異変の真相を暴くことだけを考えるんだ
そう思い直し曲がり角を曲がったところに「診察室」と書かれた部屋があった。
「ここだな…」
今度は室内だったため鍵はかかっていなかった。ドアノブに手をかけそれを回す。
真っ暗な部屋の左手に机があり、医者と患者がかける分の椅子が二つ、右手側には診察台が置いてあり、向かいの壁にはドアがあった。恐らくカルテを収納する棚があるのだろう。
奥のドアへ向かい、ノブに手をかける、ここも鍵はかかっていなかった
ドアの向こうには、ぐるりと本棚に囲まれた部屋があった。目的のカルテを探す。患者の名前順に並べられていたので、見つけ出すのは簡単だった。
「あった」
上白沢慧音、これだ。固唾を飲みそれに目をやる。
そのカルテには「優曇華丸投与サンプル」と記されていた。優曇華丸、どうやらそれが慧音の投与された薬の名前らしかった。
しかし妹紅にとって最も衝撃的だったのは二枚目に書かれていた一文だった。
「クローン完成の為オリジナル処分済み」
目に入った瞬間、まるで体中を虫に這いずり回られたような悪寒が襲った。
「なんだよ…なんだよこれ…!」
妹紅の予想をはるかに上回る事態に、脳が理解することを拒む。しかし慧音がクローンだったということを考えれば寺子屋に慧音がいたのも頷ける。
そこまで考え、妹紅はふと思い出した。
「…そうだ、霊夢、霊夢もか!?」
震える手で霊夢のカルテを探しだし、物凄い勢いでそれを読んでいく。
そこには「インフルエンザ治療の際に優曇華丸投与。クローン完成の為オリジナル処分済み」無慈悲な文面が並んでいた。
まさかと思い妹紅はさらに幻想郷住人のカルテを探していく。するとそのほとんどがインフルエンザにかかって通院した際に優曇華丸を投与され、クローンが出来たのちに処分されていることが分かった。
「嘘だろ…こんな事って…」
信じたくなかった、まさかこんなことになっていたなんて。おそらく慧音の歴史書にあったインフルエンザとかいう病気が流行ったのは永遠亭による人為的なもので、治療に訪れた者に例の薬「優曇華丸」を投与し自我を奪った挙句、自分たちの都合のいいように動くクローンを作り殺したのだろう。
でもどうして?特に敵対している勢力の無かった永遠亭がなぜ幻想郷が崩壊しかねない計画を推し進めたのだろうか?
それにカルテの中に稗田家の人間の名前は一切出てこなかった。稗田家消失の謎はまだ闇の中だ。
妹紅はまるで世界に一人取り残されたようだった。幻想郷の皆はもう誰も自分の知っている皆ではない、作られた人形だ。そして壊れたら代わりはいくらでもある、永遠の生を受けたも同じだ。
「蓬莱の人の形…か」
自らの意思と関係なく実質不老不死にされた者たちに不老不死の辛さ苦しさを一番知っている妹紅は強い憐れみを感じた。
今から永琳の寝込みを襲いこの永遠亭焼き尽くしてやろうかとも思った。しかし
「それは後回し…。私は、人間だ。」
悲壮感と諦観、そして慈愛にまみれた強い決意を胸にして、妹紅は永遠亭を後にした。
永遠亭を出た妹紅がまず向かったのが博霊神社だった。
暗かった空も徐々に白んできており、幻想郷は朝を迎えようとしていた。
当たり前だがこの時間まだ霊夢は起きていない。張りつめた空気の中薄暗い神社の縁側から中へあがる。
霊夢をなるべく起こさないように静かに襖を明けた。が、どうやら眠りが浅かったらしく目をこすり布団から起き上がってしまった。
「んあー…だれよこんな時間に勝手に上がってきて…紫かしら?」
「いや、私だ、藤原妹紅だよ」
「あんたが?珍しいわね。何しに来たのよ?」
少し驚いたように答えた。
「あのさ、驚かないで聞いてほしいんだ。霊夢、お前はもう死んでるんだよ。」
「またその話?いい加減にしなさいよ…」
霊夢はもううんざりといった感じであったが、妹紅は気にせず続ける。
「信用できるわけないよな、だって現にお前は今生きてる。だけど本当なんだ。本物の霊夢は永琳に殺されたんだ。それでお前は霊夢と入れ替わりに作られた霊夢のクローンなんだよ」
「そんなの…信じるわけないでしょ!霊夢は私よ!」
「そうだよな、クローンの霊夢だって人生がある、あっていいはずだ。でもそれは永琳に作られた永琳に都合のいい人生でしかないんだ。」
「私は霊夢にはそんな永遠をを送ってほしくないんだ、だからさ…」
ふっと妹紅の顔から笑顔が消えて、思いつめたような、恐ろしいような顔になった。
「私が、楽にしてやる」
そういうと妹紅は霊夢の細い首筋をきつく締め上げる。
じたばたと抵抗するも、妹紅の手が緩む気配はない。見る見るうちに顔から血の気が引いて行く。
「やだ…私まだ…まだじにだぐな…」
言葉の途中でがくりと全身に入っていた力が抜け落ちた。
妹紅によって殺められた霊夢の最期の言葉は、生への渇望だった。
「これで…、いいんだよな。」
霊夢の瞳と同じように、妹紅の目にも光るものが見て取れた。
妹紅は幻想郷中のクローンを殺して回った。
ある時は首を絞め、ある時は高熱で焼き、またある時は刃物を使って殺した。
彼女の胸中は悲しみと苦しみであふれていた、しかし殺してやることが哀れな不死のクローンたちにとっても、そして妹紅の知る彼女らにとっても弔いとなることを信じて疑わなかった。
だから妹紅は殺し続けた。
断末魔と恨み言を浴びせかけられてもなお、それが救いとなることを信じて。
そしてついに残るクローンは一体となる。日も傾きだしていた。
最後のクローンを殺すために、妹紅は寺子屋へ向かった。
夕陽の射す教室、端の方に慧音が佇んでいる。
「やあけーね、まだ寺子屋にいたんだな」
「やっぱりきたか、ずっと待ってたんだぞ。」
「そっか、ありがとう。なあ、これからけーねの家でご飯食べていい?」
「ああいいぞ、たくさん食べて行け」
「やった!じゃあ早くいこう!」
あの頃に幾度となく繰り返された会話、妹紅は涙をこらえながら笑顔を作り、慧音と最後の晩餐を過ごすべく歩き出した。
その道中
「なあ妹紅、私たちが初めて逢った時のこと、覚えてるか?私がまだ小さいころ竹林で迷子になっていた所を助けてくれたよな、あの時の格好いい背中!」
「えっ!?」
慧音の言葉に妹紅は驚きを隠せなかった。どうして慧音のクローンがそれを知っている…?
「なんだ忘れてたのか?」
「そんなことない…ちゃんと覚えてる」
「そっか、ならよかった。ほら、家に着いたぞ」
靴を脱ぎ中へ上がる。もう限界だった。
「ぐすっ…うわーん!けーね…けーねぇ…!」
家に上がった途端涙がぼろぼろと零れ落ちる。今までこらえていた分、一度溢れ出すと止まらなかった。
「おいおい!?どうしたんだ?私が何かしてしまったか?」
「ううん、ちがうよ…ねえけーね、ぎゅってしてよ…」
「ああ、わかった…ほら、おいで」
慧音に抱きしめられその豊かな胸に顔をうずめ泣きじゃくる妹紅。その姿は永遠を生きて来たものには見えず、むしろ年相応かそれ以下に見えた。
「なあ、どうしたんだよ妹紅。よかったら私に話してくれないか?」
慧音が頭をなでながら優しく語りかける、妹紅は今までのことを洗いざらい慧音に話した。
50年前のこと、永遠亭の策略によってみんな殺されたこと、クローンができたこと、そしてそのクローンを皆殺しにしたこと。
「そっか、つらかったな。私も最初は信じてなかった。でも妹紅がそこまで言うってことは本当なんだろう。…私のことも、殺すのか?」
その問いに妹紅は答えられなかった。永い時の中でやっと見つけた最愛の人の形をしたものを殺す、そうしなければいけないのは分かっているのに。
「いいんだよ妹紅、クローンじゃない私はもともと病気だったんだろう?どのみち死んでいたさ。本当ならこうやってもう一度妹紅と会うことなんてできなかった。だからそれが妹紅の出した答えなら…殺してくれ」
「でも…!」
子供のようにだだをこねる妹紅、慧音が困ったような顔になる。
「しょうがないな…一晩だけだぞ」
妹紅を引き倒し、唇を重ねる。
触れ合う粘膜が、虚飾にまみれた一夜の温度を上昇させていった。
行為を終えた二人が愛を語らう。
しかし行為の終わりとは永遠の別れを意味していた。
「気持ちよかったよ、妹紅。大好きだ、愛してる。」
「うん、私も。愛してる。」
「そっか、最期にその言葉が聞けて良かった。じゃあ妹紅…」
「なあ慧音、このまま二人で暮らそう!ずっと一緒にいようよ!」
慧音の言葉を遮り妹紅が縋るように吐き出す
「この馬鹿!いまさら何を言い出すんだ!」
次の瞬間、妹紅は頭に強い衝撃を受けた。
「痛っつ…」
「どうしてお前はそんなことが言えるんだ!…それは上白沢慧音に対する最大限の侮辱だ。私は所詮彼女と姿形が同じ人の形なんだ、そんなものを慰み物にして永遠に過ごすのか!」
慧音の瞳から涙があふれる。彼女だって上白沢慧音なのだ、辛くないはずがない。
「でも…」
「でもじゃない、しっかりけじめをつけなきゃいけないんだ。ほら、妹紅。」
そういうと慧音は目を瞑り少し顎を上げた。
「作られた私には過ぎた幸せだったんだ、まるで春の夜の夢のような…。それは妹紅に殺してもらうことも含めて、な。さあ、やってくれ」
妹紅の少女の外見にふさわしい細く白い指が慧音の首に絡みつき締めてゆく。
「うっうっ…慧音、ごめんね、ごめんね…」
慧音の顔からどんどん血の気が引いていく、恐らくもうちょっとだというところで慧音の唇が動く。
あ、り、が、と、う
そう動いたように見えた。
ーーーーーーーーーーーすとん
「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
慟哭の声が響き渡る。それにはこの世のものとは思えないほどの感情が込められていた。
いつの間にか外は朝だ。どうやら一晩中泣き明かしていたらしい。
赤く腫れた目で隣を見ると、冷たくなった慧音がいた。悪夢のような出来事が本当に悪夢だったらいいのに、そんな淡い希望を打ち砕く。死に顔が安らかなのが妹紅にとって唯一の救いだろうか。
「慧音…」
妹紅は慧音の遺体を埋葬してやろうと考えた。彼女は人の形と言ったが妹紅にとってはかけがえのない慧音であることに変わりはなかった。
庭に出て穴を掘る、これも二回目だ。
「まさか二回も慧音の墓を作ることになるとはな…まあ私は墓には入らないしトータルではピッタリか」
掘り終わった一メートルほどの穴の中に慧音を横たえる。
「もう何回目か分からないけど…、さよなら。そして、ありがとう。」
土を被せてゆく、前回は滝のように出た涙が、今回は一粒も出なかった。
「これで、永遠亭の畜生を除いて幻想郷には誰もいない…」
今度こそ揺るがぬ、鋼の決意を手にした妹紅がつぶやく。
「もう、終わりにしよう。なにもかも。」
慧音の墓に背を向け、永遠亭へ一人歩き出した。
迷いの竹林を、永遠亭へ。そういえばこの道は慧音が死んだときに永琳の後をついて行ったあの道だ。
「慧音、私、頑張るよ。」
そうつぶやきその道を歩いてゆく。永遠亭に近づくにつれて空気がピンと張りつめてゆくのがわかった。
もうすこしで門が見えてくるはず。日の光が竹藪の陰で反射する…
「っ!」
それが目に入った瞬間、体勢を低くし自身も竹藪の陰に身をひそめた。それよりコンマ一秒遅く妹紅の頭があった位置を銃弾が掠めていった。
「誰だ!」
妹紅が叫ぶ
「なぁ〜んだ、はずれっちゃったのかぁ…ざ〜んねん♪」
竹藪から姿を現した急襲者。ローファーを履き、紺色のソックスピンクのミニスカート、ブレザーを羽織り頭には兎の耳…
「うどんげ…」
「ぴんぽ〜ん、だいせいかい!」
うどんげの右手に大きなスナイパーライフルが埋め込まれており、人差し指から銃口がのぞいていた。
そしてその後ろからもう一匹の兎
「てゐちゃんもいるウサ!」
うどんげの変わり果てた姿に妹紅は言葉を失う
「うどんげ…お前その腕…」
「へっへー、いいでしょ〜♪師匠につけてもらったんだ♪」
屈託のない笑顔で答えるうどんげ。腕以外にも永琳にいじくられていることは明確だった。
「っていうか〜、そんなことはどーーーーーーーーっでもいいの♪あんたお師匠様がつくったお人形をみんな殺したでしょ!」
「お人形だと!?貴様…!」
うどんげとてゐが顔を見合わせゲラゲラ笑うも、すぐ真顔になって向き直った。
「あのさぁ…お前自分がなにしたか分かってんの?」
かつてない冷たい声でうどんげが言う。
「…人殺しだ。」
その答えにうどんげがブチギレた
「そんなんじゃねえんだよ!!!!お前は博霊大結界へ干渉したんだよ!!!!師匠の計画をぶっ壊しやがて…本っっっっっっっっ当に!!!!!使えねえ蓬莱人だな!」
博霊大結界に干渉…?何を言っているのかさっぱり分からない。あれは博霊霊夢が管理しているものではないのか…?
「おバカなもこたんにはわかんないか♪て〜ゐちゃん、おしえてあげて?」
まるで人格が入れ替わったかのように猫なで声を出すうどんげ、もうまともじゃない。
「分かったウサ!」
てゐが話し始める。
「博霊大結界はもともとは博霊霊夢が管理していたけれど、お師匠様はその博霊大結界の強さというものに不満があったウサ。何かの拍子に月の使者が幻想郷に入り込んだら困るからウサね」
「…続けろ」
「言われなくてもそうするから心配するなウサ♪そこで何とかして博霊大結界の強度を上げたいと考えた師匠は試行錯誤の末ある仮説を立てたウサ。」
「それは「幻想郷で多大な影響を持つ人物が死ねば博霊大結界はその拘束力が弱まっていく」というものだったウサ。ま、つまり霊夢も魔理沙も早苗もレミリアもだーれもいない幻想郷は幻想郷じゃない、ってことらしいウサ。天才の考えることはよくわからんウサ」
「つまり慧音はその仮説を証明するために殺されたのか…!?」
怒りで手が震える、そんなことの為に慧音が殺されただと?ふざけるな。今すぐにでもこの兎を八つ裂きにしてやりたかったが、ここでこいつを殺してしまったらこれ以上真相へ近づけなくなる。妹紅はこぶしを握り締めぐっとこらえた。
「まあまあそう怒るなウサ。そしてその結果…ビンゴ!上白沢慧音が死んだことによって、博霊大結界の拘束が弱まったことを確認したウサ」
「減れば弱まる…って事は、増やせば強くなるってことウサ。幻想郷住民を増やせばいい、それもてっとり早く…」
「そこでクローンってわけか」
「そうウサ、でも今はどうなってるウサ?お前が自己満足でみんなぶっ殺したから私達と姫様、お師匠様のほかにはだーれもいないウサ!」
「そもそもお前たちが余計なことをしなければこんな事にはならなかったはずだ!思い上がるな!」
そこまで言って妹紅は思い出した
「そうだ、ほかの奴は皆クローンになっていた。稗田家は、稗田家はどうしたんだ!?吐け!」
てゐに歩み寄ろうと足を上げた瞬間…
パァン!
「うごいちゃだ〜め!それにちゃんと話すから安心してね♪ね、てーゐ?」
「もちろんウサ!むしろそっちが私たちの本命ウサ!」
にっしっし、と笑いながら楽しそうに話し始めた
稗田家にとって悪夢の夜の話を…
時刻は丑の刻。静寂と暗闇に包まれた稗田家の屋敷を遠くから伺う兎が二羽何やら話している
「ねー鈴仙、もーはやくいこーよ。」
「あんたはせっかちね、てゐ。慌てる乞食はもらいが少ないって言うでしょ?」
「でももう我慢できないウサ!早くヤりたいウサ!」
「もうしょうがないわね…じゃあいきますか♪っとその前に…」
右腕に埋め込まれたスナイパーライフルのスコープで稗田家の門を覗く。
稗田家の門前には夜も警備の者がいるのだ。
そしてその門番の頭に照準を合わせるとなんの躊躇もなく引き金を引き始末していった。
狙撃でもってあらかじめ警備を無力化してやろうという算段である
そして外回りの警備をすべて殺してしまってから稗田家へと走り出すうどんげとてゐ。兎は速駆けだ、一分とかからなかった。
死体の転がった稗田家の門を誰に見つかるでもなく悠悠とくぐる。
「稗田の人間は根絶やしにしてしまえとお師匠様からは命令されたわ。一匹も逃がしちゃダメよ、てゐ。女子供も容赦なくね。わかった?」
「当たり前ウサ!全員ぐちゃぐちゃにしてやるウサ!上玉は慰み物にしてから殺すウサ!」
そういうとてゐは太ももに縛り付けたサバイバルナイフを取り出し軽く一二回素振りした。
「てゐこわーいwwwじゃ、いきますか♪」
「ラジャーウサ!」
一気に屋敷内に侵入する二羽。稗田家には妖怪に対抗できる力のある者はいない。やりたい放題だった。
次々と部屋に押し入り、テンポよく、しかし楽しみながら殺戮を行う。
「誰だ貴様ら!」
「なんだなんだよ〜せっかくかぁわいいうさぎちゃんがアソビに来てあげたっていうのにその態度!おしおきしちゃう!」
うどんげは至近距離からライフルで男を容赦なく撃ち抜いた。頭が吹き飛び、脳みそが部屋中に飛び散った。さらに残りも目を覚ましたと同時に撃ち抜く。
誰もいなくなった部屋は、まるで壁一面をペンキで塗ったように真っ赤だった。
そして次の部屋。どうやらここは子供たちの部屋のようだ。
寝ている子供の内の一人をうどんげが肩をたたき起こす。
「ん…だれ?」
「おねえさんはうどんげ、っていうの。うさぎさんなんだよ。突然だけど、おねえさんとちゅうしない?」
狂気の瞳で、強制的に服従させる。
「えっそんな…う、うん…」
「ふふ、かわいいね。じゃあ、めをつぶって…」
少女はうどんげの言うとおりに目をつぶり、柔らかい唇の感触を待ちわびた。
しかしそこに代わりに押し当てられたのは。
かちゃっ…
次の瞬間、少女の頭が派手に吹っ飛ぶ。うどんげのけたたましい笑い声がこだまする。
「あはははははははは!!!!ねえどんな気持ち?キスされるの待ってたら頭が吹っ飛んじゃって今どんな気持ち!?あはははははははは!!!たぁ〜のしいいいいいいい!!」
「鈴仙性格悪いウサ、私みたく何も言わずにぐちゃぐちゃにするのが淑女のやり方ウサ!」
横ではてゐが子供だったものに馬乗りになり何度もナイフを振り下ろしていた。
「あんたに言われたくないわよ!とりあえずこっからは別行動ね、稗田阿求は見つけたら生け捕りにすること、わかった?」
「アイアイサー!」
二手に分かれたうどんげとてゐが、さらに残忍なやり方で稗田の人々を殺していく。
うどんげは色々なところへ銃口を差し込んで撃ち殺した。喉奥、目、銃身で撲り穴を空けた頭蓋骨、女性器、男性器、肛門…奥深くまで差し込めば差し込むほど体の内側から爆発するように人体がはじけ飛ぶのが彼女にとって面白くて仕方なかった。
てゐは単純にナイフで切り裂き、刺し殺す。原型をとどめなくなるまで。
彼女が通った後には死体とは言い難い、ミンチしか残らなかった。
そして二人が廊下の奥で落ち合った。ここが最後の部屋である。
「阿求ちゃんこんばんはウサ!幸せ兎が幸運、もとい興奮を届けに来たウサよ!」
襖を勢いよく開けててゐが無邪気に挨拶する
「あなたたち…何の用ですか?人を呼びますよ?」
「呼べるもんなら呼んでほしいウサ!」
それを聞き阿求は大声で人を呼んだが誰も来る気配がない、当然だ。この屋敷の住人はうどんげとてゐによって既に阿求を除いて全員肉塊と化しているのだから。
てゐが乱暴に阿求の髪の毛を掴んで部屋々々を引きずり回す。
「いたいいたい!」
「うるさいウサ!さあ目に焼き付けるウサ!」
部屋の襖を思いっきり強く開けるとそこには…
「っ!!うっ…おえええええええっ!」
「あははははははははっ!!!ゲロはいちゃってかわい〜♪」
「お前も今からこうなるウサ!」
てゐがにじり寄る。
「いや…いや…いやああああああああああああああああああああ!!!!」
阿求は必死に逃げようとするもただの人間の少女が妖怪兎から逃げ切れるわけもなかった。
「れいせーん、こいつヤっちゃおーよ♪」
「あははっ、さんせーい。ほら、とっとと服脱いで」
銃口をこめかみに押し付けて脅す。阿求は怯えながら帯を解き、着物を脱ぎ生まれたままの姿になった。
「まだ毛も生えてないウサ、じゃあ挿入るからとっとと股開くウサ。」
「じゃーあたし口使っちゃお♪歯立てたら殺すよりひどい目に合わせるから覚悟しろよ?」
てゐが前戯もなしに阿求の秘所に肉棒をねじ込んだ。処女膜が破れ、秘所が裂けて血がしたたり落ちる。
「いたいいたいいたいいたいいたい!」
「あははははは!愉快愉快ウサ!鈴仙、うるさい口をふさいでやるウサ!」
「言われなくてもそーするわよ♪えいっ」
鈴仙が乱暴に己の肉棒を喉の奥まで差し込み、頭を掴んで激しくシェイクする。吐瀉物が潤滑油の代わりを果たし、うどんげの興奮はどんどん加速していった。
「うっ…!お、おうあえ…」
「なにいってっかぜんぜんわかんな〜い♪ほらほらぁ、こんだけ喉奥突いてあげてるんだから感謝の言葉代わりのゲロの一つや二つ吐いてみなさいよ〜♪」
「鈴仙はやっぱ変態ウサ!にしし!」
てゐが乱暴に腰を振りながらうどんげをからかう。
「そんなことないわよ〜♪」
さらにうどんげが自分の腰に阿求の頭を密着させぐりぐりと円を描くように回す。喉の奥の奥を刺激され続けたためか、阿求の胃がぐるぐるとうごめき、異物を外へ吐き出すための動きをし始めた。
「きちゃうの!?きちゃうの!?ほらいいよ、ゲロはやく吐いて♪れいせんのおちんぽゲロまみれにしちゃって♪ほら、ほら、ほらあ!」
「うっ…うっ…うげええええええええええおおおおおおおおおお」
阿求の口から大量の吐瀉物が溢れる。その勢いにより白濁の糸を引いたうどんげの肉棒が口の外へと押し出された。
「あー気持ちよかった♪って、なにぐったりしてんのよ。ちゃんとてゐのことも気持ちよくしてあげてるの?」
口の中に銃口を突っ込み乱暴にかき回す。
「やめ…て、こんなひどいこと…もう、いや…」
涙を流しか細い声で鳴く阿求を無視して、てゐは乱暴に腰を振り続ける。
「ほらほら、もっと締めるウサ!」
阿求は必死に膣に力を入れようとするが体に力が入らない。それを見てうどんげがあきれたように言う。
「ねーてゐ、この子殺す?射精すだけなら死姦でもよくなーい?」
阿求の顔に一層怯えの色が強く出る。
「ごめんなさい…うっうっ…なんでもしますから…ころさないで…」
「きゃー♪かーわーいーいー!泣き入っちゃってるー♪じゃあお尻の穴つかっちゃおっかなー♪」
「…わかりました、それでたすけてくれるんですね…?」
阿求が吐瀉物と精液にまみれた口でなんとか言葉を紡ぐ
「心配性だなあもう!だいじょぶだいじょぶ!じゃあいくよー♪」
バックから体勢を変え、横になりてゐが下になる。潤滑油もなしにうどんげが後ろの穴に肉棒をねじ込んだ。その太さに阿求の肛門が裂け、血がしたたり落ちる。
「っ!ああああああああああああああああ!!!!いたいいたいいたいいたい!!!!」
「わたしはきもちー♪」
うどんげは心から楽しそうにそう言い放ち、肉棒を出し入れするスピードを速めていく。阿求がどんどん苦痛な表情になっていくのと対照的に、うどんげの表情はどんどんと快楽に蕩けていった。
「きもちいい〜♪てゐの方は具合どう?」
「こっちも締まってきたウサ!この変態ロリ二穴責めされて感じてるウサ!」
腰が動くたびにてゐの頬が染まり、切なそうな面持ちになる。
「気持ちいいウサ…もうイくっ…!」
てゐの白濁がまだ幼い阿求の女性器に注ぎ込まれた。ここで一度抜くのか、そう思いきやてゐはそのまま腰を振り続ける。
「な、なんで…だしたらちっちゃくなるんじゃ…ないの…?」
「兎は年中発情期ウサ!さて、最低でもあと十発は吐き出してやるから覚悟するウサよ!」
「あってゐ!私にも前貸しなさいよね!」
幼い肢体を乱暴に凌辱し、快楽を求める絶倫の兎二匹。阿求の地獄はまだ始まったばかりだった。
阿求が犯されてからおよそ二時間、てゐとうどんげはノンストップで阿求の膣内に白濁を注ぎ込み、その回数は30回以上に及んだ。途中余りの激痛に何度も白目を剥いて意識を失いかけたが、そのたびにうどんげにライフルの銃身で顔を殴打され叩き起された。
「ふー、出した出した♪」
「こんだけ出したら向こう三日は師匠の機械に抜いてもらわなくて済むウサ!」
二羽とも満足そうな面持ちだ。体中精液まみれで転がっている阿求を尻目にうどんげが無線で永琳と輝夜に連絡を取り始めた。
「あ、師匠。任務終わりましたぁ♪」
「そう、よくやったわね、じゃあ今から向かうからおとなしく待ってなさい。」
「はぁーい、師匠のこといつまでも待ってますね?兎は淋しいと死んじゃいますのん♪」
「はいはいわかったわかった」
ぶつん つーつーつー
無線からしばらくして、永琳と輝夜が稗田邸に到着した。
「二人ともご苦労様、後は私と姫様に任せて帰っていいわよ。見学するというなら別だけど」
「見ていくに決まってるウサ!」
永琳はにやりと笑いため息を一つついた。
「ウドンゲは?」
「師匠と一分一秒でも一緒にいたいから残りまぁす♪」
もう一つため息をついて、地べたに転がる阿求の方へ向き直る。
「じゃあ始めますか。」
「なに…するの…?たすけてくれるって…そこの兎が…」
てゐとうどんげを縋るような目で見つめる阿求。
「あああれ?てゐ、せーのっ」
「「嘘ウサ!!!!!!!!」」
「そ、そんな…おねがいします、いのちだけはたすけてください…いのちだけは…」
高笑いするうどんげとてゐ、阿求の希望は崩れさった。
「兎なんか信用するあんたが悪いのよ。姫様、お願いします。」
「ふふふ…何時の世も人間を絶望に叩き落とすのは気分が良いわね。」
輝夜は阿求のお腹に手をかざすと、「永遠と須臾を操る能力」を発動させ時間を進めた。阿求のお腹がどんどんと大きくなる。
「なに…これ…?あかちゃん…?」
「そうよ、貴女妊娠したの。で、今からそれを産んでもらおうってわけ。あ、別に痛みは全くないから大丈夫よ。」
永琳があくまで事務的に伝える。
「いや…!いやぁ!いやああああああああああああ!」
そういう間にもお腹はどんどん膨らみ、やがて妊娠十か月ほどの大きさになって止まった。
「これで貴女の役割は終了…。どうだった?死にゆく阿礼乙女を育てる籠としての一生は?籠の中の鳥は空を見ることは無いわ、後ろの正面は誰?ふふ、それも貴女ね」
輝夜の言葉が終わるのを合図にうどんげが右手のライフルの照準を阿求の頭に合わせる。
「じゃあうどんげ、やっておしまい。」
「はぁ〜い♪」
「やだ…しにたくな」
阿求の言葉を遮り銃声が響いた。阿求の頭があった場所にもう、何もなかった。
「あははははははははははははは!!!!!!きもちいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」
ゲラゲラ笑ううどんげの頭をぽかり、と永琳が殴り黙らせた。
「煩いわ、でもこれで阿礼乙女が死んだ。そして稗田一族はこの子一人のみ…こいつを殺せば稗田家の血は完全に途絶える。てゐ、やっておしまい」
「サーイエッサー!!」
今度はてゐが首の吹き飛んだ死体の腹を裂いて中からうさみみの生えた胎児を引きずり出し、サバイバルナイフを突き立てる。
この世のものとは思えない断末魔を上げ、赤子は絶命した。
「これで終わったわ、後片付けは屋敷を燃やした後にこの薬を空から撒いてちょうだい。」
「りょうか〜い♪」
「…お師匠様、でもどうしてどうしてわざわざ阿求に赤子を産ませたウサ?そのままぶっ殺せばよかったんじゃ…」
「甘いわね、てゐ。私たちは肉体は思い通りにできても転生を待つ阿礼乙女の魂には手を出せない。だから阿求を殺して胎児に転生したのをもう一回殺したの。二度目は転生しようにも稗田一族は死に絶えてるから体がなくて転生できない。念には念をいれないと、ね。」
「阿求は二度死ぬ、といったところかしら?永琳はいつも私を楽しませてくれるわね」
輝夜が満足そうに微笑む。
「もったいないお言葉ですわ姫様。」
「常兎には考え付かないウサ!やっぱりお師匠様は天才ウサ!」
てゐがぽんと手を叩く。その行為は稗田家との惨状とあまりに対照的だった。
「…というわけウサ!」
妹紅は怒りに震えた。想像をはるかに超える残虐な行為に感情が抑えられなかった。
「貴様ら…!うどんげ…てゐ…!殺してやる!!!!!!」
妹紅の背中から真っ赤な炎が噴き出し、鳳凰の翼を形作っていく。
「凱風快晴、フジヤマ…ヴォルケイノ!!!!!!!!」
灼熱の炎が放たれ、拡散し辺り一面を火の海へと変えてゆく。
「こいつはヤバいウサ…鈴仙!」
「分かってる!」
間一髪で飛びかわしたが、妹紅はさらに追撃の手を緩めない。
「逃がすかああああああああああああ!!!!!火の鳥、鳳翼天翔!!」
空中のうどんげめがけ炎を纏った鳥が一直線に飛んでいく。ただこれは弾幕ごっこではない。妹紅は逃げ場を塞ぐべく圧倒的な熱量を放出した。
「こんなの…避けられるわけ…きゃあああああああああああああ!!!」
「鈴仙!」
超高熱の鳥の突撃をモロに食らい、うどんげが炎に包まれ地表へ落下していく。
「次はお前だ…!」
「ひっ…」
妹紅がまるで剣の切っ先のような鋭い眼光でてゐを睨みつける。
「クソ、撤退ウサ!」
脱兎のごとく逃げ出すてゐ。しかし妖怪兎がいくら速駆けだといっても、今の妹紅から逃げ切ることは不可能だった。
「消えろ!!パゼストバイフェニックス!!!」
逃げるてゐの後ろを不死鳥が物凄いスピードで追っていく。
「うわああああ!来るな!来るなウサ!!!」
しかしてゐの叫びも空しく、不死鳥はどんどん距離を詰めてくる。
「止めろ!やめ…」
じゅっ
くちばしが触れた瞬間、一瞬で燃え上がりその身体を業火が包んでいく。
「あの世で永遠に罪をわび続けろ!」
てゐが焼け死んだのを確認すると、うどんげが落下した辺りを探す。
「う…うう…」
瀕死のうどんげが地面に倒れていた。さっきまでと正反対の表情で語りかける。
「なあうどんげ、どうしてあんなことしたんだ?お前は本当は心優しい兎だったじゃないか」
「それ…は、師匠の命令、だから…」
「お前の師匠はいいやつなんじゃなかったのか?なぜそんな命令を…?」
「むかしはそう…でもけっかいのことがわかってから師匠はわ…たしとてゐに…暴力を…へんな薬を注射されたり…モルモットみたいに扱われて…それでわたしがしにそうになったら…サイボーグに…ごふっ!」
「右手か?」
「ほかにも…あたまとか…いまはそれがこわれてるからこうやってはなせてるの…」
「そうだったのか…!」
「ごふっ!くるしいよ…妹紅さん…私はもうげんか…い…だから、ころし…はやく…」
黙ってうなずいた妹紅の目には涙があふれていた。あの時のように首を絞める。瀕死の重傷を負っていたうどんげが死ぬまで、一分とかからなかった。
「クソッ!クソッ…!」
妹紅は悔しかった。最愛の慧音も守れず、うどんげも守れず。そして唯一の救いが殺してやる事しかないことが悔しかった。
妹紅は顔を立ち上がり顔を上げた。すぐ目の前には永遠亭が見えていた。
「もう終わりにしよう、何もかも…」
真っ黒に焼けた土を踏みしめる。妹紅の孤独な戦いが、終わりを迎えようとしていた。
「ウドンゲ達がやられたわ、もはやこれまでね。今幻想郷に存在しているのは姫様と私と妹紅だけ、おそらく博霊大結界はもう形を保っていられないわ。」
永琳が悔しそうに唇を咬む。それに比べ輝夜は涼しい顔をしていた。
「そう、もはやここまでかしら?」
「…申し訳ございません姫様。」
「構わないわ、貴女は良くやってくれた。私の我儘に付き合ってくれた。」
「いえ、我儘だなんて…」
「いいの。全部私の我儘よ。」
「…はい」
念を押されて永琳は黙ってうなずいた。
「大丈夫、二人永遠にシンデレラケージの中で…」
永琳の頬を涙が伝っていく。
「申し訳…ございません…!」
「いいの、これが妹紅からの罰、そして復讐かしらね。じゃあ妹紅を待ちましょう。最後くらいあいつの顔を拝みたいわ。」
「分かりました。では…」
「っと、その前に。」
輝夜の能力により時間が進む。太陽は沈み、大きな満月が昇る。辺りは暗くなる。それはまるで、開けないあの日の夜のようだった。
さっきまで真昼だったのが急に夜になり大きな満月が出た。恐らく輝夜の仕業だろう。
永遠亭の門を蹴破り、中へ入る。
闇にまぎれどこかに隠れているかとも思ったがなんてことはない。二人して縁側に座り、悠長に月など見ていた。
「あら来たのね妹紅。」
輝夜が普段と変わらない調子で挨拶する。
「輝夜…永琳…!」
「そう怖い顔をしなくてもいいじゃないの。ねえ永琳?」
永琳に話を振ったもののその答えは求めてはいないらしく、輝夜は構わず話を続けた。
「いま幻想郷にいるのは私と永琳と妹紅だけ。博霊大結界は風前の灯よ。じきに幻想郷は崩壊し終焉を迎えるわ。どうする気?」
「どうする気だと?もとはと言えばお前たちのせいだ!どうしてこんなことをした、答えろ!」
「なぜって、帰りたくなかったの。月に。博霊大結界がないと月の使者たちが私を迎えにくるでしょう?」
「たったそれだけの理由でお前達は皆を殺したのか!」
輝夜は淡々と続ける。
「価値観は人それぞれよ。」
「今はそんなことを聞いているんじゃない!もう終わりにしよう、輝夜。お前の我儘、そして、お前と私の腐れ縁も。」
妹紅が臨戦態勢をとるも、輝夜と永琳は縁側に座ったまま妹紅を見つめるばかりだった。
「どうした!構えろよ輝夜!永琳!」
「戦ってどうするの?そんなことしてるうちに幻想郷は崩壊するわ。それに私たちは不死なのよ?永遠に殺しあう気?」
輝夜の冷めた物言いに妹紅は既に限界だった。
「輝夜…永琳貴様ら…!何回だって…何回だって殺してやる!!!」
右腕に炎を宿し、それを二人に向けて思いっきり振り下ろす。
妹紅の攻撃が直撃する形となり、二人は物言わぬ肉片となり吹っ飛んだ。
しかしすぐに肉片が元いた辺りに集まり、ぐちゃぐちゃと音を立てながら再生していく。
「妹紅、貴女の気持ち、分からないでもないわ。…すまなかったわね。」
贖罪の言葉も妹紅には完全に逆効果だった。もっとも、それはただの意思表示だったが。
「いまさらそんなこと!死ね!殺してやる!」
再生したばかりの二人に再び右手を振り下ろす。再び全身に炎を受け絶命するも二人は再び再生した。
妹紅は再び右手を振り下ろした。復活するたびに何度も何度も…
「うわあああああああああああああ!!!!!死ねえええええええええええええ!!!!!」
妹紅の叫びが空しくこだまする。それはありえないのだ。
「はぁっ…はぁっ…くそっ!なんで…なんで…」
全身の力が抜け、その場にへたり込む。今ほど不死の存在をねたんだことは無かった。
「私たちは不死じゃない、それは事実よ。諦めなさい。」
永琳が冷たく言い放つ。それが悔しくてたまらなかった。
「ならせめてうどんげに謝れ!あの子はお前の為に一生懸命働いていただろ!」
「ウドンゲ?ああ、あの出来そこないの臆病者のこと?」
妹紅には永琳が理解できなかった。どうしてこいつは自分を師匠と慕っている人間に対してこのような言葉を吐き出すのかが。
「永琳…テメーいい加減にしろ!慧音の時といい人をなんだと思ってやがる!」
永琳はやれやれといった感じで質問に答えた。
「私は天才なの。天才にとって天才のみがこの世の事象なの。いくら不死といえど兎やハクタクにかまっている暇なんかないのよ。」
その答えは妹紅を逆上させるのに十分な要素をはらんでいた。
再び妹紅が永琳を殺す。何度も、何度も。それが無駄な行為であると知りつつも、慧音やうどんげ、てゐ、そして幻想郷の住人のことを思うとそうせずにはいられなかった。
「気はすんだ?」
永琳が攻撃の手を止めた妹紅に問う。
結局妹紅の行為は己の無力さを再確認するのみだった。
「姫様、そろそろ…」
永琳が輝夜をちらと見る。
「そう、もうそんな時間なのね…」
名残惜しそうに縁側から立ち上がった。
「どこへ行く気だ!」
「もうこの幻想郷は崩壊するわ、新しい檻が必要なのよ。永遠の須臾という名の檻が。」
「永遠の須臾…」
「そう、私たちは自らを須臾の中に閉じ込める。貴女にとっての一秒が私たちにとっては永遠にも等しくなるわ。」
「そんな生き方でお前は満足なのか?」
「ふふふ、あんたにだけは言われたくないわ。」
「そうか、わかったよ。もう好きにすればいい。私はお前たちを一生恨み続けてやる。」
それを聞いた輝夜は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう妹紅、貴女意外と優しいところあるのね。」
「…とっとと消えな。」
「はいはい、言われなくてもそうしますよ。…じゃあもう、行くね。さよなら。」
輝夜が己の能力を使い目の前から一瞬で消えた。恐らく須臾の時間の中を移動したのだろう。
それと同時に空にヒビが入る。大きな音を立て、博霊大結界が崩壊していくのがわかった。
夜空が剥がれ落ち、幻想郷が瓦礫の中に埋もれていく。そしてまるで凍らせたガラスを叩き割ったような甲高い音が響き渡ったかと思うと、黒い絵の具で塗りつぶしたような真っ黒な空を真新しい黒い絵の具が上塗りしていった。
幻想郷は、崩壊した。
永遠亭も、守矢神社も、紅魔館も、命蓮寺も、人里も、迷いの竹林も、そして、慧音の墓も
ここにあったモノはすべて消え去ってしまった。
博霊大結界の跡地にはただただ広大な土地と、荒れ果てた博霊神社が残っているのみだった。
「これで全部、おしまいか。」
妹紅がつぶやく。眼下にはビルの明かりが広がっていた。
おしまい
産廃創想話例大祭に出そうと思って書いたものですが、さすがに二週間も締め切りを過ぎてしまったので今回は…
初めて長編書きましたがとても難しかったです。最後まで読んでくださった方に感謝。
dan
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/07/20 15:31:47
更新日時:
2013/07/21 02:44:42
評価:
5/8
POINT:
490
Rate:
12.88
分類
妹紅
慧音
輝夜
永琳
阿求
てゐ
うどんげ
霊夢
蓬莱人の考えることは良く分からん……。
一度オリジナルを全滅させてから、わざわざ偽りのキャストに置き換えて幻想郷を維持するとは……。
転生する阿礼乙女は惨たらしい方法でその血を絶やして不確定要素を排除したかと思ったら、妹紅はそのままか……。
あえて最大の障害を残したところが、輝夜達の歪んだ遊び心とでもいうのか……。
ヒトの生き死にも、愛も憎悪も、それによって紡がれる未来も、永遠も須臾も等しく価値の無い蓬莱人には退屈しのぎの玩具でしかなかったのかよ……。
全てが終わり、全てが失われた、妹紅。
永遠の命を持つ彼女は、再び始められるだろうか……。
それとも終わったまま、かつてのように、酒とその日暮らしで、怠惰に時に流されるのだろうか……。
遅刻参加はに制限は無いので、別に今からでもいいと思います
もし「参加したい」と御返事をいただければ、得点集計の際参加作品としてカウントさせていただきますよ。折角の長編、もったいないです
後で読み直したら永遠亭の思考にあっちこっちぼろがありますね…
>ゲームで
お心遣いありがとうございます。
でも書いたものも大したことない内容ですし、なにより一か月前から告知されていた企画に遅れた自分が参加してしまったら期日+常識の範囲内の遅刻に投稿した他の方々が馬鹿をみるような気がするのでやっぱり自分は不参加でお願いします<(_ _)>
世界中の人間がそっくり偽者と入れ替わった様に感じる精神疾患があった気がする。
ウドンゲとてゐは違う意味で別人になっていた・・・
死に際して以前の優しさを取り戻したウドンゲは、人は根っ子のとこでは変わらないという作者さんの思想の表れ?(ある意味第一印象に縛られるのが人の性と言う事)
遅刻組として投稿してほしかったです。