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『虫の女王』 作者: まいん
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
オリ設定等が存在する可能性があります。
昆虫……特に陸上において進化した生物である。
様々な気候、環境に適応し様々な多様性が非常に高い。
「ふふふ、あはははは。 本当に記者冥利に尽きますね。 馬鹿が勝手に死ぬ様は本当に爽快です」
烏天狗の新聞記者、射命丸文は前回発行の新聞の売れ行きが好調だったので酷く機嫌が良い。
記事の主はスキャンダルをすっぱ抜かれた上にデマを多く書かれた為に社会的に抹殺された。
それに飽きたらず、文は取材を続け精神を損耗させ徐々に追い詰めていった。
彼女は確信犯的に取材を続けた。 それは自身が情報を発信する限り購読者が食い付くと知った上でだ。
取材を受けざるを得なくなった者は、家族を巻き込まないで欲しいと訴えた。
だが、事実は捻じ曲げられて新聞に掲載された。
遂に精神衰弱から一家は心中する。 それが、文には愉快で仕方がなかった。
「さてさて、次はどこの馬鹿を地獄に送ってあげましょうか」
懲りると言う言葉を知らない虫のいい文は次の新聞の為に獲物を探した。
勿論、前回の様に面白可笑しく記事を書き、読者を煽るつもりである。
余談であるが、法の無い幻想郷においては彼女の生き方は正しい。
種族天狗と風を超える速さ。 同じ天狗の雄か鬼位しか彼女には太刀打ちできない。
法の無い世界は弱肉強食だ。 強者である彼女には弱者を喰らう権利がある。
そんな、世界だからこそ彼女には我儘が許されるのだ。
「そういえば、以前にリグルの取材をしましたねぇ」
文花帖をパラパラと捲ると、虫の知らせサービスの記事が目に入る。
明らかに侮蔑を含んだ目線を向けると何となく虫が好かなく、唾を吐きそうになる。
それをグッと堪えると、口元をにやつかせてポツリとこぼした。
「こんな糞くだらない事をまだやっているのか? 私の匙加減一つで生き死にが決まる事を世に知らしめてあげましょう」
手土産を渡すならそれで良し、渡さないならば少し痛めつけてやれば良い。
記事によって架空の事件をでっち上げ、それでも袖の下を渡すつもりが無いなら。
嘘の事件を告げられたと新たな記事にして、社会的に抹殺する。
後は煮るなり焼くなり自分の好きにしよう。
彼女の心は決まった。 瘴気の影響の少ない魔法の森の一角に向けて羽ばたいた。
「確か以前はここら辺で見かけましたねぇ」
ちらほらと木漏れ日の射す一角に降り立った。
葉はまだ多く深い緑が空を覆っている。
と言った所で空は見え道を間違えたならば飛べば良い、その程度の深さだ。
よくよく見れば低く茂った草花には少なからず虫が跳ねている。
木の葉には芋虫が這い、幹を蟻が這いあがり、擬態した虫は宙を飛ぶ虫を捕食した。
「こんな季節から何をそんなに必死に生きるのか……」
生まれた時から素質と才能(新聞を除く)に恵まれた彼女は虫達が必死に生きる様に虫唾が走った。
生きる事は簡単であったのだ。
高下駄であった事に少し安心する。 この少しの高さがあれば虫が這いあがって来る事は難しい。
地面で羽をバタつかせて死から逃れようとしている虫を踏みつぶすと少し奥に向かって行った。
バサ。
「ああ、もう鬱陶しい」
蜘蛛の巣が顔に掛かり癇癪を起こす。
それより少し遅いか同じ位か、彼女は突風を起こして蜘蛛の巣ごと辺りの虫を吹き飛ばした。
良し、と一言言うと、胸に湧き上がるドス黒く心地の良い気持ちの良さを感じる。
顔はこれから起こるであろう楽しみの為に愉悦の表情を隠す事が出来なかった。
取材時の気持ちに切り替えると、先程までの捕食者の面は、なりを潜める。
「リグルさん、居ますか? 清く正しい伝統の幻想ブン屋、射命丸文です」
辺りに声を響かせると周囲を一瞥する。
元より生息場所は草むらだ、何処でも会えるという事は何処かに居るという事でもある。
前回ここで会ったからといって、今回もここで会えるとは思えない。
だが、文はそうは思わない。
折角、取材をしてやろうと思っていたのに先方の返事が無い。
それどころか姿も見えない。 腹の虫が治まらなかった。
ある事ない事を書き殴って、他の贄と共に面白い新聞を作ってやろうと思った。
ガサッ。
視界にいくつか点在する、腰の高さ程の林。
人間の子供がしゃがめば姿がそのまま隠れる程の大きさだ。
その一つがガサガサと揺れている。 先程彼女が起こした風の残りとは明らかに異質な動きであった。
「何だ、居たんですか? だったらさっさと出て来て下さい。 私は暇ではないのです」
何とも見当外れの言葉だ。 リグルを訪ねる事が目的の筈であるが癇癪からこういった言葉が出たらしい。
ガサガサと揺れるものの、林から一向に出てくる気配が無い。
虫の居所の悪さと相まって、段々と苛立ちが積もっていった。
彼女の気分を察したか、観念した様に姿を現わす。
「漸く出てきましたか、一体何のつもりですか?」
出て来た者は果たしてリグルである。
昆虫の羽を模した外套も緑色の頭髪もそこから出る触角は変わりが無い。
薄手の白シャツも紺のキュロットパンツも何もかもが変わり無い。
強いて違いを上げるとすれば彼女は見下す様に笑っている。
“来てくれてありがとう” 言葉にこそ出さないが、そう言いたげだ。
「リグルさん、虫の知らせサービス。 あれから首尾は如何です?」
「もし良かったら私が宣伝して差し上げましょう。 ただ、少し費用がつきますがね」
返事さえしていなかったリグルに一方的に話を始める文。
片手を肘に当て、もう片方の手を顔の横に上げ指で輪っかを作る。
遠まわしに金銭を要求していた。 頭の弱い昆虫の妖怪に請求するには少し幼稚である。
「きひひ」
先程から様子がおかしいとはいえ、顎を突き出して見下される事はお世辞にも気持ちの良いものでは無かった。
怒りを含んだ力強い歩みで近づくと、おもむろに片手で首を絞めた。
「何ですか? その気持ちの悪い目は? こちらが大人しいから舐めているんですか?」
リグル・ナイトバグは虫の妖怪で虫の女王である。
リグル・ナイトバグは虫の妖怪で虫の女王である。
リグル・ナイトバグは虫の妖怪で虫の女王である。
蛍の妖怪? それは阿礼乙女の記録にそう書いてあるだけだ。
虫の女王の彼女が他の虫の能力を持っていたとしてもおかしくは無い。
文に首を絞められているリグルは顔色一つ変えない。
表情も不敵な笑みを崩さず、その姿に文は苛立ちよりも不可思議さを感じ始める。
しゅーこー、しゅーこー……。
リグルの背後から音がする。 文はその正体が気にかかり耳をそばだてる。
何か吸気と排気の音に似ている。
(これは呼吸音だ)
気門……昆虫(の一部に)見られる、空気の出入りする開門部である。
正体に気が付いた文は自分の取っている行動が無意味であると気付き咄嗟に手を離す。
と同時に距離を取ろうと後ろに大きく跳んだ。
だが、動揺した一瞬を見逃してくれる程、自分に危害を加える者に甘くはなく文の漆黒の翼が握られる。
「くっ、この!」
ブチブチブチ……。
「ぎゃあああ!!!」
羽毛が乱暴に毟られ、文は悲鳴を上げる。
リグルはそれを聞いても手を緩めない。
人間の橈骨と尺骨に相当する場所を片手で握ると、力を込め始めた。
鴉天狗の翼の骨も中空で軽量と言われるが非常に強固な構造をしている。
それが、握り潰されるのではないかと言う程にギシギシと音を立てていた。
「あぎぎ、う、嘘でしょ? ねぇ、私が悪かったから手を離して下さい」
昆虫の力は自重当たりで換算すると非常強力な力を有している事は有名である。
特に有名なのが蟻だ、一説には自重の五十倍から百倍を持ち上げると言われている。
彼女の体重がいくつかは有名ではないが、体重40kgだと仮定しよう。
その際に発揮される力は最大で約4t。 この何%が握力や牽引力に発揮されるかは知られていない。
だがもし、もしもだ。 この力がそのまま発揮されるならば骨どころでは無い。
岩や木であっても一瞬にして粉々にしてしまうだろう。
ギシギシギシ、ミシリ。
「あああ、糞! 離せ! こぉんの、虫けらが……」
バキッ! ベキベキベキ!
「ぎゃあああああああああああああ!!! この糞虫がぁぁぁあああ!!!」
骨を握り潰されてなお、文は腹を蹴り飛ばしてリグルから距離を取る。
それが骨をへし折った時に少しの隙間が生まれたから脱する事が出来た。
加えてリグルの一撃目が羽を毟る行動であった事が幸運であった。
蹴り飛ばし、手をすり抜けた際に羽毛を掴まれて距離を詰められる事も無かったからだ。
「くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉおおお!」
逆上した文は取った距離を自ら詰める。 その刹那、リグルが手の平から何かを射出した。
肘がまるで拳銃でも撃ったかの様に後方に僅かに下がったのだ。
だが、何かが起こった訳では無い。 急速に接近された事にリグルは微塵の焦りも感じ無い。
ただ、無感情に同じく不敵な笑みを浮かべているだけであった。
文の拳は約4tの力が発揮できる訳では無い。
しかし、対生物の観点から見れば虫けら一匹、妖怪一匹を捻り潰す事は訳ない。
頬に拳を放てば、ベキッっと歯の折れる小気味いい音が響く。
脇腹に拳をめり込ませば、リグルの不敵の笑みに僅かな苦しみが見え隠れする。
同時に肋骨が何本か折れる感覚が拳より伝わる。
鳩尾に拳を放てば、リグルの意識が一瞬飛ぶ様な表情が見て取れた。
怒りに任せて殴る。 殴る。 殴る。 その間、リグルは謎の行動を取っていた。
先と同じく肘が僅かに動いていた。 逆上した文にそれが見える事はなかった。
気付けばリグルは薄手の白シャツを真っ赤に染めて、その場に虫の息で仰向けに倒れていた。
文に滅多打ちにされた結果だ。
だが、この血はリグルの血ではない。 文の拳を見て欲しい。
すべてがすべて、殴り傷によって裂けて血が流れている。
昆虫は他の生物(一部を除く)とは違い外骨格を有している。
内骨格に比べ一部の動きに制限が起こるが骨格の代わりとなる為、非常に強固である。
「ははははは、私に刃向うから、こういう目に遭うんですよ」
強がって言っても、意味が無い事は彼女が良く分かっていた。
片方の羽を毟られ、翼を折られ、両手の拳は物も握れない程裂け膨れ、骨も折れている。
胸を張って勝ったと言える筈も無かった。
「畜生、畜生。 この私がこんな虫けらに……こんな虫けらに……」
山で強者と振舞っていた彼女であったからこそ自尊心はズタズタであった。
圧倒的実力差を持って相手を翻弄し、自信と戦意を喪失させ、自刃によって憤死させる。
そういっても過言ではない方法で今まで数多の者に手を掛けていた。
それが、この有様だったからだ。
地面に膝を着き、握れぬ程に膨れ上がった拳を僅かに握る。
風が触れるだけで痛む筈の拳は怒りによって容易く忘れ去られていた。
地面を一回叩き、再び畜生と僅かに零した。
「ふふふ、やはり”私”では勝てなかったわね」
「そりゃそうよ”私”だもの」
「山の天狗様は幻想郷でも一二を争う……何だったかしら?」
「それでも、”私”にしては健闘した方じゃないかしら」
文は四つん這いの状態で顔をリグルの死体に向ける。
先程まで、きひひと声を上げていた。 その声と同じ声で辺りから声がしていた。
一つではない、二つ三つ、もっとだ。
昆虫の恐ろしさは個々の優れた身体能力や毒などの特殊能力に目が行きがちだ。
だが、一番恐ろしいのはそこでは無い。 確かに個々の能力を忘れる事は出来ないが一番は別だ。
最も恐ろしい事は”群体”である事だ。
特に、一匹や二匹を退治した所で、何の意味も無いと言うのに、雀蜂など人間には一発で致命傷を与える蟲もいる。
先のリグルが現れた時と同様に林からガサガサとリグルが姿を現わす。
それも合計8体。 姿は全く同じである。
昆虫において、集団生活を行う個体(特に蜂や蟻)についての話をしよう。
女王が死んでしまった場合、群れの中から女王が誕生する事がある。
リグル・ナイトバグは虫の妖怪で虫の女王である。
膝を着いていた文はゆっくりと立ち上がる。
未だ動かぬ相手を見据え、先程と同じかそれ以上の能力を持っていると判断した。
自分の身体を確認し、これ以上戦えるか不安に思う。
いざとなれば逃げればいいと思ったが、辺りを見回すと不自然に蜘蛛の巣が張り巡らされている。
これでは、逃げる所か機動力も発揮できない。
そこで漸く自分が来た場所がどういう場所か理解した。
ここは、妖怪虫の狩場だったのか、と。
ここに来る前、文は最も仲の悪い犬っころに夕飯の食事を頼んでいた。
毎日、食事を選ぶ事が面倒なので仕方が無く頼んでいただけである。
その犬はオゴリで自分の飯も払ってくれるので仕方が無く頼まれていただけであった。
頼まれた犬は文句を垂れながらも、共食いでもしてろ糞烏と零していた。
「あ〜、畜生。 あそこの唐揚げ弁当好きだったのに……最後に食いたかった……」
そう言いながら、全力で前方の8体のリグルに向かっていった。
前方には蜘蛛の巣が見えなかったからだ。
文が失踪して早一か月が経過した。
彼女が居なくなる事は珍しくないが、幻想郷中で目撃が無いのは不自然である。
疑問を持った姫海棠はたては自慢の念写能力で文のカメラを念写した。
直後、幻想郷中に響く程の絶叫が彼女から発せられ、妖怪の山に悲鳴が木霊した。
余談であるが、寺でその声を拾った山彦によって、数人の関係者が気絶をしたそうだ。
多分、だいたいテラフォーマーズの所為。
リグル「虫の狩場に迷い込んだ生贄に告ぐ」
匿名評価、ありがとう。
>1様
あいつはもう喰われた。
>NutsIn先任曹長様
あいつは凄い優秀だよ、我々の苗床兼食料としてね。
>3様
殊勝な心掛けですね。食料にするのは最後にしてあげます。
>県警巡査長様
法?が何かは知らないけど、今では私に負けたから皆で食べられているよ。
>5様
ごめんね、もう食べちゃったから、運良く同じ子に食べられれば内容が聞けるかもよ?
>ギョウヘルインニ様
次に貴方は"薬効耐性!?"と言う。
>7様
私は一面緑に覆われた世界がいいな。
>穀潰し様
あの子達に色々教えて貰わなかったら、私も変われなかったと思うわ。
>9様
私達は誰でも拒まないわ。でも、生きて帰れるかは分からない。
>毛玉様
ありがとう。なら、貴方の初めて貰っても良いわよね?
リグル「一通りコメントを返し終わったわね。そろそろご飯にしようかしら」
リグル「そこの貴方が良いわね。そうよ貴方よ」
リグル「さあ、来なさい。"私"がお腹を減らしているわ」
リグル「それじゃあね」
リグル「「「「いただきます」」」」
まいん
- 作品情報
- 作品集:
- 8
- 投稿日時:
- 2013/07/21 14:52:58
- 更新日時:
- 2013/09/28 19:02:50
- 評価:
- 10/11
- POINT:
- 1030
- Rate:
- 17.58
- 分類
- 文
- リグル
- 虫
- 昆虫
- 8/15かなり失礼なコメント返信
弱肉強食だの、陥れるだの、それは相手が同じ土俵に立った場合でしか成立し得ない。
文が最期の突撃の時に思い浮かべた料理が、普段食っている物の中の好物……。
実際はそんなモンでしょうね。
話の流れと遺された『写真』から、文は惨殺されたか、死んだほうがマシな目にあわされていると思いますが、読後には爽快感がありますね♪
教訓:ヒトを食い物にするヤツは、食い殺されても文句は言えない。
あと、気絶してしまった数人の関係者の皆さん、ご愁傷様です・・・。
世の中触れてはいけないことは多々ある。
死んでしまったリグルのご冥福をお祈りします