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『置いてけ湖』 作者: 日々の健康に一杯の紅茶を
夏の夜の蒸し暑さの中、今宵も博麗神社では人外の入り混じる宴会が催されていた。
頭数は多くはなかったがうわばみ、ザル、大飯喰らいが集まったおかげで何十人も居るような騒ぎになっていた。
そんな騒がしい酒宴であったが神社の巫女である博麗 霊夢が眠ると宣言して自室に戻った頃には大分落ち着いており酒はまだまだたっぷりとあったが食い物は無くなりかけそろそろ解散という流れになろうかとしていた。
「さてと、霊夢も寝ちまったことだし私は帰るとするか」
「おいおい、何を言っている。まだまだ私たちは飲み足りないぞ騒ぎ足りないぞ」
「そうだそうだ」「そうだそうだ」
帰ろうとする霧雨 魔理沙を引き止めるのは伊吹 萃香とそれに追従する射命丸 文に河城 にとり。もっとも追従すると言っても引きとめようとする意思は彼女らも存分に持っているようだった。
「じゃああれだ。昼間にもらった西瓜がある。そいつを冷やして食おうじゃないか。それまで残れ」
「あーいいですね」「こういう暑い夜に冷やした西瓜!最高ですね」
「じゃあそいつを食ったらお開きとするか」
酔っぱらい共がわいわい騒ぎながら台所に転がしておいた西瓜を井戸にぶら下げた。ぶら下げる前に水を被り涼を取り西瓜の冷えるまでの間風通しのいい縁側で涼もうということになった。
地震騒動の後新たに作られた新しい縁側は木の香りもしなくなり神社の一部として馴染み始めていた。
天狗が風を起こさずとも涼風が程よく吹きすさび水を浴びたことによる気化熱も相まって非常に快適だった。
魔理沙は風を楽しんでいたが人外共は酔いが冷めたなどと喚きながら部屋から酒を持ってきて再び飲み始めた。
風流を解しないやつらだと呆れた顔をしていると案の定また暑い暑いと騒ぎ始めた。
「あー、また暑くなってきた」
「もう一回行水しましょうよ」
「西瓜が冷えるのを待つ位できないのかよ」
こいつらの行水で西瓜が冷えるのを待たされるのは敵わないので釘を打っておく。
「私も萃香なんだがねえ、おい河童。ここらへんにぱーっと水でも出せないのかよ」
「川の近くでもないのに無理っすよー」
常に酔っ払っている鬼でもこの暑さには耐えかねるらしい。自業自得だが。
「だよなあ。なあ魔理沙。こういう時人間はどうやって涼むんだい?」
急にお鉢を回され魔理沙は顎を押さえ考え込んでいた。やがて手を離し口を開いた。
「こういう時は人間は背筋がぞくっとくる怪談話だな。柳の下の幽霊話、道でべそかくのっぺらぼう、井戸から飛び出るお岩さん」
「へえ、面白そうだねえ」
「私たちは普段恐れらるほうですからね。そういう話は聞いた事が無いですよ」
「なあ魔理沙、その怪談話しというやつをしておくれよ。西瓜が冷えるまででいいからさ」
冗談のつもりで言ったのだろうが意表をつく評判に魔理沙は驚いた顔をしていた。彼女は妖怪なんてものは大体が自分が1番で他人の噂などには無関心か対抗心を燃やすだけだと思っていたからだ。
「妖怪に話したって怖くもなんとも無いだろう」
「面白そうだから聞きたいんだよ。何ていうんだ。要するに人間の視点っていうのに興味があるんだ」
「それそれ。それですよ。つまりそういうことですよ」
あまりに熱心に頼んでくるものだから満更でもない気になったのだろう。鼻先をこすってから、
「しゃあねえなあ。じゃあ西瓜が冷えるまでだ。あれはまだ幻想郷で紅霧異変が起こる前のことだ…」
その頃には私はもう魔法の森に何年も住んでいた。ここにもよく来ていたぜ。妖怪の少ない博麗神社だって見たことあがる。今より幻想郷が少し静かだった頃の話だ。弾幕ごっこも流行っていなかったからな。
神社に来る人外といったら妖精ぐらいのものだった。まあそのころも参拝者は少なかったがな。おっとこれはオフレコで頼むぜ。霊夢に聞かれたら後が怖いからな。
この話はそんな時代の梅雨明けのころのことだ。段々暑くなってくる頃合で私はこの時期が一番好きだった。これから夏だなっていうやる気が沸いて来るんだよな。
その日は実験がひと段落着いた所で次の工程に進むとしばらくは手が離せなくなる所だったから息抜きがてら遊びにでも行こうかと思ったんだ。
いつも通り神社でだべってもよかったんだが偶然ガラクタの中から釣り針と釣り糸が出てきてな。ちょうどいいから魚でも釣りにいくことにしたんだ。
とりあえず日のある内は釣ろうと思ってまず弁当を作ることにした。朝飯の米をちょいと多く炊いて握り飯を作った。少し多すぎたが問題は無い。具?何だったかな。あーあれだ、胡瓜の古漬けと梅干だ。干し魚もあったがこれから魚を釣るってのに新鮮じゃないのもあれだろ?あとは金物の水筒に冷やしたお茶をたっぷりといれて釣り針と糸と餌用に食い忘れて干からびた団子を持って出かけた。
糸と針だけじゃ釣り出来るのかって?私は出来ないな。だからまず香霖の店に寄る事にしたのさ。あそこなら釣り竿や魚篭の一つや二つ転がってるだろう。いわくつきのもそうでないのもな。
そんなわけで香霖堂に行ったのさ。店の奥を覗き込んだら香霖のやつはいつもと変わらず暇そうに壷かなんかを磨いていたよ。
「なんだ魔理沙か」
「いらっしゃいぐらい言っても罰は当たらないと思うぜ」
仏頂面でこっちを一瞬見たらすぐにまた壷磨きに戻りやがった。
「客ならもうちょっと愛想はよくしてるよ。どうせ君は買い物する気は無いんだろう?」
「その通りだ。釣り竿と魚篭を借りるぜ。糸と針はあるからご心配なく」
何度も来てるところだからな、どこにどんなものがあるかぐらいかは分かる。狭いしな。香霖のやつは一見適当に物を置いているように見えるが実は五行の属性に分けてものが置かれているんだ。狙ってやってるのか自然にそうなっているのかは分からんがいわくつきのものを保存するには至極まっとうな置き方だ。
五行がお互いに牽制しあうから九十九神も出来にくいし怪異も起こりにくい、結界の基盤にするにもやり易い。おっとこんな話はどうでもよかったな。
それで私は水の所を探していたら見事に釣り竿は見つかったんだが魚篭はどうしても見つからなくてな。香霖のやつに聞くことにしたんだ。
「なー香霖。魚篭みたいなものってないか?」
「魚篭?その辺に転がってるんじゃないのか?」
香霖が指差したあたりを探すことにした。あいつはお気に入りのものやに貴重なものや最近手に入れた品物、滅多にないが客のために取り寄せた代物なんかは側に置くようにしているんだ。王様には向かないタイプだな。
流石に予約が入っている代物に手を出すのは気が引けるから嫌だったんだがやっぱり魚篭がないとな。気分転換なんだからきっちり形から入らなきゃ意味が無い。
それで近づいていく途中で箱を見つけたんだ。周りが青くて蓋が白い両手で抱えられるぐらいの箱だ。深さは指先から肘が入るかはいらないかと言った所でけっこう深かった。チビの妖精ならぴったり収まるぐらいの大きさだった。
「香霖、この箱はなんだ?」
「どれだ?…ああ、いい物を見つけたな。それはくーらーぼっくすと呼ばれる物だ」
「cooler(冷却器)?中に入れておくと冷やしてくれるってのか」
「そこまでは無理だな。えーと、その道具の用途は『外部との熱交換を遮断し中身の温度を保つ機能』だ。冷たいものを冷たいまま持ち運ぶのに役に立つ。釣りにはぴったりだろう。幸い予約の品ってわけでない」
「じゃあ釣りには最適じゃないか。ちょっと借りていくぜ。山ほど釣ってくるから楽しみしておいてくれ」
「…構わないがちゃんと洗ってくれよ?これからの時期に使うつもりなんだ。魚臭いのはごめんだ」
「へへへ、悪いな。ああ、忘れる所だった。握り飯を余分に作ったから昼飯にでもしてくれ」
「それは助かる。まあ釣れなかった時の夕飯ぐらいは用意しておくからまた寄ってくれ」
私は余分に出来た握り飯を置いてからつり竿とくーらーぼっくすを担いで店を出た。それから店の前に立てかけておいた箒に跨って釣り場に向かった。
前に里の新聞でいつも霧がかかっている湖がよく釣れるって書いてあったからそこを目指すことにしたんだ。霧が出てるなら涼しいだろうし幽霊の一匹でも捕まえて涼をとれるかもしれん。
そう霧の湖だ。へえ、その記事を書いたのは文だったのか。新聞が焚き火以外にも役に立つことがあるんだな。ひひひ。まあそう怒るな。
それで私は霧の湖についた。空から見たら湖面はほとんど霧に包まれてたが岸の方は所々あったり無かったりっていう具合だったな。あんまり霧の中に居るのも冷えるだろうし私は霧に包まれてない所で釣りをすることにしてちょうどいいところを探していたらいい具合の大岩が見つかった。
4,5人が昼寝できるぐらいの広さの平らな岩で日光にあてられてほどよく乾いてた。ちょっと暑いかとも思ったが座ってみると湖の方から風が来るから暑くは無かった。
ここで釣る事にして油紙を敷いて腰を下ろした。風で吹き飛ばないようにくーらーぼっくすで押えておいて竿の準備をしてから餌の団子を千切ってから針につけた。
だけど全然引きが来ない。竿がピクリとも動かないんだ。軽くなったと思って引き上げると餌が溶けていただけだった。後で調べたんだが米じゃあまり釣れんらしいな。
昼過ぎまで粘ったがその内飽きて来てな。やけくそで団子を丸々一個付けたの竿を垂らしてから弁当でも食うことにしたんだ。
竿を足で押さえながら弁当を使っていたんだが不意に竿がしなってな。慌てて茶で口の中を流し込んでから思いっきり引いたんだ。
とんでもない引きで下手するとこっちが持ってかれるんじゃないかと思ったが何とか踏ん張った。終いには半分飛びかけながら引っ張っていたら急に引きが無くなって尻餅をついちまったんだ。
糸が切れたかと思って慌てて竿を見たらが切れてなかった。じゃあ釣れたのかと思って糸の先を見たら何がかかっていたと思う?
人魚だよ人魚。それも着物を着た人魚が口に刺さった針を取ろうとうなり声を上げてるんだ。余りのことにびっくりして呆然としてた。
しばらく人魚はもがいていたがその内自力で針を外して私に文句を言ってきたんだ。
「水の中に団子を垂らすとは何事よ!」
「何事って魚釣りだよ」
「ならもっと小さくしなさいよ!思わず食べちゃったじゃない!」
「いや落ちたものを食うなよ」
「水の中にすんでいるのよ!あなた達とは違うの!」
しばらく口から血を垂らしながら文句を言ってたんだが喋っている間にみるみる傷が治っていってな。流石に食べると不死になると言われる人魚だと思ったよ。
それで飯も食い終わってたんでまた釣りを始めたんだが人魚のやつ湖に戻らないでずっと話しかけててくるんだ。相変わらず釣れなかったが暇つぶしには丁度よかった。
大体はやつの身の上話を聞かされていたんだがなんでもここに来る前は外の町の堀に住んでいたらしい。そこは釣り人がちょくちょく来ていてその食い物をくすねて舌を肥やしていたんだとさ。こっちに来てからは釣り人もほとんど来ないから魚とか貝とか藻ばかりで飽き飽きしていたんだと。
人魚って言えばもっぱらやれ肉を食べれば不老不死やれ泡になって消えるとかそういう御伽噺っぽいのばかりだからこういう実際の生活っぷりは新鮮だったな。
そんな感じでしばらく話していたんだがその内視線が餌の団子に向けられてきてな。私はぴんときたわけだ。もしかしたらこいつこれを食いたいんじゃないかとな。
食い物の話といい少し考えてみりゃ分かったことだがその時は日が出てきてすこし暑くてな。ぼんやりしていたんだ。
一方で私は魚を一匹も釣れていない。私はこう考えた。この干からびた団子は釣り餌にするよりももっと簡単に魚を取れる方法があるんじゃないかとな。
そこでまず私は団子を一つ食べた。当然乾いていて旨くはなかったがそこは今晩の飯がかかってるからな。精一杯旨そうな顔をして食ってやった。
ゆっくりと噛み潰し舌の上で転がし長時間口中で弄んでからやっと飲み込んだ。わざとらしく喉を鳴らしてな。…おいおいこんな夜更けに団子を売ってるところなんてないぜ。明日にしろよ。
でこっそり人魚の方に視線を向けるとそれはもう。あれだな、金は無いが腹が減ってしょうがない、そんな時に飯の匂いが漂ってきた、そんな飢えた顔だ。
そりゃそうだよな。一度旨いものの味を覚えたら忘れることなんてできないさ。しかもしばらくの間同じものばかり食って飽き飽きとしている所だ。食いたくないはずが無い。
私はそこで初めて気づいたような顔をして人魚の方を見てからこう言ってやったんだ。
「なんだ?団子がどうかしたのか?」
「いや、その、なんで魚の餌を食べてるのかと思って」
「ん?ああこれはな、元々釣っている間に食うつもりで買ってきたものなんだ。ただ餌を買ってくるのを忘れちまってな。餌の虫を集めるのも面倒だしこうして餌にしているんだ」
もちろん嘘だがな。2日目ぐらいに買った萎びた団子で元々餌にするつもりだったんだよ。だがやつは気付かなかった。
「どうした?こいつが食いたいのか?」
「え?くれるの?」
「うーんただじゃあやれんなあ。こいつはちょっとばかし値が張ったものだからなあ」
私は魚が餌にかかったことを確信した。こうなればこっちのものだ。私はもったいぶった口調で、
「そうだなあ。じゃあ魚と交換してやるよ。団子1串につき一匹な」
「えっそれでいいの?」
「ああ。私もこのままじゃ釣れないだろうしここに住んでるお前なら簡単に採れるだろ?お互いにとって得じゃないか。ただ小さい魚じゃあ困る。なるべくでっかいのを持ってきてくれ」
「ええ分かったわ。じゃあそのお団子を」
「おっと魚が先だ。私はお前を追いかける手段はないしお前が魚を採ってくる保証はないからな」
「…分かったわ。食べないで待っていてよ?」
そういうとやつは両手を伸ばして綺麗に水の中に飛び込んでいった。流石にこういうところは人魚だな。見事に整った綺麗な飛込みだったよ。
それからは茶を飲んでのんびりしていた。団子?食うわけ無いだろ。私をなんだと思っているんだ。確かその時は5本ぐらい残ってたが干からびた団子と新鮮な魚じゃ比べるまでも無いだろうが。
しばらくすると人魚が飛び上がってきた。両脇にでっかい魚を抱えてな。
いやあれは本当にでかかった。何の魚かは分からなかったが私のつま先から膝ぐらいは余裕であった。持って帰れるか不安になったぐらいだからな。
魚はまだ生きていたんだがびちびち暴れるっていう感じじゃなくてぬるぬると時々思い出したぐらいに動くぐらいだった。あまりでかいと魚も鈍くなるのかね。
そのでかぶつを置いて人魚はまた潜ろうとしたから私は慌てて止めたよ。こんなでかいの5匹も持って帰れないからな。
人魚は不満そうな顔をしていたけど残りの団子を全部くれてやったら何も言わなかった。
団子を食い終わったらもう飽きたみたいでさっさと湖に帰ってた。見惚れるほど綺麗な飛び込みでな。私は魚が動いてたんじゃ持って帰りにくいからとりあえず頭をそこらへんの石でぶっ叩いて〆てからくーらーぼっくすに入れた。ぎりぎりおさまって助かったよ。ワタも抜こうかと思ったんだがこんなでかい魚は初めてでな。手持ちのナイフじゃ手に負えなさそうだから香霖の所で道具を返すついでに捌くことにして後にした。
箒にくーらーぼっくすをぶら下げて飛び立ったんだが重いの何の。バランスが崩れて上手く飛べなかった。風の強い日じゃなくて助かったぜ。
それで何とか無事香霖堂にたどり着いて戸を叩いていたら香霖が出てきたから箱を開いて魚を見せてやった。その時の驚きっぷりといったら。
それから井戸まで一人じゃ運べないから一緒に運んだ。あまりにも重くてな。それから刃渡りの長い刃物を借りて解体しようとしたんだがちょいと気味の悪いことになってた。
確かに魚は〆たはずだったんだが箱の中でのたくってたんだ。目玉もまるでこっちを見ているかのようにぐりぐり動き続けてて気持ち悪い事この上なかった。
まあこれだけでかいし仕留め損なっていたんだろうということで腹を割いてワタを抜いて頭を落としてとりあえず3枚におろしてみた。
何気なく切り落とした頭を見たんだがこっちを見ているみたいで気味が悪かったからゴミ捨て場に投げた。文章にすると簡単だが実際はもっときつかった。
まず頭を切り落とすのが大変だった。骨が魚とは思えないぐらい硬くてな。まるで牛の骨みたいだった。しょうがないからノミを金槌で叩いてへし折った。鱗も落とすというよりは剥がすと言った方が適切だった。
だが一番きつかったのはワタを抜くときだ。血とかよく分からない生臭い液が混じったのがどこに入っていたのかってぐらい垂れてきて本当にまいった。洗い場を水で流しても臭いは残るし堪らなかったね。その時の服は何回洗っても臭いが取れなくてしょうがないから捨てた。焼くと臭いがまた移る気がしたから無縁塚に捨ててきた。くーらーぼっくすの中は不思議と臭わなかったんだがな。今思うとあれは『まだ』生きていたから臭わなかったんだろうな。
まあそんな調子だから一匹捌いた時点でかなり疲れたし手元も暗くなってきたからもう一匹捌く余裕なんて無かった。仕方ないから氷の魔法で氷らせてくーらーぼっくすに放り込んでおいた。
それから洗い場を洗って臭いがなくなる頃には日が沈んじまった。香霖も手伝ってくれようとしたが料理の方を任せていたからな。料理に地の臭いが付くのも困る。
洗い終わって中に入ったらタイミング飯ができた所だった。一日仕事だったし昼は握り飯しか食ってなかったから挨拶もそこそこに食事を始めたよ。
魚は付け焼きにしてあって香ばしい匂いが堪らなかった。後はたっぷりの白米に菜っ葉の味噌汁に木の実の佃煮だった。魚が不味いときの備えというわけだな。
それで毒見もかねてまず私が魚を食ったんだがこれがもう。最高に旨かった。弾力感のある食感といいかすかに香る藻の匂いといいじわりと染み出してくる脂といい。今まであんな旨い魚を食ったことは無かった。食いきれないと思っていたが気がついたら魚は無くなっていた。香霖も旨かったようで食い終わってからしばらく呆然としていたよ。
米を食ってないことに気付いて佃煮と味噌汁で食ったんだがそれが味気なく感じられるぐらい旨かった。
次の日は朝一でもう一匹の魚を捌いて朝から食ったが全然飽きが来ない。食い足りない私は再び霧の湖へと向かった。あの人魚から魚を手に入れるために・・・
「っとここら辺で終わらせるのが怪談の定番ってやつだな」
「なんだい。それで終わらないのか」
「ここから先はむしろネタバラシだからな。聞きたいか?」
「ここまで話しといて気にならないは無いだろう。早く話してくれよ、盟友」
「分かった分かった。だが先に西瓜を食おうじゃないか。そろそろ冷えてきたはずだぜ」
4名は井戸に吊るしておいた西瓜を取り出し適当に切り分けた。霊夢が起きていたら食べるかもしれないと思い確認しにいったがいびきをかいていたので起こすのも忍びないと思いそのままにしておいた。
よく冷えた甘い西瓜を食べながら魔理沙は再び話し始めた。
朝起きる所までの所は本当だ。朝からの行動はさっきの話と変わってくる。朝目が覚めた私は魚が食いたい思ったわけだがそこで妙だと勘付いたんだ。いくら旨かったにしてもこんなに食いたくなるかとな。
それもあんなに気味が悪かった魚をまた食いたいのかっていうのも疑問だった。昨日あんなに気味が悪かったのにいざ食べてしまったとはそんなことを気にしなくなっている。思えば食欲がわいたことすら不思議だ。普通魚からあんなに血が出てきたり死んだはずなのに眼が動いていたりしたら大抵は捨てるはずだ。
色々おかしいと思った私は昨日ゴミ置き場に捨てた魚の頭を見てみたんだ。そうしたらハエがたかっていない上に頭が私が近づいたとたんこっち睨んできた。
私はこれで確信した。これはただの魚じゃない。妖怪だとな。氷らせた方の魚も見てみると氷を割ってのたくっていたよ。そいつもこっちを睨みやがる。
つまり私と香霖が食ったのは妖怪だったって訳だ。妙に旨かったのは推測だがあの人魚が一枚噛んでいると思う。あの魚の虜にさせて食い物を持ってこさせようとか企んでたんじゃないか?
私は香霖を起こして事情を説明して手伝ってもらいながらくーらーぼっくすに食っちまった魚の頭と集められる限りのわたを入れて湖まで行ってくーらーぼっくすの中身をぶちまけた。水に入るとすぐに魚妖怪が泳ぎ始めて一匹は骨だけの体でこっちを睨みつけてそれから潜っていった。人魚もシバイてやろうかと思ったが見つけるのも面倒だし腹も減っていたから香霖の所で朝飯でもいただこうと思って戻った。
「まあ人魚に一杯食わされたって寸法だ」
西瓜の汁でべたついた顔をゆすぎながら魔理沙は言った。それから彼女は寝るといって適当な部屋に行って寝ていた。
縁側には3人の妖怪が腰掛け月を見ながら酒を飲んでいた。
「確かに最後のあれは確かにここでは怪談になりそうに無いですねえ」
「物怖じしない人間が多いからなここには。しかし怪談というのはこういうものなのか。中々面白いね」
「また機会があれば聞きたいところです。記事にしてみるのもいいかもしれません」
「そうだねえ。所でさ、最後の妖怪化した魚ってさ。多分あれだよね」
「ええ、魔理沙さんは気づいてないようですから言わなくても言いでしょうけど」
「そうさね。言わぬが花だね」
鬼が杯をグーッと干してから、
「人の死体を食って妖怪化したんだろうからね。同族食いっていうのはちょっと魔理沙にもキツイだろうからなあ」
陰湿な置いてけ堀をイメージして
日々の健康に一杯の紅茶を
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/08/19 05:16:11
更新日時:
2013/08/19 14:16:11
評価:
7/9
POINT:
760
Rate:
15.70
分類
魔理沙
わかさぎ姫
怪談が好きで様々なサイトを巡っていたものの、やや食傷気味だったのですが、これは素敵ですね
怪談は「恐怖」はもちろんのこと、ある種の「美しさ」をも孕んでいるのかもしれません
小学生時代、とあるホラー小説を読んでそんなことを考えたあの頃を思い出しました
舞台も湖で涼やかだ。
オチの真相を言わなかった所に、人を食った妖怪達の優しさを垣間見ました。
あと食事の描写が美味そうで腹が減りました。