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『素敵なステーキ』 作者: うらんふ
紅魔館の中を、忙しそうに妖精メイドたちが走り回っている。
……走り回ってはいるのだが、ただ走り回っているだけで、忙しそうであるものの仕事自体は進んではいないようだ。
「やれやれ」
十六夜咲夜はため息をひとつつくと、役に立たない妖精メイドたちに指示を出す。咲夜の命令があって初めて、役立たずの妖精メイドたちがほんの少し役に立つようになる。
今夜は紅魔館主、レミリア・スカーレット主催のパーティが催される予定だ。その準備をしなくてはならない。
「食材はちゃんと届いているかしら?」
届けられた様々な食材たちに、咲夜はひとつひとつチェックを入れていく。
「ワイン、野菜、お肉……」
一瞬、咲夜の手がとまる。少しだけ、時間が流れる。妖精メイドたちがせわしなく走り回る足音だけが聞こえてくる。
「……問題、ないわね」
咲夜はつぶやくと、目を閉じた。
何も、問題は、ない。
今夜は大切なパーティなのだ。何のパーティなのかは知らされてはいないが、お嬢様が楽しみにされている以上、その期待に応えなければならない。
最高の料理を。
メイド長の腕にかけて。
「よし」
咲夜は目を開けると、決意した表情で、厨房へと向かった。
シャンデリアが色とりどりに輝いている。
七色に光るその輝きは、まるでフランドール・スカーレットの虹色の羽の輝きを映し出しているかのようだ。
そのフランといえば、めずらしく地下室から出てきてパーティに参加している。普段着ていない豪奢なドレスをきて、今日は門番の任をはずされているチャイナ服姿の美鈴の後ろを楽しそうについて回っている。
パーティは大盛況だ。
あちこちから、笑い声が聞こえる。
大広間にテーブルがいくつも準備され、その上にメイド長の咲夜が腕によりをかけた食事が並んでいる。
紅魔館では時々こうした大規模なパーティが開かれるのだが、今回ほどの規模のパーティとなると、月侵略のためのロケットのお披露目をしたパーティ以来のことだ。
幻想郷からまねかれたたくさんの人、妖怪、そして招かれたわけではないが勝手に参加している妖精たち。
笑い声と笑顔が、会場を包み込んでいる。
「……あるところには、あるものよねぇ」
「無いところには、まったく無いんだがな」
不満そうにつぶやいたのが霊夢で、意地悪そうに答えたのが魔理沙である。
二人は広間の隅のテーブルに腰かけ、ワインを飲み、食事を食べていた。
「どちらかといえば、私はこんなワインなんかより、いつも飲んでいる日本酒の方が好きなんだけどね」
「いらないなら私がもらうぜ」
「いらないとは言っていないわよ」
そういうと、霊夢は手にしていたグラスをかたむけた。真紅のルビーのような色のワインの豊饒な香りを楽しみつつ、こくりと飲み込む。霊夢は頬を少し紅潮させたまま、とろんとした目つきで魔理沙を見つめた。
「この食事、全部咲夜がつくっているのよねぇ」
「働き者だな」
「たいへんねぇ」
すごいとは思うが、やりたいとは思わない。
料理が嫌いというわけではないが、つくるよりも、食べるほうが好きだ。
血のしたたるステーキにナイフをいれる。くちゅっとした肉汁があふれてきて、皿につけたされていたポテトに沁みこんでいく。
肉と、ワイン。
普段霊夢が食べている白米と味噌汁とお茶に比べると豪奢なものだが、
(それでも、毎日食べるなら、やはりお米の方がいいわね)
そんな事を思いながら、霊夢は口にお肉を運んでいく。
と、その時。
「ねぇ、魔理沙、美味しい?」
にこりと笑いながら語りかけてきた者がいた。
「……私は、魔理沙じゃないわよ」
「魔理沙さまなら、こっちにいるぜ」
霊夢はけだるそうに言い、魔理沙はカラカラと笑いながら答えた。
声をかけてきた異国風のドレスを身にまとった女性、八雲紫は、「あら、そうでしたわね」と口元に笑みを浮かべつつ、霊夢と魔理沙の間の席に腰を掛けた。
脂粉の香りが漂ってくる。妖艶な、女性の香り。
「私と霊夢を間違えるなんて、ついにやきがまわってきたな。長生きしすぎるというのも考えものだぜ」
「うふふ」
紫は魔理沙の軽口に答えることなく、普段食べれないものをここぞとばかりにお腹にため込んでいる霊夢に向かって、優しそうな声をかけた。
「霊夢、お肉、美味しい?」
「……どうせ私は、普段お米しか食べていないわよ」
「いつか貴女が栄養失調で倒れてしまわないか、私、心配だわ」
「心配するくらいなら、お賽銭入れていきなさいよね、紫。いつもふらっと遊びにくるだけ来て、そしてふらっと帰っていくだけなんだから」
「うふふ。博麗の巫女が、妖怪からほどこしを受けてもいいの?」
「お賽銭に貴賤はないわ」
「あら、そう?」
紫は霊夢に語りかけはするが、テーブルの上の食事に手を出そうとはしなかった。別に、紫が手を出したからと言って、霊夢の取り分が減るわけではないのだが。
「みなさん!」
宴もたけなわになってきていたその時、檀上から、凛とした通った声が聞こえてきた。
皆の注目が、壇上へと向かう。
そこには、案の定というか、豪奢な真紅のドレスに身を包んだ紅魔館の主、レミリア・スカーレットの姿があった。
「紅魔館のパーティ、楽しんでもらっているかしら?」
レミリアが言う。
その後ろには、普段のメイド長姿の咲夜が、そこにいるのはさも当然というかのように、そっと佇んでいた。
「今日は、特別な日なのよ」
レミリアが言葉を続けていく。パーティに参加しているものの大半は、レミリアの言葉を半分聞きながら、残りの半分の意識は食事へと向けられていた。
「今日は、誕生パーティなのです」
そういうと、レミリアは振り向いた。
視線の先には、咲夜がいる。
「咲夜」
「は、はいっ」
いきなり声をかけられた咲夜は、びっくりして、普段の瀟洒なイメージからはかけはなれた素っ頓狂な返事をしてしまった。
「こちらに来なさい」
言われるがまま、歩いていく。
こんな話は聞いていない。咲夜は、何も聞かされてはいない。今日は、ただ、大事な話があるとだけきいていた。そのために準備をしていた、それが、まさか。
「おめでとう」
こんな事を言われるとは。
「あ、あの、お嬢様」
「今日は、紅魔館に来たあなたに、私が【十六夜咲夜】と名付けた日」
レミリアは笑った。
それは、屈託のない笑顔だった。
「つまり、咲夜が生まれた日なのよ」
言いながら、手にしていた小箱を、そっと咲夜に渡す。
「開けなさい」
「あ、は、はい」
どぎまぎしながら、咲夜は手渡された小箱を、震える手で開けた。
紅いリボンを外す。中には、
「……」
白銀の、指輪が入っていた。
「パチェに頼んでつくってもらったの。デザインは、私よ」
言われてみると、確かに、凝ったデザインの指輪だった。悪魔の羽をあしらった意匠の指輪。
「常に、私を感じていなさい」
「……はい」
咲夜の目に涙が浮かぶ。
パーティの参加者のほとんどはこのやりとりをちら見するだけで、目の前の食事と隣の人との会話に夢中になっていた。
ある意味、滑稽な光景なのかもしれない。
ある意味、意味のない光景なのかもしれない。
けれど。
「咲夜が泣いてる姿、初めてみたぜ」
「そりゃぁ、嬉しいんでしょう?」
一部の参加者にとっては、印象の深い光景となった。
「さぁ、みなさん!今日は咲夜の誕生パーティ!もっともっと、楽しんでいってくださいね!」
嬉しそうに、レミリアはそういった。
頬が少し紅潮しているのは、酔っているのか、それとも、恥ずかしいのか。
それは分からない。
笑顔の中で、夜は更けていく。
十六夜咲夜は月に照らされている。
その白皙の指には、白銀の指輪がはめられていた。
うっとりとした表情で、ずっと、ずっと、それを眺めている。
月の光が指輪にあたり、くっきりとした陰影をつける。
時をとめる能力は使っていないのに、まるで、時を止めているかのようだ。
いつまでも、こうしていたい。
いつまでも、眺めていたい。
なのに。
「……無粋ね」
咲夜はため息をつくと、指輪にうつった黒い沁みをみつめ、振り返った。
その沁みの原因、八雲紫がそこにたっていた。
「あら、ごめんなさいね」
口元を扇で隠しているので表情を読み取ることができない。
「鍵はかけていたはずなんだけど」
「私に鍵が役に立つわけがないでしょう」
「……そうね」
八雲紫の後ろには、黒い裂け目があった。
中に見えるのは、無数の、目。目。目。
スキマ、とよばれる裂け目が見える。
「それで、何の用かしら?これでも私、忙しいのだけれど」
「……知り合いが連続で選ばれるのは珍しい、というか、初めてなんだけど」
ゆっくり、ゆっくり、紫は歩みをすすめる。
足音はしない。
部屋の中は、月の光で青白く染まっている。
「信じてほしいのだけど、完全に、公平に、選んでいるのよ?」
「……」
「私ですら、干渉はしない。それはルールですもの。妖怪は、ルールを守らなければ、存在することも出来ない」
「……」
「本当に、残念」
「……そのわりには、笑っているように見えるのだけど?」
扇で口元を隠していても、こみあげてくる悦を隠し切ることは出来ない。
紫の目じりは歪んでいた。
「安心して。今日、魔理沙も、笑っていたでしょう?」
「あの魔理沙は、どっちなの?」
「それは、私にも、分からないわ」
紫が笑う。
声は聞こえない。
紫のまとっている空気が笑っている。
「貴女、いつも、いつも、いつも、いつも、料理しているものね」
「それが仕事ですから」
「ふぅん」
ぐにゃりと紫の姿がゆがんで見える。
「霊夢、美味しかったって言っていたわ」
「それは紅魔館のメイド長として、嬉しい言葉ですわね。おもてなしをした甲斐がありました」
「ふぅん」
紫は笑う。
「貴女、表情一つ変えないのね」
「変える必要がありますか?」
「そうね……」
しばらく考え込む。
「特にないわね」
「でしょう」
「それでも、普通は、嬉しいときは笑い、悲しい時はなくものよ」
紫の口元がゆがむ。
「げんに、今日のパーティで、あなた、嬉しくて泣いていたじゃない?」
そう言いながら、紫は咲夜がはめている白銀の指輪を眺める。
「……早く用事を言ってもらえないかしら?私、これでも忙しいの」
「あらあら、ごめんなさい。ごめんなさいね、長く生きていると、つい口数が多くなってしまって……」
紫は、スキマの中に、手を伸ばした。
スキマが動く。
その光景を、咲夜は、無表情で無感動なままで、じっと見つめていた。
中から、紫以外のものの手が出てくる。
よく見知った手だ。
世界で一番、見知った手だ。
なぜなら。
毎日、見ているのだから。
「どちらかが残るわ」
スキマの中から出てきたのは、十六夜咲夜、その人だった。
幻想郷。
紅魔館。
妖怪は、人間を襲い。
人間は、妖怪に襲われる。
妖怪は、人間を喰らい。
人間は、妖怪に喰らわれる。
紅魔館は、幻想郷ととある条約を結んでいる。
【吸血鬼条約】
吸血鬼は、食糧となる人間の供給を受ける代わりに、さまざまな行動の制限を受ける、という条約である。
紅魔館の夕食は、毎食、血の滴るステーキ。
肉。
条約を結んだのは、もっとも力の強い妖怪……幻想郷の管理者、八雲紫である。
毎日、紅魔館には、新鮮な【肉】が届けられる。
食糧が安定供給される代わりに、紅魔館は、人里には手を出さない。
ただ、毎日、毎日、一人ずつ、人が消えていくと、人里への影響は計り知れない。
それこそ不満がたまり、紅魔館を排除しようという話になるかもしれない。
そこで八雲紫が考え出したのが。
【スキマを用いた身代わり】
である。
その力の源泉は分からない。
分かるのは結果だけであり、ありとあらゆるものの境界を操ることのできる八雲紫は、人の存在の境界すら操ることができるのであり、大事なことは、その事実だけである。
毎日一人、人が消える。
毎日一人、人が作られる。
トータルで幻想郷の人数は変わらない。
紅魔館に一人。
元の場所に一人。
トータルで幻想郷の人数は変わらない。
食べられるのは一人。
食べられないのは一人。
トータルで幻想郷の人数は変わらない。
消えるのはオリジナル?
残るのはコピー?
どちらでもない。
オリジナルとコピーの境界はすでに無いのだから。
「本当に、公平に、選んでいるのよ?」
「……」
「私にも、誰が選ばれるのかは分からない」
「……」
「ただ」
「……」
「二日続けて」
「……」
「知り合いが、選ばれるなんて」
「……」
八雲紫の顔は笑っている。
八雲紫の顔は歪んでいる。
「霊夢、魔理沙、美味しかったって」
歪んでいる。
「それにしても、貴女」
「……」
「知り合いでも、ちゃんと料理、出来るのね?」
その瞬間。
血が。
スキマの中の十六夜咲夜と。
先ほどまで話をしていた十六夜咲夜が。
「あらあら、まぁまぁ」
八雲紫は笑う。
「どちらを残すか、そのやり方はいつも当人たちにまかせているのだけど」
泣き出すもの。
死にたくないというもの。
食べられたくないというもの。
長い長い時間がかかるもの。
話し合いをするもの。
賭けをするもの。
自分で決めきれずに、紫に決めてもらうもの。
そして。
自分同士で。
殺し合いをするもの。
「貴女は、躊躇ないのね?」
鮮血。
血。
赤。
「あぁ」
八雲紫の顔に、ちぎれた指が当たる。
どろりと、血が流れる。
紫は、そっと、舌なめずりをする。
「貴女、素晴らしいわ」
「頭痛い……」
レミリア・スカーレットは頭をさすりながら、目をこすっていた。
昨夜のパーティで飲んだ酒が、まだ完全には抜け切ってはいない。
翌日まで残すことはほとんどないのだけれど、昨日は、少し、楽しすぎて、飲みすぎてしまったようだ。
出された食事を見る。
紅魔館の食事は、いつも、血の滴るステーキ。
肉の香りを楽しむ。
よく調理された肉だ。
咲夜は、うしろに佇んでいる。
いつも通りの光景。
いつも通りの紅魔館。
レミリアはナイフで肉を切る。
じゅるっとした肉汁があふれ出る。
レミリアは肉を口元に運ぶ。
食べる。
ガリッ
痛みが走った。
固いものが、肉の中にあった。
「咲夜、なにか入ってる」
そういって、レミリアは、肉の中にあった固いものを吐き出した。
その。
白銀の、悪魔の羽の、指輪を。
終わり
久々の投稿です。
1年ぶり以上?
これから、ちょくちょく小説書いていこうと思います。
茨華仙の3巻で、咲夜さんが「紅魔館はいつも血の滴るステーキ」という発言をしていたのをヒントに描きました。
うらんふ
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/08/28 23:52:46
更新日時:
2013/08/29 08:52:46
評価:
9/10
POINT:
880
Rate:
16.45
分類
東方
咲夜
レミリア
紫
ゆかりんが妖怪らしかったと感じました。
現状を楽しんでいる、という意味で。
指輪の演出の辺りが実に痺れました
レミリアは案外「ふーん」で済ませそうなもんですが、どうでしょうね・・・
愛しい愛しいお嬢様。
私は、血も、肉も、捧げます。
私は、私を、余すところなく、捧げます。
私は、私を、私であるために、贄にします。