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『秘封霖倶楽部』 作者: ND
【秘封霖倶楽部】
蓮子とメリーが二人の時は、秘封倶楽部と名乗っていたらしいが、僕が加わってから一月経って名前が変わった。
秘封とは二人の意味を指しているとか何とか。良く分からないが、一ヶ月も倶楽部に属しているからか、僕の名前も載せると言い始めた。
語呂は前のと比べて良いとは言い難く、いつもどおり【秘封倶楽部】と言われる事が多い。
だが、何よりも平和なこの世界線に戻って来た今、蓮子はどうしても【秘封霖倶楽部】と名乗りたがっていた。
これは、その【秘封霖倶楽部】の活動記録である。
【喫茶マウンテン】
ある日僕らは名古屋の喫茶店へと向かっていた。
初めて来たこの都会の地は、色物の喫茶店の他にも見るところが多く存在するようだ。
僕としては、多くの珍しい物が置かれている大須か、日本の文化を見る名古屋城とやらの方に行きたいのだが。
『今日はイロモノ食を食べて、蒲郡で泳ぎ遊ぶわよ!!』
僕の意見は通らなかったようだ。
土日を使った旅行であるため、明日こそは自由行動で動き回るつもりだがな。
長蛇の列を見た瞬間、僕はすぐにでも引き返したかったが、
振り返った瞬間、蓮子に睨まれ、後ろ襟首を掴まれた。
『さぁ!行くわよ霖くん!!山登りへ!!』
山登り等とふざけた事をぬかしながら、僕たちは喫茶マウンテンへと足を運んでいった。
内蔵は普通の喫茶店とさほど変わらない。
所々見えるメニューに、目を疑う料理が貼られている以外は。
『注文は決まった?私はロバライスで!!』
『早いな』
『だってロバよロバ!私、ロバの肉なんて食べたこと無いんだから!!!』
『そうだな。別に食べたいとは思わないがな』
『じゃぁ・・・私は小倉抹茶スパで・・・』
『メリーはメリーで随分思い切った物を頼んだな』
『だって、デザート感覚なスパゲッティなんて初挑戦ですよ。スイーツ好きなJKならワクワクするじゃないですか。』
全然しないな。不安しかない
『じゃぁ、僕はこのイカスミスパゲッティをいただこうかな。』
『おやおや?霖くんもしかして怖気づいちゃった?そんなありきたりな物を頼むなんて・・・ププッ』
『ありきたりも何も、僕はイカの墨なんて物は食したことが無いからね。ロバを食べようとしている君と同じように。これでも挑戦している方だよ』
僕がそう答えると、とたんに蓮子はむくれ始めた。
『ふん。今更、イロモノを食べたくなっても知らないし、分けて上げないんだから』
『うん。要らないから別に良いよ。』
蓮子は僕に向かって舌を出して小馬鹿にした。少しイラついた。
まず最初にメリーの小倉抹茶のスパゲッティが届いた。
届いたそのスパゲッティには、デザートとは言い難く、湯気が立っている。
生クリームがすごい速さで溶けていく等、間違いなく暖かい麺となっている。
ザルソバでも、冷たい物が主流だというのに、これは・・・
気づけば、この料理が届いた瞬間、メリーは無言になっていた。
蓮子に至っては『お・・・おう・・・』としか感想を述べていない。
メリーは右手にフォーク、左手にスプーンを持ち、よくかき混ぜ、
恐る恐る麺をフォークに巻き込んでいった。
『・・・いただきますっ!』
そして、思い切り口の中に突っ込んだ。
突っ込んでからしばらく経った。
メリーは動かない
『どっ・・・どう?』
メリーは反応しない。
目の前で手を振っても、反応しない。
『・・・いっ意外と食えます・・・』
そう言って、もぐもぐと口を動かした。
だが、表情を見るに決して美味いとは言い難いのだろう。
表情から笑みという物が抹消しているのだ。
そして二口目、小倉を含んだ麺を食べた瞬間、事件が起こった。
しばらく口に含んで口を動かした瞬間、ガタガタと震えだし、白目を向いていたのだ。
『メリー!?ちょっと?メリィイイ!?』
そういえば、ここマウンテンで食いきれなかった場合は”遭難”と呼び、無事に山を降りられなかった事を言うらしい。
この状況を説明するといえば、メリーは山を登り、一合目辺りで力尽き、遭難した。
これで説明は十分だ。おっと、次に蓮子の料理が来たようだ。
『・・・何・・・これ・・・・・・』
そこは、ロバの肉を使ったピラフ・・・ではなく。
ナタデココやさくらんぼや、桃缶が入った謎のピラフであった。
『え?ロバ肉・・・ロバ肉は?』
正直、どこがロバなのか分からないが、それは僕にとってはどうでも良い事だ。
そして時間も立たず、イカ墨のスパゲッティが届いた。
他のと比べて量は多いが、食欲のそそる匂いを立たせる。
フォークはあまり持った事が無い為、箸で食べてみる。
すると、香ばしい海鮮の匂いと、バターのような香りとピリっとした辛さが絶妙に混ざっていた。
一言で表すと・・・美味い。
甘いスパゲッティやらフルーツピラフが来たときは正直不安だったが、・・・なんだ、普通の飯は普通に美味いじゃないか。
安心しながら食を進ませると、向かい側で悶えている蓮子の姿があった。
『り・・・霖くん・・・ごめんなさい・・・さっきの言葉取り消すから・・・一口・・・一口頂戴・・・』
目に涙を浮かべながら、僕に手をさし伸ばしている。
まさに蓮子も遭難しかかっているという事か。それで僕に手を伸ばしてきた。
だが、ここは山では無くただの喫茶店だ。料理を残すことは多大な失礼に当たる。
『頼んだものはちゃんと食べなさい』
そう言って、無視を決める事にした。
蓮子は歯噛みしながら僕を睨みつけていた。
〜蛇足〜
『プールだぁああ!!泳ぐぞぉおおおお!!』
蓮子とメリーは、数分で着替えを済まし、水の溜まり場へと飛び込んでいった。
結局、あの料理は意地を持って水を飲みながら進んでいった。
気絶しそうになっていた所、結局僕のスパゲッティを一口ずつ食べさせることで、
約50分程で見事完食したのだ。
ちなみにメリーの料理は、紐でくくりつけた五円玉を用いてメリーに催眠術を施し、
白目のままメリーは催眠術の力で完食をした。
何もともかく、料理が無駄にならなくて良かった所だ。
ちなみに僕がプールに向かわない理由は、決して泳げないからではない。
100年もの間、幻想郷の川に近づかなかったわけでも、海に向かわなかったからという理由でもない。
一度も水に沈んだ事が無いだけだ。温泉ならば何度かあるのだが。
だから決して泳げないわけでは無い。絶対に。
『霖くーん!!一緒に泳ごうよー!』
メリーが腕を組んで水に引き込もうとしている。
『僕はっ遠慮っしますっ』
『なぁーに抵抗してんのよ、水着美女が二人、誘ってんだから。男だから誘われなさいって!!』
そう言って、蓮子はメリーもろとも僕を飛び蹴りでプールに突き落とした。
ああ・・・もし、僕が神様だったなら。この野郎に天罰を下すのにな。
そう考えながら、僕は水に落ちていった。
さらに翌日は、蓮子が事前に調べた曰くつきスポット巡りに付き合わされた。
一日中周り、当然収穫は ゼロだった。
【5億年ボタン】
『もし、一瞬で100万円を稼げるバイトがあったらどうしますか?』
そんな明らかに怪しいパソコンの広告のような言葉を発していたのは、長谷田 唯 新聞部の部長さまだ。
見た目は中学生か小学生くらいの身長だが、列記とした大学生だ。
『・・・言っておくが長谷田。お前は騙されてるんだ。そんな美味い話は僕の故郷でも無かった。あったら知り合いの巫女はすでに別の職業にクラスチェンジしているよ。』
『巫女のくせに、随分な守銭奴ですねぇ。って違います!もしもの話ですよ。もしもの』
『ほう、何よりも事実無根を嫌った君からそんな”有り得ないもしもの話”を聞くことになるとは思わなかったね。』
長谷田は頬を膨らまし、むくれてしまった。やはり大学生には見えない。
『・・・ただの漫画の話ですよ。』
『漫画?ほう。漫画は好きな方だ。美術と小説を一度に楽しめるからな。』
『森近くんが漫画好きとは知りませんでした。だけど、これはマイナーな漫画だからね〜』
長谷田がニヤニヤしながら僕を見下すようにあざ笑う。なるほど、不愉快だ。
『まま、とりあえずこの漫画を読んでみてください旦那』
そう言われて、長谷田からアイフォーンなる携帯を渡された。
なるほど、ボタンを押せば精神がどこかへ飛ばされ、そこで五億年過ごすことになる・・・という事か
眠ることもできず、痛みを感じる事もできず、死ぬ事もできない。
そして終わった後は、五億年過ごした記憶を全て消される。
『・・・いかにも人間が考えそうな、馬鹿らしい話だな。』
『で、旦那は押すんですか?押さないんですか?はたまた理由は?』
『分解する』
『なるほど分か・・・え?分解?』
『精神を飛ばし、5億年過ごさせ、そして戻ってくる頃には一秒も経っていない。神様でもそんな事はできない拷問法だろう?』
長谷田は、しばらく考え、頷く
『ナルホド・・・。神の領域を超えた代物ってわけですね?』
『それを分解し、解明すれば、僕は世界の王になる事も容易いのだからな。勿論分解させてもらうに決まっているよ。』
まぁ、世界の王に興味は無いがな。
『なるほど旦那。なかなかエグイストな人ですねぇ〜。きっししし』
そう言って、長谷田は手帳に書き進めていく。
『しかし、何故急にこんな話を?また何かの事件に首を突っ込んでいるのか?』
『・・・逆ですよ。事件が無くて平和そのものだからこそ、こんな事してるんです。』
長谷田は大きく息を吐いて、暗い顔に変わり、文字を書き進めていく。
その表情で、少しだけ僕は申し訳ない気持ちになった。
『は?五億年を一瞬で100万円に変えるボタン?』
蓮子は長谷田の説明不足な説明で、歪曲した話題の題名を作り出した。
いや、そもそも何故僕は長谷田の手伝いなんかしているのだろう。
確かに可哀想だとは思ったが、その後何か言っただろうか。
よくよく思い出してみよう・・・ううん
(・・・そういえば僕は、もう今日の授業は終わっているな。)
ああ・・・。その言葉を長谷田が聞いて、『手伝ってくれる』と勘違いして今に至るのだったな。
うかつに言葉を発する物ではない。こんな事になってしまう事を今になって学び、後悔した。
『ああ、なるほどそういう事ね』
次に僕が説明すると、どうやら容量を得たようだ。
とにかく早く終わらせて、図書館で読んでいた本の続きを・・・
『誰か知らない人に押させればいいじゃない。『一万円あげるからこのボタン押して』って言ってさ。』
こいつは悪党だ。ゲロ以下の匂いがプンプンする
『そうか。分かった。で、メリーは?』
『ちょっと!あっけなさ過ぎない!?』
これでも配慮している方だ。というかコメントに困る質問をするな。
ああほら長谷田が蘭々な顔しながらさっきのゲスイ言葉を膨張してメモ帳に書いているじゃないか。また秘封霖倶楽部の悪評が広がってしまうではないか。
『私は・・・押さないですかね。』
ほう、意外だな。
『百万円も魅力的ですけれども、やっぱり苦労してお金を稼ぎたいじゃないですか。』
成程。よくできたお嬢様だな。
この世界の社会というものをよく理解している。そのまま大きくなって欲しい物だ。
『でも、一人ぼっちじゃなくて好きな人と二人ぼっちなら押すんでしょ?』
『押します』
『即答じゃないか』
あまりの即答に僕もビックリしてしまった。
『そんなの私だって押しますよ。だってずっとふたりっきりになれるんですからね』
『そう。それだったら、百万円も自分の力で貰っても良いわね。』
『待て、お前ら忘れてるかもしれないが、5億年だぞ?さすがに二人でも5億年も共に過ごすのは苦痛では無いのか?』
僕がそう答えた時、全員が僕の顔を覗き込んだ。
無表情のまま覗き込んでいた”そいつら”は、三人でヒソヒソ話し始めた。
僕はその光景に、謎の”恐怖”を覚えた。
―薫子沙耶香の場合―
『押さないわ。百万円なんて端金、毎月のお小遣いで貰っているもの。』
見るからにお嬢様の彼女の反応は、まぁ妥当だな。と感じた。
メリーは、少しだけ怪訝な表情をしている。
一方、蓮子と長谷田は下唇を噛んで、殺意の篭った目で彼女を見ていた。
―駒田 涼美の場合―
『うーん・・・押しちまうかもなぁ。だって百万円だろ?妹に欲しい物買ってやれるし。』
駒田の答えは想像以上に健気で、少し胸に来てしまった。
メリーは優しい目で駒田を見ていたが
長谷田は少し目に涙を浮かべていた。
ちなみに蓮子は学食の新メニューとやらに目を奪われていた。
―桐谷 真澄の場合―
『押すわけないでしょう。そんなくだらない物。』
彼女はそう言って、読んでいた六法全書を閉じて、僕に説教をした。
『そんな事にうつつを抜かしていると、いつか私に追い抜かれてしまいますよ?学年一位さん?』
いや、正直僕はそこまで興味はないのだが・・・。
『何よー!!勉強ばかりでつまんない人生送ってるくせにー!!』
『そうだそうだー!!』
野郎は野郎で野次を飛ばしているし。
『勉強程、面白い事はありません事よ。競い合うこともできますし、新しい事を知る事も推測する事もできます。馬鹿は一人ではすぐ死ぬだけです。』
うむ。それは一理ある。知識を蓄える事に損は無い。
『じゃぁー私は常に勉強しているって事ですね。質問の理由をもっと詳しく話してください』
『貴方はまず”常識”を習った方が良いのではないですか?』
―八雲紫の場合―
『・・・・・・・・・・・・』
返答無し。
ただ、じっと僕の顔を見つめるだけだった。
『・・・まぁ、答えられないなら答えなくても良いよ。』
もっとも、他に答えて欲しい事はあるのだからな。
『・・・もし、そのボタンが実際に存在するのであれば、世界のバランスは崩れてしまうでしょうね。』
紫は、僕が買ってきた綾鷹を飲み始めた。
『だって、そのボタンを使って国は財政を歪める筈ですもの。日本は世界一の財政国となってしまいますわ。』
『それの何がいけないんだい?』
『物の価値が上がってしまいますの。要するにインフレーションですわね。』
成程、それは困ったことになるな。
『だから、良い事無しのこのボタンは闇に葬ったほうが良いのかしら。』
そう言って、紫はあるボタンを持ち、スキマの中へと帰っていった。
あれが五億年ボタンだったのか、見えたのは一瞬だけだったので分からない。
だが、一つだけ言えることは、
八雲紫 彼女は更に厄介な存在になってしまったという事だ。
〜蛇足〜
―麻耶の場合―
『んーと・・・んーと・・・』
麻耶は一生懸命考えている。
必死に考え抜いたあと、僕に質問を投げかけた。
『・・・五億年過ごした期間って、全部忘れちゃうの?』
『ああ、忘れてしまうよ。』
『じゃぁ、押さない』
そう答えた麻耶に僕は疑問を投げかけた。
『だって、一生懸命頑張った時の記憶を、忘れたくないもん。』
これは・・・まぁ、なんとも純粋な子供の発想だろうか。
五億年も過ごせば、確実に精神は崩壊し、人間という容量を超えていて”自我”が”究極体”になってしまうという。
確かに、この状態を手放すのは惜しい気がするが。
『それに、もう一人は嫌だよ。』
そう言って、麻耶は僕の買ってきたカルピスソーダを飲み始める。
そうだ、彼女に出会ったのは、もう随分前の話だ。
【放浪少女】
家路についている途中、死体を見つけた。
ガリガリに痩せており、体中に切り傷があり、鳥の糞まみれのそれは、よくみると少女だった。
身体の所どころが腐っており、蠅と蛆が湧いている。
『・・・こういう時は何を呼ぶんだっけ・・・ええと・・・』
普段、死体が出れば妖怪に食われるか、火葬される幻想郷とは違い、ここは死んで誰にも見つからなければ、腐って土に変える。
妖怪に変わる事も無い為か、死体に対しての供養は、親族でも居ない限り、酷く大雑把になってしまうのだ。
『117だったか・・・いや、177だったか・・・』
番号を忘れた僕は、とにかく試行錯誤をしたが、電話の向こうの相手は時間を知らせたり、明日の天気を知らせたりするだけだった。
ようやく警察が来ると、死体の調査を始めた。そしてこれは身元不明な死体だと、数日経ってから知らされた。
その死体が知らされた翌日、同じ場所に死体が落ちていた。
カラスにつつかれ、所どころ血が流れている。
カラスを追い払い、その死体に近づき顔を覗き込んだ。
『・・・・あ・・・』
死体の口が動いた。
その時点で、僕はこの死体は生きていると察知した。
手足はガリガリで、体中傷だらけ。多くの怪我が化膿しているにも関わらず、その少女は生きていたのだ。
信じられなかったが、これが現実だ。
『・・・・・・』
放っておけるわけがない。
死にかけている子供は、精神的に来るものがある。
とにかく僕は、少女を家まで連れて行った。
『・・・・・・・・・』
『ヨーグルトくらいは食べられるだろう。ほら』
おそらく、少女の手足は動かないであろうから、さっきまで僕が寝ていた布団に寝かせる事にしている。
首も満足に動かせない事を知り、僕は少女の口までヨーグルトを運んだ。
口は何とか動かせるのか、ゆっくりと口を動かし、乳酸品の食べ物をゆっくりと食べている。
『・・・・・・・・・』
一日でそんな早く回復するはずが無い。とは分かっては居たが。
明日は土曜日だ。学校は休みにしても、秘封倶楽部の活動がある。
倶楽部活動を休む口実が出来たな。と少し安堵した。
翌日、少女を看病してから一日が経った。
蓮子に活動を休むと報告すれば、かなり怒鳴られたが、結果的には休むことになった。
電話して考えたが、よく考えれば僕は医者を呼べば良かったのでは無いだろうか。
そう考えて見て、少女に語りかける。
『・・・これから医者を呼ぶよ。そこでならきっと最もな治療を受けられるだろう。』
『・・・・・・・・・』
少女は頷かなかった。やはり、まだ体力は取り戻せていないようだ。
僕は、電話帳を取り出し、病院に電話した。
医者が僕の家に到着してから、少女は救急車に運ばれていく。
これで良かったのだと、僕は思いながら少女を見送った。
サイレンの光が遠のいていく。
完全に見えなくなった瞬間、僕はついに一人になった。
さて、家に帰ろう。
読み終えていない本が、まだ残っているはずだ。と
そして日を跨ぎ、月曜日
今日は学校の日だ。土曜の事で蓮子に咎められるだろうが、行くしかない。
そう思い、歩いていくと
また同じ場所に、死体があった。
覗き込むと、土曜日に病院に送った少女と全く同じだった。
また再び家に帰り、僕は少女を寝かしつける。
幸い、まだ息はあったように思えた。
何故、病院から逃げてきたのかは分からない。
『・・・・・・・・・』
少女は、天井を見つめたままピクリとも動かない。
まさか死んでいるのではないのか。と思ったが、呼吸はあった。
『・・・何故、病院から抜け出した?』
僕がそう質問をすると、
『・・・・・・・・・・・・』
返答はしなかったが、ただ頷いただけだった。意味が分からない。
だが、病院からここまで来たという事は、それなりに体力は戻ってきている・・・と取っても良いのだろうか。
とりあえず、お粥を作って彼女に食べさせた。
以前よりはよく噛んで食べている。徐々に体力は戻ってきてるようだ。
恐らく病院のお陰なのだろうが、何故また僕の家の近くに来たのだろう。
とりあえず、学校には連絡を入れておこう。どう言い訳をしようか・・・。
『・・・・・・と・・・も・・・・・・』
少女は何かを喋っていた。それが何かは、僕にはまだ分からない。
理解もできない。まだ彼女の名前さえも、聞いていないのだから。
翌日
火曜日になった。いい加減学校に行きたいのだが、そういうわけにも行かない。
ほうっておいたら、間違いなく死んでしまいそうな少女を残して、死なれてしまったら気分が悪・・・自己嫌悪に陥ってしまう。
『・・・・・・・・・』
相変わらず、口数は少ない方だ。
理解の出来る単語まで言い終える事が少ない。
色々考えてみたが、路頭で倒れていたという事は、親族が居ないとでも言うべきなのだろうか。
だとすれば病院も困ったものなのだろう。だから逃げたしてきた・・・という可能性もある。
看病してきて二日・・・いや、三日か。少女は順調に回復に向かっていると信じたい。
噛む力も日に増して強くなっている。微力であるが、徐々に力を取り戻していると言って良いだろう。
そこで、僕は彼女に聞きたい事がある。
『君の名前は・・・今日は言えるかな?』
昨日も一昨日の聞いた質問ではあるが、力を振り絞ってこちらを向いただけで、何も答えなかった。
今日こそは言えるかと思い、読んでみたところ、
こちらを向くのに、昨日よりは時間を要さなかった。
『・・・ま・・・や・・・・・・・・・』
ふむ、マヤか。
昔、大陸に存在した文明にて呼ばれた国の名前だろうか。
・・・いや、単純に考えれば少女の名前だろう。
『ふむ。マヤ・・・というのか。』
だが、名前を知ったからと言って、どうしようもない。
一体この少女に何があったのか?それを知るためには更に彼女の回復を願う他無い。
『霖之助てんめぇええええええええええええええええ!!!!!』
いきなり、怒涛の声と派手な音と共に玄関が開かれた。
『学校はどうでも良いとして!4日も秘封倶楽部の活動をボイコットするとは、一体どういう了見かのう?ええ!?』
ヤバイ、確実に怒っている。
『メリーは激おこなのです。』
メリーに関しては、両手の人差し指を左右のこめかみに当てて、鬼を模しているが、特に怖くはない。
メリーは怒るのが苦手らしい。
『昨日に至ってはタイムマシンを作ると言っているのに、全っ然返信も無しで何をしていた!?え!?何をしていたっ!?』
蓮子に至っては、怒っているというより暴走している。
手に持っている、電子レンジに何かをくっつけただけのような物体を今にもこちらに投げてきそうだ。
勘弁してくれ、こっちには病人が居るんだ。
『・・・って、何をその子』
病人に気づいたのか、蓮子は持っていた電子レンジのような物体を下に下ろした。
『知り合いの子だよ。病気になったから看病してくれって』
『何で親が看病しないのよ。』
『この子の両親は他界している。引き取った女が面倒な奴で、看病を僕に押し付けてきたのだよ。』
とにかく、今はごまかすしかないな。
道に落ちてたのを拾った・・・等と言えば、間違いなく変な目で見られる事だろう。
『・・・そうならそうと、言ってくれれば良いのよ。』
そう言って、電子レンジを投げ捨てて蓮子とメリーは家に入ってきた。
大きな音と犬の悲鳴が聞こえたが、大丈夫なのか?
『私も看病を手伝うわ。霖くん一人にやらせるわけにはいかないじゃない。』
蓮子の機嫌は収まったようだが、何やら
『随分と風の吹き回しが変わったね。雪でも降るんじゃないか?』
『ほほう・・・この華の女子大生に喧嘩売るつもりかね?良いだろう。戦争だ』
『二人共素直になりなよ・・・』
メリーになだめられながらも、蓮子は乗り気で少女を看病し始めた。
確かに、一人では色々と不安だったが、こう看病に乗り気になってくれるのは良い事だ。
手始めに蓮子は料理を初めて、メリーは少女の頭に濡れたタオルを乗せた。
そして10分後、僕は彼女達を追い出した。
蓮子の作った料理は、異臭と共に激味がしており、
料理を作った跡地・・・台所は、火を付けていないハズなのに、謎の煙が発生していた。
メリーに至っては、タオルを絞ったのは良いものの、
乗せても乗せても落ちてしまうため、しばらく考え、
鉢巻のように巻くことにしたのだ。それも・・・顔全体を覆うように。
『何よー!霖くんのロリコンー!!』
蓮子は舌を出して僕を咎めていた。
『・・・大丈夫なんですか?その子』
メリーはそれでも心配はしているようで、少女を気にかけていた。
『・・・大丈夫だ。僕が何とかする。』
僕はそう答えて、彼女達が去るのを待った。
さて、まずは掃除だ。
一酸化炭素中毒で死んでしまわないように、まずは掃除をなんとかしよう。
翌日
少女は僕の手を握り返すまでも回復した。
ただ、じっと僕の顔を見つめ続ける事もできるようになっている。
以前と比べて、血色も良くなった。
『もう、喋れるかい?』
僕がそう言うと、少女は首を横に振った。
『・・・とも・・・だち・・・・・・』
そう答えた後、彼女は激しく咳き込んだ。
『無理しなくてもいい、今はゆっくり休んでいろ。』
『・・・・・・』
僕がそう答えると、少女は下唇を強くかんだ。
なんだ?何か言いたいことでもあるのか?
・・・・・・思い当たること、思い当たることと言えば・・・・・・
『・・・ああ、今日こそは学校に行きたいのだが、ゆっくり留守番できるか?』
そう質問をすると、ゆっくりだがうなづいた。
『粥はここに置いておくから・・・。よかったら塩と梅干も使ってくれ。』
そう言い残して、僕は学校に行った。
学校から帰ってきたら、粥鍋は空っぽになっていた。
結構な量を入れたはずだが・・・ここまで早く無くなるとは。
『・・・君は、もう大丈夫なんじゃないのか?』
『・・・・・・うん・・・。』
そう言って、布団に潜っている。
モゾモゾ出来る程、回復はしているようだ。
尿瓶も、朝出るときよりも減っている
・・・・・・減っている?
『もしもし、ここに入っていた排泄液はどこに行った?』
『・・・・・・・・・』
『もしかして、もう歩けるまでに回復したのか?』
『・・・・・・うん。』
一度立って見せて貰った所、ヨボヨボだが、立てるようには成っていた。
人間、生きようとすれば何とかなるものだな。と感心した結果だった。
だが、すぐに崩れた。
『大丈夫か?無理言って悪かった。出来ない時は出来ないと言・・・何か君の口アンモニアの匂いがするな』
『・・・・・・・・・』
少女は僕の顔を見てくれなかった。
少女を拾ってから一週間が経った。
もう立てるどころか、歩けるようになるまで回復した。
死に近い所から、生に近い所まで引っ張り上げる事は、自分の生も削る程多大な事だが、
ここまでこれた達成感は、恐らく生きていて一番では無いのか。と思うほど、僕は感動している。
『・・・こうりん・・・』
言葉も、多少舌足らずだが、答えられるようにはなった。
ただ、何故か僕の事を香霖と呼ぶようになったのだが。
『僕の名は森近霖之助。何故香霖と呼ぶんだ?』
『・・・幸倫は、お母さんの名前』
・・・・・・ほう。僕を”お母さん”と見立てて、”こうりん”と呼んだのか。
生憎、僕は男なのだがな。少しだけ複雑な気持ちだ。
しかし、最初と比べると血色も良くなり、
風呂も入るようになると、随分綺麗になったものだ。
街を歩いても、そこら辺に居る童と変わりが無い。
・・・さて、これなら言える。
聞きたかった事を聞ける・・・だろう。
『・・・ところでマヤ、ずっと聞きたかった事があるのだが。』
『・・・・・・・・・』
マヤの顔は、真剣になる。
真剣に、僕の顔を覗き込んでいた。
『何故、あそこで死にかけていたのだ?』
『・・・・・友達を、探していた。』
友達
前にも、そんな事を言っていた気がする。
『村から・・・逃げて・・・。友達と逃げて・・・・・・』
『・・・何で、村から逃げたんだ?』
マヤは、拳を力強く握っていた。
まだ完全には回復していないのか、それはとても弱々しく見えた。
『友達が・・・食べられそうになっていた・・・から・・・』
・・・何?
食べられそうに・・・?
村に妖怪が・・・来たというのか?
『・・・誰に、食べられそうになった?』
『・・・村の皆に』
村のみんなが・・・子供を食う?
『一体、それは何の話だ?』
『私の村・・・人を・・・喰う・・・・・・』
声が、急激に細く変わりつつあった。
『八尺様・・・人を・・・・・・』
そこで、マヤはバタリと崩れた。
どうやら貧血のようだ。鉄分を取らせるのを忘れていた。
友達は、恐らく最初に見た死体の事だろう。
運んでいる途中で死んでしまったのか、体中は腐乱していたのもうなずける。
体中の切り傷は恐らくそのためだ。
『・・・・・・・・・』
その事情を説明すると、マヤはただ頷き
その場で涙を流した。
もう、故郷にも帰れない。友達も居なくなった。
彼女にはもう、すがる物が無くなってしまったのだ。
周りには何も無い。誰も居ない。そんな状況に会えば。人間であれば、耐えられない筈である。
麻耶は僕の家に住み着く事となった。
できることなら学校に行かせたいが、僕にはそんな余裕は無い。
だから少しづつ、僕の知識を彼女に与える事しかでき無いだろう。
『香霖って、頭が良いんだね。』
そう言われると、少し照れてしまう。
学校に行っている間、必然的に留守番させてしまうが、どうしようか。
幻想郷に引き取って貰うのも手ではあるが、果たして受け入れてくれるだろうか。
異常な常識の村で育った彼女は、ちょくちょくおかしな行動を取る。
カラスの死骸で唐揚げを作ったり、集めた虫をすりつぶし、胡椒の代わりにしたり。
一体、どんな生活を送ってきたのだろうか。
なので、必然的に僕が朝、昼、夜の飯を作っている。
ちなみに昼は、事前に作ったものか、カップラーメンだ。
『・・・・・・・・・』
ちなみに今日からまた、月曜日が始まる。
学校へ向かい、授業を受けなければならない。そして秘封倶楽部を監視しなければならない。
もう麻耶も一人で大丈夫だろう。そう思っているのだが
『・・・・・・・・・』
麻耶は、僕の袖を掴んで離さない。
『・・・香霖、学校行くの?』
『ああ、行かなくてはいけない。』
『・・・・・・うん。』
僕がそう言うと、麻耶は手を離した。
『・・・私ね、ずっと待ってるよ。待ってるから。』
『大げさだな・・・。夕方には帰ってくるよ。』
そう言って僕は、麻耶の頭を撫でた。
『うん!』
麻耶は笑った。
思えば、彼女の笑顔を見るのはこれが初めてな気がする。
『じゃぁ、ちゃんと待っていてくれ。』
そう言って僕は、今日も秘封倶楽部を監視するべく
学校へと向かった。
〜蛇足〜
私は、そこで自分の死を受け入れた。
これが運命なんだと、受け入れていた。
だけど、そんな時に貴方が現れた。
貴方が私を助けてくれた。
友達は、死んでいる事は分かったけれども
ちゃんと弔ってくれていれば、それで良い。
警察さんがちゃんとしてくれれば、それで良い。
『でも、最後にさようならは言いたかったな。』
そう、誰も聞いているはずのない言葉を扉に向かって答えた。
『・・・あのね、私ね、ありがとうじゃ伝えられない程、感謝しているんだよ。』
本当に、何を言っているんだろう。
だけど、面と向かってじゃ、今は言えないから。
今、この扉に向かって、私は語りかけた。
『だから・・・とってもありがとう。香霖。私、頑張るから。』
そう語りかけた後、まず私は部屋の掃除から始めた。
【合わせ鏡】
僕の前には鏡がある。
その鏡には、僕の顔と後頭部が映し出されていた。
一枚の鏡に僕の顔と後頭部が映し出されるのはおかしい事である・・・そう何を隠そう。
今、僕は合わせ鏡の中心にいるのだ!
事の発端は、今日の昼休みの話
駒田と昼飯を食べている時の話だった。
『そういえば、昔合わせ鏡の都市伝説が流行ったよな。』
『それだっ!!!』
という経緯で、僕は今合わせ鏡の中心にいるのである。
午前0時、合わせ鏡で何かが起こる・・・と、
それを記録する為に、合わせ鏡のある部屋へと連れてこられた。
『ぬふふふふ・・・。ここで待っていれば、必ずしも妙な事が起こるのは間違いなし!ぬふふふふ・・・』
しかしこの黒帽子、ノリノリである。
困ったな・・・。早く帰らなければ麻耶が泣いてしまうのだが。
『ふにゃぁ・・・私はまだ・・・食べられるよぉう・・・・・・』
メリーはもう既に眠りについている。
見事な物だ。『もう食べられないよぉ・・・』から進化した寝言が誕生した。
『ちょっとメリー!!寝てないで起きて!!』
『うんにゃぁ・・・あれ?満漢全席は・・・?』
『何、わけの分からない事を言っているの。合わせ鏡の時刻まで後30分よ!気を引き締めなさい!!』
蓮子がそう言うと、メリーは明らかにガッカリしていた。
夢の中でも満腹にならなかったと言うのだから、落胆はするだろうな。うん
しかし、この蓮子は妙に張り切っているな。
ビデオカメラ三体も用意するとは・・・今日は本当に本気かも知らん。
『さぁー幽霊地縛霊妖怪神様!!誰でもどーんと来なさいってばよ!!』
30分後
二人の華の女子大生のイビキが部屋に響き渡っていた。
30分前まではあんなに元気だったのに、睡魔には勝てなかったのかグッスリ眠りについている。
『うにゃぁ・・・足りないわよ・・・もっともってこーい・・・・・・』
さすがだ蓮子、『もう食べられないよぉ・・・』から進化したメリーより、更に図太くなっている。
幸せな夢を見ているところ悪いが、僕はそろそろ帰る事にしよう。
もうすでに眠っている頃とは思うが、さすがに家が心配でしょうがないのだ。
立ち上がった拍子に、鏡の中を覗き込んだ。
『・・・・・・・・・』
鏡の奥には、怪訝な顔をした魔理沙が居た。
『・・・参ったな。僕も人間に近づいているのか。睡眠を取らなければ、こうも幻覚を見てしまうとは。』
これは気のせいだ。魔理沙がこの世界に居るわけが無い。増して鏡の向こうに居るわけが無い。
さっさと荷物をまとめて帰ろう。カバンを持って立ち去ろうとした瞬間
『おい!!香霖!!!』
魔理沙の怒鳴り声が聞こえた。
一瞬ビクリとしたが、慌てず、ドアノブを回した。
が、扉が開かない。
『嘘だろ・・・・・・』
『嘘じゃないわ。』
今度は不吉な者の声が聞こえた。
八雲紫 幻想郷のトップの一人の筈の彼女は、よく外界のここに遊びに来る。厄介だ
『・・・何のつもりだ?』
『こういうつもりよ』
更に奥から、霊夢の声が聞こえてきた。
『随分と楽しそうじゃないの?もう何日も外界に居て。』
『たまには帰ってきても良いじゃねえかよぉ!香霖!!』
悪意を感じる。
八雲の紫の悪意を感じる。
『・・・どういうつもりだ?』
『いや、幻想郷の少女達が『最近店主さんの顔を見ていない』とぐずり始めましたので、鏡を通じて対話させてみようかと。』
ほう。
確かに幻想郷は今、どのような事になっているかは気になっていたが、
彼女達の不満は聞きたくない。早く解除を願いたい。
『全く。何日も霖之助さんが居ないから、服を直してくれる人が居なくてもうボロボロなのよ。』
『自分で縫えば良いじゃないか』
『塗っても数時間で縺れるのよ。早くて2分』
いくらなんでも不器用すぎないか?
『もう何でも良いから香霖帰ってきてくれよ・・・。こっちは暇でしょうがないんだよ〜・・・』
『意外だな。魔理沙ならすぐに別の遊び場を探して順応していると思っていたが』
『気に入りの場所が詰まらねぇと、リズムが崩れるんだよ!』
『本当は霖之助さんが居なくて淋しいんでしょ。言っちゃいなさいよ。』
『うっうるせー!!勝手に外界に行った奴なんかどうでも良いやい!!』
・・・僕は漫才を見るためにこの場所に留まっているのか?
また朝が来る。その前に早く帰りたいのだが・・・
『私も大分困っていらっしゃるのですよ。』
次に、紅魔館のメイドと吸血鬼が現れた。
『うかつに店で買い物もできませんし、与太話を貴方と話す事もできませんのよ。』
『僕との会話は与太話としか受け取っていないという事はよくわかったよ。』
『私は、貴方の血が飲みたい時に居ないから気に入らないのだけどね。』
どうしよう、猛烈に帰りたくなくなってきた
『・・・埃もたまってきてるのですよ?掃除するのも大変なんです』
以前来た半霊の子もやってきていた。
掃除してくれているなら、当分帰らなくても済みそうだがな。
『そうだぞ!霖之助!!頻繁にとは言わないが、たっ・・・たまには私達に顔を見せてくれても良いんじゃないか?』
『・・・元々あまり顔を合わせていなかっただろう。たかだか数ヶ月留守にしているだけで、ここまで言われる筋合いは無いよ。』
『おまえ・・・心配して言っているのにぃ!』
慧音の目が雫で潤んできている。
『店主さーん!新聞が溜まってますよー!文々新聞が数ヶ月分、店内に溜まってますよー!』
溜まっているなら、帰ってから一気に読めば、数ヶ月何があったか分かるな。もうしばらく留守にしていてもいいか。
『店主さーん!!そっちの世界で、何が流行っているのか教えてください!店主さーん!!』
早苗さんが、蘭々とした目で僕を見つめている。
『ああ、何だか持ち歩けるプレイステーションビータやら、プレイステーション4やら、WiiUというWiiの進化系のゲームとかが発売されてるよ。後、携帯はタブレット式になった。』
そう言って持っていた携帯を見せびらかすと、羨ましそうにその携帯を見つめていた。
『くぅ〜!絶対に遊びにきますからね!!絶対にそっちに行きますから!その時は泊めてくださいね!!』
『おいちょっとまて早苗!!そっちに行けるってのか?!』
『だったら私も連れて行きなさいよ!!』
『おっ・・・お前ら子供だけでは心もとない。私もついて行かせてもらうぞ!』
『わっ私だって!外界には興味があります!』
『外の世界の食事で生活している半妖怪の血も美味でありそうね・・・』
『外の世界の食器は、どれほど進化しているのでございましょうか・・・』
何だかそっちで盛り上がっている所悪いが、だんだんと透け始めているぞ。
『あら、通信が途絶えちゃったわね。』
完全に見えなくなった瞬間、紫の声だけがその場に響き渡った。
『・・・何のつもりで通信させたんだ?帰省させる為ならご生憎、余計帰りたくなくなったぞ。』
『随分と今を楽しんでいらっしゃるのね。』
楽しむ
・・・そうか、僕はこの世界を楽しんでいるのか。
『だけど、長い時間この世界に留まってもらっても困るわ。貴方は、幻想郷でも必要なヒトですもの。』
『そうかい。だけど僕も、ずっとこの世界に居られ無い事くらいは分かって居るよ。』
あらあら。と紫は微笑む。この微笑みの裏が取れないのが恐ろしい。
『この世界で一人ぼっちだとすれば、僕はこの世界を嫌っていたかもしれん。だが、彼女達を監視する事で多くの友人が出来た。家族も出来た。』
『・・・家族?』
『いや、居候かな。』
一瞬、紫の表情が冷め切っていたが、すぐに下の微笑みに戻った。
『幻想郷も、僕にとっては掛け替えのない世界だが、この世界でも大切な物を作りすぎた。だから、帰るのはもう少し先に伸ばしてくれないだろうか。』
そう言うと、紫はしばらくだまり、そしてスキマを作り出した。
『私は別に、貴方を幻想郷に引き戻すつもりはありませんわ。』
そう言って、スキマの中に身体を移動させる。
『まだ引き続き、彼女達の監視をお願いしますわね。』
『待て、何故先ほど幻想郷に通信したんだ。』
『言ったでしょう。幻想郷の少女達は、貴方の帰りを待っているの』
そう言い残した直後、スキマは紫を包んだ後、消えてしまった。
『・・・・・・』
この世界でも大切な物を作ってしまったが、
幻想郷にも大切な物を置き去りにしたままだ。
『どう決めるかは僕次第・・・か。』
また、帰省出来る程の休暇を頂いた時には、何か手土産を買って
僕の大切な物と、また何でも無い事を語り合う事にしよう。
外の世界を聞いて、彼女達は何を驚くか楽しみだ。
〜蛇足〜
『うっがー!!何も映って無いじゃないのー!!!』
ビデオカメラの三体程、何度もチェックしたところ、幻想郷の彼女達は映っていなかった。
恐らく紫が、ビデオカメラの映像を抹消したか、自分たちを撮さないように工夫したか。
しかし、声も録音されていないとは。驚きだ。
『うう・・・結局、硬い床でぐーすか寝てただけなの・・・?』
蓮子がウンザリしたようにガクリと肩をおとした。
今までの調査のほとんどが無駄だったように、今回もまた無駄だっただけだ。
結局あの後帰ったら、まだ麻耶は起きていて
大泣きされたから、宥めるのに結構必死だったのだがな。
結局は、ほとんど眠れなかった。
『・・・・・・あれ?』
メリーが、映像の一部を覗き込み
『ん?どうしたの?メリー』
『あの・・・これ・・・』
疑問に思った映像を、蓮子に提出した。
『・・・・・・え?』
そこに写っていたのは、
合わせ鏡の向こうの鏡に、一人しか写っていない。
こんな事有り得ないという、不可解な人物が起こっていた。
何が不可解かと言うと・・・
『こ・・・これ・・・・・・』
こいつは、”幻想郷の住民”じゃないからだ。
『心霊映像!心霊映像じゃない!!無駄じゃなかった!私達の調査は無駄じゃ無かったのよぉ!!』
つまり、”本物の幽霊”が映ってしまった・・・という事だ。
本物の幽霊といえば、彼女達と出会った時の事を想い出いた。
あの時もまた、映像に映っていた幽霊を期に、僕は秘封倶楽部へと招待されたのだ。
そのお話は、また別のお話で紹介するとしよう。
その時の出会いは運命であり、奇跡であり
そして・・・最悪の悲劇だった。
ちなみに、今回映っていた幽霊はただの浮遊霊だったことが判明し、
三日間の調査は呆気なく終了。
また、いつも通りの日常が繰り返されるのであった。
―続―
時期列的にいえば、五話の後のお話です。
他の世界と比べて、比較的平和な世界の4つのお話を展開させました。
本当は5つの話にする予定だったのですが、5話が予想以上に話が大きくなりそうなので、
洒落怖秘封霖【非公式】 0話 というタイトルで次回に伸ばすことにしました。
また間隔が空けられますが、次回の話があったまた見てください。それでは!
ND
- 作品情報
- 作品集:
- 8
- 投稿日時:
- 2013/09/13 15:39:30
- 更新日時:
- 2013/09/14 00:39:30
- 評価:
- 3/4
- POINT:
- 330
- Rate:
- 14.20
- 分類
- 森近霖之助
- 秘封倶楽部
- 洒落怖
- 宇佐見蓮子
- マエリベリー・ハーン
- 短編集
いわゆる、惨劇統合後の平和な世界での後日譚、あるいは新シリーズの序章かな?
例の喫茶店、ピラフもあったんですね。早速検索して写真を見ましたが、そのまんまでした……。
ボタンの話は、各キャラの個性が出てましたね……、で新キャラが登場と。
また、異界への門が開かれる予感……。
幻想郷と外界の両方にかけがえのないモノができた半人半妖。
選択によって、IFという名の世界が広がるのでしょうね……。
このシリーズ、今後も楽しみにしています。
麻耶は幻想郷に連れて行った方が良さげな気もするが果たしてどうなるか。