いじめ（悪い）

設定：東方キャラが女子高生なんだよもん。




クラスの中では、四人はよく連れ立って歩いているように見えただろう。
事実、彼女たちは最近、まとまっていることが多かった。
だが、それは同じグループに属しているとみなせるだけであり、どういった関係を持つかまでは、よく見ないと分からないだろう。
その中の一人、優曇華院 鈴仙は、暗い影をその表情に落としていた。
まだ空は青い時間帯だが、次第に暗くなっていくことを示すように、やや赤みを交えつつあった。今日の授業も、全て終わった。
「ふああ、最後が数学だと頭が回らないぜ」
鈴仙の前の席の魔利沙が伸びをしながら言うと、その隣の早苗は、あら昼過ぎだったらあなた寝るでしょう、と返した。
「じゃあ、遊びに行こうか」
魔利沙が無邪気に鈴仙の顔を覗き込む。無言でその目を見つめ返す鈴仙の顔は、やはり暗い。
三人とは少し離れた、教室のやや後ろ、窓の近くの席に座っていた霊夢が立ち上がった。それと共に、伸びる膝の裏でに押されて必然的に後ろに下がった霊夢の椅子は、ンゴーと独特の音を床から発する。
鈴仙にとって、処刑開始の鐘の音にも等しい音だ。
グループ内の立ち位置は、狼の群れと、哀れな一匹の羊。いや、一匹の兎というべきか。すなわち、簡単に言ってしまえば単なるいじめの構図である。
どうしてこうなってしまったんだと鈴仙は考えたことがある。
危険なものには触るべきではなかったのだ。いや、そもそも触ったかどうかも怪しい。正直なところ、きっかけなど些細なことだ。爆弾だって信管を作動させない限り起爆しないように出来てるじゃないか。
まず、最初の“羊”は姫海堂はたてあった。
確かに、学級新聞の記事を追い求め、常に携帯電話のカメラ機能を弄り、所構わず撮影していた彼女は、クラスの中でも鬱陶しい部類に入る存在だった。
そうして気づいた時には、霊夢、魔利沙、早苗の玩具にされていた。
そして彼女は、脆かった。
玩具としての遊び方がえげつないものだったことも相まって、
彼女が学校に来なくなるまでには、さして時間がかからなかったのである。
「あーあ、はたてがこなくなっちまった」
「元々インドアな方でしたからねえ」
などと会話をしている三人に、何となしに、
「まあ壊れるような遊び方をされたら当然ね」
と呟いてしまった。
この言葉に対して、別に怒りを買ったわけでもないし、鈴仙の方にも悪意は全くなかった。
ただ魔利沙は思ってしまったのである。
鈴仙でもよいのではないかと。
その日から鈴仙は、二人目の、はたてになった。
あまり公になるのはよくないですからと一応早苗は止めていたが、それでも鈴仙はその日のうちに顔面を殴られた。
最終的には、求められてもいないのに、鼻血を出しながら土下座していた。あまりにも理不尽かつ一方的な暴力に、体が自然とそう動いていたのである。
ごめんなさい、やめてください。
便所の床に血を垂らしながら許しを乞う鈴仙を、魔利沙と早苗は楽しそうに見下ろしていた。霊夢はややつまらなそうに、その光景を眺めていた。



放課後に四人が集まったのは、人があまり来ることがない、旧校舎との連絡通路付近にある女子トイレであった。
ここでは、いつも玩具が弄ばれている。
入り口から最も遠い個室の洋式便器に、鈴仙は頭を突っ込まされていた。後頭部の髪の毛を鷲掴みにして頭を押さえつけているのは魔利沙だ。
魔利沙は、いじめに関して、相手を苦しめるためには躊躇がなかった。汚水に触れることもお構いなしだ。ある意味で無邪気さを突き抜けていると言えた。だからこそ、魔利沙に遊ばれる玩具は、より悲惨なことになるわけだが。
「魔利沙さん、汚いですよ、えんがちょですよそれ」
「ははは、汚いことも承知の上さ、承知でこうやって遊んでやってんだ。聖人にでもなれそうだぜ、私は」
「ゴボッ、ゴボボ」
悲鳴を出すことも、許しを乞うこともできない。もっとも、それができたところで、魔利沙達を喜ばせるだけにしかならないのだが。
苦しくなって、鈴仙が暴れる。息が持たない。
そういう絶妙なタイミングで、髪を鷲掴みにしている魔利沙が顔を引き上げて、息継ぎをさせる。
そして、すぐに、ばしゃりと便器に顔を鎮めるのだ。
「大分上手くなってきたんじゃないか？息が続くようになってきたぜ」
「ゴボゴボゴボ」
魔利沙は、沈める感覚を次第に長くしている。
計っているのだ、鈴仙の限界を。
鈴仙の意識が遠のきかけた。
そしてざばりと引き上げられる。
「やめてほしかったら、やめてくださいって、お願いしろよ」
溺れる直前に、引き上げられる。
「はひ、は、やめゴボボッ」
バシャリ。言い終わる前に、沈められる。
言わせない。
もとい、言わせる気が無く、楽しんでいるのだ。
やはり、すぐには解放されないらしい。鈴仙は絶望した。
そうして何度も水責め紛い、いや、水責めそのものを繰り返された後。
早苗や霊夢が飽き始めて来た頃に、魔利沙は言った。
「飲めよ」
冷酷な台詞だ。
一秒にも満たない時間ほど遅れて、意味を理解する。
「うわあ、えげつないですね、それ」
「飲んだらやめてやっから、飲めよ」
怯えた目を魔利沙に向ける鈴仙は震えるだけ、されるがままだ。
だからこそ、彼女は、このような目にあっているのだが。
バシャッ！
「ゴボゴボッ、ゴボッ」
汚水に顔を沈める遊びが再開した。
「飲んでみろよ、なあ」
力の駆け引きである。相手を力、態度、その他、自分が、屈服させ、自分の言った通りにさせる。
その快感を、魔利沙は成そうとしていた。
そして二呼吸ほどの間があった後、
ゴクッ。
頭を押さえつけている魔利沙の手に、筋肉の動く感触が感じられた。
嚥下した。鈴仙は、間違いなく便所の水を嚥下したのだ。暴虐から逃げるために、暴虐を受け入れたのだ。
「ひゃはっ、こいつマジで飲んだぜッ！」
「あーあ、これで中身まで汚くなってしまいましたね」
「もっと飲めよ、そしたらもう終わりにしてやるよ」
そして鈴仙は、三度便所の水を喉に通した。
自分は泣いている、と自覚はしたが、涙と汚水の区別は、まったくつけることができなかった。



別な日。
この日は、
「最近買ったこいつを試してみたかったんだ」
スタンガンであった。
「あんたねえ」
関心を乗り越えて呆れたという顔で霊夢が言った。
「それ、なんか目盛の位置、おかしくありません？」
魔利沙の持つスタンガンの目盛の位置は、最大値を大きく飛び越え、振り切れていた
「いざというとき、ほんとに効くかわからねーからな、ちょっと弄って200％の出力にしたんだぜ。電撃はパワーだぜ」
ビシビシッ！！
スイッチが入ると、危険を感じさせる火花が散った。
「ひっ」
怯えた目で鈴仙が、電極の間の青白い帯を見る。
いくらか改造されているというそれは、過剰な放電で焦げ付いた臭いすら漂わせていた。危なくないよう調整されて作られた道具が、危ないように再調整されているのだ。危なくないわけがない。
「そんなビビんなって、案外なんともねーかもしれねーだろ」
「い・・・や・・・」
鈴仙の涙目と、蚊の鳴くような抵抗の声が、嗜虐心を、それこそスタンガンの火花のように散らせたのであった。
「おらあッ！」
ドン！
「あぎゃッ！！！！」
電極で首を殴るような押しつけであった。
鈴仙がぴんと体を伸ばすように硬直したのと、スタンガンとは反対側に弾かれる動作は、ほぼ同時だった。
倒れる鈴仙がそのまま床に頭を打ち付けるかに見えた寸前、早苗が腹を蹴り上げていた。
ボスッ！
「おぐッ！」
一瞬持ち上がることで、落下の衝撃を免れる。早苗としては、玩具にここで重症になられては困るのだ。
「魔利沙さん、もう少し気を付けて下さいよ。喧嘩の死因で多いのは、殴られた怪我じゃなくて、気絶して床に頭をぶつけた時なんですから」
「は、ひ、か・・・」
息ができないまま、鈴仙はミミズのように蠢いた。スタンガンの持つ、人間の動きを制圧する特性と、腹への衝撃、そのどちらも理由と言えるだろう。複合効果でもあるかもしれない。
意識も朦朧としたまま、口をぱくぱくとさせる。肺に空気が入っていかない。喉の筋肉が震えるだけ、口からは涎が垂れ流しになる。
「これ、早苗が蹴ったからどっちの効果かわかんねーや」
「少なくとも、ぶっ倒れたのですから、効果はあると思いますよ」
「おい、なんか言ってみろよ」
「は、はしゅへ・・は・・ひ・・・」
「なんだって？」
「あぅ、ふ・・・へ」
言葉が上手く出せない。横隔膜もうまく動かない。
「あー、だんだん息できるようになってっか」
「じゃあ安心ですね、今日のところは帰りましょう」
「オメー早く立って追い付けよ、そうじゃないとまたこいつだからな」
そういって、スタンガンをくいっと、持ち上げる。
それが鈴仙の視界に入っているのかは定かではない。魔利沙達の方を見てはいるが、それどころではなかった。
「今日はここまでといったところでしょうか、それ大分強力なんじゃないですか？」
「うーん、これじゃ護身用にこのスタンガンを持ってた方がいいのか、早苗を持っていた方がいいのか分からないぜ」
「そういう時は、どっちも持っていればいのよ」
「なるほど、霊夢のその考え方は好きだぜ」
そして、今日はもうこいつにも休ませてやらなきゃな、と言うと、便所の入り口
「ひ、は・・・」
鈴仙はまだ息ができない。
涙と鼻水と涎を垂らしながら、鬼にでも救いを求めるかのように、倒れたまま腕を伸ばしていた。
「たひゅっ、はひ・・たひゅけ」
行かないで。
このまま自分は死んでしまうんじゃないだろうか。
その恐怖で、また息が乱れる。
魔利沙達は立ち止まらず、出口を出ていき、見えなくなった。
鈴仙は目の前が真っ暗になった。



また別な日。
「ここに、こいつを試してみたくなった」
魔利沙が鈴仙の下腹部を、スタンガンの先で指し示しながら言った。
ここ、とは。この場にいる者全てが悟った。恥部である。秘所である。
「相変わらず、ずいぶんえげつないことを考えますね」
「ひ」
そこに、されることを想像して、鈴仙の上下の奥歯が震える。
「おい、動くんじゃねえよ」
魔利沙が制する。
鈴仙は、動くことができない。
走って逃げるなどということは考えることができなかった。そのあとどんな目に合うか想像できてしまうからだ。とはいえ、逃げなくても待ち受けるものは変わらない。
哲学者の言う、悪と最悪の天秤であった。
まだ電流を宿していない電極の先が、そこに触れる。
びくりとして、鈴仙の体が硬直する。
目盛が指しているのは、やはり、出力２００％だ。
「流石に壊れちゃうんじゃないですか、それは」
「大丈夫大丈夫、焼き切れて使えなくなるかなって思ったけど、これ結構頑丈なんだ、案外そうでもなかったぜ」
「多分、それのことじゃないと思うけどね」
執行者側の三人は会話を続けているが、やめる気は無いらしい。
銃口を突きつけられたも同然の状況に、短い抗議の声を出すことしかできない。
「や、やだ」
威力は身をもって知っている。
「死ぬ、死んじゃう・・・」
「死にはしねーだろ」
ビシッ。
「おぼおッ！！ぎいっ」
飛び跳ねた。
そのまま膝を折って崩れ落ち、呻き声を上げながら仰向けになって痙攣する。
「いだああああああっ！！」
あまりの激痛に、涎を垂れ流しにしながら、叫び声を上げる。
「ひい、ひい、いだ、いだいいいい」
寄生を挙げて股間に手を当てて悶える鈴仙の動きは、女の自慰のそれに見えた。
痛みを逃すすべがなく、体を動かすしかないのだ。
「すげえ、すげえ面白れえよ！」
「艶めかしいですね。これ毎日やってあげたら、そのうち感じ始めるんじゃないの？」
「明日からやってやろうかな、こいつに慣れることがあるのか気になるぜ」
「やめ、やべてえっ、いだ」
鈴仙の手に、生暖かい感触が広がった。
漏らしている。
「あらあら、そっちのも緩んじゃうみたいですね」
「さっすがパワー２倍の護身グッズだぜ」
はしゃぐ魔利沙に、で、どうすんのよこの後、と霊夢が言う。
「うーん、もう威力は分かったしなあ、おい早く立てよ、臭いからトイレでパンツ絞れよ」
「うう・・・」
電流の痛みが抜けず、まだ鈴仙はもぞもぞと動いていた。
「早くしないと、次は脱がして直接マスタースパークだぞ」
と、魔利沙はスタンガンを鈴仙に見せつける。鈴仙の目が見開かれる。
「ひ、嫌、やめて・・・」
もう一度あんなことされたら、本当に下半身がおかしくなりそうだし、次に漏らすのは小便ではすまないだろう。ふらつく足で慌てて立ち上がろうとする。
しかしうまく力が入らず、すぐにべしゃっと転んでしまう。
「へー、腰が抜けるって、こういう事を言うんですね」
早苗が感心するように言いながら、爪先で鈴仙の脇腹をつついた。
「ひ、ひい」
慌てて立ち上がると、個室に蹴りこまれる。
「じゃあな。先にマック行ってっから、カラオケ行くときにまたメールするぜ」
魔利沙がそう声をかけるのと同時に、鈴仙の尻にスタンガンを当てた。
バシン！
「あぎひぃっ」
背筋をぴんと仰け反らせた後、鈴仙は意識を失った。小便で湿ってたため電気がよく通ったのだ。
ぷりぷりぷりぷり。
そして、排泄音。
「魔利沙さん、なにしてるんですか。これじゃ鈴仙さん臭くなってカラオケ来れなくなっちゃいますよ」
「わりぃ、ついいつもの調子でやっちまった。今日は三人で行くか」
言いながら魔利沙は個室のドアを閉める。
「そうしましょう。霊夢さんはあまり歌を歌わないので、物足りなくなりそうですね」
「霊夢はテレビ見ないからなー」
「ええっ、霊夢さん、テレビを見ないＪＫは時代に取り残されちゃいますよ」
声が遠ざかっていく。
そして暫くして、便所が静かになり。
ぷりり
微かに排泄音だけがしたのであった。



いつもの便所。
ここに集まる日常が何週間目かは、少女達の誰も、気にしてはいなかったし、正確には分からない。
その日はいつもとは様子が違っていた。
「ごめんなさいやめてくださいすみませんゆるしてくださいたすけてください」
「はあ？何お前どうしちゃったんだ？」
「ごめんなさいやめてくださいすみませんゆるしてくださいたすけてください」
「ぶっ壊れてしまいましたかね、ここが。」
自らのこめかみに、人差し指を当てて、早苗が、まあ結構痛めつけましたからね、と続ける。
「困っているのよ」
普段の様に、ぽつりとだけ霊夢が呟く。
「ごめんなさいと言ってどうなるものでもないしね。どうすれば助かるのか分からない、けど助かりたい。ひたすら言い続けるしかなくなったから、こんなんなってるのよ」
そうして例を示すように、命令した。
「土下座しなさい」
鈴仙は躊躇なく土下座した。
「床を舐めなさい」
鈴仙は躊躇なく、土下座の姿勢で床に舌を這わせた。
「おしっこしなさい」
鈴仙は躊躇なく、土下座の姿勢で失禁した。
「パブロフね。これは犬じゃなくて兎といったところだけど」
これで許してくれますか、といった、怯えと若干の媚びの混じった顔で、鈴仙は霊夢を見上げた。
口元がうっすらと笑っている。
「こいつ、面白いことになってんなー」
「霊夢さんの解説はわかりましたけど、ぶっ壊れてるじゃないですか」
「おい、じゃあ吐いてみろよ。そしたら今日は、ここ出て遊びに行こうぜ」
玩具の新しい遊び方を見つけた魔利沙は、さっそく楽しむのだった。
もはや何の感情も表していない顔で、鈴仙は立ち上がりもせずに、上半身だけを起こすと、やや這うようにして洋式便器の前に移動した。そして、思い切り喉に指を突っ込んで嘔吐した。
それを見て楽しんでいる者たちの会話は、彼女の耳にはもう入っていなかった。