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『たゆたうレミリア』 作者: NutsIn先任曹長
レミリア・スカーレットはたゆたっていた。
たゆたう。
そう、流水が弱点の吸血鬼には無縁の感覚。
以前、親友にして紅魔館の知恵袋である魔女、パチュリー・ノーレッジに無理を言って、手間のかかる魔法で図書館内に創造した『海』で泳げるようにしてもらったのだ。
浮き輪に尻を嵌め、ちゃぷちゃぷと。
『海』の水が冷たいのはいただけなかったが、あの感触はなかなか乙なものだった。
知らず知らずのうちに、にへらと笑顔になるレミリア。
眼前に、少女がいた。
だれ?
あ?
ああ。
思い出した。
あの黒髪に赤いリボンと揉み上げの飾り。
幻想郷を護る博麗の巫女。
そして、私的にはレミリアの親友。
博麗 霊夢だ。
霊夢はレミリアに背を向けた。
ふざけた笑顔に気を悪くしたのか?
いや。
霊夢は、レミリアを見て、
泣きそうになっていた。
れいむ、まって。
レミリアはそう叫んだ。
つもりだった。
だが、声は出なかった。
かすれ声一つ出なかった。
この間隔に、レミリアは覚えがあった。
ああ、夢か……。
そう思い、納得したレミリア。
彼女の意識は、安堵と共に闇に堕ちた……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
レミリアは眼を開けた。
視界に、彼女の忠実な従者である、紅魔館のメイド長を勤める十六夜 咲夜がいた。
だが、レミリアはあの女を咲夜だと認められなかった。
レミリアが知っている咲夜は、瀟洒が服を着て歩いているような、従者の鑑のような女のはずだ。
だが、あの女は獣の顔をしてメイド服を脱ぎ散らかしていた。
「ひ……、ひぃぃ……」
レミリアの引きつった喉からあがる、か細い悲鳴。
情けない。
夜の皇たる、このレミリア・スカーレットが恐怖するなど。
悲鳴に気付いた咲夜もどき。
ヘッドドレスにストッキングにそれを止めるガーダーベルト。
それだけ身に着け、控えめながら形の良い両胸も、股間の潤った銀の茂みも露にした咲夜もどき。
にたり。
下衆を少ないパーツで見事に表現して見せた嗤い顔。
「ひ、や……、ぁああ……」
レミリアは、決壊した。
チョロ……、チョロロロロ……。
レミリアは下半身に温もりを感じたが、ソレは直ぐに冷え、不快と羞恥を残した。
にいぃぃぃ……。
咲夜もどきの笑みは、より濃く、醜悪になった。
あらあらお嬢様、はしたない……。
身動きの取れないレミリア。
咲夜の声をした咲夜もどきに、易々と衣服を剥ぎ取られてしまった。
下半身は失禁した小水で、上半身は汗でしとどに濡れていた。
汚れたレミリアの幼い肢体を嘗め回すように検分する咲夜もどき。
すぅぐに、キレイキレイにしますからねぇ。この咲夜めにお任せを……。
硬く眼を閉じ、涙と、咲夜を冒涜する偽者の姿を眼球から締め出すレミリア。
顎をつかまれた。
唇を、奪われた。
「!!」
ごくん。
驚いた拍子に口を開けたレミリアは、咲夜もどきに何か口移しで飲まされた。
「な……に……?」
「お嬢様のご気分が良くなるおクスリですわ」
ベッドに乗り、レミリアに跨る咲夜もどき。
急速に意識が遠のき始めた。
たすけて、しゃくやぁ……。
従者に助けを求めたレミリアの意識は、闇に没した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
レミリアは愛用の日傘を差し、紅魔館の門前にいた。
そこでは、門番の紅 美鈴が珍しく働いていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!!」
惜しむらくは、美鈴がしているのは門番ではなく、何かの売り子だった。
「美鈴、何をしているのかしら?」
「あ、お嬢様!! どうです、お一つ?」
美鈴は、湯気の上がる蒸篭から一つ、中華まんを取り出した。ムキュ。
レミリアは、当然のようにソレを口にした。
「美味しい肉まんね」
「もひとつ、どうぞ♪」ムキュ!!
再び頬張るレミリア。
「私も食べよっと♪」ムギャァァァッ!!
美鈴は、レミリアが食べているものよりも大きな中華まんを一口で平らげた。
レミリアは、さっきから騒々しい蒸篭の中身が気になった。
中身は薄々分かっていたが、自分の目で確かめたくなった。
ニコニコしている美鈴の前にある蒸篭の蓋を、レミリアは両手で取った。
そこには、レミリアの親友にして地下図書館の館長である、パチュリー・ノーレッジがいた。
パチュリーはお饅頭だった。
巷では、幻想郷の有名人を生きた饅頭に例えて風刺する小説やポンチ絵(漫画)が流行っているそうな。
(ちなみに、一番扱いが酷いのは、博麗の巫女と普通の魔法使いを模した饅頭である)
だが、蒸篭に嵌っているのは、頬と腹と乳房を毟り取られて蒸されている、身体を丸くしたドロワ一丁のパチュリー本人だった。
「むきゅぅぅぅ……。レミィ、食べすぎよ」
「ごめんなさい、パチェ。だけど一番食べたのは美鈴よ」
「すいません。お詫びに新製品をどうぞ♪」
美鈴は、両手に中華まんを二個持っており、それぞれレミリアの手とパチュリーの口に渡した。
「これも美味しいわね」
「むきゅむきゅ……。美味しいわぁ」
パチュリーの傷は塞がり、脂肪の塊のようなおっぱいも欠損部分から新たに生えてきた。
「小悪魔ん、大好評ですよ♪」
「こぁぁぁぁ……」
いつの間にか置いてある二つ目の蒸篭。
中では案の定、パチュリーの使い魔である、地下図書館の司書、小悪魔が蒸しあがっていた。
仏頂面の小悪魔を見た三人。
美鈴は笑った。
蒸篭から身を起こしたパチュリーは笑った。
レミリアは笑った。
レミリアは、大して面白くも無かったが、
腹を抱えて笑った。
涙を流して笑った。
状況のおかしさに、笑うしかなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
レミリアは、寝室のベッドに横たわっていた。
室内で文庫本を読んでいたレミリアの妹、フランドール・スカーレットは、レミリアに尋ねた。
「何か食べる?」
「プリンが食べたい……」
「だってさ」
レミリアが寝ているベッド脇のサイドテーブルに、いつの間にか、黒いカラメルと白いクリームがかかった、黄色いカスタードプリンが置かれていた。
だが、好物を目の前にしながら、レミリアの体は動かなかった。
フランはレミリアの側に行くと、枕をいくつか使って背もたれを作り、レミリアの身体を起こした。
銀色のスプーンを手にしたフランはプリンを突き崩し、一匙分をレミリアに差し出した。
「お姉様、あーん」
「気持ち悪い」
「まだ気分悪いの?」
「フランの態度がね」
「銀のスプーンで殺された吸血鬼として、天狗の新聞に載りたい?」
「それは笑えない冗談ね」
力なく笑ったレミリアは、ようやく口を開けたままにした。
甘味が、味が、感じられない。
食感やひやりとした感触で、確かにプリンは口に入っていた。
「味が、しない……」
「でしょうね」
「フラン、私の味覚を破壊した?」
「能力使わないで、お姉様の舌を引きずり出したほうが早いわよ」
再び笑ったレミリアに、プリンを食べさせるフラン。
味気ない甘味を完食したレミリアは、食器を置いたフランに尋ねた。
「ところで……、私、どうしたのかしら?」
「呆れた……」
レミリアは、屋敷の客間で霊夢とお茶をしている時に倒れたそうだ。
高熱を出したレミリアは、直ちに寝室に運ばれた。
霊夢はしばらく付き添っていたそうだが、咲夜に丁重に退去を命じられたそうだ。
永遠亭から招聘した、月の頭脳と呼ばれる天才医者、八意 永琳にレミリア診察してもらった。
診断結果は『過労』だった。
インフルエンザのようなウィルスではなく、疲労からくる体調不良だ。
年度末の大量の当主の仕事に、レミリアの健康は損なわれた。
これは、レミリアが12月になるまで仕事を溜め込んだせいなので、自業自得と言えよう。
「面目ない……」
「書斎にあった書類の山、半分くらいやっといたから」
「この借りは、いつか必ず返すわ……」
「じゃあさ、紅魔館(ウチ)でクリスマスパーティーやってよ!!」
「え゛えぇぇぇ……。わ、分かったわよ。好きになさいな……」
「やったぁ!! お姉様、愛してるぅ☆」
感極まったフランはレミリアをベッドに押し倒した。
「妹様、お嬢様はお体が本調子ではないので程ほどに……」
姉妹の戯れを60秒きっかり目に焼き付けた咲夜は、フランをたしなめた。
「はぁい♪」
フランがどくと、今度は咲夜がレミリアの側に来た。
「お嬢様、お加減は?」
「良くなったみたいね……」
今度は自力で半身を起こすレミリア。
「お薬です。お飲みください」
解熱剤や栄養剤、『希少品』が封じ込まれた赤いカプセル等を、咲夜はレミリアの口に入れた。
レミリアは、咲夜から受け取ったコップの水を、一息に飲み干した。
「ふぅ、もう一杯、お水ちょうだい」
「お姉様、そんなに飲むと、またオネショするわよ♪」
「!? ごほっ!! げほっ!?」
フランの言葉に、レミリアは二杯目の水で咽てしまった。
「あら、メイド妖精かホフゴブリンの誰かが噂していましたか?」
「咲夜がお姉さまの部屋からシーツやパジャマを持って出てきたのを見かけたから♪」
「そうでしたか」
もしフランの情報源が噂話だとしたら、使用人の何名かが咲夜に粛清されていただろう。
「しゃくや……、正直におっしゃい。その、私は……」
咲夜はクスリと笑った。
「お嬢様、汗を大量にかかれましたから、シーツの交換とお着替えをさせていたしましたわ」
脱力するレミリア。
「お嬢様、お眠りくださいな。夕食の時間になりましたら、またお伺いいたします」
「そうするわ。おやすみ、咲夜、フラン……」
レミリアは眼を閉じた。
「妹様、私達も失礼しましょう」
サイドテーブルに水差しとコップを残し、プリンが盛られていた食器をお盆に載せながら、咲夜はフランに言った。
「あ、そうだ。これ、咲夜の?」
かちゃん!!
お盆の上で食器が踊った。
「妹様、コレをどこで……?」
「お姉様のベッドの下。こんなスケスケレースのパンツ、お姉様のじゃないわよね〜。咲夜の淫らな匂いのするお汁で湿ってるし♪」
フランは手にした大人用のショーツを鼻に当て、わざとらしく嗅いでいた。
「妹様、この咲夜めに何かご用命はございますでしょうか?」
「ははっ!! 主に発情した雌犬め!!」
「この件は内密に……」
「クリスマスに紅魔館でパーティーやるんだけどさぁ、私、でっかいケーキを友達と食べたいなぁ♪ 天辺にサンタの爺が乗っかってるヤツ」
「この命に代えても、御作りいたします」
「あ〜、死んじゃ駄目よ♪ お姉様、泣いちゃうから☆」
商談成立と、フランは手にした下着を咲夜に投げ渡した。
妹と従者が退室し、静寂が訪れたレミリアの寝室。
だが、まだ起きていたレミリアの心中は穏やかならざるものだった。
(夢じゃ……、夢じゃなかった……!!)
(いえ、今のは夢。今のも夢!!)
(咲夜がえっちぃ事をしたのも……)
(フランが知っていながら、それを咲夜との取引に使ったのも……)
(全部夢!! 夢に決まっている!!)
(そう……、これは……、夢……)
まだ疲れが残っているからか、薬に眠くなる成分でも入っていたからか。
レミリアの意識はたゆたい、夢の世界に旅立った。
幸か不幸か、寝る間際の自己暗示のせいなのか、
獏かハクタクに食われでもしたのか、
次に目を覚ますまでに、レミリアの『悪い夢』はキレイさっぱり、記憶から消え失せたのだった。
最近めっきり寒くなりましたね。
読者の皆さんも、体調管理には気をつけてください。
2014年1月15日(水):コメント返し追加
>県警巡査長殿
実際には、本場中国の豚まんを作るんでしょうねぇ。
ユッフン、ケイサツノイヌノブンザイデコノマリササマニカテルワケ……ユンヤァァァァッ!!!!! マリサ? ホンキダシテジジイヲコロシテイインダヨ……レイムハニゲルヨ!! ソローリソローリ……ユギャアアアアアッ!!!!!
>ギョウヘルインニ様
お姉様思いでしたたかなフランちゃんの勝ちに、異論はありませんよね♪
>本妻はつひ様
過労怖いね〜。
そうならないように、お仕事やお勉強は、計画を立ててやろうね♪
ほのぼのどうも☆
>まいん様
見えない物が見える者は、見えない振りが上手くなる。
ナンセンスはちょっと不得手なんですが、お楽しみいただき光栄です。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2013/12/01 12:08:15
更新日時:
2014/01/15 00:04:08
評価:
4/5
POINT:
400
Rate:
17.00
分類
レミリア・スカーレット
博麗霊夢
十六夜咲夜
紅美鈴
パチュリー・ノーレッジ
小悪魔
フランドール・スカーレット
美鈴の作る饅頭がどんな味なのか想像したらお腹がへってきますね…。一回だけでもいいので食べてみたいものです。
(霊夢と魔理沙の饅頭につきましては、危険物扱いとして近くの交番に突き出しておきました。)ゴメンネオマワリサン
なんだかんだいって、レミリアも毎日を謳歌しているのですね。
お気遣い、ありがとうございます。先任曹長さんもどうぞお気をつけてお過ごしください…。
でも怖い描写、悪夢の描写の中にも根底はほのぼので素敵でした。
こんな作品もいいですねえ………ごちそうさまでした!
二番目(饅頭)のナンセンス話が個人的に好きです。こう、精神にクる感じが心地良いです。