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『先代巫女と愉快な仲間達〜博麗神社でお留守番編〜』 作者: NutsIn先任曹長
「準備できたかしら?」
「何か、窮屈な感じ……」
「ふふ。普段は脇を出しているから、外界の服をそう感じるのかしらね♪」
着飾った八雲 紫と博麗 霊夢が寝室から出てきた。
「まぁ、イケてるじゃない♪」
「霊夢も紫さんも素敵ですよ」
居間で待っていたのは、霊夢が普段着用しているものと若干デザインが異なる巫女服姿の美女と、外界の普通の格好をした中年男性だった。
「それじゃ、私達が留守の間、博麗神社で留守番しててね♪」
「母様、父様、お願いします」
紫は鷹揚に、霊夢は頭を下げて、二人――霊夢の両親、つまり先代巫女夫妻に、留守番を依頼した。
「母さん『達』に任せなさい。『大掃除』もしておくわね♪」
「気をつけていってらっしゃい」
霊夢は防音の札が貼られた障子を開けた。
途端に、耳をつんざく爆音が轟いた。
紫と霊夢は多少顔をしかめながら、玄関に置いてあるキャスター付きトランクを引っ張って表に出た。
境内を行き交う、武装した人々。
幾つもの仮設テント。
整然と駐車している、数台のRV車。
先程から聞こえている轟音が、風を伴って、より大きくなった。
丁度、仮設へリポートにヘリコプターが着陸するところだった。
ヘリには、武装した連中が身に着けているプレートキャリアに貼り付けてあるワッペンと同じ文字がステンシルで書かれていた。
『THE WATERDUCTS』
――表向きは八雲 紫が外界で経営する多国籍企業『ボーダー商事』傘下のPMC(民間軍事会社)であり、その実態は、様々な状況下での戦闘、特に対幻想戦に秀でた紫の私兵である。
略称は、『TWD』。
TWD社の社長兼実行部隊の隊長は、紫直轄の部署の部長である先代巫女が兼任している。
年末、冬眠前の紫が霊夢を連れて、外界のリゾート地にバカンスに行っている間、
博麗神社の留守番、つまり幻想郷の平和維持は、
外界から招聘された武装集団によって行なわれることとなった。
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
先代巫女夫妻が乗ったRV車は、湖畔の道を走っていた。
自動車のエンジンは、整備された道に歓喜の声を上げていた。
外界の自動車は現在ではほとんどが電気自動車だ。
だがWATERDUCTの仕事場はだいたい内戦中の国や犯罪多発地域、人外魔境といった、お上品なお車と充電設備が運用できるような環境ではないので、ガソリンエンジンの車両を使用していた。
鼻唄を歌いながらハンドルを握る先代巫女。
妻の歌と車の振動にウトウトとしている良人。
目的地である紅魔館に着くまで、夫婦は快適なドライブを楽しんだ。
客間で、先代巫女の良人は紅茶を飲んでいた。
彼が座っている席の向かいにいる幼い少女――紅魔館当主、レミリア・スカーレットは、プライベートでは親友である霊夢の幼い頃の話をねだった。
良人は霊夢の父として、博麗の巫女を一人の愛娘として語って聞かせた。
メイド長の十六夜 咲夜が二人に紅茶のお代わりを注いだ時、窓に嵌っているUVカットの強化ガラスがビリビリと震えた。
「む……」
「ああ、終わったようですね」
「咲夜、行ってきなさい」
「御意」
紅魔館の裏庭にできたクレーター。
その中心部に横たわる、満身創痍の先代巫女。
彼女の眼前で拳を制止させているのは、同じく満身創痍の門番、紅 美鈴だった。
「まいりました」
先代巫女がそういうと、鬼気迫る顔をしていた美鈴は、表情をいつもの『門番のお姉さん』に戻した。
「久しぶりですよ。本気を出したのは」
突き出していた腕で先代巫女を起こした美鈴は、晴れやかな顔をしていた。
「私もよ。やったら訓練場が倒壊するわ♪」
先代巫女が拳を突き出すと、美鈴はそれに己の拳を軽く打ちつけた。
先代巫女が現役の博麗の巫女だった頃に拳で語り合った強敵(とも)との久しぶりの手合わせは、先代巫女の負けで終わった。
「さて……。これ、どうしましょうか……」
美鈴は、先代巫女と戦って出来たクレーターを前に、途方にくれた。
「何なら、ウチの重機を貸すけど?」
「お客様、心配には及びません」
「あ、咲夜さん」
咲夜は、二人にタオルを渡した。
「お客様、シャワーとお着替えの用意が出来ております」
先代巫女の着替えは、予め持参したものである。
「美鈴、貴女はソレ、埋めといてね♪」
美鈴の足元に、いつの間にかスコップが刺さっていた。
「……いいのかしら?」
「ええ、彼女は土いじりが得意ですから。門番の仕事よりもね☆」
居眠りばかりする門番に、メイド長はばちこんとウインクした。
先代巫女夫妻が挨拶と旧交を暖めに訪れた紅魔館から帰る頃には、
裏庭のクレーターは綺麗に埋め立てられていた。
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
博麗神社の境内にある仮設テントの一つ。
そこでは先代巫女と彼女の良人、手が空いている数名のコントラクター(戦闘要員)達がお茶を飲んでいた。
『“女学院”、こちら“ベッキー”』
無線からの音声に、一同沈黙した。
『問題発生』
幻想郷上空を飛ぶヘリコプター。
TWD社所属のAS 565パンテルは、一人の少女に絡まれていた。
パシャッ!! パシャッ!!
閃光が迸る度に、スモークフィルムに覆われたウィンドウからヘリ内部の様子が垣間見えた。
流石にヘルメットを被った乗員の表情までは分からないが、おそらく渋い顔をしていることだろう。
「あややや、これは珍しい外界の乗り物ですねぇ♪ 是非とも試乗させてもらわないと☆」
カメラを玩ぶ烏天狗のパパラッチ、射命丸 文は、先程からヘリコプターに付き纏っていた。
高速回転しているローターを警戒してはいるが、文は可能な限りヘリに接近してきていた。
隙あらば、勝手にドアを開けて乗りこんで来かねない。
可愛い少女の姿をしているが、文は曲がりなりにも妖怪である。
戦闘機並みの速度で飛翔し、戦艦並みの火力を有し、戦車のように頑丈である。
一応、TWD社の装備は妖怪に対抗できるよう『御祓い』がしてあるが、人間サイズの肉塊が直撃の『バードストライク』は勘弁である。
ヘリは博麗神社に設けられた本部に連絡を入れ、指示に従っていた。
「あや? 神社に行くのですか。霊夢さんのお知り合いですかねぇ?」
さすが名ばかりであるが報道に携わるものである。
文の推測は当たっていた。
哨戒活動を切り上げ博麗神社に向かうヘリに、なおもくっついてくる文。
「ほう、神社は珍しく賑わってますね♪」
文は、ついに博麗神社上空まで来てしまった。
境内の仮設テント群にカメラを向ける文。
「あや?」
急に目の前が暗くなった。
カメラを下ろすと、
目の前に、
先代巫女がいた。
博麗の巫女を引退した先代巫女は霊力を殆ど失い、空を飛ぶことも出来なくなった。
だから彼女は鳥居に上り、そこから脚の筋肉が生み出した瞬発力で『跳んだ』のである。
ドンッ!!
「がっ!?」
気が込められた先代巫女の掌底を腹に受けた文は、それだけで気を失ってしまった。
妖怪の山の登山口。
紅葉が描かれた盾を持った、白狼天狗の少女が立っていた。
そこに静かに停車したRV車。
車から出てきたのは、先代巫女と数名のコントラクター。
そして、頭に黒い布袋を被せられ、後ろ手に親指を結束バンドで縛られた鴉天狗。
先代巫女は白狼天狗に鴉天狗の身柄を引き渡した。
車に乗り込む先代巫女達。
「おっと、忘れ物」
車内から、フィルムを抜き取ったカメラをぞんざいに放り出した。
白狼天狗がカメラを無造作に掴んだのを確認すると、RV車は排気ガスと土ぼこりを残して去っていった。
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
先代巫女の良人は、博麗神社の居間に朝食を配膳していた。
ここには先代巫女の部下達全員は入らないので、彼らは表の仮設テントで食べてもらっていた。
「あら? これは誰の分?」
先代巫女はちゃぶ台を指差した。
ここには自分達二人だけしかいないのに、三人分の食事が用意されていた。
「え? そこの娘の分だけど?」
「え……」
良人の言葉に、意識を研ぎ澄ます先代巫女。
すると、そこに一人の少女が現れた。
「あんたっ!! いつからここに!?」
「最初からいたよ♪」
「ああ。家事の手伝いもしてもらったけど?」
血相を変える先代巫女にあっけらかんと答える少女と良人。
「おじさん、凄いね♪ 私の無意識操作が効かないんだもん☆」
少女の言葉で、先代巫女は二つの事をようやく思い出した。
一つは、良人はどういうわけか、精神に作用する魔法や妖術の類が効きにくい事。
そして、もう一つ。
「あんた、地霊殿当主の妹?」
「えっと、それってさとりお姉ちゃんの事だよね。そーだよ♪」
地霊殿当主の覚り妖怪には、覚れなくなって無意識を操れるようになった妹がいる。
旧都にいる強敵(とも)から聞いた話である。
先代巫女は電話機が置いてある方に向かった。
「ところで君。ええと……」
「こいし。古明地 こいし♪」
「そう、こいしちゃん」
良人は、こいしと話した。
「これからどうするんだい?」
「地霊殿(ウチ)に帰るわ」
「そうかい」
「おばさんに送ってもらうから♪」
こいしの吸い込まれそうな瞳は、先代巫女を見ていた。
霊夢手書きの電話帳をめくって旧友にアポを取った先代巫女は、続いて地霊殿に電話を掛けた。
しかし……、どうして先代巫女は電話帳に連絡先が記されている事を知っていたのだろうか。
「無意識☆」
こいしは笑顔で良人に答えた。
旧都の広場で先代巫女は、旧都を仕切っている鬼である星熊 勇儀と久々に会い、旧交を温めていた。
お互い、全身の筋肉から湯気を出して、常冬の旧都の大気をアツくするほどに。
破れたスカートからブルマーに包まれた尻をさらけ出し、切った額からの出血が片目に入り見えなくなった勇儀は、自慢の一本角の攻撃力を加えた頭突きを眼前の先代巫女に繰り出した!!
巫女服はボロ布と化し、レオタードのようなインナーも所々破れた先代巫女は、軽く身体を傾けて勇儀の攻撃をやり過ごそうとした!!
だが、二人は蓄積したダメージと疲労で、ほんの少し、目測を誤った。
勇儀の角の先に先代巫女の頭は無く、
先代巫女の回避行動は、僅かばかり動きが小さかった。
その結果、
二人の唇が接触してしまった☆
ドッと湧く、野次馬達。
赤面して戦意を喪失した二人の漢(おんな)に駆け寄る、二人の『いいひと』。
『いつものように』タオルと薬箱と着替えを持ってきた良人に、口直しのキスをする先代巫女。
瞳を緑に、顔を真っ赤にした橋姫の水橋 パルスィに胸をポカポカ殴られながら、ばつの悪そうに頭をかく勇儀。
「先代巫女様がこれほどとは!! 読めなかった……。このさとりの眼をもってしても!!」
こいしを迎えに旧都まで出張ってきて、先代巫女VS勇儀のバトルのちラブコメに出くわした古明地 さとりは、三つの眼をくわっ!!と見開いた。
「お姉ちゃん……。相変わらず、予測のつかない展開に弱いネ☆」
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
博麗神社の居住部。
居間に、拘束された三人の少女が座らされていた。
ため息をつく先代巫女。
「被害は?」
「歩哨数名のライフルの銃口に土が詰められていました」
「そう……。ヘマやらかした連中は腕立て百回やるように言っといて」
「ハッ!!」
先代巫女に言われ、報告をしたコントラクターは退室した。
今回の任務でTWD社のコントラクター達が装備している小銃は、7.62×39mm弾を使用するカラシニコフとそのライセンス品やコピー品である。
多少の土くれが銃身に詰まったぐらい、テキトーに実弾をぶっ放せば除去できる。
だが、自分や仲間、お客様の命を護る商売道具を疎かにした罰は与えなければならない。
当然、そんな笑えない『おいた』をした三人の妖精少女達にも、厳罰を与えなければ。
博麗神社と博麗大結界の間の森にある、幻想入りした大木に三人の妖精が住んでいた。
日月星の光の三妖精。
サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
通称『三月精』である。
暇を持て余した三人は、博麗神社に繰り出した。
色々と世話になっている霊夢が恋人の紫と泊りがけで出かけている事は知っていたが、『留守番』が大勢いる事は聞いていなかった。
霊夢は言ったかもしれないが、三人は聞いていなかった。もしくは、聞き流したか。
祭のような賑々しさの境内。
見たことも無い玩具――外界の銃火器やハイテク機器。
悪戯心が、ムクムクと頭をもたげた。
三人はサニーの光を操る能力で姿を消すと、『玩具』で遊ぼうとした。
軽いウォーミングアップとして、周辺を警戒していたコントラクターが手にしたり担いだりしている鉄砲に土を詰めてやった。
ほくそ笑みながら仮設テントの一つに向かった。
お茶菓子に置いてあったクッキーの詰め合わせに、三人の意識は奪われていた。
『本部』周辺に張り巡らせてあった電子機器と式の複合センサーは、妖精に対して正常に作動し、警備担当者のインカムにのみ、警報を静かに発した。
対幻想戦に手馴れたコントラクター達はサーモセンサーで三人分の体温を感知。
簡単にサニー達の背後を取り、警告抜きでねじ伏せた。
「――と、言うわけで、あんた達にもお仕置きするわよ」
先代巫女は巫女服の袖から、銀色の重そうな塊を取り出した。
コルト・アナコンダ。
.44口径のマグナム弾を撃ち出す回転式拳銃だ。
先代巫女が握った、ステンレス製の大口径リボルバーの4インチ銃身はフラフラとしているようで、しっかりと、サニー、ルナ、スターの頭を順番に狙っていた。
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」」」
のけぞる三月精。
その度に、後ろに控えたコントラクターの突撃銃で後頭部を小突かれた。
「どうせ『一回休み』になるだけでしょ? ちょぉぉぉっと、死ぬほど痛い目を見るだけヨ☆」
「「「それでもいやーっ!!」」」
「まあまあ。意地悪はそのくらいにして、お茶にしよう」
場の緊迫感を知ってか知らずか、先代巫女の良人が自分達夫婦と三月精、見張りのコントラクターの分のお茶を持って、台所からやって来た。
「あなたはいつも甘いんだからぁ」
「ほら、霊夢だって鉄拳制裁よりも褒めた方が伸びただろ?」
「あの娘の増長した根性を修正するのに、結局は倍、殴ったわ……」
拳銃を袖に収めた先代巫女はコントラクターに目配せした。
彼は頷くと、ナイフを三回振り、怪我一つさせずにサニー達を縛めている結束バンドを切断した。
「君達の事は霊夢から聞いているよ。ほら、クッキーがあるから一緒に食べよう」
「「「わ、わーい♪」」」
表のテントで見かけたクッキー詰め合わせである。
三月精は、先代巫女に極力近づかないように、良人の側に固まった。
「おじさん、霊夢さんみたいな『匂い』がする……♪」
サニーは早速、胡坐をかいた良人の足に座ってお茶とお菓子を味わった。
「ちょっとサニー。ずるいわよ……」
「私もおじ様のお膝に座りたいわ」
「ははは♪ 順番だよ」
良人と妖精達の戯れを、苦々しげに見つめる先代巫女。
先代巫女のそんな様子を見て苦笑する、部下のコントラクター。
「くくっ……。隊長も旦那さんのお膝に座りたいんですか?」
「あんた、今すぐ口を噤むか、腕立て伏せ二百回か、好きなほうを選びなさい♪」
コントラクターは笑いをかみ殺して、お口にチャックした。
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
紅魔館からやって来た咲夜は、先代巫女とその良人に瀟洒にお辞儀をすると、飛び去った。
「……」
咲夜が持ってきた、品の良い香水らしき香りのする便箋に眼を通す先代巫女。
達筆でレミリア・スカーレットの署名の入った手紙には、彼女の『鬼』のお友達から聞いた、確度の高い『噂話』がしたためてあった。
「レディース、アンド、ジェントルメン!!」
玄関から境内に出た先代巫女は叫んだ。
「レディース、アンド、ジェントルメン!!」
二度目の叫びで、彼女の部下であるTWD社のコントラクター達が集結した。
「『大掃除』の時間よ」
最近、幻想郷に対してきな臭い動きをする一団があった。
紫や霊夢が、ちょっぴり真面目に『仕事』をすれば殲滅できるような愚連隊。
だが、ソレをするのに政治的なあれこれがあり、膨大な手続きが必要とされた。
(事務的な)面倒事を敬遠した紫は、幻想郷に仇をなすゴミ共の掃除を手駒のTWD社に一任した。
ゴミが動き始めてから先代巫女達が一掃するまでの期間を、年末の数日と予測した紫は霊夢を連れてバカンスに出かけてしまった。
3機のヘリコプターは整備は万全、燃料は満タン、武器も準備OKだった。
ローターが回転を始めた。
いつでも離陸可能になったヘリの一機に、二人の天狗が近づいた。
『あややや、同行取材を承諾していただき、有難うございます☆』
ヘリの乗員は文の姿を見、インカムから聞こえる彼女の声を聞いて、いつぞやと同様の渋面をした。
本当に必要な助っ人である、犬耳をインカムの下で窮屈そうにさせている白狼天狗も、彼と同じ顔をしていた。
先代巫女は索敵要員として、千里眼が自慢の白狼天狗、犬走 椛の協力を要請した。
お山の天狗勢力は快諾したが、おまけがくっついて来た事に関しては黙殺した。
先代巫女は、邪魔はするなの一言のみで、文の同行を許可した。
文と椛が乗り込み、ドアが閉められ、ヘリは離陸した。
一定の高度まで上昇すると、3機のヘリは編隊を組み、森の外周に沿って飛行した。
『!!』
眼下の生い茂って見通しの悪い――トリプル・キャノピーの森。
その僅かな隙間から、椛は確かに見た。
「隊長!! “セーラ”より入電!! 『ダイヤを掘り当てた』!!」
机型ディスプレイに表示された幻想郷の地図に、リアルタイムで更新される3機のヘリコプターの現在位置に加え、新たに無数の点の塊がプロットされた。
「埋蔵量は?」
「およそ百!! “ジェントルマン”の存在確認!!」
「宜しい。“セーラ”、“ベッキー”、“ピーター”に、“クリスフォード御一行”を手筈通り、“女学院”までエスコートさせて!!」
「了解!!」
無線担当のコントラクターに指示をすると、先代巫女はテントを出て神社裏の倉庫に向かった。
「それじゃ仕事するから、ここでじっとしててね」
「あまり無茶しないでくれよ」
「私が無茶したことある?」
「私の目には、毎日無茶しているようにしか見えないよ……」
「たはは……」
苦笑した先代巫女は、ヘルメット(軍用の物ではなく、工事現場の作業員が被るような白い安全帽)を被った良人を、倉庫の地下にあるシェルターに押し込めた。
倉庫を出て境内の本部に戻る途中。
ドーン……。
かすかに、花火のような爆発音が聞こえた。
どうやら、ヘリが怪物の群れをワイヤレスTOW(対戦車誘導ミサイル)で追い立てているようだ。
境内では迎撃部隊がRV車に乗って、次々と出発していた。
先代巫女は仮設テントの一つに入ると、巫女服の上からプレートアーマーキャリアを着込み、装弾数40発のロングマガジンを装着したRPK軽機関銃を手にした。
「さて、“ミンチン学院長”自ら、お出迎えに上がりましょうかね♪」
まるで『遷都前』に流行った、肉体派知事の代表作であるアクションヒーローのようなナリをした先代巫女は、待たせていた車に乗り込んだ。
自称『解放軍』、本性は『ゴロツキの群れ』、実質的には『烏合の衆』は博麗神社を目指していた。
地底の旧都から通じる、神社側の抜け道を通って博麗神社に奇襲をかけ、占領する作戦である。
その進軍のスピードは、予定よりも速かった。
なんせ、歩みを止めたら――。
ドカーンッ!!
――肉塊になるからである。
リーダーである鬼の青年は焦っていた。
(情報が漏れたのか!?)
漏れたもなにも、ゴロツキ御用達の安酒場で決起前の宴会を催したとき、誰よりも声高にベラベラ喋ったのは、リーダー自身である。
上空に張り付いている、爆音を轟かせている3機の鉄の船。
(弾幕を無効にする呪符、全然効かねぇじゃねぇか!!)
守矢神社のお札(のデッドコピー)を握りつぶすリーダー。
生憎と、常識に囚われた、物理的な攻撃には全く役に立たないようだ。
「ひっ……、嫌だぁぁぁぁぁ――」
また一人、臆病風に吹かれて群れから離れ――。
バババババ――ッッッ!!
――上空からの機銃掃射の餌食になった。
幸い、生い茂った森の枝葉がバリケードになり、群れの中心はまだ攻撃を受けていない。
(こうなったら、このまま博麗神社を占領してやる!!)
「手前ぇら!! 博麗神社を陥落させれば、俺達の勝ちだ!! 抑圧された地底人民のために、死ねや者共ォッ!!」
「「「おーっ!! 人民のためにィィィッ!!!!!」」」
蛇足だが、現在の幻想郷地下世界で地上から差別を受けていると思っているのは、最初から向上する努力をしていないチンピラ共くらいである。
革命家気取りの比較的統率の取れた一団、つまり、群れで現在まで生き残っている連中は予定通り、なおも博麗神社を目指した。
ただ、その『予定』は、すでに彼らから、待ち構えている怖ぁいおば様と愉快な仲間達の物にすり替わっていたが。
森の中、地底から来襲した『革命軍』が一際目を引く大木の側まで来た時。
『何も無いはずの空間』から、何かが飛んできた。
爆発。
辺りから悲鳴が――、あがっている。のか?
リーダーは、RPGの爆発で聴力を失ったのか、無音の世界にいた。
棒立ちの仲間達が弾かれるように、次々と斃れていった。
伏せろ!!
反撃しろ!!
俺を助けろ!!
リーダーの口は、上記のようなことを叫んでいるかのように、パクパクと忙しなく動いた。
匍匐前進というにはあまりにもお粗末な、殺虫剤をかけられたゴキブリめいた、生に執着した這いずりをするリーダー。
その彼の眼前に、軍用ブーツが現れた。
リーダーは視線を上げた。
そこには、武装した巫女装束の女丈夫がいた。
(博麗の、巫女……?)
あの脇丸出しの装束。
だが、以前彼が旧都で見かけた時は小娘(ガキ)であり、こんな妙齢の女性(ババア)ではなかったような……。
でも、脇巫女だ。
つまり、博麗の巫女だ。
やった、助かった。
リーダーは、涙と鼻水と泥に塗れた顔を喜びにゆがめた。
「お、俺に指一本触れてみろ!! 本家の叔母さんが黙って――」
先代巫女は、彼には指一本触れなかった。
代わりに、機関銃の引き金に触れている人差し指に力を入れたが。
.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・.*。+゜・
のどかな雰囲気の博麗神社。
その境内で、一人の中年男性が竹箒で掃除をしていた。
そこに現れた鬼の一団。
「いらっしゃい。参拝の方ですか? 素敵なお賽銭箱はあそこです」
物々しい連中を笑顔で出迎える男性。
「ごめんよ」
集団の中から、一際立派な肉体と一本角をした、杯を手にした女性が現れた。
「アレをヤッたのは、あんた等かい?」
「え? ええ……。家内からそう聞いておりますが……?」
「そうか……」
杯を呷る女性。
空になった巨大な杯を放り出すと、女性は男性に詰め寄った。
「ウチの身内に手ェ出すときは、まずは私を通せって言ったよなァッ!?」
「はぇ? え、その、よく分からないのですが……?」
男性には、女性の剣幕の理由が本当に分からないようだ。
女性は少し呆れた様子で、境内のど真ん中に晒されている『アレ』を指差した。
先日の騒動で、先代巫女に討ち取られたリーダー格の鬼の青年。
その生首である。
「アイツぁ、私の『身内』だ」
「は、はぁ。お気の毒に……」
相変わらず合点のいかない男性。
「アイツはバカだが、私が言って聞かせれば分かってくれたさ――」
「それ、ずいぶん前から霊夢やウチのボスがあんたに御注進したそうじゃない? 勇儀ぃ」
居住部から、男性の妻である先代巫女が出てきた。
「あんた……、地上と地底の不干渉の『掟』。知らないわけ無いよなぁっ!!」
鬼の女性――勇儀とそのツレ達が殺気だった。
「はぁ? ナニソレ? 知らないわよ?」
「なっ!? 博麗の巫女が知らないわけが――」
「だって、今の私は、ただの『外来人』よ♪」
そう。
博麗の巫女である霊夢や幻想郷の管理人である紫が今回と同じ事を行なった場合、地上と地底の『国際問題』になる所だが――。
外のセカイからやって来た外来人は、掟の適用外である。
当然、『外来人』である先代巫女夫婦が、今ここで勇儀達に殺されても、地上側は文句を言えない。
「戦る?」
「――やめとくわ」
ここにいる者達は、先ごろ旧都で行なわれた先代巫女と勇儀のガチンコを観戦していた。
流石に勇儀が目をかけている連中だ。
暴発する愚を犯す者はいなかった。
「アレは持って帰るよ」
「どうぞ〜☆」
勇儀は生首を木箱に仕舞うと、風呂敷に包み、配下の一人に持たせた。
口ではああ言ってはいたが、勇儀もこの首だけになってしまった男を持て余していた。
如才なく立ち回っていた男に対して、身内びいきもあり、勇儀は強く言えずにいた。
その優柔不断さが、旧友にババを引かせてしまった。
「今度コッチに来たときは、一緒に酒を飲もう」
勇儀は手下から酒を満たした杯を受け取り、それを掲げた。
「当然、勇儀のオゴリよね♪」
「ああ、上物の酒をたらふく飲ませてやる☆」
ガッ!!
先代巫女と勇儀は、拳を打ち鳴らした。
「素敵な女性(ヒト)だね」
「浮気したら、あいつみたいに首をねじ切るわよ♪」
勇儀達が帰った後、夫婦はほのぼのと会話を楽しんだ。
物陰から数名のコントラクター達が対物ライフルを持って出てくると、裏手に待っている本隊の元に向かった。
TWD社の連中は、既に撤収準備を完了していた。
「隊長!! 本社からです。会長夫妻が戻ってきたそうです」
「霊夢はまだ会長と結婚してないわよ!!」
「近い未来、そうなるけどね」
先代巫女夫妻は自分達の手荷物を持って、車の一台に向かった。
これから外界に帰り、『婚前旅行』を終えて本社で待っている紫と霊夢に、今回の一件を報告するのだ。
「さ〜て、可愛い娘とボスのおのろけを拝聴しに、外界に帰還するわよ!!」
「「「「「 Yes,Ma’am!! 」」」」」
年内最後の投稿です。
シメにドンパチ楽しもうではないですか♪
2014年2月15日(土):頂いたコメントに返事をさせていただきました。
>県警巡査長殿
奴らは命知らずというより、革命病をこじらせて頭がイッちゃって現状を把握できないだけですね。
幻想入りした警察や自衛隊は、外界じゃ珍獣扱いと化した『自身の仕事に責任と誇りを持った公僕』ですからね……。
多少空回り気味でも、温かい目で見守ってあげましょう♪
>ギョウヘルインニ様
ボーダー商事本社ビルを占拠する、クーデターを起こした私設軍隊とか……、
博麗神社で霊夢を挟んで、それぞれ扇子とチャカを向け合う二人の女とか……。
そんな剣呑アトモスフィア漂うビジョンしか浮かばねぇ……。
>キーハック様
サイドアームに使える銃身長のマグナムリボルバーで、愛らしい妖精少女と好対照になる無骨な拳銃に該当する手持ちの『立体資料』がコレだったもので……。
TWDの使用する銃器、装備は色々ありますが、今回は実際の戦場で実績があり、あなたが述べられている理由でAK系中心にしました。
>まいん様
今回はテンポとほのぼのを追求したアクション映画めいた娯楽作品を目指してみました。
>5様
どうもです。
時間は有限です。
こういった楽しい事に費やしていると、本来は睡眠に要する時間が……。
真似すると体調を崩すかもしれませんから、趣味の時間は適切に♪
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2013/12/29 21:59:57
更新日時:
2014/02/15 20:47:58
評価:
4/6
POINT:
400
Rate:
17.00
分類
先代巫女夫妻
博麗霊夢
八雲紫
民間軍事会社『THEWATERDUCTS』
紅魔館:レミリア・スカーレット、十六夜咲夜、紅美鈴
天狗:射命丸文、犬走椛
地底:古明地こいし、星熊勇儀、水橋パルスィ、古明地さとり
妖精の悪戯:サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア
ゆかれいむ
先代巫女…、恐るべし。革命軍の連中もある意味命知らずといった感じですかね。結局やられちゃいましたけどね。
この『THEWATERDUCTS』がいれば正直自警団や幻想入りした警察や自衛隊の皆さんは不要な気がしてきて仕方がないですね。
いや、彼らではあの手の連中の相手をするのはキツイでしょうか…。
遷都後は東側装備がメジャーになるのでしょうか。
いや、幻想郷での作戦を想定したTWDだからこそ、威力の高い7.62mm弾を使用する火器を選んだのかな?
米国の国力衰退と共にロシアや中国製品が台頭してきたのかもしれませんねぇ
嫁姑戦争の可能性は大いにあり得る( ^ω^)・・・
邦画のテンポの悪さも、この作品に見習って欲しいものです。
先任さんは本当に意欲的でビックリしますね
絵板にもよくコメントされてますし本当にどうやって時間を作られているか驚きです
プライベートの殆どをリョナグロサイトに費やす気概は誰もマネしようとしないと思います
いやはや毎回凄いですその情熱は