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『秘封処女録』 作者: R
私はその男に、蓮子が合わされたのと、同じ目に合わせなければいけません。
私はその夜を何の心配もすることなく、平凡に暮らしていました。私は蓮子の心配も何一つしていなかったのです。蓮子は殺されてしまいました。蓮子が殺された夜に、私はつまらないメールを送りました。私が送ったメールは、男が見ていました。蓮子の携帯を眺めて、蓮子に来たメールの全てを見て、蓮子の全てを自分のものにしようとしている男でした。蓮子は、その男に、惨殺されてしまいました。
蓮子が初めてお付き合いする男性でした。京都のカフェで出会った男で、誠実な人柄をした病院勤めの男でした。全く平々凡々で平均的な顔立ちに体つき、ただ友達だった頃から大変気遣いのできる優しい男だと聞きました。私は蓮子と男が出会い、友達として過ごし、告白を受けてお付き合いするまでを眺めていました。全く信用の置ける人でした。私も男のことを、深く信用していました。二人きりで会った時もありました。蓮子のことを親友として信用しているから、必ず大事にして下さいと、お願いをした時、男は人の良い微笑みを浮かべて、了承してくれました。自分に出来る限りのことをすると請け負いました。男は生まれながらのサイコパスでした。蓮子は、男に出来る限りの暴力を受けて死んでいきました。私がお願いしたのです。大事にして下さいと。『大事にする』ということを、私と男が同じ意味合いで受け取ってくれると、安易に人を信じてしまったのです。
蓮子がいなくなった後、男は心底心配しているように見えました。不安のあまり、不覚にも男の前で泣いてしまった私を、慰めさえしてくれました。蓮子はこの男に愛されて幸せだ、と思いました。悔やんでも悔やみきれません。私は男を憎む以上に自分を憎まなければいけません。私は自分が生きている一分一秒が、蓮子には永遠に与えられない一秒だと思わなければいけません。私がのうのうと生きている憎しみを全て、男に与えなければいけません。男を殺した後で、自らに罰を与えなければいけません。
いま、目の前に、男がいます。男がその日蓮子を閉じ込めた地下室にいます。蓮子を座らせた椅子に座り、蓮子を縛り上げたのと同じ縄で縛り上げられています。目隠しも、口枷も、全て蓮子と同じものです。
男は、蓮子に行った行為の全てを、一つ一つ、丹念に記録していました。
私はその男に、蓮子が合わされたのと、同じ目に合わせなければいけません。
蓮子が行為の全てを記録されたように、私も男に行った行為を、全て記録しなければいけません。
男は微細に手を尽くして、蓮子を延命させました。処置を行わずに、男が蓮子にしたのと同じ拷問を行えば、忽ち死んでしまうでしょう。
私はその男に、蓮子が合わされたのと、同じ目に合わせなければいけません。
しかし、たとえ同じ目に合わせようと、裏切られたという蓮子の気持ちに比べれば、その苦しみは等分になるはずもありません。ならば、出来る限りのことを、私は行わなければなりません。
私は邪魔になる長い髪を切り、布を頭に巻きました。マスクを付け、手袋をしました。エプロンには、蓮子の血がべったりとついていました。
まずは、注射器を持ち出して、男の静脈に延命処理を施しました。ショック反応を和らげる薬剤を注射したのです。痛みのショックで死んでしまうことは、何よりも食い止めなければなりません。それでは、蓮子が味わった苦痛よりも余程軽く済んでしまいます。止血用の薬剤と包帯も用意しました。男の家には、延命装置さえありました。しかし、これを使うようではいけません。脳だけで生かして拷問を与えても、何の意味も持たないからです。男は蓮子に延命装置を使いませんでした。
男の苦しみを、じっくりと眺めなければなりません。男は蓮子に苦痛を与えて、その苦痛を眺めることを喜びました。私も、男に苦痛を与えて、その苦しむ様子を、楽しまなければなりません。男に、苦しんでも目の前の女は止めてくれないのだと、思わせなければなりません。
肘置きの先、手の平の置かれている部分は、両手を開いたままになるようになっていました。指が一つ一つ、固定されているのです。私は男の目隠しを取りました。男の目を見詰めました。
私は笑って拷問を続けなければいけません。私はとても笑う気分にはなりませんでした。自分が虚しいことをしていると分かっているからです。どうしたって蓮子は戻って来ないのです。蓮子が生きていたとして、私にこのような行為をすることを望まないでしょう。私自身、どうしてこのような男と一秒でも共に過ごさなければいけないのでしょう。男の目を見ることで、男を信じていた過去の自分を思い出すことなど、二度としたくありません。だけど、私は、しなければいけません。私自身の、また蓮子の、気持ち云々ではありません。そうしなければいけない、という、決め事のようなものなのです。私は未来から自分を見つめている気分でいました。全ては終わってしまっているのです。終わってしまった後なのです。私は男を殺さなければいけないのです。
私は笑いかけながら、男の前に一つ一つ、道具を並べました。病院で見るような金属製の棚に道具が並ぶたび、かちゃりかちゃりと、病院で聞く音が鳴りました。それから、私は鉄の針と金槌を持って、男の小指の、第一関節の上を、指で撫でました。男の体温が、私の指に伝わりました。男にも、私の体温が伝わりました。それから針を撫でたところの上に当てて、金槌で打ちました。その次には薬指を、指で撫でてから打ちました。中指も同じように。人差し指も。親指も。左手が終わると、次は右手に移行しました。右手も全て終わると、それで目隠しをして、一端離れます。その間、私はノートに行為と、反応を書き残し、本を読みながら、30分待たなければいけません。きっかり30分経つのを待って、男の服を鋏で切り裂きます。電極を4つ、心臓を避けてテープで貼り付け、電流を流さなくてはいけません。200Vの電流を5秒、停止して30秒待ち、また5秒、これを10回繰り返します。もがいた指から流れた血を、男の唇になすりつけて、舐めさせなければなりません。自慰をし、生成された液体を、男に塗りつけなければなりません。針を一本ずつ抜き、指に止血を行い、電流を1時間ごとに5秒流れるようにタイマーをセットして、眠らなければいけません。
起きてタイマーを止め、気分はどうかを聞かなければいけません。気分を聞いたあと、私は男の童貞を食べなければいけません。蓮子は男に処女を食べられました。私は男が蓮子にそうしたように、拘束台に仰向けに寝かせ、足を大きく開かせて拘束し、童貞を食さなければいけません。
男は蓮子の女性器に口づけをし、陰唇に噛み付きました。陰唇を噛みちぎり、そのまま咀嚼して嚥下しました。
私はその男に、蓮子が合わされたのと、同じ目に合わせなければいけません。
私は男のペニスに口づけし、中程まで口の中に収めました。ペニスが反応したので、そのことも口にしなければいけません。私はペニスに歯を立て、食いちぎらなければなりません。男が見ている前で、ペニスを噛み砕いて飲み込まなければなりません。
私は一度、吐き戻して床にこぼしてしまいましたが、再度口にし飲み下しました。蓮子の陰唇を喰らった男は喜びの笑顔をしたので、私も男の前で笑いました。
男は蓮子の陰唇を喰らった後、膣内に指を差し入れ、蓮子の処女膜を確かめました。処女膜を確かめると、中に鋏を差し入れて、膜を切り剥がしました。そして、蓮子の膜を切り取ると、それを蓮子の前で食べました。蓮子は処女のままにされました。正常に処女を奪われることを夢見ていただろう蓮子から、処女を奪うことをしなかったのです。
私はその男に、蓮子が合わされたのと、同じ目に合わせなければいけません。
私は男の童貞を奪わなければなりません。しかし、男に膜はないので、残ったペニスと睾丸を、鋏で切り取って噛み砕き、飲み込みました。私はまた吐き戻してしまいました。どうしても飲み込むことができませんでした。私は笑って飲み込まなければなりません。私は飲み下しました。男の童貞を奪ったあと、そのことに満足して興奮し、自慰をしなくてはなりません。だけど、自慰だけは、どうしてもできませんでした。
蓮子が性器を失っても、男の責めは、終わりませんでした。蓮子が男へ送ったメールを、一つ一つ読み上げたのです。蓮子が男を純粋に思っていた頃の、蓮子のメールを一つ一つ読み上げたのです。初めてデートに行った日のこと、初めて手を繋いだときのこと。一つ一つ読み上げるたび、蓮子の思い出は一つずつ壊されていきました。男はこの時のために、蓮子とまめにメールを交わしていたのです。色恋を知らない蓮子を甘やかし、信頼させるためもありました。蓮子の反応を見ながら、男は異常に興奮して射精し、精液を携帯に塗りたくりました。
私にはそれはできません。男と私の間には、壊すべき事柄が存在しないからです。私はそこを無視しました。物事の本質を見失ってはいけません。大切なのは、できる限りの痛みを与えること。痛みを与え、男を殺すこと。
私は蓮子の血がべっとりとついて錆びた刃を探してきて、男の目の前で研ぎました。研ぎ終わると、男の右腕を切断にかかりました。男の見ている前で刃を入れて、肉と脂肪を切り、骨を割らなければいけません。右腕を無造作に転がしたあとはベルトで止血し、包帯を巻きます。これらのことは、全て薬によって男が覚醒しており、同時に死にもしないように処置をしたうえでしなくてはなりません。処置が終わったら、切り取った右腕から生の肉を囓り血を啜り、目の前で肉を調理して食べなくてはいけません。薄く切った肉を炙ってサラダと一緒に食べる。その肉は長く保存して、毎日食べなければなりません。野菜と一緒に炒めて食べる。シチューにして食べる。燻製に加工して卵と一緒に焼く。私にはできませんが、本来は友人にも振る舞わなければなりません。
右腕が終わったら、左腕。左腕が終わったら、右足。右足が終わったら、左足。男が死なないように、四肢のないダルマ姿にしなくてはなりません。四肢の一部は、食べずに残しておいて、あとでまた使います。男は蓮子の身体を完璧に道具と捉えていました。蓮子を苛み、同時に自分の欲望を満足させるための道具。男はそういう扱いをすることに興奮する男でした。
地下室には、更にもう一段下に地下室がありました。最下層とでも呼ぶべき場所でした。男はそこに四肢を失った蓮子を放り込んだのです。そして、蓮子から剥ぎ取った肉を、さらに地下に放り投げました。食事を与えられていなかった蓮子は、自分の肉に食らいつきました。血を啜りました。もちろん、私も同じように、男を最下層に放り投げて肉を与えました。
それから、男がしたように、肉がなくなる頃を見計らって、用便をそこで済ますようになりました。男は、私の糞便を啜って生き延びました。男がその時が最も興奮したと記録してありました。私には、男がそうしたように、最下層に向かって精液を撒き散らすことはできません。蓮子は男の精液も啜っていたのでしょうか。男の記録にも、そのことは残っていませんでした。
蓮子はやがて死にました。餓死でした。蓮子には自ら死を選ぶこともできませんでした。死を選ぶという感覚も、最早存在しなかったのかもしれません。男も、蓮子と同じように死にました。男が死んで、私の復讐は終わりました。
私は蓮子を失った痛みを、癒す方法を知りません。当然、復讐をしたのは、痛みを癒すためではありません。男につけさせるべきけじめだと考えたからそうしたのです。そこにいたのは私ではなく、因果応報そのものでした。因果応報がこの世に存在するのなら、その瞬間は私が因果応報そのものでした。私は男にけじめをつけさせたのです。
そして、私は私のけじめをつけなければなりません。私は死ななくてはなりません。だけど、ただの死ではいけません。蓮子の合った同じ目に合うのも足りません。私は男を殺したのと、蓮子を殺したのと、その分のけじめをつけなくてはなりません。
男を殺したけじめは、協力者がいれば、できないことはないでしょう。正直に言って、私は私に蓮子が行われたことを、行うことはできません。恐怖で身が震え、蓮子に行われたことの最初の一つでも行われれば、私は絶叫して卒倒してしまうことでしょう。誰かに行って貰わなければなりません。それは私の弱さです。
しかし、それだけでは、男に行った行為を受けるというだけに過ぎません。蓮子を殺したけじめは、どうやってつけるべきなのか、私には見当がつきませんでした。全てを委ねるのは簡単です。『私は殺人者に、蓮子をその獲物として選ぶように推薦しました』と蓮子の両親に告げ、そして男に行った行為と蓮子が行われた行為を教えれば良いのです。しかし、それでどうなるというのでしょう? この世の裁判で裁くことができないと断じたから、私は男を裁いたのです。私が裁判に出て、刑務所か、死刑台か、もしくは精神病院に送られて、それで終わりにしてしまえるものでしょうか。この世の償いというものが、私に通用するのでしょうか。私は最早男と同じ、理を超えた被告者なのです。私には、この世の理を超えた断罪が必要です。男に行った行為の倍? それともその倍……? 私には分かりませんでした。私は私が男を断じたように、断罪者の裁断が必要なのでしょう。
少なくとも分かっていることは、私は蓮子の痛みを味わうことはできない、ということです。
蓮子は処女のまま死にました。男に奪われる、愛おしい痛みを、知らないまま死にました。それはとても残酷なことであると思います。大人になることは苦しいことでもあるけれど、不安な子供から、辛くても安心することのできる大人になることのできるものです。破瓜が大人になることだとは限りませんが、一つの儀礼として、通過するべき一点です。女性としては……男性としても……経験し、自分が子作りの動作をこなせることを、確認しなくてはなりません。そうでなくては、人間として、真っ当であると証明できないからです。それができないと、不安感が付き纏います。一生、どこまでも付き纏います。
私は断罪のために、できるかぎりのことをしようと決め、男に断罪を行いました。けれど、男も蓮子の痛みを全ては知りません。男は以前に性交を経験しているからです。性交に対する痛みを、既に知っているからです。知らないまま奪うことはできません。
そして、私も、性交を既に経ています。私は既に愛おしい破瓜を済ませてしまっているのです。大して長続きもしなかった、どうでも良いような男でしたが、少なくとも性交の間は幸せでした。蓮子は私に恋人ができたと聞いて、喜んでくれました。羨んでもくれました。そのことが、蓮子の恋愛観に、影響を与えなかったはずがありません。私は蓮子を殺しました。私の処女が失われたことで、蓮子の処女は、永遠に失われないことになりました。
(この記録はここで終わっている。この記録は或精神病院に保存されていたもので、数百年前の記録だとされている。この記録は、一つの宗教で扱われている神話のエピソードと、とても良く似通っている。
この記録が、神話を元に書かれた、というのは、恐らく、この記録を見たものならば誰もが想像することだろう。しかし、この少女の断罪については神話にも、またこの記録にも描かれていない。もしかすると、この神話こそが、彼女の断罪なのかもしれないと私は夢想する。この少女と蓮子の間に起こったことが、何か超自然的な力で、神話の方に影響を与えたのではないかと。些か論理が飛躍しすぎている。自分でも馬鹿らしいと思うが、私にも、この少女の断罪がどうなったのか、想像もつかない。この少女、また蓮子という少女についての、他の記録はない。また、蓮子が受けた暴行事件についての記録もない。この事件が本当にあったことなのだろうか? この記録が完全な創作なのかもしれない。精神を異常に犯された少女の書いた戯言であると。
しかし、私は夢想せざるを得ない。この少女が、存在を消し去り、自らと蓮子のことを神話に刻みつけた。その罪が永遠に記録され、いつか断罪の時を迎えるようにと。
この少女に、超自然的な力が備わっていると……)
- 作品情報
- 作品集:
- 9
- 投稿日時:
- 2014/01/28 19:44:53
- 更新日時:
- 2014/01/29 04:44:53
- 評価:
- 7/8
- POINT:
- 690
- Rate:
- 17.88
- 分類
- 秘封倶楽部
- R-18G
因果応報、負のスパイラル。
罪を犯したものは罰として、罪の犠牲者とならなければならない。
では、罰を与えた者の罪はどう雪ぐ?
終わらない罰を受け続ければ良い。
かくして、狂った復讐者は一文章として永久に語り継がれる事となった……。
すばらしかったです
彼女は自分で拷問の量を増やすべきでしたね。
彼女は拷問嫌いで嫌々拷問やってるけど、自分が気持ちよくなれない復讐はなんか後味悪いですねぇ。