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『猫パンチ実験』 作者: サザ六合
藍は実験をしないといけないことになったので、被検体を呼び出した。
「藍しゃま、頼みって何ですかぁ?」
「ん、今日、橙に来てもらったのはある実験の協力をしてもらおうと思ったんだ」
「実験ですかぁ?」
「そうだ。橙はきっと想像しているだろうが、碌な実験じゃないぞ」
碌な実験なんて誰も要求しない、橙は実験材料として死ぬことしか想像できない。
「私は死ぬんですかぁ?」
「式が主人のために死ねるなんて最高だと思わないか?」
「確かにそうですけどぉ」
「そうだろう」
式の喜びは主人に尽くすこと、どんなに理不尽でも尽くすことで喜びを感じる。生きる目的は主人のために死ぬことだ。
「はいぃ。で、私はどう死ぬんですかぁ?」
「うん、今日は猫パンチの破壊力と猫の手がどれだけ衝撃に堪えられるかという実験材料になってもらう」
猫パンチのせいで、不幸になった人妖のために、これ以上の悲劇は許されないという名目が藍は憎かった。
「あれぇ? それだと、多分死なないですよぉ」
「まあ、待て。そう簡単に死ねると思うなよ」
「えぇ? 苦しいのは嫌ですよぉ」
「それで、主人が喜ぶとしたら、式としては本望だろう?」
「確かにそうですけどぉ」
主人が喜ぶのなら、どんな苦痛にだって堪えられるはず。
「じゃあ、ここにコンクリートの壁がある」
「そうですねぇ」
「やることはわかるだろう」
「はい、藍しゃま」
それでも、藍は余りにも無慈悲だった。昨日の夜に土壁だった壁をこの実験のために夜なべしてコンクリートに作り変えたときなど心は無だった。
「やれ」
「……! 痛い! 藍しゃま痛い!」
橙はなんの躊躇もなく全力でその壁に向かって、猫パンチを繰りだした。まだ、体の何処も痛くないから全力で殴った。
しかし、一撃で橙の手は怪我を負った。
「何だ? もう、橙の猫の手は壊れたのか? もう、出来ないのか?」
「出来ませんよぉ。痛いよぉ」
そして、橙の先ほどまでは最大の喜びだった主人のために尽くすことが遠のいてしまった。
「甘えるな。これ以上、私を失望させるな」
「藍しゃま」
「出来るな」
「でもぅ。うえええぅう」
「駄目か。なあ、別に一回でお前の手を壊そうってことではないんだ。ゆっくり、ゆっくり、コンクリートの壁に向かって猫パンチすればいい」
藍はやさしい声で、橙を促した。主人の言うことが聞けない欠陥品など普通であれば、その場で焼き捨ててもおかしくはない。
それでも、藍は橙のことがいとおしかったから。
「藍しゃまぁ。やりますぅ」
「やれるな。いや、やれ!」
「はい、はいぃぃ」
何度も何度も猫パンチを橙は繰り出した。コンクリート壁は見る見る赤く染まっていった。
そうだ。式でも血は流れている。
「痛いか? 痛いか、痛いだろう。くはははは」
それが、なんだか可笑しくて、藍は高笑いし始めた。心のどこかが可笑しくなってしまいなんだか、とても楽しかった。
「痛い、痛い、痛いよぉ」
「まだ、まだ、まだ、まだ、まだー!」
それから、一時間は繰りて橙に壁を殴り続けた。
「もうぅ、うえええぇんん痛いよぉ。手が壊れたよぉ。もう橙は猫パンチできないよぉ」
「はぁはぁ、良いよ橙良く頑張った。今日は、猫パンチの能力が良く分かった。後は苦しめて殺して、やるからな」
「藍しゃま、藍しゃま。ありがとうぅ」
橙はおかしな方向に曲がった手で藍に抱きついた。藍は最期に頭を撫でてやった。
「紫様に言われたとおりに、橙殺して来ました」
「どう? 大好きな橙を殺した感覚は?」
昨日の晩に、橙に猫パンチの実験を行わせるように命じたのは紫だった。
じゃなければ、閻魔に命令されても橙を殺したりはしない。寧ろ相手がどんなに強力なやからでも抵抗するだろう。
「最悪です。私は命令されたと言え、大好きな橙を殺してしまった」
「橙が苦しんだら、高笑いするように命じたけど。いくら、私の命令だといえよくもまあ、あんなに笑えたものね。本当に藍は最悪ね」
紫は二人が苦しんでいる所を隙間から見ていた。
「それは、紫様が命じたから」
「そうね。でも、笑ったのは藍あなただから」
少なくても、橙はそう思って居るだろう。心の中では、恨んでいたに違いない。
「あんまりです」
「そうそう、橙はちゃんと狗の餌にしてきた?」
「生きたまま、食わせました。命令どおりにしました」
「大切な式にそんなことをするなんて最低ね」
紫は本当に最低なのは自分だということは分かっている。それでも、藍が苦痛にゆがむ顔が見たかった。
あえて、笑えと命じても面白いかも知れない。
「そんな」
「ほら、首吊り用のロープは持って来た? 次は藍の番よ」
紫の命令は絶対だ。既に藍は丈夫な材質のロープに首吊り独特の結び方をして準備している。
「はい」
「あなたは、大切な式を殺して傷心したのだから後追いしなさい」
「……紫様、くれぐれもお体にはお気をつけて」
藍は、近くにあった突起にロープをかけて首を吊った。
綺麗だったのが見る見るうちに汚れて行く。
紫はソファー座り込み、ビンテージワインを飲みながらそれを眺めていた。
明日は、新しい巫女の選定に行かねばならず。終始憂鬱な気分だった。
- 作品情報
- 作品集:
- 9
- 投稿日時:
- 2014/02/10 03:52:15
- 更新日時:
- 2014/02/10 12:52:15
- 評価:
- 3/6
- POINT:
- 320
- Rate:
- 9.86
- 分類
- 藍
- 橙
- 紫