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『玩具箱 〜 とある実験の経過、およびその記録〜』 作者: 遠野たぬき
1日目
私が目覚めたのは、煉瓦造りの壁で四方を囲まれた、小さな部屋だった。
広さは八畳程度、天井までは3メートル弱と言ったところだろうか。窓はないが、かわりに天井からランプが吊るされており、唯一の光源として室内を橙色に照らしている。また部屋の角にはそれぞれ、机、本棚、トイレと洗面台、そしてベット。要生活スペースは一通り用意されていた。
私は「どうやら」部屋のちょうど中央に立っていたようなのだが、どうしてか、これまでに関する記憶が酷く曖昧で、何故自分がこの部屋にいて、そこに立っていたのか、経緯も理由も、さっぱり思い出せないのである。
確かめてみたところ、身体の殆どは問題無く動く(Yシャツにスラックス姿である為、少々動き辛さはあるが)ようなのだが、おかしなことに声帯だけが正しく機能していない。無理をして声を出そうとしてみたが、喉が割れそうな痛みを発し、掠れた音が出るだけであった。
次に、壁を確かめながらぐるりと一周回ってみた。調度品の殆どは新品同様で、トイレすら使った形跡が見られない。また、壁に色と材質の違う箇所を発見した。大きさから察するに扉のようではあったのだが、取っ手が見当たらず、恐らくこちら側からでは決して開かない構造なのだろう。
本棚と机も触ってはみたが、白紙のノート数冊と筆ペン、それとインクしか見つからなかった。弱った。
他にする事もない為、ノートとペンを使って、こうして記録を残そうと思う。もしかしたらこれが、脱出、あるいはなんらかの状況改善に繋がるかもしれない。そうなる事を強く祈る。
3日目
2日目の大部分はベットで寝て過ごした為、日記は書かなかった。床擦れの為か、腰が痛い。
それよりもだ。寝ていたからなのか、もしくは声帯の問題と同じところ、それとも全く違う箇所に起因するのか、理由は現段階では見当もつかないが、いっこうに腹が減る気配が無いのである。検証の為、腕立て伏せや腹筋などの運動を行ってみた。どれだけ鍛え上げた身体であっても、動けばいつかはバテるし、腹も減る筈だと考えた為だ。
しかしその結果、思いもよらぬ事がわかった。私は現状、水分だけ定期的に摂取していれば、永遠と動き続ける事が可能であるらしいのだ。ただし残念ながら、筋力に変化は見られなかった。そして疲労がないのに、深く眠れるというのも不思議な話だ。
いったい私の身体にどのような変化が起きて、どういった理由でここにいるのかは(もしくは、いさせられているのか)まだわからないが、恐らくこの身体も何かしらの秘密を握っているのだろうと推測する。引き続き、この身体に関する検証は続けていきたい。
4日目
部屋に変化があった。起きてみると、机の上に、弾丸が1発だけ込められたリボルバー拳銃が置かれていたのである。恐らく寝ている間に、どこかから、誰かによって持ちこまれたと考えて間違いないだろう。しかし、気配は感じなかった。
この銃はいったい何を意図して持ち込まれたのだろうか、想像もつかない。何かの弾みで発射されてしまっても困るので、机の引き出しに入れておく事にした。仕方なく、眠る。
7日目
誰かからの、差し入れその2。
まさかの、生き物であった。
起きてみると、私が最初に立っていたあたりに、少女が倒れていた。金髪で、青と白のエプロンドレス姿。どこかしら幼さを残す可憐な容姿は、まるでフランス人形を思わせる。
一瞬、本当によく出来た人形か、もしくは死体なのではないかとも思った。しかし、確かめてみたところ脈と呼吸が規則的に行われていた為、改めてそれが生き物だと認識できた。
そのまま寝かせておくわけにもいかないので、仕方なくゆすり起こした。気だるそうに起き上がって目を擦る仕草は猫の毛繕いのようで愛らしい。
たっぷり5分程微睡んでいたのだが、意識がはっきりとしてくると、部屋をキョロキョロと見渡し、次に私の顔を見た。こちらを眺めているものだから、もしかしたら何かを知っているのではないか、声をかけようとして、喉の痛みで声帯の不調を思い出した。これまでは一人だったから問題がなかったものの、こうなると不便で仕方ない。
とりあえず、ノートに文字を書いて筆談する事にした。最初は、『おはようございます、君は誰?』。すると彼女は、静かな口調で、「ありす」と答えた。どうやら彼女は喋れるし、文字も読めるらしい。場合によっては暫くここに2人でいなければならないわけであり、意思疎通出来たのはさいさきが良かった。
ありすとの対話を行ってみてわかった事。彼女も「いつの間にかここにいた」という事、私と同じように「記憶が曖昧」という事、喋れる言葉は断片的で語彙力も少ないという事。加えて残念な事が、見た目よりも大部精神年齢が低い事だった。姿だけで14、5歳と判断していたが案外もっと幼いのかもしれない。
この日は情報という情報も得られないまま、ありすが寝付いてしまったので、自分も寝る事にした。ベットは彼女に。私は椅子で寝る事にする。
11日目
同じ境遇の者がいるだけで、それ以前より気分が良い。
ありすはまるで愛玩動物のような仕草で私を癒してくれる・・・犬ではないな、どちらかと言えば猫のそれに近い。
私が、時間潰しに運動を行なっていると、そろりとやってきて、身体を摺り寄せ、手などに甘噛みをしてくる。しかし私が運動を止め、構ってやろうとすると、プイと向こうを向いて、ベットに帰っていってしまうのだ。
時折見せる甘えた仕草は、この状況に対する恐怖心を起因としたものだろうか。なんにせよ、可愛い少女に懐かれて悪い気はしない。
・・・いや、もしかしたら、最初の数日で感じていた緊張が、彼女の出現で弛緩してしまって、このような気持ちを抱いているのではないだろうか?異常な状況下で出会った男女は、精神状況から気の迷いを起こすという話もないでないし・・・
いや、やめよう・・・今日はもう寝る事にする。
13日目
やってしまった。
ありすを殺してしまった。
【血痕】
【血痕】んで【血痕】んな事になってしまった。じゃれてきた彼女を少し払って【血痕】だけだったのだ。それなのにも関わらず、なんで、彼女の頭から血が?なんでだ。
私のような【血痕】きていく価値はない。
引き出しにしまっていた拳銃の使い時に違いな【血痕】
15日目
ありすにキスをされた。いや、あれがキスと呼べるような濃厚なものでない自覚はある。単純に、そう。触れただけ。
それでも、
記憶が酷く曖昧で、他の女を知らない今の私にとってすれば、彼女がしてくれたそれは、間違いなくキスだった。暖かい。唇が、彼女の柔らかい唇の感触が今も私の唇に残っているような。
とうの彼女は今、何も思っていないのかすやすやと眠りにおちている。今なら、もう一度、キスをすることもできるだろうが。いやいけない。そんなことをしてはいけない。私は、何を考えているのだろうか。
心の中で、ありすと過ごしてきたこの、15日の生活を思い出す・・・ああ、いつかこの生活に終わりがくるのではないかと恐れ初めている自分に、少し嫌悪する。
16日目
もう、あいつは生かしてはおけない。あいつ、そう。私とありすの生活に突如現れた、パチュリーの事だ。
最初の数日こそ許せたものの、徐々にありすの気持ちがあいつに向いているのが手に取るようにわかる分、忌々しいのだ。今では、私とありすのものだったベットに、あいつとありすが寝ているのである。許せるはずがない。忌々しい。この南京生活の中で、私の事を癒してくれていた大事な存在、ありす。それを奪ったあいつのことを私は許さない。そうだ。殺そう。ありすが寝ているうちに、撃ち殺してしまうのだ。こんな時の為に、あの銃を隠していたのだから。
ありすは、私のものだ。だれにも渡さない。
17日目
最近のありすはへんだ。特に、ぱちゅりーが部屋に現れてから変なのだ。確かに、最近は知能の高いパチュリーと情報交換する事の方が多くなってしまい、なかなかありすを優先してあげられていない。しかし、私としては早く、3人がこの部屋から出る為にも対策を練る必要があると思うわけで、仕方ないと思う。
と、言っても、3人目であるパチュリーもまたこの部屋について新しい情報は持って居なかった。どころか、彼女は逆に、自分が1人で閉じ込められていた部屋に我々が現れたというのである。謎と矛盾ばかりが増えていくが、果たしてこの部屋から出れる日は来るのだろうか?
痛ましい追記が必要となってしまった。パチュリーが、事故で死んでしまった。
ありすが、私の隠していた拳銃を発見し、寝ぼけて発砲してしまったのだ。・・・実際、彼女が始めから殺す気でパチュリーを撃ったと言う事も考えたのだが、ありすに限ってそんなはずはない。どころか、罪悪感に打ちひしがれるように、彼女は寝入るまで、ずっと私に抱きつきながら泣いていたのである。
パチュリーの事は残念だが、まずはとにかく、私もありすもおちつく必要がある。今日は寝る事にする。
17日目
ありすがこの密室に現れてから、早くも十日が過ぎようとしている。当初こそ、同居人の登場に少し心強いものを感じていたが、こうも状況に進展がないと、逆に気をつかってしまって良くない。と、いうのもだ。最近のありすは妙に鬱陶しいのである。急に抱きついて、顔を舐めてくるなど日常茶飯事。寝ている私の元に寄って来たかと思えば、わざわざ起こしにやってきて、仕方がなく起きてやると、また抱きついてスキンシップ。これではまるで発情期の動物のようではないか。一人の方が、まだ気楽だった。寝ておけば、気は紛れたし、考える時間をつくる事も出来た。しかし、ありすのせいでその時間は奪われてしまった。
一人に戻りたい。切に願う。
22日目
ありすが後ろで嗚咽する声が聞こえたので、一発殴って黙らせてやった。清々しい。
最初のうちこそ、我慢はしていたものの、やはりあのありすの気まぐれな態度は癇に障って仕方がなかった。向こうから誘うような仕草でよってきやがったのに、こちらから触れに行くと逃げてしまう。しまいには、私の頬を張るなど、もはや我慢ならない。どちらが上の立場かをわからせる為にも、殴り飛ばしてやったのである。
泣きわめくありすの髪を掴んで壁に頭を2、3度叩きつけると、すぐに額から出血したので、便器に顔ごと浸して洗ってやった。にもかかわらず、お礼の一言も言わないのだ。なので、しつけの為に、尻を腫れるまで叩き続けてやると、流石に泣かなくなり、謝罪を繰り返すようになった。しかしそうなると、今度は逆に腹が立ってきたので、服をひんむいてやり、白い腹が真っ赤になるまで蹴りつけて失神させた。
あとはもう、目覚めるまで頬を張り続け、起きてから今先頃まで犯し抜いてやった。クソな女は性器もクソなようで、さっぱり気持ちよくもないし、痛がるばかりであえぐ様子もなく、つまらない。しかしまぁ、【血痕】りすも生意気な態度を取る事は亡くなるだろう。気が向いたらま【血痕】レスの解消に使って【血痕】
【血痕】
23日目
目が覚めるとありすが死んでいた。殺されていたのだ。
撃たれて死んでいた。
銃は、私が握っていた。
24日目
私の日記が、書き変わっている事に気がついたのは、今日になってからだ。ちなみにありすは今日も帰っていない。
数日前から、帰っていない。
一人だけで、出口を見つけて出て行ったのか、それともこの部屋に私達を閉じ込めた誰かが、彼女だけを解放してしまったのだろうか・・・あるいは、殺されてしまっているのかもしれない。
書きかわった私の日記に目を通していくうちに、不安が募っていく。確かに鬱陶しいと思った事がないと言えば嘘になるが、少なくとも私は彼女がいてくれてよかったと思っている。もう一つ気になるのが、パチュリーという存在だ。この書きかわった日記に時折搭乗する、パチュリーと言う第三者。私は彼、もしくは彼女の事を一切知らないし、この部屋で遭遇したこともないのである。
私は知らないことだらけ。無力だ。
ここはどこだ。
わたしはだれだ。
26日目
そういうことだったのか。
ヒントは書き変わった日記の17日目にあったのだ。
日記は、書き変わっていたのではない。17日目は2度書かれたのだ。いや、少なくとも、私が書いた17日目のことも考えれば、3回は書かれている事になる。
おそらく、私やありす、そしてパチュリーはこの部屋の中で、ある程度のパターンを演じさせられており、観測者の満足のいくパターンがこの日記に記録される仕組みになっていたのではないだろうか。つまり、私は、ありすやパチュリーを幾度となく殺し、彼女らもしくは彼らに幾度となく殺されてきたのだろう。
一体どこの誰が、どのような理由で、どのような手口で我々をこんな風にもて遊んだのか。私は決して、許さない。決して、だ。
もしかしたら、この私の記録も意図的に消されてしまうかもしれない。今の私の心も、寝れば消えてしまうかもしれない。しかし、私は、人形などでは無い。心あるにんげ
・
「ついにここまで理解できる個体が出来たのかよ、凄いなアリス」
「まだまだよ。むしろ、気付いちゃう方が「人間らしくない」。それに、厳密には繰り返してたんじゃなくて、云百造った人形の一つなんだから、分析力もダメね。ホント、一筋縄じゃいかないわ。とりあえず、今回のパターンを元に造り直しね・・・
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1日目
私が目覚めたのは、煉瓦造りの壁で四方を囲まれた、小さな部屋だった。
2度目の投稿となります、遠野です。
前回、コメントの方で「全部日記にしたらよかったかも」というアドバイスを戴きまして、そこから、「じゃあ今回は、ほぼ日記で全部やろう」と思い立ち、少しずつ少しずつ書きためてまいりました。
作品性質上、わかりにくい箇所や誤字脱字なども御座いますが、色々考察などもできるように書いておりますので、楽しんで戴ければ嬉しいです。
遠野たぬき
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2014/02/14 12:40:58
更新日時:
2014/02/14 21:40:58
評価:
9/10
POINT:
920
Rate:
17.18
よかった……ナメック星人じゃなくて!
ひょっとしたら『彼』は『頭』だけしかなくて、データ上の存在である部屋で、『実験者』の過去や身近な人物を基にしたデータ上の人物を宛がって、その状況をモニターしているのか?
『日記』こそが『彼』の声(ログ)か?
『血痕』は、理不尽な環境でストレスを感じた『彼』の感情が生み出したノイズか?
『頭』を途中で更新されたり、作り直されて最初からやり直しになったり――。
『体』が与えられるのは、当分先になりそう……。
東方でやってはいけない理由こそ無い
多様性を失えば衰退すると理解されたい
監禁、絶望、疑念、ループが欲しかった。