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『文と久しぶりに語り合う霊夢』 作者: NutsIn先任曹長
妖怪の山。
その中腹にある、天狗達の集落。
ごみごみした高層集合住宅が立ち並ぶ一角。
文々。新聞社の社主にして敏腕記者の鴉天狗。
――といっても、社員一名だが。
射命丸 文。
幻想郷を守護する博麗の巫女。
泣く子も黙る妖怪殺しだったり、気さくな巫女さんだったりとヒトによって印象が分かれる美少女。
博麗 霊夢。
二人は並んで歩いていた。
「霊夢さん、久々の里(ココ)は珍しいですか?」
文はキョロキョロしている霊夢に話しかけた。
「んーっ。以前と変わったような、そうじゃないような……」
文の履く高下駄の分、頭を上に向けて霊夢は答えた。
「外界の近代建築の技法導入や守矢の方々のおかげで、コンクリートの建物が増えましたね〜」
「そう……」
言われて見れば、かつてはまるで森に住む鳥や獣を髣髴とさせた天狗の集落は、何だか色とりどりで無機質なものに感じられた。
「着きましたよ」
「ここ……?」
文に連れられてきたアパートの一軒を見た霊夢は、その『守矢産業革命』前の建物に違和感を感じた。
「あや……、エレベーターなんかあるんですね……」
「あんたん家でしょうが」
「地上のエントランスから入るのは、久々なんですよ」
鴉天狗である文は、普段は外階段に繋がる非常口や部屋の前の廊下に直接『離着陸』していた。
エレベーターに乗って、はるか高みまで上昇する二人。
狭い箱がガタガタ揺れるさまは、霊夢に僅かばかりの恐怖を喚起させた。
「あんたがいつもやっているみたいに、『直接』部屋に飛べば良かったんじゃない?」
「あやや……。まあ、思い出に浸るのも悪くないと思ったんですがねぇ……。確かに」
どうやら、文もエレベーターは居心地悪いようだ。
霊夢は幼少の頃、一度、文に連れられて、彼女の部屋を訪れたことがあった。
文に買ってもらった菓子を食べながら天狗の里を歩き、アパートにやって来た幼い霊夢。
その時は建物内の階段を使い、何十階も上れない霊夢をおぶって駆け上る文の健脚ぶりに驚かされたものだ。
鉄製のドアには、『文々。新聞社』と書かれた樹脂製の看板が貼り付けてあった。
カチャンッ、ギィ……
「どうぞ」
「おじゃまします」
ドアを開けた文に促され、入室する霊夢。
紙とインクと何かの薬品、それに酒と揚げ物の臭いが混じったようなすえた空気の中に、かすかに文の薄化粧の香りがした。
ドアの郵便受けに嵌っていたいくつかの手紙を持った文に背中を押されるように、霊夢は奥へと歩を進めた。
紐で束ねられた紙くずで狭い、短い廊下を抜けると、そこはリビング――兼、文々。新聞社の編集室であった。
「テキトーに座ってください♪」
文に言われ、霊夢は雑然とした室内を見渡した。
書類や写真、筆記用具が比較的整頓された机の前の座布団が置かれた椅子と、ソファーがあった。
霊夢は、両サイドを何十冊もの雑誌の塔が占拠する、人一人分の埃が積もっていないスペースのあるソファーに腰掛けた。
文は机に郵便物を放り出すと、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、水玉模様の湯飲みに注ぐと霊夢に勧めた。
文自身は椅子に腰掛け、ペットボトルから直飲みした。
「……」
「……」
しばし、言葉の無い時間を楽しむ文と霊夢。
幼かったあの頃は――。
氷たっぷりのグラスに注がれたラムネを手にして、
ビー玉がカラカラ鳴る瓶に口をつけている文を、今のように眺めていた。
ソファーは幼い霊夢の尻よりは広くて、
雑誌の塔は今にも霊夢の頭に倒れてきそうだった。
「懐かしいわね……」
思い出に浸る者が口にする、月並みの台詞だ。
「あや……。私には、つい最近の事のように思い出せますよ♪」
思い出に浸る者がよくやる、遠い目をしていた。
それから、
霊夢と文は昔話に花を咲かせた。
幻想郷縁起にも、文々。新聞にも掲載されないような、
取るに足らない、瑣末な、
当事者にしか価値のない雑談だ。
気が付けば、窓から差し込む日差しは紅に変わっており、カラスが鳴きながら編隊飛行していた。
ちなみに御山のカラス達は鴉天狗の眷属で、与えられた役割の一つが『時報』である。
「そろそろ帰るわね……」
「あやや、もうこんな時間ですか」
霊夢はどっこいしょとソファーから立ち上がり、
その拍子に霊夢よりもデカい態度でソファーに座っていた両サイドの雑誌の巨塔が崩れそうになり、
慌てて霊夢と文はそれを阻止した。
「ふふふ……」
「あはは……」
「「っはーっくしょんっ!!」」
二人は笑い合い、古雑誌に積もっていた埃を吸い込んでくしゃみをしてしまった。
「今日は楽しかったわ」
「今度は取材で語ってください♪」
「嫌よ。あんたの文花帖には創作ポエムしか書かれないみたいだから」
笑顔のまま、きっぱりと取材拒否する霊夢。
廊下に出た霊夢は振り返って、改めて夕日に赤く染まった『編集室』を見た。
無数の書類。
返品された文々。新聞の束。
ローアングルで撮影された幼子達のポートレート。
室内を舞う埃。
逆光で表情の見えない、文。
「あの頃から、本当に……、何も変わっていないわね……」
首をかしげる文のシルエット。
「あやぁ? 覚えていないんですか?」
「え?」
「このアパート、あの後、建て替えたんですよ……」
忽然と姿を消した愛娘の霊夢を奪還するために、
当時の博麗の巫女が天狗の里を襲撃した。
『霊夢を攫った天狗はどいつだァァァァァァァァァァッッッ!!!!!』
『アヤヤッ』
『アヤヤヤヤ!』
KABUOOOOOOOM!!!!!
アパートは極大の霊力衝撃に耐えかね崩壊!
安普請か!
特にエロもグロも無い、文と霊夢が文の自宅で駄弁るだけ、正確にはソレに至る前後の話です。
深夜のテンションで書いたから……。
2014年3月23日(日):頂いたコメントへのお返事追加
>れにう様
現在、核シェルターは守矢神社と天狗と河童の上層部の者しか入れません。
文ちゃんが入ったら、ナニされたりね♪
>県警巡査長殿
霊夢は迎えに来た先代巫女に『飛んで』しがみ付きました。
霊夢は本文の通り、楽しい事しか覚えていませんでしたがね。
スペルカードルールが出来る前の、力こそ正義の時代。
つまり、当時の巫女にはだれも逆らえなかったのだった。
>ギョウヘルインニ様
『文ちゃんをいぢめちゃダメぇ!!』との幼い霊夢の一言で、射命丸文の件は不問に付されたとか。
>5様
そうならなかったら、幼い霊夢の大事な箇所が引き裂かれたかもよ♪
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2014/02/21 20:28:07
更新日時:
2014/03/23 19:20:29
評価:
5/6
POINT:
480
Rate:
14.43
分類
博麗霊夢
射命丸文
もしここにいなかったら、天狗たちからすればとんだ災難となったことでしょう。
当時(先代の巫女が現役だった時代)の幻想入りして間もない公的機関の施設もあの出来事を境に木造建築から鉄筋コンクリートの丈夫な建物となったとかならなかったとか…。
彼らもあの時もいろいろと先代の巫女に目をつけられていたでしょうね…。