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『底空き柄杓は安産のお守り』 作者: まいん

底空き柄杓は安産のお守り

作品集: 10 投稿日時: 2014/03/23 08:18:01 更新日時: 2014/06/14 23:24:39 評価: 6/7 POINT: 630 Rate: 16.38
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリキャラ、オリ設定が存在します。





ぽつ、ぽつ、ぽつ、ざー……。

雨が降る。
外の世界の様に舗装のされていない道路はあっと言う間にぬかるみに変わっていった。
ぬかるみに横たわる少女がいる。
目に溜まった雨水はすぐに溢れ、目尻からは涙の如く流れていった。
半開きの目は光を失い、閉じる気配は無く、同じく半開きの口も開いたままだ。
頬には痣が残り、口元は僅かながらに切れて血が滲んでいる。

パシャ……。 水溜りから足音が聞こえた。

少女の美しい髪は雨と共に泥に塗れ、生きていた頃の面影を薄れさせている。
髪に括られていた鈴の飾りも、片方は壊され、残った片方も雨に打たれるのみ。
服も雨に濡れている。 だが、少女は身震い一つしない。
服も服で無残に切られ、裂かれている。
体の線が出ない大きめの服であったのであろうが所々から、その肢体を晒していた。

パシャ、パシャ……。 足音は段々と少女に近づいていった。

顔の痣は暴漢に乱暴された証なのだろうか。 おそらくは、身体に残る痣も同じ理由なのであろう。
不自然に曲げられた指や歪な切り傷は事故とは考えにくい。
何より、彼女の股からは血が滴った跡がある。 更には、それとは別に粘性のある白濁した液体が残っていたのだ。

パシャン……。 横たわる少女の傍で一際大きく足音が鳴った。
雨で姿が見えなかったのか、それとも人ならざる水兵服の彼女が姿を晦ましていたのか定かではない。
横たわる少女の顔を覗き込む彼女の顔は仮面でも被っているかの様な表情をしていた。



傷害、暴行、強姦、そして殺人か……。
こんなに若い身で可哀想なもんだね。 まっ、運が悪かったとしか言えないな。
こういうのは私の役割なのにね。 人間って奴は同族さえも楽しんで殺すんだから救えない。
……ああ、私も昔は人間だったか……ははははは。



少女に向かって話す言葉もどことなく乾いている。
楽しみを取られた苛立ちを隠しているのかもしれない。
ふと、頭の先からつま先に向けて動かしていた視線が下腹部で止まった。
眉尻がピクリと動き、元より細い目が更に細くなっていく。



お前も無念だったのか? まだ、したかった事があったのか?
復讐したいか? そうか……お前、素質があるな。
ふふふ、手伝ってやろうか? どうなるかは、お前次第だがな……。
おい、早くしろ! 起きろ! 起床!



叫び声を聞いた少女は布団から飛び起きる様に体から飛び起きた。

「……ぜっ、はぁー! あっ、ぐっ、わ、私は一体?」
「おはよう。 突然で悪いが、お前は死んだ。 足元を見て貰えば解ると思う」

生前とまったく同じ姿、ぬかるみに半分埋まり身体や衣服の損壊の無い状態の少女は水兵服の少女に指差された方向を向いた。

「え? え? これ……私? じゃ、じゃぁ……」
「そう、お前は殺された」

その言葉が合図となった。 膝を着き、四つん這いになると、その場で嘔吐した。
悪夢だと思っていた事が現実であると突き付けられ、汚らわしい行為が行われた事すべてに嫌悪感を抱いた結果だ。
だが、えづきはしようとも亡霊になったばかりの彼女が現実と同じ事を行える筈もない。
何回、十何回と繰り返しても、吐瀉物が出る筈もなかった。
このまま、繰り返せば精神的な衰弱から消滅さえありえる。
水兵服の少女は次の手をうった。

「辛いよなぁ、苦しいよなぁ。 私だって今の私じゃなかったら、耐えきれない」
「……はぁはぁ、そんな……他人事みたいに……」
「そうさ、他人事だよ」
「私だって、こんな目に遭いたくはなかった!」
「じゃあ、手伝ってやろうか? 過去を断ち切り、亡霊として新しい生き方を手に入れる方法を」
「……新しい生き方が出来る?」
「そうだよ。 それを私が手伝ってやるんだ」

少女は差し伸べられた手を何の躊躇いもなく掴んだ。
ぬかるみと同じ光を失った瞳は僅かながらに光を取り戻した。
一筋の光明が差した。 そんな気持ちにはなれないが、選択肢がなかった。
手を取った水兵服の少女は口元を僅かに綻ばせた。

「私は村紗。 村紗水蜜。 お前は?」
「本居小鈴……」

〜〜〜〜〜

酒場と一口に言っても、場所によって客層が違う事は見ればわかるだろう。
家族で仲良く訪れる場所もあれば、紋付き袴でなければいけない場所もある。
賑やかな場所もあれば、静かな場所もある。

その場所は表通りから一本裏にある。
客層も見て判る通り、傷を多く持つ者が多い。 一言でいえば気性の荒い連中。
犯罪者かそれに準ずる者か猟師の様な者。
賑やか……な店であるが、空気に火花を感じられる。
勿論、諍いがある訳では無い。 ただ、いつ着火してもおかしくない火薬庫の様相を呈していた。

店の中、とある席では男達が酔ったままに会話をしていた。
曰く、昨日の女は良かったとか、依頼のあった妖怪は具合が良かったとか、この前は危うく殺されかけたとかである。
彼等が、表の仕事に就いていない事は明白で、汚れ仕事を専門に行っている事は明白であった。
ここの酒場の客層がこういった客ばかりであるから、誰もそれを咎めたりはしない。

ただ、興味があれば誰彼構わずに話しかけたりはしていた。 ……腹に一物を隠して。
男が一人、その席に着いた。

『おお、お前さん。 遅かったじゃねぇか』
「すまねぇ。 昨日の女が離してくれなくてな」
『へへ、とっかえひっかえ羨ましいな。 あやかりてぇよ』

そう言いながら乾杯をする一同。
互いが互いの仕事を知っているからこそ、ナニをしてきたか理解していた。
殺ったか、犯ったか、それとも両方か。 幻想郷は娯楽の少ない場所だ。
そういった男のする事と言えば、それぐらいだろう。
男達も他の客も時間を忘れて酒を呑み、自慢を英雄譚の様に話しあっていた。

そこに暖簾を分ける女性が一人。 姿が多少違うが小鈴に間違いなかった。
甘い香水の香りと鈴の音。 おおよそ地味とは無縁の服装。
浮世離れした瞳に掴み所の無い仕草。
店中の男の視線を独り占めにし、店主の目の前の席に静かに座った。

『お客さん、この店にはあんたに相応しい酒は置いてないのだが』
「構わないわ。 焼酎と軽い食事を頂けるかしら?」
『へぇ、そういう事でしたら』

そう言い、店主は店で一番高い焼酎と、じっくりと煮込んだどて煮を一杯差し出した。
どちらも、表の店々に比べれば雀の涙程の値段だ。 材料も知らない方が良いと言われる様な代物ばかりである。

酒を一口、料理を一口。

「うん、美味しい」

その言葉が合図であったかの様に男達は席を立ち、殺到した。
口々に名を尋ね、住まいを尋ね、この後の用事を尋ねた。
目的は勿論、小鈴を犯る事である。
慣れていない乱暴者は、褌に山を作っている事がありありと見てとれた。

先の男も人だかりの中に居る。
こんな場所を訪れる女と言えば、娼婦か、自殺願望持ちか、いずれにしろまともな感性の持ち主では無いと知っているからだ。
どこかで犯して捨てて、都合が悪ければバラせば良い。 そう思って近づいた。

「あら? こんばんは、どこかであったかしら?」

男達が舌打ちをする中、一歩近づいた。
そこで、鼻を付く臭いがした。 甘い香水とは違う、血の匂いだ。
だが、他の者が気付く気配が無い。 いつも仕事でする臭いでも無い。
もっと、端的に話すならば”死”そのものと言っても過言ではない。

人々が散って行く中、小鈴と男だけが、その場に残っていた。
男の腹の中は決まっていた。 関わるべきではない。

「私、最近になって目を覚ましたの。 不思議でしょ? この服装も、その時に着ていたのだけど」
「ああ、そうかい」
「皆の視線が痛いわ。 何かおかしな所でもあるのかしら?」
「そういう服装は娼婦のするもんだ。 命が惜しかったら、するもんじゃない」
「あら? 親切なのね。 ここは手が先に出る人ばかり居るのかと思っていたわ」
「そうかい。 なら、食事が終わったら出て行くんだな」
「……この後、お暇かしら?」

男が感じた事は、匕首を心臓に突き立てられている。 死神の鎌が首に当てられている。 であった。
勿論、顔に出す事はない。 こういった場面は今までにも多々あった。
機先を制する事も視野にあった。 だが、勝てる情景が想像できない。
女の言う通りにしては、命がいくつあっても足りない事は解り過ぎていた。
小鈴に近づき、死の臭いも酷いものになっていた。

「すまないな。 どうやら、俺の目が曇っていたらしい、お前さんの相手をしてくれる奴なら他にいるぞ」
「……そう? 残念ね。 振られちゃったわ」

そう言うと小鈴は、いつの間にか空にした食器と酒器を少し前に送った。
代金を机に置くと、他の男達の囃す中、店を後にした。
すぐさま、数人の男が彼女を追った。 目的は勿論、輪姦する為だ。
だが、彼らが戻る事はなかった。

翌日、水の無い所で溺れ死んだ死体が数人分見つかった。

〜〜〜〜〜

男の職は、何でも屋だ。 ただ、追剥同前をする事もある。
仕事をするかは気分次第だった。
綺麗な女が依頼主であれば、その後の人生に影を落とさせる事は当たり前の様に行っていたが。

依頼さえ受ければ何でもやった。殺人、強盗、傷害、恫喝、揚句は男娼同然の事もやった。
金が入れば、酒を呑み。 酒が入れば、賭博をする。
賭博が上手くいこうが、女に飢えれば、行きずりの女を引っ掛けて犯す。
自警団に世話になった事も一度や二度ではない。

今日の彼の仕事は処理場の清掃だ。
人里の中で罪を犯した妖怪が決まりに則って一匹処断された。
場所は血の臭いと肉の腐った臭いが充満している。
薄布を一枚口に巻いて、ずた袋に肉片を入れていった。

その場の臭いは慣れた血の臭いだ。
男にとっては、草原の新鮮な空気の中で深呼吸するのと変わりはない。
そこに、血の臭いがあるか無いかの些細な違いでしかなかった。

『お疲れさん』

男の貰った金は三日は食事に困らない額だ。
その額が多いか少ないか感じるのは個々の感性によるだろう。

久々のまともな労働に男は額に浮かんだ汗を拭う。
それと同時か遅いか、先と変わらぬ血の臭いが鼻を突いた。

「……酒場の女か?」

嫌な予感がした。 女と会った記憶は酒場の前にはない。 だが、偶然出会ったとは思えなかった。
何より、あそこの酒場は男の様な者の集う場所。 多数いた男の中から意図的に選ばれる理由もない。

逃げる用意も不意打ちを喰らわす用意もある。
建物の角からした臭いを頼りに男はガラス瓶を握ると派手に割った。

「……ちょっと驚かそうとしただけなのに、随分な対応じゃないかしら?」

男の声の先、姿は見えないが角から確かに声がした。
予想の通り、小鈴の声だ。 ただ、彼は彼女が誰かは知らない。

姿を現わした彼女の衣服や表情は、あの時と同じだ。
甘い香水の香りと鈴の音。 おおよそ地味とは無縁の服装。
浮世離れした瞳に掴み所の無い仕草。

「俺を嗅ぎまわってやがるのか?」
「いいえ。 今日出会ったのは偶然よ」

男にとっては面白くなかった。 相手を猟の如く追い回すのは好きだが、その逆は面白い訳がない。
ただ、他者を襲っている手前、狙われる覚悟はある。
今回は狙われる事は分かったが、値踏みされている様な感覚が気に食わなかった。

「今回? なら、この前の事は?」
「勿論、貴方に会いたくてね」

割れたガラス瓶の先端で小鈴を差した。
見て判る通りの行動だ。 彼女は危険だと判断した。
もし、犯すとしても殺した後、冷静になってからであろう。

「ふふ、ごめんなさい」
「どうなるか、分かっているだろうな……」
「そうね、その瓶で顔を潰されて、首を半分程切り裂かれるのかしらね?」

小鈴の瞳は男の心を見透かしているかの様な発言であった。
表情を変えない男の眉がピクリと動いた。 図星かどうかは彼のみぞ知る。

「それとも、ご自慢の刀でも抜くのかしら? いつもの様に……」

男が地面を蹴ったのは、言葉と同時であった。
彼が、普段何をしているかを知られていてもおかしくはないが、堂々と公言する者を逃す必要もない。
再び口に出さず、表情を変えず、割れた瓶を持ったまま一直線に向かった。

小鈴も体を翻した。 姿を現した時の角に向かって掛け始める。
小鈴が角に姿を消した時とほぼ同時、男の手が角の、見えない場所に向かって伸びた。

「……ば、馬鹿な……」

追い付いたと思った男の目には、誰も居ない光景が飛び込んだ。
その先にあったのは、水溜りが一つ。
あとは、いつもと変わらない里の光景であった。

先程までしていた、鼻を突く”死”の臭いはどこかへ消え失せた。

〜〜〜〜〜

それから、小鈴は男の仕事が終わる度に姿を現した。

殺人の後ならば、可哀想にと言い。 強盗の後ならば、あの人泣いていたわと言い。
強姦ならば、あの人これからどうなるのかしら?と言う。
毎回、同じ事を言う訳ではないが、男を責める事に変わりは無かった。

その日も男は自分の仕事を淡々と行った。
依頼された妖怪女を待ち伏せし、里から離れた場所で半殺しにし、絶望を味あわせ、犯しながら、人生の幕引きをさせた。

行為が終わった男は満ち足りた顔で息子を拭うと、依頼終了の証拠でも持ち帰ろうとした。
元より、人通りの無い場所である。 放っておけば、野良妖怪が殺しの証拠を消してくれる。
彼は、そういう事を知ってから死体の処理をした事がなかった。
不意に彼の鼻にいつもの臭いがした。

「……女」
「……折角、忠告してあげたのに同じ事を繰り返すのね」

男から数歩、人と同じ位の木から小鈴が姿を現した。
最初の言葉から、男の反応は速かった。 他に目を暮れず、小鈴に襲い掛かったのだ。
彼女は咄嗟の事とはいえ、人間で無くなった事によりすぐに体を翻す事が出来た。

「きゃっ! 痛っ!」

その場は男が妖怪退治の為に拵えた場所でもあった。
その為、動きを封じる罠も、そこかしこに設置されていた。
その一つに掛かってしまう。

尻餅を着いたまま、小鈴は男に向かって手の平を突き出す。
何かあると一瞬身構えるも、何も起こらない為に、そのまま男は歩み出そうとした。
男はある事に気が付いた。 小鈴の頭上後方に誰かが居る。
顔色が見る見る内に青ざめていく。 表情を終始変えなかった男が蛇に睨まれた蛙の様に動き出せなくなっていた。

「あ、あんたは……どうして、こんな所に……」

一方の小鈴も狼狽していた。 借りていた能力が発動しなかったからだ。
人体に存在する約6割の水分を利用して事故を起こさせる特殊な能力が。

「どうして、どうしてなの? ねぇ、村紗」
「どうしてって、言われてもねぇ。 だって、そいつを殺そうとしただろ?」
「当たり前じゃない。 この人は私を殺したのよ」

浮かんでいた村紗が降り立った。
その場から動けないものの、小鈴も立ち上がる。

「私は、その男から話を聞いてないんだよ?」
「話を聞いてないって、私の過去を清算して新しい人生を手に入れる手伝いをしてくれるんじゃ……」

村紗を責める様に話し始めた小鈴の表情が固まった。
村紗の形状が崩壊し始めたからだ。
人間の形は変わらず、内容物だけが変化し、ブヨブヨの肉の塊に変わっていった。
身長が縮むにつれ横幅は広がり、整った顔立ちは醜く変わっていった。
目は縦に大きくなり、鼻は潰れた饅頭の様になり、小さかった口もワニの様な広さになっていた。

「だって、お前の話って書物からの知識しか持ってないんだもん」

少女の声であった形跡はまったくなく、野太い声が響いた。
余りの豹変ぶりに、小鈴は目を見開いてカタカタと震えだした。

「それに、新しい生き方を教えてやるとは言ったが、新しい人生をやるとは言ってないぞ」

村紗の口がカバの如く大きく開いた。
その大きさは小鈴の身長以上である。

「それじゃあな。 私の一部として新しい生き方をしてくれ」
「い、嫌っ!」

バクンッ!!!

小鈴に覆いかぶさった村紗は軟体生物の様に全身を律動させた。
亡霊が食べられるかは分からない。 だが、見た目からは消化している様に見える。
その様子を男は固唾を飲んで見守った。 足が動かないからだ。

食事が終わったのか、姿が戻っていく。
水兵服を身に纏った、普通の少女。
久々の御馳走にありつき、満足そうな表情を浮かべている。

「ふぅ、目的まであと一歩の所で達成できなかった絶望感たるや、つまらない話の代償としては十分過ぎるな。 ……さてと?」
「あ、あ……ありがとう。 よく助けてくれた。 この恩は絶対返す。 困った事があったら何でも言ってくれ! ……ひっ!」

助かった事によって、緊張感の解けた男は饒舌に感謝を述べた。
彼や仲間にとって、彼女が災害にも等しい存在なので祟り神を恐れるのと同じであった。
へりくだり、おべっかを使い、危害の無い存在である事を精一杯伝えた。
その様子を村紗は何とも思っておらず、男の胸を乱暴に突き飛ばす。

「あ、ひっ……た、助け……」

尻餅を着いた男は、手を伸ばして命乞いをしていた。
その男の顔付近を踏みつけた。 口元をやや歪め嗜虐心を全身から醸し出していた。

「死にたくないんだろ? 話しをしないか? 面白い話をしてくれれば、死なないかもしれないぞ?」

男は学が無い、面白い話なぞ知る訳が無い。 だが、死にたく無い。
村紗の仕草、少しの変化を恐れ、必死で頭を捻った。

出て来た話は男の半生。 齢10で女を犯し、そこから矢継ぎ早に童貞を捨てた。
欲しい物は盗んだ。 気に食わなければ傷つけ殺した。
すぐに捕まり、そして学んだ。 次はもっと上手くやろうと。
傷つけた人妖の数は知らない。 殺した数も知らない。 犯した人数も覚えていない。
だが、口は止まらなかった。 罪を重ねた数も次々と積み重なっていく。
表情は徐々に恐れを薄れさせ、犯した罪を話す度に笑顔になっていった。

「ああ、美味しい話しだ。 もういいぞ」
「良いのか? じゃあ、俺は……」
「そうだ、用済みだ……」

ゴボォ……。

男を水球が包む。 陸の上に居ながら、彼は水難事故に遭い溺れかけている。
水球内で目を見開き首を押さえ、肺の中に蓄えていた筈の空気を吐き出していた。

どうして。 男の顔は村紗を見据え訴えていた。

「そうだなぁ。 話しは非常に面白かった。 書物では知る事の出来ない極上の経験ばかりだった」
「だがな……水子は……いかんだろう?」

水球内の泡が手を形作っていく。
必死でもがき、助かろうとする男の足を掴み、胸に絡みつき、髪を引っ張って深淵の底へ引きずり込もうとしていた。
これは、まったく無意味な行動である。 だが、父を求めて縋り寄る水子達は、陸の上の水球であろうとも関係はなかった。

「ガボォ……た、助け……」

小鈴からした血の臭いより、村紗を見た時より、男の顔は恐怖に歪んでいた。
眼前に迫りくる死に対し、すべての生物が平等にとる表情をしていた。
目の前の人物が災害と等しい存在であっても、お構いなしであった。
その伸ばした手にも泡状の手が絡みついていく。
男を見る目を硬化させ、これから死刑になる囚人を見下す様な表情をとると、一言言い放った。

「駄目だね」

〜〜〜〜〜

ぽつ、ぽつ、ぽつ、ざーっ……。

雨が降る。
外の世界の様に舗装のされていない道路はあっと言う間にぬかるみに変わっていった。
ぬかるみに横たわる青年がいる。

それを村紗は見ていた。

雨が降る前、川も湖も無い場所で溺れ死んでいた。
彼が今までに作った子供の亡霊に憑かれ死んでいった。

村紗は思った。
これを亡霊にして、無念の内に喰えば、どんなに美味しいだろうか。
まだ見ぬ楽しみに心躍らせ、彼女は男を呼び起こした。
小鈴ちゃんはその軽率さから、男に犯されて殺されるのが、とても似合うと思う。

匿名評価、コメントありがとうございます。

>1様
コントロール

>ギョウヘルインニ様
そのまま水の中で暮らしてもらって、水中でしか生きられない体になって貰いましょう。

>NutsIn先任曹長様
話が面白かったら救われない、詰まらなかったら沈めちゃう。
ああ、舟幽霊に出会った運命を恨む。

>県警巡査長様
お嬢様言葉と丁寧な物腰に騙されてはいけませんよ。
彼女の能力と特性は、特に人間を殺す事に特化しすぎていますから。

>5様
上手い!ご褒美として小鈴をFuckする権利を与えます。

>7様
南無阿弥陀仏。
まいん
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/03/23 08:18:01
更新日時:
2014/06/14 23:24:39
評価:
6/7
POINT:
630
Rate:
16.38
分類
村紗
小鈴
オリキャラ
村紗が水子の敵と食欲を満たす話
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1. 100 名無し ■2014/03/23 18:23:20
マインド
2. 100 ギョウヘルインニ ■2014/03/23 19:00:25
この男にスキューバダイビングセットをプレゼントしたい。
3. 100 NutsIn先任曹長 ■2014/03/23 19:06:17
狩喪女の水兵さん。
お話が好き。人生の重みのあるお話が好き。
それが相手を沈める錨となるのだから。
恨みが好き。つらみが好き。
それが相手を救えぬ柄杓となるのだから。
4. 100 県警巡査長 ■2014/03/23 21:12:00
ムラサ船長恐るべし…。妖怪をマジにさせたら怖いというのを改めて痛感しました。
小鈴はご愁傷様としかいいようがありませんね。
5. 100 名無し ■2014/03/23 21:14:57
柄杓に穴が空いてるせいで誰もすくわれませんでした。
7. 100 名無し ■2014/05/17 21:32:18
亡霊!
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