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『れいむいれ』 作者: NutsIn先任曹長
博麗神社の居間。
無人の居間に、それはデンと置いてあった。
年季の入った、竹で編まれた日本の伝統的衣装ケース。
葛篭(つづら)である。
大きい葛篭である。
「パル?」
今回のお話に、パルスィは関係ない。
この葛篭の上には、紙が貼られていた。
『れいむいれ』
「この中に霊夢が入っているのか?」
魔理沙はひとりごちた。
葛篭に貼ってあった紙をよく見てみる。
文々。新聞の折り込みチラシの裏が白いヤツを、適当な大きさに切ったものだ。
霊夢はよくこのようなメモ用紙を作っていた。
その自家製メモ用紙は、幻想郷の文房具や香霖堂でも売っているセロハンテープで葛篭上部に貼り付けてあった。
書かれた文字をよく見てみる。
黒いクレヨンで書いてある。
文字は稚拙なひらがなだ。
魔理沙はすぐに、光の三妖精――通称『三月精』を思い浮かべた。
ちょくちょく神社に遊びに来る彼女達を、霊夢は娘か年の離れた妹のように面倒を見ていた。
居間を見渡してみる。
片隅に段ボール箱があった。
中には子供用の玩具が雑然と入っていた。
魔理沙は中を弄り、チラシで作ったメモ用紙をクリップで留めた束を見つけ出した。
ペラペラとめくると、クレヨンで書かれた霊夢の絵が3枚見つかった。
勢いを重視して描かれた霊夢。
やたら細かく描かれた霊夢。
全体の特徴をまとめて描かれた霊夢。
それぞれの絵の側に、ひらがなで『れいむ』と書かれていた。
葛篭の紙に書かれた文字と特徴が似ているのは、最初の絵の文字だった。
「サニーミルク、か……」
今日は現在まで、三月精の姿を見ていない。
姿を隠し、物音を消し、ヒトの居場所を察知できる連中だから、どこかで様子を窺っている可能性もあるが……。
魔理沙は、それはないと断じた。
彼女達と一緒に霊夢に悪戯を仕掛けたことがあるからこそ、楽しい事をしている妖精達が完全に気配を消すことなどありえない事が分かっているからだ。
魔理沙は、改めて葛篭を見た。
そして、その隣を見た。
霊夢の巫女服が畳んで置いてあった。
リボンも、揉み上げに着けているカバーも、サラシも、ドロワーズも、靴下まで置いてあった。
ズシリ。
袖の一つを手にすると、魔理沙は重量を感じた。
中に、霊夢の得物である追尾護符や退魔針、陰陽玉が入っているのだろう。
これらから推察される事はただ一つ。
霊夢は、この中に、裸で入っている。
「『シュレーディンガーの猫』かよ……」
魔理沙は、御自慢のウィッチハットから人形を取り出した。
魔法使い仲間であり、異変解決時のパートナーであり、恋人であるアリス・マーガトロイドお手製の逸品だ。
ペラ。
魔理沙は人形のスカートを捲った。
汚れ無き、白いドロワだ。
ゲシッ!!
人形から顔面に蹴りを貰った。
イキナリ、ナニシヤガルッ!!
「起動前の確認だぜ」
キガスンダラ、サッサトヨウケンヲイエ!!
顔を真っ赤にした人形がコマンド待ち状態になった。
「通信。連絡先、河城にとり」
セツゾクシマス。シバラクオマチクダサイ。
人形は、先程とは打って変わって事務的な口調になり、口を閉じたまま断続した電子音を発した。
プルル……、プルル……、プル、ブッ。
『ひゅい、だぁれ?』
「もしもし? 俺俺、魔理沙だぜ☆」
『魔理沙は一人称に<俺>なんて言わないよ』
「もしもし♪ 私、魔理沙よ。うふふ♪」
『気色悪いぞ、盟友!!』
「はは。さて、ジョークはソレくらいにして――」
『ひゅい……』
「<道具>を持って、博麗神社まで来てくれ」
携帯電話のような通信機としての役目を終えた人形は、魔理沙の前髪を掴み、鼻と耳を足場として頭によじ登り、魔理沙が被っている帽子の中に潜り込んだ。
しばらくして、空からにとりが降下してきた。
「おまたせ、盟友♪」
にとりはリュックから飛行ユニットを排除すると、境内で待っている魔理沙の元へ駆け寄った。
「早速だが、あの中を調べたい」
神社居住部の居間にある葛篭を指差す魔理沙。
「大きい葛篭の中に、お化けが入っているかどうか?」
「予測では、お化けより怖い女の子が入っているらしい」
「開けてみないの? 魔理沙らしくない」
「河童は、重要施設に放置してある不審物をいきなり開けるのか?」
「うんにゃ。いきなり解体するヤツは大勢いるけどね♪」
解体屋の筆頭であるにとりは、愛用のリュックから小型のテレビらしき機械と金属棒ともケーブルともつかぬ物を取り出した。
「ファイバースコープだよ。狭い場所を見るためのものだ」
にとりはテレビにケーブルの一端を接続して電源を入れた。
テレビにボンヤリとした画像が映った。
「葛篭の……、ここの穴が大きいから、そこからスコープを入れよう」
「私がやっていいか?」
「ここのハンドルを回すと先端が動くから」
魔理沙は受け取ったファイバースコープの先端を、スルスルと葛篭に挿入した。
「暗いな」
「ひゅい」
にとりがスイッチの一つを押すと、スコープ先端部のライトが点灯した。
画面は肌色一色になった。
「そこのダイヤルでピント調整して」
「んん……」
画面で凹凸のある皮膚と産毛を視認できるようになった。
「……」
「……」
魔理沙とにとりはテレビの画面を見つつ、慎重にスコープを葛篭内に送り込んだ。
ファイバースコープは、金属の寄生虫のように静かにのたうちながら、内部を進んだ。
肉の谷間のような所にスコープを進ませると、何か孔のような部分があった。
「なんだろ、ここ?」
「ひゅぃぃ、見覚えがあるような無いような……」
人体に詳しくないわけではないが、映像の視野があまりにも狭く拡大しすぎているため、二人には見当がつかなかった。
スコープを孔に入れてみる。
クプ。
かたんっ。
「ぅおっ!?」
「ひゅいっ!?」
映像と葛篭が一瞬、震えた。
慌てて、魔理沙はスコープを孔から引き抜いた。
「……」
「大丈夫、か……?」
数十秒待って、何も起きないことを確認する二人。
慎重にファイバースコープを、峡谷に沿って移動させた。
その先には、ジャングルがあった。
「ひゅいい……、ここは……」
「サンプルが欲しいな……」
「なら、そこを……」
水鉄砲の引き金のような物があった。
それをゆっくり引くと、テレビに腕のようなものが映った。
「のび〜るアームをそこまで縮小するのに苦労したよ〜」
魔理沙はにとりの苦労話を右から左に聞き流し、鋼鉄の腕を黒い植物を数本掴める位置まで移動させた。
「いっせーのー……」
「ゴクリ……」
「せっ!!」
ブチィッ!!
「あだああああああああああっっっ!!!!!」
葛篭の蓋が吹き飛んだ。
葛篭からヨロヨロと歩み出た人影。
生まれたままの姿の、
博麗 霊夢が、
両手で股間を押さえて涙ぐんでいた。
「げげっ!! 博麗の巫女!?」
「な……、なんなのよぉ……!?」
「そ、それはコッチの台詞だぜ!! お前、何でそんなトコにいたんだ!?」
突如出現した霊夢に驚愕するにとり。
裸で混乱している霊夢。
そもそも、何で霊夢は葛篭に入っていたのか詰問する魔理沙。
「あ、うん。昨晩寝不足で、昼寝しようと……」
「だから、何でそんな所に裸で入ってたんだぜぇっ!?」
「そのほうが落ち着くからよ!!」
逆切れの霊夢。
「お前は猫かっ!!」
「ええ!! 昨日はそうだったわ!! ――はっ!? ……///」
昨晩、霊夢を寝かせなかった彼女の恋人である妖怪の賢者、八雲 紫はタチだった。
霊夢の動きが一瞬止まった。
魔理沙はファイバースコープをテレビから引っこ抜くと、箒に跨り、最大加速で博麗神社を離脱した。
「あ――」
文字通り、あっという間に安全圏まで離脱した魔理沙。
懐から取り出したスコープ先端のアームは、しっかりと黒い物――霊夢の陰毛を握り締めていた。
「にしし……☆ 博麗の巫女のナニの毛……。高く売れるぜ♪」
この手のモノは、霊力をふんだんに含んでおり、魔術、呪術の触媒や霊薬として珍重されていた。
ゆえに、博麗神社の厠やそこに置いてある汚物入れ、下水道は、厳重に監視され、結界でフィルタリングされていた。
魔理沙は老獪な種族魔女めいた悪党笑いを浮かべ、幻想郷の大空を飛翔した。
「はぁ……。さて――」
魔理沙を取り逃がしてしまい、ため息をつき、頭をポリポリかいた霊夢は後ろを振り向いた。
「ひゅ……、ひゅぃぃ……」
霊夢が葛篭から飛び起きた時からへたり込んでいたにとりは、幼さの残る霊夢の肢体をまるで恐怖の権化のように、瞳孔の開いた目で凝視し続ける事しかできなかった。
「エロガッパ。玩具を使った性的な悪戯は、ちょぉおっと、感心できないわねぇ」
「わ……、私はエロガッパじゃ……、ひゅいいいい……」
恐怖のあまり、にとりは釈明も満足に出来なかった。
もう失禁寸前である。
「それなりの報いは受けてもらうわ……」
霊夢の手には、いつの間にか一枚の護符が握られていた。
「ひゅ……、ひゅいいいいいいいいいい――っっっ!!!!!」
幻想郷の地底。
幻想郷創立からつい最近まで、地底は幻想郷の極悪人や爪弾き者が追いやられていた。
さらに昔、ここは地獄の一部署であり、無期限に封印された者達も大勢いた。
以前、地霊殿の地獄烏が起こした異変が遠因で、ここに封印されていた者の一部が開放され、新たな異変を起こした事があった。
またこのような事が起きないよう、八雲 紫は是非曲直庁及び地底の有力者と協同で、地底を調査することになった。
その最下層のさらに下。
にとりの異母姉妹が住んでいるといわれる場所よりもさらに下。
そこでは遺跡の発掘が行なわれていた。
あまりにも過去過ぎて化石化した罪人やら用途不明の品々が、ここから続々と発見された。
それらの業はあまりにも深く重く、触れただけで即死したり発狂したり取り込まれたりする者が続出した。
なので、発掘作業には飛び切りの重罪人が捨て駒として当たることになった。
にとりも極悪人の一人として、地獄の中の地獄に放り込まれた。
幻想郷では博麗の巫女に危害を加えただけで、その者には幻想郷反逆罪が適用され、死刑もしくは死を望むような苛烈な刑罰が与えられた。
ちなみに、これは博麗の巫女の自己申告でも相手にこの罪が適用できる。
霊夢が殺されそうになったと情婦の紫に泣き付けば即刻、霊夢がムカついた相手はスキマで拉致られ、裁判抜きで件の刑罰が執行されるのである。
余談だが、冤罪だった場合、相手は口封じに消されるか、ごっめ〜ん♪ テヘペロ☆で済まされる。
にとりは、作業員達の中でもかなり優遇されていた。
発掘現場の責任者である地霊殿当主の覚り妖怪、古明地 さとりがにとりの心を読んで、配慮したのだ。
プレハブ小屋内の棚に無数の発掘品をカテゴリー毎に並べ帳簿に付けて上役に提出し、それが終われば心身ともに疲弊した作業員達の食事の支度だ。
(ひゅぃぃ……。どうしてこんな事に……)
にとりは囲炉裏に掛けられた大鍋を見つめながら、運が悪かったとしか解が得られない自問自答を繰り返した。
巫女服を着て、居間を片付ける霊夢。
葛篭の蓋に貼り付けられた紙片を剥がした。
「『れいむいれ』――『霊夢入れ』、ね……。ふふ♪」
霊夢は昼寝する前に、三月精と回文を作って遊んでいた。
かなりこじつけじみた物も多々あったのを思い出して、つい笑ってしまった。
「実際、あるものよね〜」
紙切れはゴミ箱に投じられた。
すでにゴミ箱の中には、同様に文字の書かれたチラシ再利用のメモ用紙が数枚入っていた。
『わるいまりさちもうもちさりまいるわ』
(悪い魔理沙、恥毛持ち去り参るわ)
『きたにとりいせきせいりとにたき』
(来たにとり、遺跡整理と煮炊き)
今回のSSは、霊夢が入っていると思われる箱を巡る騒動のプロットに、回文ネタを後付けで付加したものです。
2014年4月20日(日):コメントへのお返事♪
>ギョウヘルインニ様
霊夢「ごっめーん!! 忘れてたわ♪ 閻魔には宜しく言っておくから、許してちょんまげ☆」
>まいん様
最初に回文ありきのSSですからね♪
>財閥代表様
もともとは、博麗の巫女にもしもの事があったら幻想郷壊滅の危機である事から生まれた掟だが……。
>県警巡査長殿
幻想郷には、三日間逃げ切ったら無罪という掟もありまして……。
摘発する者が霊夢しかいない現状でねぇ。
存在意義があるのか無いのか分からない、寄り合い所帯の警察じゃぁ……。
>5様
難しかったよ〜。
今回のSS執筆に要した時間の大部分が、回文を考える事で占めているからね。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/03/23 10:25:41
更新日時:
2014/04/20 10:56:43
評価:
5/5
POINT:
500
Rate:
17.50
分類
霧雨魔理沙
河城にとり
博麗霊夢
回文
しかし、紫の堂々たる公私混同っぷりが清々しい。
魔理沙は後日、地底送りにされそうな予感がしますね。
普段霊夢の手を煩わせてばかりいる者たちに対しても幻想郷反逆罪は適用されるのでしょうか…。
ねぇ、幻想郷警察の皆さん?(チラリ
警官『ごっめ〜ん♪で済んだら警察はいらんわっ!!』