Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『二人の絆』 作者: ギョウヘルインニ
むしゃくしゃする時っていうものは誰でもある。その日、幽々子は庭に舞い降りて来た鳥の羽を見つけて、暇なので扇子であおいで浮かべ遊んでいた。ところが広げていた扇子がたまたま風が少し強く吹いたせい落としてしまった。
そして、それが落ちた場所が水溜りだった。泥水だらけになった扇子はお気に入りだったのに、汚れてしまって乾かしてももう使えない。
「それにしても、妖夢あなたって哀れよね?」
だから、同じ庭で剣術の稽古していた妖夢にあたることにしたのだった。
別に妖夢は哀れではない。口から出まかせでこれからじっくり理由をつけて妖夢を泣かせる。ちょっと、トラウマになるくらいにじっとり。
”泣くまで、言葉攻めをやめない”
「え? どうして? ですか? 幽々子様」
急にそんなことを言われて妖夢は戸惑った。ひとまずは抜刀していた刀を少しぎこちない動作で鞘に戻して幽々子の前に直立不動で立った。
幽霊の妄言など無視してそのまま剣術の稽古を続ければいいのに律儀に、まじめに妖夢は考え過ぎなのだ。
「あなたは幽霊にも人間にもなれない半端もの。とても哀れよ」
言い換えれば、幽霊にも人間にもなれる存在とプラスにも取れるが、これは半端ものだというマイナス思考を植え付ける。
トラウマ作成の第一歩は存在の否定からねっとりと。
「そんな、私は私は」
効果は絶大のようで、とても悲しい顔に妖夢はなった。だが、まだ泣きそうにない。
まだまだ泣かれては困る。すぐに泣いてしまう娘をいじめるなんてそれは悪だ。
「それに、幼いころからほとんどここで過ごしているけれど私に見捨てられたら。あなたは天涯孤独だし」
親戚は所在不明で幽々子に見捨てられるということは白玉楼を追い出されることになる。
「……見捨てないで下さい」
今の妖夢は白玉楼を追い出されても一人で生きていくことはできるだろう。
しかし、一人は孤独だ。妖夢はその育った経緯から孤独がすごく怖かった。
「でもねぇ。半端ものを従者として仕えさせてもね。私が惨めになるじゃない。それはどうするの? 妖夢に解決できないでしょう」
妖夢が今まで仕えてきて、幽々子は惨めだと感じたことはほぼないと言って良い。
妖夢が今よりまだ幼いときは、ミスや恥ずかしい思いをした時があったが些細なことだ。それだって、幼い妖夢がしたことだから笑って許せたし、周囲もそれほど気にしていない。
最近は寧ろ誇らしく思うときもあった。でも、今日はむしゃくしゃしているから妖夢にあたる。
「お願いします。私、今まで以上にもっともっと頑張りますから」
それしか、妖夢には言えなかった。何を頑張ればその遺伝子に刻まれた情報を操作することができるのだろう。
「今までもそのセリフを何度も聞いているわ」
そうだ。このセリフは何度も聞いてきた。度々言葉攻めにすると大体こういうのだった。
でも、飽きることがない。優越感に幽々子は浸っている。これがよかった。
「……頑張りますから。頑張りますから。頑張りますから」
繰り返す。少し震えながら妖夢は同じ言葉を繰り返している。
「妖夢、口では何とでも言えるわ。そう思っているなら行動で示しなさい」
いったい、行動とはなんなのだろうと、幽々子は自分で言っているのにわかっていない。
「行動ですか?」
妖夢もやはりわかってはいない。
「行動よ。何をすれば良いか自分では分からない? 教えないと出来ないの?」
馬鹿にしながら呆れたような感じで、幽々子は言った。教えないと出来ないならば、お前はいらないよと暗喩が込められている。
さらに陰湿な笑みを浮かべ、自分より弱い立場の者を困らせる。これが、癖になっている。本当ならついでに口元を扇子で隠したりするのだがそういう小道具は今日はない。
「わかります。わかります」
見捨てられるのが怖いから、妖夢は考えている。今まで見てきた狭い狭い世界の中で何かヒントがないか考えてみる。
「それで、何をしてくれるのかしら?」
「強くなります。今まで以上に剣のお稽古に励みます」
もっと、強くなってお慕いしている幽々子様を守る。それが妖夢の出した答えだった。
これだけ、酷いこと言われても幽々子の為に妖夢は頑張る。
「お稽古? 今の時代、刀や弓が役に立つと思うの? 馬鹿ね」
弾幕ごっこだったら、刀や弓だって役に立つかもしれない。でも、あくまで弾幕ごっこは少女達の遊びだった。今の時代本当にもとめられているのは算盤、学問といった類である。
「学問にも励みます。あの濫のようになれるよう頑張ります。流行の英語だって話せるようになります」
妖夢は字がほとんど読めない。書けない。これは、従者に余計なことを知られないために幽々子が施してきたことだった。
以前、別の従者が幽々子が書いていた文章を盗み見て情報を漏洩しようとしたことがって、その従者のように沼に沈めるは忍びなかった。
「濫ね。藍よ。あなたは学問には向いていないようね。なんの役にも立たない、愚かで半端で可哀想な娘」
「私は..愚か....可哀想?」
妖夢は俯いて落ち込んだ。直立不動の姿勢からいっきに猫背に近い状態になった。
もう、泣いているのかもしれない。そろそろ、いい塩梅になってきている。
「本当に可哀想。私だったら自殺してしまうかも。毒はどこかしら」
「……私が..出来ることって......死ぬことですか?」
ぼそぼそ、妖夢はそう言った。その声は泣き声だった。
この声、この俯いた様子、幽々子はこれが聞きたかった。見たかった。
「これよゾクゾクくるわ、おっと」
思っていたことを思わず口に出してしまう。
「……幽々子様ぁ? 私は居ないほうがいいのですね。死んで詫びます」
「あなたは、自分が愚かで劣等な生き物それを知ったのね。死ぬことしか価値がないけれど、今は死ぬことを許さないわ。私に対する恩義すべてを返してから死になさい」
幽々子に対する妖夢の恩義はどれほどのものなのか。永遠に生きろということなのか、それとも事実上の死刑宣告なのか。誰にもわからない。
「幽々子様? 私は生きて良いのでしょうか?」
「自分で考えなさい。私は新しい扇子を買いに出かけるから。あとはよく考えることね」
さっきまでのむしゃくしゃは何処か別のところに行ったので、幽々子は晴れやかな気分だった。そうして、扇子を買いに出かけたのだった。
幽々子が去っていくと、妖夢は何もなかった感じでケロッとした表情で剣術の稽古を再開したのだった。
やはり幽々子の言っていることはまったく理解できないが、度々の言葉攻めで妖夢に強い精神力が培われていたのだった。
一人の孤独が怖くなくなる日はそう遠くないかもしれない。
「ゆゆこしゃま、ゆゆこしゃま」
「な〜に?」
「あらら、かわいいわねぇ。この子なんて名前?」
「妖夢っていうのよ」
「へぇ」
「ゆゆこしゃま」
「なあに、妖夢?」
「この、とってもきれいなおねえしゃんはだれでしゅ、ですか?」
「なかなか、見どころが有るわねこの子」
「紫って言うのよ。私のとっても大事な友人なの」
「ゆゆこしゃまのだいじなゆうじん」
「そうよ」
「あくしゅ、あくしゅ。ゆゆこしゃまのだいじはわたしにとってもだいじです」
「握手ね。はい、握手」
「微笑ましいわねぇ。……妖夢はあっちで藍と遊んでもらいなさい」
「はーい、ゆゆこしゃま! ゆかりしゃま」
「なにかしら?」
「これからも、ゆゆこしゃまとなかよくしてくだいね」
「ええ、もちろんよ」
「……あの子、あなたの子なわけないわよね?」
「そうよ」
「捨て子? あんなかわいい子捨てるなんて考えにくいけど」
「そうねぇ。捨て子みたいなものね」
「育てるの?」
「ええ、私には時間はたっぷりあるしあの子が立派に一人前になるまで面倒を見ようと思うわ」
「幽々子ならできるわ。きっと、いい子に育つわ」
ギョウヘルインニ
- 作品情報
- 作品集:
- 10
- 投稿日時:
- 2014/03/24 09:09:10
- 更新日時:
- 2014/03/24 18:09:10
- 評価:
- 9/11
- POINT:
- 960
- Rate:
- 16.42
- 分類
- 幽々子
- 妖夢
- あとがきは100パーセントお口直し
- 紫
大分ずぶとくなった
獅子の子を、見事に育てられましたなぁ。
この作品を、私は現代の過酷な環境で仕事や勉強に励む若人に対する『処世術』と受け取りました。
あとがき読んでなんか悲しくなった。