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『産廃創想話例大祭Bオーノ!』 作者: ラビィ・ソー
ドチャリ・・ドチャリ・・少女が一歩を踏み出すごとに、あたりに心地よいブーツの音が響き渡る。肩からは釣り道具一式をぶら下げ、カールした茶髪はキャップの下に隠し、そして釣り人を日光から守るサングラスで、その優しげな目元を覆っていた。
「うれしいことに、今日はさわやかな快晴ですよ〜んっと。」
慣れた釣り人特有の余裕と、これから訪れる至福の時間への思いとが混じりあい、彼女はつぶやいていた。
港に着くと、彼女は道具一式を、船外機付きの小さなボートに降ろし、ボートに乗り込んでスターターの紐を引いた。
「バルン、バルン、バルルルル・・」
半ばやる気なさそうにエンジンは回り始め、ボート全体が小気味よくかすかに振動する。眼下に広がる海の波はおだやかで、深いブルーに、波の頂点近くだけが白くキラキラと輝いて、ゆらゆらと幾重にも岸に向かって寄せてくるのだ。エンジンのリズムと、波のリズム・・・。彼女の、スーパーアイドルとしての多忙な日々を、このリズムが癒してくれるのだ。遠くに、岩で出来た小島が見える。目的地は、あそこだ。
船外機のスクリューを水中に下ろし、舟が動き出すと、港にたむろしていた猫が一匹、彼のボートのなかに飛び乗ってきた。
「おっほっほっほ〜、元気な猫ちゃんだ。君みたいな人、東京でも見かけるよ。電車に急いで飛び乗るの。」
実はヤマメは、軽く変装して、オーラを消して、電車に乗ることもあるのだ。でも今日は、電車で通勤する日とは違う、ゆるやかな空気が、潮風とともにぜいたくに流れていた。日差しがきらきらとボートを照らしていたが、やがて涼しい日陰となった。目的地の島のそばに着いたのである。ヤマメは釣り針にオキアミをまとわりつかせると、海面にポチャリ・・・と投げ入れた。目の前の島はごつごつした岩で、その大部分が灰色で、波が打ち寄せる場所は黒くぬれて、冷たそうに磯の香りをこちらに跳ね返してくる。その上を、カニがとことこと歩いているのが見えた。ふと横に目をやると、エサのオキアミを、猫がパクパクと食べていた・・・。
デロリーン♪と、腰ポケットから音がなる。スマホを開いてみてみると、キスメとパルスィからだった。
「ふむふむなになに・・・『ヤマメは今日も釣り?私達は今日はツーリングで飛騨高山に来てるよー。』か・・・。」
写真がメールに添付されている。2人のかっこいいバイクとともに、キスメとパルスィの満面の笑みが、スマホの画面に広がっていた。それを見たヤマメは、丸いほっぺから続く口角を上げ、タレ目を一層細めた。
「2人とも楽しんでるねぇ〜。私も楽しんでるよー。」
海面を漂う釣りの浮きを、スマホで撮影しようとして向けると、ピクピクッ!と浮きがけたたましく動いたので、ヤマメは写真どころではなくなり、竿の操作にとりかかった。
「おっしゃあ、きたぜえ!」
優しげでどこか眠そうでもあった彼女の眼は、興奮できらりと輝いた。リールを巻き取ると、前腕に筋肉が浮き出る。徐々に、ヤマメの目の前に姿を現そうとするその魚を想像し、自然と白い歯がこぼれる。釣り糸の先の動きは、魚の奏でる生命のメロディーそのものだ。激しく、左右に振れる。この手ごたえを手に感じるときに、このスーパーアイドルの少女は、一人の男に戻るのだ。最後にタモで魚を引き揚げ、見事なカンパチが釣れた。
「ひゅーっ!」
たたかいのあとの安堵感と、さめやらぬ興奮に、心臓の鼓動が早まって、顔がうっすらと紅潮した。カンパチは肉厚で、触ると跳ね返してくるように、小刻みにバタバタッ!と震える。太陽の光が当たると、無数のうろこに反射して、金属のようにギラリと輝くのだ。
「仕事は、勝ち取った金で宝石を買うが、釣りは直接宝石を手に入れるようなものだぜ。」
ヤマメはそんなことを思うのだった。
〜〜〜
日中のまぶしいばかりの晴天も、いまや夜の帳が下り、街はもう数時間先にせまった月曜日に向け、休日の時間を惜しむように、やさしい大人の時間が流れる。オシャレなセレクトショップや、イタリア風のBarが立ち並ぶ大通りから、少し横に逸れたところに、割烹「あさむら」はある。注意して探さないと見逃してしまいそうなこの小さなお店に、クーラーボックスを肩から提げたヤマメは、吸い込まれていった。
冷酒をかたむけながら、いまや刺身へと形を変えた今日の釣果と対峙し、今日の充実した一日をしみじみと振り返った。彼の腕に確かな手ごたえを残し、日光に照らされてギラギラと輝いた海の宝石は、今、つややかな半透明の刺身となって、ヤマメの舌を喜ばせている。この世は諸行無常・・・。刺身となったカンパチを見ると、どんなものも、明日はどうなっているのかわからないということを思わせる。ふと、ジャニーズの激しい競争の果てに散っていった、かつての仲間達の顔が、ヤマメの脳裏に浮かぶのだった。
キューッ!と冷酒をあおる。
「よっしゃ、明日の新曲の収録も、いっちょがんばるか!」
完
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/05/19 13:08:44
更新日時:
2014/05/19 22:08:44
評価:
6/23
POINT:
570
Rate:
10.82
分類
産廃創想話例大祭B
はい。
参加させていただいて光栄です。
ただ、東方要素が無いだけさ。
基本的にこっちの読者はあなたの味方なんだから釣りをしなくても、普通に作品作れば釣れる思いますよ。
ありがとうございます。
でも点数くださいよ〜このままじゃ僕が例大祭ビリッケツじゃないですかー><
ブービー賞がほしいから!^o^
非常に綺麗に纏まっていたのですが、山も何もないので少し残念でした。
ありがとうございます!お褒め頂いてたいへんはげみになります。
ところで、題名の元ネタわかる人いないのかなぁ
そういえばそうですね。開高健も川釣りでしたしねぇ。
>>んh様
私の知識不足からくる稚拙さが笑いを誘われたのだとしたら、お恥ずかしい限りです!><
海に行きたくなった
ありがとうございます!これから行楽にはもってこいの季節ですね。
自然と触れ合いたいものです。
ありがとうございます。彼女達もなかなかアクティブなものですよね。
実に楽しそうです。^0^
ごめんなさい、言葉が足りませんでした。
ヤマメが海釣りしているをリアリティたっぷりに描写してるのが、妙にシュールで笑いが止まらなかったという意味でした。
ありがとうございます。楽しんでいただけてとてもうれしいです。
こういうのもいいですね
さんきゅーべりーまっちょ!^0^
楽しい休日、いいですよね〜。まさにリア充!