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『秘封霖倶楽部 逸話休題』 作者: ND

秘封霖倶楽部 逸話休題

作品集: 10 投稿日時: 2014/07/23 16:04:44 更新日時: 2014/07/24 01:56:17 評価: 3/3 POINT: 300 Rate: 16.25
【非日常】

日常の非なるものの日

だが、その概念は人それぞれである。


【G編】

ある日、学校のマンホールからゴキブリがワーっと湧き出てきた。

『ぎゃぁあああああああああああああああああああ!!!』

あたり一面、ゴキブリと悲鳴を上げる生徒達が沸いている。

どうしてこうなったのだろうか。僕には心当たりが多少ある。



『今日は、怪奇ゴキブリ男を捕まえるわよ!!』

そういって蓮子は、マンホールの中に炊いたバルサンを放り込んだのだ。



それが三時間前の出来事である。

そして現在、僕達が通う大学は地獄と化しているのだ。

ちなみに、当の蓮子はというと

『ひぃぃぃぃぃ!来るなぁ!来るなぁあああ!!』

絶叫しながら大量のゴキブリから逃走、未だ行方が分からないままである。

ちなみにメリーは今、僕の背中で寝ている。

正しくは、ゴキブリが湧き出たマンホールを見た瞬間、スイッチが切れたかのように意識を失ったのだ。

ちなみに今の僕は、校舎に隠れて意識の無いメリーと共にボイラー室に篭っている。

ゴキブリがイカにも湧いて出そうな所ではあるが、出そうな所のなりに対処もちゃんとされているのだ。

バルサンはもちろん、キンチョールやアースジェット、ゴキブリホイホイまでもが完備されている。

だから、下手に対処し切れていない教室に篭るよりはよっぽどマシなのだ。

『だから、ここは下手な所よりも安心できるのね。』

そう、僕の横でガタガタ震えながら涙目の生徒会長の薫子さんは震えた声でそう言った。

『いや、まぁ確かに一網打尽には出来ますが、前述の通りここはゴキブリにとっては好都合な物件でして、あの量が一気に入り込まれたら打つすべが』

『やめて、怖いこと言わないで…』

生徒会長が涙を流しながら僕の服にしがみついている。

今まで片鱗はあったものの、本当に情けない姿であった。

瞬間、カサカサという音が部屋に響いた。

『ひぃぃえええええええええ!!!』

生徒会長は、落ちていたパールを抜けた腰で振り回しながら、涙声でゴキブリ相手に叫んでいた。

『こないで!!お願い来ないで!!うぇええああああああああああん!!!』

今まで、生徒会長の子供っぽさを見ては多少の威厳を見出せていたが

ここまで情けない姿の彼女を見たのは初めてだった。

瞬間、

ぶぅぅうんという羽音が響いた。

生徒会長の絶叫が聞こえる。そして急に聞こえなくなった。

ふと生徒会長の方を見ると、でこにゴキブリが一匹止まっている。

当の本人は白眼を向いて、泡を吹きながら気絶。

『…………』

余計な荷物が増えたと、僕はゲンナリした。




彼女を生徒会室に届けた後、僕は再び蓮子を探し逃げる旅を続けることにした。

生徒会室も二匹程ゴキブリが居たが、まぁ、なんだ。大丈夫だろう。うん。

まだ起きぬメリーを担ぎながら、僕はゴキブリから避けて前へと進む。

絶叫する校内、狂い笑い出す生徒。泣き出す女子生徒、絶叫する先生。

まさにこの世は悪夢の世界へと変わってしまったのだ。

それも、蓮子がマンホールにバルサンを炊いたせいである。

『きゃぁあぁぁあああああああああああああ!!!』

『いやぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!』

『あああああ口にじゃdsけうぃおあfjsだkfさどいえ!!!』

しかし、まぁ…うるさいな。

確かに量は多いし僕もゴキブリは好きでは無いが

所詮虫なんだから、そこまでパニくる事も無さそうな事だが。

『ひゃっはぁぁああい!!スクープ!!スクープの嵐ですよぉおおお!!』

その中で一人、長谷田が爛々と楽しそうに地獄絵図を写真に収めていた。

『おやぁ?そこに居るのは霖くんじゃないですか。おっはー!』

元気よくいつも通りに僕に挨拶を交わす新聞部部長長谷田唯

さすがにここまで平常運転だと逆に心配しそうではあるが。

『長谷田は平気なのか?この光景は』

『平気も何も、大助かりですよ!!ここまでネタに困らなそうな事件があれば、後3週間は戦えます!!』

原因が分かれば一日で終わりそうなものだがな

『いや、ゴキブリが平気なのかと聞いているのだが』

『ゴキブリなんて私の部屋に何匹居ると思ってるんですか。見慣れてますよそんなの!』

僕は、何があっても彼女の家に行かないと心に誓った。

『ぎゃぁぁああああああああああああ!!!』

体中にゴキブリを纏った女性が廊下を走っている。

ああ、桐谷さんだった。いつも蓮子に廊下を走るなと注意している彼女が廊下を全力疾走しているとは以外だった。

『ひぃひぃひぃひぃひぃひぃ!!』

そして外に出ようと扉を開けた桐谷さんは、数百匹とも言えるゴキブリに覆われ

気絶し、ゴキブリと共に廊下に運ばれていった。

『どこまで行くんだ…?』

その光景は、まるでゴキブリが桐谷を巣まで運んで食おうとしているようでもあった。

『いやぁー、まるで異世界に迷い込んだみたいですねぇー!』

長谷田が、陽気に僕にそう問いかけた。

ああ、確かに異世界のようだよ。地獄という名の

振り返ると、廊下の奥から煙が発生しているのが見える。

白い煙だが、一体何の煙だろうかと思い良く眼を凝らしていくと、

ガスマスクをつけた女性が、いや

ガスマスクをつけた蓮子が、大量の炊いたバルサンを持って走り回っていた。

『おららららららぁああああ!!死ねえゴキブリ共ぉ!!』

そういって、蓮子は煙を撒き散らしてゴキブリを蹴散らしていった。

確かに良い考えかなとは思ったが、それは置いて発生させるものであるためあまり意味は無いと思うとは言わなかった。

だが、それ以上にこの煙は有害な匂いがする。一刻も早く逃げ出したほうがよさそうだ。メリーの身体にも良くない。

『長谷田、とりあえずここは一緒に…』

長谷田の方を見ると、長谷田はうつ伏せに倒れこんでいた。

痙攣を起こしながら白眼を剥いている。煙を吸って中毒を起こしたようだ。

『お前は虫か…?』

聴覚も遮断しているであろう長谷田にそうつぶやき、僕は長谷田も担いで外に出た。



数時間後


あれだけ多かったゴキブリが嘘のように今は一匹も見かけない。

先ほどの行為が大いなる効果を起こしたようだ。なるほど、やっぱりすごいんだな。


業者の力は。


蓮子のバルサン撒き散らしは当然効果としては薄く、

仕方なく学校側は業者を呼び出してゴキブリを一掃退治してくれたのだ。

当の蓮子はと言うと、ガスマスク越しとは言え煙を思いっきり吸い込んでしまった為

中毒症を起こし今は病院に運ばれている。まるで虫みたいな自滅だった。

『…今回の事件は、本当に何の得も生み出さなかったな。』

僕はため息を吐いて、先ほど目覚めたメリーの方を見た。

『今日は、二人で活動しますか?』

『せいぜい、喫茶店でデートくらいにしかならないだろう。』

僕がそう言うと、メリーは少し嬉しそうに照れて顔を伏せた。

まぁ、さすがにあの恐怖の後だからな。綺麗な喫茶店でパフェでも食べたいのだろう。

『おっ今奢るって事聞いた気がするぜ?』

『奢るとは一言も言ってないよ。駒田』

そういえば、今日はじめて駒田を見たような気がする。

どこかで避難でもしていたのだろうか。

『ちぇ、まぁ良いや。私も喫茶店に連れてってくれよ森近』

まぁ、別に一人や二人増えようが別に構わないのだが、

メリーが少し拗ねている。頬を膨らましてご機嫌が斜めのようだ。

別にパフェを食うのに人数は関係ないはずだし、人が増えれば楽しそうなのだがな。

『ぎゃぁああああああああああああ!!!』

午前中に聞いた女子の悲鳴が、今も聞こえた。

そして、割と大きめの羽音も聞こえる。

ああ、ゴキブリの生き残りかと僕は察した。

『ひぃい!!霖くーん!!』

すると、メリーは僕に強くしがみついた。

しまった、教科書で叩こうかと思ったのだが、これでは動けない。

『ん?ゴキブリか』

すると、駒田は僕の前まで歩き

『よーっと』

パァン!!と合掌した。

…おい、こいつ今何をした?合掌だと?

目の前の女の合掌の中には何か居るのだろうか?

まさか、いや本当にまさか…

『まぁ、こんなもんだな』

そういって合掌を解くと、駒田の手のひらにはぐちゃぐちゃになったゴキブリが微かに動きながら絶命していた。

それを駒田はティッシュでふき取り、そしてゴミ箱に捨てた。

『んじゃ、早く喫茶店行こうぜー』

おいちょっと待て、手を水で洗わないのか?紙でふき取っただけで満足したのかお前は?

さっきから周りの生徒メリーを含む人たちは、駒田の行動にドン引きしていた。

かく言う僕も、これには驚きを隠せず駒田から数歩離れた。

当の駒田は、何で僕達に警戒されているのか分からないのか、首を傾げていた。




〜蛇足〜

『ただいま。』

喫茶店の帰り、夕飯の材料となる赤身を買った後帰宅。

麻耶は僕の布団の上で寝転びながらテラフォーマーズを読んでいた。

『おかえりー、こうりーん』

と、読んでいた漫画を閉じて僕の傍まで駆け寄ってくる。

まるで犬のようだと少し微笑み名がら、僕は麻耶の頭をなでる。

麻耶の顔が少しだけだらしなくなる。その顔がおかしくって僕は笑った。

だらしなくなった麻耶が、僕に指を刺して笑いながら言う。

『あっ!ゴキブリ!』

すぐに僕は指を指された箇所を見た。

確かにゴキブリが僕の肩にたたずんでいた。

…いつから居たんだ!?全く気づかなかったぞ!?

『すっすまない。すぐに外に追い出し…』

そういって外に出ようとした瞬間、麻耶は両手でゴキブリを掴み

それを口に運んでムシャムシャ食べていた。

『………んん!?』

その光景があまりにも奇妙で思わず声を荒げてしまった。

全身真っ白な少女が、全身真っ黒の虫をうまそうにムシャムシャ食べるのだ。

麻耶の知らない一面を、また一つ見えた気がした。

本当に、僕が拾うまではどこに住んでいたんだろうかこの子は。

『こうりーん、お腹すいたー。』

『…まずはうがいしような。』

そういって、麻耶は洗面所まで連れて行く。

思えば、今日はゴキブリで埋め尽くされるような一日だったな。

ゴキブリから始まって、ゴキブリで終わった。

次はこんな事無ければ良いなと、切実に思いながら赤身魚の煮物を作っていた。





【料理対決編】

それは、生徒会長の一言から始まった。

『またカップ麺かしら?近いうちに死にますわよ?貴方』

『うるさいわねー。美味しいんだから良いでしょ?別に』

『という事は、貴方料理出来ない人間みたいね。霖くんはどう思う?』

『どう思う?って…』

生徒会長は、不気味に微笑みながら僕にというかけてくる。

『…まぁ、確かに料理は出来てくれたほうが良いですね。越したことは無いし。』



ああ、あの会話からだ。

あの会話から広がって、今、こんな状況となっているのだ。

『はいはいはい!ではでは、私が司会と記録をさせていただきます、長谷田唯アナと、』

『試食するのがとっても楽しみな、メリーですよー。』

今、僕達は調理実習室…もとい、調理部の部室を貸していただいている状態なのだ。

調理器具も材料もそろっている。

垂れ幕もいつの間にか用意している。…≪料理対決!自分の自慢料理をぶつけて勝負!≫か。

『えー、今回の勝負は自分のお得意料理を披露してもらいます。ご試食はこちらメリーと私長谷田が時々させてもらいます。』

『お前は作らないのかよ?』

『ふっ、侮らないでくださいよ駒田さん。私は、料理なんてお湯を沸かして入れる以外の事なんてしたこと一度もありませんからねっ!!!』

そんな何の自慢にならないことを威張って言えるなんて、こいつは何て頭の悪い子なのだろう。

しかし…、夕飯の代わりになるというので麻耶も連れてきたのだが。

『…………』

全員に警戒しているのか、僕の足から手を決して離そうとしない。

しかし、長谷田お前…

『おやおやぁ?駒田と森近さん。その小さいのは妹さんですかぁ?』

長谷田…お前本当に背が低かったんだな。

駒田の妹は中学生だから仕方無いとして、麻耶はまだ10歳だ。小学生で言うと3年生くらいの年齢だ。

その麻耶よりも背が低いとは思わなかったよ。思わず同情して涙を流しそうになった。

『ああ、中学に入ったばっかだが、響子って言うんだ。よろしくな』

『よろしくなー!!あはははー!!!』

あっちの妹も大概だがな。中学生にしては背も発育も貧しい方だ。

ただ、身長は低身長グループの中では駒田の妹が一番でかいな。僅差だが

麻耶も拾う前の生活は栄養失調が激しかったようだからな。身長はようやく伸び始めたと言った所だ。

…身長の小さい女の子を観察しても面白くないな。さて、料理の方だったかな。

得意料理か、こういうのが一番困るんだよな。題が自由すぎるというのも考え物だ。

さて、うーん…何を作ろうか。

『ちょっと、そんな事よりいつになったら作るのよ。』

『え?もう勝負は始まっていますよ?』

『は?』

『くくく…。そんな事言ってる間に駒田さんは料理を始めているのに気がつきませんでしたか?』

駒田…はっ、そういえば駒田はさっきから肉を切っている。

そうか、妹を紹介しているときもそういえば材料を手に持っていたな。

くっ…、出鼻を取られたな。あんなにも多くの牛肉を、

豚肉を、鶏肉、鴨肉、ミンチ……

『おい駒田、気のせいか肉ばかりな気がするんだが…』

『あ?肉が一番美味しい食材だから肉を使ってるだけだぜ。当然だろ。』

オートミールでも作るつもりか…

しかし、肉がどんどん減っていくのも事実だ。おそらく肉料理だけならすぐに出来てしまうだろうからな。いや、

料理対決と言うのだから、特殊なスパイスも油も使うだろう。それらを考慮すれば野菜のトッピングにも時間がかかるはずだ。

その間に、僕も少しずつ肉をもらって…

『出来たぞー』

早っ!!

駒田の料理の完成は予想以上に早かった。

『…………』

駒田の料理を見に集まったギャラリーに、不穏が走った。

『…あの、駒田さん。この料理は何ですか?』

『肉炒め』

実に駒田らしい料理だ。

そして最後に、その肉の山盛りに焼肉のタレをかけて完成したらしい。

『駒田、これは肉炒めじゃない。焼肉だ』

『どっちでも良いだろ、炒めたのは事実なんだからよ。』

『焼肉だったら調理に必要なのは美味い肉だよっ!?』

だが、これは…その、なんていうか、味が分かりやすい為に食うまでもなさそうだが…。

というか、野菜を付け加えろよ。

そして、メリーは駒田の肉炒めに箸を伸ばし、口に運んだ。

『……うん。無難に美味しい。』

まぁ、そうだろうなぁ。

『まぁ、駒田さんらしいと言えば、らしいわね。』

生徒会長が、馬鹿にするように駒田にそう言った。

駒田は少しだけ不機嫌に生徒会長を睨みつけた。

『…………』

だが、それ以上に麻耶が生徒会長をにらみ付けていた。

調理実習室に入ってからそうだったが、何故か麻耶は生徒会長にだけ特別に威嚇しているのだ。

まるで怯えているコアリクイのようにも見えるが、生徒会長は

『あらあら、真っ白い羊さんが怯えているわね。』

そういって、ピーマンを持って麻耶に近づいていた。

『ねぇ知ってるかしら?ピーマンの中がどうして空洞なのか。それはね、おじさんが必死に取り除いてるからよ。何を取り除いているのかって?それはね、ピーマンの中には大量の蛆が』

『何を教えている何を』

『ふふふ。ちょっと変なことを教えているだけよ。』

教えるなよ。

しかし、その笑いの瞳の奥にはどす黒い何かを感じる。

この眼は…間違いないな。

『お前…子供嫌いだな。』

『まぁね。霖くんも調理再開したら?時間切れを起こす前に』

そう言って生徒会長は自分の調理場に戻った。

…なんだったんだ…?

麻耶は更に彼女を威嚇するようになったようだ。まるで牙を剥いているかのように顔真っ赤ににらんでいる。

『出来ましたわ』

そう言うと、いつの間に居たのか桐谷さんが調理を終えていた。

『え…?いつの間にいたんですか?桐谷さん』

『ずっと居ましたが、もしかして気づかなかったのですか?』

皆、何か申し訳無さそうな顔をしていた。

麻耶も桐谷を威嚇しながら睨みつけている。

…もう少し、この子達を慣れさせたほうがよさそうだ。

『ほほーう?桐谷さんの料理とはこれいかに』

長谷田が、珍しそうに声を出す。

『…この料理が知らないとは、貴方もにわかな司会者ですわね。』

『カップ焼きそばまでしか作れませんからね。私は!!』

そんな事を言う桐谷が出してきた料理は、…なんて事は無い。わけではない。

確かに、これはなんだこれはと言いたくもなる料理だ。だってこれ、これは…

『照り焼きとバターソースかけのミルクワーム踊り食いよ』

どう見ても、ゲテモノ料理だったからだ。

とりあえず、匂いは良い。

匂いは良いが、見た目が圧倒的に気持ち悪い。というか、これ全部生きてないか?

『生に調味料かけた物が一番美味しいですのよ?』

いや、だからと言ってこれは日本人が食べて良いものなのかと問いかけたくなるくらいゲテモノだ

試食係のメリーも、さすがに顔を真っ青にさせて今にも吐きそうな顔をしているではないか。

『確かに見た目は美しくありませんが、私の知る中ではこれが一番味の良い料理ですのよ。』

うん、味は確かに想像できないからなんとも言えない。言えないがさすがに生きたままは食いたくないぞ。

牛だって豚だって死んでいる肉を食べているじゃないか。これは勘弁してやったほうが良いような気がする。

ほら、あの駒田だって顔引きつってるではないか。妹の方はなんだか面白そうな眼で料理とメリーを見ているが。

『…美味しそう』

麻耶は、涎を垂らしながらその料理を見つめていた。

さすがにあんなものを食わせたくない僕は、麻耶の両肩を掴んだ。

『…これ、…食べなきゃ駄目ですか…?』

『まぁ、駄目でしょうなぁ!』

そういって、長谷田は一眼レフでメリーを凝視していた。

『ふぅー、後は少し煮込むだけで…って、何をそんな集まってるのよ…』

蓮子が、料理を見に戻ってくる

『いっイヤァァァアアアアア!!!虫!!虫がいるじゃない気持ち悪い!!!!』

そういって蓮子は、照り焼きとバターソースかけのミルクワーム踊り食いの入った皿を窓からぶん投げた。

『ちょっとっ!?私の料理に何すんのよ宇佐見!!』

『あれアンタの料理?あんなものメリーが食べられるわけ無いでしょうが!!モグラじゃ無いんだから!!!』

『虫食は世界では認められているのよ!認められていないのは日本だけよ!!』

『私達は日本人ですぅー!日本人虫食べないー!!』

また喧嘩が始まった。

あの料理がぶん投げられた後、長谷田は舌打ちした後カメラをしまい

メリーは心の底から安堵の息を吐いて

麻耶は残念そうな顔で飛んでいった料理を見つめていた。

『ちぇー、ちょっと面白そうだったのになー。』

駒田の妹はつまらなそうに唇をとんがらせた。

『まぁ、確かに日本人は虫食は馴染んでいませんよね。』

そう言って、生徒会長の手も止まった。

『出来たわよ。』

そう言って出来上がったのは甘い匂いを漂わせるものだった。

『わぁー、良いにおい。』

『ええ、私が作ったのはイチゴのタルトケーキよ。』

へぇ、こんな短時間でタルトケーキが出来るのか凄いな。

匂いも良いし、これはなかなか美味しそうなものが期待できるな。

うん、でもやっぱり問題は見た目だ。

『…あの、タルトの上のこれってイチゴですか?』

『ええ、イチゴのプリンにイチゴのムースにイチゴのチョコレートのあるわよ。』

『私にはタルトの上に内臓が乗っているように見えるんだけど…』

『それは私のこだわりよ。味に支障は無いわ。』

遠くから見ると、人肉パイを作ったかのようにも見える。

その外面は、どこかクトゥルフ神話を思い出す。うん。食い物には見えないな。

だが、匂いは良い。相当美味そうな匂いが僕の嗅覚器官を惑わそうとしている。

これは相当美味しそうなものであるが、見た目がどうみても人間…

ハマッたら、間違いなくいつか人肉を食うことになるんじゃないのかと思うほど、リアルな造形は

最早”洗脳”になるんじゃないかと思わせるほどであった。

『悪趣味ですわねぇ…生徒会長さん?』

『何か言いましたか…虫食二位さん?』

また不穏な空気が流れる。本日二度目だ。

しかし、匂いは良いし動かないため、メリーは恐る恐ると食べ始める。

そして小腸がフォークに突き刺さり、イチゴチョコレートが中から流れ出る。

眼を瞑りながら、恐る恐ると口に中に入れるメリー、

そして口の中に入った瞬間、口を閉じた。

『どうかしら?』

生徒会長が、不適の笑みでメリーを見つめる。

メリーはうつむき、しばらく黙った後、感想を述べた。

『………ちょっと酸っぱい…』

その感想は、場を凍らせる事が出来ていた。

確認のため、僕も一つまみ食べてみた。

『……イチゴの使いすぎだな、これは』

僕はもう一度、タルト木地ごとケーキを食べる。

麻耶は近づきさえもしなかった。

駒田も『酸っぱいな』と言い、

駒田の妹も『すっぱー』と言い、

長谷田も『…イチゴの味が濃いですね。』

蓮子も『すっぱ』

『…………』

みるみる生徒会長の目に雫が溜まっていく…。

このままでは泣くな。さすがにここで悪目立ちはしたくない。とにかくケーキの良い方向を言ってみる

『ただ、匂いはかなり良かったし、見た目もクオリティーがかなり高いな。』

そう言うと、生徒会長は僕の元まで歩いてきて

僕の背中に頭を押し付け、震えた声で言葉を発した。

『とっ当然よ。だって今回はイチゴを使いすぎただけだもの。成功したら日本一美味しいイチゴタルトが出来るもん…』

泣き顔を見せないが為の行為だろうが、まるっきり逆効果だな。

周りの皆が若干引いている。引いたような顔で『そ…そうか』とか言っている。

この圧倒的な引き顔が見えないのが幸いだったな生徒会長よ。

『で、でも今までの中では一番美味しかったですよ。自身持ってください生徒会長さん。』

『そうですよー、勝負は最後まで眼が離せませんからねー。今の所生徒会長の薫子さんがトップです。』

『いやぁー、でも試食係ってやっぱり結構楽しいよね。次は霖くんのかなー。楽しみでこの椅子から動けないのですー。』

そういって、メリーはウキウキと首を左右に振った。

『出来たわよー!!』

次に蓮子が叫んだ。

瞬間、ガタッ!とメリーはおもむろに立ち上がって、

その場から逃げ出そうとした。

『ちょっと!?メリー!?』

メリーは聞く耳持たずに扉を開けた。

『駒田響子ちゃん。あのお姉さんに頭突きしたらお菓子あげるわよ』

『本当!?わぁーい!!ッポッキィィィイイイイイ!!!』

生徒会長が駒田の妹に告げ口した瞬間、駒田の妹はメリーに向かってロケット頭突きした。

『ゴパッフ!』

妙な叫び声と共にメリーは捕獲された。

『嫌ぁあああああああああああ!!助けて!!助けてぇええええ!!』

まるで、メリーは今から殺されるかのようにその場から逃げ出そうとしていた。

『何を怯えているのよメリー、私の料理を食べるだけよ?』

蓮子が作ったのは、一見何の変哲も無いチャーハンだった。

確かに見た目は普通だ。だが、このメリーの怯えようを見れば

予想以上に凄い味がする事間違いない。

『そうですよー!見た目は普通のチャーハンですから、パクッと食べてしまえば良いんですー!』

『そうよ。一口だけでも試食しなさいよ。じゃないと勝負にならないわ。』

『やだ…やだ…』

メリーが涙を流しながら訴える。

そして、蓮華いっぱいに詰まったチャーハンを見てメリーは

『うわぁあ!』

と、蓮華を叩いてしまった。

『あっ!!』

飛ばされた蓮華のチャーハンは、宙に浮いているというのに、へばりついているかのように米一粒も地に落ちなかった。

そしてそのチャーハンは、そのまま長谷田の口に入った。

『あっ』



さて、先ほど起こった状況を説明しよう。

チャーハンが口の中に入った長谷田は、その後人間の言葉とは思えない言語の悲鳴を発し、

体中の穴という穴からカラフルな色の液体を撒き散らし

今現在、ピクリとも動かなくなっている。

そして僕は、見た目はまともの中身が化け物であるその料理を袋につめて、

そっとゴミ箱の中に捨てた。

『ふん!今回はちょっと失敗しただけなんだから!』

失敗してあんな殺人兵器を作り出せるものなのか

それは凄いな。きっと蓮子が戦場に行って敵地へスパイに行き食事担当になれば、きっと敵は全滅してハッピーエンドを迎えるだろう。

『さて、僕の方もそろそろ終わるな。』

先ほどまで、色んな料理にツッコミを入れていたが、当然僕もその間料理はしていた。

普通で普通による普通すぎる料理だが。

料理名はオムライス。そう、ただのオムライスだ。

メリーの感想は、『一番美味しい』とはしゃぎ喜んでいた。

とまぁ、何の面白みも無い結果発表だったため、この話はここで終わりにしておこう。

問題は、この対決は何のために行っていたか…だ。


『そんなの、証明するために決まってるじゃない。』

『毎日私と蓮子ちゃんのお弁当を作る係を決める為って事になりますよね。』

僕は二人に思いっきりチョップをした後、麻耶の方を見た。

『行くぞ、麻耶』

『麻耶ちゃん。実はね霖くんはロリコンなのよ。』

すぐ横で、生徒会長が麻耶に変な事を教えていた為

僕は生徒会長の顔面を覆うように握り、潰そうと力を入れた。

『じゃぁなー、森近』

『またなー!!霖と白マヤー!!』

駒田姉妹も帰っていく。

思えば、今日は色んな一面が見えた日でもあった。

『あはは霖くんちょっと痛いわあははは』

皆と少しだけ、本当に少しだけだが距離が近づいた気がした。




〜蛇足〜

翌日、置いて帰ってしまった長谷田は部屋の真ん中でむくれていた。

『ふーん、何を今更謝りに来たんですかー?』

いや、もう一時間目が始まる時間だから登校しに来ただけなんだ。ごめんな。

『あーあ、今日こそは風呂に入ろうと思ったのに、結局今日も入れずじまいだったなー。』

そうか、それはすまなかっ…ん?

いや、ちょっとまて、ちょっと待て長谷田、

『お前…週に何回のペースで風呂に入っているんだ…?』

『は?何言ってるんですか森近くん。風呂なんて月に数回で十分ですよ。』

こいつが何故置いてけぼりにされたか理由が分かった。

誰もこいつの身体に近づきたくなかったからだ。体臭が最臭兵器の奴に誰が近づこうか。

半径3メートル外なら匂いもさほど気にしないが、それ以上近づくと焦げたトマトクッキーの匂いがする。

『おはよー霖…あ、長谷田悪い。』

駒田が教室に入って長谷田を見たと同時に、教室から身体を外に出し扉を閉めた。

『おっはよー!霖…げっ、長谷田』

蓮子が教室に入って長谷田を見たと同時に、教室から身体を外に出し扉を閉めた。

『おは』

メリーは扉を開けたと思ったら、僕らの方を見て扉をすぐに閉めた。

『ふっふーん、皆ろくに謝ろうともしませんねー。冷たいですねー。』

長谷田が去った皆を睨みつけて舌打ちをした。

『そうだな。皆お前が風呂に入るのを待っているのだと思うぞ。』

『だから、今日入る予定だったんですよー。こうなったら後一週間は入れずしまいですよー。』

僕は長谷田と言う名の異臭兵器から逃げるために早足歩きで教室の扉に向かった。

すると、後ろから長谷田に抱きつかれた。

『ぎゃぁぁぁあああああああああああ!!』

『逃がしませんよー森近くん!今日は昨日の仕返しに一日中遊んで貰いましょうか!!』

『頼むっ、逃がしてくれ、このままだと、匂いが、匂いが移…』

『んー?霖くんなんだかお線香の匂いがしますねー。私色に染めてやりませう!!』

とまぁ、このまま僕は長谷田に抱きつくという名のマーキングをされた。

今日一日、僕は周りから『トマト臭い』と言われ続ける一日にされたのだ。





【熱海の怪しい博物館】

静岡県熱海

秘封霖倶楽部と麻耶

分かりやすくいえば蓮子とメリーと僕と麻耶

この四人が、今温泉の名所熱海の地に立っていた。

何故、僕達がこんな所に居るのかは理由があった。




≪静岡県にすっごい怪しい博物館があるよー!≫

ネットで見つけたその言葉を見た蓮子の眼は爛々としていた。

『今週の土日、秘封霖倶楽部は合宿をするわよ!!』

そのページを見て三秒で蓮子はそう言い放った

『そうか、まぁがんばりたまえ』

『ははは。ねぇ霖くん?私は秘封”霖”倶楽部って言ったの。この倶楽部はおろか、この学校にだって”霖”が名前に入ってる人なんて一人しか居ないわ。』

『そうか、僕の名前は森山桃太郎なんだ。』

『霖くんってたまにつまらない嘘つくわね』

結局、僕は抵抗しても言いくるめられて連れて行かれることになるんだ。

長谷田にも、その博物館の事は伝えたが

『え?』

と言った後、『今更?』と言っているかのような顔をして蓮子を睨み付けていた。

『何よー!すっごいもの見つけてビビらせてやるんだからー!』

と蓮子は言っていたが、僕は長谷田に小声で聞いてみた。

『…結構有名な所なのか?』

『熱海自体がかなり有名ですからね。確かにマイナーではあるんですけど…』

と、ちょっと渋り気味な表情をしていた。

生徒会長である薫子に伝えたら

『秘宝館に行ってお土産買ってきて。』

と言われた。

秘宝館という…字を見ると僕の血が騒ぎそうになる。

秘めた宝が飾られている博物館ならば、よほど凄い物が置いてあるのだろう。

そんな凄い宝がある館があるのなら、そっちをメインにすれば良いのでは無いか。いや、絶対にしたほうが良い。

だが、蓮子とメリーは顔を赤らめて、『ふざけんな!』と拒否していた。

…何が嫌だったんだ?と、僕はちょっとガックリとした。

駒田にも伝えたら

『温泉饅頭10箱くれ』

『ざっけんなよてめぇ』

とまぁ、喧嘩が始まって喧嘩が終わってお終い。


家に帰った後、麻耶にも伝えた。

バイトで貯めた金と、東京よりは安上がりになる為

麻耶も連れて行くことになった。

『…うん、準備する』

と、素っ気無い返事をして鞄を取り出して私物を入れていたが、

眼を見るとかなりキラキラしていた。口元もちょっと緩んでいるのが見えた。

週末に行くと言っているのに、今鞄を背負ったりしていた。




そして当日

数日間ずっと眠れなかった麻耶は、僕の膝を枕にして電車の中で爆睡していた。

その様子を見て、メリーは

『まるで親子みたいですねぇ。』

蓮子は

『まるで猫みたい』

と言っていた。





そして到着、

見るからに怪しい博物館に圧倒され、僕と麻耶は入るのに戸惑う。

『どうしたのよ、入らないの?』

その間に、蓮子が僕達の分のチケットを購入していた。

しかし、なんだ?あの巨大な人面ペンギンのオブジェクトは

なんとも言えないチープな出来だが、ここまで巨大だと微妙な圧倒感がある。

どうも…怪しい博物館だと身を染みて感じさせる。

『……怖い』

麻耶が、僕の脚に隠れながら歩いた。

そして僕達は、この怪しい博物館に一歩ずつ侵入していく…



中を見たときに、僕達が思った事、それは

『…博物館というより、人形屋敷…』

とにかく、人形の量が多いのだ。

それも、ただならぬ量では無い。文字通り敷き詰めてあるぐらい人形があるのだ。

しかも、ほとんどが昭和時代に活躍したレトロな人形ばかり。

造形美が不自然な人形も少なくない。

さっきから麻耶が麻耶が怯えっぱなしで、肩車をしては顔を伏せている。

この館から脱出するまで、麻耶は顔を上げることは無いだろう。

『うわぁー見て霖くん!このゴジラのフィギア!私の家の倉庫にもあったわよ!』

蓮子はさっきから全力で楽しんでいる。飾られている人形にはしゃぎながら写真を撮っていた。

あと蓮子、悪いんだがさっき指差したフィギアはゴジラでは無い。ガメラだ。

この世界に来る前に、散々幻想入りしたから僕には分かる。

メリーは、このアンダーグラウンドな建物に魅了されており、

レトロな人形に魅入られながら、じぃっと見つめていた。

しかし、この商品のほとんどは無縁塚に現れるガラクタ…もとい宝とほとんど同じだ。

僕が無縁塚で拾った商品も結構飾られている。幻想入りしている商品のほとんどを展示してある博物館なのだろうか。

この博物館の館長とは仲良くなれそうだ。ただ、

僕の店と違うのは、どれも商品では無いという事…ん?

こ…これはっ、今までに見たことも無いような悪趣味な石像…

のはずなのだが、妙な妖気を感じる。

いや、見ようとしなかっただけで僕の周りには妖気を纏った人形や物が多く存在していた。

馬鹿な…!ここは本当に宝の山だと言うのか…?

いやいや、落ち着け。ここは個人の所有物だ。

さすがに欲しがってもしょうがない。視覚的に楽しむとしよう。

おっと、ここはレコードか。この世界ではレコードは廃れた文明となっているが、幻想郷ではまだメジャーな蓄音機だ。

ここに飾られるほど廃れていると考えると、少し寂しく…

おい、これ僕が欲しかったレコードじゃないか?

間違いない、人里で出回っているという現世でも幻のレコードだ。

くそっ、どうしてここは博物館なんだ。怪しい少年少女博物館じゃなくて、怪しい少年と少女の為の百貨店にすべきだろうが。

こうなったら僕の交渉術を用いて、館長に話をつけ

『…どうしたの?香霖』

心配そうな顔で、麻耶は僕に問いかけた。

その言葉でようやく眼を覚ました。そうだ、何を考えていたんだ僕は。

純粋に視覚的に楽しめば良いのに、こんな所で何を考えていたんだ僕は。

僕は自分に呆れの声を吐き、上を見上げて麻耶の顔を見ながら答えた。

『いや、ちょっと怖かっただけさ。』

そう言うと、麻耶はまたビクリと反応し、顔を伏せて少し震えていた。

僕はそのレコードから離れて、他を探し回っていた。




『んじゃ、皆でこのお化け屋敷に入るわよー!』

この博物館の目玉にもなっているお化け屋敷

最早、入り口だけでも妖気がビンビン感じる。

正直、ただの博物館にここまでの妖気を感じるのは初めてだ。

先ほどから麻耶が、顔を強く伏せて何も見ようともしていない。

髪の毛を思いっきり掴んでいるので痛い事この上無い。

『怯えても無駄よ。ここまで来たら最後まで見るしか無いんだから…』

意味深く言っているつもりだが、簡単に言えば”飽きた”のだろう。

もうそろそろ出たいのだが、金を払ったからには全部回らないと損になるだろうという事で

お化け屋敷にも行こうとの事だ。

『そうですよ、三人で行けば怖くありません。』

メリーもそう言ってお化け屋敷から一歩離れていた。

まぁ、確かにいつも三人だからお化け屋敷も…って、三人?

『ああ、麻耶は頭数には入れないのか。子供だしな』

『霖くんごめんなさい。私は怖くて入りたくないです。』

違った、ただのメリーの我が侭だった。

『何言ってるのよ、ほら行くわよ!4人でお化け屋敷突破するのよー!』

蓮子はちゃんと麻耶を頭数に入れていた。

麻耶が次第に僕の肩の上で震え始めた。かわいそうにと僕はつぶやいた。






そして、お化け屋敷突破後

途中で動くギミックやCO2の噴出音で、

たどり着いた頃にはメリーは号泣し

麻耶は声を殺して泣いていた。

『ふぅーん、別になんでも無かったわね』

だが、蓮子は全く何も思わずケロっとしていた。

…ぶっちゃけて言うと、僕もそんなに怖くなかった。

正直4人は多すぎる。多すぎて全く怖くない。

それでも怯える麻耶はともかく、メリーはビビリすぎだろう。

『私…生きてる?』

メリーが自分の安否を確認している。

その姿に思わず苦笑いが出た。

『良かったー…、私…もう怖いものから開放されたのですね。さて、そろそろこの博物館から出…』

『見て見て霖くん!柱に大量のわら人形が打ちつけてあるわよ!!』

蓮子が指差す方向には、お土産屋があった。

そこに、一際目立つ柱があり、その柱には大量のわら人形が打ち付けられていた。

『うわっ…これはまた不気味なものがあるな…。』

ふと横を見たら、メリーは立ったまま気絶していた。

表情と身体と共に、まるで凍ったかのように動かなかった。

『わぁ、良く見たら藁人形が売っているわ。実用とお土産に一つずつ買っていきましょう。』

そう言って蓮子は藁人形を二つ買い、一つの封を開けて紙を書いた。

『とりあえず、長谷田と薫子の名前を書いときましょう。』

そういって、長谷田と薫子の名前が書かれた藁人形を柱に打ち付けた。

蓮子は不気味に微笑みながら打ち付けていたが、残念ながらその藁人形には妖気が全く感じられない。

というか最低でも丑三つ時に行わないと力が発揮されず

ただの藁を柱に打ちつけているだけになっているのだが、ここは何も言わないでおこう。

これは気持ちの問題だ、面倒なことをわざわざ作る必要も無いだろう。

ちなみに、メリーは館から出るまで意識を取り戻さなかった。


人形には、九十九神が憑くと言われている。

この博物館に飾られた人形達には、ちょくちょく九十九神が憑いていた。

それは、大事にされているという事なのだろう。

それはそれで、素晴らしい事だ。

ところどころに妖気は感じるものの、悪気は感じなかった。

奇妙で不気味ではあるが、悪いところでは無いなと安堵した息を吐いた。




〜蛇足〜

普通は、熱海といえば温泉を思い浮かべる人が多い。

温泉旅館の予約を取っていた僕達は、文字通り巨大な温泉へと向かっていた。

男は僕一人しか居ないため、僕はゆっくりと風呂に静かに漬かれるというとても嬉しい状況だ。

しかも今は温泉には僕だけしか居ない。

今の時間帯、誰も温泉には入りに来ておらず、ほとんど貸切状態なのだ。

これは本当に素晴らしい事だ。

こんな広い湯を独り占め。なんて贅沢なひと時を過ごしているのだろう。

家の風呂もそこまで広くなく、特に最近は麻耶と一緒に入っている為、窮屈な事この上無い。

早く一人で入れるようになることを望むばかりだ…。

…ところで麻耶は女湯で蓮子とメリーと一緒に居るが、大丈夫なのだろうか?

メリーはともかく、蓮子に苛められていないだろうか。…いかん、変な事を考えるな。温泉を楽しめなくなるだろう。

しかし、温泉が売りとは良く言ったものだ。湯が噛み付くように僕の身体と心を洗浄してくれる。

今までの疲れが吹き飛んで行くようだ。全身が少しだけ熱い湯に覆われるのは素晴らしい事なんだな。

ああ、なんだか力が抜けてきた。

リラックスして、空を見上げて全身を浸かる。

蓮子の顔が見えた。

塀の上から、蓮子が覗いている。

『やっほー霖くん!凄いのよ!この時間温泉が完全貸切状態っ』

僕はそこらへんにあった桶を持って蓮子の顔めがけてぶん投げた。

桶の軽い音と、地面に叩きつけられたような鈍い音の後に、温泉にダイブする音の後にメリーの悲鳴が聞こえた。

僕は再び温泉に浸かり、少しばかり冷たい風に当たりながら下は熱い湯に噛みつかれ

散りばめ煌く月と星空を眺めていた。







【パラレルワールド 改】

『起きろー!!朝だぞー!!遅刻するぞー!!』

目を覚ましたら、僕の上に跨ってる麻耶が居た。

元気に蓮子みたいに僕を起こしにかかっている。

きっと夢だな。と思った僕は再び眠りについた。

『だからー!寝るなー!朝だって言ってるぞー!!』

両手でバンバンと叩かれていた。

…参ったな。叩かれても目を覚まさないという事は、

これは夢じゃないというわけだ。

『…どうしたんだ?麻耶。いつもは僕が目を覚ます前に料理を作ってくれてる時間なのだが…』

『なんだよ霖之助ー、料理は霖之助が作るって約束してるだろー?』

麻耶は喜怒哀楽で言うと、怒の表情で僕に問いかけた。

…うん、これは、前に体験したことあることだから直ぐに分かった。

なんてことだ、この世界は…パラレルワールドじゃないか

しかも、人の性格まで変えてしまっている世界ならば、元の世界よりも相当遠い世界であることは間違いない。

『ご飯ーご飯ーっ』

麻耶がぐずり始めた。

どうやらこの世界では僕が料理を作らなければならないそうだ。

…まぁ、元の世界でもあまり変わりは無かったのだがな。

とにかく、僕は朝食を作るべく台所に向かった。




麻耶と朝食を食べて分かったが、この麻耶は喜怒哀楽が激しいな。

『美味しい!』や『しょっぱい!』など、素直になんでも大声で言う性格のようだ。

コーポ住まいにとっては、かなり厄介な相手だな。

食べてから外に出ると、麻耶は外に出て『行ってらっしゃい!』と手を振った。

可愛げがあるのは、どの世界でも同じか。

正直、これから先の一日を考えるとうんざりしてきた。

とにかく元の世界に戻れるようにがんばろう。と、意気込みをし学校まで進んだ。





登校途中、メリーに出会った。

…いや、正しく言えばメリーらしき人物に出会った。

僕はさっきすれ違った奴がメリーだなんて僕は認めない。

体格こそ変わっていなかったものの、髪型も変わっていなかったものの

来ている服と帽子が明らかにおかしい。最近行った秋葉原の看板に描かれていたキャラクターをプリントした服と

猫耳がついている帽子と羽の生えた靴…

あれは違う。メリーじゃない。顔の似ている誰かさんだった。

僕は断固無視を決行して、学校へと向かった。

『んんっ!?おっすおっすwwwwこれは霖氏どのでは無いですかwwwwwwドュクシwwww』

僕と気づいてからこいつは僕のわき腹をつついた。

おい止め、止めろ。いい加減にしろ

『ふっふっふ、おっと失礼…昨日見たアース☆ダンデーの…くっぷぷぷwwwww』

何も言っていないのに勝手に笑い出した。

なんだこいつは

誰だこいつは

『霖氏どのはみたでござるかwww?あのダンデーが急にイケ面顔になった後に爆発が起きて、あっイケ面になった理由は敵に薬を盛られたんですけど、薬って言うのは一時的に全能力が発揮されるという一見素晴らしい薬なんですが、副作用が怖くて敵はその副作用を利用してダンデーを陥れようとするんですけど、イケ面になったダンデーは途中でありえないくらいダンスが上手く…wwwくぷぷぷwwwそのダンスがwwwどう見てもハードゲイです本当にありがとうございましたってな感想で、更にその副作用というのが、ダンデーの菊門が爆発』

急に早口口調で何かを語りだした。

すごく聞き取りやすい早口言葉であったが、正直聞き流していたので良く分からない。

僕はうんうん頷きながら学校へと向かった。

その途中では、誰にも会わなかった。




学校にたどり着いた。

『そんで菊門が爆発し続けて神と和解したダンデーは全ての痛みから解放と懺悔を繰り返し、宇宙が生まれてから今までの痔に悩んでいたお父さん達の尻の痛みを全て回収してこの世から痔が無くなるんだけど、その代償としてダンデーは宇宙の一部になって』

学校にたどり着くまで、その早口言葉は続いた。

というか、よくもまぁそこまで話が途切れずにずっと早口で言えたな。正直関心はするよ。

だが、ここまでだ。メリーとはクラスが違うのでここで一旦お別れとなる。

いや、そもそもこいつはメリーなのか分からないのだが。

『おおーっと!ここでお話タイムはお終いですねー。ではっ、続きはまた下校時にご期待ください!ダンデー速報の管理人、マエリベリーベリーメリーからですたwww』

メリーだった。

しかし、ここの世界のメリーは相当ウザいな。

聴覚を完全にシャットアウトしたいと思ったのは生まれて初めてだ。

この調子で行くと、残り三人はどうなっているのだろうか。

会っていないのは蓮子、駒田、薫子、桐谷、長谷田…の5人だ。

正直、駒田以外は我の強い友人達なので、ギャップに悩まされそうだ。





『長谷田っ!?』

廊下で、全身傷だらけの長谷田を見つけた。

一体何があったのかと問いかけようとしたが、長谷田はこちらを見てニッコリと笑った。

『あー…、霖くんじゃないですかー…』

りっ…霖くん?

長谷田が、僕を愛称で呼ぶとは珍しいな…、僕が気に入ってないとは言え

『その…長谷田?その大量の傷は一体何があったんだ?』

『あはは…、気にしなくても良いんですよ霖くん。』

そういって、長谷田は言った後俯いて涙ぐみながら呟いた。

『こんなゴミくず変態馬鹿のろくでなしな私を心配する事なんて無いんですよ…。』

こんな卑屈な長谷田を見たのは初めてだ。

というかここはパラレルワールドなんだったな。

『いや、だけどこれは心配するだろう。そんな大量の傷、どこで負ってきたんだ?病院に行かなくて大丈夫か?』

僕がそう言うと、長谷田はニッコリと笑って

『大丈夫なんです…。これは私の罪の記録ですから…』

と言った。…罪の記録?

長谷田は、懐からカッターナイフを取り出して、自分の腕を切り始めた。

『うぉおおっ!?』

その衝撃的な光景に、僕は思わずおののく

『何で事件が起こるんでしょうかねぇ…、私かな?私が悪いのかなぁ?私が事件が必要な部活に入ってるからあはは、あははははははあははははは…』

『ちょっと待て、ちょっと待つんだ長谷田、まずその手を止めろ』

僕は長谷田のカッターナイフを持つ手を握る。

『大丈夫だ。大丈夫だからまずそのカッターナイフを捨てようか。』

『駄目ですよ、だってこれ学校の備品だもん』

何で学校の備品で自傷行為しているんだ。そっちの方がよっぽど迷惑だと思うが

『私が新聞を作るから、事件がどんどん増え続けていく…私が記事を求めるから、事件が増え続けていくんですよ…』

『新聞があるから事件が起こるんじゃない。事件があるから新聞があるんだろう?それを伝えて安心させるのが君の仕事じゃないのか?』

『……ふ…ふふ…』

僕がそう言うと、長谷田は泣き始めた。

『うわぁぁあああああああああああ!!!』

大声で泣き叫びながら、長谷田は逃げていった。

……なんだ?なんだったんだ?

周りは、不振な目で僕を睨みつけている。

『あっ、いやっ、違っ…そぉい!!』

僕も、釣られるようにその場から逃げていった。

ちなみに、長谷田の逃げた先とは逆方向に走っていた。





教室にたどり着くと、女子の黄色い歓声と人だかりがあった。

何事かと近づいたら、

そこには、違いと言ったら髪が少し長くなっただけの駒田が居た。

『…ここら辺は変わっていないのだな。』

少し安心したと同時に混乱した。

長谷田と違って、性格が逆になったわけでは無さそうだ。

しかし、この世界の駒田は少しだけ髪が長いからか、女性らしさが増していた。

それでも女子に人気だというのだから、ある意味変わっていないのかもしれない。

そして、駒田は僕の方に気づくと手を振った。

『おお、森近ちょっと待ってろ』

そういって、女子を掻き分けて僕の方に近づいてゆく。

何故か、女子達を僕を殺意の篭った目で睨みつけている。

この世界の僕は、何かしているのだろうか?…また、良からぬ噂でも広げられてるのか?

『…で、どうしたんだ今日は?』

『いや、別にこれと言った用は無いが』

『ふぅーん…』

そういって駒田は、僕の身体をじろじろ見ていた。

正直、少し気持ち悪かったな。

『…なんだ?どうした?』

『いや、森近お前まだ童貞?』

『当たり前だろう。常に僕はこれと言った出会いもきっかけも…おい、今何て言ったんだ?』

駒田がじとっと僕を見つめながら微笑んだ。

『ふぅーん…じゃぁ、ちょっとこっち来いよ』

そう言って駒田は、僕の手を引いてどこかへと連れて行こうとしている…

『おい、どこに連れて行く気だ、おい!!』

『んー?だって森近まだ童貞なんだろ?』

『童貞童貞言うなよ…。仮にも君は女の子だろう…?』

『ああ、確かに私は女だ。だからお前の童貞を貰いに行く。』

『お前は今何を言っているのか自覚しているのかっ!?』

『何だよ、私じゃ不満なのか?』

不満とか言う問題では無い。唐突すぎて何が何だか分からない

『ちょっと待ってくれ、一体何が起こっているのか説明してくれ。』

『なんだよ忘れちまったのか?昨日お前の尻を触ったときに言ったじゃねぇか。』

『昨日の僕に何をしてくれてるんだお前は!!』

『尻を触るのを止めさせたければ、明日体育館倉庫で私の処女を受け取りに来いと』

『知りうる限り最低の交換条件!!』

『というわけだ、とっとと体育館に行くぞ』

僕は駒田の引っ張る手を必死に抵抗する。

だが、抵抗する事も空しく、僕は徐々に駒田に引っ張られていた。

『強っ!お前握力強っ!!全力でふんばってるのにピクリとも遅くならねえ!』

『おい抵抗するなよ、我慢できなくなるだろうが』

『今、僕の全身に寒気という電気が走ったぞ駒田さん勘弁してください』

『私の身体を自由にして良いんだぞ。これでも身体には自身があるんだから遠慮すんなって。』

そう言って駒田は歩む力を止めなかった。

確かに駒田は知り合いの中では一番胸がでかいが…、こんな形で童貞を捨てたくなかった…。

さようなら童貞、ありがとう童貞。どうせ捨てるなら襲われるより襲うほうが良かったよ。

『ちょっとそこの駒田さん!待ちなさい!』

その言葉が聞こえるや否や、駒田の足がピタリと止まった。

『…あー、面倒な奴に見つかった。』

助かった…のか?と希望を見るように顔を上げた。

『こっこれ以上霖之助くんにひっ酷い事するって言うなら!こっちだって容赦しません!』

生徒会長の薫子だった。いや、これは薫子さんと呼んだほうが良いだろうか?

顔も髪型も基本変わらないが、頭に僕と同じような一本の毛が立っている。

顔を赤らめながら、恥ずかしそうに駒田に対抗した。

『ほー、何するってんだ?』

『停学…停学です!ただでさえ怪しい単位が、更に取れなくなってしまいますよ!!』

顔を赤くして一生懸命声を出す仕草をする薫子を見ると、元の世界よりも頼りないように見える。

『…ちっ、分かったよ。でも、諦めたわけでは無いからな。』

そう言って駒田は舌打ちした後、僕から手を離して去っていった。

たっ助かった…助かったんだな。

『あっ…ありがとうございます。薫子さん…』

そう言うと、薫子は無理して威張るように腕を組んで笑顔を無理に作って喋った。

『わっ私は生徒会長だから、だっ大丈夫ですよ。いや、当然の事ですよ。』

しかしすごい子供だな。無駄に正義感が高い小学生のようだ。

だが、その心意気のおかげで僕は助かったのだ。

『ああ、だが本当に助かった。何度でも礼は言わせて貰うよ。ありがとう薫子』

とにかく、本当に助かったのだから礼は何度でも言わせて貰う。

すると、だらしない顔をして両手で顔を多い、ニヤニヤしていた。

『えへぇ〜、べっ別に〜…』

ここまでだらしない生徒会長を見たのは初めてだった。

元の世界の生徒会長は、油断できない性格だからな。こんな性格ならやり過ごせそうではある。

『ああ。では僕はこれで…』

そろそろ次の授業が始まる時間だ。

僕の言葉が聞こえないのか、薫子はデレデレしたままその場を動かなかった。





『やっほぉー!!霖くん、ごっぶさたー!!』

図書室に向かうと、桐谷さんが漫画を片手にエンジョイしていた。

ヘッドフォンからテクノミュージックが漏れ、漫画の横にはチョコベビーが置かれ、更に横にはコーラがあった。

『貴方は…誰ですか?』

『ん?毎日がエンジョイな桐谷ちゃんちゃんですが?』

いや誰だ。

『いやぁー、しかし図書室は良いね〜、この静かにしなければならない場所で行儀悪くするのは大変楽しいのですよー!』

確信した。僕はこいつが大っ嫌いだ。

図書室でマナーも守れないこいつは桐谷さんでも何でもない。ただのカスだ。

『むふふー、霖くん今私の事をお茶目ちゃんだと思ったでしょー?』

しかも勘が悪い。いや、それ以上に頭が悪い。

まさかこの世界の桐谷さんがここまでウザイ人だったとはな…。

ウザイ人第二号か。メリーに続いて散々だな。

『おいコラァ!!桐谷ぁ!!またてめぇ来てんのかぁ!!』

『出禁っつっただろうがぁ!!』

『やべぇっ!じゃぁ、またな!霖きゅん!』

そういって桐谷は去っていった。

さて、一刻も早くこの世界から脱出しなければならないな。

こんなカオスな世界に一瞬たりとも居たくない。さて、どうするべきか。

…前は、紙に陣を書いたら別の世界に飛ばされたのだが、今回はどうするべきか分からん。

昨日、何かしたか?麻耶と共に鉄腕ダッシュ見たくらいしか思い当たらない。

思い当たるとすれば…、うむ、多分だが



この世界の僕が、僕を呼び寄せた可能性が在る。



『りっ…霖くん!』

下校途中、後ろから蓮子に声をかけられた。

早く家に帰り、自分の部屋を模索したいと思っていたが、

そういえば、今日一日蓮子の姿は見かけなかった。

振り返ると、顔と服、髪型と帽子はいつも通りだった。

違うのは、表情だろうか。

いつもは破天荒で爛々とした表情をしているが、

今日は自身無さげでモジモジしている。

まるで女の子みたいじゃないかと、僕は蓮子に対してそう感想を述べる。

『あの…きょっ今日…今日…』

『………』

モジモジしながら、何かがつっかえて言えないような雰囲気だ。

顔を真っ赤にさせて、目が少し潤ってきている。

この世界の蓮子は…恥ずかしがり屋なのだろう。

『…一緒に帰るか?蓮子』

僕がそう言うと、蓮子の顔がパアっと明るくなる。

『うっ…うん!』

そういって、動物のように僕の傍へと駆け寄って来た。

そして今日はしばらく、蓮子と共に下校をした。

『…そういえばメリーとは一緒じゃ無いのか?』

『え?えーと…メリーちゃんは…その…』

まぁ、確かにこの世界のメリーだったら疲れるな。

一緒に帰りたがらないのも仕方が無いだろう。

『まぁ、仮にも秘封倶楽部の一員だからな。仲良くはしような。』

『…えと、…うん。』

蓮子の目は、全く僕の方を見ていない。

表情を見られたくないのか、僕の顔を見たくないのか?

分からないが、これでは話が弾まないな。

『…秘封倶楽部に僕が居て、メリーが居て、楽しいか?』

『うん。楽しいよ。すっごく楽しい。』

蓮子は、はにかんでちらりと僕の方を見た。

『特に霖くんが入ってからずっと楽しくなったよ。メリーも楽しそうだし、毎日が本当に楽しいの。』

そうか、

自分を傷つけまくる長谷田と素直スケベの駒田と素行の悪い桐谷が居ても毎日が楽しいのか。

僕だったら間違いなく精神を病むな。

『……そうか。』

この世界に限ったことでは無いが、いつか僕もこの世界から去るときが来る。

その時は、きっと紫がなんとかするのだろう。

この世界から僕に関しての記憶を消して、いつも通りの日常が流れていくのだろう。

そうなると、やはり少し寂しいな。

『だから…霖くん。』

蓮子は、自然に僕の手を握って

今日はじめて僕と目が合った。

『秘封霖倶楽部から居なくならないでね。約束だよ。』

そして、つないだ手が解かれてゆき、いつの間にか小指同士だけが繋がっている状態となった。

きっと、これは指きりなのだろう。

この世界にずっと、秘封霖倶楽部にずっと在る為の約束。

『…ああ、約束だ。』

僕は、秘封霖倶楽部から抜け出したりはしないさ。

僕の場所は、きっと彼女達が永久欠番にしてくれるだろう。






家に帰ると麻耶が僕の布団で爆睡していた。

『いい気なもんだな…』

今朝はあんなに騒いでいたのに、今では楽しそうにいびきを掻いている。

さて、今はそれどころではないな。

この世界から脱出するための手がかりを見つけなくては。

とりあえず、僕は襖を開けて見る。

在った。

襖の中に、巨大なブラックホールが発生していた。

見つけるのが早すぎるぞ僕、探し始めて三秒も経っていないでは無いか。

『…この穴に、入れば良いのか?』

念のため、他の場所も探して見たが特に何も無い。

妙に怪しいのは、そのブラックホールだ。

『…はぁ、』

僕は、襖から身を乗り出し

『南無三!!』

ブラックホールに飛び込んだ。





『新女性世界の生き残りは、○○○○』

『八尺様を使って人間を食べましょう。』

『痛みと死と血こそが、愛の証なのです。』

『笑いながら、幽霊を打ち負かせば必ず勝てるのです。』

『娘を殺した奴らの子孫は死ぬべきなのですよ。』

『どこでもドアの完成までもうすぐです。』

『私の…村に…永遠に閉じ込めてやる…!!!!』





気づいたら、僕は自分の部屋に居た。

『………』

全部夢だったのか、と思わせる程に僕は布団の中で睡魔に襲われていた。

手を動かして携帯を探る。携帯のホームボタンを押す。

日付は、変わっていない。時間も丁度良い時間だ。

夢の中では、この時間よりも早めに麻耶に起こされたが、

麻耶は、僕の隣の布団で寝息を立てながら静かに眠っている。

『…こちらの方が、天使の寝顔だな。』

僕は立ち上がり、朝食の準備をした。



麻耶は、僕のご飯を食べた後に

『…美味しい』

と、呟いた。

いつもは、黙々と食べる為、料理の感想を言うとは珍しい。少しだけ嬉しくて微笑んでしまった。



『おはようございます。霖くん。』

メリーは、優しい笑顔で僕の隣まで歩いてきた。

やはりメリーは、こちらの世界の方が良いな。と思いながらメリーの鞄を見たらアース☆ダンデーの同人誌が入っていた。

『…?』

僕がそのことに気づいた事に、メリーは気づいていない。



『やっほー!!霖の旦那ー!!今日も特大な特ダネを求めて!さぁ行きますぞー!!』

長谷田は…うん、いつも通りだ。

あの世界の病んでいる新聞記者じゃなくて本当に良かった。

『…悩んでることがあったら、何でも聞けよ?』

だが、少し不安があるので長谷田に聞く。

『本当ですかぁ!?いやー実はですねー、最近私が事件を起こしてるような気がしてですねー、』

おい新聞記者、お前はそれで良いのか?




『おっす森近、元気にしてるか?』

髪型は、ちゃんと戻っている。

この素っ気なさそうな挨拶ならば、あの世界の事は何もなさそうだ。

『ああ、君も元気そうだな。』

『まぁな、朝食が美味かったからな。』

本当にいつも通りだ。いや、駒田はこのままで良い。この普通の馬鹿で良いんだ。

『ところで森近、お前童貞か?』

思わず足を踏み外してしまった。盛大に僕は教室の中を転げまわった。

『…一体何を聞いてるんだお前は』

『いや、お前女に囲まれてっからちょっと気になってるだけだ。』

『童貞だよ。これから先当分捨てずに大事にするつもりだ』

そう言うと、『ふぅーん』と言って、携帯をいじった。





『おはようございます、学年一位さん』

上品な口調で、彼女は嫌味のように僕にそう答えた。

いつもは変に高みに居る少し嫌な人という印象だったが、

このように行儀の良い者ならば、何故かものすごく安心できた。

『桐谷さん、図書室で物を食べたり音楽聴いたり漫画を読んだりしないでくださいね。』

『…何を当たり前の事を言っているんですか?』

ものすごく心配そうな顔で僕を睨みつけていた。






『あら、おはよう霖之助くん。』

怪しい雰囲気を纏った生徒会長は、廊下で僕に挨拶を交わしてきた。

『何かしら?その顔は』

『…貴方がもう少し素直だったら、可愛げがあったでしょうね。』

『うふ、何を言っているの霖之助くん。私は元々可愛いじゃないの。』

そう言って悪い笑みで手を振った。

何て邪悪な笑顔をするんだこの人は。こんな不吉な笑顔は紫以外に見たことが無い。

『それとも…もしかして私はブスだとでも言うのかしら?』

『そんな事は言ってないだろう。嫌味な美人だな本当に君は』

イタズラに美人を付けてみた。少しばかりの仕返しだと思っていたが、

『ふふふ。霖之助くんも分かってるじゃないの。貴方も頭に色がつくほどの男よ。』

そういって、僕の頭に円を指で描いていた。

…一体何をしているんだ僕達は。

しかし、本当に油断ならない人だ。この人は。



生徒会長の反応が、あまり確証にはならなかったが、おそらく僕が居た世界の法則が分かった。

反対なのだ。僕の今居る世界と、僕が先ほど居た世界とは。

性格や人格が反対なのではない。

本音と建前が反対だったのだ。

そんな馬鹿な世界があるかとも思うが、向こうの世界の僕が言ったのだから仕方が無い。

しかし、パラレルワールドにも裏の世界とその世界のパラレルワールドがあるとは思いも寄らなかった。

一つ気になることがあるが、僕はどこで向こうの世界の僕と会ったのだろう。

話したのは覚えているのだが、どこで出会ったのか分からないのだ。

何か、世界の真実の断片を見たような気がするのだが、良く分からない。

そこで僕と僕と僕が会話したのだが、それも良く覚えていない。

だが、気にすることは無いだろう。この世界は何事無く回っている。

それに

『あっ!居た居た!霖くん!!』

この世界にも、ちゃんと秘封霖倶楽部は在るのだから。

きっと、何とかできるはずさ。

『ちょっと!勝手に居なくならないでよね!』

『半日出会って居ないだけだろう。そこまで言われる筋合いは無いと思うな』

『言い訳しない!今日はビルのスキマの奥の奥の奥にあるラーメン屋さんに取材に行くんだから!』

なんて入りづらい場所に店を構えたんだろうな。そのラーメン屋の店長は

『きっと怪しい味がするわよ〜、なんとも言えない味のスープ、不思議な食感の麺、ありえないトッピングモロモロ!』

『ごめん、僕今日はすき焼きの日だから帰るわ』

蓮子に背を向けて帰ろうとすると、蓮子は僕の後ろ襟首を掴んだ。

振り返ると、蓮子は楽しそうな笑みを浮かべながら僕を睨み付けていた。

『逃がさないわよ〜霖くん。霖くんは私達秘封霖倶楽部の大事な一員なんだからね!!』



今日も、秘封霖倶楽部の一日が始まる。




【日常】

いつも通りの日が繰り返し流れる事。

当たり前の一日

だが、その概念は人それぞれである。


今回はキャラ一人一人の設定を紹介するような形のお話を展開させていただきました。
だからというわけでは在りませんが、ここで人気投票をさせていただきます。

森近霖之助<東方香霖堂>

宇佐見蓮子<秘封倶楽部>

マエリベリー・ハーン<秘封倶楽部>

麻耶<八尺様>

長谷田唯<完全変態倶楽部>

薫子沙耶香<完全変態倶楽部>

駒田涼美<裏S区>

駒田響子(妹)<裏S区>

桐谷真澄<コトリバコ>

八雲紫<東方project>

その他

一人三人くらいを目安にコメント欄で書いて頂ければ嬉しいです。面倒な方は、別に書かなくても大丈夫です。
集まったからと言って、結果発表とかはする可能性は限りなく低いので、安心して投稿しなくても大丈夫です。もちろん、コメント自体しなくても大丈夫です。

では、また新作が出来ましたら投稿致します。
駄文、すみませんでした。

ニコニコの動画のゲーム版の方も、よろしくお願い致します。
http://nico.ms/sm23798198?cp_webto=iap_share_l
ND
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/07/23 16:04:44
更新日時:
2014/07/24 01:56:17
評価:
3/3
POINT:
300
Rate:
16.25
分類
森近霖之助
宇佐見蓮子
マエリベリー・ハーン
4話
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POINT
1. 100 名無し ■2014/07/25 04:28:59
いつも楽しみに読ませて頂いております。
引き込まれるような文章と霖之助さんの活躍(?)が毎回とても面白いです。
人気投票は霖之助さんに一票を。これからも応援しております、
2. 100 名無し ■2014/07/25 23:07:57
毎回ガチで作ってるからか、コメントがしづらいような感想しづらいような。
あ、ちゃんと面白かったです。
蓮子ちゃんと摩耶ちゃんに一票
3. 100 名無し ■2014/07/30 02:03:40
マンホールから大量のゴキブリってやっぱあの動画から着想した話なのですかね。
あの動画はあの後どうなったんでしょうね・・・
ともあれ終始にわたる蓮子の暴走ぶりが相変わらず面白かったです。
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