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『秘封霖倶楽部』 作者: ND

秘封霖倶楽部

作品集: 11 投稿日時: 2014/08/17 12:30:54 更新日時: 2014/08/17 21:30:54 評価: 3/3 POINT: 300 Rate: 16.25
【生き人形】

とあるタレントが体験したある人形のお話

その人形はまるで生きているかのような外見で

まるで生きているかのように動き回るという。

現在、その人形は行方不明となっている。




生きている定義とは何だろう。

人間の魂は、果たして一つしか無いのだろうか。

一つしか無いにしては、余りにも複雑な形をしている。

細胞が一つで無いように、目が一つで無いように、

魂も複数あって成り立っているのでは無いだろうか。

つまり、生きる為には、魂は一つだけでは成り立たない。

多くの魂を持ってこそ、初めて”生きている”と言える存在になるのだ。




『それでその女の人は…人形を持った女の子に殺されたんだって〜…』

真っ暗な部屋にろうそく一本立て、周りに5人の人間が囲い、

僕達は百物語をしていた。

しかも僕の部屋で

何で僕の部屋でする必要があるのか全く分からない上に、その質問をする度に『良いじゃん良いじゃん』とか『まぁまぁ』とかしか言われない。

僕からしたら、それがホラーな物語になっているのだが。

というか帰れ、この部屋に5人は多い

『ふぅーん…それで、どうやって殺されたというのかしら?』

蓮子に質問したのは、生徒会長で何気にこのような話が好きだと告白した薫子沙耶香。

何故この人が僕の部屋に居るのかを説明すると、少し長くなる。

あれは今日の昼ごろだった。『そうだ、百物語をしよう。』と、まるで旅行を思いついたかのように発したその発言から、このようなふざけた催しが開催されたのだ。

人数が多ければ多いほど、持ちネタが少なくて済むことから多くの知り合いに声をかけていった。

長谷田は『私はそんな虚言物語如きに興味ありませーん』と、拒否して去り、

駒田は『ごめん、私幽霊とか苦手なんだ…』と、怯えながら去り、

桐谷さんは『蓮子、勉強しろ。再来週テストよ?』と本気で警告しながら去った。

要約すれば、この人以外やりたがらなかったのだ。

蓮子、メリー、薫子、僕、麻耶で5人。

ちなみに麻耶はすでに僕の膝を枕にして眠りこけている。

『え?いや、それは、そのー…』

蓮子がどもり、物語の続きを考えていく。

『えっと…人形が殺したんだよ!』

『どうやって?』

『…あっ、そう!人形の口からビーム!』

メリーが吹き出して笑った。

僕も若干鼻で笑ってしまった。

薫子は腹を押さえて口を手で覆いながらプルプル震えている。

『何よー!人形の口からビームが出たら十分怖いじゃないのよー!!』

などと供述していたが、そもそもホラーとは場違いな所にあるビームを出してくる辺り、アホな蓮子らしい。

しかし、百物語とは言ったが蝋燭は一本しか使われていないのは事情がある。

一つは、僕の部屋には百本も蝋燭が置けない事と

もう一つは、僕の部屋には警報機が設置されている事だ。

はっきり言って僕の部屋にそんな大量の蝋燭に火を起こしたら警報機が間違いなく作動する。

けたたましい轟音と共に、隣部屋の住民達に迷惑をかけてしまうのだ。

それだけは回避させたいため、僕は断固して一本以上の蝋燭を認めないのであった。

『…こんな事では、出てくる幽霊も出たくないだろうな。』

なんて冗談を言ってみる。そもそも百物語は降霊術などといわれているが、この現代社会でそれを信じている者、または知っている者は少ない。

故に、こんな事で幽霊が舞い降りる可能性は限りなく低い。そもそも出てくるとは思っていない。

『そうね。でも、今夜は男一人に女三人なんて、森近くんはどう思います?』

『麻耶を入れて4人じゃないのか?』

『それでも良いわ、その男女比で今夜、何も起こらないとは思っていないでしょう?何か間違いを起こすかも。』

そう言って薫子はべったりと僕の身体に密着してくる。サラサラな髪に木苺の匂いに色んな柔らかい感触が体全体に広がって正直照れる。

何て事を思ったりしたら、蓮子がすぐさまに薫子を引き剥がした。

『何も起こらせないわよ!!今夜は寝ずに百回物語を進めてやるんだから!!』

『寝ずにっ!?』

メリーが驚いた声を上げた。

『それはそれで大丈夫なの?明日は休みなのよ?睡眠で時間が潰れてしまうわ。』

『幽霊が出るまで寝ないのよ。分かった!?』

僕は半妖だから寝なくてもさほど問題は無い。

だが、正直言ってさっさと寝ろとは思う。

というか帰れ。帰ってくれればお前ら全員眠れるぞ。

なんて事を言おうとしたら、薫子がビデオカメラを取り出した。

『それじゃぁ、さっさと終わらせてしまいましょうか。次は私の番よね。』

そう言って薫子は話を進めた、確かこれで27話目だったような。

『まず、私が今の両親の養子で天涯孤独だという事は知っているわよね?』

おい、初めて知ったぞその衝撃の新事実。

さっきまで騒いでいた蓮子とメリーが黙り込んでしまった。

何か遠い存在の者を見るような目で、薫子を見つめていた。

『両親は子供の出来ない身体で、私が来る前は人形を集めていたらしいわ。その時の一つの人形に”楓”って名前の人形が居たの。』

薫子がビデオカメラを再生する。どうやらプロジェクター機能がついているようで、光が壁に接触すれば、壁から映像が流れた。

『それでその楓ちゃんって言うのが…』

壁の映像から、うさぎの被り物を被ったほぼ全裸の男性がラバースーツを着た女性にこんにゃくで叩かれながら”千の風になって”を歌っている映像が流れていた。

『あっ間違えた』

薫子はそういって、ビデオカメラからテープを取り出して別のテープを入れた。

『なに今の!?』

『あった、これよこれ。このテープで間違いないわね。』

そういって薫子は何事も無かったかのように別のテープを再生した。

『いやちょっと待って!!今の何の映像よ!!楓って人形よりそっちの方が気になるわぁ!!!』

薫子は蓮子の言葉を断固無視して壁の映像を凝視していた。




幸せそうな家族だった。

夫は妻に気をつかい、妻は夫を愛し、慕っている。

広い屋敷、複数の使用人、豪華な食事、誰が見ても羨むほどの幸せの塊な光景だろう。

ただ、異様な程の数の人形がある事以外は。

良く見れば。夫婦と使用人以外は人形しか居ない。

パーティを開いているようだが、人間の客は誰一人としていない。

だが、夫婦は幸せそうだ。この異様な光景を見ては普通の夫婦のように楽しく談笑している。人形相手に。

誰が見ても、その光景は”異常”だと察知できるだろう。

その中に、更に一際目立つ人形が居た。

『ほら、この子が楓ちゃんよ。』



そんな可愛い名前と同じように、外見は可愛らしい大きな日本人形の大きさの人形だった。

まぶたが大きめで120センチほどの大きな人形のそれは、他の人形と比べて明らかに異様だ。

『これらの人形達は、両親が一括払いで買い集めた物よ。』

『まぁ、確かに怖いよ。あんたの両親が。』

『でも、この楓ちゃんって人形のどこが一際怖いって言うんですかぁ?』

『この人形だけ、発注した記憶が無いって言うのよ。両方の親も。』

…つまり、薫子の言葉を頼るなら、

頼んだ覚えの無い人形が家に置かれていた。という事なのか。

『それに、私が貰われて三日くらいまでは確かに家にあったのだけど、翌日には既に無くなっていたわ。しかも鍵を開けて外に』

『…それは単に泥棒に盗まれたのでは無いのか?』

『あの人形だけ無くなったのよ?それに鍵は内側からしか開けられないわ。内側に誰か人が居ない限り、開くことは絶対に無いのよ。』

つまり…その人形が自分で鍵を開けて外に出たというのか?

馬鹿馬鹿しいな。

『つまり、あの人形はもうアンタの家には無いって事?じゃぁ信憑性なんて皆無じゃない。』

『あら、誰が人形を無くしたなんて言ったのかしら?』

薫子が、馬鹿にするように低く笑った。

『帰ってきてない筈無いじゃない?だって、人形は私の家では家族同然なのよ?当然、帰ってきてるに決まってるじゃない。』

『え?』

『居なくなってたのは、ただの散歩だったのよ。家に帰れば楓ちゃんは出迎えてくれるわ。』

本当にこの人は大丈夫なのだろうか。何だかこの人が心配になってきたぞ。特に頭の中あたりが。

『…つまり、あんたの家に行けばその曰く憑きの人形があるってわけ?』

『そう、大切なお友達よ。』








【薫子邸】

仮住まいの僕と比べたら、まるでウサギ小屋と東京ドームと言っても過言では無いほどに

薫子の家は天井知らずの巨大マンションの最上階から4階の全てが彼女の家だと言う。

そのうちの三階全てが人形の部屋だと言うのだから、全くもって恐ろしい。

『霖くん』

『ん?』

『神様ってさぁ…残酷だよね』

蓮子は、ほぼ全ての階が薫子の物である高級マンションに向かってそうポツリと呟いた。

メリーは最上階まで見上げようとして眩暈がしたのか、そのままよろけて後ろに倒れた。

あの後、あの人形の事が気になるという事で百物語は急遽中止して、全員眠りに着くこととなった。

とりあえず全員帰るように言っておいたのだが、全員泊まると親にも報告したそうで、行くあてが無いのだという。

なので僕は、麻耶の分の布団も引いて、二つの布団に4人で眠らせた。

ちなみに僕は電気を消したと同時に、漫画喫茶まで足を運んで徹夜して漫画を読んでいた。

あの人形達は、置く場所に困り、別荘であるマンションを借りてそこで生活させているのだという。

『いや、不運だった薫子に愛の手を差し伸べたのだろう神様は。そう考えれば神は相当慈悲深いと思うよ。』

正直に言えば、僕は全く神様を信じてはいない。

幻想郷に腐るほど神様や妖怪が居る為か、そんな非実在的な神様は崇めるに値しないのだ。

いや、そもそも実在する方の神様も相当なものなのだが…。

とりあえず、薫子に目を向ける。

『ああ、少し待ってて。』

そういって薫子は32と書かれたボタンを押し、マイクと思しき穴の集合体に声を発した。

『ただいま、ママ、パパ』

そう答えると、エレベーターの扉が開き『おかえりなさいませ、沙耶香お嬢様』と合成音声がエレベーターの中から発せられた。

≪あら?その後ろの人たちはお友達かな?≫

女性の声がエレベーターの中から響く

『ええ、今日はお友達と彼氏を連れてきたのよ。』

『はぁっ!?』

彼氏という言葉に反応したのは、蓮子とメリーと僕だけでは無さそうだ。

エレベーターの扉はありえない速さで閉まろうとし、証明が真っ赤になってサイレンが鳴っている。

真っ赤な部屋の中で、メリーはパニック状態になり小さな悲鳴を上げ、蓮子は『何っ!?何っ!?』と騒いでいた。

『冗談よお母様。皆ただのお友達よ。』

その言葉を聴いて、証明は普通の光に戻り、サイレンも止み、エレベーターの扉も再び開いた。

≪全く、ビックリさせるんじゃありませんよ。沙耶香≫

どうやら通してくれるそうだ。

僕達は若干不振な思いを抱きながら、エレベーターの中へと足を踏み入れた。






【22階】

エレベーターの中で薫子と薫子の義母であろう人物との話し合いの中、とりあえず人形の見学は許可されたそうだ。

しかし、エレベーターから降りた瞬時に不安がつのった。

一階につき部屋がとてつもなく多いのだ。

あのマンションの大きさから考えれば一階に20部屋はある。

更に『さて、どこの部屋だったかしら』と薫子が言う始末だ。

そうすぐには会えないだろう。と、そう思っていた。

が、

僕は直ぐにあの人形の居場所を察知した。

『………』

間違いなく、この部屋に居る。

A2203号室、この部屋の奥に微かじゃない妖気がギチギチと伝わる。

僕がこの扉とにらめっこしている間、蓮子はビデオカメラを回し、メリーはベランダから下を覗いて『わぁー…』と言い

薫子はあの人形を別の部屋で探していた。

そして薫子が部屋から出た後、僕を見つめ

『ああ、そうそうこの部屋に居るのだったわね。』

そう言って、この扉を開こうとしていた。

『おっ見つかったのー?』

蓮子とメリーが興味深そうな顔で人形の居る部屋まで駆け寄る。

そいして薫子の手により扉が開かれたとき、その巨大な妖気は僕の鳥肌を立たせるのに十分だった。

幻想郷にもかつて人形師なる者が居るが、その人形とは種類が違う上にとてつもなく恐ろしい。

『…にしても、人形のくせに良いところ住んでるわねー。』

と、蓮子は舌打ちしながら辺りを見渡した。僕ならこんな所、金を貰ってでも住みたくは無い。

しかし、妖気ばかり気になっていたが、部屋は結構綺麗に保たれていた。

定期的に掃除する人が居るのだろうか、埃一つ落ちていない真っ白な部屋だ。

『ああ、居た居た。あれが楓ちゃんよ。』

ただ、あの人形を除いては。

一目見た瞬間、猛烈に後悔した。

あれは、妖怪でも神様でもない、もっと他の生物の気が流れていると直感で感じたからだ。

つまり、人形相手に言うのも変な話だが、あの人形は生きている。

いや、人形だから思念も心臓も脳も無い為、その言葉は相応しくないかもしれない。

だがそれ以外に適切な言葉が思いつかないのだ。

『良かったわねー、楓ちゃん。今日はお友達が増えるわよ。』

楓がそう言った瞬間、蓮子は持ってたビデオカメラを落とした。

『ひッ!』

小さな悲鳴を上げた後、その場でしゃがみこんだ。

『…どうした?』

『今…こっち向いて…』

『…?』

人形の方を見る、だがどう見てもこっちを見ていなかった。

それもそうだ。だって僕さえも凝視していたが、首はおろか目が動くことさえも確認できなかったからだ。

ただの蓮子の思い違い、そう思うことにした。

その前にメリーが全く動かないまま人形を凝視しているのだが、

一体、何が見えていると言うのだろうか。

『おい、メリー…』

『うひゃぁ!?』

僕が声をかけると、滑るように尻餅をついて転んだ。

どうやら、彼女達も何かを感じ取っているらしい。

『大袈裟なのよ貴方達は。何か感じてるみたいだけど、この子は何もしないわよ』

全く信じられない人に、全く信じられない事を言われても信憑性が無いのだが…。

だが、これでこの人形が曰く憑きだというのは証明された。これで僕達の仕事は終わりだ。

帰ろうと踵を返したところ、後ろから手を掴まれた。

『!』

振り返ると、薫子あブラシを持って僕を笑顔で睨みつけていた。

『森近くん。楓ちゃんの髪の毛解かしてくれない?』

『え?』

いきなり言われたその言葉に、何か違和感を感じた。

『どうして僕が』

『楓ちゃん、貴方を気に入ったみたいなの。だから髪を綺麗にしてあげたら、きっと彼女も喜んでくれるはずよ。』

『………』

正直、この人形に近寄りたくは無い。

薫子が何を感じ取ったかは分からないが、妖気を感じるにも関わらずこの人形はピクリとも動かない。

直陸不動の人形の髪の毛を僕が解かすなんて、端から見れば変人極まりないだろう。

だが、これと言った否定の理由も無いし、感じるのは妖気のような物だけで殺気や邪気は感じさせていない。

寧ろ断った方が怖そうだ。

『…まぁ、別に良いけど。』

そう言って、僕は人形の横に立ち、屈んで、人形の髪を解く。

解く必要の無い程、人形の髪はサラサラで綺麗だった。

その様子を見ている蓮子とメリーは、ただ怖くて近寄れないと言った感じか。

だが、ビデオカメラのレンズを僕の方に向けていた。覗きはしていなかったが。

そして、ようやく髪を解くのも終わりそうだ。と思った時に

バタンッ!

と扉が開く音がした。

『ぎゃぁあああああああああ!!!』

蓮子が叫ぶ。

『きゃぁああああああああああああああああ!!!』

メリーが叫ぶ。

その声に、僕はビクリと身体を弾む。

『…あ、あのー…』

扉の向こうに立っていたのは、

10人男が居れば、その内9人は振り返りそうな程の美人で魅力的な女性と

冴えないパーカーを着た女性

カメラを持った男性の三人だった。

『あ…ママ?』

どうやら、美人の女性の方は薫子の義母のようだ。そういえばビデオに映っていた女性と大分似ている。

だとすれば、この二人は?

『あのー…私達、映像製作委員会の者なんですけどー…』

『この人たち、楓ちゃんを取材させてくださいって言っていたのよ。』

映像製作委員会

つまりは、番組を作る人達が集まりにきているという事なのだろうか。

…確かに、この人形は何か思うところがあるが

とりあえず髪を解かすのを終えてから、僕達は人形から離れた。

『…で、映像製作委員会って、何の映像を作ってるの?』

蓮子が、関係無い話題に首を突っ込もうとする。

『あ、あの…。映像と言っても、レンタルビデオとかDVD限定の発売なんですけど…<戦慄動画>って映像を作らせて貰っています。はい』

『戦慄動画…戦慄動画!?』

瞬間、蓮子の目が輝きだした。

『みっみっ見てます!!全巻見てます!!あんた達そんな大有名なビデオシリーズ作ってる人なの!?わぁ―!!』

蓮子のはしゃぎっぷりに、映像製作の人たちも苦笑いをしている。

『ちょっと薫子あんた凄いじゃない!恐怖映像のエキスパート達に目をつけられるなんてさぁあ!!』

『…私はちょっとそのビデオ知らないから、良く分からないのだけど。』

蓮子のはしゃぎとは別に、冷めた表情で取材を続けていく映像製作者達

『それで、あの人形を見つけたいきさつを教えていただきたいのですが…』

『あー、楓ちゃんは友人の榊さんから譲り受けたものでー、』

『どっどうしよう霖くん!!私、ビデオに写っちゃうかも!!映ったらどうしよう!!』

蓮子がはしゃぎと照れが混じりあって大変なことになっているが、

おそらくそんな心配は無い物だと考えて良い。はっきりと言って映像製作者達はこちらに微塵も興味を持ち合わせていない。

ある程度の質問を繰り返した後、映像製作者達は楓という人形を撮影した後、

そのまま薫子家にお礼をして帰っていった。





【後日】

それからというものの、映像製作委員会の者達は取材に全く来なかったという。

あれから一ヶ月は経つが、連絡も何も無いらしい。

当の蓮子は、この最近機嫌がよろしいようだ。

『当然じゃない。あのビデオシリーズは夏頃にリリースされるのよ、つまり、明後日には新作が発売されるの。』

新作にはまだ、僕達が関わった楓ちゃんの話題は出ないと思うがな。

そもそも、僕はあまり興味が無いどころか脳の片隅に置き忘れて、たった今まで忘れていた所だ。

『はぁー、二日も待ちきれないなぁー、あっ、そうだ!もしかしたら時期を早めて今日発売してるのかも!!』

うん、人間の期待心というのは人を色んな所で惑わすのだな。

機嫌がよろしい時はよろしい時で、色んなところに冒険しようと言い出すのだから面倒くさい。

今回もリリース日が変わりようなければ、勢い余った蓮子に引っ張り回されるのだろうが、

それが嫌な僕は、ここ最近に頭を悩ませている。

が、その心配は今日で打ち消されそうだ。

携帯の画面を見た蓮子が、真顔のまま固まっていたからだ。

また、別の不安が僕の中で募る。

『……どうした?』

『……何よこれ…』

蓮子が何に絶句しているのか分からない。

が、それは良い情報だとはとても思えなかった。

僕も携帯で、蓮子の見ているページのアドレスを入力して飛ばす。

そこに書かれていたのは、

信じたくも信じられないニュースが書かれていた。

≪製作委員会の9割が行方不明になりました、続行不可能となりましたので、戦慄動画は先月発売のシリーズ23でお終いです。≫






【薫子邸】

蓮子は連打していた。

薫子が住んでいるであろう、最上階から4階までのインターホンを交互に連続に連打していた。

あまりに五月蝿さに、スピーカーから音声がもう出ているが聞こえていないのでは無いかと疑わせる。

ブツリ と、スピーカーから音が聞こえると、ようやく蓮子は押す指を止めた。

≪…どうしたのかしら?何かご立腹?≫

『ご名答よ、あんた、先月来た戦慄動画製作委員会に何をしたのかしら?』

≪何もしてないわ≫

『OK、質問が悪かったわね、楓ちゃんが戦慄動画製作委員会に何をした?』

≪何もしてないわ≫

『分かった、ちょっと待って。楓ちゃん、何か呪いつかったでしょ?』

≪何もしてないわ≫

『オウムかあんた!!!』

蓮子はスピーカーの相手に激昂した。

『すまない薫子。以前来たあの戦慄動画の製作委員会の人たちが、最近行方不明になっているみたいなんだ。それで何か分からない事は無いかと聴きに来たんだが…』

≪…………≫

薫子は、スピーカーの向こうでだんまりを決め込む。

≪ごめんなさい、森近くん。私は本当に知らないの。それに、楓ちゃんも最近は部屋から一歩も出てないわ。≫

『そうか。』

ならば、本当に今回の事は無関係である可能性は極めて高い。薫子生徒会長は変人で変態だが、こんなつまらない嘘を付く事は…

つまらない嘘をつく事は…

………

『あんた、それ嘘じゃないでしょうねぇ?』

蓮子が、心底疑うようにスピーカーを睨みつけながら言葉を発す。

すまん薫子、お前はつまらない嘘をつきそうだ。

今の今まで、おちょくられた心当たりが多すぎる。

≪ふふふ。それじゃぁ遭えて、それは嘘のまた嘘の嘘の嘘とでも言っておくわ。≫

『一体どっちだって言うのよ!!』

≪疑うなら、楓ちゃんの部屋に行ってみれば?≫

その音声と共に、エレベーターの扉が開かれる。





【22階】

そこで、例の一件である楓ちゃんとやらの部屋に向かってみる。

楓ちゃんの部屋の前で、複数の人だかりがあった。

『…何?あれ』

その人だかりを見る辺り、どうやら素人の集団ではなさそうだ。

カメラと長いマイク、証明を持っている辺りからテレビ局の関係者である可能性が高い。

『あ、こちらよ森近くん。』

薫子が笑顔で僕達を手招きする。

『何なんだ?この人だかりは』

『うふふ、実はね、楓ちゃんがお茶の間デビューする予定なのよ。』

薫子が嬉しそうに答えると、奥で母親が嬉しそうに取材をしていた。

楓は自分の娘みたいなものでして、とか

私の楓が全国を魅了できる機会があるなんて夢みたい、とか

まるで自分の娘をアイドルに売り出すかのような勢いだ。

だが、この人たちが持ってる企画書を覗く限り、どうやらアイドルなんて生易しい物ではなさそうだ。

『ほえー!?あんたんとこの人形、こんなゴールデンな番組に出るの!?』

蓮子が驚きの声を上げる。

テレビをあまり見ない僕でさえ分かるその番組は、時折心霊特集をやることを知っている。

蓮子がそれを話題に出してきたりするので、僕もちょくちょく見たりするのだが、

それを見ると、大体一緒に見る麻耶が夜一人でトイレ行けなくなり、僕を起こしに来るので今後はそういう番組は見ないようにしている。

まぁ、つまり楓ちゃんは

『…その日の子供達に鳥肌を立たせるわけだ。』

『それはどちらの意味かしらね。』

意味ありげに薫子は微笑み、団扇を僕に渡す。

番組の名前の上に思いっきり心霊特集と銘打っていた。

『それでは、この楓ちゃんは当局で預からせて貰うと言う訳で…』

そう言って、テレビ局の人たちは棺桶のような物に布団をしめつけ、人形を入れて蓋をし、

作業服を着た男性二人が、その人形を持って外へと運んだ。

あんな大きな物を下まで持っていけるのか少し不安になるが、そこら辺は大丈夫だろう。

『楓ちゃんを怒らせないようにしてくださいね。あの子、怒らせると殺しちゃうかもしれないから…』

薫子の母親がそう言うと、テレビ局の人たちは苦笑いをして去っていった。

一人は気が狂った人を見るような目で母親の方にお金が入っているであろう封筒を渡し、去っていった。

その一部始終を、呆然とした様子で見つめる蓮子

そんな僕達に気づいた母親は、僕達の方を見て微笑み返した。

『あらぁ、貴方達は先月のお友達じゃない。そして貴方が彼氏?』

『違います。』

『まぁうふふ。薫子も変にませちゃっててね。』

本当に血が繋がっていないのかと疑わせるくらい中身がそっくりな母親を見て、僕は少し考えるのを止めた。

『…しかし、本当に凄いわねアンタ達、そんなに凄い人形持ってたの?』

『楓は凄いんじゃないのよ。ただの私達の家族なの。』

『ああ、はい。家族ね家族。で、その家族が先月来た製作委員会に何をしたの?』

まぁ、

先月来た製作委員会に何か無ければ、テレビ局がここに来る事も無かっただろうからな。

また別の理由がある可能性もあるが、現在ではあの楓が原因の一挙行方不明が可能性の高い原因だ。

『んー?そういえば先月以来来ていないわねぇー。あの人たち』

だが、母親は更に情報が少ないようだ。

『さっきも言ったように、私達は知らないのよ。本当に。』

当の楓ちゃんも連れて行かれちゃったしな。

まさに誰もあの製作委員会については口無しという事だ。

『そんな事よりも、今日はお祝いにケーキを食べましょう。ちょっと買いすぎちゃったから丁度良いわ。』

そう言って、母親はエレベーターの方へと歩いていった。

『30階に客間があるから、そこで皆で食べましょう。』

と、薫子も僕の手を握りながらもう一つのエレベーターに向かう。

本当にマイペースな親子だ。と、僕は呆れながら彼女の後についていった。


そこで食べたケーキは、相当高級な物らしく、食べたことの無い味がした。

あまりに珍しいケーキなので、持ち帰りを提案したらあっさりと許諾された。

まだ結構残っていた為、蓮子はまだいくつか食べて帰るらしい。

一個食べれば十分な僕は、お土産の分を持ちながら薫子邸から去っていった。

『今度来る時は、泊まりにこない?』と不気味に笑いながら言われたが、それは聞き流して歩いていった。

家に帰り、麻耶に土産のケーキを渡す。

麻耶は自然に現れる笑みを我慢しながらケーキを食べ続けていた。

相当美味しかったらしく、食べ終わったら少し寂しそうな表情をした。

今度、薫子にどこに売っているケーキ屋か聞いてみよう。正直僕もこのケーキの味は気に入った。

今後の楽しみがまた一つできたな。と思った瞬間、何かを忘れている事に気づいた。






【後日】

そうだ、忘れていた。

メリーは、あの時その場に居なかったのだ。

薫子邸でケーキを食べたことがバレた瞬間、メリーは真顔で無言で涙を流し始めた。

僕と蓮子が必死に謝っても涙を流すのを止めなかった。

その場で都合良く現れる薫子。

あのケーキはどこに売っているのか聞いてみた。

が、

どうやら近所には存在しないようだ。

振り返れば、聞こえていたようでメリーは机に突っ伏して泣いていた。

『もう知りません!』と、泣きながら僕達の謝罪を拒否した。

その日一日は、メリーの涙の跡は消えていなかった。





【二日後】

薫子がニヤニヤしながら僕の方へと歩み寄る。

一体何なんだ気持ち悪いと思い一歩引いたが、更に歩み寄ってくる。

『森近くん、知ってる?』

いや、知らん。

一体何だか知らんが、変な用ならご遠慮…

…いや、そうか。

『楓ちゃんが、お茶の間デビューでしたっけ?』

『そうよ』

薫子は、ドヤ顔で僕の顔を見ている。

まぁ、確かに気にならない事は無いんだがな。

正直、あのスタッフがあの人形をどんな風に扱っているのか少し興味がある。

もしかしたら、本人も知らない出自なんかも突き止めている可能性もある。

『…何気に凄く気になりますね。』

先ほどまで忘れていたにも関わらず、ここまで興味深くさせるのはある意味珍しい。

『そうでしょう。私も、あの人形が一体どんな出自を迎えたのか気になって気になって…』

薫子は正直、楓ちゃんは人形だと割りきっているようだ。あの母親の方は知らないが。

薫子がしている表情のそれは、どこか秘密を探ろうとする蓮子の顔のそれにとても良く似ていた。

『…今夜の8時でしたっけ?』

『そうよ。ああ、8時が待ち遠しいわ。出来る事なら時間を早めて6時くらいでも良いのに。』

以前の蓮子と同じ事を言っている。と、僕は少し呆れて笑った。






【20時】

{霖くん、ちゃんとテレビ見てる!?}

『ああ、見てる見てる。』

僕達秘封倶楽部は、楓ちゃんが出るという番組を見ている間は、電話をしながら実況する事となった。

朝に聞いた薫子の話を蓮子にしたら、謎の興奮を抑えきれなくなり、『8時早く来なさい!!もう5時からでも良いわ!!』と叫ぶように言っていた。

当のメリーは、未だに口を聞いてくれない。

相当怒っているなと諦め、僕達二人で見ることとなった。

ちなみに麻耶は、この番組がホラーだと分かってから、布団を被りながらテレビを凝視している。

怖いのに見たいのか。と、何だか面白い矛盾を晒している麻耶に少し笑ってしまった。


そして20時が経ち

数十秒経ってから、その番組は始まった。

冒頭から、楓ちゃんの写真がモザイク付きで登場し

≪人を何十人も魅惑し殺してきた日本一恐ろしい人形≫というタイアップと共に、画面が変わりスタジオに移された。

司会者が笑い、そして助手も笑う。

お笑い芸人がボケ、お笑い芸人が突っ込む。

どこをどう見ても、普通のバラエティしか見えない。

そんな中、司会者は話す。

≪えー今回はなんと!超超超恐ろしい人形がスタジオに来ております!!≫

司会者がそう言うと、観客と芸人の悲鳴と≪え〜≫という嫌そうな声が響く。

≪と、その前に…今回は、その人形を取材したという映像の製作委員会の人たちに取材してきました。≫

と、助手が言った瞬間、その映像製作委員会の一人がスタジオに登場する。

そいつは、以前薫子邸の楓の取材に来た二人の内のカメラマンの男性だった。

{えぇっ!?ちょっと霖くんこいつ、見たことない!?}

『ああ。薫子の家に来た奴だな』

そう話し込んでいると、テレビの中の男性は少しやつれているように見えた。

≪…あ、はい、僕達が取材してきた映像を持ってきたんですけど…≫

男性がそう言うと、≪無理無理無理無理≫≪怖い怖い怖い怖い≫≪これやばい奴だよ〜≫と、リアクションをする芸人達。

その言葉を無視するように、司会者は≪それでは早速見て頂きましょう。これが、彼らが見た真実です。≫

と言った後、映像が切り替わる。



【映像】

それは、辺りが木だらけの田舎の村の風景を映していた。

≪本当にこの辺りに居るんですかね?あの人形の製作者さんが。≫

薫子邸に来ていた女性がカメラに映りこんでいる。

≪さぁ、でも○○さんが言った所によると、この村で間違い無いんですけどね。≫

カメラマンが、その女性の質問に答える。

取材者の名前は、機械音に潰され全く分からなかった。

そして画面が切り替わり、今度は家が映し出された。

張り紙と雑貨が大量に貼り付けられている家、その家が映し出されたとき、観客達のどよめきが聞こえてくる。

その家のインターホンを押したら、意外にも音が鳴った。

≪すいませーん、映像製作委員会の者ですがー、取材させてもらってもよろしいですかー?≫

扉に向かって質問するカメラマン、だが、返事は無い。

もう一度インターホンを鳴らす。だが、反応は無い。

≪…鍵開いてる?≫

カメラマンがそう言うと、女性が扉に手をかける。が、

≪…開いてないですね。≫

そう言って。≪どうします?≫と相談する撮影者達。

仕方なく、もう一度インターホンを押すカメラマン。≪もう良いよ!≫と画面の外で言うリアクション芸人。

やはり、反応は起こらない。

が、

≪あれ…?≫

先ほどまで開かなかった扉が、何故か今開く。

それと同時に、画面の外で観客達のどよめきの声が大きくなっていく。

そして、扉の向こうに映し出されていたのは…、

というタイアップと共に、CMが入り込んだ。

{むぎぃいいいいい!!何でこんな絶妙な所で切るのよテレビぃぃぃいい!!}

まぁ、CM時に他の番組にチャンネル移されないようにする為の表現技法であり、別にテレビ局の人たちは悪くは無い。

だから蓮子の怒りは場違いであるのは間違いないのだ。



そしてCMが開ける。

扉が開かれ、その向こうに映し出される光景は、


人形の首がずらりと並べられ、全てこちらの方を睨みつけている光景だった。

思わずカメラマンは驚き、後ろに退がる。

女性もこの光景に驚いているのか、そのまま固まってしまった。

≪…入りますか?≫

カメラマンがそう言うと、女性は≪入らなきゃ駄目でしょう。≫と言う。≪駄目なわけ無いだろ!≫≪戻って戻って!≫と画面の外で言うリアクション芸人。

そして家の中に入ると、更に人形の数が多くなり、こちらの方を睨みつけていた。

ゆっくりと、あくまでゆっくりと中に入っていくカメラマン達。

そして、奥の部屋の扉を手にかける。

奥の扉が開かれる、すると

外の日の光が、カメラマン達を襲った。

カメラの調整をして見れるようにすると、そこは崩れていて半分倒壊した後だった。

火事にでもあったのだろう。炭と焦げた人形達がそこら辺に転がっている。

そしてカメラを正面に戻す、そこには森林が広がっていた。

その森林は、まるでカメラマン達を誘っているようにも見える。

≪…あれ?≫

女性が、森林の奥から何かを察知する。

≪どうしました?≫

≪何か、近づいてきません?≫

森林の奥の方へとカメラを向ける。

だが、何も映らない。

≪いやぁ、何も居ませんけどねぇ≫

そう言って、隣を見てみると

≪あれ?≫

先ほどまで居た女性が、いつの間にか消えていた。

≪何だ…?≫

不振に思い、もう一度森林の方を見る。

森林の奥の方に、女性が居た。

≪おーい、何してるんですか?≫

声をかけても、森林の方へと足を止めない。

そして、森の奥の方からもう一人女性があらわれた。

走ってきていた。

こっちに向かって

真っ直ぐに

どんどん

≪うわぁあああああああああああああああ!!≫

すぐ近くになってから、その女性の姿が確認できた。

黒い服、黒い顔と思っていたところは焼け焦げた皮膚であり、全身ぐずぐずの死体のような人形がこちらに猛スピードで襲い掛かってきていたのだ。

画面の外で、観客と芸人が悲鳴をあげる。

カメラマンは逃げ出したが、捕まってしまったのか、そこでカメラは真っ暗になり

ノイズが流れ、

映像が元に戻ったと思ったら、森林の奥を移した映像が延々と流れていた。




【スタジオ】

≪あの時のカメラマンは、僕とは違う人だったんですね。≫

映像提供者である製作委員会の人がそう答える。

≪それで、あの映像はどこから?≫

≪あ、はい。取材場所から戻ってこないから妙だなぁと思って、その村に数人だかりで行ったんですね。≫

一度、映像提供者は息を吸い込む。

≪で、そこでカメラだけは何とか見つかりまして、警察にも捜索以来を出したんですけど、まだ見つかっていないらしいんです。≫

≪未だに、見つかっていないと。≫

芸人と観客が心配するように息を吐き出す。

≪あと以前、その人形を譲り受けたって人に取材したんですね。友人から譲り受けた人形って事で大事にしていたらしいんですけど、その友人にも聞いたら、それはあの村に住む人形師の曾祖父が作った代物だったみたいなんです。≫

≪それで、あの村には何かがあるのは間違いないと。≫

≪まぁ、そういう事になりますかね。≫

視聴者に分かりやすいように何度も質問する司会者。

≪それで、貴方は今の所何とも無いのですか?≫

≪あ、はい。今の所は、変な事も起こっていません。僕の身には。≫

≪そうですか。…それで、どうしてあの人形の事を取材しようと思ったのですか?≫

司会者がそう質問すると、映像提供者はしばらく口を閉じ、考えていた。

≪いや…良く分からないんですけど、今は行方不明になっているディレクターさんが、生き人形の特集を組もうって言ってたんですね。≫

≪生き人形と言うと…あの、稲川さんの?≫

≪あ、いえ。稲川さんの生き人形とは違う物なんですが…≫

つまりの事を言うと、何故そのディレクターが生き人形について興味を持ったのかは分からないと言った所か。

まぁ、興味なんて自然に沸き起こる物であるが故に、理由なんて無いのだろうが。

≪果たして、その生き人形はどのような容姿をしているのでしょうか。≫

いきなり助手の方にカメラアップし、説明を始めた。

≪はい、実はその生き人形…このスタジオに来ております!!≫

えぇ〜!?とか、やだやだやだ!とか、あまり印象の良くない反応をする芸人達。

≪ちなみに、稲川さんの言う生き人形とはこのような人形です。≫

そういって、写真を画面いっぱいに写す司会者、どよめきのあがる観客席

確かに、楓ちゃんとは違った容姿をしている人形だった。

≪はい、それでは来て頂きましょう。こちらが生き人形、名前は楓ちゃんです!!≫

ホラー調の音楽と共に、証明が暗くなり、貨車の音がスタジオに響く。

蓋の開いた棺桶の中に、楓ちゃんの姿が確認できた。

楓ちゃんを見た観客席と芸人の、どよめきの声はより一層深まる。

≪いやぁー、でも、大分不気味な人形ですねぇ。≫

≪そうでしょう、実はこの人形、人間の魂が入っていると言われっ≫

急に画面がフリーズした。

音声も画面も止まり、テレビには静止画が映し出されている状況となった。

『……あれ?』

{どうしたの?霖くん}

蓮子が疑問の声で問いかける。

『いや、そっちは何か変ではないのか?』

{いや?別に…あっ!画面が止まってる!!}

どうやら、時間差はあったものの蓮子も同じ状況のようだ。

『僕は人形の顔が映ってる所で止まってるよ。』

≪ええ!?私は司会者が人形に触ろうとしている所で止まってるわよ?≫

止まってる所も違うようだ。

そして、次第にノイズが発生し始める。

ノイズをする度に人形の顔が段々と変わっていく。

不自然に顔だけが、こちらの方へと動かし、目と口が広がって大きくなっていく。

麻耶が、怖くて布団をかぶりながら僕にしがみつく。

瞬間

ア”ッ

と、スピーカーが壊れた音がした。

ア”ッア”ッア”ア"ア”ア”ア”

音が段々と大きくなってくる。

リモコンで音量を下げようとしても、音は鳴りやまない、段々と大きくなってくる。

そして、画面が真っ赤になったと共に音も鳴らなくなった。

そう思われた。が

《マ”マ”ア”ア"ア”ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”!!!!!!》

女の子の顔が映されたと思った瞬間、その顔がものすごい速さで歪んでゆく。

まるで曲面鏡を覗いた時に見える、歪ませてへちまのようになった顔の様に見えた。

目が真っ黒で何も入っていないように思われる。

《しかし、本当にこの人形に魂が入ってるのですか?》

そして、急にリアクション芸人の姿が映し出された。

まるで、先ほどの事は何事も無かったかのように淡々と事を進めていた。

しばらくすると、画面上部にテロップが流れ出てきた。

《先ほど、謎の電波障害が発生致しました。視聴者の皆様が不愉快に思われたことを深くお詫び申し上げます。》

と、書かれていた。

{………}

電話の向こうの蓮子も絶句していた。

先ほどの映像は一体何なのだろうか?

もしや、あの人形が発した呪いの一種か何かだろうか、

テレビでは既に、まるで先ほどの映像が無かったかのように番組が再開されている。

司会者が、霊能力者に人形を見て貰っている。霊能力者が一言、《この人形からは、どうも嫌らしい霊気を感じますね。》とコメント。

麻耶は怯えきって泣いていて、しゃっくりを上げながら僕にしがみつく手を弱めない。

{……今、何かあったわよね…?}

蓮子が、僕に確認するように質問をした。






【後日】

先日のあの電波障害の出来事は、当然新聞やニュース等に取り上げられていた。

<驚愕!スタッフの誰も想像していなかった放送事故!>

<各家庭によって、その電波障害の映像は違っていた!>

<生き人形の呪い!?バラエティ番組に起こった戦慄事件>

今や、どこのニュースを見てもその話題に持ちきりだ。

いつもは重大ニュースでもアニメを流す放送局でさえ、あの心霊現象についての報道は行っていた。

オカルト否定派の大槻という人は《こんなテレビ局の悪ふざけに本気になる貴方達は馬鹿な猿としか思えない》とコメントしていたり、

オカルト肯定派の韮澤という人は《私たちは、大変な事をしてしまったかもしれない。今すぐ生き人形を元の場所に戻さなければ》とコメントしたりしていた。

薫子とその母親の言う通り、楓ちゃんは芸能界の注目を一際立たせ、今や誰もが知っている人形として成り上がった。

お茶の間の人たちに鳥肌を与え、戦慄し恐怖を与えたのである。

今や楓ちゃんは超有名人だ。

当の薫子は一体どう思っているのだろうか。学校が休みの今日、彼女の家に行ってみることした。

今度はちゃんとメリーも連れてだ。

今度はちゃんと誘ったからか、ご機嫌な様子で薫子邸の前まで駆け寄った。

『今日はいっぱい、本当にいっぱい食べちゃいますよ〜。えへへ〜』

家からマイフォークとマイスプーンまで持ってくるとは、随分な気合いの入れようだ。

例のインターホンを押し、しばらく待つ

《はい》

『森近ですが』

《ごめんなさい。今日はちょっと手が込んでいるの…。》

薫子はそう、やんわりと断りを入れた。

手が混んでいるのなら仕方がない。今日は彼女の様子を見に来ただけであるため、別にそこまで大層な用は無いのだ。

仕方なしに振り返ったら、メリーの目に雫が溜まっていた。

プルプル震えながら、右手にフォーク左手にスプーンを持って泣くのを堪えている。

『あの、手伝いますので中に入れてもらえませんでしょうか?』

『は?』

蓮子が驚きと苛立ちの声を上げる。

しばらく、スピーカーから声が聞こえなかったが、

《…でも、貴方達が手伝う事なんて無いかもしれないわよ?》

『なんでもやるから、頼むよ。』

《今、何でもって言ったわね?》

え?

今、僕何か失言したか?

スピーカーの奥から不気味な笑い声が発せられ、エレベーターの扉が開いた。

《そこまで言うなら良いわよ。どうぞ、中に入って下さいな。》

正直、僕は物凄く入りたくなかったが、扉が開いたと共にメリーはご機嫌になり、

『行きましょう!霖くん!蓮子ちゃん!』と、僕たちの手を引っ張っていく。

今度から、言葉はよく考えてから発する事にしよう。と、心に刻み込んた瞬間扉が閉まり、エレベーターは上に上がって行った。






【31階】

『だから!楓ちゃんは家に帰りたがってるんです!!早くお部屋に帰らせないと…、楓ちゃんが泣いてるじゃありませんか!!』

母親が、電話の向こうの相手と討論をしていた。

『…あの放送事故が起こってから、ずっとこうなのよ。』

薫子が少し申し訳なさそうに僕たちにそう言った。

『生放送なんてどうでも良いんです!!今、楓ちゃんには私たちが必要なんです!!』

『…ついこの間までは、お茶の間に出ると言ってはしゃいでいたのにな。』

僕は紅茶を飲みながら、激しく討論している薫子の義母の方を見た。

『そういえばアンタの所の放送事故って、どんな感じだったの?』

新聞や、蓮子の証言を聞く限り放送事故は各家庭によって情報が違うようだった。

メリーは見ていないので影響は無いが、蓮子は人形じゃなくて女の子が燃えている映像が映し出されていたのだそうだ。

『そういえば、どの家庭も見えていた映像は違っていたようね?』

『ああ、僕は少女の顔が歪みながら叫ぶ映像が流れていた。』

『ふぅん…私が見たのは、楓ちゃんが目から血を流しながら「帰りたい」って叫んでる映像だったわ。』

薫子もやはり見ていた映像は違っていたようだ。

『…あの、分かりました。もう少し、貴方達を信じみますけど、終わったら楓ちゃんは返していただけますのよね?え?それは分からない!?どういう事よ!!!』

しかし、母親の機嫌を見る限り僕たちを歓迎してくれる事は全く無さそうだ。

今日もメリーはケーキをお預けだろうなと、哀れみの目でメリーを見つめていた。

メリーは怒涛の声をまき散らす薫子の義母に恐怖し、震えていた。

ここに来た事を後悔しているように見えた。

『ちょっと待って下さい、話は終わっていませんよ!!ちょっと!?ねぇ!?』

電話が切れたみたいで、薫子の母親は返答の無い電話に懸命に声をかける。

だが、返ってこない事を知った薫子は、もう一度掛け直そうとした。

『どうして拒否するのよ!!』

と、叫んだ後、見て分かるほどに落胆し、電話を受話器に戻した。

『…あら?貴方達はこの前のお友達ね?』

薫子の義母は、無理にでも笑顔を作って僕たちに微笑みかけていた。

『ママ…大丈夫だったの?』

『ええ、大丈夫よ薫子。楓ちゃんは今日の8時の生放送を終えたら、ちゃんと帰ってくるわ。楓ちゃんも帰りたがってるんだもの。』

不気味な笑顔で口を開く義母、正直笑顔の奥の表情が恐ろしくて紅茶の味が全く分からない。

『今日の…8時?』

前回、あの放送事故が起こってからまだ数日しか経っていない。

テレビ局も味をしめたようだ。話題が最高潮になっているこのブームに乗っかれば、視聴率が取れると考えているのだろう。

先ほどの電話も、楓ちゃんはまだ返さないと言った内容の物だった。そして起こったあの放送事故

ネットや巨大掲示板を覗くとかなり炎上しているのが分かる。

オカルト否定派が『まーたやらせを続行させるのか。』『テレビ局の壮大なドッキリ企画』等とはやし立て

オカルト肯定派が『これ以上、あんな恐ろしい人形をテレビに映すべきじゃないだろ!』『今度こそ人が死ぬ』と、どちらも放送自体を否定しているように思える。

その中で、最近出来たであろうホームページで”超生放送!!今話題の呪われた人形を徹底解剖!!今夜、貴方は歴史の証人になる”という妙に長ッたらしいタイトルが表示された。

『ああ、心配だわ。本当に心配…。楓ちゃん、ちゃんと帰ってこれるのかしら…』

薫子の義母は、ボソボソと呟きながら頭を掻きはじめた。

薫子は、その義母の様子を見た後すぐに目を逸らして紅茶をすすり始めた。

『…ところで霖くん。貴方、なんでもするって言ったわよね?』

飲んでいた紅茶を吐きだしそうになる。

蓮子とメリーが凄い勢いでこちらの方を見た。

『…何の事かな?』

無かった事にしようと口走った瞬間、薫子はポケットから携帯電話を取り出し、何か動画を再生させた。

《なんでもやるから、頼むよ。》

『……………』

こいつは本当に抜け目の無いやろうだ。

この徹底したやり方は、逆に僕に感心させられる。

『なんでもするって言ったのは霖くんだけど、それは私たちを含めての事よ。私たちにもちゃんと命令しなさいよね。』

『それでも別に良いわ。』

薫子はあっさりと許諾した。

驚いた、てっきり蓮子とメリーは追い出す命令を出すかと思っていたが

『お願い事って言うのも、何の他愛も無い事よ。』

薫子は、義母の方へと顔を向ける。

『ママ、今日お友達を家に泊めても良いかしら。』

『あら、楽しそうね。良いわよ、お部屋なんていっぱいあるのだから、精一杯遊びなさい。マリヤちゃんやレイカちゃんも誘っあげてね。』

マリヤちゃんやレイカちゃんとやらは恐らく人形なのだろう。薫子の微妙な表情を見れば大抵理解が出来た。

しかし薫子、お前は母親に結構苦労しているのだな。少しだけ同情させて頂くよ。

『どういうつもりよ薫子』

『私は今日、必然的にあの番組を見ることになるわ。楓ちゃんの晴れ舞台を見るために。その時に一人だと寂しいじゃない。』

薫子はクスクスと笑いながら紅茶に口を運ぶ。

『晩御飯も付くし、お菓子も用意してあげるわ。どう?悪い条件じゃ無いでしょう?』

『今日一日よろしくね薫子ちゃん』

ケーキと晩御飯いう言葉に反応して、姿勢を良くしたメリーの隣で、少しゲンナリした表情をする蓮子

『…麻耶の晩御飯がまだなんだ。だから一旦家に帰って、麻耶を連れて来ても良いかい?』

『あら、あの霖くんの隠し子ね。』

『違う』

『冗談よ。まぁ、あの子私の事が嫌いだから連れて来ても構わないわ。』

理由がどこかおかしい気がしたが、それがいつも通りだと察した僕はとりあえず一度自分の部屋に戻る事にした。




【自宅】

麻耶に、友達の家に泊まりに行くことを伝えた。

一緒に行く事を提案したら、麻耶はちょっと嬉しそうに僕の元に駆け寄ってきて、帽子を鞄を担いで僕の手を握った。

許諾したと把握した僕は、自分の家の扉を開ける。




【薫子邸】

が、薫子邸に辿り着いた瞬間に麻耶は立ち止まった。

『どうした?早く行こう』

そう言って麻耶の手を引いたが、麻耶は猛烈に抵抗している。

首を激しく横に振り、何かに脅えている。

『やだ…帰ろう…帰ろうよ香霖…!』

『…そんなに、薫子の事が苦手かい。』

『違う…、あいつは…関係ない…!』

麻耶が見ている方向がどこかおかしい。

見ている方向を僕も見てみたが、特に何かが居るというわけではない。

一体麻耶は何が見えているのだろうか。

それに、今ここで帰っても薫子は許さないだろう。どんな手を使っても邸の中に引っ張り込む筈だ。

さて、どうするべきか。

『何があっても、僕が居るから大丈夫だ。』

そう、麻耶に言ってみる事にする。

『…大丈夫……じゃない…!』

それでも、聞こうとはしなかった。

しかし、僕も正直どうしても行きたいわけでは無い。むしろ行きたくない。

だが、それを薫子も秘封倶楽部も許さないだろう。

逃げられる自信が無いのだ。

『…じゃぁ、仕方ないか。』

それでも、僕は自分の身が可愛い。

麻耶の手を取って、今日はホテルかどこかに泊まって過ごすことにしよう。と、

手を繋ぎながらどこか街の中へと消えた。




【薫子邸】

『それで、今日の晩御飯はロブスターを用いてみようと思うの。』

今、僕は薫子邸の台所に立っている。

いやしかし、豪邸だからか台所がとても立派だ。お手伝いさんも居る。

うん。しかし、本当に彼女たちからは逃げられないのだな。まさか上から見られていたとは思いもよらなかった。

邸から歩いて離れて行こうとしている所を、複数の男性に取り押さえられて無理やり邸の中へと引きずり込まれた。

ちなみに麻耶は今、蓮子とメリーと一緒の部屋で大人しくしている。

しかし薫子の義母は、お手伝いさんが居るというのに台所に立つのだな。少し意外だ。

『貴方、料理が出来る男の人って沙耶香が良く言っていたわ。だから、ちょっと手伝ってもらえないかしら?』

そう言って、僕に包丁を渡し、材料をまな板に広げた。

…しかし、高級食材がこんなにゴロゴロと出されると、

ちょっと、やる気が出てしまうな。

さて、この場には三人も人間が居るんだ。結構良い物を作ってやろうでは無いか。

何て事を、足に枷を付けながら活きこんでみたが、やはり何だか腑に落ちない気がした。





食事の時間

『うわ美味っ!!何これ霖くんアンタこんなのも作れたの?!』

まぁ、伊達に数百年は生きていないからな。ただ、美味いのはただ単に素材が良いからだ。

全く見たことの無い食材まで見た時は、正直焦りと興奮が沸き起こったが、なんとかこれで良かったようだ。

蓮子がかきこむようにロブスターを食べている横で、

薫子が一口一口味わうように食べ、その横で

麻耶は黙々と料理を食べている。顔色が悪い所を見ると味が良く分からないように思える。その横で

メリーは物すごい勢いで食べ物を食べていた。一瞬誰なのか分からなかったくらいだ。

『もっ物すごく美味しいですぅ…!』

『あらやだ、そんなに褒めてもおかわりくらいしか出ないわよ。』

そして当の薫子の義母は、先ほどの怒涛が嘘のように機嫌が良くなっている。

いや、しかし裏では何か黒い事を考えているに違いない。と、思わせる雰囲気を漂わせていた。

『おかわり!!!』

メリーが盛大に食べ終えた後、皿を僕の前へとつき渡した。

この中で静かに食べれていないのは、秘封倶楽部の二人だけだった。

お手伝いさんでさえ、静かに上品に物を食べているというのに、恥ずかしい。




【23階】

楓ちゃんの隣の部屋に、マリヤちゃんやレイカちゃんが居るのだと言う。

その部屋にはちゃんとテレビやラジオ、時計やシャワールームやベッドも揃っているらしい。

そしてもうすぐ夜の8時だ。生放送が始まる時間が迫っている。

メリーと蓮子と麻耶と薫子、それぞれ冷蔵庫から選んだケーキを一つ持ってテレビの前に集合していた。

メリーだけ二つだった。前に食べられなかった分だと言っていた。

蓮子と麻耶は、浮かばれない表情をしてテレビの前に居るが、メリーは蘭々とした顔でケーキと睨めっこしていた。

そしてこの部屋には、マリヤちゃんやレイカちゃんという人形二体が居た。

種類を見ると、どうやらラブドールという種類の人形のようだ。

気持ち悪いくらいに人間として精巧に作られている。少々興味深い。

『あ』

そしてテレビを見ると、楓ちゃんが映っていた。

『ひっ!!』

布団かぶった麻耶が驚いた表情で仰け反る。



《さぁ、今夜は今話題のこの人形を徹底解明。果たしてこの人形の謎は解けるのでしょうか…》

やけに低い声の男がナレーションを行い、画面はスタジオの方に映された。

《さて、始まりました。あの、放送事故を招き起こした人形のためだけに作られたこの特番生放送。今回は10人の霊能力者とホラー漫画家、そして心霊映像20作品が用意されております。》

司会者は、あの時司会していた人と同じ人であった。

《雅夫さん、貴方、あの放送事故を起こした番組の司会者していたみたいだね。》

《そうなんですよ〜、僕も放送見た時はビックリしまして。オンエアの時は何とも無かったんですけどねぇ。》

何の他愛も無い話題が繰り広げられる。

スタジオの端に置かれている棺桶が楓ちゃんなのだろうか。両脇に黒服の男性が二人立って棺桶を守っていた。

《さて、それでは本題に入りましょう。》

しばらくの他愛の無い会話、最近の出来事、本題とは関係ない話をした後にようやく本題に入った。

《えーそれでは日下部先生。あの人形は一体どのようにして作られたのですか?》

《はい。あの人形はまず、人形浄瑠璃に使われたと思われる物で、結構歴史の深い人形なんですね。でも、浄瑠璃に使われたにしてはちょっと大きめですよね。小学生くらいの大きさで顔も大きい。だから、公式の浄瑠璃じゃなくて外道の地下劇場で使われてたんじゃないかなぁって思います。》

髭の濃い男性が、淡々と説明に入る。若干適当なところが見えるが、半分は本当の事なのだろう。

《地下、というとそこまで深い歴史があるわけでは無い?》

《はぁ、でも七十年くらい前に作られている人形に間違い無いし、作られた場所も判明しているのは分かりますが、まだ結構謎が残ってますよね。》

《なるほど、まぁその為にここに居るわけですからね。今日はよろしくお願いいたします。》

司会者と日下部氏がお辞儀をする。

《はい。それでは、実はあの番組にも出演した、映像制作委員会の方にも来ていただいております。》

司会者がそう言うと、戦慄動画とやらの宣伝が始まり、そして最後には《このビデオシリーズは今、打ち切りという形を取っている》とナレーションする。

そして、あのカメラマンが映し出される。

《………………》

だが、前回と比べるとやつれていて顔に生気が無い。

《あの、彼は大丈夫なのですか?》

《ああ、はい。本人から要望がありましたので、ここで出演させて貰っています。》

ディレクターと会話する司会者。

《……あの、良いですか?》

そこで、一人のホラー漫画家が手を挙げた。

《あっ、はいはい。良いですよ。どうぞ。》

そこで司会者が、ホラー漫画家に手の先で指す。

《えーと、あの人形は、ここに置いておいて良いものですか?》

《んー、それはちょっと難しいですねぇ、どうですか?小林さん。》

《そうですね。確かに強い力を持っているとは言いますけど、特に怨念を感じる事はありませんからね。》

そう、小林という人が言う。

そこで、ホラー漫画家がまた手を挙げる。

《でも、あの人形何に使ったんですか?》

《何に?えー…、日下部さんが言った通り、地下の劇場で使用されたんですよね。》

《いえ、その後》

《その後ですか?―ええっと、今はご婦人が所有していてその前はご婦人の友人が、その前はちょっと分かんないですね。》

司会者がそう言うと、ホラー漫画家はうなずく。

《どうかなさいました?》

《いやね、あの人形、生きてますよね?》

スタジオが一斉にどよめき始める。

《あの、長谷川先生。一応これは本物の人形なんですけど…》

《でも、あの人形の中に大量の人間の霊が入ってますよね?それも二つや三つじゃない。少なくとも二十人はあの棺桶の中に入ってます。》

スタジオに沈黙が走る。

一人のホラー漫画家の発言によって、番組の空気が変わってゆく。

《…つまり、どういう事ですか?》

《何人かの霊能力者は視えてると思うんですがね。あの棺桶の中に入ってる霊、全員怒ってますよ。》

《ええ?怒ってるってそんなぁ。》

笑いながら話題を飛ばそうとする司会者。

その司会者の後ろに顔のついた真っ黒な影がカメラの方を見ていた。

《嫌ぁああああああ!!!!》

画面の外から悲鳴が響く。

それと同時に、照明が三つ上から落ちてきた。

何?何?と慌てる出演者たち、カメラはいろんな方向に切り替わり、状況が把握できない状況になっている。

そして、ようやくスタジオのカメラに戻り、先ほどの画面に戻った。と思われた。

カーテンの隙間から顔が異常に長い女の子がカメラを見ている。

《あああああああああああああああああああ!!!》

数秒間、砂嵐と共にスタジオの絶叫が生中継される。

砂嵐が収まった時に見えた光景は、

《カメラが切れません!!カメラが切れません!!》

《電源落とせ電源!!》

あの映像制作委員会のカメラマンが、司会者の目を指でえぐっている光景だった。

眼球と思われる球体が、粘り気のある血と共に床に落ちる。

司会者の声にならない絶叫が響く。

《ブレーカー落とせ!!早くブレーカー!!》

その光景から早くシャットアウトするかのように急かすディレクターとおぼしき男。

画面に急に現れるノイズ

ノイズの後に、どこから火が発生し急速に燃え広がった。

火が広がる速さは異常に早く、七人が火に飲み込まれ姿が見えなくなった。

絶叫とおののき、泣き声と叫び声

叫び声の途中で、ノイズが走り、無音になった。

無音のまま、砂嵐になり映像が切り替わった。

あの部屋だ。映像制作委員会が行ったと言う人形が作られた場所に映像が変わった。

そこで、左腕が無い女がストーブから灯油を抜き取り、蓋を開けている映像が流れている。

その灯油を、頭から被り、マッチを取り出す。

そこで、またノイズが走る。

ノイズの狭間に、文字が見える。

《―――友達――――――男―――いな――――呪―》

ノイズが虫食いとなり、所々しか見えない。

ノイズが終わると、女性の悲鳴がテレビから流れた。

女性の身体に火が付き、火ダルマとなりながら《熱い!!熱い!!!》と叫んで辺りを転がる。

そこでもノイズが現れる。ノイズの中に顔が現れる。

目だけしか見えない時と、口だけしか見えない時がある。

《帰り》

たくさんの言葉を発していたが、僕が聞こえたのはこの言葉だけだった。

そして、画面はスタジオに変わる。

火事となり、何が起こっているのか分からないスタジオ。

スタジオの端にある棺桶に、何か違和感があった。

『……あっ』

棺桶が、開いている。

カメラが微妙に動いて、棺桶の中を映すが中には誰も居ない。

状況を知ろうとも、無音であるため状況が分からない。

だが、まだ火が移っていないスタジオの裏が映し出された時、

棺桶に入っていた人形が歩いている光景が映し出されていた。

そして、その光景はすぐにノイズでかき消され、またスタジオで無い場所が映し出された。

焼けた後に残ったあの森林だ。

あの森林が、無音のまま延々と映し出されている。

このままいくと、新林から何か現れるのだろうか。

今は、何も起こっていない。木しか見えない。

一体何が起こるか、待ちながらテレビを凝視していると、



テレビの電源が、消された。

蓮子が、テレビの電源を引っこ抜いたらしい。



薫子の携帯から電話が鳴り響く。

薫子が画面を確認すると、義母の名前が表示されていた。

『…もしもし?ママ?』

《薫子、ちょっとお留守番お願いするわね。》

『…え?え?どういう事?』

《だって貴方も見たでしょう?楓ちゃん、一人で帰るつもりだわ!一人で帰ったら危ないじゃない!車に轢かれたら取り返しのつかない事になっちゃうのよ!》

『………』

薫子は黙り込んでいた。

先ほどの会話は、スピーカー設定されているからか、こちらにも丸聞こえであった。

《だから迎えに行ってくるわ。それに、見つからなくて帰ってくる時もあるかもしれないから、みんなでお留守番お願いね。》

そう言って、電話が切れる。

先ほどの会話を聞いて、蓮子達は固まっていた。

先ほどの映像を見て、全員が絶句している時にその電話の内容を聞いたからか、全員どこか別の方向に目を移していた。

『……どうするの?』

蓮子は、僕たちに向かって質問を繰り出す。

相手はスタジオに居た人たちを殺した人形だ。そいつが今からこの家に来る。

それに僕たちは今、その人形の部屋の隣に居るのだ。

彼女たちは今すぐにでも帰りたいに違いない。

麻耶なんかは僕の胴体にしがみついたまま微動だにしていない。伝わる心臓の音で恐怖しているのが分かる。

だが、

『少なくとも、僕は帰れないな。』

薫子の家はここなのだ。僕たちが帰れば彼女は一人になってしまう。

そんな危険な状況にさせるわけには行かなかった。

『それで良いのかしら?楓ちゃんは、この部屋の隣に向かっているのですよ。』

『…逆に言えば、今外に出れば出くわす可能性だってあるわけだろ?』

僕がそう言うと、帰る準備をしていたメリーの手が止まった。

『まぁ、共に泊まる約束をしていますものね。それじゃぁ、よろしくお願いいたします。』

『…そうね。どうせ外に出て危険な目に合うくらいだったら、この部屋に居て怪異を映していた方が有意義よね。』

そう言って、蓮子はビデオカメラを取り出す。

幽霊や怪異を映すのに絶好の機会である今、この秘封倶楽部の活動は有意義になったのだろう。

が、

蓮子の表情は、全く浮かれておらず、寧ろ恐怖に歪んでいるように見える。

おそらく、一番帰りたいのは蓮子本人なのだろう。

だが、外に出た方が危険だと悟った蓮子は、この中に居る事に決めた。

この部屋も十分危険だという事を考慮しないようにしている。

部屋の隅に居るマリヤちゃんとレイカちゃんは、そんな僕たちをじっと観察していた。






【深夜2時】

深夜を過ぎ、日を跨いでからは誰ひとりとして言葉を発していなかった。

途中までは、気分を紛らわす為にトランプやらビデオゲームをして盛り上がっていた。

が、響くラップ音や誰かが歩く音が鳴る度に無言になり、なかなかそれ以上に盛り上がらないのだ。

『………』

麻耶も、もう既に眠る時間であるにも関わらずベッドの上で体育座りをしている。

何もかも、諦めたような顔で遠くを見つめていたのだ。

『……ねぇ』

蓮子が、僕の袖を引張る。

『…前に、その楓ちゃんって人形をビデオに収めたの、覚えてる?』

そう言って、持っていたカメラの電源を入れて、映像記録を選択し再生した。

それは、最初に楓ちゃんに出会った時の映像だった。

『あの時の映像…見返してみたら、何か変なのが映ってたの。』

なぜそんな映像をこのタイミングで見せるのか分からなかったが、僕はそれを見ずにはいられなかった。



映像が映し出される。それは、まさにあの時の映像だった。

蓮子が楓ちゃんの部屋を映し、扉や台所などを見て回る。

そして、楓ちゃんの方へと移す。当然だが、テレビに映っていた人形を同じだった。

別方向へと歩み、違うアングルから人形を見ようとカメラを動かす。

その方向からでは、楓ちゃんの横顔が映し出されていた。

が、

瞬間、横顔は正面になり、こちらの方に向いていた。

向いたと思ったら、急に顔がアップされて楓ちゃんの顔しか映らなくなり

驚いた蓮子は、ビデオカメラを落としてしまった。

落とした瞬間、ノイズが現れる。

そして、そのノイズが画面を変え、別の場所が映し出されていた。

あの森林だった。

あの森林の向こうは真っ暗で、何も見えない。

だが、遠くから誰かが走ってくる。

何者かは分からないが、誰かが走ってくる。

その間、映像はずっと無音だった。

そして、走ってくる人物が見える場所まで近づくと、走ってくる人物は消えてしまった。

瞬間、

巨大な顔が、画面に埋まっていた。

その顔は、火傷の後が痛々しく、右目が焼け落ちた後であった。




バタンッ

『ひぃ!!』

急にブレーカーが落とされた。

部屋に真っ暗な漆黒と、沈黙が広がる。

瞬間、チーンとエレベーターの扉の方から音が聞こえた。

エレベーターが動いていたのだろう。扉が開かれる音も聞こえた。

沈黙というのは、遠くからの音もここまで奇麗に聞こえる物なのか。

蓮子とメリーは、ビデオカメラを回しながらも口に手を当てて静かにしていた。

麻耶は、布団の中に潜っていた。

薫子は、俯きながら何も語らない。

急に、誰かに手を掴まれた。

驚いて手を見たら、薫子が手を握っていた。

『…ごめんなさい。ちょっと、良いかしら?』

薫子の手は、汗で少し濡れていた。

やはり、家族の一員と言っても彼女は人形。それが生きているとなれば恐怖が芽生えるのだろう。

僕の手を強く握り、恐怖を必死に薄れさせようとしている。

廊下からは、足音が聞こえる。

それが人間の足音なのか、人形の足音なのか分からなかった。

誰一人として、物音を立てようとしていない。

ギシギシギシギシ…

その音が、次第にこちらに近づいてくる。

大丈夫だ。楓ちゃんは部屋に行く。

自分の部屋でも無いこんな所に行くはず無いんだ。

それに、薫子の義母が連れてきた可能性だってある。東京から京都までは遠い。

事件が起こったのは8時30分辺り。そこから徒歩でたった5時間半程度でここまでたどり着ける筈がない。

近くに薫子の義母が居る筈だ。居る筈なんだ。

そう思っている筈なのに、声が全く出なかった。

ギイィィィ…

扉が開かれる音がした。

当然、隣の部屋の扉だ。

隣の部屋でも、足音が聞こえる。

足音の他に、隣で何かがブツブツと呟いている。

一体何を喋っているだろうか、それが全く分からなかった。

身体が動かない。声が出ない。

ただ、変な汗がボタボタと零れ落ちる。

今、隣の部屋で誰かが笑った。

ガタリッ

この部屋で音がした。辺りを見渡すと、蓮子とメリーが倒れていた。

『…おい?おい?』

ゆすってみるが、起きない。

顔を確認すると、瞳孔が開いている。

呼吸はしている事から、ただの気絶だという事が分かるが、

明らかに意識を失っているようだ。

気づくと、薫子の手も力を失くしていた。

薫子の顔を伺う。目を開いたまま意識を失っていた。

何だ?何が起こっている?

何も分からぬこの状況に恐怖を隠せないまま。隣の部屋の呟き声と足音に耐える。

麻耶が、体育座りをしたまま横に倒れた。

確認をしに行きたいが、体が思うように動かない。

この部屋で、意識を失っていないのは僕だけだ。

急にテレビの電源が点いた。驚きそのテレビの画面を見てみたら、

テレビの画面には、先ほど蓮子のビデオカメラで見た巨大な顔が映し出されていた。

火傷だらけのその顔は、こちらを見つめて薄気味悪い笑顔を見せている。

映像が変わった。

僕たちが居る部屋だ。

僕たちが居る部屋が、テレビに映し出されている。

どこから撮影しているのか、カメラが設置されているであろう場所に顔を動かした。

そこには、マリヤちゃんとレイカちゃんが僕たちをじっと見つめていた。

BGMが流れた。誰か分からない、低い男性が歌ったかのような声で”はないちもんめ”を歌っている。

音量は、低めに設定してある筈なのに、かなりの大音量で”はないちもんめ”が流れている。

画面が切り替わった。今度はビルの外から僕の部屋を映している。

あり得ない。ここは23階だ。まるで宙に浮いて撮影しているかのように僕たちを映している。

外に、誰か居るのだろうか。そんな筈が無いだろう。

僕は、窓の外を見るために首を動かす。


首を伸ばした楓ちゃんが、窓の外から僕たちを覗き見ていた。

そこで、僕の意識は失われたのだった。






【翌日】

目を覚ますと、いつの間にか眠っていたようで

寝ぼけていた薫子に抱きつかれている形で目を覚ました。

薫子を引き剥がし、目をこすりながら上半身を起こした蓮子が立ち上がる。

『あれ?いつの間に寝てたかしら』

蓮子はそう言って、あくびをする。

そうだ、僕たちはいつの間にか眠ってしまったのでは無いか。

結局、あの人形はどうなったのだろう。と、少し好奇心が湧き出てくる。

僕はひとまず立ち上がり、この部屋から出てみる事にした。



廊下の所々に、血の足跡が付着している。

その血の足跡が、エレベーターから楓ちゃんの部屋まで続いていた。

『……マジかよ。』

これは、本当にあの人形が生きているかもしれない疑惑が持ち上がった。




『あら、おはよう沙耶香のお友達ちゃん。』

部屋の中では、薫子の義母が人形の世話をしていた。

部屋に付着している血をアルコールで拭き取りをしている。

『いやね、徹夜で探したんだけど、楓ちゃん見つからなかったの。でも、ちゃんと帰ってきてたなんてねぇ。私に報告して来ても良いのに。』

なんて事を笑顔で言いながら血を拭き取っている。

まるで、楓ちゃんが殺した人間の事と過去の事はどうでも良いかのような言い草だ。

『でも、ちゃんと帰ってこれて良かったわ。もう誰にも渡さないからね。ずっとここに居てね楓ちゃん。』

薫子の義母がそう言いながら、壁に付着している血を拭き取っている。

とりあえず、邪魔したら悪いと思い僕は隣の部屋に戻ることにした。

『あ、ちょっと待って。』

薫子の義母に呼び止められた。そして彼女は、僕にくしを渡した。

『楓ちゃんの髪の毛解かしてくれない?』

くしを受け取った後、僕はしばらく動けなかった。

『楓ちゃん、貴方の事が気に入ってるみたい。貴方が髪を解かしてくれたら、きっと喜んでくれるわ。』

前にも、この人の娘さんに同じ事を言われた。

何か、昨日…いや、今日の深夜に何かを見たような気がするのだが、何も思い出せない。

何か恐ろしい物を見て、何か引っ張られるような感覚があった気がするのだが、全く思い出せないのだ。

一体、どうして僕はあのまま寝てしまったのだろうか。いつの間にあの人形はこの部屋に帰って来たのだろうか。

どちらにせよ、僕に拒否権が無いのは明らかだ。僕は心の中で観念して楓ちゃんの髪を解くことにした。

そもそも、劇団に使われた後からこの家に来る前は何があったのかは分からないが、この家に来た時からテレビ局に連れて行かれるまでは、何も起こらなかったと思われる。

薫子からも、この人形に何かされた訳でもない。別にこの人形にずっと悩まされていたようにも思えない。

つまり、人形はこの場所を自分の居場所だと思っていて

引き取ってくれたこの家族に少なからず懐いているはずだ。

この家、そしてこの部屋に居る限り、この人形は誰に対して害する事は無い筈。無い筈だ。

現に今、僕は彼女の髪を解いているが何も起こらないじゃないか。

しかし、ついこの間まではサラサラしていたのに、今は多少乱れが感じる。

奇麗に解かすまで、前回よりも時間がかかりそうだった。

『あらあら、楓ちゃんも凄く喜んでるわ。貴方、楓ちゃんのお婿さんになるのも良いかもしれないわね。』

その言葉を聞いて、僕は一瞬手が止まった。

この人形と共に過ごす事を想像してしまったのだ。一瞬だが鳥肌が立ってしまった。

この人形に漂う妖気は、いや霊気だろうか。どちらにせよ、テレビの人が言ったように多くの人間がひしめき合っているのが感じられる。

そんな人形と共に過ごすという事は、この人形に取り込まれるという事だ。

それに、あのホラー漫画家は最低でも20人と言っていたが、

明らかに20人以上もしくは数倍以上の人間が入っているように思える。

人間も、魂は一つでは無いという事をどこかで聞いた事があるように思える。

複数の魂がひしめき合って、人間の精神は成り立っているという事を、どこかで聞いた気がした。

つまりは、この人形は人間になろうとしているのだろうか。

多くの人間の魂を奪い、人間として生きようとしているのだろうか。

人は、魂が複数も持っている人形を”生き人形”と言う。

『お人形さんも生きているんだから、ちゃんとおめかししないと恥ずかしいわよね。』

薫子の義母は、化粧箱を開き 生き人形 に化粧を施していた。





〜蛇足〜

あの以前話題になった謎のノイズが発生した放送事故

その事故以上に大規模となり、死者や重傷者を生み出した放送事故が発生したその後日。

全くと言って良い程、その事件の概要はニュースにもメディアにも放送されていなかった。

まるで、あの事件を”無かった事に”しようとしているように思える。

だが、あれだけ大きな事故が生放送で放送されたのだ。当然ネットではお祭りのようになっている。

真実である証拠も揃っている為、巨大掲示板やネットニュースではその話題で持ちきりだ。

<あれだけの大事故なのに、テレビ局だんまりwww>

<いや、あの司会者本当に死んだんだろ?受け持ってた番組どうなんの?教えてエロい人>

<↑大丈夫だよ坊や。それはとってもエロエロな番組に代わるから。>

<あの人形、どこで見つけた所なのかソースくれくれ>

割と本気で議論している中で、中々ふざけた事を書き込んでいる奴も多い。人が多い証拠だ。

その中で、少し興味深い書き込みを見つけた。

<途中現れた焼身自殺の映像の女さ、中学時代にいじめられていた奴に似てたんだけど。何か、どう見ても頭がおかしくて、人形の頭ばかり集めてる奴だったから、クラス皆で虐めてたのを思い出した。>

<実を言うと、俺も一緒になって虐めてたんだよ。どうしよう、結婚して子供も居るのに、何か変な事起こって欲しくねぇ>

その書き込みが本当の事かどうかは分からない。

それに、もう何が真実なのか僕にも分からない。

僕もあれ以来、何か僕の中で欠けているように感じられて気分が悪いのだ。

何か、足りない気がする。

そう、感じさせながら僕は別の掲示板のスレを開いた。




〜蛇足2〜

これは、今も私の家にある人形の話なんだけども、テレビにも出た人形だから、多分写真を見たら大体の人が知っていると思うわ。

テレビに出た後にね、しばらくして霊能力者が訪れてきたの。

なんでも、『あの人形は生きています。生きていてはいけない者が生きています。』って、言ってたわけなのね。

そんな事言うわけだから、勿論お母さん怒っちゃったんだけど、

その人形を調べるって聞かなくて、お坊さんそのお人形さんの部屋に行っちゃったのよね。

そして、そこでお経を唱えたりお札を貼ったりしていたんだけど、しばらく経っても何も起こらなかったのよ。

でも、霊能力者だけが汗をだらだら流して。人形さんにお経を唱えていたのね。

お経を唱え続けたんだけど、しばらくして霊能力者が黙り込んだの。

『どうしたんですか?』って声をかけて顔をのぞいてみたら

目から血を流していたのよ。それも尋常じゃない量の。

口からも血が流れ出ていて、顔のパーツが赤く潰れてるみたいになったのね。

さすがに普通じゃ無いことに気づいたから、救急車を呼んだの。

それで医者が言うには、あの霊能力者さん。脳みそと目の他に内臓が溶けかかっていたのね。

もう少し遅かったら、死んでしまっていたって言っていたけど、もう霊能力者さんは溶けたままだから目も見えないし記憶も知力も無い。

食べ物も点滴からしか食べられないし、お酒も飲めない身体になっちゃったのね。

そして、家に帰ってその人形を見てみようと中を見たら、お母さんが笑いながら人形の髪を解かしていたの。


僕たちは今、百物語をしている。

今度は、長谷田も駒田も桐谷も一緒だ。

それに場所も同じ、僕の部屋で行われている。

だからどうして僕の部屋で百物語をするのか分からない。僕にとってはそれがホラーだった。

長谷田は、少し退屈そうに話を聞いていき、自分が話す番になると活き活きして話をする。

駒田は僕の布団に包りながら震えて話を聞いている。自分が話す番になると絵本で呼んだことある怖い話を出してくる。

桐谷は、何も言わずにずっと聞いている。話す番になっても話そうとしなかった。

あれ以来、蓮子とメリーと麻耶は、何事も無かったかのように生活している。

何か、忘れているような気がすると言いながらも、楽しく生活をしている。

今も、メリーは柿の種をゆっくりと食べながら話を聞いており、

蓮子もワクワクしながらビデオカメラを準備していて、

麻耶は何もせず、一人で本を読んでいた。

見た目はいつも通りの彼女たち、

だが、

蓮子とメリーと薫子と、そして麻耶も

何かが足りないような気がしてならないのだ。

今、この場に居るのは確かに蓮子とメリー、麻耶と薫子。

それは間違いないのだが、

どこか足りないという違和感をひしひしと感じながら、微妙な感じな空気が流れる。

一体、何が足りないのか、まだ分からぬまま

僕たちは、百物語を続けていった…。



〜蛇足3〜

蓮子が、ビデオカメラの中に変な映像が映っていると言っていた。

見てみると、薫子の部屋に泊まった時の映像だった。

だが、僕を膝枕しているこの女性は誰だろうか。

女性が何かを歌っているのも分かる。この歌は”はないちもんめ”だ。

なぜ、僕を膝枕して”はないちもんめ”を歌っているのか分からないが、この女性はどこか見覚えがあるかのように思えた。

そして、女性は次第にカメラの方へと顔を向け、

カメラの方をしばらく凝視したら、画面がノイズで歪み、歌が悲鳴のような声に変わった。

ノイズが止むと、女性の首は無くなっていて

しばらくすると、画面右上から首が降ってきて

そこでフリーズし、映像は終わっていた。




<そういえば薫子メインヒロインの話って無かったな>
そんな思いで作られた今作です。
今回も、いつもと違った作風で話を進めてみたので、主人公勢の活躍はあまりありませんでしたね。

では、また次回がありましたらお会いしましょう。
ND
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2014/08/17 12:30:54
更新日時:
2014/08/17 21:30:54
評価:
3/3
POINT:
300
Rate:
16.25
分類
森近霖之助
宇佐見蓮子
マエリベリー・ハーン
洒落怖
生き人形
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POINT
1. 100 名無し ■2014/08/18 11:51:01
久しぶりに読んでて怖くなる文章を見ました。
薫子さんは顔が無くなってしまったのかな、皆の記憶からか、物理的にか。
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2014/08/20 02:39:31
捕食――活動に必要なエネルギーの摂取行動をとるものは、確かに生きていると言えなくもありませんね……。
永遠に完成はしないであろうジグソーパズルのピースは恐怖という名のSOSを発信する……。
平穏無事に一生を送りたかったら、ちょっと足りないぐらいがよろしい。
ほら、よく言うでしょ。『腹八分目に医者要らず』ってね。食べ物に釣られると後悔するよ☆
3. 100 名無し ■2014/08/23 01:25:10
今までで一番怖かった話でした…。
原作も相当怖い話だったのですが、張れるくらい怖かった…
次回も、これ程のクオリティ高い話期待しています!
名前 メール
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