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『スタア誕生』 作者: ISYS
◇
人が全然集まらないね。それじゃあちょっと変わったことでもやっとくか。
さぁさ皆さんお立会い、私の因縁聞かそうか。生まれも育ちも地の底で、ガタゴト屍体に子守歌。
自由気ままな火車猫も、今じゃ主にご奉公。主はなにやら故ありて、幻想郷でも憎まれ者、押し込まれたるは地の底だ。
さてお立会い、手前ここで話すのはとある女のお話だ。それが何か関係あるかって?
おっ、そこのお兄さん戻るのはちょいとまっとくれ。あんただよ、そうそこのあんたしか居ないじゃないか。
ハハァーン、見たところお兄さん焦らされるのが嫌いだね?
女かい、何も言わずにすぐに出来る女が欲しいならあたいんとこおいでやし。死んだばかりの女の骸ならそこらにあるよ。より取り見取りの大放出。
それじゃあ嫌。ならば御用とお急ぎで無いなら、ゆっくりと聞いておいで、見ておいで。前座も後座もあたいだけ。
それでも聞いてくれたらとびきりの物をお渡しするよ。
さてお立ち会い、お立ち会い。
◇
暦はとうの昔に春の訪れを告げていたけれど、旧地獄に吹き付ける風は冷たくてさ、
ぽかぽか陽気で寝転ぶまで後何日かかることやらなんて考えて居た時分のことでね。
いつも通り地上で行き倒れの屍体を猫車に押し込んでからまた地下深くへと戻っていく。いつも通りのなぁんてこと無いただの一日だった。
ただの一日でも、ちょいと気がつくことがあれば特別な一日に変わることもある。
たとえば自分がこの地霊殿に拾われたのもこんな風の冷たい日だったことをふと思い出した時だとか。
さとりさまがお与えくれた暖かいご飯と毛布と愛情がなければ、あたいもそこらで生き倒れていただろうね。感謝感謝。
さてちょっと嬉しくなったらぴょんぴょん跳ねるお下げを揺らして玄関前の高い石段を上り終えて。
落着いた足どりでさとり様のもとへと行くのさ。片付けが思いの外長引いたことを主にわびてから夕食の準備に取り掛かろうと考えていたとき、ちょっと変わったことが起きたんだ。
「お燐、ちょっと良いかしら?」
急に後ろから声が掛かったもんだから思わずびっくりしてしっぽがぴぃんと伸びた。
後ろには主が立ってた。
「何でしょうか?」
「ちょっと大事なお話だから、部屋で話しましょう」
普段は柔らかなさとり様の目がいつもより険しい。これは何か有ったなと、あたいは背筋を伸ばした。
あたいの主は古明地さとり。そうあの地霊殿の主さ。言わなくても分かるだろうけれど主は嫌われてる。
だからその時のことを思い出すんだろうね。時折さとり様は怒っているんだ。いつもは眉一つ動かさないようなさとり様が時折わなわなと怒りに震えてるんだ。
と言うよりも怒りすぎて無反応なのが、ちょいと弱まったときにそれが表に現れるんだ。
はじめは静かに、だんだんと強く、そして最後にはなにかわめき立ててる。今だから話せることだけどきっと昔の事を思い出してるんだろうね。辛かったと思う。
まぁともかく、その時は呼び出されて、近くの部屋へと向かった。大きな机に腰掛けた主は、開口一番こう言った。
「可愛い子を連れてきなさい」
静かにしていれば負けず劣らず可愛いさとり様がこんな事を言うなんてね。あたいもびっくりさ。
「どうされました? あたい達のかわいさじゃ満足できなくなりました?」
「そうねぇあの大妖精を此処まで連れてきなさい」
人の話なんてきいちゃ居ない。それに私がやれば人さらいみたいになっちゃうだろう。
その上、あの大妖精か。弾幕勝負なんていう回りくどい戦いをしなければただの妖精だ。
弱い者は食われる、それが嫌だなと思った。だけどさとり様はとても不機嫌そうな表情でこういった。
「お燐。あなたに拒否権はないのよ」
その時のさとり様の表情はとてつもなく暗くて、背中に嫌な汗をかいたくらいだ。断れるはずもないだろう。命の恩人なんだから。
「これは復讐なんだから」
「商品にしちゃうんですか?」
「そうね」
「そうですか」
商品って言うのは、まぁつまりお兄さんが地底に来てまで求めたがってるそれにしちゃうって事でさ。
まぁつまり攫ってくるわけ。それも無関係で弱い奴からね。
正しくない? おにいさん、復讐に正しさを求めるなんてそりゃあんた、筋違いってもんさ。やられたからやり返す。それだけだろう?
欲に塗れた所行を美談にしたがるのは、悪い事じゃないけどね。それはそれで幸せだと思う。正しいとか間違いとか以前の純粋な憤り。そして自分は無関係だと言い切りたいんだろう。
◇
猫車を押して地上への穴を昇っていく。途中で立ち止まり、やるべき事を頭の中で整理する。さとり様の元へ、あの妖精を連れて行けばいい。
それにしてもお日様の光が上にあるって言うのは慣れないね。地底じゃ行灯の光がぼつぼつ地面にあるだけだからさ。
世界がひっくり返ったような気がするよ、話がそれたね。うーんと背中を伸ばせば猫の姿になってその辺りでごろごろしたいくらい良い場所ってことさ。
その大妖精って言う奴は湖の辺りにいるだろうと、その辺の妖怪に聞いて、一度わき水で喉を潤してから歩いていったのさ。
私が見かけた時、その子は花畑の中で一人花束を作っていたよ。楽しいはずなのにどこか寂しそうだったからさ、話しかけるのは簡単だったよ。
「良い天気だねぇ」
「そうですね、本当に良い天気です」
空の明るさにまけないくらいの明るい声色で話しかけられた。耳が二つ、くりくりとした目も二つ私をのぞき込む。
「えっと、どちら様でしたっけ」
「ああ、あたいの名前はお燐とでも呼んでおくれ、あんたは大妖精っていうんだっけ?」
「そうです」
予想通り、その子は花束を地面に置いて私の話に耳を傾けていた。
「なぁんか物足りなさそうな顔してよ。こんなにお日様は明るくて、空気もヒバリの音色も澄み切って綺麗なのに、どうしたんだい?」
私の問いかけにぴくりと眉を動かして返事をするお嬢さん。
「そのお燐さんはなにをしているんですか?」
「表情だけじゃなく中身も堅そうだねぇ。参ったなこりゃ。いや、当てのない人捜しをしている最中なのさ」
「当てのない人捜し?」
その言葉を聞いてその子はちょっとだけ心を許してくれたみたいだった。
「うん、そう、具体的にはちょっとこれから輝きそうな可愛い子をさがしているのさ」
「輝きそう?」
「うん、そう。見たところあんたは可愛い。だけどこれからもっと可愛くなるよ。歌の練習とかしたら、みんなから一目置かれる存在になるかもしれないね。話しぶりも丁寧で誰からも好かれそうだ。あんた友だちが多そうだね」
「そんな事。無いんです」
「ありゃそれは意外だねぇ。どうしてあんたみたいな女の子がひとりなんだい?」
「その、上手く言えないけれど、多分私に余り取り柄がないから。チルノちゃんみたいに何か特技があればいいんですけれど」
「へぇそうなんだ。うん。分かった。あたいがあんたを特別にしてあげるよ」
「そんなこと出来るんですか?」
「もちろん。今は地霊殿ではそういうスターを集めてるんだ」
「すたー?」
「そう、辺りを輝かせることが出来る。特別な存在だよ。それになれればあんたもきっと特別な存在になって、周りから一目置かれる存在になるよ」
まぁそんな話は適当に作った話だけど、その子はチルノちゃんがだとか誰それ某がどうとか言って、分かりましたと頷いたんだ。
「私も、スターになります」
「それはいい、それじゃあ、また今度呼びにくるからさ、とびきり綺麗な洋服を準備しとくんだよ」
「はい、といっても私これくらいしか無くって」
「うん、それならあたいが用意するからさ、とにかく明日にでも迎えにくるからよろしくね」
「はい」
その日はお開きになったのさ。
4
次の日からはその子を連れてきてプロデューサーさんと呼ばせることにした、プロデューサーさんのいう事を聞いたら何でも夢に近づくってね。
その子はみんなに褒められたかったんだろう、それだけの為に頑張るために少ない荷物と、沢山の希望を胸にやって来たんだ。
信じて歩み出すシンデレラストーリー。そんなもの無いよ。全ての道はローマに続く、地底だと地獄へと続くのにね。少女は良いもんさ。
さて売り物にするには何か特技が必要になる。その子、歌を歌いたかったらしいんだよ、案外上手でね。歌わせてみたら仲間もみんな頷いて聞き入ってたよ。
静かな歌。夜雀みたいに上手じゃないけれど、やさしい歌。
まぁそんな奴掃いて捨てるほどいるんだけれど、実際耳にしてみると聞き入っちゃうんだよね、不思議なもんだね。
LPにさ女の子の写真が付いてるのが地上じゃ人気なんだろう? 馬鹿売れだって聞くよ。
あたい知ってるんだ。地上じゃ子供が虫を標本で集めるみたいに、こういう女の子の写真を集めてるんだろう?
大人が大金はたいて子供が股開いた写真に向かって「貢いでる」なんて言いながらさ、同じ写真が出たら捨てるんだろう?
そいつらが欲しいのはこの子達が必死に歌う歌でもなく、その子の笑顔でもなく、たくさん集まった写真を見せびらかす自分なんだろう。
人の噂も七十五日、人の愛なら、二年もあれば十分。だけど自分を愛することに関しては期間は関係ない。だから女の子はおまけ。図鑑が本分、女の子がシンデレラになるストーリーはおまけのおまけ。
怒っちゃやーよ。
お兄さんは何も悪いことしてないんだ。お兄さんみたいなお客さんのおかげで、あたいらはおまんまにありつけるんだからね。
あの子はそういう意味では「スター」だね。あたいに元気をくれる。もちろん歌や踊りじゃ腹を満たせないからこうして道ばたで売ってるんだけどね。
話がそれたね。
その子が来て半年ほど経ったときかな、一通りお偉いさんへの挨拶が終わったから、そろそろライブでもしようって事になってさ、
その子一生懸命練習してたよ。そうそう。もしあんたに恨んでいる人が居たら、あたいに教えなよ。
その娘の狂った姿を写真にしてお返しするからな。やり方は簡単さ。
才能が無いのに「あんたは天才だ、その道で行くべきだっ」って言ってやればいいのさ。
みずみずしい時間を賽の河原で石を積むことに費やしてもらう。何とも贅沢じゃないか。
取り返しの付かない時間を捨てて、堀った穴を埋めていくようなくだらないことを繰り返させていくうちにそいつは穴を掘って埋めることしか出来なくなる。
でもみんな望んでやってることなのさ。そう、みんな好意から駄目になっていくのさ、何が大事か、何が正しいか、何を成すべきかなんて忘れてそのくだらない嘘みたいなものにすがってしまうんだよ。そして溺れていく、その子もそうだった。
「プロデューサーさんの応援を無駄にしない」ってね、張り切ってた。どんな場所で、何が起きるのか分からないのに、毎日マイクに向かってね、歌ってた。
毎日その子と話したよ。
何がしたいか、あなたならどこかの湯女にするにはもったいない。歌もいい。ちょっとお色気路線で行くかい? それとも朝日のようなすがすがしいキャラで行くかい?
沢山選んでもらったんだ。真剣に悩んで、あの子は爽やかに歌うことに決めた。
しばらくするとその子に歌に集中するように地底に住むように行ったよ、何せそれまで通い詰めだったからね。
そしてその子は居なくなったという事にした。というか、地上じゃ妖精の一匹や二匹が居なくなったって誰も探しやしないよ。死んだってどこからか湧いてくるんだからね。
その子は一人で歌を真面目に歌ってる。それを見て褒めて、適当にその辺で歌って貰う。
まばらな拍手でもその子にとっては何万人からも褒められたような気分がするものさ。賞賛なんてただの拍手。
それ以上でも以下でも無いのにね。そんな風にかんがえられないほどその子は歌にのめり込んでいった。
何回かやるうちにね、いろんな人がその子を褒めるようになった。でもそれはみんなこっちが準備した奴らでさ、本当に聞いてる奴なんて誰一人居ないんだ。
こどもは良いね。純粋だ。だからこんな地底で人が集まるわけ何て無いのにリサイタルが出来そうだと言ったらその子、飛び上がるほど喜んでたよ。
「一緒に歌おう、最高の舞台を用意したんだ」
「プロデューサーさん!! ありがとう」
その子は朝日のように、明るい歌を歌うつもりだった、曲も何曲か準備した。衣装だって綺麗なものをいくらか作ってきたよ。
それからその子をライブの場所に連れて行ったんだ。地下の部屋に向かうのにその子は喜んでたよ。
暗い廊下を歩いてく最中でもその子は色々尋ねてきたよ。LPになるのか、ならないのか。いろんな人に配りたいなって。
その部屋についた。
「あんた、ここからは私は入れないんだ、取り敢えず中にいる奴の言葉通りにしなよ」
そして扉を閉じた。外から鍵を閉めて、後は帰って行ったよ。あとはさ、言わなくても分かるよね。まあそういうことだよ。
悲鳴が聞こえて、それから諦めるような声がして、何枚か写真を撮る音が聞こえた。
みんな、流れ星にお祈りするよね。でも一番祈っているのは間違いなく、流れ星だろうね。
◇
あんたもここに来るまでに何人か見ただろう? この地底には似合わない、大人しく、綺麗でお日様の香りがする女の子達をさ。
あの子達もそのうち選べるようになるよ、近いうちに、きっと。みんな消えてしまうよ。跡形も無く。誰にも看取られることなく。
そうそう、このテープあげるよ。その子の新作だよ、ごつい男三人に犯される奴でさ、ケツ穴に溢れるほど精液をぶち込んでる奴だよ。
あたいが一番好きなシーンはね、後ろから犯されながら、その子が歌を精一杯歌ってる所だよ。
プロデューサーさん、プロデューサーさん。ねぇ聞いてくださいってね。
夢が叶ったのかどうかはあたいは知らないけれどその子は歌ってる。歌うことで自分を保ってる。
必死に夢にすがる姿って楽しいよね、必死な奴は何をやらせても面白いのさ、それがどれほど場違いでも滑稽で笑えるよ。
あたいはそういう姿が好きなんだ。
あたいは死体が好きでねぇ、死体に近づいたその子が歌を歌うとほんの少し生気がもどる、そのときに出てくる歌声は格別さ。
歌われながら犯される写真、あげるよ、ほら夢見心地って趣だろう?
何も考えちゃいけない。そう、そううん、その調子だ
そうそう。
半年もすればその妖精も駄目になった。使い物にならないんだよ。うんともすんとも言わない。狭い四畳半に押し込められて、ぼうっとしてる。
涙も涸れちゃったんだろう。
見てられなくてね。思わず声を掛けちゃったよ。扉が開いても無反応さ、その子の前にしゃがんで、一人で話したんだ。
「女衒のまねごとを始めた訳じゃ無いんだ。これは地上へのささやかな復讐さ。
あんたが出ている写真をばらまく。それだけで地上のハクタクだとかは顔を青ざめるだろう。とさとり様は考えてる。」
あたいは部屋の入り口にカミソリを置いた。
「そこにカミソリが置いてある、とても苦しくなったときは
それで手首を切ると良い。それは男の人が抜くのと同じで気持ちが良いんだって。
男の人は白くて女の人が赤いだけの話だってさ。おかしいよね」
その子は何も言わなかったよ。
「それでも寂しかったら、私の腕の中で眠りなよ。寝てる姿のビデオは撮らないから。じゃあね」
その子があたいの腕の中で寝ることは無かったんだけどね、あの子は光ってなんかいない。光らされてただけよ。
あたいが不思議な奴だって? 私の半分は優しさで、半分は憎しみで出来てるからね。そうさ。そういうもんだから。
話が長くなっちゃったね。ほら、この写真なんてあんた好きだろう?
要らない?
お兄さん、ちょいと見ておくれよ、ほら、見せたげるっ!
見えたかい? スカートの中? えっちだねぇ。でももっと楽しいエッチな物もあるよ。
ほら、これなんて犬に犯されてるよ、楽しいだろう?
さて、お兄さん、お話を聞いてくれたみたいだね。それじゃあその女の子の写真を受け取って貰おうか。お代は結構だよ。
そのうち捨てられる物をあげてお金をもらうのはなんだかいい気がしないからね。
あんたにあげた写真はいずれ大掃除の時にでも捨てられるだろう。それで良いのさ。人は最後は朽ちて死ぬんだ。墓石すらも耕され、いつしか消えていくんだよ。それが理なのさ。
新しいのが欲しいなら、またおいで。いつでも。がま口の財布を開いてくれたら、私はいくらでも楽しいお話をしてあげるよ。
そう、別にこれは間違っちゃ居ないんだよ。
はは、何てね。説教くさくなっちゃった。お詫びにこれをあげるよ。
また気に入ったら私のところまで来ておくれ。とびきりの奴をお渡しするよ。
それとも、あたいを買ってみる? 高いけれどね。
それじゃ、またね、お兄さん。
楽しんでね。
青い果実は美味しいから、きっとやみつきになるよ、それじゃあ。
- 作品情報
- 作品集:
- 11
- 投稿日時:
- 2014/09/01 12:53:27
- 更新日時:
- 2014/09/01 22:12:17
- 評価:
- 3/7
- POINT:
- 420
- Rate:
- 11.13
- 分類
- 火焔猫燐
- 大妖精
次回、大ちゃんが受けた以上の汚辱を以って、星屑の如く一瞬だけ光り輝くスタァになるように地霊殿の連中をプロデュースっ!!
Yシャツネクタイ、グラサンにピコハン姿の紫が、チルノや異変解決人達を引き連れて面白おかしく報復する続編を希望!!