薄汚れたノートのページに、一人の人間の名前が書かれていた。
「行ってみるがいいさ、運がよきゃ、とんでもねぇ奴がノートを拾って、一生忘れられねぇ、おもしれぇ物が見れるだろうよ」
死神リュークはそんな事を呟きながら、下界へと続く階段を降りていく、一人の死神を見送った。
「ヘヘッ、そうだろ…?なあ、ライト」
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_____________夜神月_________________________________________________________________________
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薄汚れたノートのページに書かれている、一人の人間の名前を懐かしみながら呟いた……。
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「ふぅー、今日も寺子屋楽しかったなー。早く帰って宿題しなきゃ。チルノちゃん、みたいに毎回頭突きかまされるのやだし」
飛べば早いものだが、大妖精は寺子屋帰りはスキップしながら帰路につくというのを日課にしていた。
「んん?なんだろう…これ…」
ふと足元を見ると、道端に黒い帳面が落ちていた。表紙には外の世界の文字……慧音先生は、英語という外の世界の言語だと紹介していたもので、"DEATH NOTE"と書かれていた。
「であ…のて?うーん、英語とかは、よく知らないんだよなぁ」
その帳面を拾った大妖精は早速何が書かれているかを拝見した。
しかし、帳面の紙面には、文字ひとつ書かれていない白紙。 持ち主の名前らしきものはどこにもなく、代わりに、裏表紙に、何かの説明文とも取れる、外の世界の文字で書かれた長文があった。
日頃から妖精にしては勤勉だった大妖精は、小一時間、道端で黒帳面と睨み合ったが、頭が痛くなるだけで何もわからなかった。
「誰かの落とし物かな?でも名前書いてないし…」
寺子屋のクラスメイトの誰かが、帰る途中に落としたかも知れない。
しかし、帳面にしては紙質が良く、書く所は縦書ではなく横書きで、大妖精や他の寺子屋の生徒が使っている帳面よりも、明らかに精巧な作りをしていた。
高級品なのだろうか? もし寺子屋の誰かの物であるなら、確実に目を引く事は確かだ。
少なくとも私が知る限りでは、寺子屋にこの物珍しい、精巧な作りの黒帳面を机の上に出している人は見たことがない。
そもそも、そんな目に付く物を持っていたら、大妖精の日記帳の様に破かれるか、奪われるかのどちらかしかない。
大妖精は前者だった。チルノとリリー・ブラックが帳面を忘れ、大妖精の日記帳を自分の帳面の代わりにしようとしたのだ。
慧音先生に頭突されるよりも前に、対策を打たなければと頭を捻っていた二人が、ほぼ同時に目をつけたのが、たまたま私の机に出されていた日記帳。
大妖精はたまたま、普段使う帳面と一緒に持って来てしまったのだ。
チルノは有無を言わず、「大ちゃん!それ貸して!」と言うのと同時に、大妖精の日記帳を取り上げた。しかし、その日記帳の所有権は他の者に渡った。
「一番最初に貸してもらうのは私よ!」
それからは言うまでもない。日記帳は氷妖精と春妖精に上下左右、あらゆる方向に引っ張られ、ついには破けてしまった。
大妖精は泣いた。チルノとリリー・ブラックは、大妖精の泣き声聞きつけた寺子屋の教師であり、半人半獣の人里の守護神、上白沢慧音に頭を頭突かれて失神した。
「そう言えば、丁度、ブラックちゃんとチルノちゃんに日記帳破かれちゃったし、もらっとこ♪」
きっと、これは早めのクリスマスプレゼントだと思う事にした大妖精は、迷わずこの帳面を、日記帳第二号にする事にした。
もし、持ち主を名乗り出てくる人が居たら返そう。そして、居なかったら貰っておこう。
そんな事を考えながら、帳面を抱きかかえ、再び帰路を歩き出した。
█
「ふー、漢字プリントやっと終わったー!! 晩御飯にする前に、日記でも書こっと」
苦行を乗り越えた大妖精は背伸びをし、帰り道で拾った黒帳面を鞄から取り出した。
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___5がつ_7か_かよう__はれ_____________________________________________________
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_きょうはリリー・ブラックちゃんとチルノちゃんがノートを忘れて、私のにっきちょうをとり合った。_____
にっきちょうは二人に引っぱられ、やぶれちゃった。でもかえりみちで、くろいちょうめんをひろいました。
なので代わりのにっきちょうとしてつかうことにしようとおもいます。___________________________
でも、かえしてほしいというひとがなのりでたら、かえそうとおもいます。________________________
でもなのりでるひとがいなかったら、そのままあたらしいにっきちょうとして、使おうとおもいます。_____
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平仮名だらけだが、妖精にしてはとても小奇麗な字で、今日、日記帳を二人に破られた事。道端で、この黒帳面を拾った時の情景を丁寧に思い返しながら、書き込んだ。
日記を書き終わり、胸の内がスッとした大妖精は、お腹も空いたので晩御飯にする為、部屋を出た。
机の上には、帳面が開かれたまま置かれていた。
█
-リリー姉妹宅-
「今日は新しいメニューですよー♪」
「わぁーっ、いい香り! それにおいしいわ!!」
ホワイトの贅を尽くした新メニューを、ブラックはガツガツとテーブルクロスを汚しながら行儀悪く貪っていた。
「うっ!!」
よく噛まずにパクパク食べ、喉を詰まらせたのか、ブラックは顔を引き攣らせた。
「あーもう、言ったじゃない。ガツガツ食べたら喉を詰まらせますよーって…」
「」
ブラックはそのまま白目を向き、椅子ごと倒れた。
「ブラック!?」
揺すったが起きない。喉を詰まらせれば妖精だって苦しいが、意識を失うまではいかない。
ホワイトは顔が青ざめ切るよりも前に、ブラックを背負って、窓をぶち破り、夜空へと飛んだ。
行き先は永遠亭。迷いの竹林に佇む、幻想郷一の医療機関である。
█
-チルノ宅-
リリー家に異変が起きた時と同じ頃。
チルノは、冬の精霊、レティ・ホワイトロックと晩御飯を共にしていた。
「それでねー、リリーの奴が力いっぱいに引っ張ったから大ちゃんの日記帳が━━うがっ」
「チルノ!」
チルノは突然、胸に強い痛みを感じた。そしてそのまま、晩御飯に顔を垂直に突っ伏す様に倒れる。
「チルノ? ち、チルノ!どうしたの!? 返事しなさい。チルノ!」
チルノは苦痛に顔を歪め、泡を吹いていたが、少しの間痙攣したかと思うと、そのまま動かなくなった。
妖精は死んでも一回休みの様なもので、しばらくすればまた復活するが 、何の前触れもなく突然死に至るのは余りにも異常だった。
私はチルノを抱え、竹林の薬師の元へと全速力で向かった。月の頭脳なら何とかしてくれるかも知れない。そんな楽観的な事を考えても不安で不安で仕方がなかった。
█
-翌日・寺子屋-
「おはよー、ルーミア」
「おはようなのだーっ!!」
明るい笑顔で授業の準備をするルーミアに挨拶を交わし、大妖精が席に着くのと同時に、教室の引戸が乱暴に開かれた。
頭を下向きに傾け、類人猿の様な姿勢で今にもそのまま膝が着きそうな覚束ない足取りで、慧音は教卓まで辿り着いた。
「みんな大事な話がある。席についてくれ。みんなはまだ知らないと思うが……」
慧音は顔面蒼白で教室を戦慄させる次の一言を言った。
「昨日、チルノとリリー・ブラックが病気で倒れて永遠亭に運ばれた…。詳しい事は、まだわからないが二人共心臓が止まって、意識不明の重体らしい…」
「教室のべちゃくちゃと喋るざわめきが一瞬途絶えたかと思うと、再びざわめき始めた。
えっ…?」
「せ、せんせー…。ち、チルノとブラックが倒れたって一体何が?」
「今、永遠亭が総力を上げて二人を治療している。だからみんなも、二人が一日でも早く寺子屋に復帰するように祈ってくれ」
「……今日は、先生は永遠亭のお医者さんとお話があるから、漢字ドリルか、算数ドリルでの自習とする。
先生が居ないからといって、騒いだり、サボってたり、答えを写し合ったりしたら、頭突きかますからなー。皆、真面目にやれよ」
そう言って、教室のざわめきから逃げるように、足早に教室を立ち去った。
「本当に病気なのかなぁ〜。二人共、昨日は喧嘩するぐらい元気だったのに…」
ルーミアもなのかー口調をやめてしまうくらいに落ち込んでいた。
バカルテットのメンツでお馴染みのミスティアも、リグルも、チルノ達が倒れたという事実をまだ飲み込めていないのか、考えたくないのかはわからないが、ルーミアと同様に、顔から笑顔は消えていた。
一方、大妖精は彼女達と同じく、落ち込んではいたが、いやに落ち着きがなく、左足を貧乏揺りしながら、気を逸そうとしていた。
昨日まであんなにはしゃいでたチルノちゃんと、ブラックちゃんが?な…なんで?
昨日の事が脳裏に駆け巡る中、ふと道端で拾った黒い帳面が思い浮かんだ。
何故、今、この時に黒い帳面の事を思い浮かべたかは、大妖精自身にもわかからなかった。
█
-職員室・客室-
「鈴仙さん、二人の容態は…?」
「す、すいません!」
慧音が一言言い終えたと同時に、美しい背中のラインが相手の慈悲を誘うという、日本伝統の謝罪形式の土下座を、鈴仙は行った。
「 さ…最善を尽くしましたが………。運び込まれた時には、既に二人はもう!!」
そう言い終えた鈴仙は、ガビガビ耳が生えた頭を畳に押し付けたまま、嗚咽を漏らし始める。
「……助けられなかったとは言え、君達永遠亭に責任がある訳じゃない。頭を上げてくれ」
慧音は目の前が真っ暗になりそうだったが、何とか奥歯を力一杯噛む事により、辛うじて意識を保った。
「本当に…申し訳ございません…」
鈴仙は顔を上げずに、ただただ謝罪の言葉を繰り返した。
「せめて、二人の病気について、ご説明して頂いても宜しいか? 私は昨日まで元気だった二人が、いきなり病気になるだなんて信じられないんだ。ましてや、妖精だろ?」
冷静に考えてみれば、妖精などの自然の具象が、病を患うなどとは考え難い。ましてや、病で死ぬ事など…。
「お師匠様の検死によりますと……二人の死因は原因不明の突発性心臓麻痺」
ようやく鈴仙は顔を上げ、慧音の表情を、上目で伺う様に弱々しく呟いた。
「心臓麻痺? 人間はともかく、妖精でも心臓病を患うのか?」
心臓が止まる病気というのは知っていたが、私にはどうもしっくりとしなかった。
「それについては、お師匠様も大変驚かれていました。ただ、二人の心臓が何の前ぶりもなく止まったとしか……」
「あ…あの、他の生徒さんには、何か異常は見受けられましたか?」
「いや、いつも通りだが…」
何かあったと言えば、チルノとリリー・ブラックがノートを忘れて、大妖精の日記帳を自分のノートの代わりにしようと取り合っていた事ぐらいである。
「念の為に、寺子屋の全生徒を訪問診察しても宜しいですか? ないとは思いますが、ここ最近、人里を中心に、外界で撲滅宣言されたと見られる病原体に感染して、運び込まれるという事例が増えてきています」
「ああ、生徒の身の安全の為にも是非ともお越し頂きたい。 本当に伝染病の類なら、人里の者が死に絶える…という最悪の事態も考えられなくはないからな」
つい最近、外の世界で撲滅宣言を受けていた天然痘が幻想入りし、人里に猛威を奮った。
幸い、八意永琳を中心とした、医療チームの適切な処置もあり、大流行は回避されたが、外の世界から幻想入りしてくる病原体に対する具体的な対策は、まだない。
幻想郷に暮らす人間にとって、妖怪などは確かに危険な脅威ではあるが、今日の人里では、肉眼では見えない、ミクロの脅威の方が遥かに危険であった。
幻想郷に幻想入りしてくる病原体が増え始めた事については、外来人が持ち込んだ。
次から次へと開発されるワクチンなどによって、古い形式と化した病原体が、外の世界の人間に脅威と思われなくなった事により、幻想入りしやすくなったなどの諸説があるが、正確な所は不明である。
██
いつもよりも早く授業は切り上げられ、本来なら早く帰れる事にはしゃいだであろうが、大妖精達の足並は重かった。
「どうして二人共、倒れちゃったんだろう…」
「何か、悪い物でも食べちゃったのかな…」
「……………………」
気の抜けた会話もなくなり、沈黙が訪れた。
「ね、ねぇみんな!あ、明日さ」
しばらくして、その沈黙はリグルによって破られた。
「みんなで、永遠亭まで、お見舞いに行こうよ!」
お見舞いに行かれる側のチルノとリリー・ブラックが既に息を引き取り、
永遠亭の地下室にある、狭く、暗く、冷たい遺体安置所に押し込められてる事など、彼女達が知るはずもない。
チルノ達は、永遠亭で呑気に寝込んで居るだろうなどと、大妖精達は思っていた。
「うん!そうだね!」
そうだよね。二人共きっと今頃学校サボれるーなんて、呑気に寝込んでるだけだよね。
あのチルノちゃんの事だもの、明日になれば具合も良くなって、ベッドの上を飛び跳ねまわってるよね。
大妖精は、病院のベッドの上をはしゃぎ回るチルノとリリー・ブラックの姿を思い浮かべていた。
「私達がお見舞いに行けば、二人共少しは元気になってくれるわよね」
ミスティアは四人の中で、一人だけ、最悪の事態というのを頭に浮かばせていたが、リグルのその一言でその考えは粉砕された。
「果物一杯持っていくのだー♪」
ルーミアはいつもどうりの口調で、両手を拡げ、リグルの提案に肯定の意を示した。
「あははっ。二人共、まだ固いものは食べれないだろうから、私はミキサー持っていくね」
こうして、永遠亭へのお見舞いが決定されたのだが、四人はまるで明日遠足に行くかの様に、残りの帰路を明日の予定や、役割決めについて話し合った。
█
-大妖精宅-
チルノちゃんとブラックちゃんが病院に運ばれているというのに、帰りは遠足気分で明日の予定やら何やら、永遠亭の都合そっちのけで決めてしまった。
でもチルノちゃん達も妖精だからすぐ良くなってるはずだろうし、案外本当にお見舞いから遠足になっちゃうかも……。
などと、大妖精は楽観的な考えを抱いていたというより、楽観的な気分に酔いたかったと言ったほうが正しいかもしれない。
だが、大妖精も楽観的な見解も、強ち間違ってはいなかった。妖精は自然の具象そのものなので、自然がなくならない限りは消滅しないし、死ぬにしても直ぐに生き返る。
大妖精自身は、今まで自分が何年生きていたかは検討もついていないが、死ぬような目には一度も遭っていないのは確かなので、"妖精の死"がどういう物なのかは、想像出来なかった。
そこまで考えて、大妖精はふと思った。
そもそも私、なんでチルノちゃん達が死んでいるみたいに考えてるんだろう?
「…………」
大妖精は薄々分かっていたが、敢えてそれを考えないようにしていた。昨日、帰り道で大妖精が拾った黒いノート。
まるでそのノートによって、チルノ達に何か起きたなどという突拍子もないが、嫌にしっくりする考えが大妖精の中で形作られていった。
「そうだ辞書で」
大妖精はノートの表紙に書かれている意味を調べようと、香霖堂から外の世界から流れ着いた機械と交換して貰った英和辞典を取り出した。
Dから始まる単語の中に、ノートの表紙に書かれている”DEATH”という単語をまず最初に見つけた。
D death
1.死亡 死 死去
「死……?」
続いてNから始まる単語の”NOTE”
N note
1.ノート・帳面・筆記帳
「DEATH NOTE。死の…ノート…。ま、まさかね……」
ノートに書いた名前の人が死ぬ。大妖精は胸に抱いていたわだかまりの正体がはっきりすると、急に馬鹿らしくなってきた。
「あっ、そうだ(唐突)。明日の役割分担、メモしとかなきゃ」
暗い事を考えるよりも明日の楽しい事に目を向けよう。無理矢理、気持ちを切り替えた大妖精は明日のお見舞いの係決めを鉛筆を取り、
ノートに書き込んだ。
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______わたし__ミサキーもってくる係_______________________________________________________________
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____ルーミア___果物もってくる係_________________________________________________________________
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_____ミスティア__ローレライ__きのうの授業のノートもってくる係_________________________________________
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_____リグル__ナイトバグ____かぶとむし、くわがたもってくる係__________________________________________
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何故か、フルネームで書いてしまったが、友達の苗字ぐらいわからないのは困るので書いたのだと、誰に対しての言い訳かは知らないが、大妖精は敢えて深く考えない様にした。
██
-お見舞当日・寺子屋-
「あれ? ねぇこいしちゃん、ルーミアとミスティアとリグルは?」
「それが、3人共来てなくて……。慧音先生は、お医者さんに呼び出されて、慌てて出てったみたいだけれど…」
いつもの3人が教室に来てない事をこいしに告げられた大妖精の脳裏には、昨日の役割分担を書き込んだノートの事が浮かんだが、直ぐに頭を振り、それをふるい落とす。
「あの3人は余程の事がない限り、サボる訳無いよね」
「私の記憶では、朝、永遠亭の兎さんが来て、3人の名前を言った後、慧音先生が顔を真っ青にしてたの。やっぱり、3人にも何かあったんじゃ…」
「こ、こいしちゃんは心配性だよぉ…。人間の子はともかく、ルーミア達は病気になんか━━━
ガラッ
「た、大変だ……」
そう言って目を見開き、震えながら黒板に手を付きながら、教卓の前に来た慧音は呂律を回らない様子だったが、力を振り絞って、悲報を伝えた。
「昨夜、ルーミアとミスティアとリグルが…」
「永遠亭に運ばれた」
「嘘っ!?」こいしは思わず口に手をやった。
「やだーっ、こわいよ〜」
「の…呪われてんじゃねぇか…!」
「五人も立て続けに……」
「お、俺らにも、病気が感染しているんじゃ…」
クラス中は呪いだの、祟だのの話で持ちきりとなった。そのざわめきの中、大妖精は一人だけ、眼と口を開いたまま、呆然とその様子を見つめていた。
や…やっぱり、あのノートが!
頭の霧が徐々に晴れ、大妖精はあのノートにこそ、元凶なのだと確信した。
でも、何で私だけ……あっ!)
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______わたし__ミサキーもってくる係_______________________________________________________________
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____ルーミア___果物もってくる係_________________________________________________________________
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_____ミスティア__ローレライ__きのうの授業のノートもってくる係_________________________________________
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_____リグル__ナイトバグ____かぶとむし、くわがたもってくる係__________________________________________
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私以外はみんなフルネームで書いてたんだ!!
大妖精はそう結論付けたが、意図的にノートを試そうと名前を書き込んだとも、全く否定出来ない訳でもなかった。
██
早く家に帰って、あのノートを燃やさなきゃ!誰かの手に渡ったりでもしたら、本当に大変な事に!
大妖精はいつもなら、のんびりと帰路を歩くのだが、今回は寺子屋の帰りの会が終わったと同時に、教室の窓から一目散に飛び去った。
もう、あのノートは、相手の名前を書くだけで、その相手を死なせてしまう、呪いのノートである事に疑いはなかった。
「 ! 」
全速力で空を飛行する中、ふと下に目をやると、異変解決家でお馴染みの紅白の巫女と、白黒の魔法使いの姿が見えた。
「それで、お前さんが料理を食べさせていた時、ブラックが倒れたんだよな?」
「そうですよー。その時、私は喉でも詰まらせたかと思ったのですけど、それにしては、様子がおかしくて…」
魔理沙からブラックの事について尋ねられたホワイトは、意気消沈の様子だった。無理もない、自分の家族とクラスメイトが立て続けに死んでいったのだから。
「別にあんたを疑っているわけじゃないのよ? でも、死人が立て続けに出るなんて可笑しいから、一応聞き込みも兼ねて、原因を探してるの。異変かも知れないしね」
そう、言いながらも霊夢はホワイトを訝しく見つめていた。
大妖精は木の上に降り立ち、ホワイトが尋問される様子を見ていた。
霊夢さん達が出てきたって事は…もう異変として騒がれているんだ……。
ど、どうしよう…。もし私が起こしたって事がバレたら…。
ここに来て、大妖精は自分が思っている以上に、とんでも無い事を仕出かしてしまったのを後悔すると同時に、自分が異変の元凶として、退治されるのではないのかと恐怖した。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
霊夢「何かあったら、遠慮なく、博麗神社に来なさい。お賽銭も忘れずにね」
いつになく真剣な顔付きの二人。それだけ前触れもなく死人が一箇所に出た事件は、幻想郷始まって以来の異質な事件かも知れない。
二人が寺子屋に向かって歩き去っていくのを見届けると、大妖精は音をなるべく立てないように飛んだ。
用心の用心に、時々後ろを振り返り、尾行されてないか神経を張り巡らせ、いつもとは違うルートで自宅へと帰った。
-大妖精宅-
家に帰った大妖精は机の引き出しを引っ張りだし、例の黒いノートを手に取った。
「……………………」
「おい」
大妖精は一瞬、自分があげた声なのかと思ったが、あんなに声が低くなる程、喉を痛めた覚えはない。
だとしたら、この声は幻聴なのか?否、その考えは大妖精の後ろで存在感を放っている者の気配によって消し飛んだ。
振り向く。
「!? ひい〜っ」
「驚きたいのはこっちだ。そこら中に、空を飛び回る奴、光の弾を出す奴…。 ここは本当に下界なのか?」
そう語るのは、ひょろりと背が高く、黒色系のコートを着込み、ゴーグルをつけ、背中にギターを彷彿させる様な、骨で出来た手斧を背負った骸骨だった。
「お前も見た感じ、人間の子供に見えるが、羽があるのを見ると、どうやら違うらしいな」
「だ…誰!?」
「俺は死神ST。お前さんが今持っている、デスノートの落とし主だ」
死神STは、自分がそのノートを落とし主だと、大妖精に告げた。
「じゃ、じゃあ。これは死神さんのノート…」
大妖精はノートを胸の盾にするかの如く、抱きかかえた。
「その様子だと、それがただのノートではなく、死神のノートだというのはわかってるらしいな。で、何人殺ったんだ?」
STは大妖精の怯えた様子とさっきの言葉から、大妖精が既にノートを実際に試し、その効果が本物であると認識している事を見抜き、内心ほくそ笑んだ。
「ご、ごめんなさい! 死神さんのノートだって知らなかったんです!! お、お返しますから、か、勘弁して下さい…」
大妖精は平謝りしながら頭を下げ、ノートをSTへと差し出した。
「おいおい、そうじゃない。ここが人間界かは知らないが、そのノートを拾った時点で、それは人間界の物になる。つまり、そのノートを拾ったお前が、そのノートの今の持ち主だ」
「つまり、そのノートを拾ったお前が、そのノートの持ち主になる。いらなきゃ、俺に返すか他のやつに渡せ」
「本当の本当にいらなきゃ、俺に返すか。他のやつに渡せ。ただし、その時は掟として、お前のデスノートに関する記憶だけ消させてもらう。所で…」
「これは食い物か?」
STは物珍しそうに、机の皿に盛られたみかんの一つを手に取った。
「そ、それは…みかんっていう果物です…」
「ふーん」
如何にも期待してなさそうな返事で、みかんを皮を剥かずに丸ごと口に放り込んだ。
「!!!…な、なんだこれは!?人間界の林檎を知り合いに貰ったことはあるが、これは、これで刺激的な味だぜ!!もっとないのか!?〉
「もっとないのか!?」
「あっ、ちょっと、待ってて下さい」
STがみかんという果物を大変気に入った様子から、大妖精は、怖いけど、そんなに悪い人ではないのかも知れないと警戒を徐々に解いていった。
██
「もぐもぐ、ばくばく、むしゃむしゃ」
ダンボール一杯のみかんをSTは凄まじいスピードで貪り食っていった。
「あのー、STさんは、小町さんのお知り合いですか?」
「小町? そんな名前の死神は、聞いたことないが…」
「船渡しの死神さんですよ。ご存じないんですか?」
「多分、俺と、お前の言う、その死神は、全く別物だな。死神界以外の所にも、死神が居たとは噂にはなっていたが、本当だったのか」
「しかし、このみかんという奴と言い、お前といい。人間界の様で人間界じゃない。ここは何処なんだ?」
STにして見れば、人間が多く住む人間界に落としたつもりだったのだが、運命の悪戯か、それとも紅魔館に住む吸血鬼の悪戯か。
デスノートは幻想入りという形で、幻想郷の地に落ちていったのだ。
「ここは幻想郷と言って、人間さんが一杯になった外の世界とは別の世界で、妖怪と人里の人間さんが暮らしている郷です。
私は、妖精だから物覚え悪くて…。幻想郷についての詳しい説明は、阿求さんと慧音先生の方が詳しいと思います」
「…どうやら、俺はとんでもない所に来ちまったようだな…。へへっ、こいつは面白いぜ」
表情は骨だけにないが、大妖精にはSTが唖然としている様子に感じられた。
「おーい! 大ー妖ー精ー!」
大妖精の思考を遮ったのは、あの白黒の魔法使いの甲高い声。
「あっ、魔理沙さん達だ」
「気を付けろ。そのノートに触った者は俺の姿が見える様になるからな。そうでなくても、他人に触れされるのはオススメしない。
ヘタしたら、ノートにお前さんの名前を書かれて、ノートをそのまま盗られるって事も、有り得るからな」
「か…隠さなきゃ、盗み癖の魔理沙さんの手に渡ったら、とんでもない事に…」
「俺は逆に、とんでもない事が起きる事を期待してるがな」
大妖精は天井裏の物置にノートを隠した。こんな物を持ち歩いていたら、更なる事故が起きかねない。
少なくとも、死ぬまで借りると称した窃盗魔の手に渡してはいけない。
何せ、大妖精の手元にあるのは、"名前を書いただけで対象者を死に至らしめる程度の能力"を持つという、恐ろしい大量殺人兵器なのだ。
██
「すまねぇな、夜遅くに訪ねて」
「…あ、あの何か?」
「いえ、ちょっと最近の寺子屋の事で聞きたいことがあってね」
げっ、霊夢さんも居るのか…と、大妖精は内心冷や汗をかいた。この博麗の巫女だけには、絶対に死のノートの存在を悟られてはいけない。
ノートに宿る死の魔力を介してだが、もし、自分があの寺子屋の事件に関わっていると悟られれば最期である。スペルカード対決という生易しい形で終わらない事は確かだ。
「あっ、そうだ(唐突)。実は今日、知り合いの人の漢字を調べてこいっていう宿題があって…。良かったら、二人の名前をこれに書いてくれますか?」
大妖精はぎこちない笑みを浮かべながら、鉛筆とメモ帳を魔理沙達の前に差し出した。
「 ? まっ、サインぐらいならお安いご用だぜ。ほら、霊夢も書けよ」」
「あんた妖精の癖に、勉強熱心ね。熱でもあるの?」
_________________________
霧 博
雨 霊
魔 霊
理 夢
沙
__________________________
「クックックックッ」
大妖精は、いきなり背後から逆さまに現れたSTにビクつきそうになった。
「すごいじゃないか。そいつらの名前はよーく覚えておけ、いつでも書けるようにな。全く、お前さんは、ガキの癖に中々利口だよ」
「あの今日、ミスティアとルーミアとリグルが永遠亭に運ばれたと聞きましたけど、本当なんですか…?」
「残念だけど、三人共死んだわ」
霊夢は間をおかずに、そう言い放った。
「……………………………….」
直球で霊夢にそう告げられても、大妖精は驚きも動揺もせず、どちらかと言えば項垂れた様子に近かった。
三人の死を霊夢から聞かされ、大妖精はその3人を葬ったは自分なのだと、改めて再認識した。
「おい、霊夢…」
「遅かれ早かれ、気付くわ。今回の騒動は寺子屋の生徒を中心に起こってる。だからこそ、その当事者である寺子屋の生徒達には、用心して貰わないと…」
「わかるけどさぁ、言い方ってものがあるだろ」
「大妖精。あなたは、その三人と仲が良かったと聞くけど……。その三人に、何か変わった様子はなかった?」
「こいつ、さっきから玄関中見回しているが、ここ、幻想郷の人間は少なからず、俺の存在を感じ取れるのか?」
「いえ、別に三人共、チルノちゃんとブラックちゃんの事で気を落としていて、それで今日、永遠亭まで、お見舞いに行こうって約束を昨日したばかりなんです」
「…あの、その」
魔理沙は言葉に詰まってしまった。チルノとリリー・ブラックは、永遠亭での懸命な措置に関わらず、死んだ。
そしてそのチルノ達の親友である大妖精の口から、チルノ達へお見舞いに行こうとしたなどと言われてしまえば、心が痛むのは当然であった。
死体は検死の結果、原因不明の心臓麻痺。永琳はこれに突発性心臓麻痺と名付けたが心臓を停止させるに至る原因は何一つ見つからなかった。
何の前触れもなく心臓が止まったとしか言い様がないのだが、これ以外にも。この心臓麻痺には色々と可笑し点があった。
その一つとして、妖精や妖怪などの人間によりも肉体的に丈夫で、心臓が止まっても死にはしないだろう種族でも例外なく、心臓が止まり死に至った。
確証はないが、もし、どんな妖怪も心臓麻痺で殺してしまう未知の病原体が存在するならば、幻想郷に生きとし生けるものは、蓬莱人を残して死に絶えるだろうという結論を永琳は下した。
考えられる最悪のパターンだが、現実に使者が出ている以上、有り得なくはない。
「チルノとブラックについてだけど、あいつらはまだ面会できる状態じゃないんだ。 何か、伝えたい事があれば、言ってくれ」
真実を告げるか否か、迷った魔理沙だったが、結局は優しい嘘をつくことを選択した。
最も、そのチルノ達を葬ったのも自分であると自覚している大妖精に対しては、意味を成さなかったが……。
「五人とも心臓麻痺だったのは、お前が名前しか書かなかったからだ。名前の後に死因を書くと、その通りになる。名前だけなら皆、心臓麻痺だ」
「うっ…ぐすっ」
STからの言葉で、五人の死は自分が本当に招いたのだと、より実感し、溢れ出す罪悪感に耐え切れず、大妖精は泣き出してしまった。
「あ〜あ、霊夢泣かすなよ」
「泣かしたのはあんたでしょ」
「ふぇ……ずるるっ………ううっ」
「なぁ、何か悪い事言ったら謝るぜ。ほらペロペロキャンディーだ。やるよ」
魔理沙はポケットから棒付きキャンディーを取り出し、なんとか大妖精を泣き止ませよう試みた。
「……その」
「なんだ?」
「ち、チルノちゃんとブラックちゃんに、ごめんなさいって伝えて下さい…」
「………分かったぜ。必ず伝える」
顔を伏せながら玄関から立ち去ろうとする魔理沙と、大妖精を訝しがる様な視線を送る霊夢は、大妖精に何かあったら頼りにする様に言い、飛び去っていった。
「うまく、やり過ごせたな」
「……………………」
██
「ねぇ魔理沙。ちょっと、あの娘の様子変じゃなかった?」
「それは、お前が泣かせたからだろ。それに自分の周りの友達が立て続けに5人も死んでいったんだ。情緒不安定になるのも無理ないぜ」
「まぁ、それもそうよね…」
しかし霊夢はどうしても腑に落ちない様子だった。
「でも魔理沙。あんたは何の異変性もないって言ってたけど、これは確実に異変よ。寺子屋で5人が立て続けに心臓麻痺で死ぬなんて偶然、ある訳ないわ」
私自身、絶対に異変であるという確証はなかった。ただ、何となく博麗の巫女としての勘が”異変”であると告げているように思えた。勘に関しては外れた覚えはない。
「じゃ、寺子屋の中に犯人が潜んでるってか?」
「そうは言ってない。でも私達人間より頑丈な妖怪や妖精が、心臓病を患うなんて聞いた事ないし、第一、その心臓麻痺の原因があの永琳でも究明出来ないなんて…。
絶対、あの寺子屋に何かあるわ。私の勘がそう告げてるもの…」
「お前がそこまで言うなら、あるかもな。だけど、聞き込みしても大した情報は得られなかっただろ?」
「…私はこれまで博麗の巫女として、数多くの異変を見てきたけど、今回の様に死人を立て続けに、あんなにだす様な異変はなかったわ…。
仮に首謀者が居るとしても、今まではすぐに親玉の居場所は判ったし、見つけるたびにブチのめして来た」
そう、今までの異変は目に見えた"元凶"という物が確かな形で存在した。しかし、今回の寺子屋の事件は異変か否かはともかく、影の黒幕を感じさせる物が一切存在しない。
本当にチルノ達は突然死に至ったとしか、今回の事件は言い様がなかった。
「でも今回の寺子屋の異変は、そういう首謀者の姿が、嫌な程感じられないのよねぇ━━━…!」
その時、霊夢に電流走る。
「ねえ魔理沙、あんたちょっと香霖堂までいい?」
「ああ、いいけど何しに行くんだ?」
何を思ったか、霊夢は香霖堂に行く事を提案した。
「ちょっと、調べたい事があってね」
█
-香霖堂-
「霖之助さーん! 起きてるー? ちょっと開けてー!」
ガララ
「何だい?こんな夜遅くに…」
香霖堂の店主、森近霖之助は眠そうな様子で戸を引いた。
「ねぇ、外の世界の新聞って今見れる?」
「見れるけど、殆ど傷んでるし、新しくても数年昔の物で良ければ…」
██
「確かどっかに…ここか!」
外の世界から流れた来た、ある新聞を取り出した。その新聞の見出しには、大きくこう書かれていた。
【社会】 15版 2004年(平成16年)1月28日 朝 読 新 聞
████キラによる犯罪者殺し、激化██████████████████████
何の因果なのだろうか、死神リュークがデスノートを使わせた一人の人間。
夜神月による犯罪者裁きを報じた新聞も、幻想郷の地に幻想入りを果たしていたのだ。
「魔理沙、これを良く読んで頂戴。特に死因の方……」
「!!……一時間おきに刑務所内の受刑者が心臓麻痺で死亡…」
「数年前、外の世界では悪人を中心に、殺されていったそうよ。今回の異変と、何だか似てないると思わない?」
今回の異変という辺り、既に霊夢は寺子屋の事件を異変として見ているのだろう。
「このキラって奴は、幽々子みたいな力を持ったやつなのか?外の世界にも、まだとんでもない妖怪が潜んでるんだな」
「妖怪…。妖怪なら、いつ幻想郷に幻想入りしていても可笑しくはないし、寺子屋の件も、そいつの仕業と考えた方が合点が着くわ」
「ただ、そのキラって妖怪が幻想入りしたというなら、まず人口の多い人里を狙うのは当然として……何故、あの寺子屋に殺しが集中しているか。
そして、悪人でもないのに、何故あの五人が死ぬ事になったのか…。そこだけが引っかかるのよねぇ」
確かに”キラ”という妖怪が幻想入りし、寺子屋で事件を起こしたとする考えは別に不自然ではなく、寧ろしっくりする。
しかし、外の世界での”キラ”は悪人や自分に逆らう者を裁いたのであって、それ以外の全く無関係の者に手を下すとは思えなかった。
「少なくとも、あの寺子屋からは絶対に目を離すべきではないわ。寺子屋に何かが潜んでいるのかは確かだもの」
少なくとも今は、そう結論付けるしかない。
「なぁ……このキラって奴は、私達には荷が重すぎないか? 相手はスペルカードルールも無視して、力を躊躇なく行使する奴だ。 弾幕勝負ならまだしも、実戦になれば、全く歯が立たないぜ」
魔理沙はらしかぬ弱音を吐いた。
所詮、霊夢も魔理沙も脆い人間。
スペルカードルールを無視した実力勝負なら、簡単に殺されてしまう。
「なーに、怖じ気づいてんのよ。スペルカードルールを無視する奴が居るなら、私としても見過ごせないし、スペルカードルールに則って、これまで通りぶっ飛ばす」
「後は、そのぶっ飛ばす奴がどいつなのかって話なのよねー」
「…魔理沙、もしもの話だけど」
「もしも?」
「本当にもしもの話だけど、あんたに"直接手を下さずに死に至らせる程度の能力"があったら、どうしたい?」
「はぁ? 私は疑われる筋合いなんてない。疑われるとしたら幽々子だろ」
「幽々子はそんな事しないし、したとしても、あの寺子屋周辺に妖力の跡が必ず残るはず、でも、あの寺子屋はいつも通り、至って自然で、妖気やら邪気やらを感じさせるものはなかった」
「まあ私だったら、気に入らない奴はバンバン殺すわね」
「げげっ、お前、それでも博麗の巫女かよ」
魔理沙は霊夢がさらっと言った暴言に、肝を冷やした。
「嘘。私は敵味方どちらにも肩入れしない中立派よ。でも仮にその力を持ったキラの立場で考えると」
「次に殺そうと思うのは━━━
「私達、異変解決家ね」
そんな事を霊夢は真顔で、さも大した事ではないように言った。
「おいおい!、冗談じゃないぜ! 突拍子もない!」
「犯人からしてみれば当然の事よ。自分に疑いが向かないように、また疑いを向けてきた奴は全員殺す」
「私達だけじゃない。咲夜に早苗に妖夢に、異変解決に携わってきた主戦力陣営は皆、まとめて殺しておけって感じね」
「既に、私達が嗅ぎまわっている事に勘づいて居ると思うから、これからは、あまり表向きに調べるのはやめた方が良いかも知れないわ」
霊夢の推理は今の所、かなり正確な所まで言い当てていた。
「…霊夢。私が、その力を持っていたら私利私欲の為には当然使うが…。
こんな奴、消えた方が世の中の為になると思う奴は、全部殺して、まっとうな心を持った、まっとうな物だけの桃源郷を作るぜ」
魔理沙も何だかんだ、霊夢とそう変わりない、身の毛がよだつ事を言い放った。
「それは、生きてる奴らの大半を殺さなきゃいけないし…。そもそも、寿命の短い人間が、天罰を下す神様になろうだなんてのは、不可能よ。 まっ、あんたは殺す側よりも、殺される側だと私は思うわ」
「こぇぇ事言うなよ。縁起でもない」
██
霊夢達が去った後、大妖精はベッドでデスノートを抱きしめ、放心状態にあった。
「ずっと、ノートなんて抱きしめてるけど、お前はそのノートをどうしたいんだ?」
「妖精は自然の具象化だって、慧音先生が言ってた。私はよくわからないけど、妖精は他の妖怪と比べて、自然がなくならなければ、寿命で死ぬことがないんだって…」
「私、妖精で、物事を覚えるのに凄い時間かかるし、物忘れも激しい…。例えそうだとしても、ほぼ永遠な命を持ってるということは、終わりなんてないし、
その気になれば世の中の為に、人様の為に、ずっーと尽くすことだって出来る」
「何を考えているんだ?」
「悪い奴を懲らしめて、それを他の人達に悪い事をしない様戒め…。どこもかしこも平和な世界に…空の上から見下ろして、天罰下す神様…みたいな?」
抽象的だが、魔理沙の考えを更に発展させた考えが大妖精の頭の中で渦巻いていた。
「はっはっはー!! こいつは傑作だ! 俺の知り合い、リュークの言う、世界を変えようとなんていう面白いバカな奴は、お前の様な奴だ」
そもそもSTがデスノートを落としたのも、リュークの言う、デスノートで世界を変えようとした人間の話を聞いたからだった。
デスノートを落として拾われても、大抵は、デスノートに使うのに必要な精神力と意志が足りない者ばかりである。
大抵、身近の気に入らない者の名前を一人か二人書いただけで、怖気づき、ノートをすぐに返してしまうのが普通といえば普通であった。
過度な期待はしないつもりだったSTも、大妖精はもしかしたら途轍もない"当たり"ではないのだろうか?と、ますます期待を膨らませていた。
「いや、そんな大それた事じゃないし、このノートは、手元にあった方がいいかなーと…」
「おう上等だ! ガキだと思って舐めていたが、気に入った。大妖精、なんでも協力するぜ」
「じゃ、じゃあSTさん。このノートの詳しい使い方って、ありますか?」
「良い質問だ。そのノートは単に名前を書いて、心臓麻痺でしか殺せないなんていう、芸の無いノートじゃない」
すっかり乗り気になったSTはデスノートの基本的な使い方を説明した。
【デスノート、使い方】
このノートに名前を書かれた者は死ぬ。
ただし、記載する際、書く人物の顔と氏名が、頭に入っていなければ効果はない。
ゆえに同性同名の者に一遍の効果はない。
死因を記載しなければ、すべてが心臓麻痺となる。
名前を記載してから、40秒以内に死因を追記すると、その通りになる。
それと同時に、6分40秒 、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。
「……以上がそのノートに出来る基本的な事だ。使い方によっては楽に死なせたり、苦しませて死なせたり、
周りの奴らに不審がられない様、自然死を装わせる事だって出来る。 もっとも、俺でもわかっていない、ノートの使い方は沢山あるがな」
「お話ありがとう、ST。 私、妖精だから理解するのに、ちょっと、時間がかかるけどね…」
「おお、食べる、食べる」
こうして、幻想郷の地に落とされた死の帳面を介して、死神STと大妖精の間に、奇妙な絆が生まれたのであった…。
█To be continued…