「大ちゃん…大妖精…」
「よくも殺したな━━━っ…」
「うわ〜〜〜っ!!」
大妖精の一日はバカルテット4人衆の悪夢から、飛び起きる事から始まった。
「おはよう、いい夢でも見れたか?」
STさんが居るって事は、あの帳面も夢じゃなかったんだね….。
叶うことなら、デスノートを拾った事をなかった事にしたかった。
「違う…違うの……。私はチルノちゃん達を殺す気なんてなかった…」
「そうか。じゃ、これ使うか? DEATH ERASER」
STは黒色のケースの極普通の消しゴムをポケットから取り出すと、大妖精に手渡した。
「これは、デスノートの効果を取り消せる唯一の手段。死神界でも入手困難なキワモノだ。
これでノートに書いた名前を消せば、死んでいた奴の遺体が燃やされたり、損傷してない限り、そいつは息を吹き返す」
「こんな消しゴムで…?」
「名前を書いたら死ぬノートがあるなら、書いた名前を消せば生き返る消しゴムがあっても、不思議じゃあない」
それを聞いた大妖精は眠気から完全に覚醒した。STの言う、この消しゴムが本物であれば、またノートを拾う前の日常に戻れるかもしれないのだ。
早速、大妖精はデスノートに書かれたバカルテット4人衆と、リリー・ブラックの名前を、ノートが紙面が削れるくらい、一心不乱に擦った。
█
「霊夢、例の五人が生き返ったぞ」
「なんですって!?」
思わず、湯呑みを落としてしまった。割れた。
「5人共生き返ったどころか、今朝永遠亭で息を吹き返して、寺子屋まで登校してるくらいだぜ!」
「嘘でしょ…」
同じ心臓麻痺で立て続けに死んだ5人が……、同じ日に生き返る………そんな事、有り得るのだろうか?
ともかく、寺子屋の居るであろう、生き返りの五人に話を聞ければ、この異変の首謀者への糸口を掴めるかも知れない。
「寺子屋に行くわよ!」
「おいおい、勝手に押しかけていいのか?」
「異変と言えば、どうにでもなるわ!!行きましょう」
「待てよ!」
そう言って、霊夢は一目散に寺子屋へと向かって、飛び去っていった。
█
「おはようー………」
やっぱり、消しゴムで書いた名前を消さば、生き返るなんて都合のいい話は…。
「あ、大ちゃん、おはよ…」
教室から入って、最初に声をかけてきたのは他でもない、死んだはずのチルノだった。
「おはようなのだーっ」
「よかった、大ちゃんは無事だったのね…」
「お見舞いに行こうって、言い出しておきながら…その……申し訳ない」
「あ、ああ……」
よ、よかった…。あのSTさんがくれた消しゴムは本物だったんだ!!
「みんなーっ!!」
胸の高鳴りを抑えられなくなった大妖精は、チルノ達の元に駆け寄る。
「ごめんねーっ!! ごめんね!!」
殺してしまったチルノ達にまた会えた。その事実が大妖精の心の重石を壊し、涙を溢れさせた。
「あたい達は別に、大ちゃんに謝られる様な事をされた訳じゃないよ。 逆に、大ちゃんに迷惑かけちゃったくらいだよ」
「あっ、そうそう、これこれ」
チルノは鞄から一冊の日記帳を取り出し、大妖精に渡した。
「えーりんがくれた日記帳。 ごめんね、大ちゃんの日記帳、破いちゃって……」
「気にしてないよ! 私こそ、何もしてあげられなくて、ごめんね…」
「ぶらっくううううううううううううう」
「鬱陶しいよ! 離れてよ、ホワイト!」
「もー、離さないですよー! 絶対に離さないですよー!」リリー・ホワイトは、号泣しながらブラックに密着したまま離れようとしなかった。
「もーう、ホワイトがお姉ちゃんなのに、これじゃあ私がお姉ちゃんみたいじゃない……」
「私が妹でいいですよー! その代わり、もう一生離れませんよ!!」
「はぁ…手がかかるなぁ」
「ブラックちゃん、退院おめでとう」
良かった。ブラックちゃんも、あの消しゴムで生き返ったんだ。これでもう、何もかも元通り。
あの帳面に、あの消しゴム。本当にあれらは一体何なんだろう。消しゴムは貰っておいて、帳面はSTさんに返しちゃおうかな。
大妖精は妖精特有の気まぐれさもあり、心配事が消えたと思えば、すぐに呑気な事を考えていた。
「大ちゃん…その、ごめんね。 勝手に日記帳を取り上げちゃって……」
「気にしてないよ。今度からノートをもう一冊用意しておくから、ノート忘れたら、遠慮なく言ってね」
「…ありがとう」
照れくさそうに笑うリリーブラックを見て、何もかも本当に元通りになったのだと、大妖精は心の底から安堵した。
█
「という訳で、生き返りの五人に話を聞きたいの」
全てが元通りになっても、大妖精が異変の首謀者である事に、変わりはない。
その事実を、寺子屋に乗り込んで来た、異変解決家の霊夢と魔理沙の姿を見て、大妖精は気分を沈めた。
もう何もかも元通りになって終わったのだから、いいじゃないか。大妖精は心の中で、不満を漏らした。
「チルノ、リリー・ブラック、ルーミア、ミスティア、リグル。 ちょっといいか?」
慧音は、昨日まで死んでいたであろう、五人を呼び出した。
「は、はい……」
「死んだ実感がないのに、話せばいいのやら…」
「まぁ、一箇所に集中して死者が出れば当然こうなる」
大妖精の後ろでは、STがニヤニヤとしながら、ボソボソと呟いていた。
「まぁ、一箇所に集中して死者が出れば当然こうなる。 あの五人が身近に居ながらも、死ななかったお前の事を話せば、まず、疑いを抱かれるのは……」
「ど、どうしよう…」
誰かが私の事を少しでも口走れば、勘の鋭い霊夢さんに疑念を抱かせてしまう。
もしそうなってしまったら、私は…。
「あのとき、あたい達は━━…
チルノが事の端末を話そうとした、次の瞬間。
「うっ」
「うがっ」
「ひでぶっ」
「苦…し……ィ…」
「ど…どうしたのよ、あんた達!?」
チルノ達、バカルテットはバタバタと折り重なるように倒れた。リリー・ブラック、ただ一人を除いて。
「あ…ああっ………」
一人だけ二度目の死を免れたリリー・ブラックは、その場に立ち尽くし、動けずにいた。
「魔理沙、永遠亭に知らせを」
「お、おう!」
ヤバい! 確実にヤバい!
魔理沙の第六感はこの場に居ては命の危険があるという警鐘を鳴らした。
霊夢の言葉に促されるように教室から出ようとしたが━━━
「うっ…」
突然、歩みを止め、糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、床に伏した。
魔理沙は生命活動を停止。死んだのだ。
「魔理沙!? やめなさいッ、鬼羅!!」
今、この教室に恐らくいるであろう殺人鬼に向かって、霊夢は怒号を浴びせた。
そして次の瞬間、霊夢は心臓麻痺の痛みに顔を歪める。
「や…やりやがったわ…ね」
霊夢は、最前列の机を巻き込みながら、その身を倒した。
ほう、目の前で殺るとは、中々肝が座ってるじゃないか」
STは、顔面蒼白の大妖精の後ろで、ケラケラと笑っていた。
「ち、違うよ、私じゃない…。だってノートは家に……」
その日、寺子屋で5人の生徒が生き返りから死に至り、
更には駆けつけた博麗の巫女と、白黒魔法使いも同じ心臓麻痺で息を引き取った。
この騒動で、寺子屋は休校となり、
文々新聞では、この騒動を"心停異変"と名付け、幻想郷各地に報じた。-著・稗田阿求・幻想郷縁記・心停ノ異変より-
█
-翌日-
「どういう事なのST? STのくれた消しゴムで生きかえらせるどころか、また死んで、霊夢さん達まで…」
あの消しゴムの効果は本物のはずだ。 だって、実際に、私がチルノちゃん達の名前を書いた所を消したら、次の日には生き返ったのだから、確かに効果は有るはず…。
「また死んだ言う事は、またデスノートに名前が書かれたんだろう」
「わ、私は書いてないよ! ずっと天井裏に隠してたから!」
STさんの言う通り、またチルノちゃん達の名前がノートに書かれたとしか、言い様がない。
けど、そのデスノートは私の手元にあって、あれ以来、ずっと天井裏に隠したっきり、一度も何かを書き込もうとした覚えはない。
「わ、私は書いてないよ! ずっと引き出しに入れてたんだから!」
「うーむ。 だが、ノートの効力で死んだ事は確かだぞ。 それより見てみろよ、今日の文々新聞。昨日の騒ぎの話題で持ちきりだぜ」
STは心停異変の大見出しが乗せられた文々新聞を広げた。
「異変解決のエキスパート二人が、あっけなく死んだんだ。 こりゃ、幻想郷の名立たる妖怪賢者達も、本腰を入れて犯人を探しだそうとするだろうな」
「そして、新聞だけじゃなく、テレビもこの話でもちきりだ」
STはさっそく、幻想郷の暮らしに馴染んだ様子で、リモコンを取り、テレビをつけた。
文々テレビ独占特集!
呪われし寺子屋
心停異変の核心に迫る
呪われし寺子屋、心停異変に迫る
「けっ、外野の癖に、バカ見たく騒ぎ出しやがって」
《私が思うに、この異変は、幻想郷にだけ起きた訳じゃないと思うんですよ》
《と、言うと?》
文々テレビでは豊聡耳神子と茨華仙と四季映姫・ヤマザナドゥによる、心停異変についての討論番組が放送されていた。
《外の世界にも、今回の騒動と、同様と思われる変死事件が起きているんです。 凶悪犯罪者が一日に、100人近く死んでいくなど、規模は違いますが、同じ心臓麻痺です!》
「ねぇST。外の世界にもデスノートがあるの?」
「人間界の事か? 俺はリュークから、ソイツの話を聞く限りは、後先短い人間の癖に神になろうとしたらしい。 最も、ソイツは敗れ、リュークに名前を書かれて死んだがな」
「最も、ソイツは敗れ、リュークに名前を書かれ死んだがな。リュークの話が広まって以来、死神もノートを拾わせる人間を少なからず選ぶようになった」
「リュークの話が広まって以来、死神もノートを拾わせる奴を少なからず選ぶようになった。 それだけ"夜神月"って奴は、死神界では、おもしれぇ人間として知られているんだぜ」
外の世界でのデスノートの使い手の第一人者、夜神月は死してなお、その名前を残していた。
《その外の世界のキラと呼ばれる輩と関連性があるかは、わかりませんが、今回の異変の全ての発端は、寺子屋から始まっています》
あくまで、事の始まりである寺子屋に目を向けるべきだと諭したのは、幻想郷の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥであった。
《あくまで仮にですよ? 仮に私が、手を下さずに殺す程度の能力を持っていれば、悪人は全員裁き、善なる心優しい者達だけの新世界を創りますね》
その直後、映姫はハッとっした様子で黙り込み、罰の悪そうな顔をしながら悔悟棒で口元を隠した。 今の発言は、死者を裁く閻魔として、かなりの問題発言である。
《馬鹿な事を言わないで下さい。 閻魔であろう御方が、その様な発言は問題になりますよ?》
《し、失敬…。私が言いたのは、外の世界のキラの様に、悪人殺しを始める前に、予行演習も兼ねて、寺子屋の生徒を狙ったという可能性を指摘したかっただけです…》
映姫は平然を装いつつ、内心ひやひやで、無理矢理話題のすり替えを図った。
《そうなると、犯人は寺子屋の生徒と面識のある者。 つまりは、寺子屋関係者、もしくは生徒の中の誰かに犯人が紛れていて━━━
「うっ」
華仙は突然胸を押え、司会席から体を横に崩し、倒れた。
「うげっ!」
何事かと、華仙に駆け寄ろうとした神子にも、程なくして死が感染した。
《な…!》
テレビの画面は口を開け、呆然と座っている映姫と、騒ぎ立てる文々テレビ教員の鴉天狗らの慌ただしい様子を映していた。
「ははは、ざまあねぇな。 あんな確信に迫る事を言ったら、消されるだろうに」
「でもなんで、閻魔様は…….」
四季映姫は寧ろ、寺子屋に注目すべきという心停異変の核心的な事を口走っていたにも関わらず、死には至ってない。
四季映姫は殺しを容認するかのような趣旨の発言をしていただけに、殺されずに済んだのだろうか?
大妖精が考え込んでいるのを尻目に、STは特別驚いている様子でもなく、冷静沈着に言った。
「ネームプレートをよく見ろ。 あれは役職名で、名前じゃない。 俺にはこいつの名前が、顔の上に浮かんでいるのが見える。名前は四季映姫だな」
STが指し示したのは、スタジオのテーブルにある番組出演者のネームプレート。
華仙と神子はフルネームで書かれていたが、映姫だけは、ヤマザナドゥという役職名で書かれていた。映姫はまさに、紙一重で死を逃れたと言っても過言ではない。
「でも私はノートに書いてないよ?」
大妖精はあれ以来、一度もノートを取り出さずに天井裏に放置していた。
しかし、こんな事を出来るのはデスノートしかないと考えなければならない場面を見せ付けられると、他に考えられる事が、大妖精には一つだけ思い当たっていた。
STの方に顔を向け、ベルトの辺りに付けられたホルダーに目を落とす。 そのホルダーには何も入っていなかった。 大妖精の顔からは血の気が引いていった。
STの方はというと、申し訳なさそうな様子で
「いやー、実は予備のデスノートをどっかに落としちまってな。まいったね」
空のデスノートホルダーを大妖精に見せつけた。
《神の裁きです! これは神の裁きです!》
発狂した映姫が上半身裸で、つるぺたのまな板をカメラに見せ付け、悔悟棒を振り回しながら、スタジオの小道具やら何やらを金切り声で叫びながら壊していた。
《放送中止ーっ! 放送中止ーっ!》
姫海棠はたてと射命丸文の二人の鴉天狗に、映姫が組み伏せられたのを最後に、画面はBGMにクラシックを流しながら、しばらくお待ち下さいというテロップ画面に切り替わった。
「でもはっきりしたわ。誰かがノートを拾って、その人が寺子屋に犯人が居ると騒がれたくないから、名前を書いたんだよ。
でもノートは、顔と名前の両方知ってないと効果はないし、少なくてもチルノちゃん達の顔と名前は見知っていた…」
「先生はそんな人じゃないし、考えられるのは私と同じ、寺子屋の生徒!
そして昨日一人だけ、二度も死なずに済んだブラックちゃん。ブラックちゃんを殺せなかったのは、その人がブラックちゃんの事を誰よりも大切に思っていたから…となると!」
大妖精の中でパズルのピースのように答えが徐々に形作られていき、一つの答えとなった。
「おい、何処に行くんだ、Die」
「もう一冊のノートを、今使ってる人が分かったよ、ST」
大妖精はSTに説明せずに窓を開け飛び立つ。STも送れまいと、背中から黒い翼を生やし、大妖精の後を追った。
████
-リリー姉妹宅-
「ホワイト! 開けてよ! ねぇったら!」
リリーブラックは、ホワイトの部屋を引っ切り無しに叩いていたが、ホワイト本人はスタンドの光で照らされた薄暗い部屋で、
机で何やら一心不乱に作業をしているようだった。
「死んじゃぇ、死んじゃぇ。みーんな、死ぬんですよー!!」
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____CHIRNO____Mystia_Lorelei___lumia_lumen____Wriggle_Nightbug___________________________
___博麗_霊夢_____霧雨___魔理沙____茨木_華扇_____豊聡耳神子___________________________________
___ヤマザナドゥ____射命丸文_____姫海棠はたて____東風谷早苗______________________________________
___上白沢_慧音_____稗田_阿求______Remilia__Scarlet___十六夜_咲夜______________________________
___魂縛_妖夢___西行寺幽々子____八雲藍____橙____八雲紫_________________________________________
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そこには目を血走せ、デスノートに名前を殴り書きしている、リリーホワイトの姿があった。
「ホワイトちゃん」
大妖精は窓から部屋に、土足で乗り込んで来た。
「ひぃぃ。 来るんじゃねぇですよーっ! それ以上近づいたら、名前を書きますよーっ!」
ホワイトは息を荒くしながら、震える指先で掴んだ鉛筆をノートの紙面に近付けた。大妖精の名前を書くつもりなのだ。
「やめて! ホワイトちゃん!」
「うっせぇですよー!もう私は後戻りが出来ないんですよーっ、ブラックを死なせた時からー。
バレるくらいなら、いっその事、一人残らず殺してやるんですよー!」
ホワイトは錯乱していて、大妖精の言葉に耳を傾けられる状態ではなかった。
「違うの、ホワイトちゃんは何も悪くない! 私がそのノートに、ブラックちゃんの名前を書いたの!」
「えっ」
大妖精から思ってみない回答に、ホワイトは目を丸くした。
「私のせいなのに、ホワイトちゃんは自分がブラックちゃんを殺したと思い込んだのよ。誰も最初から、ホワイトちゃんなんて疑ってなんかいない」
「疑われるべきは、この私!」
「そうだったのですかー…。でももう、私やったことは取り返しが付きませんよー……」
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____CHIRNO____Mystia_Lorelei___lumia_lumen____Wriggle_Nightbug___________________________
___博麗_霊夢_____霧雨___魔理沙____茨木_華扇_____豊聡耳神子___________________________________
___ヤマザナドゥ____射命丸文_____姫海棠はたて____東風谷早苗______________________________________
___上白沢_慧音_____稗田_阿求______Remilia__Scarlet___十六夜_咲夜______________________________
___魂縛_妖夢___西行寺幽々子____八雲藍____橙____八雲紫_________________________________________
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ホワイトはノートにびっしりと書かれた名前を大妖精に見せた。幻想郷の大半の有力人怪の名前が、そこには書き込まれていた。今頃、幻想郷各地では、混乱が起きているだろう。
「最後に、自分の名前を書いて、罪を償いますよー……」
ホワイトは、自身を最後に書き込む名前にしようとして、鉛筆の先をノートの紙面に突き立てた。
「まだ、間に合うよ! この消しゴムで」
大妖精は慌てて、ポケットから消しゴムを取り出し、ホワイトの手に握らせた。
「消しゴム?」
「この消しゴムで名前を消せば、ノートで死んじゃった人達、全員生き返るの」
ホワイトが一先ず落ち着きを取り戻したと見るが否や、大妖精は"DEATH ERASER"をノートに擦り付け、書かれている名前を消していった。
「チルノちゃん達が一度生き返ったのは、この消しゴムのおかげなんだ」
「このノートや消しゴムは、一体何なんですかー?…」
ホワイトはデスノートと消しゴムを交互に見比べながら、困惑した表情を浮かべていた。
「取り敢えず、このノートを博麗神社に持って行こう」
「だ、ダメですよー! そんな事したら、私達退治されちゃいますよーっ」
ホワイトは両手をバタバタとさせながら、抗議した。
「今、正直に言わないとダメだよ…。私達がこの後、どうなのかは分からないけど、このノートだけは、何とかしなきゃ」
「よぉ、お前も中々、殺るじゃねぇか」
部屋の壁からヌッと、STが身を乗り出してきた。
「だ、誰ですかー? この人…」
俺はSTっていう死神だ。無計画で、無鉄砲とはいえ、思い切りの良さは、とても評価できるぞ
「いやーっ、それほどでもないですよー」
心配事が解決しきった事に安心しきっている今のホワイトにとって、何が出てこようが、問題無いという感じであった。
「ふざけてないで、行くよ! ホワイトちゃん」
「わかったから、耳を引っ張らないで欲しいですよーっ!」
大妖精はホワイトの手を引っ張り、博麗神社へと飛び立った。
█
-博麗神社-
「いやーっ、まいった、まいった」
「さっきまで、私達死んでたのよね…」
霊夢と魔理沙は、お化け屋敷から帰ってきた様な、呆けた様子で、縁側でお茶を飲んでいた。
「それだけじゃない。レミリアに幽々子に。それに、あの紫まで殺されてたんだぜ? 名立たる有力妖怪の殆どが、ほぼ同じ時間に、一度に無抵抗のまま倒されちまった」
「この異変は、自分が殺されちゃったとあれば、絶対に解決すべきだぜ」
「けど、本当に手を下さずに、有力妖怪の殆どを無力化しちゃった訳でしょ? こうなると、いよいよ、残機がいくつあっても足りないわね」
魔理沙は八卦炉を握り締めながら、どいつに撃ちこんでやろうかと思案していたが、ある事に気付いた。
「しっかし、異変を起こしてる奴は、何考えてるんだ? 自分で殺しておきながら、わざわざ生き返らせるなんて…」
「異変の首謀者の力に何らかの制限があるか……。それとも幻想郷のスペルカードルールをよくわかってない、新米妖怪の仕業か…。
どちらにせよ、キラではないわ。だってキラは、殺した奴を生き返らせたりなんてしないもの」
霊夢の中では幻想入りした"キラ"という妖怪が殺しを行ったという線から、
スペルカードルールを知らずに幻想入りして来た、新米妖怪の質の悪い悪戯なのではないのだろうかという線に、考えをシフトさせていた。
「霊夢さん、魔理沙さん」
霊夢が声が聞こえた鳥居の方に目を向けると、そこには二人の妖精が居た。
「あんた達…」
「実は霊夢さんたちに、お話したい事があるんです」
█
「あっはっはっは! どこで、外の世界の文房具を手に入れたかは知らないけどさ。妖精にしちゃあ、悪趣味な悪戯なんじゃないか?」
魔理沙は如何にも小馬鹿した態度で、大妖精達の話を真剣に取り合わなかった。
「本当です! これは呪いのノートで、名前を書かれた人が死んじゃうんです」
大妖精はそう言って、ノートを魔理沙に差し出した。
「んー、別にこれといった魔力やら妖気もないし、ただの黒いノートだと思うんだがなー」
魔理沙はノートをピラピラとさせながら、香霖堂で売りに行ったら幾らかの金になるのかなと、品見定めしていた。
「いえ、聞きましょう。この妖精達が悪戯のつもりなら、こんな手の込んだ小道具なんて、まず作れない。
妖精にしてみても、落とし穴を掘ったり、崖崩れ起こしたりする方が、ずっと面白いはずよ」
魔理沙からノートを取り上げた霊夢は、魔理沙とは対照的に、真剣な顔付きをしていた。
「……まぁ、お前たちが嘘をついている顔に見えないのは分かったよ。じゃあ、話をもっと詳しく説明できるか?」
いつになく深刻な表情をしている霊夢を見て、魔理沙もようやく大妖精の話を耳を傾ける気になった。
「最初に5人の名前を呪いのノートに書いたのは私です。でも、死ぬなんて思ってなくて…。それで、この消しゴムで、名前を消したら生き返ったんです」
「今度は消しゴムねぇ」
もうその手の話はうんざりと言わんばかりに、魔理沙は畳に寝転んだ。
「で、私はこのノートが怖くなって、捨てたんです。それを何故か、ホワイトちゃんが持ってて……」
「私は掃除当番で掃除してる時に、教室で拾ったんですよー」
「そう言えば、お二人以外でも、妖怪の偉い人達を中心に死んでいきましたよね?」
「あら? 知ってるの?」
「はい。今は消してありますけど、名前が書かれていました」
「どっちにしろ、私達を殺したのは、あんた達だって事はわかったわ」
「怒らないで下さい。これはホワイトちゃんの勘違いだったんです。ホワイトちゃんは、ブラックちゃんを自分で死なせたのだと…」
「霊夢さん達が聞き込みしに来た時、私がブラックを殺したのだと、疑われていると思って…。
そこで、このノートを偶然拾って、使い方を英和辞書で引きながら調べたら死のノートで、名前を書いたら本当に死んで……」
ホワイトは涙声になりながらも、事の端末を一つ一つ、思い出せる限り話した。
「みんなに疑われるのがどんどん怖くなってきて、手当たり次第書いていっちゃったんですよー……」
「どうしても信ぴょう性にかけるなー」
「……………」
魔理沙はともかく、霊夢は後一押しといった感触を感じた大妖精は、ノートが本物であると証明する方法を二人に提案した。
「もしここで、このノートの効き目を見せたら、信じてもらえますか?」
「…ここで試すっていうの?」
「ホワイトちゃん。ノートに私の名前を書いて!それで死んだら、この消しゴムを使って。 あっ、でも名前の後に"安楽死"って書いてね。痛いのやだから」
「お、おい」
魔理沙も大妖精の目から、只ならぬ様子を感じとり、止めようとした。
ホワイトはノートの紙面に雨粒程の涙をポタポタと垂らしながら、大妖精の名前を、
ノートに書き込んだ。
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_________________________Die_Green__あんらく死_______________________________________________
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「名前を書いてから、効力が発揮されるのは40秒後です」
数十秒間、部屋一面は4人の緊張感に包まれた。
そして、40秒後。その拮抗状態を崩すかの如く、大妖精の体が揺らめき……
「」
そのまま、湯呑みを引っ倒して、机に倒れ込んだ。
「ひいぃい」
「早く消しゴムを!!」
ホワイトは霊夢に言われるまでもなく、ノートの紙面ごと破くかの勢いで、大妖精の名前を擦った。
「あ」
名前がノートの紙面から完全に消し去られたのと同時に、大妖精は意識を取り戻した。
「だ、大丈夫なの? 大妖精…」
「もし信じられなかったら、不老不死の人にでも、試してみたください」
「そんな事しなくても、私達は信じるわ。これは正真正銘、本物の死の帳面よ」
「魔理沙。この事は絶対、他言無用よ」
「分かってるぜ」
「そして、あんた達も」
「はい!」
「こんな恐ろしい大量殺人兵器が、幻想入りしてただなんて………」
青ざめた顔で、霊夢は戦戦恐恐とした様子で、手に取ったノートを見つめていた。
こうして、デスノートの"一部"は、この四人の秘密として、四人の目の前で燃やされた。
█
結局の所、異変は、首謀者の存在が明らかにならないまま、博麗霊夢の心停異変収束宣言により、幕を閉じた。
幻想郷の名立たる有力妖怪を無抵抗のまま、一網打尽にした、この恐ろしい異変の記憶は、幻想郷から忘れ去られる事はないであろう。
-著・稗田阿求・幻想郷縁記・心停ノ異変より-
█
「やっと、終わったね…」
「うん。ごめんね、大ちゃん。私が変に勘違いして、騒ぎを大きくしちゃって…」
「違うよ。私があのノートを拾わなければよかったんだよ…。永遠亭の人たちにも迷惑かけちゃったし、今度謝りに行こうね」
「うん!」
█
「ずっと、見てたぜDie。お前さん、本当に利口だなぁ。まさか、デスノートの1ページ目と表紙を残して、後はただのノートのページにすり替えちまうなんてよ」
私は、STさんがニコニコとした様子に見えた。
「和帳面風のデスノートも、これまた新鮮だな」
STは大妖精の横で、和帳面表紙の死紙帳を一通り眺めた後、ホルダーへとしまった。
「で、どうだった? デスノートを使った者、書かれた者が最期に辿り着く」
「"無"の世界は?」
「なにもなかったよ、何も。ただ、真っ暗な闇がずっーと広がってて、音も、光も、感覚もなかった」
大妖精は今にも笑い出しそうと言わんばかりに、顔の表情筋を酷く歪めていた。
█
-4年後・廃倉庫にて-
「チルノちゃん、入ってきなよ」
今は使われていない、ある廃倉庫の中で、大妖精はチルノに呼び掛けた。
「いいの?」
「チルノ、あんたが鬼羅の代わりをやっているのは、わかっているわ。名前を書いたのなら、もう怖くないでしょう。さあ、どうぞ中へ」
輝夜は片足を立て、もう一方の片足は正座という、変なスタイルの座り方をしながら、今、倉庫の外に居るであろうチルノに呼び掛けた。
「そうだよ、チルノちゃん。隠れんぼしてないで、中へ入ってきて」
「わかった!」
ゴロロと重厚感ある音を立てながら、分厚い金属製の引戸が開かれ、薄暗い倉庫内に光が差し込んだ。
その光の中心に居たのは、目を赤く光らせながら、黒いノートを抱きかかえるチルノ。
チルノちゃん、ちゃんとやれたみたいだね…。
ンフフ。そろそろ駄目だよ、笑っちゃいそう。でもまだ堪えなきゃ…
大妖精は今にも吹き出しそうな様子だった。
「大ちゃん、あたい、ちゃんと言われたとおりに書いたよ!」
チルノは大声を倉庫内に反響させながら、ノートの名前の書かれたページを開いて見せた。
____________________________________________________________________________________________
__蓬莱山_輝夜___茨木_華扇__上白沢慧音___レイセン_______________________________________________
__紅_美鈴____霧雨_魔理沙___魂縛_妖夢__自殺__切腹____博麗_霊夢_________________________________
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「輝夜さん、私の勝ちです」
輝夜を勝ち誇った高圧的な態度で見下し、
顔の口角を吊り上げ、綺麗な歯並びをした歯茎を見せつけるかの如く、汚らしい笑みを浮かべ、勝利宣言した。
大妖精が勝利を宣言すると同時に….輝夜は苦虫を噛んだかの様な表情を浮かべた。
「…ッ! 永琳、ごめんなさい…。私は妹紅と…、二人でも、あなたを超す事が出来なかった…」
輝夜は体を前のめりに崩し、二度と起き上がる事はなかったが、輝夜のその顔は、まるで何かから解放されたのかの様な、安らかな表情を浮かべていた。
「うっ…うう…」
輝夜が倒れるのと同時に、華扇はブルブルと全身を震わせ汗が滲み出させていた。
「あああああああああっっ!!!」
「!!!」
時間通りだね。
デスノートの切れ端を仕込める様、河城にとりに改造させた、アポロ月面着陸35年を記念して2004個限定で作られた高級時計、
Speedmaster Professional MARKII限定版モデルの時計盤を嬉々とした表情で、大妖精は見つめていた。
大妖精は、永琳に、自ら監禁を名乗り出て、所有権を捨て、記憶を失い、しばらくして監禁を解かれ、再びノートの所有権を取り戻す為に射命丸文の名前を書き込んだ時と、
ミスティアを、ノートの切れ端を輝夜側に押さえられない様にする意味も兼ねて、口封じに殺す時にも、この時計に仕込んだノートの切れ端を使った。
河城にとりはこの時計の改造を終えた後、自身の工房で焼身自殺した。
28日にデスノートの存在を知る者全てが倉庫に集まる日に合わせて、偽の模造品のノートをチルノに使わせ、
その間、ノートから切り取った何枚かの切れ端で、鬼羅の裁きを請け負わせていた歌姫のミスティアを使い、模造品のノートを輝夜側に本物だと思わせる事に成功した。
チルノには大妖精が直接、28日までには、何があろうと本物のノートが保管されている貸金庫には近づいては駄目だと注意し、
用心に用心に、デスノートの切れ端をチルノの頭の上のリボンに仕込んだ。 そして、逆にノートが輝夜側にすり替えられてしまった万が一の為に、
名前を書き込むときは、ノートだけではなく、リボンに仕込んだデスノートの切れ端にも再度、大妖精を除く、倉庫に集まる者、全員の名前を書くように指示した。
「ああっ!! あああああ」
華扇は床に倒れ、胸を押さえながら苦しそうにのたうつ。
小水を膀胱いっぱいになるまで我慢していた為か、小水の水たまりを股間近くに作り、心臓麻痺による激痛からか、
足をバタつかせ、その水たまりを引き伸ばし、倉庫の床を穢していた。
「華扇!!」
美鈴と慧音が駆けつけるが、華扇は既に叫ぶこともなく、茹で上がった小エビの様に背中を丸め、縮こまったまま冷たく、動かなくなっていた。
「うぐっ!?」
「慧音さん!?」
「く、くそたれ……」
慧音は顔を真っ赤に染め上げ、華扇に折り重なるように倒れた。
「ひぃぃ! いやぁぁぁぁああああぁ助けて━━っ」
ノートのすり替えを失敗しておいて、無責任に逃げようとした卑怯者の鈴仙にも、死が訪れた。
倉庫の扉まで脱兎の如く、突っ走っていた鈴仙が、倉庫の重い扉を引こうと、取っ手を掴んだ瞬間。
そのまま、糸が切れた人形の様に、足元から崩れ去った。
「!…ぐふっ…う…う…」美鈴は顔面蒼白で、その場にひざまずく様に倒れ、痙攣し、目を見開いたまま泡を吹き、息を引き取った。
「」
「魔理沙!」
倒れる魔理沙を霊夢は後ろから受け止めた。
「大妖精ッ、貴様ぁ!」
至近距離で大妖精に剣を振るうが、何故か妖夢は切ろうとしなかった。
「な!! ど、どういう事だ!!!」
刀を大妖精に向かって幾度も振るが刃自体がまるで大妖精を避けるかの様に逸れる。
「そりゃそうですよ。デスノートは他人を巻き込む様な死に方をさせる事は出来ないんですもの」
ニコニコと笑みを浮かべながら、妖夢の最後の疑問に答えたあげた。
「剣の使い手である妖夢さんには、せめて自分の手で死なせてあげます」
「む……ね…ん」
大妖精が言い終える前に、既に刃の大部分を腹に挿し込んでいた妖夢は、無念の表情を浮かべたまま、首をカクンと下に垂らし、事切れた。
「…………大妖精」
「霊夢さん、後数秒です。何か言い残したい事はありますか?」
「あんたは神なんかじゃない。ただの……ただの…人殺し…!」
「よ」
ドクッ
心臓に針を直接何本も刺し込み、こねくり回すかの様な痛みが全身を伝う。
嫌だ死にたくない。死にたくない。逝きたくない。
たすけて、紫。魔理沙。小鈴。すいk_____________
「終わったようだな、Die。「いや神様よ」」
「ふふん! あたい達ってば最強ね!」チルノは誇らしく、胸を張った。
「まだ終わりじゃないよ。チルノちゃん、ST」
「これから……」
「今日から始まる、完全たる新世界。私達は、その心優しい世界を維持し続ける為にも、戦い続けなきゃいけないの…」
「へへっ、じゃあまだまだ、面白え事は期待できそうだな、Die」
「みんなー!! 春巻き弁当作ってきたましたよーっ!」
この場に似合わない、明るい笑顔で沢山の弁当箱を抱えながら、ホワイトは辺りから悪臭死臭漂う、死屍累累の廃倉庫に声を響かせた。
「じゃ、お腹も空いたし、お弁当みんなで食べよっか」
「うん! あたい、お腹空いちゃった!」
大妖精はチルノの手を握り、倉庫の光溢れる出口へと歩き出した。
「そうだ。なぁ、あれくれよ。そろそろ禁断症状が……」
「はい、ST」
大妖精はポケットから、みかんを取り出すと後ろのSTに投げた。
「おっと」
リューク…。俺は一生忘れられねぇ、とんでもなく、面白え奴に出会ったよ。
そして、そいつは、お前の言ってた人間が目指した"神"とやらになった…。
STは感無量な様子で、みかんの皮を剥き、一つ、一つ、食べた。
「やっぱり妖精って、面白!」
死神は三人の妖精の後に続いて、倉庫から歩き去ってゆく。
Thus councludes this story of the DIE NOTE.