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『森の中の紅い館』 作者: にっと
―ひどく静かな森の中で目が覚めてから、どのくらい歩いただろうか。
どうしてこうなったのかもわからず、携帯も一向に繋がらない、いくら歩いても広がるのは森ばかり。ただですらわけのわからない場所に来てしまったというのに、生き物の気配すら全く感じられないというのはかなり苦しい。身も心も、もう限界だった。
「はぁ、はぁ……っ」
ふらふらと木にもたれかかりながら倒れて、木々の隙間から僅かに見える青空を見上げた。光が見えただけでも気が楽になる……が、現状は何も変わらない。
「誰か、通りかからないかな……」
思わず独り言をつぶやく。しかし今まで歩いて来た道には人の気配など微塵も無かった。望みは……
「大丈夫ですか?」
突然、上品な女性の声が響く。慌てて起きあがって声の方向に目を向けると、ワインなどが入っているカゴを持ったメイド服姿の女性がこちらに向かって歩いていた。ミニスカートのエプロンドレスがスレンダーな痩身をより美しく際立たせ、カチューシャで押さえられた癖っ毛の銀髪が木漏れ日に反射して瑞々しく輝いている。
「あ……あ、あの……っ」
「可哀相に、迷い込んでしまったのですね。すぐそこですから、私が勤めさせて頂いている館で少しお休みなさって下さい」
銀髪の女性はそうつぶやくと、にっこり微笑んで手を差しのべてくれた。
遠くから見ても綺麗な人だと思ったけど、近くで見るとふんわりした銀髪の隙間から透き通るような蒼い目が見えて、ますます天使みたいだ。人に会えただけでも嬉しいというのに、それがこんな美人だなんて。
「あ、ああ、ありがとうございます!」
思わず声が上ずってしまいながらも手を取って立ち上がろうと、
「うわっ!」
思いっきりバランスを崩して、尻餅をついてしまった。銀髪の女性は目を丸くして心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫ですか?」
「いてて……だ、大丈夫です」
「余程お疲れなのでしょう、肩をお貸し致します」
そう言うと、彼女は低い姿勢になって細い肩を突き出してくれた。
「え、でも、貴女のお洋服が……」
「構いません。また尻餅をついて、お身体を痛められる方が気が気ではありませんので、遠慮無く」
「……ありがとうございます」
肩を貸してもらいながら、ゆっくりと彼女のお勤め先の館に案内してもらうことにした。
言葉通り、館までは数分程度で着いた。紅い色をしたゴシック調の大きな洋館だった。
「わぁ、こんな大きなお屋敷で働いていらっしゃるんですか、えっと……」
「十六夜咲夜。 咲夜とお呼び下さい」
「は、はい、咲夜……さん」
「くすっ。あなたは?」
「え、えっと……」
自分も名乗ると、咲夜さんは「まぁ」と息を漏らしながら微笑んだ。
「なるほど、良い名前ですね……さぁ、門に向かいましょう」
門の所に行くと、中華風の格好をした背の高い赤毛の女性が門を背に腕を組んで仁王立ちしていた。一切の隙を見せない凛々しい顔立ちで構えていたが、こちらに気付くなりパッと気の抜けた表情になった。
「咲夜さん。おかえりなさい」
「ただいま、珍しくちゃんと起きてたのね。とても良いことだわ」
咲夜さんが優しい言葉尻とは裏腹にお局様のような睨んだ視線を向けると、見下ろしているはずの赤毛の女性は「うっ、」と気まずそうにたじろいだ。
咲夜さんが厳しいのか、それともこの人がさぼりすぎなのか……。
「あはは……それで、その人は?」
「そこの森で倒れていたの。外の世界に帰す前に、館で一旦休ませようと思って」
「そうですか……あ、初めまして。門番の紅美鈴と申します」
赤毛の女性……ほん・めーりん、さん? は帽子を脱いで礼儀正しくペコリ、とおじぎをした。
「あ、初めましてっ」
つられるように挨拶する。……なんというか、咲夜さんは天然っぽくてちょっぴりクールな雰囲気の美人だけど、こちらは美人ながらに愛嬌があって親しみやすい雰囲気だ。
「それじゃ、引き続き頼むわね」
「はいっ」
それだけ言って、屋敷の中へと足を運ぶ。
……気のせいか、めーりんさんが寂しそうな目をこちらに向けた気がした。
妖精のような羽根飾りを付けた無邪気なメイド少女達と数回すれ違いながら歩いた屋敷の中は、外観以上にとても広く感じた。
内装は高級感のある上品な装飾品から……正直、お世辞にも趣味が良いとは思えない成金くさい置物まで、少々混沌としているものの、まるで美術館みたいだった。そんな道中をひとしきり歩いてから大きな扉の前に立ち止まって、
「ではお嬢様にお伝えして参りますので、此処でしばしお休み下さいませ」
「え、わっ!」
咲夜さんの手が緩んだかと思うと、いつの間にかクッションの柔らかい小さな椅子に腰掛けていた。
「えっ? 今、何が……」
「私の特技、ほんの手品でございます。まだお召し物がひどく汚れたままでしたので、客人用ではなく私の椅子で申し訳ありませんが……では」
「あっ」
こちらの驚きを尻目に、咲夜さんは扉の向こうに消えてしまった。
……数秒後、扉の向こうから、内容まではわからないものの話し声が聞こえ始める。
ひとつは咲夜さんの声。もうひとつは……小さな女の子だ。だけど、話す口調は明らかに小さい子のものではない。時折くだけた感じにはなるものの、威厳に満ちていて、自分より何十歳も年上のように思える。話す声色しか耳に届かないのがひどく不気味だった。
「お待たせしました」
「わわっ」
咲夜さんが唐突に扉から出てきたので、危うくこけそうになった。
「お嬢様が言うには、まず身なりを清潔にして、それから会いたい。だそうです」
「は、はぁ……あ、さっきは驚きましたけど、椅子まで用意して下さってありがとうございます!」
当然のことを言ったつもりだったが、咲夜さんはまたも目を丸くして驚いている様子だった。
「いえ、むしろ良い椅子を用意出来なくて大変失礼をいたしました」
こんなにフカフカの椅子が良い椅子じゃないだって? お金持ちの感覚ってわからない。
「では、浴場にご案内致します」
咲夜さんが肩を貸そうとしてくれたけど、もう十分休んだので断り、歩いて後についていった。
「こちらです。大浴場ではいくら言っても騒がしいメイド達が乱入してきて落ち着かないと思われますので、個室に入って頂きます」
「は、はぁ……」
しかし、それでも一般家庭のお風呂場なんかよりずっと広い。おそらく大理石で出来た浴室に、上品で高級感のあるデザインのシャワーと猫足バスタブが置いてある。正に絵に描いたような貴族の浴室だった。
「では、ごゆっくり」
それだけ言って、咲夜さんは戸を閉めた。
「ふぅ……」
身体を洗ってから湯船に漬かって、今までの出来事を思い返してみた。
生気の無い森、その森の中にある洋館、手品の次元じゃない技、怪しげな……『お嬢様』。
怖いことだらけだけど、咲夜さんは親切にしてくれるし、他のメイドさん達は無邪気な感じだし、門番の……えっと……めーりんさんも、優しそうだし。とりあえず今は安心してもいいのかな。
「湯加減はいかがでしょう」
「ええ、とても良い湯加減で……わぁっ!」
いつの間にか咲夜さんが……タオルで隠そうともせず、そのくせ顔を赤らめたまま裸で立っていた。とっさに咲夜さんに背を向ける。
「えええ、あの……咲夜さん?」
「あの……嫌、でしたか?」
「い、いえ、ただ……びっくりして」
誰だって、さすがにいきなり裸で来られるのは驚く。
けど、それを差し引いても……一瞬見えただけでも……色白で、華奢だけど骨張ってなくて。咲夜さんの身体はすごく綺麗だった。館の中には豪華で上品な美術品もたくさんあったけど、それらよりも、ずっと……美しいと感じた。
「あの、私……大変お恥ずかしいのですが」
「!」
咲夜さんが湯船に入って来たと思ったら、背中いっぱいに吸い付くような柔肌の感触を感じた。
―鼓動が、速まる。
「誰かとこうして……身を寄せ合うのが、たまらなく嬉しいのでございます」
「あ、あ……の……」
誰かにこんな風にされた経験はない。だけど、それよりも……こんなに綺麗な人が、艶っぽく息を荒くしながら肌を密着させているなんて。強く脈打つ自分の心臓の音がうるさい。
「嗚呼、とても……暖かいですわ……心地良い」
「さ……く、や……さ……」
「お顔を、お見せ下さい」
半ば強引に向きを変えられた。身体から目をそらそうとして……咲夜さんの恍惚とした表情が、眼前に広がり、互いの荒い呼吸が生温く混ざり合う。
「ひとつだけ、私のお願いを聞いて頂けますか?」
「え……?」
「私と、ひとつになって下さい」
―自分の中で、何かが砕けた気がした。
「嫌、でしょうか?」
「い、いえ……」
さっきまで、目をそらしていた身体に目をやる。呼吸で上下する白い胸と腹。長くスラリとした足。舐めるように見つめるほど欲望が駆り立てられて……理性が奪われていく。
「ほ……本当に、良いんです、か……こんな、会ったばかりの、客人に……」
「はい。はしたないとはわかっていますが、一刻も早く、あなたと……」
あと数ミリでキスする寸前。最早、選択の余地など無かった。
「は、はいっ……咲夜さんと、なら……むしろ……」
「まぁ! 嬉しい……」
とうとうキスをした。味わうように唇をついばまれるのが柔らかくて、暖かくて、気持ち良い。キスされただけだというのに、昇天してしまいそうだった。
「ん、はぁ……咲夜も、幸せでございます」
「はぁ、あ、さく、や、さぁ……ん」
「さぁ、ひとつになりましょう」
ひやり。
一瞬。
両手両足首と首から重く冷たい触感を感じたと思ったら、脇腹辺りからも冷たさと、焼き付けるような熱さが一度にこみ上げてきた。
「げぼっ……ぁ、く?」
喉を生温い液体が通る。声が思ったようにでない。
暖かいバスタブではなく、冷たい手術台のような台に乗せられて、手枷足枷首輪で拘束され、逃げられない。
「ああ、なんて心地の良い……」
「が……ぐがぁ……が? あ、あぁあ・・・!」
先ほどと全く変わらない妖艶な笑みをたたえたまま、咲夜さんが血塗れのナイフを握っている。
「もっと、もっと、感じさせて下さい」
ざしゅ。ざく。ざく。ざく。ぐちゃ。
いたい、いたいあついやめていたいあづいあぁああああああああああ
「おごっ! ぷげぇっ! げぼ・・・げぼぉっ!!」
「嗚呼、本当に、暖かい、暖かい。」
ぐちょ。ぐちゅ。ぐじゃ。
「ああぁ!!あああ、はああ、あ、ぁ、ぁ……ひゅぅ……ひゅぅ…………」
あ、もう、感覚がなくなってきた。死ぬのかな。
でも、目の前の、紅い瞳で微笑む天使に送ってもらえるなら、それもいいかな、なん、て、
「咲夜は、本当に幸せでございます」
―――。
「遅いわよ咲夜。予想はしていたけど、久しぶりの獲物だからといって浮かれすぎね」
「申し訳ありません」
着替えを済ませた十六夜咲夜がひどく申し訳なさそうに頭を下げる館の主レミリア・スカーレットは、少々苛立ちながらも優雅に腰掛けていた。
「本当、人間って自分の欲求の前には下品で卑しいケダモノになるのよね。特に、女のソレは尾を引いてて気色悪い」
彼女は自らの従者に、汚らわしいものを見るようなひどく冷めた視線を向けた。
それを受けて今更ながら恥ずかしくなったのか、咲夜はまだ行為の余韻で火照っている身体を震わせながら朱色に染まった顔を俯かせ、
「たいへん……恥ずかしく、思っております」
と、消え入るような声でつぶやいた。
その扇情的な仕草を、レミリアは興味なさげに「ふん」と息を漏らして視線を外し、リラックスした様子で紅い液体が入ったティーカップをみつめる。
「初めまして人間。うちのメイドの欲求不満があんまり溜まってたものだから、こんな形での初対面になっちゃったけれど」
ままごと遊びのように語りかける真似をして、レミリアはティーカップに優雅な口づけをした。
「ああ、美味しいわ……咲夜、そろそろ下がりなさい。図書館の魔女がフランを連れてくる頃よ、いつだって会わせたくないけど今の貴女は増して血の臭いがひどいから教育に悪すぎるわ」
「かしこまりました」
咲夜は丁寧におじぎをしてから早々に姿を消そうとしたが、レミリアが「ちょっと」と声をかけて引き留めた。
「咲夜。口の端のカスが取れてないわよ」
「あら、私としたことが……度重なる無礼をお許しください」
「まぁいいわ、許してあげる。次から気を付けなさい」
「お嬢様の寛大なお心、痛み入ります」
咲夜はレミリアに妖艶な笑顔を向け、ドアの向こうに消えた。
終
- 作品情報
- 作品集:
- 11
- 投稿日時:
- 2015/01/04 08:37:27
- 更新日時:
- 2015/01/04 17:37:27
- 評価:
- 4/5
- POINT:
- 430
- Rate:
- 15.17
- 分類
- 十六夜咲夜
- ホラー?
- 幻想入り
- 紅魔館
- 微エロ
- グロ
咲夜さん、ちょっとお遊びが過ぎたのかな?
おぜう様は部下の前だから、親友のパチュリーの事を回りくどく言っているようですね。
何だかんだ言って、『獲物』を咲夜さんの好きにさせたレミリアはカリスマ溢れる紅魔館当主様です。
こう奇を衒わない展開、素晴らしいです咲夜さんエロい