バレンタインデーチョコ

「アリスー、今日は何の日だー？」
　ガバンとドアを蹴破って不法侵入を果たす魔理沙。アリス邸は今日はなんかくさい。鼻に若干つーんとくる。
「魔理沙、いらっしゃい。待ってたわ！」
出迎えるアリス。エプロン姿が可愛いく、頬などについたチョコが愛らしかったがなんかくさい。
「今日はバレンタインとかいうおっさんの命日だからチョコ持ってきてやったぜ！」
　魔理沙が取り出したのは赤と黄色のリボンに包んだ青い箱。それを受けとれと言わんばかりにアリスに押し付ける。
「わー、ありがとう魔理沙！　……あれ、甘いにおいがするわ？」
「は？　チョコなんだから甘いにおいするに決まってんだろ」
　その瞬間、アリスはクジラが空中で三回転半ひねりこみ飛びしたのを目撃したかのような表情になる。
「え？　チョコ？　これにチョコが入ってるの？　なんで？」
「は？」
　魔理沙の理解は追い付かない。バレンタインと言えばチョコを渡すのが普通ではないのか。変化球としてクッキーやケーキを渡すことはあるだろうが、アリスの反応はそんなレベルではない気がした。
「じゃあ何が入ってると思ったんだよ」
「うんこよ、魔理沙の」
「は？　……は？」
　魔理沙の理解が追い付けない。アリスの発言はまるでウサイン・ボルトのようだった。追い付けない。
「チョコといえば茶色。茶色といえば古今東西老若男女うんこに決まってるじゃない」
「おまえはなにをいってるんだ」
　理解が追い付かなさすぎて思わず真顔になる魔理沙。ここでふと、あることに気がついた。アリス邸にきた瞬間からくさかった。そのくささを例えるなら、公衆便所の個室のにおいに近かった。
「おまえ、おまえまさか、今日用意したチョコってまさかおまえ……」
「私のうんこ(出したて新鮮生搾り)よ！」
　そう言って満面の笑みでくっさい箱をつき出してきた。頬などについてたチョコはうんこのようだ。
「お、ま、ふざけんな！」
　思わず全力でローキックをかましてしまった。アリスは悲鳴をあげると、膝から崩れ落ちる。しかし、プレゼントはしっかりともって離さない。
「ああ、魔理沙、あなたの愛が痛いわ」
「これが愛なら戦争は婚活だな」
　冗談じゃない、こんな異常な空間に居られるか、私は帰る！　とクルリと背を向けて玄関から飛び出そうとした、が、がしりと体をなにかに捕まれた。人形だ。うんこくさい上海だ。
「シャンハーイ(てめぇも道連れだ)」
「う、うわぁぁぁくせえぇぇえ！　はなせぇぇぇ！」
　引き剥がそうともがくが、次々と人形たちは魔理沙の体を押さえ付けていく。とうとう身動きの取れなくなった魔理沙。そこに、痛みから立ち上がったアリスが、プレゼントを明けながらフラフラと近づいてくる。
「一度、やってみたかったのよね。はい魔理沙、あーん」
「あがぁぉぁぁぁぉぉぉぉぁぁ！」
　上海のうんこくさい手で顎を固定され、アリスの手に握られた、にちょっとしたチョコ(隠語)が近づいてくる。もがこうにも指一本動かすことはできず、アリスの指が迫るごとにうんこのにおいは強く強烈になっていく。
　そして、ついに……。
　にちょっとした感触と強烈なにおい、そして苦みが口内に広がる。
「おぶぇ、おべぇぇぇ！」
　涙と鼻水と唾液と胃液を撒き散らしながら、口に侵入したチョコ(汚物)をかろうじて排出する。大きな異物感こそ消えたが、苦みやにおいは強烈に口内に残存している。
「おげ、おぅえぇぇ！　げぇぇぇ！」
「あら、魔理沙ったら、もったいない。ああ、そっか。一口がちょっと大きすぎたのね。ごめんなさい。次はちょっと小さめにね♪」
　そう言って、本当に小さめに指でつまみ、再び近づけてくる。
「や、やらぁ……もうやらぁ……ゆるひて……」
　涙を流し懇願するが、アリスは聞き入れない。再び口内に異物感。あわてて吐き出そうとするが、かしっとアリスに口と鼻を塞がれてしまう。強烈な味とにおいに、半分失神し白目を向き、鼻水と涙をとめどなく垂れ流しながらようやく飲み込んだ。
　喉元過ぎれば、とはよく言われるが、うんこは喉元過ぎてもくさくて不味い。
「うふふ、美味しい？」
「ふ、ふざ、おえぇぇぇ！」
　文句の一つも言いたいが、吐き気が絶え間なく襲いくる。
「まだまだたくさんあるから、いっぱい味わってね♪」
「もうやだぁ！　許して、許し……おぶぶぇぼぁ！？」
　今日は、ウァレンティヌスと魔理沙の命日となってしまった。