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『封印された地獄にて』 作者: まいん
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
オリ設定、オリキャラが存在します。
何が罪かと言うならば、弱い事が罪であった。
若く美しい鬼の女性が居た。 その者は若くして二児の母であった。
子は溌剌で母思いで、凡そ鬼に似つかわしくない。
それが周りの鬼にとって気に入らなかった。
雲の塊と言っても過言でない老紳士と男児は対峙していた、老紳士の名は雲山。
今この場で未来に光溢れる男児二人を亡き者としなければならない。
それが、彼に与えられた任務であった。
男児は母を守る為、その身を以って雲山の進撃を遮っている。
そんな姿に一瞬の躊躇いが呼び起こされた。
だが、すぐに目的を思い出す。 すべては友の為、虜とされた大事な主君の為であった。
目から溢れた涙は滝となり、時雨の様にさめざめと流れ落ちる。
正義感とも取れる言葉と共に雲山の手に掴まれ様とも男児の口から泣き言は出て来なかった。
ただただ、母の為に進んで肉塊へと変わって行った。
子の変わり様に、気でも違ったかの様に叫ぶ。
しかし、周りの……その者を狙っていた数十の男の鬼が、その身を捕え自由にさせなかった。
子の死と共に、その亡骸の傍に押し倒され、たちまち服が剥ぎ取られる。
二児を生んだとは思えない裸体が衆人の元に晒された。
舌なめずりをする男達は、すぐさま襲い掛かり、子の死を嘆く女を性欲の餌食とした。
周りの誰もが雲山の事を気にしていなかった。
彼は泣いていた。 童である男児をその手に掛けた事を嘆いていた。
だが、それも受け入れる。 すべては大切な友人の為。
骨が粉々に砕ける感触が手に残る。 最早、何人の前途ある若者を手に掛けたか覚えていない。
これからも、大切な友人をだしに、彼の手を汚させるのであろう。
一人の女に群がる獣の咆哮を耳に、赤銅色の天井を見上げた。
地底に落とされてから会えない友人の無事を祈って自身の愚かさを静かに嘆いた。
〜〜〜〜〜
ここに捕えられ何百年になるか。 彼は知り様が無かった。
仕事の時以外は目隠し猿轡をされ、腕には戒めがあった。
すべて金属製の鎖が着けられ脱走は無理である。
彼にとって一番の鎖は言葉である。
「逃げたければ逃げれば良い。 だが、一輪ちゃんがどうなるかなぁ?」
何も言い返せず、反抗は出来なかった。
今でも思う。 あの時、多少の犠牲を払ってでも彼女を守っていればと……。
今でも聞こえる。 彼女が最後に発した言葉を……。
「大丈夫。 大丈夫よ雲山。 きっと……きっと皆助かるわ」
気休めである事は解っている。
だが、雲山自身が暴れない様に、傷つかない様に能力を行使されてしまえば、抵抗は出来なかった。
いや、抵抗は出来た。 自身の身体がバラバラになり、二度と生きられない体になる事を引き換えには出来た。
後悔は続く、もう涙は出ない。 涙を出すには、手を汚し過ぎた。
鎖の音は立たなかった。 脱走する気は最初からない。
ただ、大切な友人にして、主君とも呼べる者の無事を祈る事しか出来なかった。
「雲山、仕事だ。 いつの通り最初に言っておく、断っても良いんだぞ……?」
答えなど決まっている。
目隠しを外された目にある輝きは、溶岩とも形容できる暗く鈍い光である。
鬼を睨み付ける様に目を合わせると、言葉を発さず静かに頷いた。
俺の罪は弱い事、一輪を守れなかった弱さが罪だ。
抗えない自信の弱さを歯噛みし、鬼の言った仕事に向かうのであった。
〜〜〜〜〜
地底は、地上を追放された鬼の楽園である。
そこに住んでいるのは鬼だけではない。 奴隷たる妖怪が大なり小なり存在する。
支配者が鬼である事実は変わらない。
そして、横暴な鬼に対して奴隷達が静かに従う筈がない。
数年に一度、または短い期間で暴動や反乱が起こる。
その度に奴隷階級たる妖怪や人間は手酷い打撃や見せしめを受ける事になるのだ。
だが、それが治まる気配はない。
今回は誘拐された河童や天狗達だ。
自慢の発明品。 外の世界の機械仕掛けを設計図や図面から複製した物。
自慢の速度。 天狗に与えられた一級品の才能。
連携も良く取れ、戦いが始まる前から苦戦が強いられる事は間違いなかった。
鎮圧側たる鬼が一度苦境に陥れば、駆けつける暴徒は増々多くなる。
百戦錬磨、一騎当千の鬼達であっても額に汗を浮かべる程であった。
だが、鬼側には切り札があった。 まともにぶつかり合っても勝ちは揺るがないのにだ。
それは、雲山だ。
戦闘能力は一級品。 それでいて(人質の効果もあり)従順。
奴隷である為、死んでも問題が無い。
彼の到着と共に突撃の銅鑼が高々に鳴らされた。
積乱雲の如き巨大さを見せ付け、台風の如く反徒達に突入を始めた。
大きさに見上げた妖怪達はことごとく首を刈られていく。
風の吹く筈のない地底にて、龍の如き巻風が辺りを包み、発生した真空波は狂い龍の如く暴れ回った。
この日の為に拵えた自慢の障害物は、大自然の猛威と同等の力に意味はなく。
巻き上げられた木材や土塊は自軍を死地に追いやった。
河童の発明品が火を噴いた。 機械仕掛けの弩だ。
だが、大自然の猛威たる暴風に何の意味があろうか? 雲山に多少の傷を負わせたに過ぎない。
飛翔自慢の天狗達が一斉に飛立ち、決戦を挑んだ。
彼等に撤退は無い。 負ければ一族郎党仲間事処刑され、奴隷の憂き目に戻るだけなのだ。
だが、大自然の猛威たる暴風に何の意味があるだろうか?
発生した突風、旋風、さらに真空波の前に自慢の機動性なぞ意味が無かった。
風を利用する天狗が風に勝てないのは自明の理である。
地より飛び立った天狗達はバラバラに解体され、血の雨と共に肉と臓物の塊と姿を変えて地に戻った。
地にて応戦した河童達は飛び交う木材や土塊に襲われ、まともに戦う前に潰走状態に陥った。
恐慌状態に統率は利かず、泣き声と叫び声だけが木霊した。
そこに、現れた影。 雲山をけしかけ高みの見物をしていた鬼達だ。
ニヤニヤと恐慌に陥る様に嫌らしい笑みを浮かべ、高笑いと共に傷ついた河童の頭を金砕棒にて粉砕した。
再び叫び声が辺りに響いた。
この地域全体が天狗や河童の集落。 ともすれば、欲に狂った鬼が戦に紛れて何をするかなぞ想像に難くない。
割れる窓、泣き叫ぶ子供、女の声。
子供の前で服を剥がれ、天狗の女が犯された。
器量良い河童の少女が鬼に犯され股を裂かれた。
天狗と河童の仲の良い少年が生きたまま鬼に呑み殺された。
今日の成果を縄で繋ぎ意気揚揚と連れ出す鬼達。
天国と地獄。 そう例えるのが酷な状態である。
悪鬼羅刹の所業。 阿鼻叫喚の地獄絵図が広がった。
その中で宙を漂う雲山は静かに見下ろしていた。
龍の如き暴風は鳴りを潜め、泣くが如き高い音が静かに響いていた。
未だ止む事のない、血の雨は彼の目に結露し悲しんでいる様でもあった。
己の無力を恨む。 然れども大切なのは友人である。
(俺を恨んで良い。 お前達の無念は俺が連れていく。 だから、どうか……友人を返してくれ……)
いつ晴れるとも分からぬ闇の中でもがいている。
数百年以上経過した事を知らない雲山は友人の無事を願いつつ、鬼の戒めを受けていた。
〜〜〜〜〜
本人が知らない時間の経過。 時に焦る時もある。
静かな牢屋に一つの音が響く。
ガチャ……。
そういう時は監視の鬼が一言言う。
「不満か? 別に良いが一輪ちゃんがどうなっても良いのか?」
沸騰を始めた頭が沈静化する。 友人を助ける為に、解放して貰う為に我慢している。
それを無駄にしてなるものかと。
「そうそう、お前が俺達に従えば、一輪ちゃんは返してやるからな」
いつ返して貰えるかは分からない。 だが、今でも彼は一輪の言葉を信じている。
逃げ出した所で鬼達は、容赦せずに一輪を殺すだろう。
それでは意味が無い。
一輪を守ると心に決めた。 その誓いを無駄にする訳にはいかない。
「大丈夫。 大丈夫よ雲山。 きっと……きっと皆助かるわ」
昔の言葉が、今でも耳に残っている。
目隠しをされて、光の届かないこの状況でも顔をハッキリと思い出せる。
耐え忍ぼう。
他ならぬ彼女が言ったのだ。 だが、今日だけは酷く落ち込む。
涙は流れなかった。 嗚咽も漏れなかった。
静かに歯を食いしばり、弱い自分を許して欲しいと大切な友人に願った。
〜〜〜〜〜
何故、鬼が女や子供を攫うか? 理由は決まっている。 繁殖の為だ。
大概の者は、子供を産めず鬼の責苦の前に死んでしまう。
運良く生きながらえても、腹を裂いて生まれる子に殺されてしまう。
そこに妖怪や人間の差はない。
周りで次々と死んでいく。 死んでは補充され、そして死んでいく。
心や体を壊して死んでしまえれば、どんなに楽か……。
牢獄に入れられて数百年。 毎日、目覚める度にそう思った。
最初に着ていた僧衣や頭巾はもう無い。
背中の大きな紋様の刺青と首と腕にある小さな数珠だけが残っていた。
牢が大きな音と共に開かれると、これまた大きな図体の鬼が何人も入って来た。
叫び声の上がる中、件の少女も空色の髪を掴まれて立ち上がらされた。
苦痛に歪む顔に舌を這わせる鬼。
下腹には彼らの得物の金砕棒の様に天に向かって屹立する剛直が摩天楼の如くそびえていた。
先端から漏れ出る汁と共に秘裂にあてがうと、誰も彼もが同じく差し入れた。
秘裂を裂き拡げる剛直。 一部は痛みに叫び、一部は痛みに耐え忍び、一部は……。
その一部に当たってしまった鬼は酷く悪態を吐いた。
「……っち! ガキも孕めない糞が!」
そうして、他の女を共同で使う事になる。
女の生存は絶望的であろう。
空色の彼女の秘裂付近は鬼の剛直によって少し裂けていた。
更には大きさが合わず、擦れてしまった事によって血が滲んでいる。
彼女の秘裂に抜き差ししている剛直には薄らと紅が見て取れた。
彼女は目を瞑って、耐えていた。
口に他の鬼のモノを咥えさせられていた事もあった為、痛みに歯を食いしばる事も出来ない。
まこと酷な状況である。
日が射さない地底であるが、夕から夜通しで行われる狂宴。
普通の人間なら死んでもおかしくない。 だが、彼女は妖怪。 正しくは元人間の妖怪。
鬼の剛直にも耐えられ、鬼子の出産に耐えられるのは、皮肉であった。
以前は少女然とした、引き締まった体をしていたが、今では腹、特に下腹の皮が弛んでいる。
乳は不自然な膨らみがあり、何度も打ち付けられたであろう尻も子を産むに適した形に成長していた。
一児の母どころでは無い出産を経験したと、体が物語っている。
「……っん……ふっ……ん……」
散々弄られた体は、この状況に慣れていた。
痛みは少なく、以前の様に取り乱して暴れる事も無くなった。
今でも夢見る、自分に愛を教えてくれた恩人との生活を……。
自分を大切な友人、主君として守ってくれた友人の事を……。
「大丈夫。 大丈夫よ……」
昔に言った事を朧気に思い出す。
戻りたい、出来る事なら戻りたい。 頭の片隅に思い浮かんだ都合の良い状況。
それも、鬼の荒げた息遣いと震える身体。
そして、胎内で暴れる律動と吐精感に現実に引き戻された。
ビュクビュク、と腹が膨れていく。 一回の射精で注がれる精液は人間の比ではない。
口で心地良くしゃぶらせていた鬼は、膣を楽しんでいた鬼に悪態を吐く。
それも、場所を変わった事ですぐに機嫌が直った。
今まで彼女の膣を使っていた鬼は、顔前にソレを突き出す。 彼女の胎内に入っていたモノだ。
最初の頃は嫌がり散々叩かれた。 今思えばよく生きていたものだ。
今度は死ぬかもしれない。 大切な人、大切な友人に再び会う為に死にたくない。
ほとんど躊躇はなかった。
静かに口に含むと音も上げずに自分の中に入っていた剛直をしゃぶり綺麗に舐め上げた。
その横で女がまた死んだ。 明日の彼女の姿かもしれない。
皆が目を背けたのは、生きたいと誰もが思ったからだ。
また女が狂った。 嗜虐的な鬼は死体や半死体を使わせた。
また死んだ。 また死んだ。
今は生きている。 明日も生きたい、死にたくない。 生きる為に、どの女も必死であった。
〜〜〜〜〜
体中が痛む中、目が覚めた。
また、生き残ってしまった。 本来は喜ばなければいけない事。
だが、どうにも喜べる筈も無い。
生き残れば、生き残っただけ、鬼の責苦を受けなければならない。
望まない子を産まなければならない。 産んだ子に犯されなければいけない。
空色の髪の彼女……一輪の腹にも子供が居る。
また、子を産まなければならない。
母、故に、殺してしまいたいという気持ちは無かった。
「きっと……きっと……皆助かる」
一言呟いた言葉は根拠も自信もない。
だが、生きていればきっと良い道は見つかる筈、何より自分に愛を説いた人物は身を以って信じる道を教えた。
周りの女も、のそのそと起き始めた。
食事なぞ無い。 だから生きる為に女は死体を喰らった。
道を説く者も居る。 騒ぎ立てるだけで意味がない。
ここには、食料が無いのだ。
一輪は食べない。 血を啜ろうとも、人は食べない。
それは、大切な人から教えられた事だからだ。
他の肉なら食べただろう、だが人は食べなかった。
一人の女の気が狂った。 奇声を上げて入り口の鉄柵を叩いた。
手が破れ、血が手や肘から滴る。 鉄柵が血に塗れる。
騒ぎを聞き付け、鬼がやって来た。
希望を見出し、都合の良い妄想が女を支配した。
ガスッ!
入り口から奥に脳が散乱し、近くにいた女に降り注いだ。
何も言わずに鉄柵の隙間から女を物の如く引き出す鬼。
肩や肘など、引っかかる部分は力ずくで引っ張り出す。
ゴキ、ベキと耳を覆いたくなる音が響く。
最早、慣れた光景の女達は思考が麻痺していた。
何ら気にする事も抵抗する事もなかった。
〜〜〜〜〜
何人殺したか、彼は知り様が無かった。
ただ、友人と再開する事だけを夢見て、操り人形を演じていた。
友人の名を言われれば抵抗が出来ない。
血を受けて目から流れる鮮血は、まるで涙の様であった。
鬼に抵抗する妖怪達も数百年も経てば嫌でも理解してしまう。
鬼の妖術に、神通力に使役する妖怪に、何もかも勝てない事を。
その日も反乱鎮圧の為に雲山が駆り出された。
勿論、彼の友人の名を騙り脅した上でだ。
何十倍、巨大な積乱雲と化した雲山が無差別に攻撃を始める。
さながら、空にそびえる無敵要塞とでも言おうか。
地底の空より降り注いだ雷撃は反乱側の用意した障害物を粉々に打ち砕いた。
その衝撃たるや、辺り一面を揺らす事数瞬。
敵味方が一瞬慄いた。 まるで巨大な地震でも起こったのかと思ったからだ。
飛び火した火の粉は、たちまち火炎竜に姿を変え集落を焼いていく。
彼自身が起こした風がその勢いを増させた。
戦況は決した。 最早戦う必要はない。
未だ小競り合いの続く乱戦地。 体を元に戻しながら降り立った。
誰も彼を気にしない。 姿の戻った彼はただの老紳士と変わりない。
誰かが傷付け、誰かが殺す。
だから、彼の事を気にする必要がないのだ。
ドスッ……。
そんな雲山に小刀が突き立てられた。 咄嗟に振り向いた。
そこに居たのは、懐かしい顔であった。
どこか面影がある。 浅黒い肌に空色の髪。
少年であったが、気にしなかった。 気が付かなかった。
ただ、昨日を悔やむだけであった瞳に光が戻る。
頬に手を伸ばす。 触れたかった。これだけ近ければ助けられる。
少年の小刀が脇腹から抜かれ、雲山の手を切りつけた。
浅い傷。 彼にとってはその程度の傷であった。
それでも彼が止まる事はない。 戦闘の中で錯乱している。 そう思っただけであった。
まるで、女王虫に誘われる虫の様である。
傷つき、傷つけられ、それでも少年への執着は止まらなかった。
「雲山! 何をしている!」
乱戦の中、彼を拘束する鬼の一人が気が付いた。
雲山を失う訳にはいかない。 損得勘定だけでの計算結果だ。
まだまだ、甘い蜜を吸う為に必要だから、脅して生かしておく。
それだけの為に声を荒げた。
一方の雲山は鬼を睨み付けた。
彼が従っていたのは、一輪をだしに脅されていたからだ。
その一輪さえ取り戻せば従う必要はない。
長い別れは確実に記憶を薄れさせていた。
「この、糞餓鬼が!」
振り向いていた、その一瞬である。
別の鬼が振るった金砕棒が少年の顔面を粉砕した。
雲山の時が限りなく停止に近い状態となった。
自分の大切な友人(の面影を持つ少年)が目の前で顔面を砕かれた。
砕けた歯や骨が舞う。 血が球状となって飛び散る。
鮮明にゆっくりと目に焼き付いていく。
「お……」
泣く事を忘れた目に涙が溜まっていく。
「おお……!」
体が自然に動き、少年を抱き寄せて護る様に蹲った。
目から止め処なく涙が溢れた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」
彼の咆哮は辺りの怒号にかき消され。
積み上がる死体の中に隠れていった。
〜〜〜〜〜
「っち、面倒臭え……」
死体の散乱する中、鬼達はあるものを探していた。
彼等の思い通りに働く、奴隷である。
「お……見つけたぞ」
死体の重なった中に鬼と見紛う巨大な肉体。 雲の様な白い肌。
意外と苦労せずに見つかった。
腹の下に足を入れ、仰向けに転がした。 腕の中には顔が潰れた少年が大切に抱き締められていた。
嘲笑の大笑い。 雲山は耳障りな音に目を覚ました。
「手前はホモか? そんなガキを後生大事に抱き締めやがって!」
記憶が戻って来る。 先日、ついに一輪と再開をし、こんな地獄から逃げおおす筈であった。
少年の骸を胸に抱き気が付かぬままに、むくりと立ち上がる。
「おっと、刃向う気か? お前の大事な一輪がどうなっても良いのか?」
そうして、雲山の抱き締めているものに金砕棒が向けられる。
鬼の余裕な表情に一瞬の隙が生まれる。
だが、鬼が襲い来る様子も無い。
抱き締めている者から反応も無く、体温さえ感じられない。
はっ、とした表情で抱き締めていた者を確かめた。
浅黒い肌。 少女と見紛う引き締まった体。 空色の髪。
顔は潰れて絶命していたが見覚えがあった。
何百年も昔の様に感じる。 自分の大切な友人であった。
自然と涙が溢れた。 守れなかった。 誓いながら守れなかった。
戦意を失った雲山に戒めが取り付けられていく。
その光景を滑稽に眺め、ニヤニヤと顔を歪めて笑いを堪えていた。
「……おい、こいつに見せてやろうぜ」
鬼の一人が仲間に耳打ちする。 すぐに何の事か察した鬼は、悪巧みに乗る事にした。
周りが何かと聞くと、隠さずに答えた。
誰も彼も、それは良い。 と答え合う。
「おい、雲山。 お前が悲しんでいるのは良く分かった」
厳つい頑固親父顔に似つかわしくない泣き顔であった。
目は垂れ、顔の皺が一層刻まれている。
見上げた顔は、誰が見ようとも殺戮と破壊の権化、あの雲山だとは思わないだろう・
「お前が会いたがっている一輪に会わせてやるよ。 そいつをこっちに渡しな、丁寧に弔ってやる」
キラリと鬼の目から涙が落ちた。
雲山は戒めと悲しみもあり、その言葉を信じてしまう。
他の鬼に誘われるまま、少年の骸を大切に手渡すと縄を引かれてその場を後にした。
少年を受け取った鬼は背中で雲山を送った。
知らず知らずの内に、その肩は震えている。
雲山が遠くなったのを見て、骸を地に叩き付けると何度も何度も踏みつけた。
骨がバキバキと砕ける音が辺りに小さく響く。
これからの事を思うと笑いを堪えるのにも一苦労であった。
〜〜〜〜〜
今日も繁殖部屋は満員であった。
淫らな臭いが臭気として満ちている。
その中で快楽を貪っているのは鬼だけ、女は自分がどうなっているかも分かろうとしなかった。
秘裂が裂かれる痛み、膨腹の痛み、体を掴まれる痛み、喉を突かれる痛み……。
痛み、痛み、痛み。
ただ、あるのは痛みだけだった。
一輪は今日も生きている。 鬼に数百年間慰み者にされながらも生きていた。
生ける人形と言っても過言ではない。
ただ、子供が生める体だから生かされているに他ならない。
呻く様に口から呟かれるのは、希望。 都合の良い希望であった。
「……きっと、きっと……助かる……」
助からない事は彼女が一番分かっている。
それでも、自分に愛を説いた人が言っていた。
だから、助からない。 逃げられないと分かっていても、助かると信じていた。
檻が空いた音が聞こえた気がした。
鬼の剛直が下腹に深く突き刺さったまま、彼女は前に抱えられる。
歩く度に体の奥深くが抉られている様である。
その振動もすぐに止まった。 長い年月に比べれば、一瞬であった。
「ぶごっ! うごぉ!」
騒がしく、とても騒がしく鎖が叩き付けられていた。
聞き覚えのある泣き声であった。 少なくとも一輪の脳裏に、そう聞こえた。
「こいつ友人の痴態を見て、興奮してやがる。 良い眺めだろ?」
鬼に見せつけられている。 漠然と思った。
動物か何かか? 辛く苦しい、薄暗い牢の中での生活に目は霞んでいた。
「なぁ? 雲山……」
鬼の言葉に目が開いた。 霞んでいるが誰か判ってしまった。
咄嗟に隠そうとするも、複数の鬼は彼女の腕や足を押さえた。
元より脚を開かされて、前で掛けられている。
隠せるはずがなかった。
「嫌あああああ、嫌! いやああああああ!!!」
秘裂に差し入れていた鬼が満足そうな表情を浮かべる。
すると、挿入したまま動かさなかった剛直を動かし始めた。
叫び声を上げ続ける一輪の意思など無視している。
ただ、己が快楽だけを追求していた。
恨めしそうな雲山の視線も、事この場においては、何の効果もない。
傍観者として自分達の交尾を見る観客でしかないのだ。
鎖が一層跳ねた。 ガチャンと石造りの床に叩き付けられる。
雲山の体に気を失いかねない痛みが走る。
一輪の入道を操る程度の能力が発動した。
「大丈夫……大丈夫……きっと、きっと助かるから……」
一輪は、雲山がこの場で暴れて鬼達に殺される事を望まなかった。
だから、能力で封じ込めた。
体がバラバラになる様な激痛の中、気が遠のいていく感覚が体を支配し始める。
最後に見た、一輪の境遇を受け入れる表情に雲山は深い悲しみを覚えた。
同時に無理な能力行使に一輪の意識が飛ぶ、朦朧とする意識に鬼達のなすがままにされた。
結局その日は雲山の檻の前で皆が飽き果てるまで、犯されるのであった。
「おい、この刺青邪魔だな。 この数珠も邪魔だ」
「だったら……ほら、こうやって掻いちまえば良いじゃないか」
一輪の背中に鬼の爪が深々と突き刺さり、刺青を大きく引っ掻き抉った。
背中の傷から血が垂れ流れた。 致命傷ではないが、そう簡単には止まらないだろう。
血とは別に蒸気とも靄とも判らないものが宙に浮いた。
それに気付く者はいない。 すぐに地底の空に消えて行ったからだ。
〜〜〜〜〜
何が罪かと言うならば、弱い事が罪であった。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
まるで、蒸気でも噴き出したかの様な叫び声であった。
目を覚ました雲山が突如叫びだした。
暴れる体にヒビが入る、ヒビは傷と見紛う様な状態で血でも出てきかねない。
身体に耐えがたい激痛が走ろうとも、感情が頭の中で混乱していた。
逃げ場所は無く、助言を与えてくれる者も居ない。
自壊してもおかしくない程に暴れている。
暴風に晒される枝の様に、鎖が鐘の如く音を上げていた。
時間が経ち、鬼が牢に駆けつけた時、雲山の牢に誰も居なかった。
絶叫を聞いてから、そう時間は経っていない。
雲山が縛られていた壁には大きな穴が空いていた。
「聞いたか? 雲山の奴、逃げたみたいだぜ?」
「丁度処分するつもりだったし、良い口実が出来たな」
「一輪ちゃん、あいつも居なくなったし、これからも俺達と子作り頑張ろうね」
一輪を大人数で孕ませている鬼達は上機嫌で話し合っていた。
あの日だけ意識が戻った一輪は再び元の状態に戻った。
しかし、一つだけ変わった事がある。
「雲山……」
雲山の名を聞くと涙を流す様になった。
それが鬼達にとって面白おかしくて仕方が無かった。
〜〜〜〜〜
「バオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
体から蒸気でも噴き出したかの様であった。
頭を抱え、フラフラと彷徨っているのが、第三者から見ている様に分かる。
もう忘れたと思っていた昔の事が思い出された。
少女の事は初めから知っていた。
興味があった訳では無い。 ただ、自分が暴れ回っていた場所の近くに偶然生まれただけだ。
その少女は、人柱にされる為に生まれた。 その為の教育もされた。
どうせ、早逝する。 体に封じた妖怪に食い殺されて。
案の定、体に妖怪が封印され、大きな刺青の紋様が刻まれた。
そいつは、自分でも逃げ出したくなる様な凶悪な入道だった。
だが、少女は死ななかった。
死なないから、妖怪を封印する器にされた。 何体も何体も体に封印された。
どうせ、早逝する。 だから、女は彼女を嫌った、疎ましく思った。
男は彼女を求め慰み者とし、表では迫害した。
封印した妖怪は十を超えた。
死なない少女に村人は空恐ろしさを覚え始めた。
だから、追放した。 彼女を愛する者は誰も居なかった。
情が湧いた訳ではない。 だが、このままなら生きていても仕方がない。
俺も少しは名の知れた見越し入道。 一瞬で楽にしてやる。
そう思っていつもの様に首を刈るつもりだった。
「見越し入道、見越したぞ!」
どこから、そんな言葉が出て来た?
見下げていたちっぽけな少女が言って来たのだ。
体を守る鎧も無ければ、戦う為の剣も無い。
見ろ、脚が僅かに震えているじゃないか。
それが、たったの一言で動きを止められてしまった。
情けなさは無かった。 この少女に負けた事は誇らしくさえ思う。
泣いてはいない。 俺は雨雲だ。
少し雨を降らしたくなっただけだ。
「貴方、私と一緒に旅をしない? あての無い旅だけど」
度量のある人間だ。 面白い、俺の生きている限り決してお前の傍を離れないだろう。
「私は一輪。 雲居一輪。 貴方は?」
「……雲山」
愛を知らない、教えられなかった彼女が漸く手に入れた平穏の場所。
それも人間の悪意の為に崩れ去った。
唯一愛を教えた者も居なくなった。 これから誰が彼女に愛を教えられるか?
人間の悪意の次は鬼の悪意。 世界は彼女を愛していない。
俺は自分の情けなさを恨む! 鬼の執拗なまでの悪意を呪う!
何が、彼女の傍を離れないだ! 何が彼女の傍を離れないだ!
俺は自分の不明に甚だ腹が立つ! 自分が弱かった事が許せない!
〜〜〜〜〜
「バオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
蒸気でも噴き出た様であった。 頭を抱えてフラフラと彷徨う雲山。
体中にヒビが入っている。 一輪の能力に抗った結果だ。
頭に自分への怒りと鬼に対する憎しみが渦巻いていた。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
体のヒビから何かが侵入していく。
赤の様な桃色の様な蒸気。 白であった体色が桃色へと変化した。
雲山自身が今の自分の姿を見たら、きっと昔に恐れた入道と勘違いするだろう。
鬼が人の想像する災厄とすれば、見越し入道とは如何程の存在か?
人が見上げるものは何か?
滝? 山? 空? 星?
限りなく巨大な存在。 つまりは自然そのもの。
あれだけ目立つ音がすれば、追ってはすぐに駆け付けて来る。
身の丈一丈の鬼が数十。 筋骨隆々、その姿は岩山の集まった山脈の如しであった。
未だ背中を向ける雲山。 肌は怒りに震え、炎の如く高揚している。
先に体中を走っていたヒビは埋まり、代わりに真っ赤な線が溶岩の如く走っていた。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
今の姿から水蒸気爆発でも起きた錯覚があった。
地が歌を奏でる。 地震の如き揺れであった。
目が稲光の様にギラギラと光っている。 まるで、これから放電する雷撃の様であった。
〜〜〜〜〜
空を漂う、赤い靄。 嘗て一輪の体に封印された入道達であった。
意識の集合体である彼らは酷く不機嫌である。 数千年に渡る眠りが妨げられたからだ。
しかし、肉の体を失った為に暴れる事も声を発する事も出来ない。
ユラユラと彷徨おうとも何もする事が出来なかった。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
耳をつんざく金切り音。 彼らの耳にはそう聞こえた。
そして、その声を聞いた。
思いはそれぞれである。
雲山の男気に応える者。 怒りに同調する者。 一輪の事を憂う者。
再び暴れられる事を喜ぶ者。 平穏な生活を手放す事を悲しむ者。
それでも、皆の心は一つである。
数千年の間、体に邪魔をした。 一宿一飯の恩だけは返しておきたい気持ちで一杯であった。
一輪が最後に能力を使った願いは、雲山を止めて、であった。
雲山の何を止めるかまでは、誰も聞いていなかった。
だから、彼らは皆止める事に決めた。 雲山の体の崩壊を……。
皆は全員が全員名の知れた入道達だ。
それが、再び暴れられると知って、心躍らない訳がない。
雲山の体に入る入道達。 するとどうだろうか。
真っ白であった雲山の体が、最も力のあった入道と同じ体色に変わっていくではないか。
「バオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
都に響く地獄の蒸気。
地獄の釜は開けられた。 さあ、復讐の時間だ!
〜〜〜〜〜
空が涙を流した。 地面が涙を流した。 壁が空気が、何もかもが涙を流した。
雨と言う名の涙を。 真っ赤な血と言う涙を流していた。
追手として雲山を追った鬼達。
自分達が大量殺戮に用いていながら、刃向いもしない彼を甘く見ていた事は今の状況から余りある程に察する事が出来た。
殆どの者が、原始的な打撃や力任せの体術に完敗していた。
鬼にとってこれ程の屈辱は無い。 それも皆、致命傷を受けながら生かされている。
絶対的強者である筈の鬼が自決する事さえ出来ない。
「こ、殺せ……」
生殺与奪の権利さえなかった。 殺せと言う鬼を殺す程の慈愛は何処かに捨てて来た。
それも、鬼達のお蔭だ。
「……嫌だ、死にたくない……イギャアアアアアアアアアアアアア!」
命乞いをする。 鬼の踝から下を踏み砕いた。
最早、敵は居ない。 自然災害の体現者である彼を止める術が無かった。
一人、二人と致命傷から意識を失い、命の灯が潰えていった。
振り返り、去って行く雲山。
その雲山に、藁をも縋る気持ちで助けを求める鬼。
「頼む。 助けてくれ。 死にたく……ぐげぇ!」
雲山の指から雲の塊が掃射された。 鬼の体から生えている開放骨折の骨を散々に弄んだ。
更に、不自然に曲がった肘に一か所、肩に二か所、腿に三か所程撃ち込んでいく。
それは体内で膨らみ爆発し、体から永遠の離別をさせた。
それでも致命傷になってはいない。 静かになった事に彼の気持ちが僅かながら楽になった。
それでも、まだ終わりでは無い。 肝心の一輪が助かっていない。
何処に囚われているか知り様はない。 だから、彼は心に決めていた。
例え、この身が失われ様とも大切な友人を虐げる鬼を、この地底から消滅させると。
雲山の体から、何か感じの違う靄が分かれた。 それは宙を漂うと空中で消えて行った。
先日の騒ぎが嘘の様であった。
だが、奴隷階級との小競り合いの続く中である。 未だ地底は戦争中なのだ。
その状態で鬼が何人も死んだと気にする者はいない。
その日、酒を呑んで上機嫌の鬼は千鳥足で帰路に着いていた。
前方から向かって来る老紳士が誰であるか、薄暗い中では確認し難い。
通り過ぎ様ふとどこかで見た様子を察し、振り向いた。
そこに姿は無く。 さっきまで無かった殺気に上空を向く。
すると巨大化を続ける雲の巨大な顔があった。
目線を外す事が出来ず、やや慄く鬼。 額には冷や汗が浮いていた。
そこで、以前小耳に挟んだ事を実行する事にする。
「見越し入道、見越したぞ!」
雲の老紳士……雲山の巨大化が止まった。
この言葉こそが見越し入道たる雲山の動きを止める呪文なのだ。
巨大化を止めた雲山が地上に戻って来る。
鬼は歓喜を心に押しとどめ、恩賞等に期待を抱いて、逸る気持ちで近づいた。
その時、一瞬だけ雲山の腕が出現した。
一瞬だけ、と言うのは、残像に姿を変えたからだ。
刹那の出来事、鬼の顔は二と見られない程、姿を変えた。
まるで、クレーターの窪みが全身に出来た様である。
秒間数千の打撃は、全身の骨を砕き、所々開放骨折をさせた。
更には、数多の脳震盪を起こさせ、全身の臓器を不全に陥らせる程の状態にしてしまう。
人間なら即死。 だが、鬼の頑丈さは妖怪一。
その場で体の自由を失って倒れようとも即死には至らない。
苦しみに耐えきれず、大声で泣き叫ぼうとも、その叫びさえ起こらない程の激痛に苦しんでいた。
雲山の目から時雨の様に涙が流れていた。
彼自身も気が付かない程である。
鬼の一言が自身の大切な友人を侮蔑した様に聞こえたからであった。
ある時、事件が起こった。 鬼達が戦慄するには余りある出来事だ。
まず、鬼達の赤子達が皆殺しにされた。 そこに残っていたのは、血で書いた文字だけである。
“一輪を返せ”
入道か人間の言葉。 鬼達が分かる筈も無い。
だが、自分達の生まれから否定する行為に空恐ろしさを覚えるのであった。
更に数日後、次は老人達が襲われ、墓場が見るも無残な状態にされていた。
勿論、止めに入ったであろう鬼達も無残な姿で殺されていた。
そして、残されている血文字。
”一輪を返せ”
やはり入道か人間の文字で書かれている。
老若の区別ない無慈悲な殺戮に鬼達は涙を流した。 のであるが。
ここに至り鬼達は、自分達が過去も未来も許されない災厄に見舞われていると理解した。
それが、互いの不和を招き、元より弱肉強食の鬼社会を大きく揺るがした。
奴隷階級たる妖怪達にとって喜ばしい事であるが、それも手放しには出来なかった。
河童の重工の一人が同じ手口で殺された。
その日には、いつもの水蒸気爆発の様な強大な爆発音がしていた。
雲山によると思われる事件が続発する。
何故、思われるか? それは、殺害現場付近で生き残っている者がいないからだ。
そんな鬼が虐殺される日々が続く中、事件が起こった。
鬼達を統括する一人が無残な姿で見つかった。
器量素晴らしい女鬼を侍らす、見目麗しい鬼が正面から堂々と現れた入道に手も足も出なかったそうだ。
桃色の美しい髪の両脇から生えた、二本の美しい角は無残にへし折られた。
右腕は力任せに千切られ、更に再生が出来ない様に傷口を散々に殴られた。
大自然の神秘、美の境地であった顔は二と見れぬ様、陰湿に執拗に殴り潰されており、抵抗も無駄であった事が窺える。
脇腹から突き出る脇腹の開放骨折、抵抗され無駄であったと窺える腹の痣と血溜り。
無事な方の腕も折られ、死ぬ事も許されず生殺与奪の権利を完全に奪われていた。
普通の鬼でさえ屈辱であろう事。 四天王と呼ばれる特権階級の、この者にとっては変え難い屈辱であったろう。
臓物の飛び出す腹、潰れて二と見れぬ顔。
動ける様になってから、恥じる様に逃げ出した。
女鬼に手が出されなかったのは、分かっていたからだ。
恥じる心を持ちながら、恥を掻く事を恐れた女鬼が同胞に如何様な目に遭わせられるかを。
間違いのなく、奴隷の身分に堕とされ、攫ってきた人間や妖怪の様に慰み者にされる事を知っていたからだ。
「バオオオオオオオオオオオ!!!」
今日も音が鳴っている。 雲山が哭いている。
大切な友人を求めて哭いている。
幽鬼の如く、友人を求めて哭き、彷徨っている。
彼が現れて百余年。 口々に鬼は噂し合った。
彼の音が聞こえる時は死人が出ると……。
それが、自分か……それとも目の前に居る鬼かは分からない。
もしかしたら、まったく知らない鬼かも知れない。
何故、旧都と言われるか、知っているか? それは、かつての都であったからだ。
何故、かつての都と言うか? それは、巨大な災害に襲われ都としての機能が失われたからだ。
今日も外では、怒りに荒れ狂った大嵐(やまじ)が騒いでいる。
鬼さえも恐れる大咆哮が鳴り響く。 今日も鬼が殺される。
最早、どれだけの時間が経ったか誰も覚えていない。
かつての鬼の栄光はどこにもなく、ただ災害が通り過ぎるのを願って待つだけだった。
そこに鬼としての威厳はなく、弱弱しい姿だけが映っていた。
鬼達には罪があった。
何が罪かと言うならば、弱い事が罪であった。
この手を朱に染め続けた。
かつての事に比べれば非常に心地が良い。
何かが手に入る。 目の前の矮小な赤を絶えさせれば手に入る。
聞け、俺の声を聞け、名さえも忘れてしまった童よ。
「雲山」
懐かしい声だ……最後に聞いたのは、何百年前だったか?
この声が聞きたかった。 理由は忘れたが、俺が戦い続けたのは、この声の持ち主の為だ。
待ち焦がれた頭が幻聴を聞かせたのだ。 間違いは無いだろう。
「雲山……やっと、会えた……」
ああ、何もかもが懐かしい。
出来る事なら、あの頃に戻りたい。 顔も思い出せない。
「雲山……ただいま……」
誰だ? 俺の背中に飛びつく者は?
おお……懐かしい。 確か……俺の友人?
や……やっと、会えた? 良かった……のか? いや、良かったんだ!
「泣かないで。 それより聞いて。 皆あの頃に戻れるのよ……だから、ね?」
童、お前も泣いているではないか? 俺ばかりが涙脆いとは言わせないぞ。
「忘れたの? 私の名前は一輪よ。 雲山、貴方の大切な友人でしょ?」
おお、お前の事は忘れた事は無いぞ。 お前は俺の一番大切な存在だからな。
「それじゃあ、さっきの事は忘れてあげる」
俺の心を読むなんてズルいぞ。
「それじゃあ、行きましょう。 私達の本当の戦いに……」
コメント返信
匿名評価ありがとうございます。
>1様
毎度の閲覧感謝です。
>弥生様
地獄で好き勝手やってた連中ですから自業自得です。
>NutsIn専任曹長様
殺戮機械の去った後、鬼を襲ったのは覚妖怪による支配であった。
元・四天王さんはこれからも些細な事故で両角と片腕を失ってもらい仙術を習いに行ってもらいます。
>5様
ありがとうございます。
これからも読みやすい様に書きたいと思います。
まいん
https://twitter.com/mine_60
- 作品情報
- 作品集:
- 12
- 投稿日時:
- 2015/02/21 14:14:52
- 更新日時:
- 2015/03/18 23:24:16
- 評価:
- 4/6
- POINT:
- 430
- Rate:
- 15.17
- 分類
- 雲山
- 一輪
- モブ鬼
- 地獄に追放された一輪達が星蓮船に至るまでの話
- 3/19コメント返信
だから、それには慈愛という安全装置が必要なのだ。
しかし、暴君共は思慮の足りなさから安全装置を壊してしまい、殺戮機械は解き放たれてしまった……。
少女と入道、仲間達が挑む新たな戦いは、こんな物が比較にならないほど苛烈になるであろう……。
支配階級種族の弱体化で、皮肉にも地底が真に追放された者達の楽園となったのか?
暴力だけじゃなく知恵も人望もある聡明な者達はそれを教訓に自省したでしょうね……。
元・四天王さんは地上で仙術を学んでいたりして♪