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『絵板で本文にしようとしていた乞食橙』 作者: 緋泉ヒロ

絵板で本文にしようとしていた乞食橙

作品集: 12 投稿日時: 2015/03/23 06:23:15 更新日時: 2015/03/23 16:13:05 評価: 4/4 POINT: 400 Rate: 17.00
紫さまと藍さまの仲がわるくなってわたしは逃げるように家出をした、もうおうちにいる方が苦しかった。

でも飛び出しても知ってる人の家じゃあおうちに帰らされるのが目に見えてわかっていた、だからはしの下に住み着いて雨をしのいだ。
河に打ち上げられていた物で粗末ながら家を作った、ござをしいてベッドにして、枕はないから小さな丸太を枕代わりにして、日差しをしのぐためにトタンを立てた。
家なんて言えるような物じゃないけど、わたしにとってははじめて一人で暮らすためのりっぱなおうちだった。

おなかがへってもだれもご飯をつくってくれないから生ゴミをあさった、食べもの屋さんなら食べ残したごはんがあると思った。
でもくさったお肉とかお魚のほねとかばかりで食べられるものなんか何もなくて、おいしそうに食べてるお客さんがうらやましかった。

何日かして、おなかがすいてしかたなかったから…パンを盗んだ。
お店の人に心の中で何回も謝って泣きながらお店を出たらお店の人が気付いて私に『どろぼー!』と言ってた、わたしはお店の人から逃げたかったのかその言葉から逃げたかったのかわからなくなりながら、とにかく全力で逃げた。
うまく振り切って路地裏に逃げ込んでひと息ついたら手元のたった一個のパンを見て涙が出てきた、さっきの言葉が突き刺さってきて…パンがわたしを泥棒ってののしっている気すらした。
そのパンの声が聞こえたかのようにお店の人がやってきて見つかった、お店の人の他にも事情を聞きつけてやってきた数人の自警団の人がいた。
わたしはパンを取り上げられ、何回もぶたれた。ボロボロの布を捨てるようにその場に放置され、わたしは自分がみじめになってずっと泣いていた。

夜は妖怪の時間だって言われるけれど、それは紫さまや藍さまのような強い妖怪のはなしで、わたしのような弱い妖怪は強い妖怪にかくれて夜に出歩く。

でも今のわたしは人間にもかくれて暮らさなければならなかった、わたしがどろぼうをしてから夜にも見回りをされるようになった。
それだけでなく、わたしがしたことを人里にかくれ住む妖怪に知られてしまって…わたしはもう誰にも見つからないようにしないといけなくなった。
夕方にもなるとほとんど人はいない、みんなおうちに帰って家族みんなでごはんを食べている頃、ごはんのおいしそうなにおいが、子どもといっしょに遊ぶお父さんとお母さんの声が藍さまと紫さまを思い出させて泣いてしまった。
でもこんな格好で帰ることもできなければ、盗みをしてしまって会わす顔もない。
わたしには生ゴミや少しばかりの食べ残しをあさって食べて、自警団の農家や青い制服の警察官から逃げて隠れて生きることしかできなくなってた。

…もう何日、いや…何ヶ月かな?藍さまも紫さまもまだけんかしているのかなぁ…
今日は特に疲れが酷くて熱っぽいのにさむけがする、でも今日は雨で誰も外に出たがらないから逃げ隠れしないですむ、だからわたしは雨が好きになった。
おひさまが隠れちゃってちょっと寒いけれど外に出なければ濡れないし、雨の音は人の足音も話し声も消してくれるからとても落ち着く。
明日は晴れるかな?晴れたら森に入って雨上がりの土の香りを吸って…小さな沢で体も洗っちゃおう。
そしたら確か…おいしい実がなる木があったっけ、あと…それから…
…あれ?外が明るくなった…もう雨やんだのかな?じゃあ出かけようかな…
なんだかとっても体が軽いや…疲れていたのが嘘みたい…あれ?
だれかが2人こっちに来る…でもなんだろう、とってもあたたかい人のような気がする…
この人たちはだれだっけ…でもわたし知ってる…

こっちの人はしっぽがふかふかで、寂しいときはそばに居てくれた…

あっちの人は綺麗な瞳で、わたしの成長する姿を見守ってくれた…

…あ、思い出した…


「らん…さ…ま、ゆ…かり…さま…」


…さて、話はがらりと変わってしまってすまないが、ここにある里の住人の日記を読ませていただこう。
今日静かなこの里の石橋の周りには、この静かな土地に不釣合いな人だかりが出来ていた。
その中心には薄汚れた妖怪の少女が倒れていた…可哀想な事に満足な食事もできず、衛生的にも悪かったようで衰弱して死んでいったようだ。
しかしその妖怪少女の顔には苦悶の最期は見られず、むしろ母に抱かれた子どものような安らいだ表情で眠っていた。
おそらくあの子は苦しまずに逝けたのだろう、私は自然と口から
「どうか安らかに…」
そう口に出て手を合わせていた、周りも何人か私に合わせて手を合わす人が出てきた。すると人ごみの中から…
「ごめんね、ちぇん…」
そう聞こえてきたが、あの声は一体誰のものだったのか?周りも皆が顔見知りだらけにも関わらず、だれもわからなかったそうだ。
少女の亡骸は…角のパン屋の店主が「泥棒に墓を立てるなんて!」とごねたが、野ざらしも可哀想だから埋葬してやろうという事になった。
この里の外れにある教会の、隙間程度に空いた墓地に少女を埋葬してあげた。
来世では縁やゆかりに恵まれるように埋葬しに来た皆で祈り、花屋が気を利かせて持たせてくれた蘭の花を供えた。
しかし、あの声は一体誰だったのだろうか今もわからない。まるで狐にでもつままれたような気分だった。
絵板で投稿した乞食橙のキャプションに載せようとして冒頭からパンを盗む所まで完成していましたが
さすがに長すぎたので文章作品として別に公開。
文章に疎く拙文ではございますが読んでいただけたら光栄です。
パラレルワールドなので寅傘(お父さん)とか天狗娘とかは関係無いッス

※小ネタ
最後の橙の墓の所には『ゆかり』も『らん』も文章で居ます(他にも紫と藍を思わせる『きょうかい』『すきま』『きつね』などの言葉も出ています、だからなんやねん。)
緋泉ヒロ
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2015/03/23 06:23:15
更新日時:
2015/03/23 16:13:05
評価:
4/4
POINT:
400
Rate:
17.00
分類
乞食
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1. 100 県警巡査長 ■2015/03/24 16:25:06
なるほど。どうやらこの世界にも幻想郷警察の皆さんが存在していたようですね…。
自警団のみならず、こういった皆さんから逃げ続ける日々はさぞ精神的にも参ったことでしょう…。
2. 100 名無し ■2015/03/24 21:51:42
罪人は死んでようやく許される
3. 100 名無し ■2015/03/27 00:56:39
かわいそ面白かったです
4. 100 レベル0 ■2015/04/28 00:24:37
俺も橋の下で過ごしていた事があります。
と言っても数時間程度ですが……。
それでもキツかった。苦しかった。
あの程度であれだけの苦しみなのだからこの橙は一体どれほどの苦しみを味わった事でしょう。
せめて橙のご冥福を祈らせてください
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