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『やさしくてかわいそうな付喪神の話』 作者: 名無し
森の中で、小さな女の子が泣いていました。
お父さんとお母さんの言いつけを破って、勝手に遊びに行き、道に迷ってしまったのです。
時刻はもう夕方。そろそろ、血に飢えた人喰い妖怪たちが起き出してくる時間でした。このままこうしていれば、女の子は間違いなく餌食になってしまうことでしょう。
そこへ、一人の妖怪が近付いて来ました。
女の子を食べに来たのでしょうか?
違います。
やって来たのは、近くに暮らしている太鼓の付喪神でした。
この妖怪は、とても心の優しい性格でした。
誰かが困っているのを見ると、放っておけないのです。きっと、道具の妖怪だから、誰かの役に立つことが何よりも嬉しかったのでしょう。そんな性格であるためか、魔力が尽きて今にも消えそうになっていた付喪神の仲間を必死に助けて回ったことがあり、おかげで付喪神からは慕われていました。
元が道具だったせいか、人間のことも嫌いではないし、襲ったりはしません。
少し前の異変で調子に乗って暴れてしまったことはありますが、人間と戦ったのはその一度きり。まして、食べたりしたことはありません。博麗の巫女や白黒の魔法使いとも、人間には危害を加えない、と約束をしていました。
そんな優しい付喪神が、夕暮れの森の中で一人泣いている女の子を放っておく筈などありませんでした。
付喪神は女の子に歩み寄って、優しく声を掛けます。
「こんなところで、どうしたの?道に迷ってしまったのかしら」
女の子はうなずきました。
「かわいそうに。でももう大丈夫だからね」
付喪神は、女の子の頭をくしゃくしゃと撫でて、涙で濡れた顔をハンカチで拭いてあげました。
「このままだと、こわい妖怪たちに食べられちゃうわ。だから、一緒に私の家へ帰りましょう」
そう言って付喪神は、女の子をおぶってやると、家に向かって歩き始めました。途中、まだぐずっている女の子に、「大丈夫よ」「怖くないよ」「お姉ちゃんが守ってあげるからね」と、何度も囁きながら。
家に着くと、付喪神はさっそく女の子に演奏を聞かせてあげました。少しでも、女の子の気持ちを明るくしてやりたかったのです。
力強い、まるで雷が鳴っているかのような太鼓の音に、女の子は最初は驚いていましたが、すぐに目を輝かせて聴き入りました。
その幸せそうな顔に、付喪神もつられて笑顔になってしまいます。
「やっぱり、誰かを笑顔にするには音楽の力が一番ね!」
太鼓の音は、しばらく止みませんでした。
しかし、やがて女の子は、お腹が空いてきたことに気がつきました。迷っていたせいで、お昼から何も食べていなかったからです。
それを伝えると、付喪神はにっこりして、ご飯を作ってくれました。
料理はあまり得意ではないのか、完成したときには手にべたべたと絆創膏を貼っていましたが、それでも女の子に喜んでもらうために精一杯頑張りました。
ご飯を食べ終えると、今度は眠くなったと女の子が言いました。
そこで付喪神は、布団を敷いて一緒に寝ることにしました。女の子はやはり、不安で眠れないようで、しばらくそわそわしていましたがやがて泣きだしました。
付喪神は嫌な顔一つせず、励ましの言葉をかけて、優しく抱きしめて、子守唄を歌ってやりました。
朝がやってきました。
まだ日は登ったばかりでしたが、二人とも目が覚めていたので、早速人間の里へと向かいます。
付喪神は女の子の手を引いて、里の入口へやってきました。
朝早いのに、もう人里にはそれなりの数の人がいました。彼らに向かって、付喪神は呼びかけました。
「すみません」
里の人々は、二人の方を見ます。
よかったわ、これで一件落着ね。付喪神はほっと胸を撫で下ろし――――――
「妖怪だ」
「妖怪が襲ってきたぞ!」
叫び声が響きました。
あっ、と驚く間に、ある里人は一目散に逃げ、ある里人は武器になりそうな物を手にしていました。
里人たちは、真っ赤な髪と目をして、見慣れない外の世界の服を着た付喪神がとても怪しく見えて、怖かったのです。
「違うんです、私は」
この子を送り届けにきたんです。
付喪神はそう言いたかったのですが、言うことができませんでした。
ぱん、と音がして、付喪神が地面に膝を着きます。誰かが、持っていた火縄銃で付喪神を撃った音でした。
妖怪たちの間では、弾幕ごっこという遊びが流行っていましたが、それで弾に当たってしまうのとは訳が違う痛みでした。そんな激痛の中で付喪神ができたことは、撃たれたところを押さえることだけです。指の間から血が溢れて、真っ白なスカートが汚れました。
その隙を見て、女の子は里の男の人に抱き抱えられ、付喪神から引き離されます。女の子は、初めは「あのお姉ちゃんは私を助けてくれた」と必死に庇おうとしましたが、大人たちは「お前は妖怪に騙されていたんだよ」と、聞く耳をもたず、女の子はそのままどこかへ連れていかれました。
ぱん、ぱんと、さらに銃声が朝の里にこだまします。付喪神の胸に、お腹に、腕に、脚に、いくつも穴があきました。もう、痛くて体は動きません。それでも、妖怪は頑丈なので、まだ死ぬことはできませんでした。
「どうして」
付喪神は震える声でいいました。
「私は人間を襲ったりはしていない。私はあの子を助けたかっただけなのに。誰かの役に立ちたかっただけなのに」
里人たちは答えます。
「それはお前が妖怪だからだ」
「妖怪は出歩いているだけで不快」
「妖怪は信用できない」
「道具は便利だが、妖怪化したものは迷惑以外のなんでもない」
「ほんとはあの子のことも騙して利用しようとしたんだろう」
「だから殺さないといけないね」
付喪神はそれを聞いて、涙を流すしかありませんでした。
静かに泣いている付喪神の、ふわふわ柔らかな髪が乱暴に掴まれます。首筋に、鋤が当てられました。
ああ、つめたいなあ。
鋤はそんなことに使うものじゃないのになあ。
私は、人間のこと、嫌いじゃなかったのになあ。
嫌だなぁ、死にたくないなぁ……
どんなに考え事をしても、意味はありませんでした。
鋤の持ち主が、思い切り腕を振り上げます。付喪神を抑える人達の腕にも力がこもります。
そして、次の瞬間、付喪神の頭と体は離れ離れになりました。
意識を永遠に失う前、付喪神は、女の子がいつの間にか居なくなってたことに気付いて、「きっと家に帰れたのね」と、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、救われた気持ちになりました。
鬼や吸血鬼のような強い妖怪は、首を切られてもしばらく生きていたり、再生したりするのですが、付喪神はそこまで強力な訳ではなかったので、そのまま再び動くことはありませんでした。
里人は、この付喪神を晒し者にしようとしたのですが、不思議なことに、しばらくすると付喪神の死体は無くなっていました。里に付喪神が来た時に一緒にくっついていた、大きな太鼓だけが残りました。
きっと、こっちの方が本体なのかも、と、太鼓も滅茶苦茶に壊されて、里の外れに捨てられました。
ボロボロになって、もう太鼓の形をしていない太鼓は、雨ざらしにされて、ゆっくり、ゆっくりと錆びていくのでした。
雷鼓さんは凄く優しい人なイメージがあります。だからこそ酷い目に遭って欲しいです
拙い文章ですが少しでも楽しんでいただければ幸いです
名無し
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2015/05/27 16:47:25
更新日時:
2015/05/28 01:48:41
評価:
2/3
POINT:
230
Rate:
12.75
しかしこの話は少し虚しすぎる。
あなたの作品もおもしろかったのでまた読みたいです